説明

積層フィルム及び袋

【課題】引き裂き性が良好で、さらに帯電防止性能に優れ、散薬等の内容物のシール部への噛み込みや袋内部への付着防止効果の高いフィルム及びそれからなる袋を提供する。
【解決手段】一方の表面層が、ビカット軟化温度が110℃以上で、表面に界面活性剤と水溶性高分子が付着したポリスチレン系樹脂組成物からなり、もう片面が帯電防止剤を練りこんだポリエチレン系樹脂組成物からなる積層フィルムであって、そのループステフネスが縦横共に0.7g−3.5gである事を特徴とした積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り裂き易く、かつ帯電防止効果の高い積層フィルム及びその袋に関するものである。さらに詳しくは、医薬品包装、食品包装等の包装材に用いる袋を構成するフィルムであって、手で容易に引き裂くことができ、且つ、帯電防止効果や散薬等の付着防止効果が高く、散薬を確実に出し入れし易いフィルム、及び袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品等を少量ずつ小分けでき、容易に開封ができる袋として、一般にセロファンとポリエチレンをラミした積層フィルムが使用されている。これらの袋は、セロファン側を袋の外側に、ポリエチレンフィルム側を袋の内側に位置させてヒートシールされている。
【0003】
しかしながら、その袋の開封性は十分なものではなく、引き裂いた方向とは別方向に引き裂き面がずれることがあった。その結果、内容物が取り出しにくく、時にはこぼれてしまう事があった。また、セロファンはもともとセルロースから作られており、水分を多く吸収する性質を有する。水分を吸収することによって積層フィルムが大きくカールしてしまい、その積層フィルムを製袋する場合にロスが多発する問題がある。また、袋が吸水することによって内容物が吸湿する問題もあった。内容物が散薬等の医薬品の場合、散薬が取り出しづらいだけでなく、薬が変質する危険性もある。更には、セロファンはその吸湿度によって、フィルムの剛性や耐衝撃性が変化する性質も有する。特に、湿度の低い冬場では放湿により脆化するので、衝撃で破れたり、折った部分でピンホールが発生しやすくなり、製袋時やラミネートの加工時にロスを生じやすくなっていた。製袋して製品となった後も、輸送時の衝撃によりピンホールが発生して内容物が変質したり、ひどい時には破袋し、内容物が外にこぼれる等、袋としての役割を果たせない場合もあった。
【0004】
セロファンの代わりに、一般のポリエチレン、ポリプロピレンやポリエステルのフィルムを使用する試みも実施された。しかし、これらのフィルムでは、原料樹脂の剛性が低いことから、フィルムの腰がなく、袋とした場合に必ずしも容易に開封できるものとはならなかった。その為、袋に切り欠き部やノッチ等の加工を施しているが、加工時に内容物に傷をつけてしまう等の悪影響をもたらすこともあった。また、ノッチ加工が不十分な場合、開封できない問題もあり、何処からでも用意に開封可能な袋が望まれていた。それに対し、開封部全面、もしくはフィルム全面に物理加工を施した易カット性のフィルムがあるが、物理加工部は衝撃や突刺しに対する強度に劣る為、フィルムにピンホール等が発生しやすく、防湿性も損なわれていた。また、これらフィルムは腰がないので、印刷や製袋時にピッチずれが発生し、品質不良をもたらしていた(特許文献1)。さらに、フィルムに腰がない場合、薬を内包する際に必要以上に製袋機の各部品と接触する為、摩擦による帯電が起こったり、加工不良が発生しやすい問題もある。それ以外にも、薬を飲む時にフィルムが変形し、薬が飲みづらい欠点もある。
【0005】
これらの不具合を解消するために、セロファンの代わりに、手裂き性がよく、且つ腰がある熱可塑性樹脂フィルムとしてポリスチレン系樹脂からなる2軸延伸ポリスチレンフィルムを使用し、これとヒートシール性のあるポリオレフィンフィルムとの積層により積層フィルムを作り、これをヒートシールし、易開封の袋とした技術の開示がある(特許文献2〜4)。しかしながら、これらの袋を作る熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂であるため、散薬などの粉状の物質の出し入れに不具合が生じていた。即ち、ポリスチレン系樹脂は、プラスチック素材の中で特に誘電率が高い為、摩擦や製袋機周りの帯電状況の影響で容易にフィルム自体が帯電してしまう欠点がある。帯電したフィルムからなる袋に散薬等を封入しようとすると、散薬も帯電し、粉が舞うので、散薬を封入することが困難になる。それだけでなく、ヒートシール面に薬が噛み込んで、袋の密封性を阻害したり、ひどい場合は、ヒートシール面から薬が漏洩する不具合があった。また、散薬を分けて入れる製袋機の薬のホッパー部分がフィルムとの摩擦により帯電した場合、そこに薬が付着するので、薬の定量性が悪くなったり、違う薬が混入する問題も発生する。一方、袋に内封された後の薬であっても、袋自体が帯電していると、静電気で袋の内側に薬が付着し、薬が飲みづらくなる。また、薬が内側に付着する事により薬の服用量が変化してしまうので、患者へ有効な薬を適量処方する目的が阻害される場合も多く発生した。近年では、各種の有効な薬が開発されているが、これらの中には、初めから帯電しているものや、簡単に帯電してしまうものも多く、帯電しにくい袋は非常に有用である。
【0006】
これらの問題を解決する目的で、特許文献2〜4では、帯電防止を目的とし、界面活性剤等で帯電防止性能を上げる方策が開示されているが、ポリスチレン系樹脂は容易に帯電することから、カプセル剤や固形剤には有効であっても、散薬等の粉状の物質には有効ではなかった。また、安易な界面活性剤を使用するとフィルム同士のブロッキングを誘発し、フィルムの加工性や製袋性が悪くなった。また、界面活性剤の影響で、かえって薬がフィルムに付着してしまう現象にも繋がった。特に散薬の中のドライシロップでは、薬が粘調性を有することから袋の内面に付着しやすかった。一方、用途は異なるが、ポリスチレン系のフィルムの帯電防止策としての文献(特許文献5、6)では、帯電防止剤や水溶性高分子を表面塗布して、帯電防止性を改善する方策が開示されているが、帯電防止効果はあるものの、内容物が帯電しやすい散薬等では効果が薄く、フィルム内面に散薬等が不着したり、袋を作る際にも加工適性が悪かった。
【0007】
また、特許文献1などでは、内面のポリエチレン樹脂に帯電防止剤を練りこんで袋にする開示がなされているが、これらの対応のみでは、帯電防止効果は十分でなかった。特に誘電率の高いポリスチレン系樹脂のフィルムでは、袋として、その帯電防止効果はほとんど無かった。即ち、袋の内側であるポリエチレン側には帯電防止効果は有効であっても、外面を構成する基材には有効ではなく、製袋時などに機械部品に摩擦することから生じる摩擦帯電や誘導帯電によって、基材フィルム側が帯電してしまい、これが内層のフィルム面にも影響し、散薬を入れる袋全体としては有効な帯電防止性は得られなかった。
【0008】
また、他の文献(特許文献7、8)では、ポリスチレン系樹脂の中に特定の帯電防止剤を練りこんで、その帯電防止効果を上げる方策がなされているが、帯電防止効果は、練りこまれている樹脂から帯電防止剤が表面に移行することによって、その効果が十分発揮される機構が大きいことから、練りこみ方法による帯電防止方式では、十分な帯電防止効果は得られなかった。
【特許文献1】特開2005−305830号公報
【特許文献2】国際公報第2006−049070号パンフレット
【特許文献3】特開平5−338089号公報
【特許文献4】特開平5−200858号公報
【特許文献5】国際公報第2001−040360号パンフレット
【特許文献6】特開平9−114045号公報
【特許文献7】特開2004−358933号公報
【特許文献8】特開平7−53735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、切り裂き易く、かつ帯電防止効果の高い積層フィルム及びその袋の提供を目的とする。さらに詳しくは、医薬品包装、食品包装等の包装材に用いる袋を構成するフィルムや袋において、手で容易に引き裂くことができ、且つ、帯電防止効果や散薬等の付着防止効果が高く、散薬を確実に出し入れし易いフィルムや袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明をなすに至った。
本発明は下記の通りである。
(1)ポリスチレン系樹脂組成物からなる2軸延伸された基材フィルム(I)と、ポリエチレン系樹脂組成物からなる基材フィルム(II)とが積層されてなる積層フィルムであって、基材フィルム(I)のビカット軟化温度が110℃以上であり、基材フィルム(I)の表面に界面活性剤を主成分とする帯電防止剤と水溶性高分子が付着しており、且つポリエチレン系樹脂組成物に帯電防止剤が練りこまれている事を特徴とした積層フィルム。
