説明

移植可能な投与システムの膜殻

本発明の移植可能な投与システムの膜殻は、皮下用途において長期間に渡り定常量の活性薬剤の放出を行なうために特に好適である。本発明の膜殻(3)は第1半分(1)と第2半分(2)とを含み、該半分は連続閉包縁(8、9)を有し、可閉ジョイントを介して互いに連結するように構成されている。該半分の連続閉包縁(8、9)は連続または不連続部分として、少なくとも1つの溝(10)及び/または少なくとも1つの突起(11)を有し、膜殻(3)は、閉じたときに、第2半分の少なくとも1つの突起(11)及び/または少なくとも1つの溝(10)が、第1半分の少なくとも1つの溝(10)及び/または少なくとも1つの突起(11)と、スナップフィットジョイントを介して連結するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性薬剤の投与システムの膜殻、詳しくは、皮下投与と長期間の定常量の活性薬剤の放出のための投与システムの膜殻に関する。さらに詳しくは、本発明は、可閉ジョイントを有する膜殻に関する。本発明はまた、上記の膜殻と、該膜殻に埋め込まれた、活性薬剤含有の1つまたは複数の核とを含む、移植可能な投与システムまたは移植物に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の期間に所定の速度で(最も好ましくは安定速度で)活性薬剤放出を行うための皮下用途の投与システム、即ち移植物は、4種類に大別される。
【0003】
マトリクス型の移植物においては、活性薬剤は担体物質マトリクスに分散されている。担体物質は、多孔性であっても多孔性でなくてもよく、固体であっても半固体であってもよく、活性薬剤を浸透させるものであっても浸透させないものであってもよい。マトリクス型の移植物は、生物分解性であって薬剤投与が終了した後に徐々に分解するものであってもよい。一方、非分解性のマトリクス型の移植物は、活性薬剤をマトリクスの壁または孔から拡散によって放出する。マトリクス型の移植物は簡単に製造することができるが、特定の活性薬剤を送達することに用いることができない。マトリクス型の移植物の課題は、安定な放出速度(零次の速度)を達成することである。というのは、放出速度は、典型的には、活性薬剤のマトリクスにおける濃度に依存するからである。
【0004】
核型移植物は、活性薬剤(貯蔵部)と、それを囲み放出速度を制御する膜(速度制御膜(rate controlling membrane;rcm)とを含む核/キャビティを有する。該膜は、多孔性であっても多孔性でなくてもよいが、通常は生物分解性ではない。核型移植物の放出速度は、通常、より簡単に一定のままにすることができる。というのは、放出速度は、大抵、膜の表面積にのみ依存するからである。
【0005】
第3の種類は、いわゆるハイブリッド移植物である。これは、速度制御膜の内部にマトリクス核を有する。
【0006】
他の薬剤放出システムは、本質的に力学的であって、薬剤を充填した非常に小さな電子ポンプまたは浸透圧ポンプを含んでいてもよい。この型のシステムの場合には、安定した放出は容易に達成されるが、この型のシステムは非常に高価であるので、マトリクス型または核型の移植物と競争することはできない。
【0007】
GB1157370は、皮下用の移植物を開示している。この移植物は、多孔性(メッシュ様)の頂層及び底部層、薬剤ペレットのための比較的厚い不活性な内部層、並びに環状の側壁からなる。この移植物の膜殻は、たとえば、2つの分けられた部分として、またはヒンジを介して互いに連結して、ポリエチレンから成形することによって製造することができる。この技術は、多数の分かれた部分からなる非常に複雑な構造を用いるのが特徴であり、移植物の組み立ては非常に面倒で困難になる。
【0008】
EP1100669は、射出成形によって製造される移植可能な投与システムを開示している。該公報では、移植物の形状は目的に応じて決めることができ、具体的には環状や棒状の移植物が記載されている。殻または膜の内部にある核は、実質的に溶液でもよく、空気を含んでいてもよく、活性薬剤の懸濁液でもよく、活性薬剤の粉の形であってもよい。この製造技術では、薬剤は膜殻を製造するときに移植物に含入される。
【0009】
