説明

稀土類磁石粉末の製造方法及び稀土類ボンド磁石

【課題】優れた磁気特性を有する稀土類磁石粉末の製造方法及び稀土類ボンド磁石を提供する。
【解決手段】稀土類金属、遷移金属の元素を高周波溶解し、溶解後、徐冷してインゴットにし、平均粒径2μm〜90μmに粉砕して合金粉末をつくる。合金粉末に対し、出力2.5kW、周波数28GHzの第1のマイクロ波を2〜5分間照射して、合金粉末自身の自己発熱、急速加熱及び選択的加熱にて、短時間に合金粉末を非結晶の組織にする。更に、合金粉末を、熱処理を施して微細結晶性を制御して磁気特性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稀土類磁石粉末の製造方法及び稀土類ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた磁気特性を有する磁石として希土類磁石が注目されている。希土類元素と遷移金属元素からなる金属間化合物を有する希土類磁石は、結晶磁気異方性が大きく、また飽和磁化も大きいため永久磁石用材料として特に、SmCo、SmCo17、NdFe14Bなどの金属間化合物が、高エネルギー積永久磁石用材料として幅広く実用化されている。最近、新たに希土類−遷移金属−窒素系の磁性体が発見され、永久磁石材料として注目を集めている。
【0003】
種々の希土類磁石の磁石材料の内、SmFe合金等を窒化した磁石(以下、窒化化合物磁石という)は、キューリー温度が高く、優れた磁気異方性を有する磁石材料として注目を集め、樹脂(エポキシやナイロン等)とを混合したコンパウンドを原料として、形状自由度が高く安価に作成できる圧縮成形あるいは射出成形等により製造されている。
【0004】
希土類元素を主成分とする磁石粉末の製造方法は、一般的な合金溶解法の一つである粉末法においては、合金溶解、粉砕して窒化処理などを行い希土類磁石の粉末を作るという方法である。
【0005】
また、メルトスパン法においては、合金溶解した後、溶湯し水冷した銅板等の上に溶射して急冷し、鱗片状の合金を得て粉砕、必要に応じ窒化処理などの工程を行い希土類磁石の粉末を作るというものである。
【0006】
以上の稀土類磁石(合金)粉末を使用して、樹脂(エポキシやナイロン等)と混合したコンパウンド化、圧縮成形あるいは射出成型、表面処理、着磁等といった各工程を有するボンド磁石がある。
【0007】
特に、メルトスパン法による等方性稀土類粉末のNdFe14B金属間化合物の場合、高価なCo(コバルト)を含まず、資源的にもSm(サマリウム)より豊富なNd(ネオジウム)を使用しているため、安価な稀土類磁石材料であることから、広く使われ代表的な等方性ボンド磁石の材料となっている(特許文献1、2)。
【0008】
また、近年精力的に研究されているSmFe合金等に窒素を含有させ窒化した磁石(以下、窒化化合物磁石という)は、キューリー温度が高いため、安定性に優れ、NdFe14B系磁石に比べ耐食性が良好である磁石材料として注目を集めている。NdFe14B金属間化合物の等方性稀土類粉末と同等の工程を要するが、窒化化合物磁石にするために窒化工程を必要とする(特許文献3)。
【特許文献1】特開昭57−210934号 公報
【特許文献2】特開昭59−064739号 公報
【特許文献3】特開平07−283059号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1,2に記載された方法のように、溶解状態から急冷して固化するメルトスパン法では、磁気特性が急冷特性に敏感であるため、高特性が得るようロール周速度と合金溶湯の吐出量で調整しながら急冷することが得られるが、稀土類粉末のNd
14B金属間化合物の場合等は、平均粒径は100μm程度の大きいものとなり粉砕工程を要し、酸化させる要因にもなっていた。また、粗大な結晶粒が析出しやすく、磁気特性を高めるために超微細結晶粒の集合組織を得るために適当な条件下、長時間の熱処理を要していた。
【0010】
さらに、合金溶湯中に酸化してしまうと磁気特性が大幅に低下するため雰囲気を不活性ガス中で行わなければならないが、メルトスパン法の構造上、酸素を完全に取り去ることは困難であり、大掛かりな設備を要し費用が嵩むという問題があった。
【0011】
また、特許文献2に記載された、窒化化合物磁石のSmFe17Nx系磁石では、溶融あるいは焼鈍処理等の高温で長時間の工程を得る母合金表面からSm(サマリウム)が多量に蒸発しSm(サマリウム)が不足して磁気特性の低下が見られるため、α−Fe相の割合を所定範囲に制御することが提案されている。
【0012】
しかしながら、メルトスパン法を用いるとSm(サマリウム)の蒸発を防止あるいは一定蒸発量を制御することは不可能であり、その都度、熱処理条件を変更、そして最適条件を見出すことは、時間および費用がかかり生産効率を悪化させるばかりか、量産的ではなかった。
