説明

積層体の製造方法

【課題】熱可塑性樹脂フィルムと、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に積層された硬化性樹脂層とを備える積層体の製造方法において、熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性が十分に優れており、且つ十分な表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性を有する積層体を効率よく且つ確実に製造することが可能な積層体の製造方法を提供すること。
【解決手段】ガラス転移温度が70〜220℃である熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に大気圧プラズマ放電処理を施す工程と、
前記熱可塑性樹脂フィルムの大気圧プラズマ放電処理が施された表面に、籠型シルセスキオキサン樹脂を含有する硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、
前記硬化性樹脂組成物を硬化させて、波長550nmでの光透過率が90%以上であり且つガラス転移温度が250℃以上である硬化性樹脂層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COP(シクロオレフィンポリマー)、COC(シクロオレフィンコポリマー)、アクリル、ポリカーボネート、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルスルホン)といった熱可塑性樹脂フィルムは、透明性が優れているために、液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイの光学フィルムとして使用されている。
【0003】
しかしながら、これらの熱可塑性樹脂フィルムは、透明性は優れるものの表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性といった性能が不十分であるという問題があった。そこで、これらの熱可塑性樹脂フィルムの表面に、他のフィルムを張り合わせる方法が提案されており、例えば、特開2006−297751号公報(特許文献1)ではシクロオレフィンフィルムを電離線照射により改質し、その上にポリエステルウレタン系接着剤を含む接着剤層を塗布して、第2のフィルムとしてシクロオレフィンフィルムを張り合わせる積層体の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のような積層体の製造方法においては、接着剤層を介さずに、熱可塑性樹脂フィルムに直接第2のフィルムを積層することはできなかった。また、表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性といった性能を有するフィルムは脆く破断しやすいものとなるため、このような方法で用いる第2のフィルムはハンドリング性が劣るという点で問題があった。一方、熱可塑性樹脂フィルムの表面に硬化性樹脂組成物を塗布し硬化せしめて硬化性樹脂層を形成する方法も検討されているが、このような方法で得られる積層体は熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性の点で必ずしも十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2006−297751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂フィルムと、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に積層された硬化性樹脂層とを備える積層体の製造方法において、熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性が十分に優れており、且つ十分な表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性を有する積層体を効率よく且つ確実に製造することが可能な積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂フィルムと、前記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に積層された硬化性樹脂層とを備える積層体の製造方法において、前記熱可塑性樹脂フィルムの表面に大気圧プラズマ放電処理を施し、その処理表面に特定の硬化性樹脂からなる層を形成することにより、熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性が十分に優れており、且つ十分な表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性を有する積層体を効率よく製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の積層体の製造方法は、ガラス転移温度が70〜220℃である熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に大気圧プラズマ放電処理を施す工程と、
前記熱可塑性樹脂フィルムの大気圧プラズマ放電処理が施された表面に、籠型シルセスキオキサン樹脂を含有する硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、
