説明

種子植物の品質改良方法

【課題】従来困難であった、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えたGCAハイブリッド種の作出方法ならびにGCAハイブリッド種を提供する。また、従来困難であった、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えたコーヒー飲料などの食品を提供する。
【解決手段】ユージノイド種とカネフォラ種を交配してGCハイブリッド種を生産する工程、前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産する工程、および、前記4倍体GCハイブリッド種とアラビカ種を交配してGCAハイブリッド種を生産する工程、
を含むことを特徴とするGCAハイブリッド種の作出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子植物の品質改良方法、より詳細には、低カフェイン含量でかつ高品質な味覚を有するGCAハイブリッド種およびその作出方法に関する。また、本発明は、上記GCAハイブリッド種を用いた低カフェイン含量でかつ高品質な味覚を有するコーヒー飲料などの食品類に関する。
【背景技術】
【0002】
茶、コーヒー、ココア、ガラナ、マテ、その他60種類近くの天然植物にカフェインが含まれているといわれており、たとえば、茶やコーヒー、ココアはその抽出物を飲料として広く用いられている。
【0003】
しかし、カフェインは中枢神経興奮作用、強心作用、利尿作用等の生理活性を有しており、頭痛、感冒等の医薬品に汎用されている。ところが、摂取量や個人差によってはカフェインのもつ強い生理活性作用により、排尿、下痢、不眠症、不安感、胸焼け、心悸亢進、悪心、いらいら等が起こり、カフェイン過敏症の人々にとっては飲食物中のカフェイン含有量が重大な問題となる。このような理由から、カフェインが含有していないものが望まれている。
【0004】
従来より行われている植物性物質からのカフェイン除去の代表的な方法には、塩素系溶媒により抽出除去する方法(たとえば、特許文献1〜2参照)、超臨界二酸化炭素により抽出除去する方法(たとえば、特許文献3〜4参照)、活性炭等により吸着除去する方法(たとえば、特許文献5参照)、酸水溶液により抽出除去する方法(たとえば、特許文献6参照)などがある。
【0005】
しかしながら、これらの方法のうち塩素系溶媒を用いる方法は、含塩素溶媒を使用する点で安全上および残留性の問題がある上、環境上も好ましくなく、超臨界二酸化炭素により抽出除去する方法は、大規模な設備を要すため、イニシアルコストが高く、かつ生産性が低いという問題がある。活性炭等により吸着除去する方法は、除去すべきカフェインとともにポリフェノール類も吸着され、ポリフェノール類の損失が大きいという欠点がある。また、酸水溶液により抽出除去する方法は、酢酸エチル等の有機溶媒を必要とする上、ポリフェノール類の回収率が低いという問題がある。
【0006】
また一方で、より根本的に汚染物質を発生させない化学プロセスが求められており、化学物質の製造の際に、原料から副生成物に至るまで汚染原因となる危険化学物質を使用しない、発生させないことで環境汚染を未然に防止しようとする「グリーンケミストリー」という考えが急速に広まってきており、化学物質を得るプロセスにおいて、微生物の働きを利用することも積極的に行われようとしている。
【0007】
事実、カフェインを分解する微生物としては、シュードモナス属細菌、アスペルギルス属およびペニシリウム属等の真菌類が知られており、真菌類の中にはカフェインを唯一の窒素源として生育可能な真菌が存在することも報告されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、現在用いられている方法では、カフェインの分解能力は必ずしも十分でないことから、被処理物のカフェイン含量を低く押さえる必要があり、カフェイン耐性能の低い微生物は、その働きが阻害されるという問題もある。
【0009】
またシュードモナス属細菌においては、Pseudomonas putidaのカフェイン資化能力を利用して脱メチル化物のテオブロミンへ変換させる方法(たとえば、特許文献7参照)がある。
【0010】
しかし、この方法では、微生物変換作用であるため、培養中に微生物細胞外へ多量のテオブロミンが放出される。テオブロミンはカフェインより興奮作用等々の生理作用は弱いが、構造が変化するのみでいわゆるプリンアルカロイドの除去はできない。
【0011】
また、その他微生物を用いた実用的なカフェインの分解方法としては、コーヒー抽出残滓、茶抽出残滓等のカフェイン含有物を早期に土壌代替物、土壌改良資材、有機質肥料等の有機質資材へ変換させる方法(たとえば、特許文献8参照)がある。しかしながら、上記方法においてはカフェインの分解能力が低く、含有させるカフェインの濃度は、0.2重量%を超えることは不可能であり、工業的規模で行うには問題点があった。
【0012】
さらに、上記カフェイン除去方法では、カフェインの他の成分も除去されてしまい、コーヒー飲料などにおいて必要な味覚や風味を損ねてしまうという大きな問題もあった。
【0013】
