説明

積層ポリエステルフィルム

【課題】高い選択反射性能を有し、マット感を有しており、粒子などの脱落やサンドブラスト残留物などがなく、かつ装飾加工時に剥離や破断が生じない積層ポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】隣り合う層の光学厚みの和が140〜700nmの範囲となるポリエステル樹脂Aからなる層(A層)とポリエステル樹脂Bからなる層(B層)を交互にそれぞれ50層以上積層した構造を含み、相対反射率が50%以上となる反射帯域を少なくとも1つ有する積層フィルムであって、ポリエステル樹脂Aからなる未延伸フィルムの平衡水分率をa、該積層フィルムにおける体積分率をxとし、ポリエステル樹脂Bからなる未延伸フィルムの平衡水分率をb、該積層フィルムにおける体積分率をyとしたときに、前記積層フィルムの平衡水分率cとしたとき、下記(1)式を満たすことを特徴とする積層ポリエステルフィルムとする。
ax + by < c ・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の樹脂が交互に積層され、光沢とマット調の質感をもった積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光沢感とマット感を併せ持つ積層フィルムは種々提案されており、主に加飾材料として自動車部品をはじめとして各種家電機器、建築部材などの製品、部材などの各種用途で使用されている。中でも、自動車や携帯電話、家電製品などの加飾材料として用いるフィルムとしては電磁波シールド性をもたないことが求められており、金属を用いずに光沢感を有する材料が求められている。例えば、屈折率の異なる樹脂層を交互に積層することにより選択的に特定の波長の光を反射するフィルムが知られている(特許文献1)。選択的に特定の波長を反射するフィルムは、偽造防止用ホログラムや液晶ディスプレイなどのバックライト用リフレクターなどに利用されている。
【0003】
また、樹脂に粒子を加えることで、マット感を有する装飾材料が知られている。しかしながら、このような選択的に特定の波長を反射するフィルムに粒子添加を行なうことでマット感を持たせたフィルムでは、粒子添加量によってマット感を制御するため、マット感を強めるためには粒子添加量を増加させる必要があり、ハンドリング性や印刷層を設けたときのインク密着性が必ずしも十分でないという問題があった。また、フィルムの層間での剥離がおきる懸念もあった。
【0004】
フィルムにマット感を持たせる方法としては種々提案されており、フィルム中に結晶核剤を添加することでフィルムの表面に突起を形成し、光拡散性を持たせるフィルムが知られている(特許文献2)。しかしながら、このフィルムは表面に突起を持つため装飾加工時にインク密着性が悪いという問題があり、印刷層を設けることが困難であるので、用途が限定されてしまう。
【0005】
また、高い反射度を有したフィルムとしては、フィルム中に硫酸バリウムを含有させた白色フィルム(特許文献3)や、フィルム中にボイドを形成することで光を拡散・反射させるフィルム(特許文献4)知られている。しかしながら、無機粒子を用いた場合はハンドリング性やインク密着性が必ずしも十分でなく、フィルム中にボイドを形成する技術では十分な機械特性が確保できず装飾加工時にフィルムが破断してしまうというおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−059332号公報
【特許文献2】特開2008-83454号公報
【特許文献3】特開2004-330727号公報
【特許文献4】特開平8-333466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、原理的には粒子などを用いることなく高い選択反射性能とマット感を有し、かつ装飾加工時に剥離や破断が生じない積層ポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は,以下本発明によって達成することができる。即ち、
(1)隣り合う層の光学厚みの和が140〜700nmの範囲となるポリエステル樹脂Aからなる層(A層)とポリエステル樹脂Bからなる層(B層)を交互にそれぞれ50層以上積層した構造を含み、相対反射率が50%以上となる反射帯域を少なくとも1つ有する積層フィルムであって、ポリエステル樹脂Aからなる未延伸フィルムの平衡水分率をa、該積層フィルムにおける体積分率をxとし、ポリエステル樹脂Bからなる未延伸フィルムの平衡水分率をb、該積層フィルムにおける体積分率をyとしたときに、前記積層フィルムの平衡水分率cとしたとき、下記(1)式を満たすことを特徴とする積層ポリエステルフィルム、
ax + by < c ・・・(1)
(2)前記積層ポリエステルフィルム中に含まれる直径0.05μm以上の粒子の量が0.1wt%未満であることを特徴とする前記(1)に記載の積層ポリエステルフィルム、
(3)前記積層ポリエステルフィルムのLsce*が20%以上であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の積層ポリエステルフィルム、
(4)積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bの少なくとも一方が、非晶性樹脂である前記(1)〜(3)の何れかに記載の積層ポリエステルフィルム、
(5)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムを用いた成型体、