前記硬化性樹脂組成物を硬化させて、波長550nmでの光透過率が90%以上であり且つガラス転移温度が250℃以上である硬化性樹脂層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0007】
また、本発明の積層体の製造方法においては、前記大気圧プラズマ放電処理が、アルゴン、ヘリウム、窒素及び酸素を含有し、圧力が0.1×10〜1.3×10Paの混合ガスの雰囲気下において施される処理であることが好ましい。
【0008】
さらに、本発明の積層体の製造方法においては、前記籠型のシルセスキオキサン樹脂の含有量が、前記硬化性樹脂組成物の質量に対して3質量%以上となる量であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の積層体の製造方法においては、前記大気圧プラズマ放電処理を施す工程と、前記硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、前記硬化性樹脂層を形成する工程とをロール・トゥ・ロール方式で連続的に行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムと、熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性が十分に優れており、且つ十分な表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性を有する積層体を効率よく且つ確実に製造することが可能な積層体の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0012】
本発明の積層体の製造方法は、ガラス転移温度が70〜220℃である熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に大気圧プラズマ放電処理を施す工程と、
前記熱可塑性樹脂フィルムの大気圧プラズマ放電処理が施された表面に、籠型シルセスキオキサン樹脂を含有する硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、
前記硬化性樹脂組成物を硬化させて、波長550nmでの光透過率が90%以上であり且つガラス転移温度が250℃以上である硬化性樹脂層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0013】
先ず、ガラス転移温度が70〜220℃である熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に大気圧プラズマ放電処理を施す工程について説明する。
【0014】
本発明に用いる熱可塑性樹脂フィルムは、ガラス転移温度が70〜220℃のフィルムである。ガラス転移温度が70℃未満のものを用いる場合には、使用環境下によっては熱によるうねりやそりが発生するおそれがある。他方、ガラス転移温度が220℃を超えるものを用いる場合には、硬化性樹脂層を形成することによる表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性の向上という効果が少なくなる。このような熱可塑性樹脂フィルムの材質としては、例えば、COP(シクロオレフィンポリマー)、COC(シクロオレフィンコポリマー)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルスルホン)等のプラスチックが挙げられる。これらのプラスチックの中でも、透明性並びに硬化性樹脂組成物との密着性の観点から、COP、COCが好ましい。これらのプラスチックは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
また、このような熱可塑性樹脂フィルムは、これらのプラスチックからなる単層フィルムであってもよく、これらのプラスチックからなるフィルムを組み合わせた多層フィルムであってもよい。さらに、このような熱可塑性樹脂フィルムは、力学的機能及び光学的機能を付与するために、フィラー系添加物を含有するものであってもよく、また1軸延伸や2軸延伸といった延伸処理が施されたものであってもよい。また、このような熱可塑性樹脂フィルムは、透明性を阻害しない範囲において表面に凹凸加工が施されているものであってもよい。
【0016】
このような熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、0.01〜0.8mmの範囲であることが好ましく、0.03〜0.4mmの範囲であることがより好ましい。厚みが前記下限未満では、硬化性樹脂組成物の硬化時の収縮による変形が発生しやすくなると共に塗工時の張力による変形が発生しやすくなる傾向にある。他方、厚みが前記上限を超えると、フィルムの厚さにより、硬化性樹脂組成物の連続塗工が困難となり、生産性が悪化しやすくなる傾向にある。
【0017】
本発明にかかる大気圧プラズマ放電処理は、プラズマ放電(グロー放電、アーク放電)により生じた活性種(アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素等の活性種)を利用したフィルム等の表面処理の一つであって、1.3×10Pa以下の低圧雰囲気下ではなく、大気圧雰囲気下におけるプラズマ放電を利用した表面処理のことをいう。このような大気圧プラズマ放電処理は、アルゴン、ヘリウム、窒素及び酸素を含有し、圧力が0.1×10〜1.3×10Paの混合ガスの雰囲気下において施される処理であることが好ましい。
