説明

積層体及び部材の接合方法

【課題】 接合面同士が複雑な形状を備えていても、必要な部分のみに接着剤が維持され、複数の部材が、位置ずれが生じることなく、高精度で確実に接合されてなる積層体及び部材の接合方法を提供する。
【解決手段】 複数の部材を接着剤により接合してなる積層体であり、少なくとも一方の部材10の、他の部材20との接合面12に、接着剤を収容して流通させる接着剤流通路13と、接着剤流通路13に接着剤を供給する接着剤供給口11を備えてなり、一方の部材10と他方の部材20は、接着剤流通路13に収容された接着剤によって接合されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材を接合してなる積層体、及び複数の部材を一度に接合するための接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の部材を接合して積層体を形成するには、一方の部材の接着すべき表面に接着剤を塗布し、この接着剤が塗布された部材に他方の部材を重ね合わせて所定の圧力をかける方法が一般的に行われている。
【0003】
このような複数の部材を接合して積層体を形成する方法として、例えば、インサート部材の所定の面に接着層を形成し、この接着層が形成されたインサート部材を金型のキャビティ内に配置し、次いで、当該キャビティ内に樹脂を供給して、前記インサート部材の接着層が形成された所定の面に樹脂を成形接着するインサート部材のインサート成形同時接着方式が紹介されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、板材の一面に複数の部材を同時に接着するための接着装置も紹介されている。この接着装置は、複数の部材支持部材を備え、これらの部材支持部材の各々に部材を保持させることで、これらの部材の接着姿勢の決定と、接着位置の位置決めを同時に行うことができる。この接着装置を使用して板材に複数の部材を同時に接着するには、前記部材支持部材に保持された部材、または板材、あるいは両者に接着剤を塗布した後、部材支持部材を操作して部材を位置決めし、板材に押圧すればよい。(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭61−19320号公報
【特許文献2】特開平3−51129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した部材の接合方法では、形状が複雑な面に接着剤を塗布することが困難である。また、意図しない領域にまで接着剤が塗布されたり、接合時にかかる圧力により、接着剤が意図しない領域まではみ出してしまい、部材を汚染する可能性もある。また、接着剤による滑りが生じやすく、部材同士の位置合わせを正確に行うことが困難となる場合もある。
【0006】
本発明は、このようなこのような事情に鑑みなされたものであり、接合面同士が複雑な形状を備えていても、必要な部分のみに接着剤が維持され、複数の部材が、位置ずれが生じることなく、高精度で確実に接合されてなる積層体を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、複数の部材を接合する際に、各部材に接着剤を塗布する必要がなく、また、接着剤の塗布が困難であるとされる部材同士であっても、位置ずれが生じることなく、高精度で確実に接合できる部材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため本発明は、複数の部材を接着剤により接合してなる積層体であって、少なくとも一方の部材は、他の部材との接合面に形成され且つ前記接着剤を収容して流通させる接着剤流通路と、当該接着剤流通路に連通形成され且つ当該接着剤流通路に接着剤を供給する接着剤供給口と、を備えてなり、前記一方の部材と他方の部材は、前記接着剤流通路に収容された接着剤によって接合されてなる積層体を提供するものである。
【0009】
この構成を備えた積層体は、一つ一つの部材に接着剤を塗布しなくても得ることができる。また、複数の部材の接合面同士が複雑な形状を備えていても、精度よく確実に接合されている。さらにまた、必要な部分のみに接着剤が維持され、複数の部材に位置ずれが生じることがない。さらに、余分な接着剤を必要とせず、経済的である。また、接着剤流通路に収容された接着剤は、毛細管現象により、接着剤流通路から奥へと浸入するため、接着効果を向上することもできる。
【0010】
また、本発明にかかる積層体は、前記部材を少なくとも3つ備えてなり、当該少なくとも3つの部材のうち、外側に配設される2つの部材が、前記接着剤流通路及び接着剤供給口を備えてなり、上記2つの部材の間に挟まれるように内側に配設される部材は、前記両接着剤供給口と対応する位置に、当該両接着剤供給口を連通させる連通孔が形成されていてもよい。
【0011】
