説明

積層体

【課題】保護フィルム剥離後の加熱処理することによって、ピンホールが少なく、バルク金属並みの非常に低い抵抗値を有する金属薄膜を形成できる金属薄膜前駆体を含む積層体を提供すること。
【解決手段】本発明の積層体は、金属薄膜前駆体とポリエーテル化合物とを含有するコンポジット層と、コンポジット層の少なくとも一方の面に積層される保護フィルムと、を備え、コンポジット層と保護フィルムとの密着強度が0.2kN/m以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等の電気配線回路基板や接合材料等に好適に用いられる金属前駆体を備えた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に金属薄膜を形成する方法には、メッキ法、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、金属ペースト法等が知られている。
【0003】
メッキ法では、導電性を有する基材の上に比較的容易に金属薄膜を形成することが可能であるが、絶縁基材の上に金属薄膜を形成する場合には、導電層を初めに形成する必要がある。このため、そのプロセスは煩雑なものになるという問題がある。また、メッキ法では溶液中での反応を利用するため大量の廃液が副生し、この廃液処理に多大な手間とコストがかかるという問題があると共に、得られる金属薄膜の基板への密着性が充分ではない。
【0004】
真空蒸着法、スパッタリング法およびCVD法などの気相法は、いずれも高価な真空装置を必要とし、いずれも成膜速度が遅いという問題がある。また、原子状態にある金属を膜状に積み上げるこれらの気相法においては、表面のわずかな凹凸や汚れ等によって金属が付着しないいわゆるピンホールが発生しやすいという懸念点がある。
【0005】
また、これらの気相法においては、通常金属薄膜形成前に基板表面はプラズマ処理等の表面処理がなされるが、この表面処理によって基板がダメージを受ける場合がある。例えば、特許文献1にはポリイミドフィルムをプラズマ処理すると、表面層のイミド環が開裂し、酸素濃度条件の違いによって、酸素官能基や窒素官能基が生成することが開示されている。特許文献1には、酸素濃度(1〜10)×10−6Paの条件でプラズマ処理を行った後、銅を蒸着することにより窒素官能基と銅との相互作用によって初期の接着強度が1kgf/cm程度の積層体が得られ、150℃×24h〜168hの加熱処理により銅酸化物との相互作用が強まって接着強度は1.2kgf/cm〜1.8kgf/cmまで増大することが開示されている。しかしながら、プラズマ処理においては、ポリイミドが変性して生ずる窒素官能基が生成するため、ポリイミドフィルムの耐熱性の低下や、吸湿性の増大など、フィルム物性が低下するという懸念がある。
【0006】
金属ペースト法は、金属フィラーを分散させた溶液を絶縁基板上に塗布し、加熱処理して金属薄膜を得る方法である。この方法は、真空装置等の特別な装置を必要とせず、プロセスが簡易であるという利点を有することに加え、さらに、気相法のようなピンホールの発生も抑制できるという利点も有する。しかしながら、金属フィラーを溶融するには、通常、1000℃以上の高温を必要とする。このため、基材はセラミック基材等の耐熱性を有するものに限られ、また、基材が熱で損傷し、又は加熱により生じた残留応力により基材が損傷を受けやすいという問題がある。さらに、得られる金属薄膜の基板への密着性が充分ではない。
【0007】
特許文献2には、金属粉と反応性有機媒体とからなる混合物を、可溶性ポリイミド等の拡散および接着障壁である塗布層上に塗布し、加熱処理することで基板への固着性が向上することが開示されている。また、特許文献2には、例えば、銅粉と銅系反応性有機媒体とからなる混合物から銅膜を形成する場合、銅の酸化を防ぐため保護雰囲気(酸素濃度3ppm未満の窒素雰囲気あるいは水素を含む還元性雰囲気)中での加熱処理が好ましく、その場合に、テープテストをクリアする程度の固着性が得られることが開示されている。しかしながら、その接着強度は約1kgf/cm程度であり充分なものではない。また、2μm〜10μmの金属粉を用いるため、金属膜と基板との界面粗度が大きく、金属膜をフォトリソグラフィによって配線形成を行う用途においては、微細配線の形成が難しいという懸念点もある。
【0008】
