説明

移動通信システムにおける基地局装置及び方法

【課題】ハードハンドオーバ方式によりサービングセルを切り換える場合におけるデータスループットの向上を図ること。
【解決手段】基地局装置100は、下り無線品質情報(CQI値)を移動機から受信し、下りデータを蓄積し、移動機に送信する。基地局装置はタイミング制御部107を有し、下り無線品質情報に基づいて、下りリンクで実現可能な速度を示す想定下りデータ速度(DRp)を求め、DRpがネットワーク装置から下りデータを受信する速度より遅かった場合(DRp<DRr)、未送信のデータ量(Ar)及び想定下りデータ速度(DRp)からデータ送信完了期間(Dcomp)を算出する。移動機がハンドオーバを行う場合、基地局装置の切り替えタイミングよりもデータ送信完了期間だけ遡った時点(Tstop=AT−Dcomp)以降、ネットワーク装置が基地局装置に移動機宛の下りデータを送信しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される発明は、移動通信システムにおける基地局装置及び方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信では、移動機は、ネットワーク装置(基地局装置、無線ネットワークコントローラを含む。ネットワーク装置は、コアネットワークを含んでもよい。)と通信を行う。移動機は、通信対象または通信候補となる複数のセルを検出し、それらのセルにおける無線品質を測定する。通信候補セルの無線品質の測定値が、予め設定した条件を満足する場合、通信対象のセルは切り替えられる。例えば、すでに通信しているセルよりも、新規に検出したセルの方が、相対的に良い無線品質をもたらすと判断された場合、通信対象のセルは、その新規に検出されたセルに切り替えられる。
【0003】
高速ダウンリンクパケットアクセス(HSDPA)方式は、ワイドバンド符号分割多重アクセス(W−CDMA)通信方式において、下り高速通信を実現する。この場合、制御信号を伝送するA−DPCH(Associated Dedicated Physical CHannel)は、最大3つのセルと同時通信を行うが、下りのユーザーデータを伝送するHS−PDSCH(High Speed−Physical Downlink Shared CHannel)は、無線品質が最も良い1つのセルのみを通信対象とする。最良のセルとして選択されているセルは、「サービングセル」(Serving Cell)と呼ばれる。A−DPCHは個別チャネルによる通信なので、ソフトハンドオーバが行われ、サービングセルとの通信を継続したままの状態で、必要に応じて切り替え対象のセルのみが切り替えられる。これに対して、HS−PDSCHは下り共有又は共通チャネル(Shared channel)による通信なので、通信対象となるセルは唯1つであり、ユーザの移動等によりセルの切り替える際、ハードハンドオーバが行われ、一時的に瞬断が起こる。従来のハンドオーバについては、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
また、HSDPA方式の通信では、移動機は、サービングセルにおけるパイロットチャネルであるCPICHの品質(SIR等)を測定し、その測定結果に基づいてチャネル品質インジケータ(CQI: Channel Quality Indicator)を導出する。導出されたCQIは移動機からネットワーク装置に通知される。これにより、ネットワーク装置は移動機の受信環境(無線品質)を知ることができ、その環境に応じて下りデータの変調方式や送信データ量を適応的に変えることができる。データ変調方式や送信データ量(又はチャネル符号化率)を適応的に変えることは、適応変復調(Adaptive Modulation and channel Coding)と呼ばれる。CQIの個々の値に対する下りデータの変調方式やトランスポートブロックサイズ(Transport Brock size)等の関係は、3GPP仕様に規定されている(これについては、非特許文献2参照。)。
【0005】