この構成を備えた積層体は、積層された少なくとも3つの部材のうち、外側に配設された一方の部材の接着剤供給口と、外側に配設された他方の部材の接着剤供給口とが連通孔によって連通された構成となっている。したがって、外側に配設された一方の部材の接着剤供給口から接着剤を供給することで、この部材の接着剤流通路に接着剤を収容させることができると共に、外側に配設された他方の部材の接着剤供給口にも連通孔を介して接着剤を供給することができ、この他方の部材の接着剤流通路にも接着剤を収容させることができる。したがって、前記利点に加え、少なくとも3つの部材を同時に接合することができる。
【0012】
そしてまた、本発明にかかる積層体は、前記連通孔に、前記接着剤供給口に接着剤を供給する第2の接着剤供給口を設けることもできる。この構成を備えた積層体は、第2の接着剤供給口から接着剤を供給することで、複数の部材の各々の接着剤供給口に連通孔を介して接着剤を供給することができ、それぞれの接着剤流通路に接着剤を収容させることができる。
【0013】
さらにまた、本発明にかかる積層体は、前記部材を少なくとも3つ備えてなり、当該少なくとも3つの部材のうち、外側に配設される2つの部材が、前記接着剤流通路及び接着剤供給口を備えてなり、上記2つの部材の間に挟まれるように内側に配設される部材は、前記外側に配設される一方の部材に形成された接着剤流通路の接着剤供給口側から離れた端部と、当該外側に配設される他方の部材の接着剤供給口とを連通させる連通孔が形成されていてもよい。この構成を備えた積層体は、外側に配設された一方の部材の接着剤供給口から接着剤を供給することで、この部材の接着剤流通路、前記外側に配設される他方の部材の接着剤供給口、この部材の接着剤流通路の経路で接着剤を収容することができる。
【0014】
また、本発明にかかる積層体は、前記部材を少なくとも3つ備えてなり、当該少なくとも3つの部材のうち、上記2つの部材の間に挟まれるように内側に配設される部材が、前記接着剤流通路及び接着剤供給口を備えていてもよい。
【0015】
そしてまた、前記少なくとも一方の部材は、前記接着剤流通路内のガスを外部に排出可能なガス抜き孔をさらに備えていてもよい。このようにすることで、接着剤を供給した際に、接着剤流通路内に空気等のガスが混入したとしても、このガスをガス抜き孔から外部に排出することができる。したがって、前記利点に加え、接着剤流通路内に接着剤をさらにむら無く収容することができる。
【0016】
また、このガス抜き孔には、前記ガスを流通させると共に、前記接着剤の流通を抑制可能である絞り部材を配設することもできる。このようにすることで、ガスを外部に排出することができることに加え、接着剤をガス抜き孔近傍まで存在させることができ、より確実な接合を行うことができる。
【0017】
また、本発明は、複数の部材を接着剤により接合する部材の接合方法であって、少なくとも一方の部材の接合すべき面に、接着剤を収容して流通させる接着剤流通路と、当該接着剤流通路に接着剤を供給する接着剤供給口と、を形成する工程と、前記複数の部材の接合すべき面同士を合わせた後、前記接着剤供給口から接着剤を注入し、前記接着剤流通路に当該接着剤を流通させる工程と、を含んでなる部材の接合方法を提供するものである。
【0018】
この接合方法によれば、複数の部材の接合すべき面同士を合わせて積層し、接着剤供給口から接着剤流通路に接着剤を供給することによって、当該接着剤流通路に接着剤を流通させることにより、当該接着剤によって部材同士を接合することができる。このため、一つ一つの部材に接着剤を塗布する必要がない。また、複数の部材の接合面同士が複雑な形状を備えていても、必要な部分のみに接着剤を存在させることができる。さらに、複数の部材に位置ずれが生じることもなく、余分な接着剤を必要とせず、経済的である。また、接着剤流通路に収容された接着剤は、毛細管現象により、接着剤流通路から奥へと浸入するため、接着効果を向上することもできる。
【0019】
また、本発明にかかる接合方法は、前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材と接合する部材に、前記接着剤供給口と連通する連通孔を形成する工程と、前記連通孔が形成された部材の対向した両面に、前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材の接合すべき面をそれぞれ合わせ、前記両接着剤供給口を前記連通孔により連通させる工程と、前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材のうち、一方の部材の接着剤供給口から接着剤を注入し、前記両接着剤流通路に接着剤を流通させる工程と、を含むことができる。
【0020】
