説明

移植材料及び骨質改善剤

【課題】本発明は、骨質を改善する用途に局所投与して使用する移植材料の提供を目的とする。
【解決手段】前記目的を達成するために、本発明の移植材料は、骨質を改善する用途に局所投与して使用する移植材料であって、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、骨芽細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、及び、骨形成能を有する細胞からなる群から選択される細胞を含む移植材料である。本発明の移植材料は、例えば、骨質低下に対する骨質改善剤として使用できる。本発明の移植材料は、さらに、スキャホールド、両親媒性ペプチド、多血小板血漿(PRP)等を含むことが好ましい。本発明の移植材料は、例えば、ヒト及び非ヒト動物(好ましくはヒトである。)の骨粗しょう症を含む骨質低下疾患の予防や治療に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植材料及び骨質改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本においては、団塊世代というエルダー世代が50%以上を占める高齢化社会になっている。その中で、骨質低下により骨が萎縮してもろく折れ易い状態となる骨粗しょう症は、その患者数が日本国内で1000万人以上と国民の10分の1と推定されており、多くの高齢者にとって共通の悩みとなっている。骨粗しょう症による骨質低下に伴う大腿骨頚部骨折の患者数は、年間約10万人といわれる(例えば、1997年の全国調査では、推計92,400人)。高齢者の骨折は、寝たきりを引き起こすなどQOLの低下を招くため、大きな社会問題となっている。また、骨粗しょう症による骨質低下は、骨折という問題の他にも、例えば、歯科領域で用いられる歯科インプラントの治療方法の成功率を低下させるという問題も引き起こす。前記歯科インプラント治療方法とは、歯が失われた顎骨にチタン性の金属を埋入することで、義歯を作製する治療方法である。
【0003】
前記骨折を含む骨欠損部位の修復や再生のための一般的な治療方法は、自己の組織、例えば、脂肪、筋膜、軟骨、骨片等を移植に用いる自家移植である。しかしながら、自家移植は、骨欠損部位に対して移植材料の十分な供給量が得られない場合があるという問題点や、患者に対する負担が大きいという問題点がある。また、同種移植(アロ移植)や異種移植に関しても、移植材料の供給量、免疫反応、感染等の問題が指摘されている。この問題を回避すべく、例えば、β−TCP(β−リン酸三カルシウム)、ヒドロキシアパタイト(HA)、ポリ乳酸ポリマー等の生体吸収材料からなる代用骨(例えば、特許文献1〜3参照)や、チタン等でできた人工関節を2種類のセメント等により固定する移植材料(セメント型とポーラス型)が検討されている。しかし、前記人工関節は、埋没した人工関節が時間の経過とともに緩んできて十分な効果があげられていないという問題点がある。そこで、近年、組織工学(tissue−engineering)を取り入れた再生医療骨(tissue−engineered bone)による骨折の治療方法が盛んに開発されている。例えば、間葉系幹細胞(MSC)や多血小板血漿(PRP)を含む再生医療移植材料を用いる治療方法である(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特表2003−532458号公報
【特許文献2】特開2004−16398号公報
【特許文献3】国際公開WO2003/065996号パンフレット
【特許文献4】特再表WO2002/040071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これに対し、骨質低下それ自体に対しては、既存の治療法よりも新しい治療法が切望されている。なぜなら、例えば、運動療法、食事療法、薬物療法(例えば、特開2005−139207号公報参照)等の現在行われている骨粗しょう症等に対する治療法では、コンプライアンスの低下や効果の有無が問題となったり、また、前記薬物療法においては、長期投与による発癌作用が問題となったりしているからである。したがって、骨質自体をより確実に改善できる新たな技術が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、骨質を改善する用途に局所投与して使用する移植材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の移植材料は、骨質を改善する用途に局所投与して使用する移植材料であって、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、骨芽細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、及び、骨形成能を有する細胞からなる群から選択される細胞を含む移植材料である。
【発明の効果】
【0007】