【0018】
このような大気圧プラズマ放電処理を施す方法は、大気圧プラズマ放電処理装置を用いる方法を採用することができる。そして、このような大気圧プラズマ放電処理装置としては、市販されているものを適宜使用することができ、特に限定されないが、例えば、エア・ウォーター(株)製の大気圧プラズマ放電照射機を使用することができる。
【0019】
このような大気圧プラズマ放電処理における処理条件は、用いる装置により異なり特に限定されないが、例えば、エア・ウォーター(株)製の大気圧プラズマ放電照射機を使用する場合には、下記の条件(i)〜(v)を採用することが好ましい。
(i)放電出力:0.1〜5kW
(ii)処理速度:0.1〜3.0m/min
(iii)アルゴンガス流量:10〜20L/min
(iv)ヘリウムガス流量:2〜10L/min
(v)窒素ガス流量:0.1〜5L/min。
【0020】
次に、前記熱可塑性樹脂フィルムの大気圧プラズマ放電処理が施された表面に、籠型シルセスキオキサン樹脂を含有する硬化性樹脂組成物を塗布する工程について説明する。
【0021】
このように硬化性樹脂組成物を塗布する方法は特に限定されず、例えば、塗布装置を使用する方法を採用することができる。塗布装置としては、公知の塗布装置を適宜選択して使用することができる。また、塗布方式は、均一性及び塗工形状に優れた塗布方式であればよく特に限定されない。このような塗布方式としては、例えば、ダイコート、リップコート、グラビアコート、ロールコート、リバースコート、ナイフコート、ドクターコート、エクストルージョンコート、スライドコート、ワイヤーバーコート、押出コート等の公知の塗布方式を採用することができる。
【0022】
本発明に用いる硬化性樹脂組成物は、籠型シルセスキオキサン樹脂を含有する樹脂組成物である。そして、本発明に用いる硬化性樹脂組成物とは、熱硬化性又は光硬化性を有し、流動性又は可塑性を有する樹脂組成物のことをいう。また、このような硬化性樹脂としては、加熱処理により硬化可能な樹脂組成物、或いは活性エネルギー線を照射して硬化可能な樹脂組成物あればよく、特に制限されない。さらに、このような硬化性樹脂組成物は、複数の樹脂又はモノマーを含む樹脂組成物であってもよい。このような樹脂又はモノマーとしては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシが挙げられる。このような硬化性樹脂組成物は、硬化性を阻害しない範囲であれば、フィラー系添加物を含有していてもよい。
【0023】
また、このような硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、光重合開始剤を更に含有していてもよい。このような光重合開始剤としては、市販されているものを適宜選択して使用することができる。また、このような光重合開始剤としては、例えば、アルキンフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、チタノセン系等の光重合開始剤が挙げられる。なお、このような硬化性樹脂組成物としては、粘度調整等のために、公知の溶媒を希釈剤として含有しているものを使用してもよいが、溶媒の揮発除去工程を考慮すると時間を要し生産効率が低下するという観点、並びに硬化フィルム内部に残留溶媒等が存在し成形フィルムの特性低下につながるという観点から、溶媒の含有量が5%以下のものを使用することが好ましく、溶媒を含有していないものを使用することがより好ましい。また、このような硬化性樹脂組成物は、硬化の際に揮発分を発生しないものであることが好ましい。
【0024】
さらに、このような硬化性樹脂組成物は籠型シルセスキオキサン樹脂を含有するものであることが必要であるが、このような籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量は、前記硬化性樹脂組成物の質量に対して、3質量%以上となる量であることが好ましく、5〜30質量%の範囲内となる量であることがより好ましい。前記含有量が下限未満では、得られる硬化性樹脂層のガラス転移温度が低くなる傾向にあるため、得られる積層体の耐熱性が不十分となりやすい傾向にある。他方、前記含有量が前記上限を超えると、得られる硬化性樹脂層の靭性が損なわれ、ハンドリングにより表面にクラック発生等の外観不良が発生しやすい傾向にある。このように籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量を調節することにより、硬化性樹脂層のガラス転移温度を調節することができ、例えば、前記籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量が同じ場合でも、前記籠型シルセスキオキサン樹脂と併用する他の樹脂等のガラス転移温度により変動するため、前記籠型シルセスキオキサン樹脂の含有量を適宜調節することにより、硬化性樹脂層のガラス転移温度を調節することができる。
【0025】
本発明に用いる籠型シルセスキオキサン樹脂としては、熱硬化性又は光硬化性を有する籠型のシルセスキオキサン樹脂を用いることが好ましい。このような籠型シルセスキオキサン樹脂としては、例えば、下記一般式(1):
RSiX ・・・(1)