一方、金属フィラーの粒径を低減することによって、金属ペーストの焼成温度を低減する技術は公知である。例えば、特許文献3には、粒径100nm以下の金属微粒子を分散した分散体を用いて金属薄膜を、直接絶縁基板上に形成する方法が開示されている。しかしながら、この方法で作成した金属薄膜の絶縁基板への密着性も充分ではない。さらに、ここで用いられている100nm以下の金属粒子の製造方法は、低圧雰囲気で揮発した金属蒸気を急速冷却する方法であるために大量生産が難しく、金属フィラーのコストが高くなるという懸念点を有している。
【0009】
金属酸化物フィラーを分散させた金属酸化物ペーストを用いて、金属薄膜を直接絶縁基板上に形成する方法も知られている。特許文献4には結晶性高分子を含み、粒径300nm以下の金属酸化物を分散させた金属酸化物ペーストを加熱し、結晶性高分子を分解させて金属薄膜を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法では300nm以下の金属酸化物を結晶性高分子中にあらかじめ分散させる必要があり、非常な手間を必要とするのに加えて結晶性高分子を分解するのに400℃〜900℃の高温を必要とする。このため、使用可能な基材は、その温度以上の耐熱性を必要とし、その種類に制限があるという問題がある。また、得られる金属薄膜の基板への密着性も充分ではない。
【0010】
これらの課題を解決する金属薄膜の製造方法として、すでに本出願人は、安価な金属酸化物フィラーを分散させた分散体を基材上に塗布し、比較的低温での加熱処理によって金属薄膜を得るという方法を開示している(特許文献5)。この技術によって基板上に密着性が高く、薄い銅等の金属薄膜を容易に形成することが可能であり、基板としてのポリイミドフィルム等の上に銅膜を形成し、フレキシブル回路基板材料としても使用することが可能である。さらに、保護フィルムを剥離したのち加熱処理することによって、ピンホールが少なく、バルク金属並みの非常に低い抵抗値を有する金属薄膜を形成できる、金属薄膜前駆体を含む積層体の実現が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−54259号公報
【特許文献2】特表2003−506882号公報
【特許文献3】特許第2561537号公報
【特許文献4】特開平5−98195号公報
【特許文献5】特開2008−200557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みて為されたものであり、保護フィルム剥離後の加熱処理によって、ピンホールが少なく、バルク金属並みの非常に低い抵抗値を有する金属薄膜を形成できる金属薄膜前駆体を含む積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0014】
本発明の積層体は、金属薄膜前駆体とポリエーテル化合物とを含有するコンポジット層と、前記コンポジット層の少なくとも一方の面に積層される保護フィルムと、を備え、前記コンポジット層と前記保護フィルムとの密着強度が0.2kN/m以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の積層体においては、前記コンポジット層中の前記金属薄膜前駆体に対する前記ポリエーテル化合物の含有割合が、重量比で0.05〜0.30の範囲にあることが好ましい。
【0016】
本発明の積層体においては、前記金属薄膜前駆体が、金属粒子、金属酸化物粒子及び金属水酸化物粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属薄膜前駆体粒子であることが好ましい。
【0017】
本発明の積層体においては、前記金属薄膜前駆体粒子の1次粒子径が、200nm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の積層体においては、前記金属薄膜前駆体が、酸化第一銅粒子であることが好ましい。
【0019】
本発明の積層体においては、前記保護フィルムは、前記コンポジット層に接する面が剥離性化合物で表面処理されてなることが好ましい。
【0020】
本発明の積層体においては、前記剥離性化合物が、シリコーン化合物であることが好ましい。
【0021】
本発明の積層体においては、前記ポリエーテル化合物が、直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物であることが好ましい。
【0022】
本発明の積層体においては、前記直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物は、分子量150〜600であって、片末端にアルキル基を有することが好ましい。