従来、骨再生等の再生医療は、骨欠損部へ移植材料を挿入することにより行われることが技術常識であり、すでに骨組織が存在する場合において再生医療的手法により骨質を改善するという発想は、従来技術において何ら記載も示唆もなかった。しかし、本発明者らは、例えば、骨形成能を有する細胞等を骨髄腔内に局所的に注入すれば骨密度を向上させ、低下した骨質の改善が可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明の移植材料は、局所投与することにより、骨密度等の骨質の改善が可能であり、例えば、骨質低下に対する骨質改善剤として使用できる。本発明の移植材料は、さらに、例えば、骨粗しょう症における骨折多発部位の予防・治療、骨折の治療・再発予防、細胞組み込み型人工関節を用いた治療、並びに、歯科インプラントを含む骨手術への術前治療等に使用できる。すなわち、本発明の移植材料は、骨粗しょう症等を含む骨質低下疾患の予防・治療に使用でき、さらに、骨粗しょう症で多発する骨折の治療時に本発明の移植材料を用いれば、再発防止効果や治癒促進効果を得ることができる。
【0009】
本発明の移植材料のような再生医療移植材料を用いて、骨粗しょう症等の骨質低下疾患の骨質改善ができることや、前記再生医療材料を用いて、骨折や骨欠損をしておらず既に骨組織が存在する部位の骨質改善ができるという本発明の効果は、従来記載も示唆もない優れた効果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、前記骨質の改善は、骨密度の改善であることが好ましい。本発明の移植材料は、さらに、スキャホールドを含むことが好ましい。前記スキャホールドとしては、人工骨、生体骨、細胞外マトリクス、生体分解吸収性高分子材料、及び、自己組織化能を有する両親媒性ペプチドからなる群から選択されることが好ましい。前記自己組織化能を有する両親媒性ペプチドは、ペプチドハイドロゲルを形成していることが好ましい。
【0011】
本発明の移植材料は、さらに、多血小板血漿(PRP)又は成長因子を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の移植材料は、骨疾患の予防・治療に使用することが好ましい。前記骨疾患としては、骨欠損、骨ベージェット病、パーキンソン病、変形性関節症、腰背痛、慢性関節リウマチ、骨粗しょう症、閉経性骨粗しょう症、骨折、歯周疾患、骨減少症及び軟骨化症からなる群から選択されることが好ましい。
【0013】
本発明の移植材料は、例えば、脈管外投与や骨髄内注入のような局所投与で用いられることが好ましい。また、本発明の移植材料は、使用時において流動性を有することが好ましい。
【0014】
本発明の骨質改善剤は、本発明の移植材料を含み、骨質の改善の用途、より好ましくは、骨密度を改善する用途に局所投与して使用する骨質改善剤である。本発明の骨質改善剤は、骨欠損、骨ベージェット病、パーキンソン病、変形性関節症、腰背痛、慢性関節リウマチ、骨粗しょう症、閉経性骨粗しょう症、骨折、歯周疾患、骨減少症及び軟骨化症からなる群から選択される骨疾患の予防・治療に用いることが好ましい。また、本発明の骨質改善剤の局所投与は、例えば、脈管外投与や骨髄内注入等が好ましい。
【0015】
本発明の移植材料の製造方法は、本発明の移植材料を製造する方法であって、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、又は、腸骨骨髄、顎骨骨髄、末梢血、脂肪、若しくは、さい帯血に由来する細胞を準備する工程を含み、さらに、それらを培養して、骨形成能を有する細胞に分化誘導する工程を含むことが好ましい。また、本発明の骨質改善剤の製造方法は、本発明の移植材料の製造方法により、本発明の移植材料を製造する工程を含むことが好ましい。
【0016】
以下に、本発明の移植材料について説明する。
【0017】
(移植材料として使用する細胞)
本発明の移植材料として使用する細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、骨芽細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、及び、骨形成能を有する細胞からなる群から選択される細胞又はこれらの細胞の組合せである。これらの細胞は、採取された細胞であっても培養細胞であってもよく、ヒト及び非ヒト動物の細胞であることが好ましく、より好ましくは、ヒトの細胞である。これらの細胞は、自家であってもよく、他家であってもよく、また、遺伝的に修飾されていてもよい。
【0018】
これらの中でも、本発明の移植材料に使用する細胞としては、骨形成能を有する細胞が好ましい。骨形成能を有する細胞とは、骨芽細胞、前骨芽細胞、骨系細胞へ分化したMSCやES細胞等を含む骨組織を形成しうる細胞をいう。本発明の移植材料に含まれる前記骨形成能を有する細胞は、前記いずれかの細胞を使用してもよく、前記細胞を任意に組合せたものを使用してもよい。これらの中でも、骨系細胞へ分化したMSCを使用することが好ましい。ここで、「骨系細胞へ分化した」とは、未分化状態のMSCやES細胞等が、骨系細胞へ方向付けされた状態をいう。骨系細胞へ分化したMSCやES細胞は、自家細胞であることが好ましいが、同種他家細胞であってもよく、また、ヒト由来の細胞を利用できる。
【0019】
骨系細胞へ分化したMSCは、例えば、体内から採取した未分化MSCを、in vitroで、骨系細胞への分化を誘導する条件下で培養することで調製できる。前記骨系細胞への分化を誘導する培地としては、例えば、β−グリセロリン酸、デキサメタゾン、及び、L−アスコルビン酸を含む培地があげられる。但し、培養条件としては、これに限定されず、従来公知の骨系細胞への分化を誘導する条件を適用できる。前記骨系細胞へ分化したMSCは、凍結処理をしたものであってもよい。前記未分化MSCの供給源としては、例えば、腸骨骨髄、顎骨骨髄、末梢血、脂肪、骨膜、歯髄、又は、さい帯血等があげられる。これらの従来公知の方法で採取した後、MSCをその接着性の有無に基づき選択する。すなわち、骨髄等に含まれる細胞の中で、接着性を有するものを選択することにより未分化MSCを得ることができる。なお、前記骨芽細胞、前骨芽細胞及び軟骨細胞についても、腸骨骨髄、顎骨骨髄、末梢血、脂肪、骨膜、歯髄、又は、さい帯血等から採取できる。
