説明

積層体

【課題】固体電解質層と空気極層とが積層されてなる積層体の酸化物イオン伝導性を高くすること。
【解決手段】YSZ粉末を含むスラリーをシート状に成形・焼成して、厚さが0.3〜5.0μmであり且つ厚さ方向において単一のYSZ粒子(単結晶の粒子)から構成される緻密な電解質層11aを形成する。この電解質層11aの上に、多孔質の空気極層11bを焼成により形成する。電解質層11aを構成するYSZ粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上であり、且つ、空気極層11bを構成するLSCF粒子のうちでYSZ粒子に接触している「接触粒子」全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上である積層体(電解質層11a+空気極層11b)が得られる。電解質層11a内でのバルク抵抗、及び、電解質層11aと空気極層1bとの界面での界面抵抗を小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層と空気極層とが積層されてなる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体電解質(例えば、安定化ジルコニア)の複数の粒子(単結晶の粒子)から構成された(薄板状の)固体電解質層と、表面にて酸素を含むガス(例えば、空気)と電子とを反応させて酸化物イオン(例えば、酸素イオン)を生成する反応を促す物質の複数の粒子(単結晶の粒子)から構成された(薄板状の)空気極層と、が積層されてなる積層体が、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)の構成の一部として広く利用されている(例えば、特許文献1を参照)。また、係る積層体は、酸素濃度を検出する酸素濃度センサ等の構成の一部としても広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−342584号公報
【発明の概要】
【0004】
以下、上述した積層体(固体電解質層+空気極層)を構成の一部に含むSOFCを例にとって説明する。係るSOFCでは、上述した積層体(固体電解質層+空気極層)における固体電解質層の上に更に、酸化物イオンと燃料ガスとを反応させて電子を生成する反応を促す物質の複数の粒子(単結晶の粒子)から構成される(薄板状の)燃料極層が積層されている。
【0005】
係る3層構造を有するSOFCの内部では、層の厚さ方向に電流(具体的には、酸化物イオン)を通す際の電気抵抗が不可避的に存在する。この電気抵抗は、具体的には、固体電解質層内でのバルク抵抗、並びに、固体電解質層と空気極層との界面及び固体電解質層と燃料極層との界面でのそれぞれの界面抵抗とから構成される。加えて、空気極層及び燃料極層での上述したそれぞれの反応の抵抗も不可避的に存在する。
【0006】
このことに起因して、図7に示すように、SOFCを層の厚さ方向に流れる電流I(具体的には、酸化物イオン)の増加に応じてSOFCの出力電圧Vが理論起電力V0から低下する。ここで、上記電気抵抗(バルク抵抗+界面抵抗)に起因する電圧低下分を「IRロス」と称呼し、上記反応抵抗に起因する電圧低下分を「反応ロス」と称呼する。
【0007】
SOFCの出力は、図7に斜線で示す領域の面積で表すことができ、例えば、電流I=I1の場合、SOFCの出力は「I1・V1」となる。従って、IRロス、及び反応ロスを低減することで、SOFCの出力を増大することができる。
【0008】
本発明者は、SOFCの一部を構成する上述した積層体(固体電解質層+空気極層)に特に着目し、固体電解質層内でのバルク抵抗、及び固体電解質層と空気極層との界面での界面抵抗を小さくできる構成、即ち、積層体の酸化物イオン伝導性を高くできる構成を見出した。
【0009】
以上より、本発明の目的は、固体電解質層と空気極層とが積層されてなる積層体において、固体電解質層内でのバルク抵抗、及び固体電解質層と空気極層との界面での界面抵抗を小さくして、積層体の酸化物イオン伝導性を高くし得るものを提供することにある。
【0010】
本発明による積層体は、固体電解質の複数の粒子(単結晶の粒子)から構成されて(固体電解質の単結晶粒子の集合体(多結晶体)であり)、内部にて酸化物イオンを伝導可能な固体電解質層と、表面にて酸素を含むガスと電子とを反応させて酸化物イオンを生成する反応を促す物質の複数の粒子(単結晶の粒子)から構成されて(前記物質の単結晶粒子の集合体(多結晶体)であり)、内部にて酸化物イオンを伝導可能な空気極層と、が積層されてなる。
【0011】
ここにおいて、前記固体電解質層を構成する前記固体電解質は、例えば、内部にて酸素イオンを伝導可能な(部分)安定化ジルコニアである。また、空気極層を構成する物質は、例えば、空気(空気中の酸素分子)と電子とを反応させて酸素イオンを生成する反応を促すランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)である。前記固体電解質層は、内部でのバルク抵抗を低減するため緻密であることが好ましく、前記空気極層は、前記反応抵抗を低減するため多孔質であることが好ましい。