これらの工程を有する接合方法によれば、一方の部材の接着剤供給口から接着剤を注入することで、当該接着剤は、この部材の接着剤流通路に接着剤を流通させると共に、他方の部材の接着剤供給口にも連通孔を介して接着剤を供給することができ、この他方の部材の接着剤流通路にも接着剤を流通させることができる。したがって、複数の部材を同時に接合することができる。
【0021】
また、本発明にかかる接合方法は、前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材と接合する部材に、前記接着剤供給口と連通する連通孔と、当該連通孔に前記接着剤を供給する第2の接着剤供給口を形成する工程と、前記連通孔が形成された部材の対向した両面に、前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材の接合すべき面をそれぞれ合わせ、前記両接着剤供給口を前記連通孔により連通させる工程と、前記第2の接着剤供給口から接着剤を注入し、前記両接着剤供給口を介して、前記両接着剤流通路に接着剤を流通させる工程と、を含むこともできる。
【0022】
これらの工程を有する接合方法によれば、第2の接着剤供給口から接着剤を注入することで、各部材の接着剤供給口に接着剤を供給することができ、ここから各部材の接着剤流通路に接着剤を流通させることができる。したがって、複数の部材にバランスよく接着剤を流通させることができると共に、複数の部材を同時に接合することができる。また、接着剤を流通させるための時間も短縮させることができる。
【0023】
また、本発明は、3つ以上の部材を接着剤により接合する部材の接合方法であって、第1の部材の接合すべき面に、接着剤を収容して流通させる第1の接着剤流通路と、当該第1の接着剤流通路に接着剤を供給する第1の接着剤供給口と、を形成する工程と、第2の部材の接合すべき面の、前記第1の接着剤流通路の第1の接着剤供給口から離間した端部に対応する位置に、第2の接着剤供給口を形成すると共に、当該第2の接着剤供給口から供給された接着剤を収容して流通させる第2の接着剤流通路を形成する工程と、第3の部材に、前記第1の接着剤流通路の第1の接着剤供給口から離間した端部と、前記第2の接着剤供給口とを連通させる連通孔を形成する工程と、前記第1の部材、第3の部材、第2の部材を、この順に合わせた後、前記第1の接着剤供給口から接着剤を注入し、前記第1の接着剤流通路、前記連通孔、前記第2の接着剤供給口、前記第2の接着剤流通路の順に前記着剤を流通させる工程と、を含んでなる部材の接合方法を提供するものである。
【0024】
この接合方法によれば、第1の部材の第1の接着剤供給口から供給された接着剤を、第1の接着剤流通路から第3の部材の連通孔を経て第2の部材の第2の接着剤供給口に至り、さらに第2の接着剤流通路へと流通させることができる。
【0025】
そしてまた、前記接着剤流通路及び接着剤供給口を形成する工程は、当該接着剤流通路及び接着剤供給口を、部材の対向する両面に形成する工程であってもよく、この場合、前記対向する両面に形成された両接着剤供給口を連通する連通孔を形成する工程をさらに含んでいてもよい。
【0026】
なお、本発明でいう「接着剤」とは、接着剤の他、粘着剤等、部材同士を接合する際に使用されるもの全般を含むものとする。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかる積層体によれば、一つ一つの部材に接着剤を塗布しなくても得ることができる。また、複数の部材の接合面同士が複雑な形状を備えていても、複数の部材に位置ずれが生じることがなく、寸法精度を向上することができる。さらにまた、必要な部分のみに接着剤が維持され、余分な接着剤を必要とせず、経済的である。また、接着剤流通路に収容された接着剤は、毛細管現象により、接着剤流通路から奥へと浸入するため、接着効果を向上することもでき、信頼性の高い積層体を提供することができる。
【0028】
また、本発明にかかる接合方法によれば、複数の部材の接合すべき面同士を合わせて積層し、接着剤供給口から接着剤流通路に接着剤を供給することによって、当該接着剤流通路に接着剤を流通させ、部材同士を接合することができる。このため、当該接着剤によって部材同士に位置ずれが生じることがなく、且つ一つ一つの部材に接着剤を塗布する必要がない。また、複数の部材の接合面同士が複雑な形状を備えていても、必要な部分のみに接着剤を存在させることができる。さらに、接着剤流通路に収容された接着剤は、毛細管現象により、接着剤流通路から奥へと浸入するため、接着効果を向上することもできる。この結果、接合工程を簡略化することができると共に、信頼性の高い積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の好適な実施の形態にかかる積層体及び部材の接合方法について図面を参照して説明する。なお、以下に記載される実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施の形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の実施例1にかかる積層体の分解斜視図、図2は、図1に示すII−II線に沿った断面図、図3は、図1に示す積層体の斜視図、図4は、図1に示す積層体の一部を拡大して示す断面図である。