【0013】
また、前述した稀土類粉末のNdFe14B金属間化合物と同様に、平均粒径、結晶粒組織の粗大化あるいは酸化の問題は、メルトスパン法を用いると避けられない課題となっていた。
【0014】
このように、上記した各方法には、種々の課題があり、また、非結晶の組織より構成された稀土類元素−遷移元素系磁石あるいは稀土類元素−遷移金属−窒素系磁石の磁気特性は、未だに理論値よりかなり低い値に留まっているのが現状である。
【0015】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、優れた磁気特性を有する稀土類磁石粉末の製造方法及び稀土類ボンド磁石を提供することにある。
さらに、本発明のもう一つの目的は、窒化工程の処理時間を短縮化することができる稀土類磁石粉末の製造方法及び稀土類ボンド磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の発明は、稀土類磁石粉末の製造方法であって、稀土類元素−遷移金属系の合金粉末に対し、第1のマイクロ波を照射して、前記合金粉末を非結晶の組織とした後、更に熱処理をして前記合金粉末の結晶性を制御する。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、前記稀土類元素−遷移金属系の合金粉末の平均粒径は、2μm〜90μmである。
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、
前記稀土類元素−遷移金属系の合金粉末に対し、第1のマイクロ波を照射して、前記合金粉末を非結晶の組織とした後、熱処理を施して前記合金粉末を結晶性を制御する工程と、更に窒素原子を含む雰囲気下で結晶格子間に窒素原子を侵入させる窒化を行う工程を行う。
【0018】
請求項4の発明は、請求項3に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、前記窒化を行う工程は、窒素原子を含む雰囲気下で第2のマイクロ波を照射して、結晶格子間に窒素原子を侵入させる。
【0019】
請求項5の発明は、請求項3又は4に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、前記
窒化を行う工程は、窒素を含む雰囲気ガスの圧力を0.1MPa〜5MPaにする。
請求項6の発明は、請求項1〜3のいずれか1に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、前記第1のマイクロ波の周波数は、1GHz〜30GHzである。
【0020】
請求項7の発明は、請求項4又は5のいずれか1に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、前記第2のマイクロ波の周波数は、1GHz〜30GHzである。
請求項8の発明は、請求項3〜7のいずれか1に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、前記窒化を行う工程後に、前記稀土類磁石粉末を不活性ガス中において加熱して均質化処理工程を行うことを特徴とする。
【0021】
請求項9の発明は、稀土類ボンド磁石であって、請求項1〜6のいずれか1に記載の稀土類磁石粉末に、樹脂バインダー又は金属バインダーを混合して成形した。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、合金粉末に対し、例えば、2.5kW、28GHzの第1のマイクロ波を2〜5分間照射することによって、合金粉末自身の自己発熱、急速加熱及び選択的加熱が行われ、合金粉末を非結晶の組織にするのにかかる処理時間を短縮化するとともに均一に処理することができる。つまり、稀土類元素−遷移金属系の合金粉末は、第1のマイクロ波にて、短時間で非結晶になることから、稀土類元素(例えばSm(サマリウム))の蒸発量を抑え蒸発によるSm(サマリウム)不足による磁気特性の低下を抑え安定した組成にすることができる。
【0023】
更に、磁気特性を向上させる熱処理を施して微細結晶性を制御するにも、従来よりも短時間で処理され、粒度分布が均一で酸化の少ない磁気特性の優れた稀土類磁石粉末を得ることができる。
【0024】
請求項2の発明によれば、合金粉末の粒径が2μm以上、90μm以下であるので、合金粉末の酸化、及び過窒化を抑制することができ、ボンド磁石の密度向上を可能にすることができる。
【0025】
請求項3の発明によれば、窒化することによって結晶磁気異方性の非常に大きな稀土類磁石の合金粉末を得ることができる。