【0012】
本発明による積層体の特徴は、前記固体電解質層を構成する前記固体電解質の複数の粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上であり、且つ、前記空気極層を構成する前記物質の複数の粒子のうちで前記固体電解質の粒子に接触している複数の粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上であることにある。
【0013】
より具体的には、前記固体電解質層を構成する前記固体電解質の全ての粒子(単結晶の粒子)にそれぞれ含まれる特定の結晶面の特定方向についての配向度がロットゲーリング法で30%以上であり、且つ、前記空気極層を構成する前記物質の複数の粒子のうちで前記固体電解質の粒子に接触している全ての粒子(単結晶の粒子)にそれぞれ含まれる特定の結晶面の特定方向についての配向度がロットゲーリング法で30%以上である。以下、空気極層を構成する物質の複数の粒子のうちで固体電解質の粒子に接触している粒子を、特に「接触粒子」と称呼することもある。
【0014】
発明者の検討によれば、固体電解質層内でのバルク抵抗は、固体電解質層を構成する固体電解質の複数の粒子(単結晶の粒子)に含まれる特定の結晶面が層の平面に対して特定の方向に配向している場合(特に、配向度が30パーセント以上の場合)に(配向度が30%未満の場合に比して)小さくなることが判明している。加えて、このように固体電解質の複数の粒子に含まれる特定の結晶面が配向している場合において、固体電解質層と空気極層との界面での界面抵抗は、複数の「接触粒子」(単結晶の粒子)に含まれる特定の結晶面が固体電解質の粒子の特定の結晶面の配向方向に対して特定の方向に配向している場合(特に、配向度が30パーセント以上の場合)に、(配向度が30%未満の場合に比して)(界面での格子整合性が良好となることに起因して)小さくなることが判明している。
【0015】
以上のことから、上記構成によれば、積層体(固体電解質層+空気極層)において、固体電解質層内でのバルク抵抗、及び固体電解質層と空気極層との界面での界面抵抗を共に小さくすることができる。この結果、積層体の酸化物イオン伝導性を高くすることができる。
【0016】
上記本発明に係る積層体の製造方法は、例えば、前記固体電解質の粉末を含むスラリーを作成するスラリー作成工程と、作成されたスラリーをシート状に成形するグリーンシート成形工程と、成形されたグリーンシートを焼成して前記のように結晶面が配向した固体電解質の自立したシート(固体電解質層)を形成する固体電解質層形成工程と、自立した固体電解質層の上に前記空気極層を焼成により形成する空気極層形成行程と、を含む。
【0017】
ここにおいて、前記固体電解質層の厚さは、0.3μm以上且つ5μm以下であって、前記固体電解質層は、厚さ方向において単一の粒子(単結晶の粒子)から構成される(厚さ方向において粒子(単結晶粒子)が1つのみ存在する)ことが好ましい。なお、この場合、各粒子(単結晶の粒子)において、層の厚さ方向における高さに対する層の平面方向における幅の割合の平均値が3以上となる。即ち、固体電解質層を構成する各粒子は、層の平面方向に膨らんだ扁平形状を呈する。また、「自立したシート」とは、何らかの基板や他のシートに積層・支持された状態になく、単独で存在するシートを意味する。
【0018】
発明者の検討によれば、焼成により、厚さが0.3μm以上且つ5μm以下であって且つ厚さ方向において単一の粒子から構成される固体電解質層を形成すると、固体電解質層を構成する固体電解質の複数の粒子に含まれる特定の結晶面の特定方向についての配向度が大きく(特に、30%以上であり)、且つ自立した固体電解質層が作製され易いことが判明している。なお、この場合、固体電解質層を構成する各粒子(単結晶の粒子)において、層の厚さ方向における高さに対する層の平面方向における幅の割合の平均値が3以上となり易い。即ち、固体電解質層を構成する各粒子は、層の平面方向に膨らんだ扁平形状を呈する。
【0019】
加えて、このように結晶面が配向した固体電解質層の上に空気極層を焼成により形成する場合、この焼成の過程において、結晶面が配向した固体電解質層(基板)がテンプレートとして作用することで、「接触粒子」に含まれる特定の結晶面の特定方向についての配向度が大きく(30%以上)なり易いことも判明している。従って、上記製法によれば、上述のように結晶面が配向した粒子からなる固体電解質層と、上述のように結晶面が配向した「接触粒子」を含む空気極層と、からなる積層体(固体電解質層+空気極層)を、基板を使用することなく、簡便且つ安定して作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る積層体の部分側面図である。
【図2】図1に示した電解質層の部分平面図である。
【図3】電解質層と空気極層との界面の周りを拡大した図1の拡大図である。
【図4】図1に示した電解質層を作製する過程における焼成前の層の状態を示した図(aは平面図、bは側面図)である。
【図5】図1に示した電解質層を作製する過程における焼成中の層の状態を示した図(aは平面図、bは側面図)である。