【0031】
図1〜図4に示すように、実施例1にかかる積層体1は、3枚の部材10、20及び30を積層して接合した構造を有している。
【0032】
部材10は、略板状を有し、一方の面(部材20との接合面12)から他方の面まで貫通した接着剤供給口11を有している。この部材10の接合面12には、接着剤供給口11に連通すると共に、接合面12の外周近傍に、当該外周に沿って形成された溝からなる接着剤供給路13が形成されている。この接着剤供給路13の接着剤供給口11から離間した端部13Aは、部材10の縁まで延びており、図3に示すように、積層体1となった際に、接着剤供給路13が外部と連通するようになっている。
【0033】
接着剤供給路13の端部13Aには、図4に示すように、絞り部材14が形成されている。この絞り部材14は、接着剤の注入の際に生じる空気抵抗であれば、問題のない大きさ(値)であるが、接着剤のようなある程度の粘度がある物質に対しては所望の抵抗を持つように、端部13Aの流路断面積を、接着剤供給路13の接着剤の流路断面積よりも小さくするものである。接着剤供給路13の端部13Aに、この絞り部材14を配設することで、接着剤が接着剤供給路13の端部13Aに到達してから、接着剤注入圧力付与の停止動作までの時間差を大きくとることができる。したがって、接着剤を注入する際の管理を容易に行うことができる。この絞り部材14は、端部13Aからの接着剤のはみ出しを防止すると共に、ガス抜きの効果も有している。
【0034】
部材20は、略板状を有し、一方の面(部材10との接合面21)から他方の面(部材30との接合面22)まで貫通して形成され、部材10の接着剤供給口11と、後に詳述する部材30の接着剤供給口31とを連通させる連通孔23が形成されている。すなわち、連通孔23の一端23A及び他端23Bは、積層体1となった際に、部材10の接着剤供給口11、及び部材30の接着剤供給口31と、同一線L上に位置している。特に、接着剤の注入を注入針を同一線上Lに存在する接着剤供給口11、連通孔23、及び接着剤供給口31の接着剤供給口31まで挿入して行う場合、まず部材30の接着剤供給路33に接着剤を十分に充填した後に、注入針を部材30側から部材10側に引き抜きながら部材20の連通孔23に接着剤を注入し、最後に接着剤を部材10の接着剤供給口13に充填するように注入を行えば、所望の部材に接着剤を的確に注入できると共に、部材10から先に接着剤を充填することに比べ、注入針の外装部分が接着剤によって極度によごれることを防止できる。
【0035】
部材30は、略板状を有し、一方の面(部材20との接合面32)に、接着剤供給口31を有している。この接着剤供給口31は、貫通孔23の他端23Bに対応した位置に形成された略半球状の溝から形成されており、この接着剤供給口31には、部材10に形成されている接着剤供給路13と鏡像をなす接着剤供給路33が形成されている。この接着剤供給路33の接着剤供給口31から離間した端部33Aは、部材30の縁まで延びており、図3に示すように、積層体1となった際に、接着剤供給路33が外部と連通するようになっている。この接着剤供給路33の端部33Aにも、前述した絞り部材14が配設されている。
【0036】
次に、部材10、20及び30を接合する方法について説明する。先ず、部材20の両側に、部材10及び30を各々配設し、部材10の接合面12と部材20接合面21、及び、部材20の接合面22と部材30の接合面32を合わせ、3枚の部材を積層する。次に、この積層された部材10、20及び30をこの状態で保持し、接着剤供給口11から接着剤を注入する。この時の保持力(クランプ力)は、接着剤注入圧力×接着剤の経路(接着剤供給路)内接触面積よりも大きいものとする。
【0037】
接着剤供給口11から注入された接着剤は、接着剤供給口11から接着剤供給路13へと流れ込み、ほぼ同時に接着剤供給口11から連通孔23を経て、接着剤供給口31に至り、さらに接着剤供給路33へと流れ込み、接着剤供給路13内及び接着剤供給路33内に充填される。このように連通孔23の一端23A及び他端23Bは、積層体1となった際に、部材10の接着剤供給口11、及び部材30の接着剤供給口31と、同一線L上に位置しているので、接着剤は、2つの経路を併行して流れるため、接着剤の注入に要する時間を短縮することができる。その後、接着剤は、接着剤供給路13の端部13A及び接着剤供給路33の端部33Aに至るが、絞り部材14によって、その進行が抑制されて停止する。
【0038】