請求項4の発明によれば、窒化するために、第2のマイクロ波を照射することによって、窒化にかかる処理時間を短縮することができ、粗大化された平均粒径と違い、最適平均粒径と効果的なマイクロ波照射により、内部まで均一に窒化して磁気特性の高い稀土類磁石の合金粉末を得ることができる。
【0026】
請求項5の発明によれば、窒化工程での雰囲気を0.1MPa以上、5MPa以下にするので、合金粉末を均一に窒化できるとともに、過剰な圧力による合金の過窒化によるアモルファス化を防止することができる。
【0027】
請求項6の発明によれば、非結晶化で照射される第1のマイクロ波の周波数は、1GHz以上、30GHz以下であるので、均一に非結晶にすることができる。
請求項7の発明によれば、窒化工程で照射される第2のマイクロ波の周波数は、1GHz以上、30GHz以下であるので、局所的に窒化されずに固相拡散が優先的に進行してしまうのを抑制するとともに、内部までに均一に窒化することができる。
【0028】
請求項8の発明によれば、窒化処理した稀土類磁石粉末に対し、加熱する均質化処理を行うことで、窒素原子を結晶格子間の安定な場所へ移動させることができる。その結果、磁気特性が向上し、熱安定性に優れた磁石を製造することができる。
【0029】
請求項9の発明によれば、上記方法で製造して稀土類粉末と、樹脂バインダー又は金属バインダーとを用いて稀土類ボンド磁石を作製するので、磁気特性の優れたボンド磁石を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の稀土類元素−遷移金属系(以下、R−TM系という)の稀土類磁石粉末及び稀土類ボンド磁石の製造方法について以下に工程毎に説明する。尚、Rは稀土類元素のうち少なくとも1種若しくは2種以上の元素であり、TMは遷移元素のうち少なくとも1種若しくは2種以上の元素である。
(1)稀土類系磁石粉末
本発明のR−TM系合金を構成する稀土類元素は、Y(イットリウム)と、ランタノイド元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLu)等を好適に用いることができる。特に、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジウム)またはSm(サマリウム)を用いると、著しく磁気特性を高めることができる。また、2種以上の稀土類元素を組合せることにより、残留磁束密度と保持力を向上させることができる。
【0031】
具体的には、SmCo、SmCo17といったSm−Co系磁石粉末や、NdFe14B等のNd−Fe系磁石粉末を用いることができる。又は、SmおよびNdを主とする稀土類元素と、Fe(鉄)を主とする遷移金属と、N(窒素)を主とする格子間元素とを基本成分とするSm−Fe−N、Nd−Fe−N系磁石粉末を用いることができる。又、上記した稀土類磁石粉末を2種以上混合してもよい。
【0032】
以上のR−TM系又はR−TM−N系の稀土類磁石粉末は、一般的な溶解鋳造法の場合、稀土類金属及び遷移金属等を所定の配合比で調合して、不活性ガス雰囲気中で高周波溶解する。さらに、得られた合金インゴットを熱処理し、ジョークラッシャー、ジェットミル又はアトライター等の粉砕機で所定の粒度に粉砕して合金(磁石)粉末を製造する。
【0033】
この溶解時に、不可避的不純物として、C(炭素)、B(ボロン)等が含まれても特に問題はない。
合金粉末に粒径としては、平均粒径2μm〜90μmが好ましい。2μm未満では、酸化されやすい他、ボンド磁石作成時に凝集、或いは、スプリングバックによる密度の向上が得られず、磁気特性が低いものとなる。また、平均粒径が90μmを超える場合には、粒子内部まで非結晶化あるいは窒化されず、不均一となり磁気特性の低下を引き起こす。(2)非晶質化
真空中あるいは不活性ガス中に上記の平均粒径2μm〜90μmの合金粉末をおいて、その平均粒径2μm〜90μmの合金粉末に出力2.5kW、周波数25GHzの第1のマイクロ波を2〜5分間照射する。この時、温度上昇の急上昇し始める箇所にて照射を遮断することにより均一な非晶質を得ることができる。
【0034】
第1のマイクロ波照射によって、合金粉末を選択的且つ急速に自己発熱させることができ、急速加熱と合金粉末周りを温度制御可能な構成にできることから、急速冷却され高出力電磁波の相乗効果を受けて粒子形状を維持したまま合金粉末は非晶質化となる。
【0035】
そのため、従来のような合金インゴットを高温まで上げる必要がないため、溶融時に揮発しやすい特に稀土類元素の組成制御が困難になるという問題がない。なお、合金粉末に照射する第1のマイクロ波の周波数は、本実施例では、25GHzであるが、1GHz以上30GHz以下であればよい。
【0036】
また、後述するがこの後の均質化処理工程において、熱処理温度に左右されることなく結晶化することはなく、非晶質相から硬質磁性相NdFe14B相を微細析出させることが容易である。