上述のように、コーヒー飲料などにおいて必要な味覚や風味を兼ね備え、かつカフェインを十分に低減した品種や作出方法、さらにはカフェイン除去方法は今まで得られていない。
【0014】
【特許文献1】特公平2−22755号公報
【特許文献2】特公平2−12474号公報
【特許文献3】特開昭48−4692号公報
【特許文献4】特開平1−289448号公報
【特許文献5】特公平1−45345号公報
【特許文献6】特願平5−344744号公報
【特許文献7】特開平5−95781号
【特許文献8】特開2001−46057号
【非特許文献1】(Hakil, M., et al, Degradation and product analysis of caffeine and ralated dimethylxanthines by filamentous fungi. Enzyme and Microbial Technology、22(5)335−359、1998)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の目的は、従来困難であった、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えたGCAハイブリッド種の作出方法を提供することである。
【0016】
また、本発明の目的は、従来困難であった、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えたGCAハイブリッド種を提供することである。
【0017】
さらに、本発明の目的は、上記作出方法により得られたGCAハイブリッド種を用いることにより、従来困難であった、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えたコーヒー飲料などの食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明のGCAハイブリッド種の作出方法は、
ユージノイド種とカネフォラ種を交配してGCハイブリッド種を生産する工程、
前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産する工程、および、
前記4倍体GCハイブリッド種とアラビカ種を交配してGCAハイブリッド種を生産する工程、
を含むことを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、ユージノイド種の種子のカフェイン含有量が0.21〜0.76(乾燥重量%)である上記GCAハイブリッド種の作出方法に関する。
【0021】
また、本発明は、コルヒチンで染色体数を倍化する上記GCAハイブリッド種の作出方法に関する。
【0022】
さらに、本発明は、前記GCAハイブリッド種に、さらにアラビカ種または前記GCAハイブリッド種を1回以上交配してGCAハイブリッド種を生産する工程を含む上記GCAハイブリッド種の作出方法に関する。
【0023】
さらに、本発明は、得られたGCAハイブリッド種の種子のカフェイン含有量が0.275〜1.97(乾燥重量%)である上記GCAハイブリッド種の作出方法に関する。
【0024】
一方、本発明のGCAハイブリッド種は、
ユージノイド種とカネフォラ種を交配してGCハイブリッド種を生産し、次いで前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産し、さらに前記4倍体GCハイブリッド種とアラビカ種を交配して作出されることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、ユージノイド種の種子のカフェイン含有量が0.21〜0.76(乾燥重量%)である上記GCAハイブリッド種に関する。
【0026】
また、本発明は、コルヒチンで染色体数を倍化する上記GCAハイブリッド種に関する。
【0027】
さらに、本発明は、前記GCAハイブリッド種に、さらにアラビカ種または前記GCAハイブリッド種を1回以上交配して作出された上記GCAハイブリッド種に関する。
【0028】
さらに、本発明は、得られたGCAハイブリッド種の種子のカフェイン含有量が0.275〜1.97(乾燥重量%)である上記GCAハイブリッド種に関する。
【0029】
他方、本発明は、上記いずれかに記載の作出方法で得られるGCAハイブリッド種を用いた食品に関する。
【0030】
また、本発明は、上記いずれかに記載の作出方法で得られるGCAハイブリッド種を用いたコーヒー飲料に関する。
【発明の効果】
【0031】
本発明のGCAハイブリッド種の作出方法を用いることにより、工業的な手法でカフェインを除去する方法を用いることなく、従来困難であった、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えたGCAハイブリッド種を得ることができる。
【0032】
さらに、本発明においては、上記作出方法により得られたGCAハイブリッド種を用いることにより、従来困難であった、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えたコーヒー飲料などの食品を容易に得る事が可能となる。
【0033】