このようにして、部材10、20及び30は、接着剤供給路13及び33に収容された接着剤によって互いに接着されて接合され、積層体1を構成する。この積層体1は、一つ一つの部材に接着剤を塗布する必要がなく、接合工程を簡略化することができる。また、例えば、接合面の形状が、従来、接着剤の塗布が難しいとされていた複雑な形状を有していたとしても、接合面の形状に係わらず、部材同士を簡単に接合することができる。さらにまた、接着剤が接着剤供給路13内及び接着剤供給路33内に保持されているため、接着剤が意図しない領域に塗布されることがない。したがって、接着剤供給路13及び接着剤供給路33が形成されていない領域に、種々の素子等を配設しても、これらの素子が接着剤に侵されることがない。
【0039】
ここで、例えば、従来のように、スピンコート等で接着剤を塗布する場合、余分な接着剤は捨てられてしまうが、本発明にかかる接合方法では、余計な接着剤を使用する必要がなく、経済的である。
【0040】
また、従来のように、接着剤を塗布した後に部材同士を接着すると、接着剤による滑りで部材同士の位置合わせが正確にできないことがあるが、本発明にかかる接合方法では、部材同士を位置合わせした後で、接着剤を注入することにより部材同士を接合するため、正確な位置合わせが行えると共に、位置ずれが生じることを防止することができる。
【0041】
そしてまた、本発明にかかる接合方法では、接着剤が接着剤供給路13及び33に収容(充填)されるが、毛細管現象により、接着剤が接着剤供給路13及び33の表面から内部に浸入するため、接着効果を向上することもできる。
【0042】
なお、実施例1では、接着剤供給口11を貫通形成し、ここから接着剤を注入する場合について説明したが、これに限らず、図6に示すように、接着剤供給口11の代わりに、接着剤供給口31と同様の略半球状の溝からなる接着剤供給口15を形成し、この接着剤供給口15に連通孔23の端部23Aを連通させ、連通孔23に、接着剤を供給するための接着剤供給口25を形成してもよい。この構成の場合、接着剤供給口25から供給された接着剤は、連通孔23の端部23Aから接着剤供給口15を経て接着剤供給路13に至り、これとほぼ同時に、連通孔23の端部23Bから接着剤供給口31を経て接着剤供給路33に至る。したがって、部材10及び30に接着剤をバランスよく注入することができる。さらにまた、前述したように、接着剤を注入するための時間も短縮することができる。
【0043】
また、実施例1では、接着剤を接着剤供給口11から注入する場合について説明したが、これに限らず、例えば、接着剤供給口11と共に、端部13A及び33A側からも接着剤を注入することで、接着剤を注入するための時間をさらに短縮することができる。
【0044】
そしてまた、実施例1では、図4に示すような構成の絞り部材14を配設した場合について説明したが、これに限らず、絞り部材は、接着剤の注入速度での空気抵抗であれば、問題のない大きさ(値)であるが、接着剤のようなある程度の粘度がある物質に対しては所望の抵抗を持つような断面積を形成することが可能であれば、特にその形状は限定されるものではない。例えば、図5に示すように、複数の細い経路16A、16B及び16Cからなる絞り部材16を配設してもよい。このように、複数の細い経路16A、16B及び16Cを持つことにより、空気抵抗値を小さくすることも可能である。
【0045】
さらにまた、接着剤供給路13及び33の端部13A及び33Aを透明部材で構成し、UV硬化型接着剤を使用すれば、接着剤が端部13A及び33Aに到達した時点で、UV硬化が始まり、端部13A及び33Aから余計な接着剤がはみ出すことを防止することもできる。そしてまた、部材10及び30を透明部材により構成すれば、UV硬化型接着剤を使用することもできる。
【0046】
また、部材10、20及び30を適切な力で保持し、この状態で注入用のシリンジ針にて、部材10、20及び30を加圧しながら接着剤を注入してもよい。このようにシリンジ針にて加重を加える場合、積層体1の重心点に荷重を付与することが好適である。
【0047】
そしてまた、接着剤供給路13及び33の形成位置、経路の形状等は、特に限定されるものではなく、所望により決定することができる。
【0048】
さらにまた、実施例1では、3つの部材を接合する場合について説明したが、これに限らず、本発明は、2つの部材を接合する場合、あるいは4つ以上の部材を接合する場合にも応用可能であることは勿論である。また、接合すべき部材は、特に限定されるものではなく、あらゆる部材に適用することができる。
【実施例2】
【0049】
次に、本発明の実施例2にかかる積層体及び部材の接合方法について図面を参照して説明する。
【0050】
図7は、実施例2にかかる積層体の分解斜視図である。なお、実施例2では、実施例1で説明した部材と同様の部材には、同一の符号を付し、その詳細な説明は、省略する。