【0023】
本発明の金属薄膜は、上記積層体から保護フィルムを剥離した後、加熱処理して得られたことを特徴とする。
【0024】
本発明の金属接合材料は、上記積層体から保護フィルムを剥離した後、金属被着面間で挟んで加熱処理して得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、保護フィルム剥離後の加熱処理することによって、ピンホールが少なく、バルク金属並みの非常に低い抵抗値を有する金属薄膜を形成できる金属薄膜前駆体を含む積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る積層体は、金属薄膜前駆体とポリエーテル化合物とを含有するコンポジット層を含む積層体であって、コンポジット層の少なくとも一方の面に保護フィルムが積層されており、コンポジット層と保護フィルムとの密着強度が0.2kN/m以下である。
【0027】
コンポジット層と保護フィルムとの密着強度が0.2kN/m以下であることにより、コンポジット層から保護フィルムを剥離する際に、コンポジット層が凝集破壊を受けることもなく、加熱処理して得られる金属薄膜にピンホールが入る頻度を抑えることができる。ここで、凝集破壊とは、コンポジット層から厚紙を剥離する際にコンポジット層の一部が塊状に層から剥離する現象である。このように、コンポジット層が凝集破壊された際には、金属薄膜にピンホール等の欠陥生成が発生する。本発明においては、コンポジット層と厚紙との密着強度を0.2Nk/m以下とすることにより、コンポジット層から厚紙を剥離する際に、コンポジット層を構成する化合物の保護フィルムへの保着力が適切な範囲となるので、コンポジット層の凝集破壊を抑制でき、金属薄膜へのピンホール等の欠陥生成を抑制することができる。また、ピンホール等の欠陥の発生を抑えることにより、得られた金属薄膜の低抵抗値を達成することができる。なお、密着強度の下限値は、積層体の巻き取りなどに困難がない範囲であれば特に制限はない。
【0028】
金属薄膜前駆体とは、加熱処理等の後処理によって金属薄膜が形成できる化合物である。金属薄膜前駆体としては、例えば、加熱処理によって互いに融着する金属薄膜前駆体粒子や、加熱処理によって金属に還元され金属薄膜を形成する金属錯体などを例示できる。
【0029】
加熱処理によって互いに融着する金属薄膜前駆体粒子とは、金属薄膜前駆体粒子を含む分散体を膜状に塗布して加熱することにより、金属粒子同士が相互に接合して、見かけ上連続した金属層で形成された金属薄膜を形成する粒子である。
【0030】
金属薄膜前駆体粒子は、高い分散性を確保し、加熱処理によって緻密な金属薄膜を得る観点から、一次粒子径は200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましくい。また、分散体の粘度、取り扱い性の観点から、1次粒子径は1nm以上であることが好ましい。
【0031】
本発明で用いられる金属薄膜前駆体粒子としては、加熱処理によって金属薄膜を形成するものである限り制限は無く、好ましくは、金属粒子、金属水酸化物粒子及び金属酸化物粒子が挙げられる。
【0032】
金属粒子としては、湿式法やガス中蒸発法等の手法により形成される1次粒径が10nm以下の金属微粒子が好ましく、特に銅微粒子が好ましい。
【0033】
金属水酸化物粒子としては、水酸化銅、水酸化ニッケル、水酸化コバルト等の化合物からなる粒子を例示できるが、銅薄膜を与える金属水酸化物粒子としては、特に水酸化銅粒子が好ましい。
【0034】
金属酸化物粒子は、加熱処理による金属薄膜形成の容易性から、特に好ましい。金属酸化物粒子としては、例えば、酸化銅粒子、酸化銀粒子、酸化パラジウム粒子、酸化ニッケル粒子等が挙げられる。また、加熱処理によって銅を与えることが可能な酸化銅粒子を用いてもよく、このような酸化銅粒子としては、酸化第一銅粒子、酸化第二銅粒子、その他の酸化数をもった酸化銅粒子のいずれも使用可能である。酸化第一銅粒子は、容易に還元が可能であるので特に好ましい。
【0035】
これらの金属酸化物微粒子は、市販品を用いてもよいし、公知の合成方法を用いて合成することも可能である。例えば、粒子径が100nm未満の酸化第一銅超微粒子の合成方法としては、アセチルアセトナト銅錯体をポリオール溶媒中、200℃程度で加熱して合成する方法が公知である(アンゲバンテ ケミ インターナショナル エディション、40号、2巻、p.359、2001年)。
【0036】