品種改良においては、F6からF10までかけて取り込みたい形質を持った品種を選抜していくのが、従来の方法であるが、コーヒーの場合においても、さび病対抗性のために、F8くらいから選抜され、まだ品質に問題のあるカティモール種などが作られている。一方、本発明の作出方法は、これまでのブラジルでの低カフェインコーヒーのための品種改良時に問題であった不稔性、およびそのことで次世代のコーヒーが得られず、商業的栽培につなげることができなかったことにとらわれずに、アラビカ種の祖先である2つの2倍体種を使うことによって、商業的栽培に適する木の性質、すなわち増産が可能で、かつ、良好な味覚を持つ種子の性質を備え、かつ、低カフェインであるコーヒーの木を作り出したことに特異性がある。つまり、アラビカコーヒーが2倍体の祖先から4倍体の種になった自然での進化(Evolution)の過程を人工的な染色体倍化によって可能にし、かつ、育種交配と選抜で、低カフェインのものを得ることを可能にした。その結果、後述する官能試験におけるアラビカと変わらない味覚のコーヒーを、F2、F3の段階で得ることができたことにつながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0035】
本発明のGCAハイブリッド種の作出方法は、
ユージノイド種とカネフォラ種を交配してGCハイブリッド種を生産する工程、
前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産する工程、および、
前記4倍体GCハイブリッド種とアラビカ種を交配してGCAハイブリッド種を生産する工程、
を含むことを特徴とする。
【0036】
また、本発明のGCAハイブリッド種は、
ユージノイド種とカネフォラ種を交配してGCハイブリッド種を生産し、次いで前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産し、さらに前記4倍体GCハイブリッド種とアラビカ種を交配して作出されることを特徴とする。
【0037】
本発明のGCAハイブリッド種の作出方法は、ユージノイド種とカネフォラ種を交配してGCハイブリッド種を生産する工程を含むことを特徴とする。また、この先さらにアラビカ種にもどし交配するか、F2,F3を作ってカフェインの低い木を選抜していくこともできる。
【0038】
なお、本発明において、GCAハイブリッド種の雑種第1代目をF1、上記F1同士をかけあわせたものをF2、上記F2同士をかけあわせたものをF3とよぶものとする。
【0039】
ユージノイド種とカネフォラ種を交配する方法は、具体的には、この両方の親を使った人工交配によって行われた。なお、コーヒーにおける人工交配は世界的に使われている(たとえば、van der Vossen H. ,1985. Coffee selection and Breeding.In:Coffee:Botany,Biochemistry and Production of Beans and Beverage.(eds)M.N.Clifford and K.C.Willson.AVI PublishingCo.Inc.Westport.CT USA参照)。カネフォラ種を雌株として使い、開花の花から雄ずいと葯を取り除き、交配用の紙製の袋を被せた。次の日にユージノイド種の開花したばかりの花の葯をカネフォラ種の雌ずいに丁寧に塗りつけることにより人工受粉させた。交配用の袋は受粉後3−7日に取り除いた。交配後、果実の成長を確認して7ヶ月後、成熟した果実(果実の表皮が緑から赤に変わった時点)を収穫した。37の交配種子(C1−C37)が得られた。
【0040】
具体的には、低カフェイン含有量のコーヒー原種(染色体数2n=22)のユージノイド(C.Eugenoides)種とカネフォラ(C.canephora)種で行い、GCハイブリッド種(染色体数2n=22)を人工交配させて行う手法をあげることができる。
【0041】
また、本発明のGCAハイブリッド種の作出方法は、前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産する工程を含むことを特徴とする。
【0042】
前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産する方法は、コルヒチンによる染色体の倍化があり、これは、2倍体GCハイブリッドの幹をカットした部位にコルヒチン1部、ラノリン50部、ココナッツウオーター50部の配合割合のペーストを塗布し、その後、約1週間から1ヶ月後に生育してきた4倍体の新しい葉を得る方法があげられる。ただし、4倍体を得る確率は100%ではない。4倍体GCハイブリッド種を生産する方法としては、コルヒチンによる染色体の倍化を用いることが好ましい。
【0043】
具体的には、GCハイブリッド種の中で2種を選抜しコルヒチンを用いて染色体数の倍化を行い、アラビカ種と同じ染色体数(2n=44)にする手法をあげることができる。
【0044】
また、本発明のGCAハイブリッド種の作出方法は、前記4倍体GCハイブリッド種とアラビカ種を交配してGCAハイブリッド種を生産する工程を含むことを特徴とする。
【0045】