【0037】
従来のメルトスパン法等では、粗大な結晶粒が析出しやすく、磁気特性を高めるために超微細結晶粒の集合組織を得る熱処理が非常に困難を要していた。
これに対して、第1のマイクロ波による非晶質過程は、温度制御、時間短縮、組成および結晶構造に優れた性能を磁石粉末に与え、優れた磁気特性を有する稀土類磁石粉末を得ることができる。
(3)窒化処理
上記の方法によりR−TM系合金粉末が得られると、窒化処理が必要なR−TM系合金粉末に対してのみ行う。具体的には、Sm−Fe、Nd−Fe系において有効な効果を得ることができ結晶磁気異方性を非常に大きくすることが可能である。
【0038】
この窒化処理では、R−TM系合金粉末に対し、窒素原子を含む雰囲気下で第2のマイクロ波の照射が行われる。このとき、第2のマイクロ波照射を常圧で行うと、合金粉末の粒径が比較的大きい場合等には、合金粉末内にて窒化部分と未窒化部分の差が生じ、磁気特性のバラツキとなる原因になる。そこで、未窒化部分を無くすために加圧雰囲気下にすることで、ガスによる圧力と第2のマイクロ波照射との相乗効果によって粒径の大きい合金粉末でも均一に窒化する。
【0039】
加圧ガスとしては、大気、窒素、若しくは大気−窒素、窒素−不活性ガス(窒素を除く)、大気−不活性ガスといった窒素原子を含む混合ガスを用いることができる。ガスにより発生する圧力としては、第2のマイクロ波の照射条件によるが、0.1Mpa〜5Mpaの圧力が好ましい。
【0040】
0.1Mpa未満の場合、窒素原子が合金粒子の内部まで侵入せず、表面のみにとどまる。5Mpaを超えた場合、過窒化によるアモルファス化を引き起こす。
窒化処理では、R−TM系合金粉末を250℃〜600℃の温度範囲にて加熱しながら、第2のマイクロ波を照射することにより最適に窒化を行うことができる。加熱温度が250℃未満の場合、窒化の進行速度が小さくなる。加熱温度が600℃を超える場合、合金が稀土類元素の窒化物と難磁性相に分解するので好ましくない。
【0041】
合金粉末に照射する第2のマイクロ波の周波数は、1GHz以上30GHz以下が好ましい。周波数が1GHz未満の場合、放電現象が起こりやすくなり、窒化されずに固相拡散が優先的に進行してしまう。30GHzを超える場合、波長が短いため、粉末粒子内部へのマイクロ波の浸透深さが浅くなり、内部まで窒化されない現象が起きる。第2のマイクロ波の出力は、安定な電場を得るために10kW以下が好ましい。10kWを超える場合、高価な装置必要となりコストが過大となる。
【0042】
以上の最適化された条件で窒化処理を行うことにより、従来の外部加熱炉による窒化処理では数時間以上要していたのに対し、第2のマイクロ波照射による窒化処理では、合金粒子を1時間以内で窒化することが可能である。
【0043】
また、第2のマイクロ波の照射により稀土類磁石粉末を選択的且つ急速に自己発熱させることによって、粒子形状を維持したまま、金属格子の間に窒素を侵入させた磁性材料を得ることができる。
【0044】
さらに、第2のマイクロ波照射下では、窒化反応が選択的に進行するので、比較的酸素の多い環境下においても酸化は見られない。このため、特に比表面積が大きく、酸化の影
響を受けやすい微粉において特に高価を発揮できる。
【0045】
尚、第2のマイクロ波による窒化過程は、反応生成物の安定化及び反応物の活性等が上げられているが、未だ解明されていない点が多く今後の課題として検討中である。
(4)均質化処理
非晶質化処理あるいは窒化処理を終了した合金粉末に、均質化処理を行う。即ち、非晶質化処理した合金粉末の場合、アモルファス相から硬質磁性相NdFe14B相等を微細に析出させ高いエネルギー積と高い保持力が得られる。
【0046】
また、窒化処理後の合金粉末は、表面及び内部において窒素侵入量が充分な量に到達するものの、窒素の挿入サイドがまだ不安定な状態になっている。このため、均質化処理を行って、窒素を結晶格子の安定位置に配位せしめることが必要である。
【0047】
均質化処理の雰囲気は、非晶質化処理した粉末合金の場合、真空中あるいは不活性ガス中において500℃〜1100℃で0.5hr〜50.0hr(30分〜50時間)均一処理をすることにより、酸化しやすい稀土類は酸化されることなく、特にRFe14B化合物を主相とする場合、0.01μm〜1μm程度のRFe14B微細粒子をアモルファス相が取り囲んだ極めて微細な組織となり高いエネルギー積と保持力向上が得られる。特に第1及び第2のマイクロ波を照射して作成されたアモルファス相は熱処理しても結晶化することはなく、アモルファス相は維持される。
【0048】
