説明

積層体およびその製造方法

【課題】ガスバリア性保護層を含む積層フィルムとポリオレフィンフィルムとを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、異物や残留溶剤等が滲出することがなく耐候性にも優れた積層体を提供する。
【解決手段】積層フィルムと、ポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体であって、積層フィルムのガスバリア性保護層およびポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中のケイ素原子と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の炭素原子との間に共有結合が形成されており、前記ガスバリア性保護層および前記ポリオレフィン樹脂フィルムとが接着剤を介さずに接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、さらに詳細には、熱可塑性樹脂フィルム、酸化アルミニウム薄膜層およびガスバリア性保護層をこの順で設けた積層フィルムと、ポリオレフィン樹脂フィルムとを、接着剤を介さずに接着した積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム等を袋状に加工した包装体が使用されている。このような包装体は、充填される内容物に応じて所望される機能を発現させるために、使用するフィルムとして種々の材料を積層した多機能フィルム等が使用されている。例えば、内容物の紫外線等による劣化を抑止するために、紫外線吸収機能を有するフィルムを用いたり、また、内容物が酸素により変質してしまうのを防ぐために、ガス非透過性のフィルムや酸素吸収機能を有するフィルム等が用いられている。
【0003】
包装体は、一般的に長尺状のフィルムを加工することより行われているが、袋状に加工するには、フィルムどうしを重ね合わせてその端部を接着することが行われている。フィルムどうしを接着する方法としては、ラミネート樹脂(接着剤)を接着しようとするフィルムの端部に塗布してフィルムどうしを押圧してシールしたり、フィルムどうしを重ね合わせて、その端部に熱を加えて融着させるいわゆるヒートシール加工が行われるのが一般的である。
【0004】
ヒートシール加工は、フィルムどうしを接着する際にラミネート樹脂等を用いないため、簡易かつ簡便にフィルムどうしを接着することができる。しかしながら、ヒートシール加工は、フィルムを部分的に溶融ないし半溶融させて、互いのフィルムを融着させて接着する方法であるため、異種のフィルムどうし、例えば、ポリオレフィン系フィルムとポリエステル系フィルムとをヒートシール加工により接着することができない。また、ヒートシール加工においては、比較的低温で融着可能な樹脂からなるフィルムを用いる必要があるため、最表面層にポリオレフィン系樹脂等のヒートシール性樹脂層を設けた多層フィルムが用いられていた(例えば、特開昭55−107428号公報等)。
【0005】
一方、ラミネート加工によりフィルムどうしを接着する場合には、使用するフィルムの種類(樹脂の種類)に応じてラミネート樹脂の成分を適宜選択することが行われている。例えば、ポリエステル系フィルムとナイロン系フィルムとを接着することにより袋状に加工する際には、ウレタン系接着剤が使用されていた(例えば、特開昭52−82594号公報等)。
【0006】
しかしながら、異種材料からなるフィルムどうしをラミネート樹脂を介して接着し包装体としたものは、ラミネート樹脂成分が徐々に包装体内に溶出または揮発し、内容物を変質させる場合があり、特に、安全性やクリーン性が重視される医療用分野においては、ラミネート樹脂による内容物の汚染が問題となることがあった。また、包装体の長期使用によりラミネート樹脂自体が劣化することもあり、特に屋外等で使用される外装用途においては、ラミネート加工した包装体の耐候性が問題となることもあった。また、接着剤を用いたラミネート技術においては、一般的に溶剤に希釈した樹脂成分を塗布することが行われるため、ラミネートして包装体等のような最終製品となった後にも溶剤が残留してしまうことがあった。
【0007】
ところで、放射線や電子線を用いて材料の表面改質を行うことが従来から行われている。例えば、特開2003−119293号公報(特許文献3)には、フッ素系樹脂に放射線を照射することにより架橋複合フッ素系樹脂が得られることが提案されている。また、Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127(非特許文献1)には、ポリテトラフルオロエチレンフィルムとポリイミドフィルムとを積層させて高温下で電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、互いを接着することが提案されている。また、Material Transactions Vol.50, No.7 (2009), pp1859-1863(非特許文献2)には、ポリカーボネート樹脂の表面をナイロンフィルムで覆い、その上から電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、ポリカーボネート樹脂表面にナイロンフィルムを接着する技術が提案されている。さらに、日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531(非特許文献3)には、シリコーンゴム上に置いたナイロンフィルムの上からEBを照射することにより、互いを接着できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−107428号公報
【特許文献2】特開昭52−82594号公報
【特許文献3】特開2003−119293号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127
【非特許文献2】Material Transactions Vol.50, No. 7(2009), pp1859-1863
【非特許文献3】日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、今般、異種材料からなるフィルムどうしを接着する場合であっても、フィルムに電子線を照射することにより、ラミネート樹脂等を用いることなく、互いを強固に接着できることを見いだした。そして、ガスバリア性保護層を含む積層フィルムとポリエチレンフィルムとの積層体のように、従来、接着剤により互いを接着していた積層体であっても、電子線照射によれば、接着剤を使用しなくても、積層フィルム側の原子とポリエチレンフィルム側の原子との間に共有結合または水素結合が形成されて、互いが強固に接着できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、ガスバリア性保護層を含む積層フィルムとポリオレフィンフィルムとを接着剤を使用せずに接着した積層体であって、異物や残留溶剤等が滲出することがなく耐候性にも優れた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による積層体は、熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウム薄膜層、および前記酸化アルムニウム薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなる積層フィルムと、ポリオレフィン樹脂フィルムとが、前記ガスバリア性保護層と前記ポリオレフィン樹脂フィルムとが対抗するように積層した積層体であって、