前記4倍体GCハイブリッド種(GC(2n=44)種)とアラビカ種を交配する方法は、この両方の親を使った人工交配によって行われた。より詳細には、CG種を雌株として使い、開花の花から雄ずいと葯を取り除き、交配用の紙製の袋を被せた。次の日にアラビカ種の開花したばかりの花の葯をGC(2n=44)種ずいに丁寧に塗りつけろことにより人工受粉させた。交配用の袋は受粉後3−7日に取り除いた。交配後、果実の成長を確認して9〜12ヶ月後、成熟した果実(果実の表皮が緑から赤に変わった時点)を収穫した。GCAハイブリッド種子は、この果実から得られた。
【0046】
具体的には、上記倍化を行った染色体数2n=44のGCハイブリッド種とC.arabica種を掛け合わせGCAハイブリッド種を得る手法をあげることができる。
【0047】
また、本発明のGCAハイブリッド種の作出方法は、前記GCAハイブリッド種に、さらにアラビカ種または前記GCAハイブリッド種を1回以上交配してGCAハイブリッド種を生産する工程を含むことが好ましい。
【0048】
より具体的には、GCAハイブリッド種のF1(雑種第1代目)よりF2(自家受粉およびGCAハイブリッド種同士のかけあわせSib Cross)とBack Cross(戻し交配)によってGCAハイブリッド種(GCA Progency)を得ることができる。
【0049】
また、上記F1同士をかけあわせたものをF2、上記F2同士をかけあわせたものをF3とするとき、GCAハイブリッド種のF2とF3の木から採取された葉と生豆(成熟した果実)のカフェインの含有量をHPLC法で測定して低カフェインGCAハイブリッド種を選別した。
【0050】
低カフェインGCAハイブリッド種グループ(カフェイン含有量<0.8%)より、さらにカフェイン含有量の低い子孫を得るために、低いカフェイン同士、アラビカとしてカフェインの低い親と交配する手法を用いることができる。また、より具体的には、上記交配を繰り返し1000本以上の遺伝子型の違うGCAハイブリッド種を作成しその中から選抜によってカフェイン含有量がごく少なくアラビカタイプのコーヒーを選抜した。なお、実施例におけるGCAハイブリッド種はいずれもF2である。
【0051】
また、低カフェインGCAハイブリッド種は接木によって栽培用に増殖することが可能である。なお、コーヒーにおいては接木によってコーヒーの味覚等に影響がないことが知られている。
【0052】
なお、先に述べた2倍体コーヒー原種のC.Eugenoides種を用いた例はなく、C.canephora種と交配し、ここまで2倍体であるところにコルヒチンを用い、4倍体にして、アラビカ種と交配している例は、コーヒーでは見当たらない。
【0053】
また、マスカロコフィア属にカフェインが含まれていないことも知られていたが、このマスカロコフィア属と他の種、あるいはアラビカ種をかけても飲料となる品質を持つ品種としては、使えないことも知られている。
【0054】
また、上記ユージノイド種の種子のカフェイン含有量が0〜1(乾燥重量%)であるものを用いることができ、0.21〜0.76(乾燥重量%)であるものを用いることができ、0.35〜0.62(乾燥重量%)であるものを用いることができる。
【0055】
また、得られたGCAハイブリッド種の種子のカフェイン含有量が0.6(乾燥重量%)以下であるものを用いることができ、0.45(乾燥重量%)以下であるものを用いることができ、0.3(乾燥重量%)以下であるものを用いることができる。
【0056】
上述のGCAハイブリッド種の作出方法により得られた、カフェインおよびテオブロミンが低減されたGCAハイブリッド種は、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えているために、上述したカフェインのもつデメリット、(たとえば、排尿、下痢、不眠症、不安感、胸焼け、心悸亢進、悪心、いらいら等)を懸念することなく、健康増進食品、健康維持食品、健康回復食品などの食品として簡便に利用できる。
【0057】
抽出液としてのコーヒーには、嗜好があるが、何らかの理由、たとえば妊娠中の女性や、一般的に言われるカフェインの覚醒効果が好ましくない場面(たとえば、深夜就寝前にコーヒーを飲用したい場合)などにも、通常の抽出液のコーヒーと味覚的に差異が少ない中で、カフェインの弊害の低減または解消を可能にするものである。
【0058】
なかでも、本発明のGCAハイブリッド種は、同種の種子が低カフェインであることの特性、効果を活かしたレギュラーコーヒーやコーヒー飲料などに好適なものである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾、変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0060】
〔実施例1〕
GCAハイブリッド種の官能試験の結果を下記表1に示す。下表に示すような評価基準で、8項目について行なった。なお、評価基準は、各項目とも、良(5)〜普通(3)〜悪(1)とした。
【0061】
この味覚評価サンプルは、マダガスカル シャンバビ試験場より、2006年3月に日本に送られたハイブリッド種サンプルで、それらの収穫時期は、2005年8〜10月の間であった。また、カフェイン含有量は、0.52%であった。
【0062】
【表1】