また、窒化処理した合金粉末は、窒素等の非活性ガス中において、200℃〜600℃で0.5hr〜5.0hr(30分〜5時間)の熱処理を行うと磁気特性の保持力をさらに高めることができる。ここで、熱処理炉を真空に引いてしまうと窒素が抜けてしまうため、外部からの影響を受けないよう不活性ガス中で熱処理を行い、窒素原子を結晶格子間の安定な場所へ移動させることができる。
【0049】
この均質化処理を前述した非晶質化又は窒化処理と同じマイクロ波装置(第3のマイクロ波)で実施してもよいが、外部加熱炉で行ってもよい。以上のように、非晶質化と窒化処理された合金粉末にマイクロ波照射による均質化処理を行うことにより、磁気特性が優れ安定化した非晶質と窒素侵入型の稀土類磁石粉末を得ることができる。
(5)稀土類系ボンド磁石
本発明のボンド磁石を作製する際には、上記のようにして得られた非晶質または窒化の稀土類磁石粉末を、それぞれに対しあるいは2種以上を樹脂バインダーと混合しコンパウンド化する。
【0050】
このとき用いられる樹脂バインダーは、特に限定されないが、熱可塑性樹脂を用いる場合、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネイト系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、芳香族ポリエステル系又はエラストマー系等のエンジニアプラスチック樹脂といった成形性のよい樹脂を用いることができる。
【0051】
高い耐熱性を要する場合には、PPS、PEEK、LCP又はフッ素系樹脂を用いることができる。これらの熱可塑性樹脂と稀土類磁石粉末とを溶融混合し、ペレット化することにより、射出成形あるいは押出成形する。
【0052】
樹脂バインダーとして熱硬化性樹脂を用いる場合は、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂又はメラニン系樹脂等を用いることができる。このとき、特に熱硬化性樹脂及び添加剤等を均一に混合するため、有機溶剤等で混合脱気し、造粒粉を作成することがこのましい。
【0053】
また、熱硬化性樹脂を用いる場合、圧縮成形により得られた成形体に対しマイクロ波を照射すると、稀土類磁石粉末が急速且つ選択的に自己発熱することにより、目的温度まで数分で昇温することができる。磁石粉末による発熱は、磁石周囲の熱硬化性樹脂に伝わり、瞬時に樹脂を硬化させることができる。
【0054】
また、樹脂バインダーの代わりに金属バインダーと混合した後、圧縮成形することにより耐熱性の優れた稀土類ボンド磁石を得ることができる。この場合、金属バインダーは、マイクロ波により選択加熱される低融点金属や低融点合金を用いることができ、例えばMg、Al、Cu、Zn、Ga、Pb、Sn、Bi等の金属や、これらの金属を用いた合金が好ましい。また、真空蒸着法、化学蒸着法、物理蒸着法、電気メッキ法或いは溶融法等により、稀土類磁石粉末をほぼ均一に覆うことにより、高密度の圧縮成形品を得ることが可能となる。このボンド磁石をマイクロ波照射して作製すると、結晶粒の粗大化を抑制し、酸化させずに金属結合することができる。
【0055】
添加剤は、特に限定されないが、界面活性剤、カップリング剤、滑剤、離型剤、難燃剤、安定剤、無機充填剤、顔料等を用いることができる。この添加剤は、金型へ充填するための流動性、磁場をかけて磁化方向を揃えるための滑り性、金型から取り出す際の離型性、成形体の撥水性、密度向上あるいは強度向上を示すものであればよく、複数種類の添加剤を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
上記のようにして得られた稀土類磁石粉末の場合、配向磁場を印加することなく成形を行うため、成形サイクルが速くなり、生産性が高い安価な稀土類ボンド磁石を製造することが可能である。
【0057】
また、目的使用により稀土類ボンド磁石の表面に化学、電気鍍金、化学処理、塗装、溶射、コーティング等の表面処理を行うことは言うまでもない。
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0058】
(1)上記実施形態では、非晶質化された稀土類磁石粉末を作製するために、R−TM系の合金粉末に対し、真空中あるいは不活性ガス中で第1のマイクロ波を照射して、粒子形状を維持したまま非晶質化した。従って、合金粉末自身を選択的且つ急速に自己発熱させることができるため、非晶質化にかかる処理時間を短縮化することができ、さらに表面だけでなく内部まで均一に非晶質化して、磁気特性の高い稀土類磁石粉末を得ることができる。
【0059】
(2)上記実施形態では、窒化された稀土類磁石粉末を作製するために、R−TM系の合金粉末に対し、窒素原子を含む雰囲気下で第2のマイクロ波を照射して、結晶格子間に窒素原子を侵入させた。従って、合金粉末自身を選択的且つ急速に自己発熱させることができるため、窒化にかかる処理時間を短縮化することができ、さらに表面だけでなく内部まで均一に窒化して、磁気特性の高い稀土類磁石粉末を得ることができる。