前記ガスバリア性保護層が、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られる被膜からなり、
前記ガスバリア性保護層および前記ポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中のケイ素原子と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の炭素原子との間に共有結合が形成されており、前記ガスバリア性保護層および前記ポリオレフィン樹脂フィルムとが接着剤を介さずに接着されていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の態様として、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の炭素原子に酸素原子または水酸基が共有結合しており、前記ガスバリア性保護層中の酸素原子および/または水酸基と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の酸素原子または水酸基との間で水素結合が形成されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様として、前記アルコキシシランが下記一般式:
1nSi(OR
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1〜8の有機基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表すが、n+mはSiの原子価を表す。)
で表されることが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様として、前記水酸基を有する水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群から選択される1種、または2種以上の混合物であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の態様として、前記ポリオレフィン樹脂フィルムがポリエチレンフィルムであることが好ましい。
【0017】
また、本発明の態様として、前記熱可塑性樹脂フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の別の態様としての製造方法は、積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウム薄膜層、および前記酸化アルムニウム薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなる積層フィルムのガスバリア性保護層面、および/またはポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一方の面、に電子線を照射して、前記積層フィルムの電子線が照射されたガスバリア性保護層面とポリオレフィン樹脂フィルム面とを接着する、ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の態様として、前記積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを重ね合わせる前および/または重ね合わせる前に電子線照射を行うことが好ましい。
【0020】
また、本発明の別の態様として、前記電子線照射の加速電圧が、40〜120kVの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウム薄膜層、および前記酸化アルムニウム薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなる積層フィルム中の原子と、ポリオレフィン樹脂フィルム中の原子との間に共有結合および/または水素結合が形成されているため、接着剤を介して接着していなくても、積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが強固に接着した積層体が得られる。その結果、異物や残留溶剤等が滲出することがなく耐候性にも優れた積層体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の積層体の一実施形態を示した概略断面図である。
【図2】積層体の界面(接着面)を拡大した模式断面図である。
【図3】本発明による積層体の製造方法の一実施形態を示した概略模式図である。
【図4】製造工程の一部を拡大した概略模式図である。
【図5】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図6】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図7】本発明による積層体の製造方法の別の実施形態を示した概略模式図である。
【図8】電子照射する前の積層フィルムのガスバリア性保護層面のXPSスペクトル。
【図9】電子照射する前のポリエチレンフィルムのXPSスペクトル。
【図10】電子照射した後の積層フィルムのガスバリア性保護層面のXPSスペクトル。
【図11】電子照射した後のポリエチレンフィルムのXPSスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による積層体を、図面を参照しながら説明する。本発明による積層体1は、図1に示すように、積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム10とが、接着剤を介さずに積層された構造を有する。積層フィルム20は、熱可塑性樹脂フィルム21、熱可塑性樹脂フィルム20の少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウム薄膜層22、および酸化アルムニウム薄膜層22上に設けたガスバリア性保護層23からなる。
【0024】
積層フィルム20の、ポリオレフィン樹脂フィルム10との接着面にあたるガスバリア性保護層23は、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られる被膜からなる。本発明においては、接着面の少なくとも一部で、このガスバリア性保護層中のケイ素原子とポリオレフィン樹脂フィルム中の炭素原子との間に共有結合が形成されることにより、積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが強固に接着されている。通常、ポリビニルアルコール等のような水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られるガスバリア性保護層の表面は親水性であり、他方、ポリオレフィン樹脂フィルムの表面は疎水性であるため、通常、接着剤を使用しなければ両者を接着することはできない。本発明においては、後記するように、ガスバリア性保護層および/またはポリオレフィン樹脂フィルムの表面に電子線を照射してラジカルを発生させることにより、図2に示すように、ガスバリア性保護層23中のケイ素原子と、ポリオレフィン樹脂フィルム10中の炭素原子との間に共有結合が形成し、接着剤を介することなく、積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム10とが強固に接着したものである。電子線照射によりラジカルの発生は、電子スピン共鳴装置(以下、ESRともいう。)を用いて、電子線照射後のフィルムに存在するフリーラジカル種を同定することにより、その発生を確認することができる。