上記のとおり、HSDPA方式による通信の場合、サービングセルを切り替える際、下りデータの伝送は一時的に停止する。具体的には、サービングセルの切り替えを実施する前は、通信中の通信元セルとの通信を行いながら、サービングセルの切り替えを準備し、ネットワーク装置から指定された切り替えタイミング(AT:Activation Time)において、ネットワーク側及び移動機側双方で同時にサービングセルの切り替え処理が行われる。移動機が下りデータを受信できない期間は、切替前の基地局装置が、どのタイミングまで下りデータを送信し続けるか、そしてどのタイミングから切替後の基地局装置が下りデータを送信し始めるかによって決定される。移動機が下りデータを受信できないこの時間帯の間に、たとえ下りデータが基地局装置から送信されたとしても、移動機はそれを適切には受信できない。移動機はHS-PDSCHの切り替え処理が完了した後に、新たにサービングセルとなった移行先の基地局装置から下りデータを受信することができる。
【0006】
一方、都心部や繁華街等のようにユーザが比較的多数存在する場所では、ネットワーク装置の通信容量を分散させるため、基地局装置の設置数を増やし、多数のセルを使って通信エリアを構築するのが一般的である。そのため、ユーザが多数存在することが予想される場所で通信を行う場合、移動機は、しばしば多数のセルを検出する。移動機とネットワーク装置が通信を行う際に、通信対象とすることが可能な程度に無線品質が良いセルが多数存在することについては、一長一短がある。ユーザ自身が移動したり、周辺物体が変化すると、フェージング等により無線環境に変動し、通信が途切れやすくなるが、比較的品質が良いセルが多数存在すると、それらに適宜切り替えることで、通信を途切れにくくできるという利点がある。しかしながら、通信候補のセルが多数存在する場合、現在よりも良いセルが発見される回数も増え、相対的な無線品質の変化が生じる度に頻繁に通信セルを切り替えなくてはならない。
【0007】
HSDPA通信中に通信対象のセルの切り替えが頻繁に起こる場合、サービングセルからのHS−PDSCHの切り替えも頻繁に実施されることになる。上述したように、移動機とネットワーク装置の間において、共通チャネルのHS−PDSCHにより、下りデータがやり取りされている。通信対象のセルを切り替える際、その下りデータのやり取りは一時的に停止され、セル切替の処理が行われる。したがって、HS−PDSCHの切り替えが頻繁に生じる場合、下りデータが途切れる頻度も増すことになり、その結果、下りデータの通信速度が低下するおそれがある。
【0008】
他方、サービングセルの切り替えを行う場合、上述したように、移動機は切替前の基地局装置と通信を行いながら切り替えの準備を進め、ネットワーク装置が指定した切り替えタイミング(AT:Activation Time)において、ネットワーク側(基地局装置、基地局装置制御装置(RNC)等)及び移動機側双方で同時にサービングセルの切り替え処理が行われる。移動機がサービングセルの切り替え処理を行っている間、移動機は下りデータを受信できない。ハンドオーバの際、移動機は、切替前の基地局装置がネットワーク装置から受信した下りデータを、切替前の基地局装置から全て受信することが望ましい。これを確実にするため、ネットワーク装置が切替前の基地局装置に下りデータを送信することを止める時点は、切り替えタイミング(AT)よりも、かなり前の時間に固定され、例えば切り替えタイミングよりも1秒間前、のようにシステムで予め固定されている。このため、切り替えタイミング(AT)が訪れるよりもかなり前の時点において、ネットワーク装置は、切替前の基地局装置に対して、その移動機宛の下りデータを送信することを停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−188775
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】3GPP TS25.331 v6.24.0(2009−12)
【非特許文献2】3GPP TS25.214 v6.11.0(2006−12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、移動通信システムにおける移動機の無線チャネル状態は、場所及び時間等により様々に異なる。したがって、下りデータの通信速度も移動機に応じて異なる。したがって、同じ量のデータが基地局装置から送信される場合、基地局装置は、高いデータ通信速度を実現できる移動機に対しては、送信を速やかに完了できる一方、低いデータ通信速度しか実現できない移動機に対しては、送信を速やかには完了できない。ネットワーク装置が、ハンドオーバにおける切替前の基地局装置に下りデータを送信することを停止する時点が、切り替えタイミング(AT)よりも、かなり前の時間に固定されていた場合、その時点は、個々の移動機にとって必ずしも最適ではない。むしろ、高いデータ通信速度を実現できる移動機は、受信するデータが無いにもかかわらず、切り替えタイミング(AT)が訪れるまで、通信できないまま待つ必要がある。これは、データスループットを向上させること等の観点から好ましくない。逆に、低いデータ通信速度しか実現できない移動機の場合、切替前の基地局装置から移動機へデータが全て送信される前に、切り替えタイミング(AT)が訪れてしまうことが懸念される。切替前の基地局装置が、切り替えタイミング(AT)の後に移動機に残りのデータを送ったとしても、移動機はそれを適切に受信できないので、そのようなデータはすべて切替後のセルにおける再送の対象になってしまう。その結果、データスループットの低下が懸念される。