【0063】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、別タイプのハイブリッド種の味覚評価の結果を下記表2に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0064】
この味覚評価サンプルも、マダガスカル シャンバビ試験場より、2006年3月に日本に送られたハイブリッド種サンプルで、それらの収穫時期は、2005年8〜10月の間であった。また、カフェイン含有量は、上記実施例1のサンプル同様、0.52%であった。
【0065】
【表2】

【0066】
〔実施例3〕
実施例1と同様に、別タイプのハイブリッド種の味覚評価の結果を下記表3に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0067】
この味覚評価サンプルも、マダガスカル シャンバビ試験場より、2006年11月に日本に送られたGCAハイブリッド種サンプルで、それらの収穫時期は、2006年8〜10月の間であった。また、カフェイン含有量は、0.68%であった。さらに、この味覚評価に用いた液のpHは、5.14であった。
【0068】
【表3】

【0069】
〔実施例4〕
実施例1と同様に、別タイプのハイブリッド種の味覚評価の結果を下記表4に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0070】
この味覚評価サンプルも、マダガスカル シャンバビ試験場より、2006年11月に日本に送られたハイブリッド種サンプルで、それらの収穫時期は、2006年8〜10月の間であった。また、カフェイン含有量は、0.52%であった。さらに、この味覚評価に用いた液のpHは、5.23であった。
【0071】
【表4】

【0072】
〔実施例5〕
実施例1と同様に、別タイプのハイブリッド種の味覚評価の結果を下記表5に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0073】
この味覚評価サンプルも、マダガスカル イラカ試験場より、2006年11月に日本に送られたハイブリッド種サンプルで、それらの収穫時期は、2006年8〜10月の間であった。また、カフェイン含有量は、0.45%であった。さらに、この味覚評価に用いた液のpHは、5.15であった。
【0074】
【表5】

【0075】
〔比較例1〕
アラビカ種と交配する前の段階のGCを構成するそれぞれ(ユージノイド種とカネフォラ種)について、味覚評価を行なった結果を下記表6に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0076】
この味覚評価サンプルについて、ユージノイドとしては「A16 C.Eugenoides」(2006年 7月 4日 Madagascar Kianjavato試験場にて、パーチメントを入手、現地でハリングしたサンプリング)を、カネフォラ種としては「インドネシア AP−1」(ロット:15/1126/97C)を用いた。
【0077】
【表6】

【0078】
〔比較例2〕
アラビカ種と交配する前の段階のGCについて、味覚評価を行なった結果を下記表7に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0079】
味覚評価サンプルとしては、2006年11月に、Madagascar Kianjavato試験場から入手したサンプルを用いた。さらに、この味覚評価に用いた液のpHは、5.65であった。
【0080】
【表7】

【0081】
〔比較例3〕
エチオピア産のコーヒーの味覚評価を行なった結果を下記表8に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0082】
【表8】

【0083】
〔比較例4〕
グアテマラ産のコーヒーの味覚評価を行なった結果を下記表9に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0084】
【表9】

【0085】
〔比較例5〕
コロンビア産のコーヒーの味覚評価を行なった結果を下記表10に示す。なお、各項目の評価基準は、先に示したとおりである。
【0086】
さらに、この味覚評価に用いた液のpHは、5.03であった。
【0087】
【表10】

【0088】
上記味覚評価の結果、アラビカ種との交配前のGC種や、GC種を構成するユージノイド種、カネフォラ種との比較において、アラビカ種交配後の実施例1〜5は、いずれにおいても味覚の向上が認められた。
【0089】
また、実施例1〜5は、通常のアラビカタイプ3種と比較した場合、2種のアラビカ種よりは、高い評価を得た。すなわち、アラビカ種の味覚にも、評価の高低において、いくつかのタイプがあるが、全タイプではないが、アラビカ種並の味覚水準まで大幅に向上していることを確認した。特に、数値化は難しいが、アラビカ種交配後の実施例1〜5は、ロブスタ種特有の香り、味覚がなくなっていることが確認できており、低カフェインでかつ飲料としての味覚や風味を兼ね備えたGCAハイブリッド種が得られることがわかる。
【0090】
さらに、上記実施例・比較例で用いたサンプルの液性の分析(液性試験)結果を以下、表11に示す。
【0091】
【表11】