(6)ポリエステル樹脂Aからなる層(A層)とポリエステル樹脂Bからなる層(B層)を交互にそれぞれ50層以上積層した構造を含む積層ポリエステルフィルムを60℃〜150℃の熱水中またはスチーム中に3分間以上保持する熱水処理工程を含み、該熱水処理工程によってLsce*を20以上増加せしめる積層ポリエステルフィルムの製造方法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い選択反射性能とマット感を有し、かつ装飾加工時に剥離や破断が生じない積層ポリエステルフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に例を挙げて説明する。
【0011】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂Aからなる層(A層)とポリエステル樹脂Bからなる層(B層)が交互に50層以上積層され、相対反射率が50%以上の反射帯域を少なくとも一つ有するものである。
【0012】
本発明に用いるポリエステルとしては、オキシカルボン酸が重縮合して得られるポリエステルやジカルボン酸とジオールとが重縮合して得られるポリエステルが代表的なものである。係るポリエステルは単一の繰り返し単位からなるポリエステルでも複数の繰り返し単位からなる共重合ポリエステルであっても良い。例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンジフェニルレートなどが代表的なものである。特にポリエチレンテレフタレートは、安価であるため、非常に多岐にわたる用途に用いることができるため好ましく用いられる。他にも、用いうるジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。用いうるジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどが挙げられる。こうした成分を適宜組み合わせれば、種々のポリエステルが作製できる。
【0013】
本発明においては、二種のポリエステル樹脂を用いるが、該二種のポリエステル樹脂の溶解度パラメータ(SP値)の差の絶対値は1.0以下であることが好ましい。このSP値とは、ヒルデブラント(Hildebrand)によって導入された正則溶液論により算出される値として良く知られるものである。SP値の差の絶対値が1.0以下であると層間剥離が生じにくくなる。
【0014】
好ましいポリエステル樹脂の組合せとしては、ポリエチレンテレフタレートとスピログリコールをジオール単位に用いたポリエステルが挙げられる。スピログリコールをジオール単位に用いたポリエステルとは、スピログリコールが共重合された共重合ポリエステル、またはスピログリコールを用いたホモポリエステル、またはそれらをブレンドしたポリエステルのことをいう。スピログリコールをジオール単位に用いたポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートとのガラス転移温度差が小さく、これらと共押出法にて製膜しても過延伸になりにくく、かつ層間剥離も生じにくい。より好ましくは、ポリエステル樹脂Aとしてポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートを用い、ポリエステル樹脂Bとしてスピログリコールとシクロヘキサンジカルボン酸が重合成分として用いられたポリエステルであることが好ましい。スピログリコールとシクロヘキサンジカルボン酸を重合成分として用いたポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートとの面内屈折率差が大きくなるため、これらと積層したときには高い反射率が得られやすくなる。その他、ポリエステル樹脂Bとしては、ジカルボン酸成分とジオール成分が合わせて3種以上用いて重縮合して得られる構造を有するものを用いることもできるジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0015】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、隣り合う層の光学厚みの和が140〜700nmの範囲となるポリエステル樹脂Aからなる層(A層)とポリエステル樹脂Bからなる層(B層)が交互にそれぞれ50層以上積層された構造を有している。交互に積層された構造とは、A層とB層とが厚み方向に交互に積層された状態をいう。また、交互に積層されたA層とB層の数としては、好ましくそれぞれ200層以上、さらに好ましくはそれぞれ600層以上である。また、光学厚みとは面内平均屈折率と物理的な層厚みの積をいう。隣り合う層の光学厚みの和が140〜700nmの範囲となるA層とB層をそれぞれ50層以上積層した構造を含まないと、反射帯域が狭い若しくは反射率が低いといった反射性能に劣るフィルムとなる。また、200層以上とすると、反射帯域を広幅化することが容易となり、600層以上であると50%以上の反射率を有する300〜600nmの広い反射帯域を有する積層ポリエステルフィルムとすることも可能となる。300nm〜600nmに反射帯域を有すると積層ポリエステルフィルムの外観は金属調とすることができ、反射率を高くすればするほどその度合いは更に高まる。積層数の上限値としては特に限定するものではないが、積層装置の大型化や層数が多くなりすぎることによる積層精度の低下に伴う波長選択性の低下を考慮すると、それぞれ1500層以下程度とすればよい。
【0016】
本発明の積層ポリエステルフィルムは相対反射率が50%以上となる反射帯域を少なくとも一つ有している。金属調の外観を得る上では反射帯域は望ましく、380〜2500nmの波長領域に存在することが好ましい。反射帯域とは50%以上の反射率を示す20nm以上の幅を有する波長の範囲(幅)をいい、好ましくその幅は50nm以上であり、より好ましくは380〜1400nmの区間で反射率が50%以上であるものである。かかる積層ポリエステルフィルムとするには、製膜時に用いるフィードブロックにおいて各層の厚みを表面側から反対表面側に向かうにつれ徐々に厚くなるよう設計し、前記A層とB層からなる厚み方向に交互に積層された構造とすることで達成できる。