【0012】
開示される発明の課題は、ハードハンドオーバ方式によりサービングセルを切り換える場合におけるデータスループットの向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示される発明の一形態による基地局装置は、
移動通信システムにおける基地局装置であって、
下り無線品質情報を移動機から受信する受信部と、
移動機に送信する下りデータを蓄積するデータバッファ部と、
下りデータを移動機に送信する送信部と、
前記下り無線品質情報に基づいて、下りリンクで実現可能な速度を示す想定下りデータ速度を求め、該想定下りデータ速度が、ネットワーク装置から下りデータを受信する速度より遅かった場合、前記データバッファ部に蓄積されているデータ量及び前記想定下りデータ速度からデータ送信完了期間を算出するタイミング制御部と
を有し、前記タイミング制御部は、移動機がハンドオーバを行う場合、基地局装置の切り替えタイミングよりも少なくとも前記データ送信完了期間だけ遡った時点以降、前記ネットワーク装置は当該基地局装置に該移動機宛の下りデータを送信すべきでないことを前記ネットワーク装置に通知する、基地局装置である。
【発明の効果】
【0014】
開示される発明によれば、ハードハンドオーバ方式によりサービングセルを切り換える場合におけるデータスループットの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】基地局装置の機能ブロック図。
【図1B】無線品質情報と想定下りデータ速度の対応関係例を示す図。
【図2】移動機の機能ブロック図。
【図3】一実施例における動作例を示すシーケンス図。
【図4】受信停止タイミングを決定するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
開示される発明の一形態による基地局装置100は、
下り無線品質情報(例えば、CQI値)を移動機から受信する受信部101と、
移動機に送信する下りデータを蓄積するデータバッファ部108と、
下りデータを移動機に送信する送信部103と、
前記下り無線品質情報に基づいて、下りリンクで実現可能な速度を示す想定下りデータ速度(DRp)を求め、該想定下りデータ速度がネットワーク装置から下りデータを受信する速度より遅かった場合(DRp<DRr)、前記データバッファ部に蓄積されているデータ量(Ar)及び前記想定下りデータ速度(DRp)からデータ送信完了期間(Dcomp)を算出するタイミング制御部107と
を有し、前記タイミング制御部107は、移動機がハンドオーバを行う場合、基地局装置の切り替えタイミングよりも少なくとも前記データ送信完了期間だけ前の時点(Tstop=AT−Dcomp)以降、前記ネットワーク装置は当該基地局装置に該移動機宛の下りデータを送信すべきでないことを前記ネットワーク装置に通知する、基地局装置である。
【0017】
データ送信完了期間(Dcomp)は移動機(UE)が現在達成可能な下りデータ速度(DRp)に基づいているので移動機の現状に合った期間であり、その期間内に残留データ(Ar)を全て移動機(UE)に送信できる。これにより、高いデータ速度を実現できる移動機が、受信するデータが無いにもかかわらず、切り替えタイミング(AT)が訪れるまで、通信できないまま待つ必要はなくなる。逆に、低いデータ速度しか実現できない移動機の場合、切替前の基地局装置から移動機へデータが全て伝送される前に、切り替えタイミング(AT)が訪れてしまうこともなくなる。これにより、ハードハンドオーバ方式によりサービングセルを切り換える場合におけるデータスループットの向上を図ることができる。サービングセルの切り替えの際、下りデータ送信が停止する期間(移動元セルからの下りデータ送信が停止された時点から、移動先セルからの下りデータ送信が開始されるまでの間)を効果的に短縮することができ、平均通信速度の低下を防ぐことができる。
【0018】