【0092】
なお、上記液性試験の各項目の詳細は以下のとおりである。なお、中細挽焙煎コーヒー8gに対し、熱湯155gを加えて、15分浸漬した後の上澄み液を分析用試料とした。なお、カッピングに用いたものと同様の方法での抽出である。
【0093】
(Brix:示度)
溶液中に合まれでいるコーヒーの可溶性固形分(濃度)を測定した値である。結晶性の物質が溶液中で光を屈折する性質を利用し、その屈折率によりその合量を測定した。なお、Brixの値が大きいことは、抽出溶液中に多くの可溶性固形分が含まれることを意味し、コーヒーの濃厚感が強い(濃い)ことを表す指標になる。
【0094】
(pH)
一般的に酸味を持つ成成分(無機酸、有機酸、酸性塩など)は、水中で解離して水素イオンを生じる。コーヒー抽出液のpHは7以下となり酸性を示すが、コーヒー抽出液のpHを測定することで酸味を測る指標となる。なお、pH値が低いことは酸味が強いことを示す。
【0095】
(酸度:citric.w/v%)
一般に滴定酸度といわれるが、食品中の遊離酸の含有量を測定した値である。0.1N水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、中和に要した添加量より計算した。コーヒーの酸味の指標となる。
【0096】
(濁度:O.D.at720nm)
コーヒー抽出液の濁りの程度を測定した値である。分光光度計を用いて、特定波長(720nm)の光のエネルギーを試料(コーヒー抽出液)が吸収する強度を測定した。また、濁度の測定においては、もともとの試料の色度の影響を考慮して、720nmの波長に設定している。なお、濁度(O.D.at720nm)の値が大きいことは、コーヒー抽出液の濁りの度合いが強いことを意味する。
【0097】
(吸光度:O.D.at420nm)
コーヒー抽出液の褐色の強さを測定した値である。濁度と同様に、分光光度計を用いて、特定波長(420nm)の光のエネルギーを試料(コーヒー抽出液)が吸収する強度を測定した。なお、吸光度(O.D.at420nm)の値が大きいことは、コーヒー抽出液の褐色度が強くなることを意味する。
【0098】
上記液性試験の結果、アラビカ種との交配後の、SB163、SB204およびIE1229は、それぞれ5.23、5.14、5.15を示しており、前述のGC種の値より低くなっており、この3タイプの味覚にカネフォラ特有の味覚(いわゆるロブスタ臭)がない傾向と合致していた。
【0099】
また、GCAハイブリッド種のカフェイン代謝実験を下記のような方法で行った。
【0100】
具体的には、2006年12月にマダガスカル イラカ試験場で栽培されたGCAハイブリッド種ならびにその親のアラビカ種、ユージノイド種、カネフォラ種それぞれの、葉および若い果実を採集し、室温にて輸送し、48時間後に代謝実験を開始した。なお、用いたサンプルは下記表12に示す。
【0101】
【表12】