従来技術における皮下用の活性薬剤の投与システムにおいては、製造物中の活性薬剤の質と強度とは、大抵の場合、最終生産物の製造前に、または、少なくともその製造中に、決めておくことが必要であった。たとえば、核型の投与システムの場合には、活性薬剤を含む核を膜殻の製造中に膜殻の内部に入れるか、たとえば浸漬塗布によって核の上に後で膜殻を形成する。
【0010】
膜を含み且つ押し出し技術に基づく移植物は通常、棒状または環状である。また、活性薬剤を膜の押し出し製造と同時に移植物に含入してもよいし、核を完成した後で核の上に殻を形成してもよい。
【0011】
様々な形状と大きさとを有する移植物を様々な技術を用いて製造できることが知られているが、特定の方法で特定の目的のために製造される移植物は、一定のモデルと膜の内部へ活性薬剤を埋め込むための一定の方法とに限定されるという問題を抱えている。多様な目的のために同一の構造・形状の膜殻を用いることができれば有利であり、また、たとえば、用途に応じて活性薬剤の組成と強度を決めることができれば有利である。
【0012】
発明の概要
本発明は、第1半分と第2半分とを含む移植可能な投与システムの膜殻であって、該半分はそれぞれ内表面と外表面とを有し、該半分は可閉ジョイントを介して互いに連結するように構成されており、該可閉ジョイントは、第1半分の内表面の実質的に外周全体に沿って連続して存在する第1半分の閉包縁と、第2半分の内表面の実質的に外周全体に沿って連続して存在する第2半分の閉包縁とからなり、該半分の閉包縁はそれぞれ、連続または不連続部分として、少なくとも1つの溝及び/または少なくとも1つの突起を有し、膜殻は、閉じたときに、第2半分の少なくとも1つの突起及び/または少なくとも1つの溝が第1半分の少なくとも1つの溝及び/または少なくとも1つの突起と、スナップフィットジョイントを介して連結するように構成されていることを特徴とする膜殻に関する。
【0013】
本発明の1つの態様においては、第1半分の閉包縁は連続溝を有し、第2半分の閉包縁は連続突起を有する。
【0014】
本発明の膜殻においては、第1半分と第2半分とが互いに膜ヒンジを介して連結していてもよい。
【0015】
本発明の膜殻は、射出成形グレードのポリジメチルシロキサンから製造されることが好ましい。
【0016】
本発明の膜殻の該半分は、閉包縁に加え、第1半分及び/または第2半分の内表面のほぼ中央部にキャビティピットまたはピットを有する。1つの態様においては、両内表面を互いに対向させて膜殻を閉じたときに第1半分の少なくとも1つのキャビティピットが第2半分の少なくとも1つのキャビティピットと対向するように構成されている。
【0017】
本発明はまた、上記の膜殻と、活性薬剤を含む1つまたは複数の核とを含み、該核は該膜殻の内部の少なくとも1つのキャビティに含入されるように構成されていることを特徴とする移植可能な投与システムまたは移植物に関する。
【0018】
1つまたは複数の形成済みの核を、スナップフィットジョイントを介して膜殻を閉じる前に、1個または複数のキャビティピットの中に含入することができる。また、1つまたは複数の核を、閉じた膜殻の内部にある少なくとも1つのキャビティの中に注入することもできる。
【0019】
可閉ジョイントを有する本発明の膜殻は、移植物の内部に薬剤を様々な方式で且つ様々な形で埋め込むことを可能にする。このようにして、たとえば、薬剤の放出に影響を与えることができる。完成した膜殻に活性薬剤を投入することは、膜殻を現実に製造した後で活性薬剤の用途に応じた服用量、状態及び強度を決定することを可能にする。膜殻の厚さと表面積は活性薬剤の放出速度に影響を及ぼすが、活性薬剤の放出速度はまた、活性薬剤が膜殻に含入される形によっても若干影響され得る。
【0020】
射出成形技術によってどんな形状のものでも製造できるので、治療の目的に応じた形状を選ぶことができる。
【0021】
活性薬剤はどのような架橋構造を導入しても機能するというわけではないことが知られている。本発明の移植物は、活性薬剤を含む核が膜殻の架橋構造とは異なる架橋構造を有することを可能にする。したがって、本発明の膜殻の架橋構造は、活性薬剤に適合する架橋構造により制限されない。
【0022】
発明の詳細な説明
本発明においては、「移植物」(即ち、皮下用の活性薬剤の投与システム)とは、膜殻と、活性薬剤を含む核とにより形成される複合体を意味する。