前記データ送信完了期間(Dcomp)は、前記データバッファに蓄積されているデータ量(Ar)を、前記想定下りデータ速度(DRp)で除算することで算出されてもよい。
【0019】
基地局装置は、複数の下り無線品質情報各々と想定下りデータ速度との所定の対応関係を記憶するデータ格納部108をさらに有していてもよい。
【0020】
前記タイミング制御部107は、前記想定下りデータ速度が、ネットワーク装置から下りデータを受信する速度以上速かった場合(DRp≧DRr)、データ送信完了期間をゼロに設定してもよい。これにより、ネットワーク装置から下りデータを受信する速度(DRr)及び想定下りデータ速度(DRp)の大小関係によらず、受信停止タイミングを同様に決定することができる(Tstop=AT−Dcomp)。
【実施例1】
【0021】
図1Aは、一実施例における基地局装置100を示す。図1Aには、受信部101、受信制御部102、送信部103、送信制御部104、無線品質測定部105、各種データ格納部106、タイミング制御部107、送信データバッファ108及びセル切替判定部109が示されている。図1Aは、基地局装置に備わる様々な機能要素の内、本実施例に特に関連する要素を模式的に示しているにすぎない。したがって、図示の各機能要素の分け方は便宜的なものであり、例えば2つ以上の機能要素が1つの手段により実現されてもよい。これらの機能要素は、ソフトウェア、ハードウェア又はそれらの組み合わせにより実現されてもよい。
【0022】
受信部101は、移動機から送信された上り信号を受信する。上り信号はデータ信号、制御信号、パイロット信号等様々な信号を含む。本実施例では特に、制御信号は、下り無線品質を示す情報(CQI:Channel Quality Indicator)を含む。
【0023】
受信制御部102は、受信部101における受信処理を制御する。
【0024】
送信部103は、基地局装置から移動機への下りデータを送信する。
【0025】
送信制御部104は、送信部103における送信処理を制御する。本実施例では特に、送信データバッファ108に残っているデータ量を測定し、タイミング制御部107に通知する。
【0026】
無線品質測定部105、移動機が送信したパイロット信号を受信し、無線品質を示す指標を測定する。無線品質の指標は、Ec/N0、RSCP、パスロス等のような適切な如何なる量で表現されてもよい。
【0027】
各種データ格納部106は、基地局装置で使用される様々なパラメータ値、変数値、計算結果等を格納する。例えば、各種データ格納部106が格納する情報は、例えば、3GPP仕様において規定されている各種の対応関係(例えば、各CQI値に対応する下り通信の変調方式やトランスポートブロックサイズ等)、基地局より上位の装置(無線ネットワーク制御装置、交換機等)から受信する下りデータの速度、無線品質情報(例えば、CQI値)と後述の想定下りデータ速度との対応関係等であるが、これらに限定されない。
【0028】
タイミング制御部107は、ハンドオーバ先へ移動しつつある移動機宛の下りデータを、基地局より上位の装置が自装置(ハンドオーバ元の基地局装置)に送信することを止めるべきタイミングである受信停止タイミング(Tstop)を決定し、基地局より上位の装置に通知する。受信停止タイミング(Tstop)を算出するため、タイミング制御部107は、先ず、受信下りデータ速度(DRr)及び想定下りデータ速度(DRp)を求める。受信下りデータ速度(DRr)は、基地局装置100が、上位の装置(無線ネットワーク制御装置及びコアネットワークの装置)から、個々の移動機宛の下りデータを受信するデータ通信速度である。想定下りデータ速度(DRp)は、移動機から報告された無線品質情報(例えば、CQI値)に基づいて、その移動機の現在の下りリンクで実現可能なデータ速度である。想定下りデータ速度(DRp)は、計算によって求められてもよいし、図1Bに示すような所定の対応関係に基づいて導出されてもよい。このような対応関係は、各種データ格納部106に保存されている。
【0029】