【0060】
(3)上記実施形態では、非晶質化した稀土類磁石粉末を真空中あるいは不活性ガス中において加熱する均質化処理工程をさらに行った。このため、アモルファス相は結晶化することなくアモルファス相から硬質磁性相NdFe14B相等を微細に析出させることができる。
【0061】
(4)上記実施形態では、窒化した稀土類磁石を不活性ガス中において加熱する均質化処理工程をさらに行った。このため、不安定な状態の窒素原子を結晶格子間の安定な場所へ移動させることができる。
【0062】
(5)上記実施形態では、非晶質化および窒化工程で合金粉末に照射する第1及び第2のマイクロ波を、1GHz以上30GHz以下にした。このため、低周波で発生しやすい放電現象を防止するとともに、マイクロ波の波長を過剰に短くすることなく適度な波長にすることにより、マイクロ波を合金粉末内部にまで伝播させ、内部も均一に非晶質化および窒化することができる。
【0063】
(6)上記実施形態では、平均粒径2μm〜90μmの合金粉末を非晶質化および窒化した。このため、合金粉末の酸化、及び過窒化を抑制するとともに、合金粉末を均一に非晶質化および窒化することができる。
【0064】
(7)上記実施形態では、窒化工程で用いられる加圧ガスの圧力を0.1Mpa〜5Mpaにしたため、ガスによる加圧と第2のマイクロ波照射との相乗効果で合金粉末を均一に窒化できるとともに、過剰な圧力による過窒化を防止することができる。
【0065】
(8)上記実施形態では、第1のマイクロ波照射により非晶質化および第2のマイクロ波照射により窒化した稀土類磁石粉末に、樹脂バインダー又は金属バインダーを混合し、ボンド磁石を成形したので、磁気特性の優れたボンド磁石を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
稀土類元素−遷移金属系の合金粉末に対し、第1のマイクロ波を照射して、前記合金粉末を非結晶の組織とした後、更に熱処理をして前記合金粉末の結晶性を制御することを特徴とする稀土類磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、
前記稀土類元素−遷移金属系の合金粉末の平均粒径は、2μm〜90μmであることを特徴とする稀土類磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、
前記稀土類元素−遷移金属系の合金粉末に対し、第1のマイクロ波を照射して、前記合金粉末を非結晶の組織とした後、熱処理を施して前記合金粉末を結晶性を制御する工程と、更に窒素原子を含む雰囲気下で結晶格子間に窒素原子を侵入させる窒化を行う工程を行うことを特徴とする稀土類磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、
前記窒化を行う工程は、窒素原子を含む雰囲気下で第2のマイクロ波を照射して、結晶格子間に窒素原子を侵入させることを特徴とする稀土類磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、
前記窒化を行う工程は、窒素を含む雰囲気ガスの圧力を0.1MPa〜5MPaにすることを特徴とする稀土類磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、
前記第1のマイクロ波の周波数は、1GHz〜30GHzであることを特徴とする稀土類磁石粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項4又は5のいずれか1に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、
前記第2のマイクロ波の周波数は、1GHz〜30GHzであることを特徴とする稀土類磁石粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1に記載の稀土類磁石粉末の製造方法において、
前記窒化を行う工程後に、前記稀土類磁石粉末を不活性ガス中において加熱して均質化処理工程を行うことを特徴とする稀土類磁石粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1に記載の稀土類磁石粉末に、樹脂バインダー又は金属バインダーを混合し、成形したことを特徴とする稀土類ボンド磁石。

【公開番号】特開2009−111176(P2009−111176A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282206(P2007−282206)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】