次に、本発明に係る積層体のコンポジット層中に含まれるポリエーテル化合物について説明する。ポリエーテル化合物とは、分子骨格中にエーテル結合を複数含有する化合物である。本発明において、ポリエーテル化合物は、コンポジット層を加熱処理する際に焼失しやすく、焼失すると得られる金属薄膜の抵抗値を低減することができる。また、本発明に係る積層体は、ポリエーテル化合物を含有することにより、ポリエーテル化合物がコンポジット層の保護フィルムに対する保着力を適切に発現させるので、コンポジット層の凝集破壊を抑制することができ、ピンホールやクラックなどの生成を抑制することができる。
【0037】
コンポジット層中の金属薄膜前駆体に対するポリエーテル化合物の含有割合は重量比で0.05〜0.30の範囲が好ましい。ポリエーテル化合物の含有割合が0.05〜0.30の範囲内にあることにより、コンポジット層の保護フィルムに対する保着力が適切となると共に、加熱処理によって得られる金属薄膜の膜質が向上して抵抗値が低くなる傾向がある。ポリエーテル化合物の含有割合が、0.05以上であることにより、加熱処理時に過剰乾燥を防ぐことができ、それによって得られる金属薄膜のピンホールやクラック等の欠陥生成も抑えることができる。また、ポリエーテル化合物の含有割合が0.30以下であることにより、加熱処理時に、余分なポリエーテル化合物を焼失することができ、得られる金属薄膜の抵抗値を下げることができる。このように、得られる金属薄膜の欠陥を抑えること、及び低抵抗値を達成することは相反しており、これらを共に達成するために、ポリエーテル化合物の含有割合が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0038】
ポリエーテル化合物としては、直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物が特に好ましい。直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物は、コンポジット層内での金属薄膜前駆体との分散性が良好であることに加えて、加熱処理して得られる金属薄膜の抵抗値が特に低減するので好ましい。
【0039】
直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物の数平均分子量は、150〜600の範囲であることが好ましく、さらに200〜450の範囲であることがより好ましい。数平均分子量がこの範囲にあると金属薄膜の成膜性が極めて高く、また容易に分解・焼失するので得られる金属薄膜の体積抵抗率が下がりやすい。数平均分子量が150以上であれば、焼成して金属薄膜を得るときの成膜性が向上し、数平均分子量が600以下であれば、得られる金属薄膜の体積抵抗率を低減できる。
【0040】
直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物は、繰り返し単位が炭素数2〜炭素数6のアルキレン基であることが好ましい。直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物、2元以上のポリエーテルコポリマーやポリエーテルブロックコポリマーであってもよい。
【0041】
直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールのようなポリエーテルホモポリマーのほかに、エチレングリコール/プロピレングリコール、エチレングリコール/ブチレングリコールの2元コポリマー、エチレングリコール/プロピレングリコール/エチレングリコール、プロピレングリコール/エチレングリコール/プロピレングリコール、エチレングリコール/ブチレングリコール/エチレングリコール等の直鎖状の3元コポリマーが挙げられるがこれらに限定されるものではない。ブロックコポリマーとしては、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールのような2元ブロックコポリマー、さらにポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールポリエチレングリコール等の直鎖状の3元ブロックコポリマーのようなポリエーテルブロックコポリマーが挙げられる。
【0042】