【0051】
図7に示すように、実施例2にかかる積層体2は、3枚の部材10、120及び130を積層して接合した構造を有している。
【0052】
部材120は、略板状を有し、一方の面(部材10との接合面121)から他方の面(部材130との接合面122)まで貫通した連通孔123が形成されている。連通孔123の一方の端部123Aは、部材10に接合された際に、部材10の接着剤供給路13の端部13Aと対応する位置に開口されており、連通孔123の他方の端部123Bは、後に詳述する部材130の接着剤供給口131と対応する位置に開口されている。すなわち、連通孔123の一端23A及び他端23Bは、積層体2となった際に、部材10の端部13A及び部材130の接着剤供給口131と、同一線L上に位置している。
【0053】
部材130は、略板状を有し、一方の面(部材120との接合面132)に、接着剤供給口131を有している。この接着剤供給口131は、連通孔123の他端123Bに対応した位置に形成された略半球状の溝から形成されており、この接着剤供給口131には、接着剤供給路133が連通形成されている。この接着剤供給路133は、部材130の接合面132の外周近傍に、当該外周に沿って形成された溝から形成されている。この接着剤供給路133の接着剤供給口131から離間した端部133Aは、部材130の縁まで延びており、積層体2となった際に、接着剤供給路133が外部と連通するようになっている。そして、この接着剤供給路133の端部133Aには、前述した絞り部材14が配設されている。
【0054】
次に、部材10、120及び130を接合する方法について説明する。先ず、部材120の両側に、部材10及び130を各々配設し、部材10の接合面12と部材120の接合面121、及び、部材120の接合面122と部材130の接合面132を合わせ、3枚の部材を積層する。次に、この積層された部材10、120及び130をこの状態で保持し、接着剤供給口15から接着剤を注入する。この時の保持力(クランプ力)は、接着剤注入圧力×接着剤の経路(接着剤供給路)内接触面積よりも大きいものとする。
【0055】
接着剤供給口15から注入された接着剤は、接着剤供給路13へと流れ込み、接着剤供給路13の端部13Aから部材120の連通孔123を経て、部材130の接着剤供給口131に至り、さらに接着剤供給路133へと流れ込み、接着剤供給路13、連通孔123及び接着剤供給路133内に充填される。その後、接着剤は、接着剤供給路133の端部133Aに到達し、絞り部材14によって、その進行が抑制されて停止する。
【0056】
このようにして、部材10、120及び130は、接着剤供給路13及び133に収容された接着剤によって互いに接着されて接合され、積層体2を構成する。この積層体2は、一つ一つの部材に接着剤を塗布する必要がなく、接合工程を簡略化することができる。また、例えば、接合面の形状が、従来、接着剤の塗布が難しいとされていた複雑な形状を有していたとしても、接合面の形状に係わらず、部材同士を簡単に接合することができる。さらにまた、実施例1と同様に、接着剤が接着剤供給路13内及び接着剤供給路133内に保持されているため、接着剤が意図しない領域に塗布されることがない。したがって、接着剤供給路13及び接着剤供給路133が形成されていない領域に、種々の素子等を配設しても、これらの素子が接着剤に侵されることがない。
【0057】
また、実施例2にかかる積層体2は、接着剤の流路が、いわゆる一筆書き経路となるため、接着剤の流路設計が簡単である。また、接着剤の注入終了の確認をする際、端部133A一カ所の確認で済むという利点もある。
【実施例3】
【0058】
次に、本発明の実施例3にかかる積層体及び部材の接合方法について図面を参照して説明する。
【0059】
図8は、実施例3にかかる積層体の分解斜視図である。なお、実施例3では、実施例1及び2で説明した部材と同様の部材には、同一の符号を付し、その詳細な説明は、省略する。
【0060】
図8に示すように、実施例3にかかる積層体3は、3枚の部材210、220及び230を積層して接合した構造を有している。部材210及び230は、略板状を有している。
【0061】
部材220は、略板状を有し、一方の面(部材210との接合面221)から他方の面(部材230との接合面222)まで貫通した連通孔23が形成されている。この連通孔23には、接着剤を供給するための接着剤供給口25がさらに連通形成されている。接合面221には、連通孔23の端部23Aと連通した接着剤供給路223が連通形成されている。なお、実施例3では、この端部23Aが、接着剤供給路223に対する接着剤供給口となる。この接着剤供給路223は、部材220の接合面221の外周近傍に、当該外周に沿って形成された溝から形成されている。この接着剤供給路223の端部223Aは、部材220の縁まで延びており、積層体3となった際に、接着剤供給路223が外部と連通するようになっている。そして、この接着剤供給路223の端部223Aには、前述した絞り部材14が配設されている。