【0017】
本発明において、A層の面内平均屈折率とB層の面内平均屈折率の差が0.03以上であることが好ましい。より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.1以上である。屈折率差が0.03より小さい場合には、十分な反射率が得られ難いか反射帯域が狭くなる。一方のポリエステル樹脂を非晶性のポリエステル樹脂とすることによって、シート状に成形した後のテンターでの熱処理によってB層の配向緩和を生ぜしめることによりA層とB層の面内平均屈折率の差を大きくすることができる。非晶性の樹脂とは、分子の配列に規則性がなく、延伸によって結晶化しない樹脂のことをさす。
【0018】
ポリエステル樹脂Aからなる未延伸フィルムの水分率をa、ポリエステル樹脂Bからなる未延伸フィルムの水分率をbとしたときに、本発明の積層ポリエステルフィルムのA層の体積分率をx、B層の体積分率をyとしたとき、該積層ポリエステルフィルムの平衡水分率cが下記(1)式を満たすことが必要である。
【0019】
ax + by < c ・・・(1)
ここでいう平衡水分率とは、温度20℃、湿度50%RHの雰囲気の下で重さが変化しなくなるまでおいておいたときの質量をd(但し、おいておく時間が120時間を超えるときは、120時間経過時の質量とする)、170℃で加熱して重さが変化しなくなるまでおいておいたときの質量をeとしたときに、下記(2)式で示される値である。
【0020】
平衡水分率 = ( d -e ) / d × 100 ・・・(2)
なお、平衡水分率は、加熱乾燥式水分計MS−70((株)エー・アンド・デイ製)等を用いて測定することができる。 特に好ましくは、下記(3)式を満たすことが好ましい。
【0021】
2 ( ax + by ) < c ・・・(3)
式(3)を満たすことにより、さらに明度LSCE*を向上させることが可能となる。
【0022】
前記(1)式を満たす為には、少なくともポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bの少なくとも一方が非晶性樹脂であることが好ましい。具体的には、スピログリコールとシクロヘキサンジカルボン酸が重合成分に用いられたポリエステル、またはエチレングリコールとアジピン酸が重合成分として用いられたポリエステルが好ましく挙げられる。また、このようなポリエステルを用いることによって、明度LSCE*が20以上であるマット調光沢のある積層ポリエステルフィルムを得ることが出来る。なお、明度LSCE*とは、正反射光を除去して色を測る方法(SCE方式)によって測定される明度のことを示し、本発明では分光測色計CM-3600d((株)コニカミノルタセンシング製)により測定されたものである。また、マット調とは、表面の光沢を抑えた低光沢・つや消しの仕上がりをいう。マット調の度合いについては、明度LSCE*が20以上であることが好ましく、明度LSCE*が50以上であることが更に好ましい。
【0023】
明度LSCE*はポリエステル樹脂Aからなる層(A層)とポリエステル樹脂Bからなる層(B層)を交互に積層するその層数によって調整することもできる。すなわち、単位厚みあたりの積層数を少なくすることで明度LSCE*は上がり、積層数を多くすることで明度LSCE*は下がる。これは、積層ポリエステルフィルム中に水が吸収される際、積層数が多いほど水が浸入する経路が狭まる為と考えられる。
【0024】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、前記(1)式を満たす方法としては、例えば熱水処理を施すことが挙げられる。このようにすることによって、該積層ポリエステルフィルムにマット調を付与させることが出来る。マット調が発現する作用については未だ明確ではないが、熱水処理によりフィルム内部に微細な空隙が形成され、ポリマーと空隙の界面にて光が散乱ないし反射し、それが厚み方向で多重に観測されるからであると考えられる。ここで言う熱水処理とは、60℃〜150℃の熱水中またはスチーム中に3分間以上保持することをいう。
【0025】
熱水中に保持する際の温度・保持時間は、調整することによりマット調の度合いを調節できる。温度と保持時間は大きくするほど明度LSCE*は上がる傾向にある。前記熱水処理によって、明度LSCE*が20以上上昇せしめるが、好ましく明度LSCE*は30以上上昇せしめ、特に好ましく明度LSCE*は40以上上昇せしめる。
【0026】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、フィルム中に含まれる直径0.05μm以上の粒子の量が0.1wt%未満であることが好ましい。粒子は光を吸収したり透過を妨げたりするので光沢感のあるマット調(真珠光沢様)の外観の達成のためにはこのような構成とすることが好適であるからである。また、粒子を多く用いすぎると装飾加工時に層間の剥離が生じることがあるので、加工性の面でも係る範囲とすることが望ましい。