直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物の末端の構造は、コンポジット層中の金属薄膜前駆体の分散性に悪影響を与えない限り制限は無い。また、直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物の末端の少なくとも一つの末端がアルキル基である場合、焼成時におけるポリエーテル化合物の分解・焼失性が向上し、得られる金属薄膜の体積抵抗率が下がるので好ましい。アルキル基の長さが長すぎる場合、粒子の分散性を阻害して分散体の粘度が増大する傾向があるので、アルキル基の長さとしては炭素数1〜炭素数4が好ましい。少なくとも一つの末端がアルキル基であることによって、焼成時の分解・焼失性が向上する理由は定かではないが、粒子とポリエーテル化合物の間、またはポリエーテル化合物とポリエーテル化合物間の水素結合等に基づく相互作用の力が弱まることが寄与しているものと推察される。
【0043】
直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物は、一つの末端がアルキル基であり、もう一方の末端が水酸基である構造が特に好ましい。このような構造としては、例えば、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリプロピレングリコールメチルエーテル等が挙げられる。
【0044】
コンポジット層の厚みは特に制限は無く、通常、0.1μm〜100μmの範囲で適宜選択して用いられる。
【0045】
保護フィルムとしては、特に素材に制限はなく、例えば、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド、ポリアミド、等の素材を用いることができる。また、保護フィルムの厚みに特に制約が無く、例えば、1μm〜100μm程度の保護フィルムを用いることができる。
【0046】
コンポジット層に接する保護フィルムの表面は、剥離性化合物で処理されていることが好ましい。剥離性化合物の種類に特に制約は無いが、シリコーン化合物が特に好ましい。シリコーン化合物の作用機構は定かではないが、シリコーン化合物がポリエーテル化合物と保護フィルム表面との化学結合を弱める効果があるものと思われる。
【0047】
本発明に係る積層体は、保護フィルムを剥離した後、加熱処理することによって、金属薄膜を得ることができる。ここで、金属薄膜の厚みに制約は無いが、通常、0.01μm〜50μmの範囲にあるものである。
【0048】
加熱処理は、金属薄膜前駆体が金属に還元される限りにおいてその処理温度に制限はなく、通常、100℃〜400℃の温度で行われる。コンポジット層を熱可塑性樹脂層に接した状態で加熱処理して金属薄膜層と熱可塑性樹脂層との間の密着性を高める場合には、加熱温度は熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い温度で加熱処理することが好ましい。例えば、絶縁性樹脂層にガラス転移温度が260℃である熱可塑性ポリイミドを用いる場合、そのガラス転移温度よりも高い300℃〜360℃で加熱処理することが好ましい。
【0049】
加熱処理によって得られる金属薄膜層が、銅等の酸化を受けやすい金属種である場合には非酸化性の雰囲気で加熱処理することが好ましい。金属薄膜の抵抗値を下げるために、わずかに酸化剤を含有する非酸化性雰囲気で加熱処理しても良く、例えば、酸素を30ppm〜500ppm程度に調整した不活性雰囲気での加熱処理することが例示できる。不活性雰囲気とは、例えば、アルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気を指す。これらの加熱処理には、遠赤外線、赤外線、マイクロ波、電子線等の放射線加熱炉や、電気炉、オーブン等の加熱手段が用いられる。
【0050】
本発明に係る積層体は、下記のようにして銅と銅を接着させる金属接合材料として用いることができる。まず、コンポジット層に接する一方の保護フィルムを剥離し、銅被着面に下向きに重ね合わせる。次いで、もう一方の(上面の)保護フィルムを剥離してその上に別の銅被着面を重ね合わせて加熱処理を行う。加熱処理にあたっては、加圧しながら加熱処理することも可能である。
【0051】
本発明に係る積層体は、金属薄膜前駆体及びポリエーテル化合物を含有する分散体を、保護フィルム上に塗布・乾燥することによって形成することができる。また、本発明に係る積層体は、他の基板上に塗布・乾燥したのち、保護フィルムと張り合わせることによって形成することもできる。
【0052】