タイミング制御部107は、ハンドオーバ先へ移行しつつある移動機に関し、受信下りデータ速度(DRr)、想定下りデータ速度(DRp)及び未送信のまま残っている残留データ量(Ar)に基づいて、データ送信完了期間(Dcomp)を算出する。想定下りデータ速度が受信下りデータ速度より遅かった場合(DRp<DRr)、データ送信完了期間(Dcomp)は、残留データ量を想定下りデータ速度で除算することで求められる(Dcomp=Ar/DRp)。想定下りデータ速度が受信下りデータ速度以上であった場合(DRp≧DRr)、データ送信完了期間(Dcomp)は0に設定される(Dcomp=0)。そして、タイミング制御部107は、セル切り替えタイミング(AT)からデータ送信完了期間(Dcomp)だけ遡ることで、受信停止タイミング(Tstop)を導出する(Tstop=AT−Dcomp)。なお、移動機のハードウェア及びソフトウェアの処理速度を考慮して、受信停止タイミング(Tstop)は、セル切り替えタイミング(AT)からデータ送信完了期間(Dcomp)だけ遡った時点よりも、さらにいくらか先行する時点に設定されてもよい((Tstop=AT−Dcomp−α))。
【0030】
送信データバッファ108は、基地局より上位の装置から受信した下りデータを蓄積する。
【0031】
セル切替判定部109は、移動機がハンドオーバする際に、サービングセルを自セル又は他セルに切り替える場合の切り替え処理を行う。本実施例では特に、基地局より上位の装置から通知されたセル切り替えタイミング(AT:Activation Time)において、移動元基地局、移動先基地局及び基地局より上位の装置の全てが切り替え処理を同時に行う。
【0032】
図2は一実施例による移動機を示す。図2には、受信部201、受信制御部202、送信部203、送信制御部204、無線品質測定部205、SIR導出部206、CQI判定部207、各種データ格納部208及びセル切替判定部209が図示されている。図2は、移動機に備わる様々な機能要素の内、本実施例に特に関連する要素を模式的に示しているにすぎない。したがって、図示の各機能要素の分け方は便宜的なものであり、例えば2つ以上の機能要素が1つの手段により実現されてもよい。これらの機能要素は、ソフトウェア、ハードウェア又はそれらの組み合わせにより実現されてもよい。移動機は、携帯電話、情報端末、パーソナルディジタルアシスタント、携帯用パーソナルコンピュータ等のようなユーザ装置である。
【0033】
受信部201は、ネットワーク装置から送信された信号を受信する。ネットワーク装置は、基地局装置、基地局装置を制御する無線ネットワークコントローラ及びさらに上位のコアネットワークの装置(例えば、交換機)を含む。
【0034】
受信制御部202は、受信部201における受信処理を制御する。
【0035】
送信部203は、移動機からネットワーク装置にトラフィックデータや制御データを送信する。
【0036】
送信制御部204は、送信部203における送信処理を制御する。
【0037】
無線品質測定部205は、HSDPA通信中において、サービングセルおよびサービングセル以外のセルから受信したパイロット信号(CPICH)により、個々のセルの無線品質を示す指標を測定する。無線品質の指標は、Ec/N0、RSCP、パスロス等のような適切な如何なる量で表現されてもよい。
【0038】
SIR導出部206は、無線品質測定部205により算出された無線品質の指標から、SIRを導出する。なお、上記の説明では、「無線品質の指標」がEc/N0、RSCP、パスロス等であり、これらからSIRが導出されている。しかしながら、このような「指標」の定義は便宜的なものにすぎず、以下の説明において「無線品質」は、RSCP、Ec/N0、パスロス等の測定結果でもよいし、逆拡散処理後のSIRや、SIRから導出するCQIでもよく、広く、無線状態の良否を表す量とする。
【0039】
CQI判定部207は、SIR導出部206により導出されたSIRを用いて、サービングセルおよびサービングセル以外のセル各々について、CQIを判定する。
【0040】
各種データ格納部208は、移動機内で使用する各種のデータ及びパラメータ値等を格納する。各種データ格納部208は、例えばSIRとCQIの対応関係を格納している。
【0041】
セル切替判定部209は、在圏セルの無線品質が、ハンドオーバを必要とする程度に悪化したか否かを判定する。HSDPA通信中において、無線品質測定部205が測定するサービングセルの品質が、サービングセル切替条件を満たすほど劣化したか否かを判定する。劣化していた場合、その状況をネットワーク装置に報告するための信号(イベント1d)が基地局装置に送信される。
【0042】