【0020】
(投与形態)
本発明の移植材料は、局所投与の投与形態で用いられるが、前記局所投与であれば、その投与形態は特に制限されず、例えば、骨髄腔内注入等の脈管外投与でもよい。また、局所投与に使用する細胞としては、特に制限されないが、例えば、ES細胞やMSCを使用してもよく、また、骨芽細胞や軟骨細胞を使用してもよい。
【0021】
投与においては、本発明の移植材料により骨形成が促進される限りどのような媒体を使用してもよい。好ましくは、本発明の移植材料に使用する細胞の生理活性を維持するのに好ましい媒体を用いて投与する。前記媒体としては、例えば、生理食塩水や、さらに後述するPRPや各種の成長因子を加えたもの等があげられる。本発明の移植材料に使用する前記細胞の細胞数としては、例えば、投与する移植材料1mLあたり1×105細胞以上であって、好ましくは、1×106〜1×108細胞である。また、本発明の移植材料を局所投与する場合、後述するとおり、スキャホールドとともに投与してもよい。例えば、本発明の移植材料を骨髄腔内へ注入する場合、生理食塩水を用いた場合には、本発明の移植材料を骨髄全体へ到達させることが可能である。一方、スキャホールドを用いた場合には、本発明の移植材料を骨の一定領域にとどめておき、必要な部分のみを骨質改善することが可能となる。
【0022】
(スキャホールド)
前述のとおり、本発明の移植材料を投与する場合、骨形成のスキャホールド(足場)と組合せて投与してもよい。スキャホールドは、骨の再生において、通常、細胞の移植に先立ってあるいは移植とともに、骨形成又は骨形成を促進しようとする部位(骨疾患部位、整形外科における治療又は予防部位、美容形成における治療又は予防部位、形成外科における治療又は予防部位、歯科における治療又は予防部位、口腔外科における治療又は予防部位)に供給される。こうすることで、移植した細胞の骨疾患部位等における生着や骨疾患部位での細胞増殖等を促進して骨疾患部位での骨形成(再生)を促進することが可能となる。こうしたスキャホールドとしては、各種の人工骨や生体骨(自家骨等を含む)のほか、生体内で分解吸収される高分子材料があげられる。こうした高分子材料としては、例えば、自己組織化能を有する両親媒性ペプチド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグルコール酸との共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン、ε−カプロラクトンと乳酸あるいはグリコール酸との共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−シアノアクリレート、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリプロピレンカーボネート、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタメート、ポリ−γ−メチル−L−グルタメート、ポリ−L−アラニン等の合成高分子、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖あるいはゼラチン、コラーゲン(コラーゲンのタイプ及びその抽出法はいずれでもよい)等があげられる。
【0023】
これらの中でも、本発明の移植材料に使用するスキャホールドとしては、生体吸収性、非感染源性、非免疫原性等の優れた生体適合性を示し、かつ、優れた流動性、付形性及び操作性を示すスキャホールドが好ましい。このようなスキャホールドとしては、後述する自己組織化能を有する両親媒性ペプチドがあげられる。このようなスキャホールドを用いれば、本発明の移植材料を一定領域にとどめておくことが可能になり、必要な部分のみ骨質を改善でき、例えば、歯科インプラント治療に有用となる。低浸襲であることや欠損の形態に影響されないことから、骨折の治癒遅延症例や、骨粗しょう症における骨質改善にも有用である。
【0024】
(自己組織化能を有する両親媒性ペプチド)
本発明の移植材料のスキャホールドとして使用可能な前述の組織化能を有する両親媒性ペプチド(Self−Assembling Amphiphatic Peptide)は、疎水性アミノ酸残基と親水性アミノ酸残基とが一定周期で交互に配置されて疎水性側鎖の非極性の面と親水性側鎖の極性の面とを備える。そして、前記両親媒性ペプチドは、適当な電解質存在下において、自己組織化的にナノファイバーを形成し、その結果、ペプチドナノファイバーからなるペプチドハイドロゲルを形成する。
【0025】