【0027】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、150℃における100%伸張時の応力(F−100値)が、10〜70MPaの範囲にあることが望ましい。このような構成にすることにより、成型性の改善がはかれるとともに、加圧力が少なくてもハリやカドを出すことが可能となるため、積層ポリエステルフィルムへのクラックが低減する。より好ましいF−100値の範囲は20〜60MPaであり、成型性がさらに良化する。F−100値を70MPa以下とするには、本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて20〜80重量%の範囲で非晶性ポリエステルを含ませることが簡便である。より好ましくは40〜60重量%の範囲である。詳細な理由は判らないが、積層ポリエステルフィルムの伸張応力の低減がはかれることが関係していると思われる。
【0028】
本発明の積層ポリエステルフィルム上にさらに他のフィルムを積層し、あるいは、印刷層、接着層、耐スクラッチ層などの構成を設けることに特に差し支えはない。例えば、本発明の積層ポリエステルフィルムの片面もしくは両面に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂層、もしくはそれらの共重合樹脂層が設けられていることは好ましい利用態様である。該塗膜層の表面粗さ(Ra)が8〜30nmの、厚さ10〜1000nmとすると、接着性が良好となるため望ましい。また、これらの樹脂層の中でもアクリル・ウレタン共重合樹脂層は、他の樹脂層と比べて耐湿密着性に優れ、且つ成型加工性に優れるため好ましい。
【0029】
アクリル・ウレタン共重合樹脂層のアクリル樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基など)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドなどのアミド基含有モノマー、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのアミノ基含有モノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有モノマー、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩など)などのカルボキシル基またはその塩を含有するモノマーなどを用いることができ、これら1種もしくは2種以上のモノマーを用いて共重合される。更に、これらは他種のモノマーと共重合することができる。
【0030】
アクリル・ウレタン共重合樹脂層のウレタン樹脂は、アニオン性基を有する水溶性あるいは水分散性のウレタン樹脂であれば特に限定されるものではなく、主要構成成分としては、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物を共重合して得られるものである。該ウレタン樹脂としては、カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、または硫酸半エステル塩基の導入により水への親和性が高められたウレタン樹脂などを用いることができる。カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、または硫酸半エステル塩基などの含有量は、0.5〜15重量%が好ましい。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、アクリル系ポリオールなどを用いることができる。
【0031】
また、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などを用いることができる。
【0032】
ここで、ウレタン樹脂の主要な構成成分は、上記ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の他に、鎖長延長剤や架橋剤などを含んでいてもよい。鎖延長剤あるいは架橋剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを用いることができる。
【0033】
また、塗膜層中には各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などが配合されていてもよい。特に、易接着層中に無機粒子をフィルム全体の透明性を損なわない程度に添加したものは、易滑性や耐ブロッキング性が向上するので更に好ましい。この場合、添加する無機粒子としては、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウムなどを用いることができる。中でも特に、該樹脂に対して、平均粒径50〜350nmのコロイダルシリカを1wt%以上5wt%未満含有していることがフィルム同士のブロッキングを抑制し、かつヘイズの上昇も少なくてすむために好ましい。このようにすることによりフィルム同士のブロッキングを抑制し、かつヘイズの上昇も少なくてすむ。最適な平均粒径は70〜120nmである。
【0034】
本発明の積層ポリエステルフィルムの最表層に厚さ2μm以上のポリエチレンテレフタレート等の結晶性樹脂の層を設けることは好ましい態様である。A層及びB層は光学的な機能を有するために外力によってキズがついてしまうとその機能が損なわれることがあるため、その保護としてこうした結晶性樹脂の層は好適に用いられる。また、特に非晶性のポリエステル樹脂を用いた場合はオリゴマーが滲みでることがときにあり、その抑止としても効果的である。係る結晶性樹脂の層の厚みの上限には特に制限はないが10μmより大きくしても、厚みに見合うだけの効果は得られない。係る層は、別途調製したフィルムを貼り合わせても、本発明の積層ポリエステルフィルムの製造時に共押出法によって形成しても良い。係る結晶性樹脂の層には、走行性(易滑性)や耐候性、耐熱性などの機能を持たせるため、必要な範囲において粒子が含有されてもよい。かかる粒子の例としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメチルメタクリレート、ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、架橋ポリスチレンなどの有機微粒子、同じく、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、カオリン、クレーなどの無機微粒子などが挙げられる。