図3は、移動機、移動元基地局、移動先基地局及びネットワーク装置に関する動作例を示す。横軸は時間の流れに対応する。先ず、移動機(UE)は、HSDPAによる通信により、コアネットワーク(CN)からの下りデータを移動元の基地局装置(BS)を介して受信している。移動機(UE)が例えばセル端に移動すると、移動機(UE)が測定するサービングセルの品質は劣化する。サービングセルの品質が、サービングセルの切り替え条件を満たす程度に悪化すると、移動機は、そのようなイベント(イベント1d)が発生したことをネットワーク装置に通知する。そして、図中、「ハンドオーバ開始」として示されているように、ハンドオーバのための処理が始まる。基地局装置は移動機からイベント1dのメッセージを受信すると、基地局装置制御装置(RNC)と共にネットワーク装置側におけるサービングセル切り替えの処理を実行する。ネットワーク装置は、サービングセルの切り替えタイミング(AT)を決定し、それを移動機、移動元及び移動先基地局装置に通知する。そして、移動元の基地局装置は、ハンドオーバ先へ移動しつつある移動機宛の下りデータを、ネットワーク装置(CN)が自装置(移動元の基地局装置)に送信することを止めるべきタイミングである受信停止タイミング(Tstop)を決定し、ネットワーク装置(CN)に通知する。
【0043】
図4は、図3に示されている移動元の基地局装置が受信停止タイミング(Tstop)を決定するためのフローチャートを示す。移動機は、ハンドオーバをするか否かとは別に、サービングセルの基地局装置からパイロット信号(CPICH)を受信し、無線品質を測定している。移動機は、測定した無線品質情報(説明の便宜上、CQI値とする。)を基地局装置に報告している。
【0044】
ステップS1において、基地局装置が無線品質情報(CQI値)を受信している。
【0045】
ステップS3において、無線基地局は、受信した無線品質情報(CQI値)に基づいて、実環境で想定される下り通信速度の予測値(想定下りデータ速度(DRp))を求める。想定下りデータ速度(DRp)は、基地局装置の各種データ格納部106に逐次保存される。想定下りデータ速度(DRp)は、何らかの計算によって求められてもよいし、あるいは図1Bに示すような所定の対応関係にしたがって導出されてもよい。
【0046】
無線基地局は、ハンドオーバを行っている移動機宛の下りデータについて、ネットワーク装置から受信しているデータ速度(受信下りデータ速度(DRr))を測定する。
【0047】
ステップS5において、受信下りデータ速度(DRr)及び想定下りデータ速度(DRp)の大小比較が行われる。想定下りデータ速度(DRp)が受信下りデータ速度(DRr)より遅かった場合、フローはステップS7に進む。想定下りデータ速度(DRp)が受信下りデータ速度(DRr)以上であった場合、フローはステップS9に進む。
【0048】
ステップS7に至る場合、受信下りデータ速度(DRr)は、想定下りデータ速度(DRp)より速い(DRp<DRr)。この場合、基地局装置から移動機に送信しているデータ量以上のデータ量が、ネットワーク装置から基地局装置へ到来している。このため、移動機への送信を待機するデータが、送信データバッファ108に残り、徐々に増えて行く。残留データ量(Ar)は、送信制御部104(図1A)が、定期的に又は不定期的に送信データバッファ108を確認することで測定される。測定結果(Ar)は、タイミング制御部107に通知される。
【0049】
ステップS7では、送信データバッファ108に残っている残留データ(Ar)の送信を完了するまでの時間(データ送信完了期間(Dcomp))が推定される。データ送信完了期間(Dcomp)は、残留データ量(Ar)を、仮想下りデータ速度(DRp)で除算することにより導出される。
【0050】
Dcomp=Ar/DRp
データ送信完了期間(Dcomp)は、下りリンクで現在達成可能なデータ速度(想定下りデータ速度(DRp))により、残留データ量(Ar)を送信した場合にかかる期間を意味する。データ送信完了期間(Dcomp)は、各種データ格納部106に保存される。
【0051】
一方、フローがステップS9に至る場合、受信下りデータ速度(DRr)は、想定下りデータ速度(DRp)以下である(DRp≧DRr)。この場合、基地局装置が、ネットワーク装置から受信した下りデータを移動機に送信する場合、移動機への送信を待機して徐々に増えてゆくデータは発生しない。この場合、データ送信完了期間は0に設定され、各種データ格納部106に保存される。
【0052】
Dcomp=0
なお、送信データバッファ108が、ネットワーク装置から受信したデータを保存する場合、想定下りデータ速度(DRp)を超えて受信したデータ量と、超えない範囲内のデータ量とを別々に保存してもよいし、あるいは、そのような区別を設けなくてもよい。
【0053】