(2)ループステフネスが縦横共に0.7g〜3.5gである事を特徴とした(1)に記載の積層フィルム。
(3)基材フィルム(I)における前記帯電防止剤と前記水溶性高分子が付着した面の帯電減衰率の半減期が300秒以下であることを特徴とした(1)又は(2)に記載のフィルム。
(4)水溶性高分子がポリビニルアルコールであることを特徴とした(1)〜(3)のいずれかに記載の積層フィルム。
(5)ポリスチレン系樹脂が、スチレン−アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種類の樹脂を主成分とし、ビカット軟化温度が110〜155℃である非晶性ポリスチレン系共重合樹脂からなることを特徴とした(1)〜(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
(6)ポリスチレン系樹脂が、スチレン−αメチルスチレン共重合樹脂を主成分とすることを特徴とした(1)〜(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
(7)ポリスチレン系樹脂が、シンジオタックチック構造のポリスチレン系樹脂を主成分とすることを特徴とした(1)〜(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
(8)ASTM−D1003に準じて測定されるHAZEが50%以下であることを特徴とした(1)〜(7)のいずれかに記載の積層フィルム。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の積層フィルムからなる袋であって、基材フィルム(II)が内側にヒートシールされ、平均粒子径3mm以下の粉状の薬を内包した袋。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、引き裂き性が良好で、かつ帯電防止効果の高いフィルムや袋を提供できる。更に詳しくは、医薬品包装、食品包装等の包装材に用いる袋を構成するフィルムや袋において、手で容易に引き裂くことができ、フィルム同士のブロッキングが無く、且つ、帯電防止効果や散薬等の付着防止効果が高く、散薬を確実に出し入れし易いフィルムや袋を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、特に好ましい態様を中心に、以下詳細に説明する。
【0013】
本発明の基材フィルム(I)は、例えば、特開2007−269913号公報、国際公報第2006/049070号パンフレットに示される如くのフィルムである。
【0014】
本発明で使用する基材フィルム(I)であるポリスチレン系樹脂組成物からなる2軸延伸ポリスチレンフィルムのビカッット軟化温度は、110℃以上であり、好ましくは110〜155℃である。又、より好ましくは、120〜155℃である。
【0015】
フィルムのビカット軟化温度は、ASTM−D−1525に準じて測定される。ビカット軟化温度が110℃より高いと、袋の剛性が適度に高くなり、引き裂き直進性、及び引き裂き性(フィルムにノッチを入れないでも、手で容易に引き裂くことができる引き裂き性)が特に良好となる。また、ヒートシール層となるポリエチレンフィルムとのポリラミネーション加工の際に、ポリスチレンフィルムに熱収縮が起こりにくく、袋に加工するヒートシールの際には、ヒートシールされた部分にも熱収縮が起こりにくく、袋の形状がゆがんだり、ヒートシール部分にピンホールが起きない。
【0016】
フィルムのビカット軟化温度が155℃より低いと、適度な袋の強靭性が得られ、袋に衝撃が加わったときに簡単に破れたり、ピンホールが起きない。また、袋に十分な引き裂き直進性、引き裂き性を付与できる。
【0017】
用いるフィルムのビカット軟化温度によって、当該袋の引き裂き直進性や、引き裂き性が左右されるため、重要な要件である。
【0018】
本発明の基材フィルム(I)を構成する2軸延伸ポリスチレン系樹脂フィルムに使用するポリスチレン系樹脂は、ポリスチレンやポリスチレン系共重合樹脂が挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、2種類以上混合しても構わない。ポリスチレン系共重合樹脂とは、スチレンモノマーと任意のモノマーを共重合した樹脂のことを言い、任意のモノマーとしては、ο−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ジフェニルエチレン等のスチレン系誘導体、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等のアルキル置換メタクリレート化合物、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキル置換アクリレート化合物、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、N−置換無水マレイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロロスチレン、ブロモスチレン等のビニルモノマー等が挙げられる。これらの単量体は2種以上混合して用いてもよい。ポリスチレン系共重合樹脂の中でも、スチレン−アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂、及びスチレン−α−メチルスチレン共重合樹脂から選ばれる少なくとも1種の共重合樹脂が、耐熱性、引き裂き性をさらに良好にする為にも好ましい。ポリスチレン系共重合樹脂におけるスチレンの重合割合は、特に限定されないが、カット性の観点から50wt%以上が好ましい。本発明に用いるポリスチレンと共重合させるモノマー単位含量は適宜選定すればよい。ポリスチレンと共重合させる好ましい樹脂として、例えばアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸を用いる場合には、3〜30wt%の範囲が好ましい。同様に、例えばα−メチルスチレンを用いる場合には、9〜50wt%の範囲が好ましい。これらの共重合比率は、好ましい範囲内の場合、樹脂の剛性が高く、引き裂き性が向上する。また、これらの樹脂から得られたフィルムをポリエチレン系樹脂と接合し、ヒートシールする場合には、耐熱性が向上し、ヒートシール時に皺等の発生がなく好ましい。
【0019】
本発明に用いられるポリスチレン系樹脂の結晶性は特に限定されない。構造としては、アタクチック構造、アイソタクチック構造、シンジオタクチック構造等が挙げられる。また、これらの混合物であっても良い。フィルムの透明性やフィルムの袋や包装体への加工適性の観点から、非晶性のアタクチック構造ポリスチレン系の共重合樹脂がより好ましい。
【0020】
本発明で使用するポリスチレン系共重合樹脂を作るスチレンの重量割合は、本発明のビカット軟化温度を110〜155℃の範囲にできればよく、好ましくは50wt%以上、より好ましくは70wt%以上である。これらのスチレンの重量割合は、共重合するスチレン以外のモノマーの割合や、2軸延伸ポリスチレンフィルムを作る際に加える添加物により異なる為、限定されるものではない。
【0021】
例えば、好ましい共重合樹脂として、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸を用いる場合、非晶性ポリスチレン系共重合樹脂からなる2軸延伸ポリスチレンフィルムのビカット軟化温度を110〜155℃にする為には、該樹脂の共重合割合は3〜30wt%が好ましい。同様に、α−メチルスチレンを用いる場合は、9〜50wt%が好ましい。これらの樹脂を好ましい範囲内で共重合することによって、耐熱性が向上する上、フィルムを作る際に押し出し加工性が良好になる。
【0022】