【0062】
部材220の接合面222には、連通孔23の端部23Bと連通した接着剤供給路224が連通形成されている。なお、実施例3では、この端部23Bが、接着剤供給路224に対する接着剤供給口となる。この接着剤供給路224は、部材220の接合面222の外周近傍に、当該外周に沿って形成された溝から形成されている。この接着剤供給路224の端部224Aは、部材220の縁まで延びており、積層体3となった際に、接着剤供給路224が外部と連通するようになっている。そして、この接着剤供給路224の端部224Aには、前述した絞り部材14が配設されている。
【0063】
次に、部材210、220及び230を接合する方法について説明する。先ず、部材220の両側に、部材210及び230を各々配設し、部材210の接合面211と、部材220の接合面221、及び、部材230の接合面231と部材220の接合面222を合わせ、3枚の部材を積層する。次に、この積層された部材210、220及び230をこの状態で保持し、接着剤供給口25から接着剤を注入する。この時の保持力(クランプ力)は、接着剤注入圧力×接着剤の経路(接着剤供給路)内接触面積よりも大きいものとする。
【0064】
接着剤供給口25から注入された接着剤は、連通孔23から接着剤供給路223及び224へと流れ込み、ほぼ同時に接着剤供給路223内及び接着剤供給路224内に充填される。このように、接着剤は、2つの経路を併行して流れるため、接着剤の注入に要する時間を短縮することができる。その後、接着剤は、接着剤供給路223の端部223A及び接着剤供給路224の端部224Aに至るが、絞り部材14によって、その進行が抑制されて停止する。
【0065】
このようにして、部材210、220及び230は、接着剤供給路223及び224に収容された接着剤によって互いに接着されて接合され、積層体3を構成する。この積層体3は、実施例1及び2と同様に、一つ一つの部材に接着剤を塗布する必要がなく、接合工程を簡略化することができる。また、例えば、接合面の形状が、従来、接着剤の塗布が難しいとされていた複雑な形状を有していたとしても、接合面の形状に係わらず、部材同士を簡単に接合することができる。さらにまた、接着剤が接着剤供給路223内及び接着剤供給路224内に保持されているため、接着剤が意図しない領域に塗布されることがない。したがって、接着剤供給路223及び接着剤供給路224が形成されていない領域に、種々の素子等を配設しても、これらの素子が接着剤に侵されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例1にかかる積層体の分解斜視図である。
【図2】図1に示すII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1に示す積層体の斜視図である。
【図4】図1に示す積層体の一部を拡大して示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施例にかかる積層体の一部を拡大して示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施例にかかる積層体の分解斜視図である。
【図7】本発明の実施例2にかかる積層体の分解斜視図である。
【図8】本発明の実施例3にかかる積層体の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
1、2、3…積層体、10、20、30、120、130、210、220、230…部材、11、15、25、31、131…接着剤供給口、12、21、22、32、121、122、132、211、222、231…接合面、13、33、133、223、224…接着剤供給路、23、123…連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材を接着剤により接合してなる積層体であって、
少なくとも一方の部材は、他の部材との接合面に形成され且つ前記接着剤を収容して流通させる接着剤流通路と、当該接着剤流通路に連通形成され且つ当該接着剤流通路に接着剤を供給する接着剤供給口と、を備えてなり、
前記一方の部材と他方の部材は、前記接着剤流通路に収容された接着剤によって接合されてなる積層体。
【請求項2】
前記部材を少なくとも3つ備えてなり、当該少なくとも3つの部材のうち、
外側に配設される2つの部材が、前記接着剤流通路及び接着剤供給口を備えてなり、
上記2つの部材の間に挟まれるように内側に配設される部材は、前記両接着剤供給口と対応する位置に、当該両接着剤供給口を連通させる連通孔が形成されてなる請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記連通孔に、前記接着剤供給口に接着剤を供給する第2の接着剤供給口を設けた請求項2記載の積層体。