【0025】
積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとの間に、原子間で共有結合が形成されていることは、X線光電子分析装置(以下、XPSともいう。)やフーリエ変換赤外分光装置(以下、FTIRともいう。)により確認することができる。例えば、積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを接着する前に、それぞれのフィルムの表面状態をXPSにより測定することにより、接着前に、各フィルムの表面にどのような原子が存在するか確認しておき、両フィルムを電子線照射により接着して積層体とした後に積層体を強制的に剥離して積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとに分離し、再度、それぞれのフィルムの表面状態をXPSにより測定して各フィルムの表面にどのような原子が存在するか確認する。その結果、積層フィルム側にポリオレフィン樹脂フィルム由来の原子が存在したり、あるいはポリオレフィン樹脂フィルム側に積層フィルム由来の原子が存在することを確認することで、両フィルム間に共有結合が形成されているかどうかの確認ができる。また、FTIRを用いて、剥離した後のポリオレフィン樹脂フィルムの表面に、C−O結合、C=O結合、Si−C結合等の供給結合が存在するかどうかを確認してもよい。
【0026】
また、電子線照射により積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム10とを接着した積層体は、図2に示すように、ポリオレフィン樹脂フィルム中の炭素原子に酸素原子または水酸基が共有結合しており、ガスバリア性保護層23中の酸素原子および/または水酸基と、ポリオレフィン樹脂フィルム10中の酸素原子または水酸基との間で水素結合が形成されている。本発明による積層体は、このような水素結合や上記した共有結合により、積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが接着されているため、接着剤を全く使用しなくても、剥離を生じない積層体とすることができる。水素結合の存在の確認は、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積して剥離の有無を確認することにより行うことができる。水素結合のみによって両フィルムが接着している場合、積層体を水またはアルコール溶液中に浸積すると、両フィルムの原子間に形成されていた水素結合が破壊されて水またはアルコールの水素原子または酸素原子と水素結合が再形成されるため、接着力がなくなり両フィルムが剥離する。
【0027】
以下、本発明による積層体を構成する積層フィルムおよびポリオレフィン樹脂フィルムについて、説明する。
<積層フィルム>
積層フィルム20は、図1に示すように、熱可塑性樹脂フィルム21、熱可塑性樹脂フィルム21の少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウム薄膜層22、および酸化アルムニウム薄膜層22上に設けたガスバリア性保護層23を含む。積層フィルム20は、図示しないが、酸化アルミニウム薄膜22およびガスバリア性保護層23を、熱可塑性樹脂フィルム21の一方の面のみならずその両方の面に設けたものでもよい。
【0028】
本発明による積層体に用いられる積層フィルム20は、酸化アルミニウム薄膜21とガスバリア性保護膜23とが、例えば、加水分解・共縮合反応による化学結合、水素結合、あるいは、配位結合などを形成し、酸化アルミニウム薄膜22とガスバリア性保護層23との密着性が向上し、その2層の相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得るものである。
【0029】
熱可塑性樹脂フィルムとしては、酸化アルミニウム薄膜を支持し得るプラスチックのフィルムであればいずれのものでも使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、アセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、その他等の各種の樹脂のフィルムを使用することができる。これらのなかでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、透明であるものがより好ましい。
【0030】
熱可塑性樹脂フィルムは、一軸ないし二軸方向に延伸されているものでもよく、また、その厚さとしては、10〜200μm程度、特に、10〜100μm程度が好ましい。また、必要に応じて、その表面にアンカーコート剤等をコーティングして表面平滑化処理等を施してもよい。
【0031】
酸化アルミニウム薄膜層は、一般式:AlO(式中、xは、0.5〜1.5の数を表す。)で表される酸化アルミニウムの薄膜を、熱可塑性樹脂フィルムの表面に形成したものである。上記一般式で表される酸化アルミニウムの薄膜として、膜表面から内面に向かう深さ方向に向かってxの値が増加している酸化アルミニウムの薄膜を使用することもできる。上記において、xの値としては、基本的には、x=0.5以上のものを使用することができるが、x=1.0未満になると、着色し易く、かつ、透明性、電子レンジ適性に劣ることから、x=1.0以上のものを使用することが好ましい。上限としては、アルミニウムと酸素とが完全に酸化した状態のものであるx=1.5までのものを使用することができる。
【0032】
酸化アルミニウム薄膜の膜厚としては、例えば、10〜3000Å程度、特に、60〜1000Å程度の範囲内で任意に選択して形成することが好ましい。酸化アルミニウム薄膜は、結晶質のものでも非結晶質のものでもよい。
【0033】
本発明においては、積層フィルムを構成する熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率を100%としたとき、蒸着後の全光線透過率が90%未満になるように酸化アルミニウムを蒸着したものが望ましく、ベースフィルムの全光線透過率を100%としたとき、蒸着後の全光線透過率が85%以上で90%未満になるように酸化アルミニウムを蒸着したものは、特に好ましい。蒸着後の全光線透過率が蒸着後の全光線透過率が90%以上の場合には、透明度は十分であるものの、ガスバリア性、特に水蒸気に対するガスバリア性が十分に高くない場合がある。また、蒸着後の全光線透過率が85%未満の場合は、ガスバリア性には優れるものの最終的な透明度が熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率にまで達しない場合がある。
【0034】