又、本発明に用いるシンジオタクチック構成を有するポリスチレン重合体(SPS)とは、炭素−炭素結合からなる主鎖に対して、側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものである。この立体構造は、同位体炭素による核磁気共鳴法により定量することができる。本発明のSPS重合体は、スチレン単独の重合体でも良く(特開昭62−117708号記載)、スチレン単量体と、その他のスチレン誘導体や単量体を含む組成物であっても良い(特開平1−46912号記載、特開平1−17850号記載)。この意味で、SPSの割合は、ビカット軟化温度を110〜155℃の範囲にする目的で添加量を決めれば良く、この意味で、例えば、SPSの割合は好ましくは30wt%以上、より好ましくは50wt%以上である。これらのスチレンの重量割合は、アタクチック構造を有するポリスチレンや、スチレン以外のモノマーの割合や、フィルムを作る際に加える添加物により異なる為、限定されるものではない。また、SPS系樹脂を用いる場合は、そのビカット軟化温度は、SPS樹脂の結晶化が必要であり、この意味でSPS樹脂の結晶化度は、35%以上(DSC法)でビカット軟化温度が良好となり、またフィルムの熱収縮率が5%以下となり好ましい。また適度な柔軟性を持つことから取り扱い性も良好となる。SPSの結晶性を上げるためには、フィルムを作成する際に、緊張状態もしくは弛緩状態で、ガラス転移温度以上(約105℃)〜融点熱以下(約220℃)で、5秒から120秒の間で保持し、熱固定することで達成される。SPS樹脂を用い、一般的な非晶性樹脂と混合し用いる場合、フィルムの柔軟性や取り扱い性を上げるためにも、基材フィルム(I)のフィルムのビカット軟化温度を110〜155℃がよい。110℃以上であれば、ヒートシールする際に、フィルムが収縮する事無く望ましい。また155℃以下であれば、フィルムが柔軟で容易に破れたりすることがなく、ピンホールが起きない。また、フィルムの透明性も良好となる。
【0023】
本発明では、ポリスチレン系樹脂の製法は特に限定されず、公知の製法を用いることができる。一般的なスチレン系ポリマーの重合法としては、例えば、熱や開始剤を用いたラジカル溶液重合、ラジカル懸濁重合、ラジカル乳化重合、有機金属化合物を用いたアニオン重合、遷移金属錯体による配位アニオン重合、ルイス酸を用いたカチオン重合等による方法がある。また、市販の樹脂を使用することができ、例えば、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂としては、PSジャパン(株)社製のG9001(商品名)やDIC(株)社製、リューレックス(登録商標)A―14、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂としては、NOVA chemicals(株)社製、DYLARK(登録商標)232、332等が挙げられる。SPS樹脂としては、出光興産(株)製 ザレック(登録商標)S104、130ZC、201AE、142AE等があげられる。しかしながら、これらの樹脂に限られるものではない。
【0024】
ポリスチレン系樹脂の分子量は特に限定されず、フィルム化する際に十分な溶融粘性が得られるものであればよい。また、得られる2軸延伸ポリスチレン系樹脂フィルム中に残存するモノマー、ダイマー、トリマー等のスチレン系低分子量成分は限定されないが、フィルムを袋状物に加工した場合、内容物が医薬品や食品であることを考慮すると低い方が好ましく、10000ppm以下が好ましい。
【0025】
ポリスチレン系樹脂中に、フィルムに加工する際、製膜性や耐衝撃性を与える目的で、各種樹脂を加えてもよい。各種樹脂としては、ポリスチレン系樹脂と相溶する樹脂であればよく、例えば、ABS樹脂、PPE樹脂、耐衝撃性を有するポリスチレン系樹脂、ポリスチレン系のエラスマー等が挙げられる。相溶性の観点から、耐衝撃性を有するスチレン系樹脂やポリスチレン系のエラスマーが好ましい。
【0026】
ポリスチレン系のエラスマーとは、ポリスチレン系樹脂に製膜性や耐衝撃性を与える物質で、一般的に室温でゴム弾性を有する部分を持つ物質をいい、分子中に弾性をもつゴム成分(ソフトセグメント)を持つものをいう。本発明のポリスチレン系の耐衝撃性を有するポリスチレン系樹脂やポリスチレン系のエラスマーのビカット軟化温度は、ポリスチレンのビカット軟化温度(105℃)より低く、一般的には90℃より低い。
【0027】
耐衝撃性を有するポリスチレン系樹脂やポリスチレン系のエラスマーとしては、例えば、ハイインパクトポリスチレン、スチレン−共役ジエン系共重合物、スチレン−脂肪族カルボン酸系共重合物等が挙げられ、ポリスチレン以外に、ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリブタジエン、水素添加ポリイソプレン、水素添加ブタジエンラバー等のソフトセグメントを持っていてもよく、これらから選ばれる少なくとも一種のポリスチレン系エラストマーや樹脂を添加することはより好ましい。
【0028】
ポリスチレン系エラストマーの添加は、フィルムを製造する際に種類や量を選定すればよく、本発明の目的を達成する範囲で、当事者が適宜選択することが好ましい。フィルムを製造する際の製膜性、得られたフィルムの耐衝撃性、耐熱性、腰とのバランス、透明性への影響度から、ポリスチレン系エラストマーやポリスチレン系の耐衝撃性を有するポリスチレン系樹脂は、2軸延伸ポリスチレン系樹脂フィルム中、0.5〜35.0wt%添加されていることが好ましく、より好ましくは1.0〜30.0wt%である。添加量が0.5wt%以上の場合、フィルム化する際に製膜性が安定し、得られたフィルムの耐衝撃性が向上する。添加量が35.0wt%以下の場合、フィルムの引き裂き性、耐熱性、腰が良好であり、透明性が高い。
【0029】
ポリスチレン系樹脂へ、熱安定性、機械的安定性、耐候性、耐光性を上げる為に、熱安定剤、酸化防止剤、耐光剤等の安定剤を添加することも効果的である。熱安定剤、酸化防止剤、耐光剤の例としては、フェノール系、アミン系、リン系、イオウ系、ヒンダードアミン系安定剤等があり、本発明の目的と特性を損なわない範囲であれば、これらの安定剤を配合することは好ましい。
【0030】
上記の安定剤以外に、無機系微粒子や有機系微粒子等の微粒子状アンチブロッキング剤、可塑剤、滑剤、着色剤等、公知の添加剤を、本発明の要件と特性を損なわない範囲で配合してもよい。
【0031】
Tダイ等から押し出されたポリスチレンフィルムの延伸方法としては、インフレーション延伸法やテンター延伸法等が挙げられるが、限定されるものではない。また、延伸温度が低い場合は、樹脂の溶融粘度が高くなり、延伸倍率が低くても、樹脂の分子の配向が高くなる。一方、延伸温度が高い場合には、樹脂の溶融粘度は低くなり、延伸倍率が高くても、樹脂の分子の配向は低くなる。そのため、延伸温度は限定されない。本発明では2軸延伸ポリスチレンフィルムの加熱収縮応力に直接関係する、樹脂の分子の配向の制御が重要である。
【0032】
インフレーション延伸法では、延伸倍率は、流れ(MD)方向、巾(TD)方向それぞれに3〜12倍が好ましい。延伸配向の付与による当該袋の特徴である引き裂き性の良さと、腰の強さの発現と、延伸の均一性の観点から、特に5〜10倍の範囲がより好ましい。延伸倍率が3倍以上の場合は、延伸配向度が適度で、袋の耐衝撃性が高くなり、得られる袋の引き裂き性が良くなる為好ましい。延伸倍率が12倍以下の場合は、フィルムの熱収縮率が低く、袋にした場合に皺等の発生がない。
【0033】
テンター延伸法では、同時2軸延伸法では、延伸倍率は、MD方向またはTD方向それぞれに1.5〜8倍が好ましい。延伸配向の付与による当該袋の特徴である引き裂き性、延伸の均一性の観点から、特に2〜6倍の範囲がより好ましい。延伸倍率が1.5倍以上の場合は、延伸配向度が適度で、袋の耐衝撃性が高くなるので好ましい。又、得られる袋の引き裂き性が良くなる為好ましい。延伸倍率が8倍以下の場合も、配向度が適度であり、2次成形時、即ちポリラミネーション加工時や製袋加工時にフィルムの収縮が起きず好ましい。
【0034】
逐次2軸延伸テンター法では、MD方向の延伸倍率は、1.3〜4.0倍が好ましく、TD方向は4〜8倍が好ましい。逐次2軸延伸テンター法では、初めにMD方向に延伸を実施し、その後TD方向に延伸を実施するために、分子の配向バランスを取る為に延伸倍率を異なった条件で実施することが好ましい。
【0035】
本発明のフィルムは、引き裂き性は任意の方向にほぼ同じなため、いずれの方向からでも容易に開封することができ、その引き裂きの伝播は同方向に進み易い。一般的に、散薬分包品等の袋は四角形状をしている為、開封する際には袋の縦、もしくは横方向に一直線に袋を引き裂く事になる。本発明品を用いた袋の場合、ノッチ等の加工が無くとも、縦、横、いずれの方向からも手で容易に開封を開始でき、しかもその引き裂き伝播は同方向に進みやすいので、目的の方向からずれる事なく、直進的に袋を開封可能である。これらの特性は、セロファンや他のプラスチックフィルムとは大きく異なり、本発明の特に有効な部分である。即ち、開封しようとした方向とは別方向に引き裂きが伝播すると、粉末状の医薬品や食品等を包んだ袋では、その内容物が開封時にこぼれ出る可能性がある。医薬品の場合には、その使用量は個人ごとに処方され、その内容量も厳密に規定されている場合が多い為、この引き裂き方向の直進性は特に有効性が高い。
【0036】