分散体は、金属薄膜前駆体とポリエーテル化合物を含み、さらに塗工性を向上するため必要に応じて分散材等の化合物を含有することが好ましい。分散体中の金属薄膜前駆体及びポリエ−テル化合物の量は、乾燥処理後のコンポジット層における金属薄膜前駆体に対するポリエーテル化合物が、重量比で0.05〜0.30の範囲になるような含有比となるように適宜調整する。金属薄膜前駆体粒子を用いる場合、分散体中の金属薄膜前駆体粒子の割合は、分散体総量に対して好ましくは5重量%〜90重量%、より好ましくは15重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは15重量%〜35重量%、特に好ましくは20重量%〜35重量%である。分散体中の粒子の重量がこれらの範囲にある場合には粒子の分散状態が良好であり、また1回の塗布・加熱処理によって適度な厚みの金属薄膜が得られるので好ましい。
【0053】
多価アルコールは、金属薄膜前駆体の分散性を向上し、塗工性を高めるので好ましい。多価アルコールの含有割合は、分散体総量に対して、好ましくは5重量%〜70重量%、より好ましくは10重量%〜60重量%であり、さらに好ましくは40〜60重量%である。
【0054】
上記分散体には、必要に応じて消泡剤、レベリング剤、粘度調整剤、安定剤等の添加剤が添加してもよい。また上記分散体は、金属薄膜前駆体粒子の融着による金属薄膜の形成を阻害しない限りにおいて、金属薄膜前駆体粒子から発生する金属種と同種または異種の金属粉を含んでいても差し支えないが、絶縁性樹脂層との間で接着強度の高い界面形態を形成するためには金属粉の粒径は小さいことが好ましい。金属粉の粒径は、1μm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましい。
【0055】
分散体を保護フィルムとは異なる基板上に塗布・乾燥し、保護フィルムと張り合わせる場合に用いる基板としては有機材料および無機材料のいずれでもよいが、金属薄膜を形成する際に加熱処理を行うことから、耐熱性のものが好ましい。例えば、セラミックス、ガラス、金属などの無機材料、ポリイミドフィルム等の耐熱性樹脂が好適に用いられる。ポリイミドフィルムとしては、カプトン(登録商標、東レ・デュポン社製)、アピカル(登録商標、鐘淵化学社製)、ユーピレックス(登録商標、宇部興産社製)等が例示できる。これら基板の膜厚に特に制約は無いが、通常は1μmより厚く、1mmより薄い範囲である。
【0056】
本発明では、このような基板をそのまま用いてもよいし、金属薄膜との接着性を向上させるために、脱脂処理、酸またはアルカリによる化学処理、熱処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等の表面処理を施して使っても良い。また、金属薄膜との接着性を高めるために、基板上に熱可塑性樹脂層等の接着層を形成して用いてもよい。接着層としては、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂の他、部分硬化したポリイミド樹脂層など、加熱処理によって弾性率が変化するイミド結合及び/又はアミド結合を有する絶縁性樹脂層等が例示できる。これらの接着層の厚みは、0.1μm〜20μmの範囲が好ましく、0.1μm〜10μmがより好ましい。膜厚が0.1μmより厚くすることにより成膜が容易となり、絶縁基板と金属薄膜層との接着強度を十分に向上させることができる。膜厚が20μmを越えても本発明の効果を妨げるものではないが、基板の膜厚が必要以上に厚くなる上、経済的でない場合が多い。
【0057】
金属薄膜前駆体とポリエーテル化合物とを含有する分散体または溶液を塗布する方法として、例えば、ディップコーティング方法、スプレー塗布方法、スピンコーティング方法、バーコーティング方法、ロールコーティング方法、インクジェット方法、コンタクトプリンティング方法、スクリーン印刷方法等が挙げられる。これらの方法は、分散体の粘度にあわせて最適な塗布手法を適宜選択すればよい。塗布する分散体の膜厚を調整することにより最終的に得られる金属薄膜の膜厚を調整することが可能である。
【0058】
塗布した分散体を乾燥する際には、金属薄膜前駆体の金属薄膜化が起こる温度より低い温度で分散媒などの易揮発性物質を揮発させるが、乾燥方法は特に制限されない。乾燥温度は分散体を構成する組成物の揮発温度を考慮して適宜定めることができ、通常50℃〜200℃の温度範囲において行われる。有機溶剤を揮発させる場合には、防爆対応を施したオーブン等を用いて行えばよい。
【0059】
(実施例)