【0102】
(実験方法)
Koshiro et al.(Yukiko Koshiro、Chifumi Nagai、Hiroshi Ashiharaら:Plant Science 171、242〜250(2006))の方法に基づいて14Cで標識したアデノシンを18時間投与し、14Cのテオブロミン、カフェインへのとりこみ量から、プリンアルカロイドの生合成能を算出した。
【0103】
標識化合物、[8−14C]アデノシンは、市販(Moravek Biochemical社製)のものを用いた。また、メタノール可溶性物質を濃縮後、薄層クロマトグラフィーにより分離後、バイオイメージアナライザー(富士フィルム社製)で放射活性を定量化した。
【0104】
また、コーヒーのカフェイン生合成経路を図1に示した。
【0105】
カフェインの生合成の主要経路は、AMP(アデノシン−リン酸)から開始するが、ここでは、AMPの前駆体であるアデノシンを投与した。アデノシンはコーヒーの細胞内で、AMPに変換され、テオブロミンを経由してカフェインになる。
【0106】
〔実施例6〕
葉のカフェイン合成能を示す相対的生合成活性を比較すると、アラビカ種とカネフォラ種の葉でカフェインの生合成が見られたが、ユージノイド種では、見られなかった。また、低カフェインのGCAハイブリッド5検体では、それぞれ少量の合成能しか認められなかった。
【0107】
薄層クロマトグラフィーによる分離の後の定量値の相対的生合成活性は、アラビカ種が、20.3%、カネフォラ種が、12.6%、ユージノイド種が0.0%であった。
低カフェインのGCAハイブリッド種(IE37−a)からGCAハイブリッド種(IE37−e)が、それぞれ3.6%、8.3%、11.4%、2.8%、3.4%であった。GCAハイブリッド種5検体の平均は、5.90%、標準誤差(SE)は、1.691であった。
【0108】
アラビカ種、カネフォラ種の検体数はそれぞれ1であるが、GCAハイブリッド5検体の平均値のばらつきを考慮(95%の確率で、平均値は2.518〜9.282%の幅の中にある)しても、GCAハイブリッド種5検体の方が、アラビカ種、カネフォラ種と比較した場合、低カフェイン合成能であった。
【0109】
カフェインの代謝データの中で、分解能も調査したが、その結果は、いずれのサンプルも、分解能が認められなかった。つまり、各サンプルの最終的なカフェイン含有量は、今回の実験データから、合成能に依存していると考えられる。最終的なカフェイン含有量が少ないのは。合成能が低いことと相関があることがわかる。
【0110】
〔実施例7〕
また、若い果実でのカフェイン合成能の比較においても、傾向は、同じであった。アラビカ種では、26.7%のカフェイン合成能が認められたが、GCA(IE37−a)からGCA(IE37−d)においては、それぞれ、6.3%、12.2%、8.9%、4.9%であった。また、GCAハイブリッド種4検体の平均は、8.08%、標準誤差(SE)は、1.604であった。
【0111】
アラビカ種、カネフォラ種の検体数はそれぞれ1であるが、GCAハイブリッド種5検体の平均値のばらつきを考慮(95%の確率で、平均値は4.872〜11.288%の幅の中にある。)すると、GCA4検体の方が、アラビカ種と比較した場合、低カフェイン合成能であった。
【0112】
〔実施例8〕
採集した葉でのカフェインとテオブロミンの相対的生合成の活性の定量値は、アラビカ種とカネフォラ種のそれぞれで、合計36.6%、27.0%なのに比べ、低カフェインのGCAハイブリッド種5検体では、GCA(IE37−a)からGCA(IE37−e)で、それぞれ7.6%、17.5%、20.7%、8.0%、6.6%であった。GCAハイブリッド種5検体の平均は、12.08%、標準誤差(SE)は、2.919であった。
【0113】
アラビカ種、カネフォラ種の検体数はそれぞれ1であるが、GCAハイブリッド種5検体の平均値のばらつきを考慮(95%の確率で、平均値は6.242〜17.918%の幅の中にある。)しても、GCAハイブリッド種5検体の方が、アラビカ種、カネフォラ種と比較した場合、カフェインとテオブロミンの合計の定量値は低かった。
【0114】
低カフェインのGCAハイブリッド種5検体は、95%の確率の分布幅があるが、平均値で比較すると、アラビカ種、カネフォラ種のそれぞれ、約33%、約45%のカフェイン、テオブロミン合成能しか見られなかった。
【0115】
〔実施例9〕
採集した若い果実での、カフェイン、テオブロミンの相対的活性の定量値は、アラビカ種、カネフォラ種がそれぞれ、43.2%、42.6%なのに比べて、低カフェインのGCAハイブリッド種4検体では、GCA(IE37−a)からGCA(IE37−d)で、それぞれ16.0%、31.8%、27.5%、19.5%であった。GCA4検体の平均は、23.70%、標準誤差(SE)は、3.621であった。
【0116】
アラビカ種、カネフォラ種の検体数はそれぞれ1であるが、GCA5検体の平均値のばらつきを考慮(95%の確率で、平均値は16.458〜30.942%の幅の中にある。)しても、GCAハイブリッド種4検体の方が、アラビカ種、カネフォラ種と比較した場合、カフェインとテオブロミンの合計の定量値は低かった。
【0117】
低カフェインのGCAハイブリッド種全体では、アラビカ種、カネフォラ種と比較して、約60%のカフェイン、テオブロミン合成能しかみられなかった。
【0118】
低カフェインのGCAハイブリッド種4検体は、95%の確率の分布幅があるが、平均値で比較すると、アラビカ種、カネフォラ種のそれぞれ、約55%約56%のカフェイン、テオブロミン合成能しか見られなかった。
【0119】
【表13】