【図6】図1に示した電解質層を作製する過程における焼成後の層の状態を示した図(aは平面図、bは側面図)である。
【図7】IRロス、及び反応ロスを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態に係る積層体について説明する。
【0022】
(積層体の構造)
部分側面図である図1に示すように、本発明の実施形態に係る積層体は、電解質層(固体電解質層)11aと、電解質層11aの上に形成された空気極層11bと、からなる焼成体である。この積層体は、例えば、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、酸素濃度センサ等の構成の一部として広く利用され得る。
【0023】
電解質層11a、及び空気極層11bの厚さta,tbは均一であって、それぞれ、例えば、0.3μm以上且つ5μm以下、及び、5μm以上且つ200μm以下である。この結果、積層体全体の厚さも均一であり、例えば、5μm以上且つ200μm以下である。また、この積層体の平面形状は、例えば、1辺の長さが5mm以上且つ200mm以下の正方形、直径が5mm以上且つ200mm以下の円形であり、これらに限定されない。
【0024】
図1、並びに、電解質層11aの部分平面図である図2に示すように、電解質層11aは、厚さ方向においてYSZ(イットリア安定化ジルコニア)の単一の粒子(単結晶の粒子)から構成された緻密な焼成体(多結晶体)である。なお、YSZに代えてScSZ(スカンジアドープジルコニア)が使用されてもよい。側面視において2以上の所定個数の粒子を含む視野内(例えば、図1に示す視野内では、7個)において、前記所定個数の粒子について電解質層11aの厚さ方向の高さHに対する電解質層11aの平面方向の幅Wの割合(W/H)の平均値が3以上となっている。即ち、電解質層11aを構成する各粒子は、電解質層11aの平面方向に膨らんだ扁平形状を呈している。電解質層11aの内部では、酸素イオンが伝導可能となっている。
【0025】
一方、空気極層11bは、LSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3:ランタンストロンチウムコバルトフェライト)の微細な(例えば、1μm未満の粒径を有する)粒子(単結晶の粒子)からなる焼成体(多結晶体)であり、多孔質電極層である。LSCFの各粒子の表面では、「空気(中の酸素)と電子とを反応させて酸素イオンを生成する反応」を促す触媒機能が発揮される。空気極層11bの内部では、この触媒反応により生成された酸素イオンが伝導可能となっている。
【0026】
電解質層11aについて、電解質層11aを構成するYSZ(固体電解質)の全ての粒子(単結晶の粒子)に含まれる特定の結晶面(例えば、(111)面)が電解質層11aの平面に対して特定の方向(以下、「YSZの配向方向」と称呼する。)に配向していて、YSZ粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上となっている。ここで、ロットゲーリング法については周知(例えば、欧州特許出願公開第1975137号明細書を参照)であるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0027】
以下、空気極層11bを構成するLSCFの複数の粒子のうちで電解質層11aのYSZの粒子に接触している粒子(図3において斜線で示した粒子を参照)を、特に「接触粒子」と称呼するものとする。空気極層11b内の全ての「接触粒子」(LSCFの単結晶の粒子)に含まれる特定の結晶面(例えば、(111)面)が、YSZの配向方向に対して特定の方向(以下、「接触粒子の配向方向」と称呼する。)に配向していて、「接触粒子」全体の配向度もロットゲーリング法で30%以上となっている。空気極層11bを構成するLSCFの複数の粒子のうちで「接触粒子」以外の粒子に含まれる特定の結晶面(例えば、(111)面)は、「接触粒子の配向方向」と同じ方向に配向していても配向していなくてもよい。
【0028】
(積層体の製造方法)
以下、上記実施形態に係る積層体の製造方法の一例について簡単に説明する。
<添加剤の混合>
先ず、8mol%Y203安定化ジルコニア粉末に対し、Mn5mol%となるようにMnO粉末を秤量した。ポリポットに、秤量したジルコニア粉末及びMnO粉末と、ジルコニアボールと、分散媒としてのトルエン及びイソプロパノールを等量混合したものと、を入れ、ボールミルで24h湿式混合を行った。得られたスラリーをエバポレータ及び乾燥機を用いて乾燥した。なお、HORIBA製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−750を用いて、水を分散媒として、この乾燥後の粉体の平均粒径を測定したところ、メディアン径(D50)は、0.4μmであった。
【0029】
<自立したシートの成形>
次いで、分散媒としてのトルエン及びイソプロパノールを等量混合したものに対し、上述した乾燥後の粉体(無機粒子粉体)と、バインダとしてのポリビニルブチラール(BM−2、積水化学製)と、可塑剤(DOP、黒金化成製)と、分散剤(SP−O30、花王製)と、を混合し、スラリー状の成形原料を作製した。各原料の使用量について、無機粒子100重量部に対して、分散媒110重量部、バインダ9重量部、可塑剤4.5重量部及び分散剤2重量部とした。