【0023】
「活性薬剤」(即ち「有効薬剤」)とは、人または動物用の移植物において用いるのに適した薬剤、たとえば所望の薬効やその他の効果・効能を発揮する薬物やホルモンを意味する。
【0024】
本発明の移植可能な投与システムの膜殻は、用途に適した可塑性材料から射出成形で製造される。種々の熱硬化性プラスチックが使用できる。好ましい材料としては、シリコーン含有共重合体などのエラストマーが挙げられる。本発明の膜殻の材料として特に好ましいのは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0025】
図1aと図1bは、本発明の移植可能な投与システムの膜殻(3)を示す。膜殻(3)は、第1半分(1)と第2半分(2)からなる。図1aと図1bに示す膜殻を用いて製造した移植物は円筒形状であり、円筒の水平断面は円形であり、円筒の高さ(即ち移植物の厚み)は、断面の全体に渡って実質的に均一である。第1半分と第2半分(1、2)は、膜ヒンジ(12)を介して相互に連結している。膜ヒンジ(12)により、第1半分と第2半分の連結が安定に維持でき、また、特に、膜殻を閉じた時に第1半分と第2半分の位置を正確にそろえることができ、さらに、一緒に用いる細かな部品を連結した状態で保持できるので、取り扱いが便利である。しかし、膜ヒンジ(12)は必須ではなく、移植物を体内に挿入する前に、閉じた膜殻(3)から取り除くことができる。
【0026】
第1半分(1)は、外表面(4)を有し、外表面(4)とは膜殻を閉じた時に見える第1半分(1)の表面を意味する。第1半分の外表面(4)は、第1半分の外端縁(13)により限定されており、外端縁(13)とは、膜殻(3)を閉じた時に第1半分(1)と第2半分(2)が互いに接触する第1半分(1)の端縁部の点である。
【0027】
第1半分(1)はまた、内表面(5)を有し、内表面(5)とは膜殻(3)を閉じた時に膜殻(3)の内部に隠れて見えない第1半分(1)の表面を意味する。第1半分(1)の内表面(5)は、第1半分の外端縁(13)により限定されている。第1半分の内表面(5)のほぼ中央部に第1半分のキャビティピット(18)がある。第1半分のキャビティピット(18)は、膜殻の内部に形成されたキャビティ(17)の第1側壁を形成する。第1半分のキャビティピット(18)は、第1半分の内端縁(14)に限定される。
【0028】
第1半分(1)の内表面(5)の周に沿って存在する閉包縁(8)は、第1半分(1)の外端縁(13)から内端縁(14)に延びる領域を含む。第1半分の閉包縁の幅は、外端縁(13)から内端縁(14)への距離に等しい。図1aにおいては、第1半分(1)の外端縁(13)と内端縁(14)との間、即ち第1半分(1)の閉包縁(8)の領域中に連続溝(10)がある。第1半分(1)の閉包縁(8)の連続溝(10)は、特定の断面形状、即ち、溝の断面形状を有する。
【0029】
第1半分(1)の上記構造に対応して、第2半分(2)は、外表面(6)を有し、外表面(6)とは膜殻を閉じた時に見える第2半分(2)の表面を意味する。第2半分の外表面(6)は、第2半分の外端縁(15)により限定されており、外端縁(15)とは、膜殻(3)を閉じた時に第1半分(1)と第2半分(2)が互いに接触する第2半分(2)の端縁部の点である。
【0030】
第2半分(2)はまた、内表面(7)を有し、内表面(7)とは膜殻(3)を閉じた時に膜殻(3)の内部に隠れて見えない第2半分(2)の表面を意味する。第2半分(2)の内表面(7)は、第2半分の外端縁(15)により限定されている。第2半分の内表面(7)のほぼ中央部に第2半分のキャビティピット(19)がある。第2半分のキャビティピット(19)は、膜殻(3)の内部に形成されたキャビティ(17)の第2側壁を形成する。第2半分のキャビティピット(19)は、第2半分の内端縁(16)に限定される。
【0031】
第2半分(2)の内表面(7)の周に沿って存在する閉包縁(9)は、第2半分(2)の外端縁(15)から内端縁(16)に延びる領域を含む。第2半分の閉包縁の幅は、外端縁(15)から内端縁(16)への距離に等しい。図1aにおいては、第2半分(2)の外端縁(15)と内端縁(16)との間、即ち第2半分(2)の閉包縁(9)の領域中に連続突起(11)がある。第2半分(2)の閉包縁(9)の連続突起(11)は、特定の断面形状、即ち、突起の断面形状を有する。