次に、熱可塑性樹脂フィルム上に酸化アルミニウム薄膜を形成する方法について説明する。酸化アルミニウムの薄膜を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を挙げることができる。なお、包装用材料に用いられる透明積層体からなるフィルムを製造する場合には、主に、真空蒸着法を用い、一部、プラズマ化学気相成長法も用いられる。
【0035】
また、例えば、物理気相成長法と化学気相成長法の両者を併用して異種の無機酸化物の蒸着膜の2層以上からなる複合膜を形成して使用することもできる。酸化アルミニウム薄膜が、その膜表面から内面に向かう深さ方向に向かってxの値が増加している酸化アルミニウムの薄膜を形成する場合は、本出願人による特開平10−226011号公報に開示された方法により製造することができる。蒸着チャンバーの真空度としては、酸素導入前においては、10−2〜10−8mbar程度、特に、10−3〜10−7mbar程度が好ましく、酸素導入後においては、10−1〜10−6mbar程度、特に10−2〜10−5mbar程度が好ましい。なお、酸素導入量等は、蒸着機の大きさ等によって異なる。導入する酸素には、キャリヤーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスを支障のない範囲で使用してもよい。基材となる熱可塑性樹脂フィルムの搬送速度としては、10〜800m/分程度、特に50〜600m/分程度が好ましい。
【0036】
また、本発明においては、上記のようにして形成した酸化アルミニウム薄膜の表面に酸素プラズマ処理を施してもよい。酸素プラズマ処理のために導入する酸素の量は、蒸着機の大きさ等によって異なるが、通常50sccm〜2000sccm程度であり、300sccm〜800sccm程度が特に好ましい。ここで、sccmは標準状態(STP:0℃、1atm)での1分当りの酸素の平均導入量(cc)を意味する。導入する酸素には、キャリヤーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスを支障のない範囲で使用してもよい。以上、熱可塑性樹脂フィルム上に酸化アルミニウム薄膜を形成する方法、および、所望により酸化アルミニウム薄膜の表面を酸素プラズマ処理する方法を説明したが、これらは一例であって、本発明がこれらの方法により得られたものに限定されるものではない。
【0037】
次に、上記のようにして形成された酸化アルミニウム薄膜上に設けられるガスバリア性保護層について説明する。ガスバリア性保護層は、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液でコーティングすることにより形成できる。少なくとも水酸基を有する水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、又はエチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられ、特に、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリビニルアルコールが好ましい。これら樹脂は市販のものを使用してもよく、例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体として、株式会社クラレ製、エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)、日本合成化学工業株式会社製、ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)等を使用することができる。また、ポリビニルアルコールとして、株式会社クラレ製のRSポリマーであるRS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)、同社製のクラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)、日本合成化学工業株式会社製のゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)等を使用することができる。
【0038】
アルコキシシランとしては、一般式:
1nSi(OR
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1〜8の有機基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表すが、n+mはSiの原子価を表す。)で表されるものが好適に使用できる。上記式において、Rで表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、その他等のアルキル基を挙げることができる。アルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン:Si(OCH 、テトラエトキシシラン:Si(OC 、テトラプロポキシシラン:Si(OC 、テトラブトキシシラン:Si(OC等を使用することができる。
【0039】
上記した水溶性高分子とアルコキシシランとを混合し、さらに所望によりゾル−ゲル法触媒、水、および、有機溶剤を添加した溶液を、酸化アルミニウム薄膜の表面に塗布し、重縮合することにより、ガスバリア性保護層を形成することができる。また、本発明においては、酸化アルミニウム薄膜の上に、上記の塗布膜を2層以上重層した複合ポリマー層を形成することもできる。
【0040】
また、本発明においては、上記のガスバリア性保護層形成用塗布液に、シランカップリング剤を添加することができ、これにより得られるガスバリア性保護層は特に好ましいものである。上記のシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを用いることができるが、特に、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適であり、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、あるいは、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。上記のようなシランカップリング剤は、1種ないし2種以上を混合して用いてもよい。本発明において、上記のようなシランカップリング剤の使用量は、上記のアルコキシシラン100質量部に対して1〜20質量部程度の範囲内で使用することができる。
【0041】
ガスバリア性保護層形成用塗布液の塗布方法としては、通常用いられる、グラビアロールコーターなどのロールコート、スプレーコート、スピンコート、デイツピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の従来公知の手段が用いられる。塗布膜の厚さは塗布液の種類によって異なるが、乾燥後の厚さが約0.01〜100μmの範囲であればよいが、50μm以上では、膜にクラックが生じやすくなるため、0.01〜50μmとすることが好ましい。
【0042】
塗布液と重縮合させる際のゾル−ゲル法触媒としては、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三アミンが用いられる。具体的には、例えば、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等を使用することができる。特に、N,N−ジメチルべンジルアミンが好適であり、アルコキシシラン、およびシランカップリング剤の合計量100質量部当り、0.01〜1.0質量部、特に約0.03質量部程度を使用することが好ましい。