ステップS11において、ネットワーク装置が、移動元の基地局装置に下りデータを送信することを停止すべき時点を、移動元の基地局装置が決定する。この時点は、移動元の基地局装置が、下りデータを受信しなくなる時点であり、本願において「受信停止タイミング(Tstop)」と言及される。原則として、セル切り替えタイミング(AT)からデータ送信完了期間(Dcomp)だけ遡ることで、受信停止タイミング(Tstop)が導出される。
【0054】
Tstop=AT−Dcomp
ただし、移動機のハードウェア及びソフトウェアの処理速度を考慮して、受信停止タイミング(Tstop)は、セル切り替えタイミング(AT)からデータ送信完了期間(Dcomp)だけ遡った時点よりも、さらにいくらか先行する時点に設定されてもよい。
【0055】
Tstop=AT−Dcomp−α
αの値は、様々な移動機の性能に合わせて適宜設定可能な量である。
【0056】
基地局装置は、このようにして算出した受信停止タイミング(Tstop)をネットワーク装置に通知する。ネットワーク装置は、対象の移動機のハンドオーバの開始後、受信停止タイミング(Tstop)に至ると、その移動機宛の下りデータを移動元の基地局装置に送信することを停止する。
【0057】
図3に示されているように、受信停止タイミング(Tstop)以前では、移動元の基地局装置(BS)はネットワーク装置(CN)から下りデータを受信しているが、受信停止タイミング(Tstop)以降、移動元の基地局装置(BS)はネットワーク装置(CN)から下りデータを受信していない。したがって、図中「Dcomp」により示される期間の間に移動機(UE)に送信されているデータは、移動元の基地局装置(BS)の送信データバッファ108に残っていた残留データ(Ar)であり、これはDcompの期間内に全て送信可能である。そのような送信を完了するのに過不足のない期間として、データ送信完了期間(Dcomp)は算出されているからである。受信停止タイミング(Tstop)は、実質的に(AT−Dcomp)に等しいので、残留データの送信が完了すると、セルの切り替えタイミング(AT)になり、移動機(UE)、移動元及び移動先の基地局装置並びにネットワーク装置は、同時にサービングセルの切り替え処理を行う。この切り替えタイミング(AT)以降、移動先の基地局装置(BS)はネットワーク装置(CN)から下りデータを受信し、移動機(UE)に送信する。
【0058】
このように、本実施例によれば、移動機(UE)はセルの切り替えタイミング(AT)に至る直前まで、移動元の基地局装置(BS)から下りデータを受信し続けることができる。しかも、移動機(UE)は、切り替えタイミング(AT)の後速やかに移動先の基地局装置(BS)から下りデータを受信し始めることができる。したがって、セルの切り替えタイミング(AT)付近において、移動機(UE)が通信できない期間を極めて短縮することができる。通信できない期間は、移動機のハードウェア及びソフトウェアによる処理遅延時間にすぎないからである。さらに、データ送信完了期間(Dcomp)は移動機(UE)が現在達成可能な下りデータ速度(DRp)に基づいているので、その間に残留データ(Ar)を全て移動機(UE)に送信できる。したがって、セルの切り替えタイミング(AT)の後に、移動元の基地局装置(BS)が残留データを無駄に送信することは実質的になくなる。
【0059】
本実施例によれば、移動機側が測定した無線品質(CQI)の情報から、サービングセルの切り替え直前の下りデータ速度を想定下りデータ速度(DRp)として予想し、サービングセルの切り替え直前に基地局装置がバッファする送信データ量(Ar)を動的に制御することができる(すなわち、セル切り替えタイミング(AT)の後に未送信データが残らないようにすることができる。)。これにより、高いデータ速度を実現できる移動機が、受信するデータが無いにもかかわらず、切り替えタイミング(AT)が訪れるまで、通信できずに待つ必要はなくなる。逆に、低いデータ速度しか実現できない移動機の場合、切替前の基地局装置から移動機へデータが全て伝送される前に、切り替えタイミング(AT)が訪れてしまうこともなくなる。
【0060】