【0032】
図1bに示すように、膜殻(3)とその内部のキャビティ(17)は、可閉ジョイントを介して第1半分(1)と第2半分(2)の内表面を相互に対向させて第1半分(1)と第2半分(2)とを相互に連結させることにより形成される。可閉ジョイントは、本発明では「スナップフィットジョイント」とも称し、第1半分(1)の連続閉包縁(8)と第2半分(2)の連続閉包縁(9)とにより形成される複合体を指している。図1aと図1bに示す態様においては、第1半分(1)と第2半分(2)の内表面を相互に対向させて第2半分(2)の連続突起を第1半分(1)の連続溝に対向させることにより膜殻(3)を閉じる。本発明の膜殻(3)を緊密に閉じるためには、第1半分(1)の閉包縁(8)と第2半分(2)の閉包縁(9)を対向させて突起を溝にしっかりとはめ込むことが重要である。
【0033】
図1aと図1bに示す本発明における可閉ジョイントは、連続溝を有する第1半分の連続閉包縁と、連続突起を有する第2半分の連続閉包縁を有する。本発明によると、本発明の基本的発明思想(即ち可閉ジョイントを含む膜殻)から逸脱することなく、閉包縁の溝と突起を上記以外の様々な状態に配列することができる。また、溝及び/または突起に加えて、閉包縁は溝や突起のない平坦領域を含むこともできる。閉包縁の平坦領域においては、第1半分と第2半分の内表面はスナップフィットジョイントを介さずに互いに対向する。閉包縁内の平坦領域の割合と配置は、第1半分と第2半分との間の接着が充分になるように決定するべきである。
【0034】
たとえば、第1半分の溝は不連続でもよく、その場合、第2半分の突起はそれに応じて不連続とし、その際、第1半分と第2半分の内表面を相互に対向させた時に、第1半分の溝と第2半分の突起が相互に対向するようにする。ここでいう「不連続」とは、膜殻の各半分の周に沿って延びる閉包縁が、離散して配列する特定の長さの溝または突起とその間の平坦領域を有し、それにより、閉包縁が各半分の周の実質的に全長に沿って延びる連続領域となることを意味する。
【0035】
可閉ジョイントは歯車タイプでもよく、その場合、第1半分の連続閉包縁は、特定周期で交互に配列した突起と溝を有する。それに応じて、第2半分の連続閉包縁は、特定周期で交互に配列した溝と突起を有する。本発明における可閉ジョイントは、第1半分と第2半分の内表面を相互に対向させることにより、第1半分の突起を第2半分の溝に挿入し、一方、第2半分の突起を第1半分の溝に挿入することによって形成する。閉包縁の領域に配列する溝と突起の数は、ケースごとに決定することができる。
【0036】
上記の態様においては、閉包縁が横方向に(図1a及び図1bにおいては、半分の内端縁と外端縁との間の領域に)周の単位長さ当たり一度に単一の溝または単一の突起を有するように溝と突起を配列する。
【0037】
本発明においては、閉包縁が、閉包縁の横方向に並んだ複数(たとえば2つ)の溝及び/または突起を有することもできる。溝及び/または突起は、閉包縁の全長に沿って延びていてもよいし、閉包縁の長さの一部のみに沿って延びていてもよい。並んで延びる溝及び/または突起の数は、移植物のサイズを無制限に大きくできないし、また、活性薬剤を含む核を収容するための充分なスペースを確保すべきであるという事実により制限される。
【0038】
上記の代替的態様の閉包縁の他にも、閉包縁の領域における溝及び/または突起及び/または平坦領域の配置としては他の種々のタイプのものも使用できる。本発明において重要なのは、第1半分の(1つまた複数の)溝及び/または(1つまた複数の)突起と第2半分の(1つまた複数の)突起及び/または(1つまた複数の)溝とが相互に対向することにより、第1半分と第2半分とが緊密に連結することである。本発明においては、可閉ジョイントは膜殻の各半分の実質的に端縁部、即ち周辺部に位置する。
【0039】
図1aと図1bは、本発明における可閉ジョイントの最も好ましい態様を示す。この最も好ましい態様において、可閉ジョイントは、連続溝を有する第1半分の連続閉包縁と、連続突起を有する第2半分の連続閉包縁からなる。
【0040】