で表されるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させてなるものが挙げられる。なお、前記一般式(1)において、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基のうちのいずれか一つの基を有する有機官能基を示し、Xはアルコキシ基、アセトキシ基等の加水分解性基を示す。
【0026】
また、本発明においては、このような籠型シルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(2):
[RSiO3/2 ・・・(2)
で表される籠型シルセスキオキサン樹脂であることが好ましい。なお、前記一般式(2)において、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基及びビニル基のうちのいずれか一つの基を有する有機官能基を示し、nは8、10、12又は14を示す。
【0027】
さらに、本発明においては、前記Rが、下記一般式(3)、(4)又は(5):
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
で表される有機官能基であることが好ましい。なお、前記一般式(3)において、Rは水素原子又はメチル基を示す。また、前記一般式(3)及び(4)において、mは1〜3の整数を示す。
【0032】
このような籠型シルセスキオキサン樹脂は、樹脂中のケイ素原子全てに(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基を有する有機官能基からなる反応性官能基を有し、且つ、分子量分布及び分子構造の制御された籠型シルセスキオキサン樹脂であることが好ましいが、一部の有機官能基がアルキル基、フェニル基等に置き換わっているものであってもよい。また、このような籠型シルセスキオキサン樹脂の分子構造は、完全に閉じた多面体構造でなくてもよく、例えば、一部が開裂したような構造であってもよい。また、このような籠型シルセスキオキサン樹脂の平均分子量も特に限定されず、このような籠型シルセスキオキサン樹脂がオリゴマーであってもよい。
【0033】
本発明においては、このような硬化性樹脂組成物の塗布厚み(wet)を0.01〜0.8mmの範囲(より好ましくは0.03〜0.4mmの範囲)となるようにすることが好ましい。塗布厚みが前記下限未満では、均一に塗布することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂組成物の硬化収縮により、硬化品に変形不良が生じやすくなる傾向にある。
【0034】
次に、前記硬化性樹脂組成物を硬化させて、波長550nmでの光透過率が90%以上であり且つガラス転移温度が250℃以上である硬化性樹脂層を形成する工程について説明する。
【0035】
前記硬化性樹脂組成物を硬化させることにより形成される硬化性樹脂層は、波長550nmでの光透過率が90%以上であり、且つガラス転移温度(耐熱温度)が250℃以上である層であることが必要である。波長550nmでの光透過率が90%未満では、得られる積層体における透明性が不十分となる。また、ガラス転移温度が250℃未満では、得られる積層体における耐熱性が不十分となる。なお、このような硬化性樹脂層のガラス転移温度は高いほど好ましく、硬化性樹脂層の他の品質である透明性、高表面硬度性、耐候性、耐薬品性及び耐久性を阻害しない範囲(例えば、ガラス転移温度が300〜400℃の範囲)であればよい。
【0036】
前記硬化性樹脂組成物を硬化せしめる方法としては、例えば、(i)塗布後の光硬化性樹脂組成物に熱処理を施して熱硬化させるという方法、(ii)塗布後の光硬化性樹脂組成物上に紫外線を発生させて照射して光硬化させるという紫外線照射法を採用することができる。
【0037】
熱処理を施して熱硬化させる方法を採用する場合において、熱処理装置は特に制限されず、適宜公知の熱処理炉を用いることができる。また、熱処理温度は特に限定されないが、例えば70〜150℃とすることが好ましい。さらに、熱処理時間は特に限定されないが、例えば5〜60分間とすることが好ましい。
【0038】
また、紫外線照射法を採用する場合において、紫外線ランプにとしては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、パルス型キセノンランプ、キセノン/水銀混合ランプ、低圧殺菌ランプ、無電極ランプを用いることができる。これらの紫外線ランプの中でも、メタルハライドランプ又は高圧水銀ランプを用いることが好ましい。また、照射条件はそれぞれのランプ条件によって異なるが、照射露光量は20〜10000mJ/cmの範囲であればよく、100〜10000mJ/cmでの範囲であることが好ましい。また、光エネルギーの有効利用の観点から、紫外線ランプには楕円型、放物線型、拡散型等の反射板を取り付けることが好ましく、さらには、冷却対策として熱カットフィルター等を取り付けてもよい。
【0039】