以上、特定の実施例を参照しながら説明を行ってきたが、これらは単なる例示に過ぎず、当業者は様々な変形例、修正例、代替例、置換例等を理解するであろう。例えば、本発明は、ハードハンドオーバを行う適切な如何なる移動通信システムに適用されてもよい。例えば本発明は、W−CDMA方式のシステム、HSDPA/HSUPA方式のW−CDMAシステム、LTE方式のシステム、LTE−Advanced方式のシステム、IMT−Advanced方式のシステム、WiMAX方式のシステム、Wi−Fi方式のシステム等に適用されてもよい。発明の理解を促すため具体的な数値例を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数値は単なる一例に過ぎず適切な如何なる値が使用されてもよい。発明の理解を促すため具体的な数式を用いて説明がなされたが、特に断りのない限り、それらの数式は単なる一例に過ぎず適切な如何なる数式が使用されてもよい。実施例又は項目の区分けは本発明に本質的ではなく、2以上の項目に記載された事項が必要に応じて組み合わせて使用されてよいし、ある項目に記載された事項が、別の項目に記載された事項に(矛盾しない限り)適用されてよい。説明の便宜上、本発明の実施例に係る装置は機能的なブロック図を用いて説明されたが、そのような装置はハードウェアで、ソフトウェアで又はそれらの組み合わせで実現されてもよい。本発明は上記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、様々な変形例、修正例、代替例、置換例等が本発明に包含される。
【符号の説明】
【0061】
100 移動機
101 受信部
102 受信制御部
103 送信部
104 送信制御部
105 無線品質測定部
106 各種データ格納部
107 タイミング制御部
108 送信データバッファ
109 セル切替判定部
201 受信部
202 受信制御部
203 送信部
204 送信制御部
205 無線品質測定部
206 SIR導出部
207 CQI判定部
208 各種データ格納部
209 セル切替判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動通信システムにおける基地局装置であって、
下り無線品質情報を移動機から受信する受信部と、
移動機に送信する下りデータを蓄積するデータバッファ部と、
下りデータを移動機に送信する送信部と、
前記下り無線品質情報に基づいて、下りリンクで実現可能な速度を示す想定下りデータ速度を求め、該想定下りデータ速度が、ネットワーク装置から下りデータを受信する速度より遅かった場合、前記データバッファ部に蓄積されているデータ量及び前記想定下りデータ速度からデータ送信完了期間を算出するタイミング制御部と
を有し、前記タイミング制御部は、移動機がハンドオーバを行う場合、基地局装置の切り替えタイミングよりも少なくとも前記データ送信完了期間だけ遡った時点以降、前記ネットワーク装置は当該基地局装置に該移動機宛の下りデータを送信すべきでないことを前記ネットワーク装置に通知する、基地局装置。
【請求項2】
前記データ送信完了期間は、前記データバッファに蓄積されているデータ量を、前記想定下りデータ速度で除算することで算出される、請求項1記載の基地局装置。
【請求項3】
複数の下り無線品質情報各々と想定下りデータ速度との所定の対応関係を記憶するデータ格納部をさらに有する、請求項1又は2に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記タイミング制御部は、前記想定下りデータ速度が、ネットワーク装置から下りデータを受信する速度以上速かった場合、データ送信完了期間をゼロに設定する、請求項1ないし3の何れか1項に記載の基地局装置。
【請求項5】
移動通信システムの基地局装置における方法であって、
下り無線品質情報を移動機から受信するステップと、
移動機に送信する下りデータをデータバッファ部に蓄積するステップと、
タイミング制御部からの指示にしたがって、下りデータを移動機に送信するステップと
前記タイミング制御部は、前記下り無線品質情報に基づいて、下りリンクで実現可能な速度を示す想定下りデータ速度を求め、前記想定下りデータ速度が、ネットワーク装置から下りデータを受信する速度より遅かった場合、前記データバッファ部に蓄積されているデータ量及び前記想定下りデータ速度からデータ送信完了期間を算出し、
前記タイミング制御部は、移動機がハンドオーバを行う場合、基地局装置の切り替えタイミングよりも少なくとも前記データ送信完了期間だけ遡った時点以降、前記ネットワーク装置は当該基地局装置に該移動機宛の下りデータを送信すべきでないことを前記ネットワーク装置に通知する、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−239033(P2011−239033A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106575(P2010−106575)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】