説明

積層型ガスケット

【課題】積層型ガスケットにおいて、各穴のシール性能の向上と、この積層型ガスケットを挟持する部材の変形を低減することができる積層型ガスケットを提供する。
【解決手段】第1金属基板10の第1シール対象穴2の周縁部に形成した折り返し部12内に、内周側平坦部21を挿入して第2金属基板20を配置し、この内周側平坦部21の外周側に第1ハーフビード22を設け、更に、第2金属基板20と第1金属基板10との間に、第1フルビード31を有するビード板30を積層すると共に、第2金属基板20の外周側平坦部23とビード板30の外周側平坦部32との間に中間板40を積層し、第1金属基板10と、第2金属基板20の外周側平坦部23と、ビード板30の外周側平坦部3と、中間板40とに、第2シール対象穴3を設け、ビード板30を第1シール対象穴2と第2シール対象穴3とを囲むように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟持してシールを行うシリンダヘッドガスケットや排気マニホールドと排気管の間に挟持してシールを行う排気マニホールドガスケット等の積層型ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンにおいては、シリンダヘッドとシリンダブロック(シリンダボディ)等のエンジン部材の間に挟まれた状態で、ヘッドボルトにより締結され、燃焼ガス、オイル、冷却水等の流体をシールするシリンダヘッドガスケットや排気マニホールドと排気管の間に挟まれた状態で、燃焼ガスをシールする排気マニホールドガスケット等の積層型ガスケットが使用されている。
【0003】
一方、積層型ガスケットには、シリンダボア用穴等の主となるシール対象穴以外に、この積層型ガスケットをエンジン部材に取り付けるためのボルト穴等の副となるシール対象穴がある。従来技術においては、エンジン部材が鋳鉄製であったためにシール対象穴の変形を問題とすることなく締結力を大きくすることができ、また、エンジンの燃焼ガスの圧力も比較的低く、要求されるシール性能が低かったため、ボルト穴の周囲におけるシール性能にも特に問題を生じていなかった。
【0004】
しかしながら、エンジンの軽量化と高出力化により、最近では、エンジン部材がアルミニウム合金製となり、剛性が小さくなると共に圧痕が生じ易くなってきている。そのため、高いシール性能が要求されるが締結力を大きくすることが難しく、その上、ガスケット当接面に不均等な力を加えるとエンジン部材側のシリンダボア等のシール対象穴が変形するという問題がある。
【0005】
この積層型ガスケットの中に、図6及び図7に示すように、第1の金属基板10において、主となるシール対象穴2の周縁部に折り返し部12を設けて、その内部に主となるシール対象穴2用のフルビード31を持つビード板30Xを配置した積層型ガスケット1Xがある。このビード板30Xを内包する積層型ガスケット1Xにおいては、このビード板30Xは主となるシール対象穴2の周辺のみに配置されるため、図6に示すように、主となるシール対象穴2の周辺部のみの円環状に形成される。なお、この円環状のビード板を有し、更に、第1の金属基板に、このビード板のビードを囲むフルビードを設けたシリンダヘッドガスケットが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このような積層型ガスケット1Xでは、締結ボルトの締め付けによりボルト穴3近傍に大きな押圧力を加えることにより、副となるシール対象穴であるボルト穴3のシール性能も十分に確保できたが、最近のアルミニウム合金製のエンジンでは、エンジン部材の剛性の低下により大きなボルト締結力を用いることができないので、ボルト穴3周りのシール性能の確保が難しいという問題がある。その上、ボルト穴3周辺の金属構成板の枚数よりもシール対象穴2側の金属構成板の枚数が多いので、ボルト穴3周辺よりもシール対象穴2側のシール面圧が大きくなり、シール対象穴2の変形が生じ易いという問題もある。
【特許文献1】特開2003−139247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、エンジンに使用されるシリンダヘッドガスケットやマニホールドガスケット等の積層型ガスケットにおいて、シール対象となる各穴のシール性能の向上と、シリンダボア変形等の、この積層型ガスケットを挟持する部材の変形を低減することができる積層型ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明に係る積層型ガスケットは、第1金属基板を第1シール対象穴の周縁部に折り返し部を形成すると共に、該折り返し部内に、第2金属基板の内周側平坦部を挿入して該第2金属基板を配置し、該第2金属基板において、前記内周側平坦部の外周側に、外周側平坦部が板厚方向に関して前記折り返し部側に配置される第1ハーフビードを形成し、更に、前記折り返し部内で、前記第2金属基板の前記内周側平坦部と前記第1金属基板との間に、第1シール対象穴用の前記第1金属基板側に凸となる第1フルビードを有するビード板を積層すると共に、前記第2金属基板の前記外周側平坦部と前記ビード板の前記第1フルビードより外周側の外周側平坦部との間に中間板を積層した積層型ガスケットにおいて、前記第1金属基板と、前記第2金属基板の前記外周側平坦部と、前記ビード板の前記外周側平坦部と、前記中間板とに、第2シール対象穴を設けると共に、前記ビード板を前記第1シール対象穴と第2シール対象穴とを囲むように形成する。
【0009】