可閉ジョイントの少なくとも1つの突起と少なくとも1つの溝の断面形状は、用途に適した断面形状でよい。たとえば、突起(雄)が先端に向かって若干広がり、それに対応して溝(雌)が底部に向かって広がる、いわゆる「ばち形(dovetail)」形状、を有することができる。
【0041】
突起と溝のデザイン/サイズは、当業者に周知の原則に従うものであり、その原則は、一方で射出成形技術に関連し、他方で可閉ジョイントの機能性に関連する。射出成形技術によると、たとえば、第2半分の突起が金型から外れなければならないので、突起の逆テーパー(負の角度)は大きすぎてはならない。可閉ジョイントの設計において最も重要なのは、両半分がジョイントを介して相互に連結することである。
【0042】
本発明における可閉ジョイントに関して用いる「スナップフィットジョイント」という用語は、突起が溝に対向して第1半分と第2半分が相互に連結した時にその名通りにスナップ音が発生することを必ずしも意味するものではない。しかし、スナップフィットジョイントの原理は、本発明の膜殻の第1半分と第2半分の連結に採用されている閉鎖メカニズムを最もよく表している。
【0043】
本発明における可閉ジョイント(スナップフィットジョイント)は、一方向型であり、即ち、閉じたジョイントを開くことを意図していない。もしも何らかの理由(たとえば同定情報を調べるため)によりジョイントを開くことが必要になれば、膜殻の構造が少なくともある程度損壊することは避けられない。
【0044】
本発明の1つの態様によれば、第1半分と第2半分の接着を促進する薬剤、たとえば、用途に適した接着剤、好ましくはシリコーン糊を第1半分及び/または第2半分の閉包縁に適用することができる。
【0045】
図1bから明らかなように、可閉ジョイントを介して図1aの膜殻を閉じると、第1半分と第2半分の間にキャビティ(17)が形成される。第1半分のキャビティピット(18)は、キャビティ(17)の第1側壁を形成し、第2半分のキャビティピット(19)は、キャビティ(17)の第2側壁を形成する。キャビティ(17)のサイズと形状は用途に応じて選択できる。
【0046】
膜殻は、2つまたは3つ以上のキャビティが内部に形成されるように設計してもよい。この種の態様は、たとえば、数種の異なる活性薬剤を同じ移植物に含入することが望まれる場合に用いることができる。
【0047】
2つまたは3つ以上のキャビティピットの場合は、膜殻の各半分の閉包縁の幅は、半分の外縁の直近に位置するキャビティピットの最外点と半分の外縁との間の距離である。半分の外縁の直近に位置するキャビティピットの最外点とは、半分の外縁からの距離が最短であるキャビティピットの点を意味する。キャビティピットが複数ある場合は、半分は内縁を持たないが、閉包縁の幅は上記のように定義する。
【0048】
半分の内縁(14、16)から半分の外縁(13、15)に延びる領域からなる閉包縁は、第1半分と第2半分を相互に連結することにより可閉ジョイントが機能するように設計される必要がある。ここで閉包縁の設計とは、特に、閉包縁の幅(たとえば半分の内縁と半分の外縁との間の距離)、溝と突起の設計(たとえば断面形状)、閉包縁の領域中の横方向と長手方向における溝及び/または突起の位置(たとえば溝と突起が交互に及び/または横並びに存在する、および連続的/不連続的に存在する)などを意味するものである。
本発明の1つの態様によれば、キャビティピットを1つの半分だけに設けることもでき、こうすると、他方の半分の閉包縁の内側は平坦になる。キャビティピットを有しない半分の閉包縁の幅は、それと対をなす半分の閉包縁の幅に従って定義される。また、第1半分と第2半分のキャビティピットが対向せず、第1半分と第2半分のキャビティピットが相互に独立して設けられてもよい。
【0049】
キャビティピットはいかなる形状を有してもよく、たとえば、円形や楕円形などでもよい。また、キャビティピット(1つまたは複数)が第1半分及び/または第2半分の閉包縁により限定される領域の周囲を延びる形状であってもよい。
【0050】
キャビティピットの深さは移植物が用途に充分な機械的耐久性を有するように決定する必要がある。膜殻の第1半分と第2半分の各々の厚み、即ち、内表面と外表面の間の距離は、半分の全面積に基づき、用途に要求される使用期間中に移植物が破壊(たとえば崩壊)しないような耐久性を示すように決定する。
【0051】