【0035】
係る最表層の結晶性樹脂の層が、ポリエチレンテレフタレートである場合、その固有粘度(IV)が0.55〜0.7であり、且つオリゴマーの含有量が0.1〜0.7重量%であることが好ましい。ここのオリゴマーとは、分子量が60〜700の有機体であり、室温(25℃)で固体の性状を持つ。その多くはポリエステルの溶融分解物や未反応物である。例としてテレフタル酸、2−ビスヒドロキシエチルテレフタル酸、環状三量体、4−カルボキシベンズアルデヒドなどが挙げられ、ポリエステルのジカルボン酸もしくはジオールの構造を持つものがほとんどである。特に、構造中にシクロヘキサンジメタノールやスピログリコールを含むと、溶融中に容易く酸化劣化を起こしてオリゴマーを含むようになる。これらのオリゴマーを0.1〜0.7重量%にするため、固相重合によって未反応物を分子鎖に取り込んで低減していく方法が考えられる。固相重合の方法については公知であり、真空中もしくは窒素雰囲気下で180〜240℃の雰囲気に置くことにより、達成することができる。特に、窒素雰囲気の場合、IVの上昇もほとんどないためさらに好ましいものである。また、溶融分解物を低減させるためには、公知の酸化分解抑制剤をポリエステルに対し、0.1〜5重量%の比率で配合しておくことが好ましい。オリゴマーを0.1〜0.7重量%の範囲にすることにより、既述したように本発明の積層フィルムからのオリゴマーのブリードアウトを抑制し、接着性を向上することが可能となる。
【0036】
次に本発明の積層ポリエステルフィルムを得る方法について、例を挙げて、詳細に説明する。しかし、本発明は係る例に限定して解釈されるものではない。
【0037】
2種類のポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bをペレットなどの形態で用意する。ペレットは、必要に応じて、熱風中あるいは真空下で乾燥された後、別々の押出機に供給される。押出機内において、融点以上に加熱溶融された樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化され、フィルタ等を介して異物や変性した樹脂などを取り除かれる。
【0038】
これらの2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出されたポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bは、次に多層積層装置に送り込まれる。多層積層装置としては、例えば、マルチマニホールドダイやフィールドブロックを用いることができる。また、これらを任意に組み合わせても良い。そのフィードブロックの好ましい構造としては、多数の微細スリットを有する櫛形のスリット板に部材を少なくとも1個有しているものが挙げられ、2つの押出機から押し出されたポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bが、各マニホールドを経由して、スリット板に導入される。ここでは導入板を介して、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bが選択的に交互にスリットに流入するため、最終的にはA/B/A/B/A・・・といった多層膜を形成することができる。また、スリット板をさらに重ね合わせることにより、層数を増やすことも可能である。
【0039】
また、本発明の積層フィルムにおける反射波長は下記式4によって求めることができるため、各層厚みを調整することによって任意に反射波長を調整できる。また、反射率についてはA層とB層の屈折率差と、A層とB層の層数にて制御することができる。
2×(na・da+nb・db)=λ 式4
na:A層の面内平均屈折率
nb:B層の面内平均屈折率
da:A層の層厚み(nm)
db:B層の層厚み(nm)
λ:主反射波長(1次反射波長)
このようにして多層積層された溶融体を、前記の結晶性樹脂の層を共押出する際には該結晶性樹脂と共に、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加などの方式によりキャスティングドラムに密着、冷却固化して未延伸シートとした後、二方向に延伸、熱処理することが好ましい。延伸方法としては、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方法や、長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸する同時二軸延伸方法などの技術が用いられる。延伸前予熱温度および延伸温度は60℃〜130℃であり、延伸倍率は2.0〜5.0倍であり、必要ならば延伸後に140℃から240℃の熱処理を行う。
【0040】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、高次工程に耐えうる耐熱性や機械強度、寸法安定性を有するものであることが好ましい。最終的なフィルムの厚みとしては、10μm以下であると熱的および機械的安定性に不足が生じ、また、250μm以上であると、剛性が高すぎて取り扱い性が低下し、またロール長尺化が物理的に困難になること、そして透明性などに問題が生じやすいため、最終的なフィルムの厚みとしては、14〜250μmが好ましく、より好ましくは38〜188μmである。
【0041】