【0043】
また、ゾル−ゲル法の触媒として、酸を使用することもでき、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、ならびに、酢酸、酒石酸な等の有機酸、その他を使用することができる。酸の使用量としては、アルコキシシランおよびシランカップリング剤のアルコキシシラン分(例えばシリケート部分)の総モル量に対し0.001〜0.05モル程度、特に約0.01モル程度が好ましい。
【0044】
塗布液に含まれる水は、溶液アルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1〜100モル、好ましくは0.8〜2モルの割合で添加される。また、ガスバリア性保護層形成用塗布液に含まれるポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体は、上記のアルコキシシランやシランカップリング剤などを含む塗布液中で溶解した状態であることが好ましく、そのために有機溶媒を適宜選択して添加してもよい。例えば、有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等を用いることができる。
【0045】
<ポリオレフィン樹脂フィルム>
本発明の積層体を構成するポリオレフィン樹脂フィルムとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等の単体、または、ポリプロピレンと低密度ポリエチレンとの混合物や、ポリプロピレンと高密度ポリエチレンとの混合物からなるフィルムを用いることができる。また、フィルムの厚みは、使用用途に応じて適宜決定できるが、概ね20〜300μm程度である。
【0046】
ポリオレフィン樹脂フィルムには、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤等、従来公知の各種添加剤を適宜添加することができる。光安定剤、紫外線吸収剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、フェノール系、リン系、ヒンダーアミン系の光吸収剤や、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系の紫外線吸収剤が使用できる。
【0047】
上記したような積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを重ね合わせて接着した積層体は、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、また耐候性にも優れるため、医療分野で使用されている包装体、例えばシリンジ包装袋や粉末あるいは顆粒状の医薬品を充填包装するための包装体等に好適に使用することができる。
【0048】
<積層体の製造方法>
次に、上記したような積層体を製造する方法を、図面を参照しながら説明する。先ず、上記した積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム10とを準備し(図3(1))、両フィルムのいずれか一方または両方の、接着しようとする部分に電子線を照射する(図3(2))。その結果、図3(3)に示すように、電子線が照射された部分のみ、互いのフィルムが接着される。
【0049】
本発明においては、フィルムに電子線を照射した直後に、図4に示すようにローラー6等を用いて、重ね合わせたフィルム10,20を押圧することが好ましい。フィルム10,20の表面は、図4に示すようにミクロレベルで凹凸があるため、互いのフィルムを重ね合わせても完全に密着しておらず、両フィルムの接触界面での接触面積が小さい。本発明においては、電子線を照射した直後にローラー6等でフィルム10,20を押圧することにより、両フィルムの接着面での接触面積が増加するため、密着性が向上する。
【0050】
積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム20とを重ね合わせた後、積層体1を押圧する際には、加熱しながら両フィルム10,20を押圧することが好ましい。加熱しながら押圧することにより、フィルム10,20の柔軟性が向上し、フィルム10,20の界面(接着面)での接触面積をより増加させることができるため、密着性がより向上する。加熱する温度は、使用するフィルムの種類にもよるが、フィルムが熱変形できる温度であればよく、例えば、フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度以上に加熱することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレートを基材とする積層フィルムとポリエチレンフィルムとを重ね合わせる場合には、加熱温度は80〜180℃、好ましくは130〜160℃である。加熱温度を高くしすぎると、発生したラジカルが失活してしまい、強固な結合を実現できなくなる。なお、押圧の力(接圧)を高くしてもよく、接圧を高くすることにより、加熱温度を低くすることができる。
【0051】
積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム10とを重ね合わせた積層体1を押圧するには、上記したようにヒートローラー6等を好適に使用できる。また、図4に示すように、重ね合わせたフィルムがヒートローラー6と支持ローラー7との間で圧接可能となるように、ヒートローラー6と対向する位置に支持ローラー7を載置してもよい。このようにヒートローラー6と対向する位置に支持ローラー7を載置することにより、積層体(10,20)とヒートローラー6との接触を線接触に近づけて、ヒートローラー6からの熱により積層体(10,20)に発生する変形を最小限に抑えることができる。
【0052】
図5は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム10とを重ね合わせて接着する工程において、それぞれのフィルム10,20をガイドローラーにより電子線照射位置3まで導き、電子線4を両フィルム10,20に照射した後にヒートローラー6により互いのフィルム10,20を押圧する工程を連続的に行うものである。それぞれのフィルム10,20はロール状形態として供給されてもよい。
【0053】
電子線照射装置3からそれぞれのフィルムに電子線4を照射する場合、厚みがより小さい方のフィルム側から電子線4を照射することが好ましい。電子線は加速電圧が増加するほどその透過力も増大する性質を有しているため、何れか一方のフィルム側から電子線を照射した場合に、フィルムの厚さによっては、他方のフィルムまで電子線が届かないことがある。その場合には、電子線の加速電圧を増加させることにより、他方のフィルムの深部まで電子線を到達させることができるが、電子線エネルギーが高くなるにしたがって、フィルム自体に不必要な照射が行われ劣化させてしまう。そのため、厚肉のフィルムと薄肉のフィルムとを重ね合わせて接着する際には、電子線エネルギーをそれほど増大させることなく、薄肉のフィルム側から電子線を照射するのが好ましい。例えば、積層フィルムの厚みが25μm以下であり、ポリエチレン樹脂フィルムの厚みが50μm以上である場合は、積層フィルム側から電子線を照射する。このような電子線照射方法を採用することにより、フィルムの劣化を最小限に留めることができる。