【0030】
次に、得られたスラリーを減圧下にて攪拌してスラリーに対して脱泡処理を行い、粘度400〜500cPとなるように調製した。スラリーの粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。得られたスラリーをドクターブレード法によってPETフィルム上にてシート状に成形した。このシート(グリーンシート、成形体)の乾燥後の厚さを5μmとした。なお、「自立したシート」とは、何らかの基板や他のシートに積層・支持された状態になく、単独で存在するシートを意味する。
【0031】
<自立したシートの脱脂・焼成>
そして、PETフィルムからはがしたシート状の成形体を、カッターで50mm角に切り出し、切り出した成形体をジルコニアからなるセッター(寸法70mm角、高さ1mm)の中央に載置した状態で、600℃、2hにて脱脂処理を行った。その後、1400℃、1hにて焼成を行い、自立した電解質層11a(セラミックシート)を得た。
【0032】
この電解質層11aの焼成過程において、シート(電解質層11aとなる層)について、図4に示す焼成前の状態から、図5に示すように、焼成中において、YSZの各粒子が成長して次第に大きくなっていくと共に、シートの厚さ方向における粒子数が減少していく。そして、最終的には、上述した図1、図2と同様、図6示すように、各粒子が更に成長して扁平形状となり、且つ、シートが厚さ方向にてYSZの単一の粒子から構成されるようになる。このようにして、自立した電解質層11aが形成される。
【0033】
加えて、この電解質層11aの焼成過程において、YSZ粒子の成長に伴って、YSZ粒子(単結晶の粒子)に含まれる特定の結晶面(例えば、(111)面)がシートの平面に対して特定の方向(上述したYSZの配向方向)に次第に配向していく。この結果、シートが厚さ方向にてYSZの単一の粒子から構成される焼成後の段階では、電解質層11aを構成するYSZ粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上となっている。
【0034】
なお、上述した例では、スラリー成形前にMn等の添加剤がスラリーに混合されていた。これに対し、シートの焼成過程において、シートを添加剤(Mn,Mg,Ca,Al等)と接する状態に置くことで、拡散を利用して添加剤をシートに混合させてもよい。また、添加剤として、イットリアY、スカンジアSc等の安定化剤を加えておくと、上述のYSZ粒子の成長を促進することができる。
【0035】
<空気極層の形成>
上述のように、YSZ粒子が配向した自立した電解質層11aを形成した後、この自立した電解質層11aの上面に、LSCFの粒子からなるシート(空気極層11bとなる層)を印刷法により形成する。このシートに対して、800−1100℃、1hにて焼成を行い、空気極層11bが形成される。
【0036】
この空気極層11bの焼成過程では、YSZ粒子の結晶面が配向した(基板としての)電解質層11aがテンプレートとして作用することで、上述した「接触粒子」(図3において斜線で示した粒子)に含まれる特定の結晶面(例えば、(111)面)がYSZの配向方向に対して特定の方向(上述した接触粒子の配向方向)に次第に配向していく。この結果、空気極層11bの焼成が完了した段階では、「接触粒子」全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上となっている。
【0037】
以上のようにして、自立した緻密な電解質層11aを焼成にて先に形成し、この電解質層11aを基板として、この上に多孔質の空気極層11bを焼成にて形成すると、YSZ粒子の結晶面が配向した電解質層11aと、「接触粒子」の結晶面が配向した空気極層11bと、からなる積層体(電解質層+空気極層)を、基板を使用することなく、簡便且つ安定して作製することができる。
【0038】
これに対し、多孔質の空気極層を先に形成し、この空気極層を基板として、スパッタリング等を利用して、この上にYSZ粒子の結晶面が配向した緻密な電解質層を形成しようとする場合、基板である空気極層の表面性状(表面粗さが大きい、緻密性が低いなど)に起因して、電解質層を構成するYSZ粒子の配向度が低くなり、且つ、電解質層の緻密性も低くなるものと考えられる。
【0039】
(作用・効果)
以下、上述のように、本発明の実施形態に係る積層体(電解質層11a+空気極層11b)を、「電解質層11aを構成するYSZ粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上であり、且つ、空気極層11bに含まれる「接触粒子」全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上である」ように構成したことによる作用・効果について述べる。
【0040】