以下に、本発明の効果を明確にするために行った実施例及び比較例を示す。本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。金属酸化物微粒子の粒子径、金属薄膜の体積抵抗率、および密着強度の測定法は以下のとおりである。
【0060】
(1)金属酸化物微粒子の粒子径
カーボン蒸着された銅メッシュ上に分散・希釈した粒子分散体を1滴たらし、減圧乾燥したサンプルを作成する。透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、JEM‐4000FX)を用いてサンプルを観察し、視野の中から粒子径が比較的そろっている個所を3ヶ所選択して被測定物の粒子径測定に最も適した倍率で撮影する。各々の写真から一番多数存在すると思われる粒子を3点選択してその直径をものさしで測り、倍率をかけて一次粒子径を算出する。算出した一次粒子径の平均値を粒子径とした。
【0061】
(2)金属薄膜の体積抵抗率
低抵抗率計「ロレスタ−(登録商標)」GP(三菱化学社製)を用いて測定した。
【0062】
(3)密着強度測定(180度剥離試験)
積層体にカッターナイフで幅3mm、長さ50mmの切れ込みを入れる。保護フィルムの幅3mmの側面の一方を少し剥離してアルミテープを貼り、このテープ部分を剥離試験機に固定し、180度方向に引き上げて剥離するに必要な力を測定して密着強度(kN/m)とした。
【0063】
[実施例1]
(金属薄膜前駆体微粒子および分散体の調製)
無水酢酸銅(和光純薬工業社製)8gに精製水70mlを加えた。25℃で攪拌しながらヒドラジン対酢酸銅のモル比が1.2になるように64重量%のヒドラジン抱水物2.6mlを加えて反応させ、平均1次粒子径20nmの酸化第一銅微粒子を得た。得られた酸化第一銅3gに対し、ポリエチレングリコールメチルエーテル(数平均分子量400、アルドリッチ社製)2gと、ジエチレングリコール7gを加え、超音波分散を施して酸化第一銅分散体を得た。
【0064】
(積層体の作成)
10cm角のガラス基板上に同サイズで切り出したポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製カプトンフィルム、膜厚50μm)を両面テープで貼り合わせた後、ミカサ社製スピンコーター(1H−D7型)にセットした。このポリイミドフィルム上に、上述の酸化第一銅分散体を2ml滴下した後、500rpm×15秒の条件でスピンコートして塗布を行った。次に、この塗布膜を、オーブンに入れて150℃×10分の条件で乾燥させた後、表面をシリコーン処理したPETフィルムで重ね合わせて1kgfでプレスし、積層体を得た。
【0065】
(密着強度の測定とコンポジット層の解析)
180度剥離試験による保護フィルムの密着強度は、0.1kN/mであった。コンポジット層に含まれる酸化第一銅に対するポリエチレングリコールメチルエーテルの重量比は、0.2であった。保護フィルムを剥離し、水素雰囲気で350℃×10分の条件で加熱処理して得た銅薄膜の銅厚は0.5μmであり、体積抵抗値は1.8μΩcmであった。
【0066】
[実施例2〜実施例4]
乾燥条件を様々変えて積層体を得て、実施例1と同様にして評価した。実施例1〜実施例4の結果を下記表1に示す。下記表1においては、銅薄膜膜質に関しては、加熱処理後の銅膜にピンホールが少なく、クラック等が発生しないものを「良好」、そうでないものを「不良」と判断した。なお、ピンホール及びクラックは、加熱処理して得られた積層体を、光学顕微鏡の透過光モードにて観察し、100μm以上の丸状の欠点をピンホール、300μm以上の長さを有する割れ目状の欠点をクラックと分類した。
【0067】
[実施例5]
実施例1で得られた酸化第一銅3gに対し、ポリエチレングリコールメチルエーテル(数平均分子量250、アルドリッチ社製)4gと、ジエチレングリコール7gを加え、超音波分散を施して酸化第一銅分散体を得た。乾燥条件を120℃×10分に変える以外は実施例1と同様の手法で積層体を得て、評価した結果を下記表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、密着強度が0.2kN/m以下であることにより、何れも抵抗値が低い値であった(実施例1〜実施例5)。
【0070】
[比較例1]
乾燥条件を130℃×10分で行う以外は、実施例1と同じ手法で積層体を得た。重量比は0.35であり、密着強度は0.23kN/mであった。保護フィルムを剥離する過程でコンポジット層が凝集破壊を受け、加熱処理して得られた銅膜には多数のピンホールが確認された。また、抵抗値も3.3μΩcmと高い値であった。なお、凝集破壊については、剥離した保護フィルムの顕微鏡観察によって、コンポジット層の一部が塊となって保護フィルムに付着していることを確認することで判断した。