【請求項4】
前記部材を少なくとも3つ備えてなり、当該少なくとも3つの部材のうち、
外側に配設される2つの部材が、前記接着剤流通路及び接着剤供給口を備えてなり、
上記2つの部材の間に挟まれるように内側に配設される部材は、前記外側に配設される一方の部材に形成された接着剤流通路の接着剤供給口側から離れた端部と、当該外側に配設される他方の部材の接着剤供給口とを連通させる連通孔が形成されてなる請求項1記載の積層体。
【請求項5】
前記部材を少なくとも3つ備えてなり、当該少なくとも3つの部材のうち、
上記2つの部材の間に挟まれるように内側に配設される部材が、前記接着剤流通路及び接着剤供給口を備えてなる請求項1記載の積層体。
【請求項6】
前記少なくとも一方の部材は、前記接着剤流通路内のガスを外部に排出可能なガス抜き孔をさらに備えてなる請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記ガス抜き孔に、前記ガスを流通させると共に、前記接着剤の流通を抑制可能である絞り部材を配設してなる請求項6記載の積層体。
【請求項8】
複数の部材を接着剤により接合する部材の接合方法であって、
少なくとも一方の部材の接合すべき面に、接着剤を流通させる接着剤流通路及び当該接着剤流通路に接着剤を供給する接着剤供給口を形成する工程と、
前記複数の部材の接合すべき面同士を合わせた後、前記接着剤供給口から接着剤を注入し、前記接着剤流通路に当該接着剤を流通させる工程と、
を含んでなる部材の接合方法。
【請求項9】
前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材と接合する部材に、前記接着剤供給口と連通する連通孔を形成する工程と、
前記連通孔が形成された部材の対向した両面に、前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材の接合すべき面をそれぞれ合わせ、前記両接着剤供給口を前記連通孔により連通させる工程と、
前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材のうち、一方の部材の接着剤供給口から接着剤を注入し、前記両接着剤流通路に接着剤を流通させる工程と、
を含んでなる請求項8記載の部材の接合方法。
【請求項10】
前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材と接合する部材に、前記接着剤供給口と連通する連通孔と、当該連通孔に前記接着剤を供給する第2の接着剤供給口を形成する工程と、
前記連通孔が形成された部材の対向した両面に、前記接着剤流通路及び接着剤供給口が形成された部材の接合すべき面をそれぞれ合わせ、前記両接着剤供給口を前記連通孔により連通させる工程と、
前記第2の接着剤供給口から接着剤を注入し、前記両接着剤供給口を介して、前記両接着剤流通路に接着剤を流通させる工程と、
を含んでなる請求項8記載の部材の接合方法。
【請求項11】
3つ以上の部材を接着剤により接合する部材の接合方法であって、
第1の部材の接合すべき面に、接着剤を収容して流通させる第1の接着剤流通路と、当該第1の接着剤流通路に接着剤を供給する第1の接着剤供給口と、を形成する工程と、
第2の部材の接合すべき面の、前記第1の接着剤流通路の第1の接着剤供給口から離間した端部に対応する位置に、第2の接着剤供給口を形成すると共に、当該第2の接着剤供給口から供給された接着剤を収容して流通させる第2の接着剤流通路を形成する工程と、
第3の部材に、前記第1の接着剤流通路の第1の接着剤供給口から離間した端部と、前記第2の接着剤供給口とを連通させる連通孔を形成する工程と、
前記第1の部材、第3の部材、第2の部材を、この順に合わせた後、前記第1の接着剤供給口から接着剤を注入し、前記第1の接着剤流通路、前記連通孔、前記第2の接着剤供給口、前記第2の接着剤流通路の順に前記着剤を流通させる工程と、
を含んでなる部材の接合方法。
【請求項12】
前記接着剤流通路及び接着剤供給口を形成する工程は、当該接着剤流通路及び接着剤供給口を、前記部材の対向する両面に形成する工程であり、
前記対向する両面に形成された両接着剤供給口を連通する連通孔を形成する工程をさらに含んでなる請求項8記載の接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−240259(P2006−240259A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62970(P2005−62970)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】