電解質層11a内でのバルク抵抗(層の厚さ方向において酸素イオンが伝導する際の抵抗)は、電解質層11aを構成するYSZ粒子(単結晶の粒子)の向きによって異なる。また、電解質層11aと空気極層11bとの界面(図3において、太い実線で示した部分を参照)での界面抵抗(層の厚さ方向において酸素イオンが伝導する際の抵抗)も、互いに接触するYSZ粒子(単結晶の粒子)とLSCF粒子(単結晶の粒子)との間の向きの関係によって異なる。
【0041】
発明者の検討によれば、電解質層11aを構成するYSZの複数の粒子(単結晶の粒子)にそれぞれ含まれる特定の結晶面の「YSZの配向方向」についての配向度が30%以上である場合、配向度が30%未満である場合に比して、電解質層11a内でのバルク抵抗が小さくなることが判明している。加えて、このようにYSZ粒子が配向している場合において、空気極層11b内の複数の「接触粒子」(単結晶の粒子)にそれぞれ含まれる特定の結晶面の「接触粒子の配向方向」についての配向度が30%以上である場合、配向度が30%未満である場合に比して、電解質層11aと空気極層11bとの界面での界面抵抗が小さくなることが判明している。
【0042】
以上のことから、本発明の実施形態に係る積層体によれば、積層体(電解質層11a+空気極層11b)において、電解質層11a内でのバルク抵抗、及び電解質層11aと空気極層11bとの界面での界面抵抗を共に小さくすることができる。この結果、積層体の酸素イオン伝導性を高くすることができる。
【0043】
従って、例えば、本発明の実施形態に係る積層体をSOFCの構成の一部として使用した場合、電解質層11a内でのバルク抵抗、及び電解質層11aと空気極層11bとの界面での界面抵抗に起因したIRロス(図7を参照)を小さくすることができ、この結果、SOFCの出力を大きくすることができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、空気極層11cは、例えば、ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物(例えば、上述のランタンストロンチウムコバルトフェライトのほか、ランタンマンガナイト、ランタンコバルタイト、ランタンフェライト)から構成することができる。これらは、ストロンチウム、カルシウム、クロム、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウム等をドープしたものであってよい。また、パラジウム、白金、ルテニウム、白金−ジルコニアサーメット、パラジウム−ジルコニアサーメット、ルテニウム−ジルコニアサーメット、白金−酸化セリウムサーメット、パラジウム−酸化セリウムサーメット、ルテニウム−酸化セリウムサーメットであってもよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、電解質層11aが、厚さ方向にてYSZの単一の粒子から構成されているが、電解質層を構成するYSZ粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上である限りにおいて、電解質層が、厚さ方向にてYSZの2以上の粒子から構成されていてもよい。ただし、この場合、電解質層内において、厚さ方向におけるYSZ粒子間の粒界の個数が増えることになり、この結果、電解質層内でのバルク抵抗が若干大きくなり得る。従って、電解質層内でのバルク抵抗を極力小さくするためには、電解質層が、厚さ方向にてYSZの単一の粒子から構成されることが好適である。
【0046】
また、上記実施形態においては、配向したYSZ粒子からなる自立した電解質層11aの一方の面にのみ配向したLSCF粒子(特に、「接触粒子」)からなる空気極層11bが形成されているが、更に、この電解質層11aの他方の面に、配向したNi粒子及びYSZ粒子からなる燃料極層を形成することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
11a…ジルコニア固体電解質層、11b…空気極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質の複数の粒子から構成されて、内部にて酸化物イオンを伝導可能な固体電解質層と、
表面にて酸素を含むガスと電子とを反応させて酸化物イオンを生成する反応を促す物質の複数の粒子から構成されて、内部にて酸化物イオンを伝導可能な空気極層と、
が積層されてなる積層体であって、
前記固体電解質層を構成する前記固体電解質の複数の粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上であり、且つ、前記空気極層を構成する前記物質の複数の粒子のうちで前記固体電解質の粒子に接触している複数の粒子全体の配向度がロットゲーリング法で30%以上である、積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−170792(P2010−170792A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11069(P2009−11069)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】