前記両親媒性ペプチドにおいて、前記親水性アミノ酸残基は、その側鎖のチャージが正のものと負のものとが一定周期で交互に配置され、前記極性の面が、イオン的に相補的であることが好ましい。前記両親媒性ペプチドの自己組織化能に関与するペプチド間の相互作用の一例を図5に示す。図5は、KLDLKLDLKLDL(配列番号1)というアミノ酸配列からなる3本の両親媒性ペプチドの相互作用を示す模式図である。前記両親媒性ペプチドは、電解質が存在する水溶液中で、多数の相互作用によって自己組織化する。前記相互作用には、例えば、隣接しているペプチドにおける正チャージのアミノ酸(リジン:K)側鎖と負チャージのアミノ酸(アスパラギン酸:D)側鎖とが形成する相補的なイオン対が含まれる。また、図示していないが、例えば、アスパラギンやグルタミン等の親水性アミノ酸残基の非チャージ側鎖であれば、水素結合総合作用に関与する。隣接しているペプチドにおける疎水性側鎖は、ファンデルワールス相互作用に関与する。ペプチド骨格上のアミノ基及びカルボニル基もまた分子間水素結合相互作用に関与しうる。前記正チャージ側鎖のアミノ酸残基としては、アルギニン:R、リジン:K、ヒスチジン:Hがあげられ、前記負チャージ側鎖のアミノ酸残基としては、アスパラギン酸:D、グルタミン酸:Eがあげられ、非チャージ親水性側鎖のアミノ酸残基としては、アスパラギン:N、グルタミン:Q、セリン:S、トレオニン:T、チロシン:Yがあげられ、疎水性側鎖のアミノ酸残基としては、アラニン:A、グリシン:G、バリン:V、ロイシン:L、イソロイシン:I、プロリン:P、フェニルアラニン:F、メチオニン:M、トリプトファン:W、システイン:Cがあげられる。
【0026】
前記両親媒性ペプチドにおいて、疎水性アミノ酸残基と親水性アミノ酸残基との配置の一定周期は、例えば、1残基、2残基、3残基、4残基の交互配置であってよく、好ましくは、1個のアミノ酸残基の交互配置である。
【0027】
前記両親媒性ペプチドにおいて、親水性アミノ酸残基の側鎖が、イオン的に相補的である場合、その正負のチャージの配列に応じてモジュールI〜IV等にクラス分けできる。すなわち、正チャージアミノ酸残基と負チャージアミノ酸残基の交互配置の一定周期が、1残基(−+−+−+−+)、2残基(−−++−−++)、3残基(−−−+++)及び4残基(−−−−++++)である場合を、それぞれ、モジュールI、モジュールII、モジュールIII及びモジュールIVという。なお、各モジュールにおいて、正負チャージの順番は逆でもよい。
【0028】
両親媒性ペプチドの長さは、例えば、8〜200アミノ酸残基であって、好ましくは、8〜36アミノ酸残基であり、より好ましくは、8〜16アミノ酸残基である。また、前記両親媒性ペプチドのN末端側は、アセチル化されていてもよい。前記両親媒性ペプチドの製造方法は、特に制限されず、例えば、従来公知の化学合成方法により合成する方法があげられる。
【0029】
本発明の移植材料に使用される前記両親媒性ペプチドは、一種類でもよく、複数種類でもよい。複数種類の場合、β−シート状の構造に自己組織化する両親媒性ペプチドを少なくとも一種類含むことが好ましい。そのようなβ−シート状の構造に自己組織化する両親媒性ペプチドは、例えば、米国特許US5,955,343、米国特許US5,670,483、特表2005−515796号公報(国際公開WO2002/062961号パンフレット)に開示されており、その一例を下記表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
(ペプチドハイドロゲル)
本発明において、ペプチドハイドロゲルは、前記両親媒性ペプチドが自己組織化によりナノファイバーを形成した結果として得らるものである。このペプチドハイドロゲルは、in vivoで、骨形成のスキャホールド(足場)として機能しうる。前記ナノファイバーとは、前記両親媒性ペプチドが、例えば、らせん状のβ−シート構造をとったものである。前記ナノファイバーの直径は、例えば、500nm以下、100nm未満、50nm未満、20nm未満、10nm〜20nm、5nm〜10nm、5nm未満である。
【0032】
前記ペプチドハイドロゲルを形成する方法としては、例えば、水溶液中の前記両親媒性ペプチドの最終濃度を、0.5wt%〜5.0wt%、好ましくは、0.5wt%〜3.0%、より好ましくは、0.5wt%〜1.0wt%とし、前記水溶液の塩濃度(例えば、NaCl)を、5mM〜5Mとする方法があげられる。前記水溶液の好ましいバッファーとしては、例えば、生理食塩水、PBS等があげられる。
【0033】
前記ペプチドハイドロゲルを形成するための前記水溶液は、さらに、等浸透圧性溶質を含むことが好ましい。前記等浸透圧性溶質とは、前記水溶液中に溶解された非イオン性化合物をいう。前記等浸透圧性溶質としては、例えば、単糖類や二糖類等の糖類があげられ、そのなかでも、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、リボース、マンノース、アラビノース、キシロース等が好ましい。前記等浸透圧性溶質の濃度は、例えば、50mM、150mM、300mM、200〜250mM、250〜270mM、270〜300mM、300〜400mM、400〜500mM、500〜600mM、600〜700mM、700〜800mM、800〜900mMである。その他の等浸透圧性溶質としては、例えば、5〜20%(v/v)のグリセロールがあげられる。前記水溶液のpHは、例えば、7.0である。
【0034】
前記ペプチドハイドロゲルは、注射器やカテーテルで注入可能な程度の流動性を備えることが好ましい。
【0035】