塗膜層を形成するための好ましい方法としては、積層ポリエステルフィルムの製造時にその製造工程中に塗剤のコーティング手段を設置し、塗布・乾燥を行って形成することが簡便である。このときフィルムと共に延伸することもできる。例えば、テンターに導入する前に塗布し、横延伸工程・熱処理工程にて乾燥硬化させる方法が好適な方法である。塗布の方法は各種の塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、マイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。またコーティング膜の塗布の均一性や接着性を考慮して、塗工前にフィルム表面にコロナ放電を施すことが好ましい。また、積層ポリエステルフィルムの形成後に公知の方法を用いて塗膜層を設けることも可能である。
【0042】
こうして形成された積層ポリエステルフィルムにマット調を付与するために、前記した熱水処理を施す。すなわち、このようにして得られた積層ポリエステルフィムを、その条件としては例えば、95℃以上の熱水中で3分間以上保持する工程を施すことにより、本発明の積層ポリエステルフィルムが得られる。
【0043】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムでは、易接着層の他に、ハードコート層、帯電防止層、耐摩耗性層、反射防止層、色補正層、紫外線吸収層、印刷層、金属層、透明導電層、ガスバリア層、ホログラム層、剥離層、粘着層、エンボス層、接着層などの機能性層を形成してもよい。
【実施例】
【0044】
(物性値の評価法)
(1)相対反射率、反射性能
日立製作所製 分光光度計(U−3410 Spectrophotomater)にφ60積分球130−0632((株)日立製作所)および10°傾斜スペーサーを取り付け反射率を測定した。なお、バンドパラメーターは2/servoとし、ゲインは3と設定し、380nm〜2500nmの範囲を120nm/分の検出速度で測定した。また、反射率を基準化するため、標準反射板として付属のAl板を用いた。
【0045】
また、反射性は、波長380nm〜2500nmの分光反射率において、半値幅200nm以上で反射率が50%以上の分光反射帯域を持つものを”B”、半値幅200nm以上で反射率が70%以上の分光反射帯域を持つものを”A”、半値幅200nm以上ではあるが、反射率が30%に満たないものを”C”、反射帯域が全く見られないものを”D”として評価した。
【0046】
(2)積層数、積層膜の厚み
フィルムの層構成および積層数は、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、電子顕微鏡観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡H−7100FA型((株)日立製作所製)を用い、加速電圧75kVでフィルムの断面を40000倍に拡大観察し、断面写真を撮影、層構成および各層厚みを測定した。尚、場合によっては、コントラストを高く得るために、公知のRuOやOsOなどを使用した染色技術を用いても良い。
【0047】
(3)接着性
積層ポリエステルフィルムの塗膜層に印刷層を設け、さらにインサート成形を実施した面に1mmのクロスカットを100個入れ、ニチバン(株)製セロハンテープをその上に貼り付け、1.5kg/cm 2 の荷重で押し付けた後、90°方向に剥離し、残存した個数により4段階評価(”A”:100、”B”:80〜99、”C”:50〜79、”D”:0〜49)した。
(”A”)を接着性良好とした。
【0048】
(4)耐湿熱接着性
積層ポリエステルフィルムの塗膜層に印刷層を設け、さらにインサート成形を実施し、その後65℃、湿度95%の雰囲気下にて168時間放置した後、インサー成形を実施した面に1mm 2のクロスカットを100個入れ、ニチバン(株)製セロハンテープをその上に貼り付け、1.5kg/cm 2 の荷重で押し付けた後、90°方向に剥離し、残存した個数により4段階評価(”A”:100、”B”:80〜99、”C”:50〜79、”D”:0〜49)した。(”A”)を接着性良好とした。
【0049】
(5)明度LSCE*
コニカミノルタセンシング製CM3600dを使用した。反射モード、測定径8 mm、視野角10°とし、3回測定した平均値を該サンプルの値とした。
【0050】
(6)水分率測定
温度20℃、湿度50%RHの雰囲気の下で重さが変化しなくなるまでおいておいた(但し、おいておく時間が120時間を超えるときは、120時間経過時)サンプルを、加熱乾燥式水分計MS−70((株)エー・アンド・デイ製)にて測定。条件は以下のとおり。
【0051】
サンプル量:2g
昇温速度:10℃/s
到達温度:170℃
測定終了:変化量0.05%/min未満
なお、表1にはポリエステル樹脂Aの水分率を水分率a、ポリエステル樹脂Bの水分率を水分率b、積層ポリエステルフィルムの水分率を水分率cとして記載している。
【0052】
ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bの水分率は、これらの原料チップを充分に真空乾燥した後、押し出し機に供給し285℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた未延伸フィルムを用いて測定する。
【0053】
(7)粒子含有量
ポリエステルを溶解し粒子は溶解させない溶媒を選択し(例えばヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)/重クロロホルムなど)、粒子をポリエステルから遠心分離し、粒子の全体重量に対する比率(重量%)をもって粒子濃度とした。
【0054】
(8)粒径