【0054】
重ね合わせるフィルム10,20が両方とも厚肉である場合には、図5に示すように両方のフィルム側から電子線が照射できるように、電子線照射装置3と対向する位置に、別の電子線照射装置3’を設けてもよい。この態様によれば、フィルムの厚みに応じて電子線の照射エネルギーを調整することができるため、フィルムを劣化させることなく両フィルムどうしを接着することができる。
【0055】
図6は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施態様においては、電子線の照射が、積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム10とを重ね合わせる前に行われる。先ず、供給されてきた一対のフィルム(積層フィルム20およびポリオレフィン樹脂フィルム10)は、両フィルム10,20が重ね合わされる前に、電子線照射装置3(3’)により、フィルム10(20)へ電子線4(4’)が照射される。図7に示した実施形態では、フィルム10,20の電子線照射側と反対側の面どうしが対向するように両フィルム10,20を重ね合わせたのに対し、図8に示す実施態様では、両フィルム10,20の電子線照射側の面どうしが対向するように両フィルム10,20を重ね合わせる点が相違している。このように、フィルム10へ電子線を照射した側の面に他方のフィルム20を重ね合わせることにより、フィルムの厚みによらず、電子線の照射エネルギーをより小さくすることができ、その結果、フィルムの電子線照射による劣化をより低減することができる。
【0056】
また、図6に示した実施態様においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図5に示した実施態様と同様に、積層フィルム20およびポリオレフィン樹脂フィルム10のそれぞれへ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルムの劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0057】
図7は、本発明による別の製造方法の実施形態を示した概略図である。この実施形態においては、積層フィルム20とポリオレフィン樹脂フィルム10とを重ね合わせてヒートローラー6により押圧した後に電子線照射を行うものである。先ず、供給されてきた一対のフィルム10,20は、ガイドローラーに導かれて重ね合わされる。続いて、ヒートローラー6と支持ローラー7とにより両フィルム10,20が押圧されるとともに、ヒートローラー6により加熱が行われる。その後、電子線照射装置3によりフィルム10,20の表面に電子線4が照射されてフィルム10,20の接着が連続的に行われる。また、図7に示した実施形態においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図5及び6に示した実施態様と同様に両方のフィルム10,20へそれぞれ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルムの劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0058】
電子線の照射エネルギーは、上記したようにフィルム厚み等に応じて適宜調整する必要がある。本発明においては、20〜750kV、好ましくは25〜400kV、より好ましくは30〜300kV程度の照射エネルギー範囲で電子線を照射するが、より低い照射エネルギーとすることが好ましく、40〜120kVとすることができる。このように低い照射エネルギーとすることにより、フィルムの劣化を抑制できるだけでなく、フィルム表面のラジカル発生がより効率的におこるため、より強固な結合を実現することができる。また、電子線の吸収線量は、10〜500kGy、好ましくは50〜300kGy、より好ましくは75〜125kGyの範囲で行う。
【0059】
このような電子線照射装置としては、従来公知のものを使用でき、例えばライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB−ENGINE、浜松ホトニクス株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0060】
電子線を照射する際には、酸素濃度を100ppm以下とすることが好ましい。酸素存在下で電子線を照射するとオゾンが発生するため環境に悪影響を及ぼすとともに積層フィルムの表面がオゾンと反応してガスバリア特性が変化してしまう場合があるからである。酸素濃度を100ppm以下とするには、真空下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、フィルムに電子線を照射すればよく、例えば、電子線照射装置内を窒素充填することにより、酸素濃度100ppm以下を達成することができる。
【0061】
上記した接着方法によって得られた、積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムと積層した積層体は、従来のラミネート樹脂を用いて接着した場合と同等またはそれ以上の接着強度を実現できる。また、ラミネート樹脂等を全く用いていないため、積層体を使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、また耐候性にも優れるものとなる。
【実施例】
【0062】
<フィルムの準備>
厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、蒸着装置を用いて、下記の条件にて、そのフィルムの一方の面に、膜厚20nmとなるように酸化アルミニウム薄膜が形成した。
蒸着条件:
蒸着チャンバー内の真空度(酸素導入後):2×10−4mbar
巻き取りチャンバー内の真空度:5×10−3mbar
電子ビーム電力:25kW
【0063】
次いで、下記の組成Iからなるポリビニルアルコール溶液とイソプロピルアルコールとイオン交換水とを含む混合液に、下記組成IIからなる加水分解液を加えて充分に攪拌し、ガスバリア性保護層形成用塗工液と調製した。
組成I:
ポリビニルアルコール 2.33(質量%)
イソプロピルアルコール 2.70(質量%)
水 51.75(質量%)
組成II(加水分解液):
エチルシリケート 16.60(質量%)
シランカップリング剤 1.66(質量%)
イソプロピルアルコール 3.90(質量%)
0.5N塩酸水溶液 0.53(質量%)
水 20.53(質量%)
合計 100.00(質量%)
【0064】
上記の塗工液を、酸化アルミニウム薄膜上にグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、180℃で60秒間加熱処理を行い、厚み0.2μm(乾操状態)のガスバリア性保護層を形成することにより、積層フィルムを得た。
【0065】
また、ポリオレフィン樹脂フィルムとして、下記の3種類のフィルムを準備した。
(1)厚み70μmの未延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(エボリューSP2020、株式会社プライムポリマー製)
(2)70μmのランダム共重合タイプポリプロピレンフィルム(プライムポリプロJ232WA、株式会社プライムポリマー製)