前記ペプチドハイドロゲルの水分含有量は、例えば、99%を超え、好ましくは、99.5%〜99.9%である。また、前記ペプチドハイドロゲルは、優れた生体適合性を示すことが好ましい。すなわち、哺乳類動物においては、検出可能な免疫応答や炎症応答を誘発せず、また、生理食塩水条件下では、検出可能な膨張性を示さないことが好ましい。前記ペプチドハイドロゲルの孔サイズは、例えば、50nm〜400nmである。前記ペプチドハイドロゲルは、生体内分解性があり、骨形成とともに吸収される。その分解期間は、例えば、2〜8週間である。前記分解期間は、前記両親媒性ペプチドに、例えば、プロテアーゼによる切断部位を導入するなどして調整可能である。また、完全人工合成が可能であるから、他の動物由来材料と異なり病原菌、ウイルス及びプリオン等の感染のおそれを排除できる。
【0036】
前記両親媒性ペプチドとしては、市販製品である商品商標「PuraMatrixTM」(3−D Matrix Japan社製)を使用でき、前記ペプチドハイドロゲルとしては、市販製品である商品商標「PuraMatrixTM Peptide Hydrogel」(同社製)を使用できる。
【0037】
(PRP:多血小板血漿)
本発明の移植材料は、その他の態様として、さらに、PRP(多血小板血漿)を含んでもよい。PRPは、血小板を豊富に含む血漿であり、換言すれば、血小板が濃縮された血漿をいう。PRPは、例えば、商品名:濃厚血小板「日赤」(日本赤十字社製)に準じるものであり、採取した血液を遠心分離処理するなどして調製できる。具体的には、例えば、まず、採取した血液にクエン酸ナトリウム等の凝固防止剤を添加し、室温で所定時間放置する。その後、血球及びバフィーコートが分離する条件(例えば、約1,100rpm)で遠心処理する。これにより、2層(上層を、Platelet−poor Plasma:PPPともいう。下層には、血球及びバフィーコートが含まれる)に分離される。前記上層のPPPを取り除いた後、更に、赤血球が分離される条件(例えば、約2,500rpm)で遠心処理する。これにより、2層(上層を、Platelet−poor Plasma:PPPともいう。下層には、血球及び軟膜が含まれる)に分離される。その結果得られた赤血球を実質的に含まない画分(Platelet−rich Plasma:PRP)を採取する。PRPの調製方法は、この方法に限定されず、必要に応じて修正を加えた方法により調製することができる。PRPに含まれる血小板の量についての一般的な定義はないが、採取した血液に比較して約2倍〜約20倍の血小板を含有することが好ましい。なお、その調製が可能であり、かつ調製に際して非現実的な負担のない限りにおいて、血小板の含有量は、できるだけ豊富なものを用いることが好ましい。PRPは、自己由来のPRPであることが好ましい。毒性ないし免疫拒絶反応を回避できるからである。
【0038】
PRPに豊富に含まれる血小板及びフィブリノーゲンをトロンビン等を用いてゲル化させたPRPゲルは、前記ペプチドハイドロゲルと共役して骨形成のスキャホールドとして機能しうる。PRPは、また、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)等の成長因子を豊富に含み、これらの成長因子もまた、骨形成に寄与すると考えられる。本発明の移植材料は、さらにその他の態様として、PRPに代えて、PDGFやTGF−β1、TGF−β2、骨誘導因子(BMP)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)−I、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)等の成長因子と組合せたものでもよい。これらのPRP又は1種若しくは2種以上の成長因子との併用によれば、骨形成又は骨形成を促進すべき部位において効果的に骨密度を増進させることができる。
【0039】
(用途)
本発明の移植材料は、ヒト及び非ヒト動物(好ましくはヒトである。)の各種骨疾患の治療・予防又は改善に使用できる。ここで、予防・治療とは、予防及び治療、又は、予防若しくは治療をいう。前記骨疾患としては、骨欠損、骨ベージェット病、パーキンソン病、変形性関節症、腰背痛、慢性関節リューマチ、骨粗しょう症、閉経性骨粗しょう症、骨折、歯周疾患、骨減少症、軟骨化症等があげられる。さらに、その他の態様として、本発明に移植材料は、整形外科、美容外科、形成外科、歯科及び口腔外科の領域にも適用することができる。例えば、インプラント(人工歯根)の植立のための顎骨の骨質強化や再建、歯槽骨の増強・再生、外科手術後の顎骨再建、唇顎口蓋裂の顎裂部の再建等に適用できる。
【0040】
これらの中でも、本発明の移植材料は、ヒト及び非ヒト動物(好ましくはヒトである。)の骨質低下疾患における骨質改善に適用することが好ましい。前記骨質改善とは、特に制限されないが、例えば、骨密度の改善を含む。前記骨質低下疾患とは、骨密度の低下、骨組織の劣化等の症状を伴う骨量の低下が起こる疾患をいう。前記骨質低下疾患としては、例えば、(1)原発性骨粗しょう症(例えば、加齢に伴う原発性骨粗しょう症、閉経に伴う原発性骨粗しょう症、卵巣摘出術に伴う原発性骨粗しょう症等)、(2)二次性骨粗しょう症(例えば、グルココルチコイド誘発性骨粗しょう症、甲状腺機能亢進性骨粗しょう症、固定誘発性骨粗しょう症、ヘパリン誘発性骨粗しょう症、免疫抑制誘発性骨粗しょう症、腎不全による骨粗しょう症、炎症性骨粗しょう症、クッシング症候群に伴う骨粗しょう症、リューマチ性骨粗しょう症等)、(3)癌骨転移、高カルシウム血症、ページェット病、骨欠損(歯槽骨欠損、下顎骨欠損、小児期突発性骨欠損等)、骨壊死等のような骨質低下を伴う疾患があげられる。
【0041】