フィルムの断面をSEMで観察し、含まれる直径5nm以上粒子の粒径を測定し、0.05μm以上の粒子と、0.05μm未満の粒子の含有率をn=50の計測結果から求めた。
【0055】
(実施例1)
ポリエステル樹脂Aとして固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)[東レ製F20S]、ポリエステル樹脂Bとしてテレフタル酸に対しシクロヘキサンジカルボン酸を20mol%、エチレングリコールに対しスピログリコールを15mol%共重合した共重合ポリエステル(以下、共重合PET1)を用いた。なお、このポリエステル樹脂Bの固有粘度は0.72であり、非晶性樹脂であった。ポリエステル樹脂Aを回転式真空乾燥機(180℃・3時間)にて乾燥し、ポリエステル樹脂Bは、絶乾空気循環式乾燥機(70℃・5時間)にてそれぞれ乾燥した後、別々の押出機に供給した。
【0056】
ポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bをそれぞれ押出機にて280℃の溶融状態とし、ギヤポンプおよびフィルタを介した後、吐出比1.1/1(ポリエステル樹脂A/ポリエステル樹脂B)で51層のフィードブロックにて交互に積層するように合流させた。なお、シート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
【0057】
得られたキャストフィルムを、75℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、縦方向に3.3倍延伸し、その後一旦冷却した。つづいて、この一軸延伸フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、その処理面に、アクリル樹脂、コロイダルシリカ、フッ素系界面活性剤からなるコーティング用組成物を調整し、#4のバーコーターにて均一に塗布し易接着層を形成した。
【0058】
この一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、110℃の温度で横方向に3.5倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で230℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に5%の弛緩処理を施し、その後、室温まで徐冷後、巻き取った。得られたフィルムを適当なサイズに切り出しクリップで挟んだ。クリップに紐を結び付け、紐の先に100gの重りをつけて95℃の熱水中に沈めた。このまま1時間保持し、熱水中から取り出した後に水分を拭き取ることにより、フィルムに熱水処理を施した。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同じ原料にて、積層装置を51層から801層のフィードブロックに変更して合流させた。なお、上記のフィードブロックは267個のスリットを有するスリット部材が3つからなるものである。合流したポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bは、フィードブロック内にて各層の厚みが表面側から反対表面側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させ、ポリエステル樹脂Aが401層、樹脂Bが400層からなる厚み方向に交互に積層された構造とした。また、両表層部分はポリエステル樹脂Aとなるようにし、かつ隣接するA層とB層の層厚みはほぼ同じになるようにスリット形状を設計した。この設計では、400nm〜1200nmに反射帯域が存在するものとなる。このようにして得られた計801層からなる積層体を、マルチマニホールドダイに供給して多層積層フィルムを得た。これを実施例1と同様の製膜方法にて製膜した。得られたフィルムを適当なサイズに切り出しクリップで挟んだ。クリップに紐を結び付け、紐の先に100gの重りをつけて95℃の熱水中に沈めた。このまま1時間保持し、熱水中から取り出した後に水分を拭き取り、3日間空気中で保持させることにより、フィルムに熱水処理を施した。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
熱水中に沈める際の温度を60℃とした以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0061】
(実施例4)
熱水中に沈める際の温度を60℃とし、保持時間を4時間とした以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0062】
(実施例5)
熱水中に保持する際の時間を5分間とした以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0063】
(実施例6)
熱水中に保持する際の時間を30分間とした以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0064】
(実施例7)
ポリエステル樹脂Aに無機粒子を0.4wt%添加した以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0065】
(実施例8)
ポリエステル樹脂Bとしてテレフタル酸に対しアジピン酸を20mol%共重合し、エチレングリコールと共重合した共重合ポリエステルを用いた以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
フィルムに熱水処理を施さない以外は、実施例2と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。得られた積層ポリエステルフィルムの特性等を表1に示す。