また、袋の一方向からからのみに容易に直進的に開封でき、開封方向と垂直方向からは簡単には開封できない袋を作製することも可能である。これらの袋は、二軸延伸ポリスチレンフィルムを作る際に、MD方向、TD方向の延伸倍率を極端に変える等の手段によって、得られる袋の引き裂き性を変化させることができる。例えば、一方向のフィルムの引き裂き性を良好とすれば、このフィルムを用いた袋は一方向のみを容易に引き裂きでき、もう一方向はほとんど引き裂けない製品を作ることが可能である。例えば、医薬品や食品を入れる袋で、スティック包装等は、横方向のみが切れ易いことが、前記した理由で有効性が高い。
【0037】
2軸延伸ポリスチレンフィルムの厚みは、袋の腰、加工適性、引き裂き性の観点から10〜40μmが好ましい。フィルムが10μm以上だと、袋の強度がより向上する。また、フィルムの腰が強くなるので、印刷等の加工適性や作業性がより良くなる。それに加え、腰が強い事により、分包工程でのロールやホッパーとの過度な摩擦が起こりにくくなる。その結果、摩擦帯電が発生しにくく、帯電による散薬噛み込み等の問題が起こりにくくなる。一方、40μm以下だと、袋にした場合に引き裂き性がより良くなり、容易に手で引き裂きやすくなる。又、最終的な袋の価格も低くできる。さらに好ましくは13〜35μmである。
【0038】
本発明の2軸延伸ポリスチレン系樹脂フィルムの引き裂き強力(JIS−K−7128)は特に制限はないが、好ましくは、MD及びTD方向共に5〜50mNが良い。引き裂き強力が5mN以上だと、2次加工時にフィルムが破れにくくなり、最終製品での保存安定性がより高まる。引き裂き強力が50mN以下だと、手での引裂性がより良好となる。さらに好ましくは10〜45mNである。特にTD方向の引き裂き性は連続フィルムを加工する場合に、フィルム切れを起こさないようにするため、特に10mN以上が好ましい。
【0039】
本発明のフィルムの引裂直進値は、特に制限はないが、10mm以下が好ましい。引裂直進値とは、50mm×100mmのサンプルを、JIS−K−7128に準じて引き裂き、引き裂き終点がサンプル中心からどれだけずれたかを測定したものであり、値が小さいほど直進性に優れる。引裂直進値が10mm以下であれば、本発明のフィルムを用いた製品(例えば袋)を引き裂いた際に直進的に開封することができ、内容物をこぼしたり、傷めたりすることがない。また、袋を開封したときも引き裂き面がまっすぐとなり使い易い。
【0040】
本発明の2軸延伸ポリスチレンフィルムの加熱収縮応力(ASTM−D−1504)は、特に限定されないが、得られるフィルムの腰や熱収縮性及び引き裂き性の観点から、任意の方向において300〜6000KPaが好ましく、400〜4000KPaがより好ましい。本発明で引き裂きの直進性や引き裂き性の良さは、当該樹脂の分子配向によるが、その分子配向を定量的に表すことができる指標として、加熱収縮応力が挙げられる。即ち、本発明のポリスチレン系樹脂フィルムの加熱収縮応力は、300KPa以上の場合は、袋の衝撃強さや耐屈曲曲げ強さが強く、外力に対して簡単に折り曲げられたり、割れたりしない。また、樹脂のポリマーの配向が十分得られていることから、袋の引き裂き直進性や引き裂き性が向上する。6000KPa以下の場合は、製袋加工する成形時にフィルムや積層物が収縮しにくいので、袋にしわが入リにくくなる。これらの加熱収縮応力は、テンター延伸法やインフレーション延伸法等において、その延伸度や延伸温度等により制御できる。すなわち、延伸度が低ければ加熱収縮応力は小さくなり、延伸度が大きければ加熱収縮応力も大きくなる。又、同じ延伸度の場合でも、延伸温度が高ければ加熱収縮応力は小さくなり、延伸温度が低ければ加熱収縮応力は大きくなる。これらの延伸温度や延伸度を制御することが、フィルムを成形する際の重要な点である。また、加熱収縮応力を制御する方法として、テンター延伸法やインフレーション延伸法等でフィルムを得た後に、熱セットすることも良い方法である。これらの熱セットは、定長やフリーでもよく、セット温度は適宜選定すればよい。
【0041】
本発明に用いる2軸延伸ポリスチレンフィルムの熱収縮率(120℃のオイルに10秒間浸漬した時の収縮率)は、限定されないが、0〜10%が好ましく、0〜7%がより好ましい。熱収縮率が10%以下であれば、袋にした場合に皺等が発生しにくくなる。
【0042】
本発明は、帯電防止性能をより有効にするために、ポリスチレン系樹脂フィルム表面へ、界面活性剤を主成分とする帯電防止剤と水溶性高分子を表面に付着させる。本発明で使用される界面活性剤は、以下の種類が上げられる。ノニオン系界面活性剤(エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型、アミン及びアミド型)、アニオン系界面活性剤(スルホン酸型、硫酸型、燐酸型)、カチオン系界面活性剤(アンモニウム型)、両性界面活性剤(イミダゾリン型、ベタイン型、アラニン型)が上げられる。特に好ましくは、両性または、非イオン性界面活性剤が好ましい。また、界面活性剤の分子量は、20000以下が望ましい。分子量が20000以下の場合、コーティング等で斑なく塗布しやすくなり、より効果的に帯電防止効果を発揮できる。これらの例として、日本油脂(株)社製、スタホーム(登録商標)F、DL、ナイミーン(登録商標)F−215、T2−230、L−201、花王(株)社製、レオドール(登録商標)TW−L120、第一工業製薬(株)社製、エパン(登録商標)485等が挙げられる。しかしながら、これらに限られるものではない。本発明で、帯電防止効果を発揮させる目的で、一般的に使用される導電性の微粒子(例えば、カーボンブラックやケッチェンブラックやアセチレンブラック、各種金属微粒子、酸化物半導体微粒子、導電性高分子微粒子など)は使用できない。本発明は散薬を内包する目的であるため、体内摂取することを考えると、これらの導電性微粒子はその帯電防止効果は高いが、これらは使用されない。
【0043】
本発明で使用される水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルギニン、ポリグリセリン及びその脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ガラクトマンナン、ペクチン、アラビアガム、カラギーナン、キサンタンガム、プルラン等がある。水溶性高分子を界面活性剤と併用して使用する事により、界面活性剤が容易に他の物質に移行することを防ぎ、より効果的に帯電防止性能を発現させる事ができる。また、水溶性高分子は、水分と結合水をつくる事により、低湿度化の雰囲気でもその結合水の働きにより帯電防止性能を発揮する利点もある。さらに、水溶性高分子を使用することにより、表面の粘着性が制御され、フィルム同士のブロッキングをおさえる事ができる。また、同じく散薬がフィルム面へ付着すること防止できる。水溶性高分子の中でも、これらの効果が特に高い物質はポリビニルアルコールであり、そのケン化度は、40〜99%が好ましく、60〜95%がより好ましい。ケン化度を40%以上にする事により親水性が増し、空気中の水分と結合水を形成しやすくなるので、より高い帯電防止性能を発現しやすくなる。また、水溶性も向上するので、ポリビニルアルコールの水溶液中での分散均一性が向上し、均一で緻密な膜を形成しやすくなる。一方、ケン化度を99%以下にする事により、界面活性剤の移行防止性能がより高まり、ブロッキングも起こりにくく、強度に優れた皮膜を形成しやすくなる。
【0044】
本発明のフィルムを用い散薬等を内包する袋状物にするために、本発明で用いる帯電防止処理を実施した基材フィルムの帯電減衰率は、その半減期が300秒以下がより望ましい。300秒以下であれば、散薬を袋状に内包する場合に、ヒートシール部分に散薬が、かみ込むことが無く、袋の防湿性を維持できる。また、薬を飲む際の袋の開封時に、フィルムの内面に薬が付着すことが無く、飲みやすい。また、半減期が300秒以下であれば、薬を充填する際に充填機の各部分(金属部品やプラスチック部品)でも、摩擦による静電気が帯びにくい。この意味で、半減期を300秒以下にするには、記載したコーティング剤の処方が望ましく、且つその割合や量がその半減期を達成させるに値する処方とすることが望ましい。
【0045】
水溶性高分子の分子量は5,000〜300,000が好ましく、より好ましくは10,000〜200,000である。分子量が5,000以上の場合、フィルム表面への固着力が強く、移行防止性能がより効果的に発揮される。分子量が300,000以下の場合、容易にコーティング等で塗布しやすくなる。さらに、界面活性剤との混和性がより向上し、適度に界面活性剤をその付着膜上で分散させることができ、より高い帯電防止性能を発現しやすくなる。
【0046】
本発明で、界面活性剤に対する水溶性高分子の混合割合は、好ましくは、3〜25重量%であり、より好ましくは5〜20重量%である。水溶性高分子の比率を3重量%以上にする事により、界面活性剤との固着力がより高まり、界面活性剤がフィルム上により強固に固定され、剥離しにくくなる。また、25%以下にする事により、界面活性剤の帯電防止性能がより発現しやすくなる。