(3)厚み70μmのブロック共重合タイプポリプロピレンフィルム(PF380A、酸アロマー株式会社製)
【0066】
実施例1
準備した積層フィルムおよび上記(1)のポリエチレンフィルムについて、X線光電子分析装置(ESCA−5600、パーキンエルマー社製)を用いて、積層フィルムのガスバリア性保護層面およびポリエチレンフィルムの表面のサーベイスキャンを行い、フィルム表面に存在する元素の検出を行い、検出された元素ピークについてナロースキャンを実施して、結合状態の同定を行った。測定条件は以下の通りとした。
XPS測定条件:
測定領域 0.4mmφ
使用X線 AlKα線
加速電圧 10kV
サーベイスキャン 1100〜0eV
【0067】
積層フィルムおよびポリエチレンフィルムについてのXPS測定により得られたスペクトルは、それぞれ図8および図9に示される通りであった。図8に示されるように、積層フィルムのガスバリア性保護層面には、O原子、C原子、Si原子が存在することが確認された。また、図9に示されるように、ポリオレフィンフィルム面には、C原子およびO原子が存在することが確認された。
【0068】
<積層体の作製>
積層フィルムおよび上記(1)のポリエチレンフィルムを、それぞれ150mm×90mmの大きさに切り出した試料を準備し、電子線照射装置(ライン照射型低エネルギー電子線照射装置EES−L−DP01、浜松ホトニクス株式会社製)のサンプル台に並置した。この際、積層フィルムは、ガスバリア性保護層を形成した面が上面となるように載置した。また、電子線が試料に照射されない部分を設けるために、両試料の一方の端部5〜10mm程度にマスキングしておいた。
【0069】
次いで、電子照射線装置のチャンバー内の酸素濃度が100ppm以下となるように窒素ガスでパージした後、下記の電子線照射条件により、試料の表面に電子線を照射した。
電圧:40〜70kV
電流:0.75〜2.20mA
照射線量:75〜125kGy
装置内試料搬送速度:1〜6m/分
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0070】
電子線を照射した後、試料を装置内から取り出し、すぐに両フィルムの電子線照射面側が対向するようにして重ね合わせ、150℃にしたゴム製の加熱ロールを用いて、ロール速度3m/分、圧力0.6MPaのラミネート条件にて、両フィルムを接着して積層体を得た。
【0071】
また、得られた積層体中に発生したラジカルおよび残存するラジカル量を測定するため、ESR測定装置(JES−TE200、日本電子株式会社製)を用いて、下記の測定条件にてスピン濃度(すなわちラジカル濃度)を算出した。
ESR測定条件:
測定磁場 337±15mT
マイクロ波パワー 1mW
変調磁場 0.2mT
増幅率 1000倍
標準試料 DPPH標準試料
【0072】
ESRの測定結果から、積層体の積層フィルム側には、6.5×1016個/gのラジカルが存在することが確認された。また、ポリエチレンフィルム側には、5.5×1017個/gのラジカルが存在することが確認された。
【0073】
<積層体の接着状態の同定>
得られた積層体において、積層フィルム側のケイ素原子とポリエチレンフィルム側の炭素原子との間に共有結合が形成されていることを確認するため、以下のような実験を行った。まず、得られた積層体の、電子線が照射されないようにマスキングしておいた部分から、強制的に両フィルムを剥離して、積層フィルムとポリエチレンフィルムとに分離し、分離したそれぞれの「積層フィルム」部分および「ポリエチレンフィルム」部分について、上記と同様にしてX線光電子分析装置を用いてXPS測定を行い、「積層フィルム」部分および「ポリエチレンフィルム」部分の剥離面(接着面)の表面に存在する元素の検出を行い、検出された元素ピークについてナロースキャンを実施して、結合状態の同定を行った。
【0074】
積層フィルムの剥離面(即ち、ガスバリア性保護層面)およびポリエチレンフィルムの剥離面におけるXPS測定により得られたスペクトルは、それぞれ、図10及び図11に示される通りであった。図10に示されるように、積層フィルムの剥離面(ガスバリア性保護層面)には、O原子およびC原子は存在するものの、Si原子が消失していることが確認された。また、図8のスペクトルと比較して、O原子のピークが減少していることが確認された。このように、剥離後の積層フィルムのガスバリア性保護層面にはSi原子が存在せず、O原子の一部およびC原子のみが存在することから、強制的に両フィルムを剥離した際に、ポリエチレンフィルムの表層の一部が積層フィルム側に残り、ガスバリア性保護層表面に存在するSi原子が、残存するポリエチレンによって覆い隠されているものと推測でき、積層フィルムのガスバリア性保護層中の原子とポリエチレン中の原子との間に共有結合が形成されていたことがわかる。また、図11に示されるように、ポリエチレンフィルムの剥離面には、C原子とO原子が存在することが確認されたが、剥離後のポリエチレンフィルム表面状態(図11)を、電子線照射前の表面状態(図9)と比較すると、O原子のピークが減少し、O原子の存在量が減少していた。これは、電子線照射前から存在するポリエチレンフィルム中のO原子が、電子線照射によって、積層フィルムのガスバリア性保護層中の原子と共有結合を形成したため、強制的に両フィルムを剥離した際に、ポリエチレンフィルムの表層の一部が積層フィルム側に残り、ポリエチレンフィルムの極表層が剥がされて清浄な表面(O原子が存在しないような面)が形成されたものと推認できる。
【0075】
<積層体の接着強度の評価>
得られた積層体を幅15mmの短冊状になるように切り出し、引張試験機(テンシロン万能材料試験機RTC−1310A、ORIENTEC社製)を用いて、50mm/分の速度で、90度剥離試験を行った。評価結果は、下記の表1に示される通りであった。
【0076】
実施例2〜17
積層フィルムおよびポリエチレンフィルムへの電子線の照射条件を変更し、また、両フィルムの接着方法を、熱ロールに代えて、ヒートシール装置(TP−701B、テスター産業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。ヒートシール条件は、シール温度160℃、シール圧0.4MPa、シール時間10秒、シール幅15mmとし、重ね合わせたフィルムの2カ所をシールして積層体を得た。なお、ヒートシール箇所が、両フィルムの中央部分で十字に交差するようにヒートシールを行った。変更した電子線の加速電圧、吸収線量、ヒートシール条件(温度および時間)は、下記の表1に示される通りであった。
【0077】
実施例18
ポリオレフィンフィルムとして、上記(1)のポリエチレンフィルムに代えて、上記の(2)のランダム共重合タイプポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。また、得られた積層体について、実施例1と同様にして接着評価を行った。
【0078】
実施例19
ポリオレフィンフィルムとして、上記(1)のポリエチレンフィルムに代えて、上記の(2)のランダム共重合タイプポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。また、得られた積層体について、実施例2と同様にして接着評価を行った。
【0079】
実施例20