【0071】
[比較例2]
シリコーン処理しないPETフィルムを用いる以外は、実施例1と同じ手法で積層体を得た。密着強度は0.29kN/mであった。保護フィルムを剥離する過程でコンポジット層が凝集破壊を受け、加熱処理して得られた銅膜には多数のピンホールが確認された。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、密着強度が0.23kN/m、0.29kN/mの場合には抵抗値が増大した(比較例1、比較例2)。
【0074】
以上説明したように、本発明に係る積層体は、保護フィルムを剥離した後、加熱処理することによって、ピンホールが少なくバルク金属並みの非常に低い抵抗値を有する金属薄膜を形成できる。また、分散体を基板上に塗工し乾燥した後、得られた乾燥膜を一旦保護フィルムで張り合わせて保管することができる。さらに、条件を確認しながら加熱処理工程に進めることができるので、加熱処理工程の不具合に対処しやすく、得られる金属薄膜の抵抗値を精度高く調整できる。また、金属膜の膜厚を任意にコントロールすることができ、薄膜の金属膜も容易に形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る積層体は、ピンホールが少なくバルク金属並みの非常に低い抵抗値を有する金属薄膜を形成できるので、フレキシブル配線板材料や、接合材料として特に好適に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄膜前駆体とポリエーテル化合物とを含有するコンポジット層と、前記コンポジット層の少なくとも一方の面に積層される保護フィルムと、を備え、前記コンポジット層と前記保護フィルムとの密着強度が0.2kN/m以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記コンポジット層中の前記金属薄膜前駆体に対する前記ポリエーテル化合物の含有割合が、重量比で0.05〜0.30の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記金属薄膜前駆体が、金属粒子、金属酸化物粒子及び金属水酸化物粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属薄膜前駆体粒子であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の積層体。
【請求項4】
前記金属薄膜前駆体粒子の1次粒子径が、200nm以下であることを特徴とする請求項3記載の積層体。
【請求項5】
前記金属薄膜前駆体粒子が、酸化第一銅粒子であることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の積層体。
【請求項6】
前記保護フィルムは、前記コンポジット層に接する面が剥離性化合物で表面処理されてなることを特徴とする請求項1から請求項5いずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記剥離性化合物が、シリコーン化合物であることを特徴とする請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記ポリエーテル化合物が、直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
前記直鎖状脂肪族ポリエーテル化合物は、分子量150〜600であって、片末端にアルキル基を有することを特徴とする請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の積層体から保護フィルムを剥離した後、加熱処理して得られたことを特徴とする金属薄膜。
【請求項11】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の積層体から保護フィルムを剥離した後、金属被着面間で挟んで加熱処理して得られたことを特徴とする金属接合材料。

【公開番号】特開2011−178019(P2011−178019A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44116(P2010−44116)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】