【0047】
本発明で、界面活性剤と水溶性高分子の合計付着量は、好ましくは、5〜50mg/mであり、より好ましくは10〜30mg/mである。付着量を5mg/m以上にする事により、より優れた帯電防止性能を発現しやすくなり、50mg/m以下にする事により、白化による外観悪化やブロッキングや表面べとつきが発生しにくくなる。又、帯電減衰率の半減期が300以下となり、好ましい。
【0048】
本発明で、界面活性剤と水溶性高分子を付着させる方法は、一般的な方法ができる。
エアーナイフコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーコーター、グラビアコーター、コンマコーター、等で付着(コーティング)する事ができる。塗布量の精度から、エアーナイフコーター、ダイコーターが特に好ましい。また、コーティングする方法は、界面活性剤と水溶性高分子をあらかじめ特定の溶剤に均一に溶かし、一定濃度の溶液にしてコーティングする方法が良い。コーティング液の濃度は、塗布する量に応じて、その溶液粘度や濃度によって選定されるべきである。溶媒は、特に限らないが、水が好ましい。また、水にエチルアルコールやイソプロピルアルコールなど水との混和性が良いものであれば、適宜混ぜて使用できる。水系の溶剤を使用する事で、特殊溶剤を使用する事無くコ−ティングすることができるので、環境や人体にも良い。また、乾燥後も、水溶性高分子が、適度に結合水として塗布膜に保持することができるため、帯電防止性能も良好となる。本発明で使用するポリスチレン系樹脂のビカット軟化温度は、110℃以上の為、乾燥温度は、フィルムの収縮や加工速度を鑑み、適宜選定できる。これらの観点から、乾燥温度は80〜110℃が好ましい。また、コーティングする前にポリスチレン系樹脂フィルムの表面をよりぬれやすくする事は好ましい。その際、ポリスチレン系樹脂フィルムの表面張力は35mN/m以上が好ましく、40mN/m以上がより好ましい。また、ブロッキングの観点から80mN/m以下が好ましく、75mN/m以下がより好ましい。これらの表面張力値は、上記の物理的な方法及び/又は化学的な方法によって達成される。ぬれ性が良いと、界面活性剤と親水性高分子の塗布層が均一に斑なく形成されやすくなるので、優れた帯電防止効果を発揮しやすくなる。また。コーティングは、あらかじめポリスチレン系樹脂フィルムを作成した後にコーティングする方法(ついでポリラミネーションなどで積層し、積層フィルムを得る方法)、ポリスチレン系樹脂フィルムとポリエチレン系樹脂フィルムの積層フィルムを作成した後で、コーティングする方法など、どちらでも良い。
【0049】
本発明のヒートシール性の基材フィルム(II)は、ポリエチレン系樹脂組成物からなる。そのポリエチレン樹脂の種類は限定されない。例えば、ポリエチレン樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等が使用でき、それらの混合物でもよい。また、これらの樹脂は、接着性を上げたり、樹脂の軟化点やヒートシール温度を制御する目的で、ヒートシール性を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン―アクリルエステル共重合体、酸コポリマーのイオン架橋体(アイオノマー)、シングルサイト触媒(メタロセン系触媒)を用いて作られたエチレンとα−オレフィンとの共重合体が好ましく、単独もしくは他のオレフィン樹脂と混合した組成物であってもよい。
【0050】
ポリエチレンフィルムの厚みは、ヒートシール層として機能すれば、適宜その厚みを選ぶことができるが、好ましくは5μm〜60μmであり、より好ましくは、10μm〜50μmである。5μm以上の場合、接着強度が向上しやすく、また、袋を作成する際にシール不良やピンホールが発生しにくくなる。また、50μm以下の場合、コストが低くなる上、製袋された袋の引き裂き性がより優れる。
【0051】
ヒートシール層となるポリエチレン樹脂の融点は限定されないが、ポリスチレン系共重合樹脂のビカッット軟化温度より5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低い方がより好ましく、20℃以上低い方が更に好ましい。5℃以上低いと、ヒートシールできる温度範囲が広く得られ、良好な袋を得ることができる。
【0052】
ヒートシール層となるポリエチレン樹脂フィルムの引張伸度は、引裂性の観点から、低いほうが好ましい。ポリエチレン樹脂フィルムの伸度が大きいと、袋を引き裂いた際にポリエチレン樹脂からなるフィルムだけが伸びてしまい、層間で剥離が起こり、2軸延伸ポリスチレンフィルムがもつ引き裂き性の良さを阻害してしまい、袋を開封しづらくなる。この為、ポリエチレン樹脂フィルムの伸度は、900%以下が好ましく、より好ましくは700%以下である。同様に引裂性の観点から、ポリエチレン樹脂フィルムの弾性率は高い方が好ましい。ポリエチレン樹脂の曲げ弾性率は50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上である。これらの引っ張り物性はJIS−K−7113で測定され、曲げ弾性率はJIS−K−7203で測定される。
【0053】
本発明で、ポリエチレン系樹脂には、帯電防止剤が練りこまれている事を特徴とする。袋の中に入れる散薬等を充填包装する際に、粉末が帯電して入りにくいのを防いだり、袋から充填された粉体を取り出し易くする為に、ポリエチレン樹脂に帯電防止剤を練り込む必要がある。帯電防止剤は、ポリエチレン系樹脂に練り込まれていることにより、表面に必要以上存在することが無く、薬等への移行が妨げられる。
【0054】
本発明でポリエチレン系樹脂に練りこまれる帯電防止剤は特に限定されない。例をあげるならば、ノニオン系界面活性剤(エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型、アミン及びアミド型)、アニオン系界面活性剤(スルホン酸型、硫酸型、燐酸型)、カチオン系界面活性剤(アンモニウム型)、両性界面活性剤(イミダゾリン型、ベタイン型、アラニン型)が上げられる。特に好ましくは、グリセリン脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル類が、ポリエチレン系樹脂に混連し、帯電防止効果を高めるには良い。また、市販の製品を使用することができ、例えば、理研ビタミン(株)社製、リケマスター(登録商標)ESR−793、ESM−370、旭化成ケミカルズ(株)社製、サンテック(登録商標)A−203等が挙げられる。しかしながら、これらに限られるものではない。
【0055】
ポリエチレン系樹脂に練りこまれる帯電防止剤の添加量は、ポリエチレン樹脂に対して、1000ppm〜8000ppmが好ましい。ポリエチレン系樹脂に練りこまれた帯電防止剤は、散薬と接する側の表面だけでなく、その逆面、即ち他の層との接着界面側にもブリードアウトする。添加剤の量を上記範囲にすると、散薬接触面、接着界面、両面への帯電防止剤のブリード量が適度に制御できるので、優れた層間接着強度、及び引き裂き性と帯電防止性能を両立しやすくなる。さらに好ましくは、1300ppm〜6000ppmである。
【0056】
また、摩擦帯電を少なくする目的で、ポリエチレン系樹脂に、ポリスチレン系樹脂フィルム層と同様に、スリップ剤やブロッキング防止剤を、その積層フィルムの性能を落とさない範囲で添加しても構わない。その場合、添加量は、ヒートシール性や層間接着の観点から、それぞれ3000ppm以下が好ましい。
【0057】
ヒートシール性のポリエチレンフィルムと、2軸延伸ポリスチレンフィルムとを積層し、積層フィルムとする方法は限定されない。あらかじめ作製された2軸延伸ポリスチレンフィルムとポリエチレンフィルムとを張り合わせて積層してもよく、2軸延伸ポリスチレンフィルムの上に、溶融したポリエチレンを押し出してコート(ポリラミネーション)してもよい。これら方法の中でも、ポリラミネーションのほうが加工しやすく、積層フィルムの接着性をより高めることができるため好ましい。ポリラミネーション時には、あらかじめ接着性を高めた2軸延伸ポリスチレンフィルムを用いることは好ましい。また、オゾン処理や放射線処理等によりポリエチレン樹脂の活性を上げる(接着する樹脂層を酸化させて接着性を上げる)方法や、積層フィルムを積層加工後にエージング(熱処理炉にしばらく入れる)する方法も好ましい。ポリラミネーション時にポリエチレン樹脂を溶融押出する温度は、層間接着性の観点から280℃以上が好ましい。また、帯電防止剤は高温ではガス化し飛散するので、より効果的に帯電防止効果を発現させる為にも、ポリラミネーションの押出温度は350℃以下が好ましい。