キャビティーについて最も好ましい態様である図1aと図1bに示す態様によると、膜殻は、第1半分と第2半分の対向するキャビティピット(18、19)からなるキャビティ(17)を含む。
【0052】
図2aと図2bは、図1aと図1bに示す膜殻を閉じる前(図2a)と閉じた後(図2b)の外郭線を示す。図2aと図2bはまた、膜ヒンジを示す。
【0053】
本発明の膜殻の形状とデザインは自由に選択できる。また、本発明の膜殻から製造される移植物の概観も自由に選択できる。本発明の膜殻は、実質的に縁端部に位置する可閉ジョイントと、膜殻の第1半分と第2半分の間にあり、活性薬剤を含む1つまたは複数の核を収容するための1つまたは複数のキャビティとを含む。移植物の外観は、治療の目的に従って選択できる。本発明の好ましい態様においては、膜殻は円筒形状であり、円筒の水平断面は実質的に円形(図1a)または楕円形である。円筒形状の移植物の高さは、実質的に均一でもよいし、縁端部の高さが小さくなっていてもよい。楕円形の断面を有する円筒形状の移植物の高さは、楕円形の端部で特に小さくなっていてもよい。
【0054】
移植物は突起部を有してもよく、突起部の形状とデザインは、たとえば、治療の目的に応じて、移植物を取り除くのを容易にするためなどの目的で、種々のタイプから選択できる。突起部の形状と移植物中のその位置は、突起部の使用目的及び/または移植物の用途からくる要求事項に基づき選択できる。突起部は、たとえば、取っ手形状とすることができ、この場合、移植物を取り除く際に、除去用フックを取っ手の穴部に掛けて、フックを利用して移植物を引き出すことができる。より長期の使用のための移植物においては、突起部の追加は避けるべきである。というのは、突起部は瘢痕組織の形成を増加させる可能性があるからである。移植物の形状に関して重要なことは、移植物の用途において、移植物をできるだけ快適に使用できることである。
【0055】
膜殻のサイズ、形状及び壁厚は、移植物が用途に要求される使用期間に耐えるように選択される。本発明の移植物の寿命は、数日または数週間〜数年である。通常、寿命は数ヶ月〜数年である。本発明の移植物は、人と動物のいずれにおいても活性薬剤の皮下制御放出のために用いることができる。
【0056】
膜殻のデザインと移植物の全体寸法は用途によって決まる。移植物の使用環境での外部寸法、即ち、膜殻が閉じており、活性薬剤を含む核が膜殻の内部にある状態での外部寸法は、たとえば、5〜40mmの範囲、好ましくは5〜20mmの範囲でよく、最も好ましくは10mmでよい。特に楕円形の移植物は20mmを越える長さ、たとえば40mmの長さを有してもよい。移植物の高さは1〜10mmの範囲でよく、一般には1.5〜5mmの範囲であり、好ましくは2〜3mmの範囲である。デザインを限定する要因としては、可閉ジョイントの設計において、射出成形で製造可能とすること、及び、第1半分と第2半分が相互に連結できるようにすることである。
【0057】
膜殻の壁厚と膜殻の表面積は薬剤の放出速度に影響し、また、放出速度は膜殻の形状とデザインを決定する際に考慮することが必要である。効果が当業者に周知の薬剤の放出速度は、例えば活性薬剤の放出面積を増加させることにより、表面形状/寸法(たとえば折れ曲がり、ノッチ、取っ手)を通じて変更可能である。
【0058】
膜殻の組成は変性PDMSエラストマーにより変更可能である。たとえば、組成を通じて活性薬剤の放出速度を変更することができる。一例として、もしも膜殻をフルオロシロキサン(たとえばトリフルオロプロピル置換シロキサン)またはそれとPDMSとの混合物から製造する場合は、薬剤の放出速度は減少する。一方、もしも膜殻をポリアルキレンオキシド基を有するシロキサンまたはそれとPDMSとの混合物から製造する場合は、薬剤の放出速度は増加する。
【0059】
薬剤の放出は、膜殻の厚み、形状及び組成により制御できることに加えて、薬剤の結合マトリクスにより制御することができる。
【0060】
膜殻の第1半分と第2半分(1、2)は射出成形により、別々にまたは膜ヒンジ(12)を介して連結した状態で製造できる。膜ヒンジは、第1半分と第2半分を相互に連結した後に移植物から取り除くことができる。本発明で用いる可閉ジョイントについては、ヒンジにより第1半分と第2半分を適切に連結した状態に維持することができ、膜殻の閉鎖を容易に行なうことができる。