本発明の移植材料は、少なくとも使用時において流動性を有しておればよく、使用前においては粉状ないし固形状であっても良い。したがって、凍結した状態をもって本発明の移植材料とすることができる。また、凍結乾燥した状態をもって本発明の移植材料とすることもできる。使用前において凍結状態又は凍結乾燥状態とすることにより長期の保存が可能となり、また、使用前の取扱いも容易となる。さらには、凍結処理又は凍結乾燥処理により抗原性の低下が期待できるため、自家のPRPではなく同種の他家のPRPを用いた場合の安全性向上される。前記流動性は、例えば、本発明の移植材料を、注射器やカテーテルにて注入可能な程度であることが好ましい。
【0042】
本発明の移植材料は、その他の態様として、細胞外マトリクス(ECM)タンパク質を含んでもよい。前記ECMは、自家であることが好ましいが、同種他家であってよい。また、本発明の移植材料は、ゲル化材料、例えば、トロンビンや塩化カルシウムを含んでもよい。これらを含むことにより、トロンビンがPRP中のフィブリノーゲンに作用し、フィブリンが生ずる。そして、フィブリンの凝集作用により粘性が増加する。前記ゲル化剤の種類は特に限定されず、上記のようにPRP中の成分に作用して粘性を増加させるもの、又はそれ自身により増粘効果を奏するものを適宜選択して用いることができる。また、前記ゲル化材料に加えて、適用後(移植後)に作用して本発明の移植材料の流動性(粘度)を変化させる第2のゲル化材料を併用することもできる。使用時には適度な流動性を有するために移植が容易であり、かつ、適用後にはより粘度が増すことにより適用部位における定着性が向上し、骨形成が効果的となる。前記ゲル化材料としては、その他に、コラーゲンやフィブリン糊等があげられる。さらに、本発明の再生医療骨組成物は、アルギン酸ナトリウム等の増粘多糖類、グリセリン、ワセリン等の増粘剤を含んでもよい。
【0043】
(製造方法)
本発明の移植材料を製造する方法は、特に制限されないが、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、又は、腸骨骨髄、顎骨骨髄、末梢血、脂肪、若しくは、さい帯血等に由来する細胞を準備する工程を含み、さらに、それらを培養して、骨形成能を有する細胞に分化誘導する工程を含むことが好ましい。分化誘導されていない細胞であっても一定の効果を示すことが有り、その場合には、そのまま使用することができ、必要に応じて分化誘導の工程を行う。骨形成能を有する細胞に分化誘導する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を適用でき、未分化MSCの分化誘導方法については、前述のとおりである。
【0044】
(骨質改善剤)
本発明の骨質改善剤は、本発明の移植材料を含み、骨質を改善する用途に局所投与して使用する骨質改善剤である。本発明の骨質改善剤は、本発明の移植材料と同様の用途に使用できるが、とりわけ、前述の骨質低下疾患における骨質改善の用途に用いることが好ましい。前記骨質改善としては、特に制限されないが、骨質が低下した骨の骨密度の改善があげられる。また、局所投与の投与形態も、特に制限されず、例えば、骨髄腔内注入等の脈管外投与が可能である。
【0045】
本発明の骨質改善剤は、エストロゲン、ビタミンK、ビスフォスフォネート等の従来公知の骨質改善剤と併用してもよい。また、本発明の骨質改善剤を製造する方法は、特に制限されず、例えば、前述の本発明の移植材料を製造する方法により、本発明の移植材料を製造する工程を含むことが好ましい。
【0046】
(医薬組成物)
本発明は、その他の態様として、ヒト及び非ヒト動物(好ましくはヒトである。)の骨疾患及び骨質低下疾患の予防・治療に用いる医薬組成物であって、本発明の移植材料又は本発明の骨質改善剤を含む医薬組成物である。前記骨疾患及び骨質低下疾患は特に制限されず、例えば、前述のとおりである。また、投与形態や投与量も、特に制限されず、例えば、本発明の移植材料の投与形態や投与量と同定度である。
【0047】
(予防・治療方法)
本発明は、その他の態様として、ヒト及び非ヒト動物(好ましくはヒトである。)の骨形成又は骨形成促進方法であって、本発明の移植材料を局所投与により移植する工程を備える。この方法により、ヒト又は非ヒト動物の骨部における骨密度増加を促進できる。移植方法は、特に制限されず、前述の本発明の移植材料の投与方法を参照できる。また、本発明は、その他の態様として、ヒト及び非ヒト動物(好ましくはヒトである。)の骨疾患及び骨質低下疾患の予防・治療方法であって、本発明の移植材料又は本発明の骨質改善剤を使用する方法である。前記骨疾患及び骨質低下疾患は特に制限されず、例えば、前述のとおりである。
【0048】
前述の本発明の骨疾患及び骨質低下疾患の予防・治療方法の一実施態様としては、例えば、MSC、骨芽細胞又は軟骨細胞を培養する工程と、培養したMSC、骨芽細胞又は軟骨細胞を局所投与により移植する工程とを備える予防・治療方法があげられ、また、その他の実施態様として、例えば、採取等により取得したES細胞、MSC、骨芽細胞又は軟骨細胞を保存する工程と、保存したMSC、骨芽細胞又は軟骨細胞を局所投与により移植する工程とを備える予防・治療方法があげられる。
【0049】
さらに、本発明は、その他の態様として、骨疾患及び骨質低下疾患の予防・治療、又は骨質改善のためのキットであって、本発明の移植材料を含むキットである。前記キットは、必要に応じて、試薬等を含んでもよい。
【0050】
以下に、本発明を実施例により説明する。
【実施例1】
【0051】