ポリオレフィンフィルムとして、上記(1)のポリエチレンフィルムに代えて、上記の(2)のランダム共重合タイプポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。また、得られた積層体について、実施例3と同様にして接着評価を行った。
【0080】
実施例21
ポリオレフィンフィルムとして、上記(1)のポリエチレンフィルムに代えて、上記の(2)のランダム共重合タイプポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例4と同様にして積層体を得た。また、得られた積層体について、実施例4と同様にして接着評価を行った。
【0081】
実施例22
ポリオレフィンフィルムとして、上記(1)のポリエチレンフィルムに代えて、上記の(2)のランダム共重合タイプポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例12と同様にして積層体を得た。また、得られた積層体について、実施例12と同様にして接着評価を行った。
【0082】
実施例23
積層フィルムとランダム共重合タイプポリプロピレンフィルムとの接着時のヒートシール時間を、10秒から5秒に変えた以外は、実施例20と同様にして積層体を得た。また、得られた積層体について、実施例20と同様にして接着評価を行った。
【0083】
実施例24
ポリオレフィンフィルムとして、上記(1)のポリエチレンフィルムに代えて、上記の(3)のブロック共重合タイプポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。また、得られた積層体について、実施例1と同様にして接着評価を行った。
【0084】
実施例25
ポリオレフィンフィルムとして、上記(1)のポリエチレンフィルムに代えて、上記の(3)のブロック共重合タイプポリプロピレンフィルムを用いた以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。また、得られた積層体について、実施例2と同様にして接着評価を行った。
【0085】
比較例1
実施例1において、電子線照射を行わなかった以外は、実施例1と同様にして積層体を作製し、実施例1と同様にして接着評価を行った。しかしながら、得られた積層体は、剥離試験を行うまでもなく、互いのフィルムが接着していなかった。
【0086】
比較例2
実施例1において用いた積層フィルムとポリエチレンフィルムとを、電子線照射に代えて、下記の組成のウレタン系接着剤を介して重ね合わせ、150℃にしたゴム製の加熱ロールを用いて、ロール速度3m/分、圧力0.6MPaのラミネート条件にて両フィルムどうしを接着した以外は実施例1と同様にして積層体を作製し、実施例1と同様にして接着評価を行った。
<ウレタン接着剤組成>
主剤:RU0004(ロックペイント製)
硬化剤:H−1(ロックペイント製)
混合比率:主剤/硬化剤=7.47/1(重量比率)
溶剤:酢酸エチル
【0087】
【表1】

【符号の説明】
【0088】
1 積層体
10 ポリオレフィン樹脂フィルム
20 積層フィルム
21 熱可塑性樹脂フィルム
22 酸化アルミニウム薄膜層
23 ガスバリア性保護層
3、3’ 電子線照射装置
4、4’ 電子線
5 フィルム基材接触界面
6 ヒートローラー
7 支持ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウム薄膜層、および前記酸化アルムニウム薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなる積層フィルムと、ポリオレフィン樹脂フィルムとが、前記ガスバリア性保護層と前記ポリオレフィン樹脂フィルムとが対抗するように積層した積層体であって、
前記ガスバリア性保護層が、少なくとも水酸基を有する水溶性高分子とアルコキシシランとを含む溶液を塗布して得られる被膜からなり、
前記ガスバリア性保護層および前記ポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一部で、前記ガスバリア性保護層中のケイ素原子と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の炭素原子との間に共有結合が形成されており、前記ガスバリア性保護層および前記ポリオレフィン樹脂フィルムとが接着剤を介さずに接着されていることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の炭素原子に酸素原子または水酸基が共有結合しており、前記ガスバリア性保護層中の酸素原子および/または水酸基と、前記ポリオレフィン樹脂フィルム中の酸素原子または水酸基との間で水素結合が形成されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記アルコキシシランが下記一般式:
1nSi(OR
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1〜8の有機基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表すが、n+mはSiの原子価を表す。)
で表される、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記水酸基を有する水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる群から選択される1種、または2種以上の混合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂フィルムがポリエチレンフィルムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の、積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとが積層した積層体を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂フィルム、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けた酸化アルミニウム薄膜層、および前記酸化アルムニウム薄膜層上に設けたガスバリア性保護層を含んでなる積層フィルムのガスバリア性保護層面、および/またはポリオレフィン樹脂フィルムの少なくとも一方の面、に電子線を照射して、前記積層フィルムの電子線が照射されたガスバリア性保護層面とポリオレフィン樹脂フィルム面とを接着する、ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記積層フィルムとポリオレフィン樹脂フィルムとを重ね合わせる前および/または重ね合わせる前に電子線照射を行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記電子線照射の加速電圧が、40〜120kVの範囲である、請求項7または8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−61819(P2012−61819A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209835(P2010−209835)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】