【0061】
所望のマーキング(例えば同定情報)を、膜殻の内表面に形成することができ、これは、射出成形に用いる金型に文字を彫り込んでおくことにより射出成形で膜殻の内表面に文字を転写することで達成できる。マーキングは、射出成形の後でレーザーにより膜殻の内表面に形成することもできる。これらの方法により、秘密の同定情報を隠して入れることができる。
【0062】
活性薬剤を含む移植物の核を、膜殻の閉鎖の前または後、好ましくは膜殻の閉鎖の前にキャビティ(17)に含入することができる。
【0063】
活性薬剤(たとえば薬物)を、膜殻内部に形成された1つまたは複数のキャビティに種々の方法で含入することができる。また、活性薬剤を含む核は、マトリクス型でもよいし、また、マトリクスの無い核に活性薬剤が収容されていてもよい。したがって、本発明における可閉ジョイントを含む移植物は、ハイブリッド型(マトリクス型の核と、薬剤放出速度を制御する膜殻を含む)でもよいし、核型(薬剤を含む核と、薬剤放出速度を制御する膜殻を含む)でもよい。いずれの場合も、核は、膜殻内部に形成された1つまたは複数のキャビティを実質的に満たすべきである。膜殻の弾性が核によるキャビティの充填に寄与することが好ましい。核とキャビティの間に空隙があることは、活性薬剤の拡散の観点から望ましくない。
【0064】
活性薬剤を、たとえば、PDMSエラストマーに結合してから、得られた結合体を架橋してプレートを得る。プレートからディスクを切り出して膜殻内部に配置し、スナップフィットジョイントにより膜殻を閉鎖する。あるいは、まず最初にポリエチレングリコール(PEG)を膜殻の内表面上に注入塗布し、それからディスクを膜殻の内部に配置して、膜殻を閉じる。ポリエチレングリコールを膜殻の内表面上に注入塗布することにより、核と膜殻の間の接触が向上する。
【0065】
活性薬剤を含み膜殻のキャビティに配置される核は、薬剤を結合したPDMSエラストマーから射出成形により製造できる。核を配置してから、膜殻をスナップフィットジョイントにより閉じる。
【0066】
薬剤を室温で結晶性ポリエチレングリコール(PEG)に結合することができる。得られた結合体の塊から小片を成形して、膜殻内部に配置する。体内に入るとPEGが溶解して薬剤の拡散速度を変える。PEGの溶解温度を調節することにより、体温が平常値を越えているときにPEGを溶解させることができる。
【0067】
室温で液状ポリエチレングリコールやシリコーンオイルに結合した活性薬剤を、閉じた膜殻の内部に注入することもできる。
【0068】
膜殻が核とは別かれて存在していることが、薬剤含有エラストマーに膜殻の架橋構造とは異なる架橋構造を導入することを可能にする。
【0069】
活性薬剤とバインダーを圧縮してプレートを形成し、そこからディスクを切り出すこともできる。得られたディスクをキャビティピットに配置し、スナップフィットジョイントにより膜殻を閉じる。この態様においては、活性薬剤はマトリクスに結合していない。
【0070】
キャビティの数と形状に関係なく、活性薬剤を添加・含入するための全ての方法を用いることができる。
【実施例1】
【0071】
膜殻の製造:
射出成形グレード(injection moulding quality)のPDMSエラストマーと液状シリコーンゴム(LSR)を容積比1:1で混合して部分Aと部分Bに分け、部分Aにはプラチナ触媒を加え、部分Bには架橋剤を加えてから、部分Aと部分Bとを混ぜ合わせて、架橋性LSRエラストマーを得る。得られたLSRエラストマーを金型に射出成形し、たとえば115℃で5分間架橋させる。その後、得られた膜殻を金型から取り出す。
【0072】
薬剤を含む核の製造:
PDMSエラストマーと薬剤を、たとえば重量比1:1で混合する。得られた混合物塊を油圧プレスで、たとえば115℃で5分間圧縮する。ホールプレスで薄いプレートからディスク/ボタンを切り出す。
【0073】
移植物の組み立て:
薬剤を含む核ディスクを膜殻の第1半分と第2半分の1つに配置し、第1半分と第2半分の内表面をスナップフィットジョイントにより相互に対向させて膜殻を閉じる。膜殻を閉じてから室温加硫性(RTV)シロキサン糊を閉包縁に塗布することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1a】本発明の移植物の膜殻を閉じる前の状態の上面図と、A−A線の位置での断面図である。