【0120】
(作出例)
このカフェイン含有量の分布の内訳を以下に示す。2001年から2007年にかけて総数2670本のGCAが低カフェインGCAの選抜に使われた。このうち、581本、22%(=581÷2670)の木より収穫して得た生豆(種子)に含まれるカフェイン含有量を分析した結果、平均は0,96%のカフェイン含有量(乾物重量%)で、最低値のそれは、0.275%、最高値のそれは1.97%であった。
【0121】
以下、表14〜16とグラフ(図4)で、カフェインの含有量と検体数の関係を示す。
【0122】
【表14】

【0123】
カフェイン含有量0.6%以下のGCAが得られた確率は、5.7%(=0.17+0.52+2.1+2.7%)で、その他の多くのGCAは、目標の低い値のカフェイン含有量ではなく、その割合は、全体の約94.3%であった。
【0124】
また、次の2つの表15、16(TABLE−1および2)に、カフェイン分析を行ったGCA300本のカフェイン含有量を示した。(これらの表は、GCAの世代とカフェイン含量の分布状況を示す。)この表で示す300本のカフェイン含量のデータは、先に述べた581本の木のうち、Generationが、はっきりしている木が300本あり、その木からのカフェイン含量のデータである。
【0125】
【表15】

【0126】
【表16】

【0127】
これらの表から、カフェイン含有量0.6%以下のGCAの選択率は、F2において17.2%〜40%であるが、F3、F4では、6.1〜9.1%と著しく低くなっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】コーヒーのカフェイン生合成経路。
【図2】実施例における薄層クロマトグラフィーによる分離の後の定量値(葉)に関するグラフ。
【図3】実施例における薄層クロマトグラフィーによる分離の後の定量値(果実)に関するグラフ。
【図4】カフェイン含有量と検体数の関係に関するグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユージノイド種とカネフォラ種を交配してGCハイブリッド種を生産する工程、
前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産する工程、および、
前記4倍体GCハイブリッド種とアラビカ種を交配してGCAハイブリッド種を生産する工程、
を含むことを特徴とするGCAハイブリッド種の作出方法。
【請求項2】
ユージノイド種の種子のカフェイン含有量が0.21〜0.76(乾燥重量%)である請求項1に記載のGCAハイブリッド種の作出方法。
【請求項3】
コルヒチンで染色体数を倍化する請求項1または2に記載のGCAハイブリッド種の作出方法。
【請求項4】
前記GCAハイブリッド種に、さらにアラビカ種または前記GCAハイブリッド種を1回以上交配してGCAハイブリッド種を生産する工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載のGCAハイブリッド種の作出方法。
【請求項5】
得られたGCAハイブリッド種の種子のカフェイン含有量が0.275〜1.97(乾燥重量%)である請求項1〜4のいずれかに記載のGCAハイブリッド種の作出方法。
【請求項6】
ユージノイド種とカネフォラ種を交配してGCハイブリッド種を生産し、次いで前記GCハイブリッド種の染色体数を倍化して4倍体GCハイブリッド種を生産し、さらに前記4倍体GCハイブリッド種とアラビカ種を交配して作出されることを特徴とするGCAハイブリッド種。
【請求項7】
ユージノイド種の種子のカフェイン含有量が0.21〜0.76(乾燥重量%)である請求項6に記載のGCAハイブリッド種。
【請求項8】
コルヒチンで染色体数を倍化する請求項6または7に記載のGCAハイブリッド種。
【請求項9】
前記GCAハイブリッド種に、さらにアラビカ種または前記GCAハイブリッド種を1回以上交配して作出された請求項6〜8のいずれかに記載のGCAハイブリッド種。
【請求項10】
得られたGCAハイブリッド種の種子のカフェイン含有量が0.275〜1.97(乾燥重量%)である請求項6〜10のいずれかに記載のGCAハイブリッド種。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の作出方法で得られるGCAハイブリッド種を用いた食品。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の作出方法で得られるGCAハイブリッド種を用いたコーヒー飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−35419(P2010−35419A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115867(P2007−115867)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【出願人】(507138022)ザ ナショナル リサーチ センター フォー ルーラル ディベロプメント (1)
【Fターム(参考)】