なお、このように紫外線照射法により硬化性樹脂組成物を硬化せしめる場合には、紫外線硬化反応はラジカル反応であるため酸素による反応阻害を受ける。そのため、硬化性樹脂組成物の硬化反応における酸素による反応阻害を抑制するという観点から、硬化性樹脂組成物を塗布した後にその表面を透明カバーフィルムで覆うことが好ましい。また、このように硬化性樹脂組成物の表面を透明カバーフィルムで覆うことより、硬化性樹脂組成物の表面における酸素濃度を1%以下にすることが好ましく、0.1%以下にすることがより好ましい。このように酸素濃度を小さくするためには、表面に空孔がなく、酸素透過率の小さい透明カバーフィルムを採用することが好ましい。このような透明カバーフィルムの材質としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリプロピレン、ポリエチレン、アセテート系樹脂、アクリル系樹脂、フッ化ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリアリレート、セロファン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン系樹脂等のプラスチックが挙げられる。これらのプラスチックは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、このような透明カバーフィルムは硬化後の硬化性樹脂組成物(硬化性樹脂層)との剥離が可能でなければならないため、透明カバーフィルムの表面にシリコン塗布、フッ素塗布等の易剥離処理が施されているものを用いることが好ましい。
【0040】
以上、本発明の積層体の製造方法について一例を挙げて説明したが、本発明の積層体の製造方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明においては、前記大気圧プラズマ放電処理を施す工程と、前記硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、前記硬化性樹脂層を形成する工程とをいわゆるロール・トゥ・ロール方式で連続的に行うことができる。すなわち、本発明にかかる大気圧プラズマ放電処理は、従来の低圧プラズマ処理と異なり通常の製造ラインに容易に組み込むことができる。そのため、本発明の積層体の製造方法においては、このようにロール・トゥ・ロール方式で連続的に積層体を製造する方法を好適に採用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
先ず、大気圧プラズマ照射機(エア・ウォーター株式会社製、製品名「ロールtoロール大気圧プラズマ装置」)を用い、下記の条件で、幅500mm、厚み100μmのシクロオレフィンフィルム(ポリプラスチックス社製、商品名「シクロオレフィンフィルム」)の両面に大気圧プラズマ放電処理を施した。
放電出力:0.6kW
処理速度:1.0m/min
アルゴンガス流量:14.0L/min
ヘリウムガス流量:6.0L/min
窒素ガス流量:0.6L/min。
【0043】
また、トリメチロールプロパントリアクリレート(日本化薬社製、商品名「KS−TMPTA」)80部、下記構造式(6)で表されるメタクリル基含有シルセスキオキサンオリゴマー20部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「IRGACURE184」)2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の硬化性樹脂組成物(HR1)を得た。
【0044】
【化4】

【0045】
次に、大気圧プラズマ放電処理を施した後1時間放置したフィルムに、得られた硬化性
樹脂組成物をリップコート法にて、硬化後の厚みがそれぞれ25μmとなるように両面に
塗布した。そして、透明カバーフィルム(材質:ポリエチレンテレフタレート、幅500mm、厚み0.1mm、波長550nmでの光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着した後、メタルハライドランプにて紫外線を500mJ/cmの照射露光量で両面から照射して硬化性樹脂層を形成せしめた。その後、硬化性樹脂層の表面から透明カバーフィルムを剥離することにより、シクロオレフィンフィルムの両面に硬化性樹脂層が形成された積層体(HR1/COP/HR1)を得た。
【0046】
(実施例2)
大気圧プラズマ放電処理を施した後1週間放置したフィルムに硬化性樹脂層を形成せしめた以外は実施例1と同様にして積層体(HR1/COP/HR1)を得た。
【0047】
(実施例3)
大気圧プラズマ放電処理を施した後2週間放置したフィルムに硬化性樹脂層を形成せしめた以外は実施例1と同様にして積層体(HR1/COP/HR1)を得た。
【0048】
(実施例4)
先ず、大気圧プラズマ照射機(エア・ウォーター株式会社製、製品名「ロールtoロール大気圧プラズマ装置」)を用い、下記の条件で、幅500mm、厚み100μmのアクリル系樹脂フィルム(住友化学(株)製、商品名「テクノロイ」)の両面に大気圧プラズマ放電処理を施し、その後、1時間放置した。
放電出力:0.6kW
処理速度:1.0m/min
アルゴンガス流量:14.0L/min
ヘリウムガス流量:6.0L/min
窒素ガス流量:0.6L/min。
【0049】
そして、得られたフィルムに実施例に実施例1で用いた硬化性樹脂組成物を用いて硬化性樹脂層を形成せしめた以外は実施例1と同様にして積層体(HR1/AC/HR1)を得た。
【0050】
(比較例1)
幅500mm、厚み100μmのシクロオレフィンフィルム(ポリプラスチックス社製、商品名「シクロオレフィンフィルム」)を準備し、このようなフィルムに実施例1で用いた硬化性樹脂組成物を用いて硬化性樹脂層を形成せしめた以外は実施例1と同様にして積層体(HR1/COP/HR1)を得た。
【0051】
(比較例2)
幅500mm、厚み100μmのアクリル系樹脂フィルム(住友化学(株)製、商品名「テクノロイ」)を準備し、このようなフィルムに実施例1で用いた硬化性樹脂組成物を用いて硬化性樹脂層を形成せしめた以外は実施例1と同様にして積層体(HR1/AC/HR1)を得た。