【0058】
本発明で、ポリスチレンフィルム層とポリエチレンフィルム層の接着性を高める目的で、積層する前に接着剤としてアンカーコート剤を塗布しておくことは好ましい。アンカーコート剤は、接着性を高めるものであれば限定されないが、例えばウレタン系、イミン系、ブタジエン系、天然ゴム系、カゼイン、ポリビニルアルコール系、ポリアクリルアミド系、エーテル−無水マレイン酸系共重合体、ポリスチレン系重合体、ポリフェニレンエーテル系共重合体等のアンカーコート剤を使用できる。また、アンカーコート剤を溶かす溶剤や希釈液を、ポリスチレンフィルムに塗布する場合は、フィルムが溶剤で犯されないようにする為に、アルコール系や水系等の溶剤を使用することはより好ましい。これらの接着剤として用いるアンカーコート剤の塗布量は、接着性が損なわれなければ、必要最低限の量がよく、一般的に乾燥重量で10mg/m以下が好ましく、5mg/m以下がより好ましい。アンカーコート剤を塗布する際、塗布面の表面張力は、接着性の観点から35mN/m以上が好ましく、40mN/m以上がより好ましい。また、ブロッキング性の観点から80mN/m以下が好ましく、75mN/m以下がより好ましい。これらの表面張力値は、上記の物理的な方法及び/又は化学的な方法によって達成される。接着性が良いと、上記で述べたポリスチレンフィルムの引き裂き性の良さが生かされ、ポリエチレンフィルムと積層し、得られた袋の易開封性が達成できる。
【0059】
一方、積層フィルムの製造コストを下げる目的で、それぞれの樹脂を共押し出しし、積層フィルムを作る方法も好ましい。共押し出しする場合の積層フィルムの製造方法は、本発明の二軸延伸ポリスチレンを作製するフィルム化条件と同様である。また、共押し出しする際に、ポリスチレンフィルム層とポリエチレンフィルム層との接着性を高める目的で、接着剤として接着性の樹脂をポリスチレンフィルム層とポリエチレンフィルム層の層間に入れることも好ましい。これらの接着剤用の樹脂としては、アクリレート変性ポリエチレン樹脂(例えば、エチレンメチルアクリレート、エチレンエチルアクリレート、エチレンブチルアクリレート等)、アイオノマー樹脂、酸変性ポリエチレン樹脂(例えば、酸変性としては、無水マレイン酸、カルボン酸による変性樹脂)、エチレン・酢酸ビニル樹脂、スチレン−エチレンブロック共重合体、水添スチレン系エラストマー、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン樹脂、スチレン・エチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロックポリマー樹脂、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン樹脂、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン樹脂等が挙げられる。接着性を高める樹脂としては、アクリレート変性ポリエチレン樹脂、酸変性ポリエチレン樹脂が好ましい。これらの接着剤として用いる接着性の樹脂の量は、接着性が損なわれなければ、必要最低限の量がよく、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
【0060】
本発明で、積層フィルムの腰(ループステフネス)は0.7〜3.5gが好ましい。ループステフネスは後述する方法により測定する。0.7g以上であれば、フィルムに十分な腰がある為、薬剤を内封する際に、製袋機の各種ロールや薬剤を入れるホッパー等に必要以上にすれる事がないので、摩擦帯電が起こり難くなる。この為、静電気の発生量が押さえられ、ホッパーへの散薬付着、袋シール部への散薬噛み込み、袋内部への散薬付着等の不具合が発生しなくなる。この中でも特に、ホッパーへの散薬付着を予防できる点が有用である。ホッパーに静電気がたまると、それにより散薬が付着しつづけ、最終的には、付着した散薬がまとめて落下し、1つの袋に入る場合がある。これは、より薬効の高い薬を少量使用する場合は、患者への適当量の服用を妨げる事にもなる。また、種々の薬を1つの機械で分包する際には、ホッパーへの散薬付着は薬のコンタミにもつながり、ひいては患者に悪影響を及ぼす。この為、静電気の発生を抑えることは大変重要であり、各フィルム面の帯電防止処理だけでなく、フィルムの物性(腰)による対策も必要である。また、腰があると、薬を飲む際にフィルムが曲がらないので、薬が飲みやすくなる利点もある。一方、ループステフネスが3.5g以下であれば、積層フィルムが固くなりすぎず、各工程での操作性に優れる。また引き裂き性も良い。
【0061】
本発明のループステフネスを制御する方法は、積層フィルムの厚みが大きい要点である。即ち、積層フィルムの厚みで、25μm〜80μmが良い。又、ループステフネスは、積層するフィルムの構成によっても異なる為、適宜選択することが望ましい。即ち、ループステフネスは、より剛性の高い基材フィルム(I)によるところが大きく、その意味で、基材フィルムは10μm以上であることが望ましい。また基材フィルムの耐熱性(Vsp)は、そのフィルムの剛性(ループステフネス)にも左右し、Vspが高いほうが、よりループステフネスが高くなる。また、各フィルム層(I、II)の延伸度や結晶性によってもループステフネスは変化し、より延伸度が高いほうが、又より結晶性が高いほうが、積層フィルムの剛性(ループステフネス)は高くなる。この意味で、使用する積層フィルムのループステフネスは、積層する各フィルムの層の厚さや特性を選定することで、より良く達成できる。
【0062】
本発明の積層フィルムのポリスチレン系樹脂面の帯電減衰率の半減期は300秒以下が好ましい。帯電減衰率の半減期は、JIS−L1094に準じ、温度20℃、相対湿度20%の雰囲気下で測定した。300秒以下であると散薬のヒートシール面への噛み込みにくくなり、良好にヒートシールしやすくなる。また袋の内面(ポリエチレンフィルム面)に、薬が静電気で付着しにくくなり、服用する際に容易に適量を飲みやすくなる。また、帯電減衰率の半減期が300秒以下であれば、分包時の摩擦による静電気の発生も少ないため、分包機の金属ロールやホッパー等も帯電しにくくなる。
【0063】
本発明のフィルムのHAZEは50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下である。HAZEが50%以下であればフィルムを袋等の商品に加工した場合、袋に入れた医薬品や食品等の種類、色、形状等の情報を容易に読み取れる為好ましい。特に本フィルムを使用した医薬品等の袋であれば、内包した医薬品の確認が容易である。医薬品の識別番号や色を確認する為には、透明性は重要な因子であるため、フィルムは無色に近いほうがより好ましい。ただし、アルミをラミネートした場合には、透明性は要求されない。
【0064】
本発明で、積層フィルムの動摩擦係数は、ポリスチレン系樹脂フィルム側は、SUSに対して0.10〜0.30、ポリスチレン系樹脂フィルム面同士で0.15〜0.40が望ましく、ポリエチレン側は、SUSに対して0.20〜0.45、ポリエチレン面同士で0.10〜0.60が望ましい。動摩擦係数が上記範囲だと、散薬を分包する際のフィルム滑りによる蛇行が起こりにくく、また、摩擦による静電気が発生しにくくなる。既に述べたが、分包袋の内面や分包機のホッパーの帯電を防止する事は、散薬を定量的にコンタミなく分包し、正確な量を服用する為にも重要である。袋の内面及びホッパーに接する面はポリエチレン系樹脂面であるので、摩擦帯電防止の観点から、ポリエチレン側の滑り性は、SUSに対して0.40以下、ポリエチレン面同士で0.55以下がより好ましい。
【0065】
本発明の積層フィルムの加熱収縮応力は、フィルムの腰や熱収縮性、引き裂き性の観点から、任意の方向に50〜3000KPaが好ましく、100〜2000KPaがより好ましい
【0066】
本発明の袋は、前記した2軸延伸ポリスチレンフィルムを外側に、ポリエチレンフィルムを内側になるように配置されている。2軸延伸ポリスチレンフィルムを外側にすることによって、本フィルムの引き裂き性の良さを生かし、より直線的に易開封な袋状物とすることができる。
【0067】
本発明で、積層フィルムを用いてヒートシールし、袋状物を得るための接着方法は限定されず、いろいろな接着方法をとることができるが、例えば熱ロールの間を2枚のフィルムを通しヒートシールする方法や、熱板で2枚のフィルムの上から押さえつける方法等が挙げられる。
【0068】
また、本発明の袋は、包装用袋、特に袋の外周の縁部の少なくとも2片にヒートシール線が位置するようにヒートシールしてなる開封容易な包装用袋であることが好ましい。例えば三角形の袋の場合、折りたたんだ2辺をヒートシ―ルすればよく、一般的な四角形の袋では、3方シールや、4方シールで袋状物を作成してもよく、またピロー状包装でもよい。これらの袋状物の形状は、医薬品や食品を詰める袋の供給者が、内包するものの性状や、それを実際に消費する使用者の利便性を考慮し選定すればよい。また、ヒートシールする部分や幅も、使用者が適宜選定すればよい。