【0067】
(比較例2)
ポリエステル樹脂Aとして固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)[東レ製F20S]を充分に真空乾燥した後、押し出し機に供給し285℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.4倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。このフィルムに空気中でコロナ放電処理を施した。
【0068】
次にアクリル樹脂、コロイダルシリカ、フッ素系界面活性剤からなるコーティング用組成物を調整し、#4のバーコーターにて均一に塗布し易接着層を形成した。易接着層を形成した一軸延伸フィルムの幅方向両端部をクリップで把持して予熱ゾーンに導き、雰囲気温度75℃とした後、引き続いてラジエーションヒーターを用いて雰囲気温度を110℃とし、次いで雰囲気温度を90℃として、塗液を乾燥させた。引き続き連続的に120℃の加熱ゾーン(延伸ゾーン)で幅方向に3.5倍延伸し、続いて230℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)で20秒間熱処理を施し、結晶配向の完了した積層フィルムを得た。得られた積層フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μmであった。得られた積層ポリエステルフィルムに実施例2と同様の方法で熱水処理を施した。得られたフィルムの特性等を表1に示す。
【0069】
(比較例3)
ポリエステル樹脂Aの代わりに、スピログリコールとシクロヘキサンジカルボン酸を重合成分として用いたポリエステルを使用した以外は、比較例2と同様の方法で積層フィルムを得た。得られたフィルムに実施例2と同様の方法で熱水処理を施した。得られたフィルムは熱水処理により変形を起こし、面状の悪いサンプルとなったため、各種評価は行っていない。
【0070】
(比較例4)
33層のフィードブロックにて積層した以外は、実施例2と同様の方法で積層フィルムを得た。得られたフィルムに実施例2と同様の方法で熱水処理を施した。得られたフィルムは熱水処理により変形を起こし、面状の悪いサンプルとなったため、各種評価は行っていない。
【0071】
(比較例5)
ポリエステル樹脂Aに平均粒径4μmの凝集シリカを0.2wt%添加した以外は、実施例2と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表1に示す。
【0072】
(比較例6)
ポリエステル樹脂Aとして酢酸マグネシウム0.06wt%、三酸化アンチモン0.026wt%をエステル交換反応触媒としたポリエチレンテレフタレートを用い、延伸前にラジエーションヒターにてフィルム表面が170℃の温度となるような条件で、7秒間処理を行った後室温まで冷却した以外は、実施例2と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムは表面の結晶化によって白化し、かつ表面が非常に粗いものである。特性等を表1に示す。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、建材、包装、自動車、携帯電話の内外装などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う層の光学厚みの和が140〜700nmの範囲となるポリエステル樹脂Aからなる層(A層)とポリエステル樹脂Bからなる層(B層)を交互にそれぞれ50層以上積層した構造を含み、相対反射率が50%以上となる反射帯域を少なくとも1つ有する積層フィルムであって、ポリエステル樹脂Aからなる未延伸フィルムの平衡水分率をa、該積層フィルムにおける体積分率をxとし、ポリエステル樹脂Bからなる未延伸フィルムの平衡水分率をb、該積層フィルムにおける体積分率をyとしたときに、前記積層フィルムの平衡水分率cとしたとき、下記(1)式を満たすことを特徴とする積層ポリエステルフィルム。
ax + by < c ・・・(1)
【請求項2】
前記積層ポリエステルフィルム中に含まれる直径0.05μm以上の粒子の量が0.1wt%未満であることを特徴とする請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記積層ポリエステルフィルムのLsce*が20%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bの少なくとも一方が、非晶性樹脂である請求項1〜3の何れかに記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜5のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムを用いた成型体。
【請求項6】
ポリエステル樹脂Aからなる層(A層)とポリエステル樹脂Bからなる層(B層)を交互にそれぞれ50層以上積層した構造を含む積層ポリエステルフィルムを60℃〜150℃の熱水中またはスチーム中に3分間以上保持する熱水処理工程を含み、該熱水処理工程によってLsce*を20以上増加せしめる積層ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−255602(P2011−255602A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132615(P2010−132615)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】