【0052】
<積層体の諸特性の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた積層体の諸特性(表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性、並びに熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性)を評価した。
【0053】
(i)表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性の評価
積層体の諸特性〔表面硬度(JIS K5600)、耐候性(JIS K5658)、耐薬品性(JIS A1454、薬品:トルエン、キシレン、アセトン、10%NaOH、10%HSO、10%HCl、10%HPO、浸漬時間:24hr)、耐久性(JIS K7128)及び耐熱性(JIS K7206)〕を、それぞれ日本工業規格等に記載された方法に準拠して評価したところ、本発明の積層体(実施例1〜4)は、十分な表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性を有していることが確認された。
【0054】
(ii)熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性
積層体における熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性を、JIS−K5600−5−6に記載の方法(クロスカット法)に準拠して、試料にクロスカットを入れた際のはがれ具合を目視にて評価した。なお、熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性は、下記の基準に基づいて判定した。得られた結果を表1に示す。また、実施例1〜4及び比較例1〜2における製造条件(熱可塑性樹脂フィルム、表面処理方法及び表面処理後の放置時間)を表1に示す。
分類0:はがれの程度(面積)が0%であり、どの格子の目にもはがれがない。
分類1:はがれの程度(面積)が5%未満であり、カットの交差点において小さなはがれがある。
分類2:はがれの程度(面積)が5〜15%であり、カットのふちに沿って、及び/または交差点においてはがれがある。
分類3:はがれの程度(面積)が15〜35%である。
分類4:はがれの程度(面積)が35〜65%である。
分類5:はがれの程度(面積)が65%以上である。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の積層体(実施例1〜4)においては、前記クロスカット法による評価が「分類1」以上の結果であり、熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性が十分に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムと硬化性樹脂層との接着性が十分に優れており、且つ十分な表面硬度、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性を有する積層体を効率よく且つ確実に製造することが可能な積層体の製造方法を提供することが可能となる。
【0058】
したがって、本発明の積層体の製造方法は、光学フィルム、偏光板等を製造する技術として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が70〜220℃である熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に大気圧プラズマ放電処理を施す工程と、
前記熱可塑性樹脂フィルムの大気圧プラズマ放電処理が施された表面に、籠型シルセスキオキサン樹脂を含有する硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、
前記硬化性樹脂組成物を硬化させて、波長550nmでの光透過率が90%以上であり且つガラス転移温度が250℃以上である硬化性樹脂層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記大気圧プラズマ放電処理が、アルゴン、ヘリウム、窒素及び酸素を含有し、圧力が0.1×10〜1.3×10Paの混合ガスの雰囲気下において施される処理であることを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記籠型のシルセスキオキサン樹脂の含有量が、前記硬化性樹脂組成物の質量に対して3質量%以上となる量であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記大気圧プラズマ放電処理を施す工程と、前記硬化性樹脂組成物を塗布する工程と、前記硬化性樹脂層を形成する工程とをロール・トゥ・ロール方式で連続的に行うことを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の積層体の製造方法。

【公開番号】特開2009−221321(P2009−221321A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66150(P2008−66150)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】