【0069】
本発明で、袋を作る際に、2軸延伸ポリスチレンフィルムとポリエチレンフィルムとの積層フィルム以外の樹脂フィルムやアルミ箔を使用することは、その引き裂き性や引き裂きの直進性を損なわなければ使用できる。一般的な樹脂フィルム(ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、フッ素系フィルム、サラン系フィルム、COCフィルム、管状オレフィン系フィルムなど)の引き裂き性や引き裂き直進性を上げる場合は、本発明の積層フィルムを複合することにより、袋の開封性をより向上することができる。しかしながら、一般に用いる樹脂フィルムは、手で容易に引き裂けるという引き裂き性や引き裂き直進性は非常に悪く、易開封性の目的を達成する袋が必要な場合には、2軸延伸ポリスチレンフィルムとそれに接合されたポリエチレンフィルムのみからなることが好ましい。また、バリヤー性を高める目的では、アルミ箔を使用することもより有効な対応である。例えば、2軸延伸ポリスチレンフィルムとポリエチレンフィルムとの間にアルミ箔を配し、袋の防湿効果を向上させ、内容物の保存安定性を上げることができる。
【0070】
また、最終的に使用する袋は表面に印刷をする場合があるが、この印刷性を高める為に、放電加工等の物理加工やコーティング等の処理をすることは好ましい。
【0071】
本発明では、3mm以下の粉状の薬を内包するに有効な積層フィルムである。粉状の薬(散薬、顆粒約、ドライシロップ、細粒薬)は、子供や老人に飲み易く、また近年は、漢方薬が人体にもやさしく有効であるとされている。これらの正式分類は日本薬局方で定義されている。本発明では、これらの粒子径の細かい顆粒剤や散薬に有効である。これらの形状の薬は、帯電を帯びると粒子径が小さいことから重量が小さく、粉状に舞いやすい。一たん静電気を帯びた粉状の薬は、空気中に舞い上がったり、他の部分に付着しやすくなる。また、顆粒状の薬は、運搬や保管に際し、更に細かくなり、より帯電防止性能が必要となる。この意味で、3mm以下の粒子に有効であり、さらには1mm以下の粒子を包むのにより適している。また、ドライシロップでは、より薬を飲みやすくしているため、水に溶かして飲むように設計されているが、これらの薬は粘調であるため、袋の内面につきやすい。このため、より帯電防止性能や、付着防止性能要求される。
【実施例】
【0072】
次に、実施例および比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、フィルムの流れ方向は、MD、とし、巾方向は、TD、と記載した。
【0073】
まず、実施例および比較例で用いた、フィルムの作成方法、及び得られたフィルムを用い、最終製品の性能を評価するための加工方法を記載する。
【0074】
<ポリスチレン系樹脂フィルムの作成方法>
ポリスチレン系樹脂をL/D=32の65mmφのスクリューを有する押出機で、Tダイから押出したパリソンをロール加熱式MD延伸機で延伸した後、テンターによりTD延伸して冷却し、シートを巻取って所望のフィルムを得る。フィルムの厚みはダイスリット巾と延伸倍率により適宜調整した。
【0075】
<ポリスチレン系樹脂フィルムへのコーティング方法>
塗布するフィルム面を50mN/mの表面張力となるようにコロナ処理を行った。尚、コロナ処理は春日電機(株)社製のAGI−060MD型を用いて実施した。ついで、コーティング組成物の水溶液をスプレーコーターでフィルム表面に塗布した後、90℃の熱風乾燥機中を通過させ、水分を除去した。尚、界面活性剤と水溶性高分子の合計付着量(乾燥後)は25mg/mとした。コーティング剤の処方については、表1に記載する(処方A〜F)。
【0076】
【表1】

【0077】
<積層フィルムの作成方法>
ポリスチレン系樹脂フィルムの未コート面を40mN/mの表面張力となるように放電加工し、放電加工した側にイミン系アンカーコ−ト剤(東洋モートン(株)社製、EL−420(商品名))を乾燥塗布量で約4mg/mとなるように塗布し、乾燥した後、ポリエチレン系樹脂をダイ温度320℃で、厚み20μmとなるように上記ポリスチレン系樹脂フィルム上に押し出し、積層フィルムとした。ポリエチレン系樹脂の組成については、表2に記載する(組成(1)〜(6))。
【0078】
【表2】

【0079】
<包装用袋の作成>
試作した積層フィルムを用い、散薬の分包を実施した。分包機として(株)湯山製作所社製、Charty(登録商標)を使用し、分包条件は、分包数:20包、分包速度:45包/分、分包散薬量:3g、シール温度:120℃とした。散薬として、協和発酵工業(株)社製、パセトシン(登録商標)を用いた。
【0080】
次に、実施例および比較例で用いた、評価方法と判定基準について以下に説明する。
(1)ビカット軟化温度(以下:Vspと称する)
ASTM−D−1525に準拠して測定した(荷重9.8N、昇温速度5℃/min)。
(2)フィルムの引き裂き強力
JIS−K−7128に準拠し試験片を作成し、フィルムのTD方向とMD方向の測定を行った。但し、測定はフィルム一枚毎とし、この測定を5回繰り返し、その平均値を整数値(小数点第一位を四捨五入)で求めた。
(3)ループステフネス
東洋精機(株)社製のループステフネステスターを用い、サンプル幅25mm、サンプル長さ150mm、チャック間隔70mm、押し込み深さ9mm、圧縮速度3.3mmで測定を実施した。
(4)半減期
JIS−L1094に準拠し、温度20℃、相対湿度20%の雰囲気下、印加電圧10kV、電極―サンプル間距離20mmの条件下で測定した。
(5)動摩擦係数
JIS−K7125に準拠して測定した。
(6)HAZE
ASTM−D1003に準拠して測定し、小数点以下一桁の値に四捨五入して求めた。
(7)分包品の外観評価
分包した袋の外観検査を下記の観点で実施した。
○:ヒートシール部分にも全体にも熱収縮による皺や不具合がなく、外観のよい袋である。
△:ヒートシール部分が少し収縮し、外観が劣る袋である。
×:ヒートシール部分や全体に熱収縮による皺や不具合が発生した袋となった。
(8)分包品のカット性(易開封性)
分包した袋20サンプルを袋の巾方向(フィルムの巾方向)を手でカットし、最も良い易開封性を示したものを標準とし、以下の評価基準で判定した。また、引き裂く部分は、ヒートシールされた部分とフィルムを折り曲げただけの部分から実施した。
○:簡易に引き裂けた。
△:少し、引き裂くことに抵抗を感じた。
×:なかなか引き裂けなかった。
(9)分包品の直線開封性
分包した袋20サンプルを、手で袋の縁側に垂直方向に引き裂き、その開封方向に直線的に引き裂き面が伝播したかどうかを以下の評価基準で判定した。
○:20包とも、直線的に引き裂けた。
△:1包〜2包、引き裂き面がずれた。
×:3包以上で引き裂き面がずれた。
(10)分包品の散薬噛み込み
分包したサンプルのヒートシール面への散薬噛み込み有無を目視で確認した。
○:20包とも、散薬噛み込みが無い
△:1包〜2包、散薬噛み込みがあった
×:3包以上散薬噛み込みがあった
尚、分包速度60包/分で、且つ120包連続包装においても散薬噛み込みが発生しないものを◎で表記した。
(11)分包品からの散薬の取り出し性
分包したサンプルを、直ぐに開封し、散薬を取り出した際に、静電気やフィルムべたつきにより、袋の内側に散薬残りの有無を確認した。
◎:20包とも、袋内部への散薬の残りがない。
○:分包した直ぐの状態で、20包中に1〜2包で散薬が付着した。分包後30分放置した後の袋では、散薬は残らなかった。
△:分包後、1時間放置した状態でも、散薬がのこった。分包した直後では、ほぼすべての袋で散薬の残りがあった。
×:一時間以上放置した状態でも、3包以上で散薬残りがあった。
【0081】
[実施例1]
ポリスチレン系樹脂として、DIC(株)製のスチレン−メタクリル酸共重合樹脂、リューレックス(登録商標)A−14を用い、これにPSジャパン(株)社製のメチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合エラストマー、SX100(商品名)と、PSジャパン(株)社製のHIPS、HT478(商品名)を順に80:10:10のwt%でチップブレンドし、押し出し、テンター法により製膜した。このフィルムに処方Aでコーティング後、組成(1)で積層フィルムを作成した。
[実施例2]
ポリスチレン系樹脂として、DIC(株)社製のスチレン−メタクリル酸共重合樹脂、リューレックス(登録商標)A−14を用い、テンター法により製膜した。このフィルムを用いて実施例1と同様に積層フィルムを作成した。