【図1b】本発明の移植物の膜殻を閉じた状態の断面図である。
【図2a】本発明の移植物の膜殻を閉じる前の状態の外郭線である。
【図2b】本発明の移植物の膜殻を閉じた状態の外郭線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半分(1)と第2半分(2)とを含む移植可能な投与システムの膜殻(3)であって、該半分はそれぞれ内表面(5、7)と外表面(4、6)とを有し、該半分(1、2)は可閉ジョイントを介して互いに連結するように構成されており、該可閉ジョイントは、第1半分の内表面(5)の実質的に周全体に沿って連続して存在する第1半分の閉包縁(8)と、第2半分の内表面(7)の実質的に周全体に沿って連続して存在する第2半分の閉包縁(9)とからなり、該半分の閉包縁(8、9)は、連続または不連続部分として、少なくとも1つの溝(10)及び/または少なくとも1つの突起(11)を有し、膜殻(3)は、閉じたときに、第2半分の少なくとも1つの突起(11)及び/または少なくとも1つの溝(10)が、第1半分の少なくとも1つの溝(10)及び/または少なくとも1つの突起(11)と、スナップフィットジョイントを介して連結するように構成されていることを特徴とする膜殻。
【請求項2】
第1半分の閉包縁(8)が連続溝(10)を有し、第2半分の閉包縁(9)が連続突起(11)を有することを特徴とする、請求項1に記載の膜殻(3)。
【請求項3】
第1半分(1)と第2半分(2)とが互いに膜ヒンジ(12)を介して連結していることを特徴とする、請求項1または2に記載の膜殻(3)。
【請求項4】
射出成形グレードのポリジメチルシロキサンから製造されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の膜殻(3)。
【請求項5】
膜殻(3)が第1半分(1)及び/または第2半分(2)の内表面(5、7)のほぼ中央部にキャビティピット(18、19)を有し、それにより、膜殻(3)を閉じたときには第1半分(1)と第2半分(2)とのキャビティピット(18、19)が対向するように構成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の膜殻(3)。
【請求項6】
第1半分(1)及び/または第2半分(2)の内表面(5、7)に2個または3個以上のキャビティピット(18、19)を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の膜殻(3)。
【請求項7】
膜殻(3)を閉じたときには第1半分(1)と第2半分(2)とのキャビティピット(18、19)が対向するように構成されていることを特徴とする、請求項6に記載の膜殻(3)。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の膜殻(3)と、活性薬剤を含む少なくとも1つの核とを含み、該核は該膜殻の内部の少なくとも1つのキャビティ(17)に含入されるように構成されていることを特徴とする移植物。
【請求項9】
スナップフィットジョイントを介して膜殻を閉じる前に、少なくとも1つの形成済みの核が少なくとも1個のキャビティの中に置かれるように構成されていることを特徴とする、請求項8に記載の移植物。
【請求項10】
閉じた膜殻の内部にある少なくとも1つのキャビティの中に少なくとも1つの射出された核を有することを特徴とする、請求項8に記載の移植物。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2010−524615(P2010−524615A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504771(P2010−504771)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050217
【国際公開番号】WO2008/132274
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(507331379)バイエル シェーリング ファーマ オイ (8)
【Fターム(参考)】