骨粗しょう症モデルラットを使用した実験系をデザインして、本発明の移植材料が、骨質低下した骨の骨密度を改善できることを確認した。
【0052】
(骨粗しょう症モデルラットの作製)
骨粗しょう症モデルラットを、卵巣を摘出することにより確立した。この方法は、文献[J Bone Miner Res 1997:12;1844−1850、Hitoshi Sainoら]に準じて行った。前記骨粗しょう症モデルラットは、DXA(2重エネルギーX線吸収計)というCT機を用いて骨密度を測定し、骨粗しょう症モデルを確認した。
【0053】
(骨系細胞へ分化したMSCの調製)
本発明の移植材料とするため、GFPラットの大腿骨から未分化MSCを採取し、分化誘導して骨系細胞へ分化したMSCを調製した。前記GFPラットは、大阪大学の岡部らが開発したもので、日本SLC社から購入した。このラットの全ての組織には、GFP遺伝子が組み込まれているため、移植した細胞の動向を追うことができる。このラットは、文献[J.Am Soc Nephol 12:2657−2635、2001、Takahito Ito et al.]に記載されている。
【0054】
前記MSCの分化誘導の培養方法は、文献[Boo,J.S., Yamada,Y., Hibino,Y., Okazaki,Y., Okada,K., Hata,K., Yohikawa,T., Sugiura,Y.,and Ueda,M. Tissue−Engineered Bone Using Mesenchymal Stem Cells and a Biodegradable scaffold. J.Craniofac.surg. 13、231−239、2002]、[Yamada、Y., Boo,J.S., Ozawa,R., Nagasaka,T., Okazaki,Y., Hata,K., and Ueda,M. Bone regeneration following injection of mesenchymal stem cells and fibrin glue with a biodegradable scaffold. J.Cranio−maxillofac.surg. 31,27−33,2003]及び[Yamada,Y., Ueda,M., Naiki,T., Takahashi,M., Hata,K., and Nagasaka,T. Autogenous injectable Bone for Renegeration with Mesenchymal Stem Cells(MSCs) and Platelet−Rich Plasma(PRP)−Tissue-engineered bone regeneration−. Tissue Eng. 10(5/6),955−964,2004]等に準じた。すなわち、前記GFPラットの大腿骨の骨髄穿刺により未分化MSCを含む骨髄を採取し、骨髄細胞を、基本培地、低グルコースDMEM、増殖サプリメント(Cambrex社製)で培養し、3つのサプリメント(デキサメタゾン、β−グリセロリン酸ナトリウム、及びL−アスコルビン酸2リン酸)によって、MSCの骨系細胞への分化を誘導した。骨系細胞へ分化したMSCは、p−ニトロフェニルホスファターゼを基質として使用したアルカリホスファターゼ活性を検出することで確認した。MSCは、移植に使用する前にトリプシン処理を施した。
【0055】
(局所投与)
前述のとおりに調製したMSCを、生理食塩水又はPRPとともに、図1に示すとおり、ラット(ヌードラット)の大腿骨に骨髄穿刺針を用いて注入した。移植した細胞数は、5×106個/mlと、1×107個/mlの2群とした。
【0056】
(PRPの調製)
前記PRPは、ラット末梢血から、全血を採取し、5分間、1100rpmの遠心分離の後、イエロープラズマ(血小板及び白血球とともにバフィーコートを含む)を長いカニューレで中性のモノベットに回収し、10分間、2500rpmの遠心分離で血小板を単一ペレットとして調製した。前記PRPは、残存血漿にリサスペンドし、PRPのゲル化に使用した。PRPのゲル化は、前記PRPに、トロンビン/塩化カルシウム溶液を添加し、気泡を含ませながら混合することで行った。前記トロンビン/塩化カルシウム溶液は、10mLの10%塩化カルシウム溶液に、10,000Uのウシトロンビンを溶解して調製した。
【0057】
(評価)
前記局所投与群の評価は、大腿骨のDXA法による骨密度測定及びμCTにより行った。なお、骨粗しょう症のモデル成立のための骨密度測定は、卵巣摘出後、2週、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月程度とした。骨粗しょう症モデルラットに所定の方法で細胞を移植し、移植直後、移植後1ヶ月、2ヶ月、及び3ヶ月後に同様にして骨密度を測定し、骨密度に基づいて細胞移植の状態を確認した。
【0058】
(結果)
図2に、移植前、移植時、移植後1ヶ月の骨密度測定結果を示す。また、図3に、骨密度の改善が得られた状態で屠殺し、μCTを撮影した結果を示す。前記μCTでは、当該局所である大腿骨を撮影した。さらに、図4に、大腿骨への局所投与について、注入移植後に経時的に骨密度を測定し、非注入のコントロールとの骨密度比をグラフ化した結果の一例を示す。
【0059】