[実施例3]
ポリスチレン系樹脂として、PSジャパン(株)社製のスチレン−メタクリル酸共重合樹脂、G9001(商品名)を用い、これにPSジャパン(株)社製のブチルアクリレート/スチレン共重合エラストマー、SC004(商品名)、PSジャパン(株)社製のハイインパクトポリスチレン(HIPS)、HT478(商品名)を順に75:10:15のwt%でチップブレンドし、テンター法により製膜した。このフィルムを用いて実施例1と同様に積層フィルムを作成した。
【0082】
[実施例4]
ポリスチレン系樹脂として、α−メチルスチレンの共重合比率が35wt%のα−メチルスチレン/スチレン共重合樹脂を用い、平均ゴム粒径0.8μm、クラフトゴム成分16.4%のHIPSを1wt%チップブレンドし、押し出し、テンター法により製膜した。このフィルムを用いて実施例1と同様に積層フィルムを作成した。
[実施例5]
ポリスチレン系樹脂として、出光興産(株)社製のシンジオタクチックポリスチレン、ザレック(登録商標)201AEを用い、PSジャパン(株)社製のポリスチレン樹脂、GP685(商品名)を、順に50:50wt%でチップブレンドし、テンター法により製膜した。このフィルムを用いて実施例1と同様に積層フィルムを作成した。
[実施例6〜8]
実施例1と同じ樹脂を用い、剛性(ループステフネス)の異なるポリスチレン系樹脂フィルムをテンター法により製膜した。このフィルムを用いて実施例1と同様に積層フィルムを作成した。
【0083】
[実施例9〜11]
実施例1と同様にポリスチレン系樹脂フィルムをテンター法により製膜した後、コーティング液の処方を変更してコーティングを実施し、組成(1)で積層フィルムを作成した。
[実施例12〜15]
実施例1と同様にポリスチレン系樹脂フィルムをテンター法により製膜、コーティング後、ポリエチレン系樹脂の組成を変更し、積層フィルムを作成した。
【0084】
[比較例1]
ポリスチレン系樹脂として、PSジャパン(株)社製のポリスチレン樹脂、GP685(商品名)を用い、PSジャパン(株)社製のハイインパクトポリスチレン(HIPS)、HT478(商品名)を順に98:2のwt%でチップブレンドし、押し出し、テンター法により製膜した。このフィルムを用いて実施例1と同様に積層フィルムを作成した。
[比較例2]
ポリスチレン系樹脂フィルムとして、大石産業(株)社製、セロマー(登録商標)30を用い、実施例1と同様に積層フィルムを作成した。
[比較例3]
ポリスチレン系樹脂として、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂を用い、テンター法により製膜した。このフィルムを用いて実施例1と同様に積層フィルムを作成した。
[比較例4〜5]
実施例1と同様にポリスチレン系樹脂フィルムをテンター法により製膜した後、コーティング液の処方を変更してコーティングを実施し、組成(1)で積層フィルムを作成した。
【0085】
[比較例6]
実施例1と同様にポリスチレン系樹脂フィルムをテンター法により製膜した後、コーティングを施さずに組成(1)で積層フィルムを作成した。
[比較例7]
ポリスチレン系樹脂のブレンド組成物に対し、機能材を練りこむ方法で積層フィルムを得た。即ち、実施例1に記載のポリスチレン系樹脂のブレンド組成物に対し、界面活性剤(スルホン酸ナトリウム)として、東邦化学工業(株)社製、アンステックス(登録商標)HT−100を2.5wt%、水溶性高分子(ポリグリセリン脂肪酸エステル)として、阪本薬品工業(株)社製、SYグリスター(登録商標)TS−500を0.5wt%加え、樹脂に練りこみ混錬し、これを押し出し、実施例1と同様にテンター法により製膜した。このフィルムを用い、組成(1)で積層フィルムを作成した。
[比較例8]
実施例1と同様にポリスチレン系樹脂フィルムをテンター法により製膜、コーティング後、無添加のポリエチレン樹脂を使用し、積層フィルムを作成した(組成6)。
【0086】
実施例を表3に示す。実施例1〜5に示すように、ポリスチレン系樹脂層の原料として、ビカット軟化温度が110℃以上の種々のポリスチレン系樹脂を用い、ポリスチレン系樹脂フィルム層(基材フィルム(I)に相当)、ポリエチレン系樹脂層(基材フィルム(II)に相当)それぞれに所定の帯電防止処理を施した場合、いずれの場合にも熱収縮による外観不良や散薬噛み込みも無く、カット性に優れた分包袋が得られた。また、実施例6〜9に示すように、フィルムの剛性(ループステフネス)が異なるサンプルにおいても不具合無く分包袋が得られた。但し、剛性が極端に小さいものや(厚みもすい)、剛性が大きいもの(厚みも厚い)では、少し帯電性に関して低下が見られた。実施例10〜14に示すようにポリスチレン系樹脂面、ポリエチレン系樹脂面、各面の帯電防止処理処方を変更しても、散薬噛み込みなく分包可能であった。
【0087】
【表3】

【0088】
比較例を表4に示す。比較例1〜3に示すように、ビカット軟化温度が110℃以下のポリスチレン系樹脂を原料として用いた場合、分包時にフィルムの熱収縮が発生し、分包袋の外観が劣る結果となった。また、実施例4〜6に示すように、ポリスチレン系樹脂層(I)のコーティング組成物が用件を満たしていなかったり、コーティングを施していない場合、十分な帯電防止性能が発現せず、散薬噛み込みが発生した。また、実施例7に示すように、界面活性剤と親水性高分子をコーティングではなく練りこみで添加した場合も、帯電防止性能が不十分であり、散薬噛み込み等の静電気トラブルが発生した。また、ポリエチレン系樹脂層(II)の帯電防止処理が不十分な場合も同様に、散薬噛み込みの不具合が発生した(比較例8)。
【0089】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により、切り裂きやすく、かつ、帯電防止性能に優れ、散薬等の内容物付着防止効果の高い積層フィルム及び袋を提供可能となる。これは特に、医薬品包装や食品包装等の包装材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂組成物からなる2軸延伸された基材フィルム(I)と、ポリエチレン系樹脂組成物からなる基材フィルム(II)とが積層されてなる積層フィルムであって、
前記基材フィルム(I)のビカット軟化温度が110℃以上であり、前記基材フィルム(I)の表面に界面活性剤を主成分とする帯電防止剤と水溶性高分子が付着しており、且つ前記ポリエチレン系樹脂組成物に帯電防止剤が練りこまれている事を特徴とした積層フィルム。
【請求項2】
ループステフネスが縦横共に0.7g〜3.5gである事を特徴とした請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルム(I)における前記帯電防止剤と前記水溶性高分子が付着した面の帯電減衰率の半減期が300秒以下であることを特徴とした請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコールであることを特徴とした請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記ポリスチレン系樹脂が、スチレン−アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種類の樹脂を主成分とし、ビカット軟化温度が110〜155℃である非晶性ポリスチレン系共重合樹脂からなることを特徴とした請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記ポリスチレン系樹脂が、スチレン−αメチルスチレン共重合樹脂を主成分とすることを特徴とした請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記ポリスチレン系樹脂が、シンジオタックチック構造のポリスチレン系樹脂を主成分とすることを特徴とした請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項8】
ASTM−D1003に準じて測定されるHAZEが50%以下であることを特徴とした請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の積層フィルムからなる袋であって、
前記基材フィルム(II)が内側にヒートシールされ、平均粒子径3mm以下の粉状の薬を内包した袋。

【公開番号】特開2010−94948(P2010−94948A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270048(P2008−270048)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】