骨粗しょう症モデルラットについては、図2に示すとおり、コントロール群では骨密度に変化が見られなかったのに対し、卵巣摘出群では骨密度の低下が観察されたことから、骨粗しょう症モデルが成立したことが確認された。局所投与群は、図2に示すとおり、細胞移植時には骨密度値の低下傾向がみられたが、細胞移植の1ヶ月後には、骨密度の上昇が確認され、図3に示すとおり、μCTにおいても骨密度の改善が確認された。なお、図示してないが、移植した細胞数は、1×107個の方が、5×106個よりも骨密度改善の効果が高かった。なお、図4に示すとおり、細胞移植による骨密度の増加は、コントロールと比較して約10%を示した。薬物療法による骨密度の増加が、通常約4%程度であることを考慮すると、本発明の移植材料による骨質改善効果が優れていることが確認された。
【0060】
以上のことから、本発明の移植材料は、骨密度を改善する骨質改善剤として機能しうることが確認された。
【0061】
なお、上記記述内において引用された文献は、引用によってその内容のすべてが編入される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したとおり、本発明の移植材料は、例えば、整形外科、美容整形、歯科、口腔外科、及び、耳鼻咽喉科等における骨の再生医療分野、及び、骨質低下疾患における骨質改善の分野で有用であり、低浸襲による幹細胞を用いた再生医学的治療法による骨組織の再生を含むアンチエイジング治療の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、実施例における実験系を説明する写真である。
【図2】図2は、実施例における骨密度測定の結果の一例を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例におけるμCT撮影の一例を示す写真である。
【図4】図4は、実施例における骨密度比変化の一例を示すグラフである。
【図5】図5は、自己組織化能を有する両親媒性ペプチド間の相互作用を説明する模式図である。
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号1〜18 自己組織化能を有する両親媒性ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨質を改善する用途に局所投与して使用する移植材料であって、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、骨芽細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、及び、骨形成能を有する細胞からなる群から選択される細胞を含むことを特徴とする移植材料。
【請求項2】
前記骨質の改善が、骨密度の改善である請求項1記載の移植材料。
【請求項3】
さらに、スキャホールドを含み、前記スキャホールドが、人工骨、生体骨、生体分解吸収性高分子材料、及び、自己組織化能を有する両親媒性ペプチドからなる群から選択されるスキャホールドである請求項1又は2記載の移植材料。
【請求項4】
前記両親媒性ペプチドが、ペプチドハイドロゲルを形成している請求項3記載の移植材料。
【請求項5】
さらに、多血小板血漿(PRP)又は成長因子を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の移植材料。
【請求項6】
骨疾患の予防・治療に使用する請求項1から5のいずれか一項に記載の移植材料。
【請求項7】
前記骨疾患が、骨欠損、骨ベージェット病、パーキンソン病、変形性関節症、腰背痛、慢性関節リウマチ、骨粗しょう症、閉経性骨粗しょう症、骨折、歯周疾患、骨減少症及び軟骨化症からなる群から選択される骨疾患である請求項6記載の移植材料。
【請求項8】
前記局所投与が、脈管外投与又は骨髄内注入である請求項1から7のいずれか一項に記載の移植材料。
【請求項9】
使用時において流動性を有する請求項1から8のいずれか一項に記載の移植材料。
【請求項10】
骨質改善剤であって、請求項1から9のいずれか一項に記載の移植材料を含み、骨質を改善する用途に局所投与して使用する骨質改善剤。
【請求項11】
前記骨質の改善が、骨密度の改善である請求項10に記載の骨質改善剤。
【請求項12】
骨欠損、骨ベージェット病、パーキンソン病、変形性関節症、腰背痛、慢性関節リウマチ、骨粗しょう症、閉経性骨粗しょう症、骨折、歯周疾患、骨減少症及び軟骨化症からなる群から選択される骨疾患の予防・治療に使用する請求項10又は11記載の骨質改善剤。
【請求項13】
前記局所投与が、脈管外投与又は骨髄内注入である請求項10から12のいずれか一項に記載の骨質改善剤。
【請求項14】
請求項1から9のいずれか一項に記載の移植材料の製造方法であって、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、又は、腸骨骨髄、顎骨骨髄、末梢血、脂肪、若しくは、さい帯血に由来する細胞を準備する工程を含む移植材料の製造方法。
【請求項15】
請求項10から13のいずれか一項に記載の骨質改善剤の製造方法であって、請求項14記載の製造方法により請求項1から9のいずれか一項に記載の移植材料を製造する工程を含む骨質改善剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−346420(P2006−346420A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298161(P2005−298161)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】