また、上記の積層型ガスケットで、前記第1フルビードの位置における各金属構成板の板厚の合計と、前記第2シール対象穴の周縁部周辺における各金属構成板の板厚の合計とを一致させて構成する。また、上記の積層型ガスケットで、前記ビード板に、前記第2シール対象穴を囲む第2フルビード又は第2ハーフビードを設けて構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層型ガスケットによれば、第1シール対象穴と第2シール対象穴の周辺とでは、金属構成板の積層した板厚が略同じになるか一致するので、第2シール対象穴のシール性能を向上させることができ、また、大きな押圧力が作用した時であっても、第1シール対象穴と第2シール対象穴の各周辺に発生するシール面圧の不均等度合を抑制できて、この積層型ガスケットを挟持している部材側のシール対象穴近傍の変形を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、図面を参照して本発明に係る積層型ガスケットの実施の形態について、排気マニホールドガスケットを例にして説明する。なお、図1〜図8は、模式的な説明図であり、構成をより理解し易いように、シール対象穴の大きさ、ボルト穴の大きさ、ビードの大きさ、形等の寸法を実際のものとは異ならせて、誇張して示している。また、ここでは排気マニホールドガスケットを例に説明するが、本発明は、シリンダヘッドガスケット等の他の積層型ガスケットにも適用できる。
【0012】
図1及び図2に示すように、本発明に係る第1の実施の形態の積層型ガスケット1は、多気筒エンジンの排気マニホールドと排気管の間に挟持される積層型ガスケットであって、高温・高圧の燃焼ガスをシールする。この積層型ガスケット1は、第1金属基板10、第2金属基板20、ビード板30、中間板40等の各金属構成板を有して構成される。
【0013】
これらの金属構成板10,20,40は、排気マニホールドや排気管等のエンジン部材の形状に合わせて製造され、更に、第1シール対象穴2、締結ボルト用のボルト穴(第2シール対象穴)3等が形成される。一方、ビード板30は、図1に示すように、連続的に第1シール対象穴2とボルト穴3の両方を囲むように形成される。
【0014】
この第1及び第2金属基板10、20、ビード板30、中間板40は、軟鋼板、ステンレス焼鈍材(アニール材)、ステンレス調質材(バネ鋼板)等で形成される。特に第1金属基板(第1表面板)10には耐熱性や耐腐食性に優れた材料であるアニール材を使用し、また、ビード板30には弾力性に優れた材料であるバネ材を使用する。
【0015】
そして、図2に示すように、この第1金属基板10において、燃焼ガスが通過する第1シール対象穴2の周縁部に折り返して曲がり部11と折り返し部(フランジ部)12を形成する。それと共に、この折り返し部12内に、第2金属基板20の内周側平坦部21を挿入して第2金属基板20を配置する。この第2金属基板20では、内周側平坦部21の外周側に、外周側に行くに伴い折り返し部12側に開く第1ハーフビード22を設けて、この第1ハーフビード22より外周側の外周側平坦部23を面厚方向に関して折り返し部側12に配置する。
【0016】
更に、折り返し部12内で、第2金属基板20と第1金属基板10との間に、第1シール対象穴2用の第1金属基板10側に凸となる第1フルビード31を有するビード板30を積層する。それと共に、第2金属基板20の外周側平坦部23と、ビード板30の第1フルビード31より外周側の外周側平坦部32との間に中間板40を積層する。そして、第1金属基板10と、第2金属基板20の外周側平坦部23と、ビード板30の外周側平坦部30と、中間板40とに、第2シール対象穴3を設ける。つまり、第2シール対象穴3の周辺部においては、第1金属基板10と、ビード板30の外周側平坦部30と、中間板40と、第2金属基板20の外周側平坦部23とが順に積層される。
【0017】
これらの構成によれば、折り返し部12により、燃焼ガスが第2金属基板20やビード板30に接触するのを防止できるので、第1金属基板10には耐熱性や耐腐食性に優れた材料を使用する必要があるが、第2金属基板20やビード板には弾力性に優れた材料を使用することができる。そのため、それぞれの材料の特性を活かした組み合わせでガスケット1を構成できる。従って、この構成により、シール性、耐熱性、耐腐食性、耐久性等の各種性能に優れたガスケットとすることができる。
【0018】
また、第2金属基板20に第1ハーフビード22を設けたため、第1ハーフビード22の内周側平坦部21を折り返し部12の内側に収め易くなり、容易に、折り返し部12内に第2金属基板20の一部21を挿入できる。そのため、折り返し部12の弾力性の向上と挿入部21のストッパ機能による亀裂発生防止を図ることができる。
【0019】
そして、図1に示すように、ビード板30を第2シール対象穴であるボルト穴3の周囲まで延長して形成した積層型ガスケット1においては、図2に示すように、第1シール対象穴2と第2シール対象穴3の周辺とでは、金属構成板の積層した板厚が略同じか一致する。そのため、第2シール対象穴3のシール性能を向上させることができる。また、大きな押圧力が作用した時であっても、第1シール対象穴2と第2シール対象穴3の各周辺に発生するシール面圧の不均等度合を抑制でき、この積層型ガスケット1を挟持している部材側のシール対象穴近傍の変形を防止することができる。
【0020】
次に第2の実施の形態について説明する。図3及び図4に示すように、この第2の実施の形態の積層型ガスケット1Aでは、第1の実施の形態の積層型ガスケット1の構成に加えて、第2シール対象穴であるボルト穴3の周囲に第2フルビード33が設けられる。これ以外は、第1の第1の実施の形態の積層型ガスケット1の構成と同じである。
【0021】
この構成によれば、第1の実施の形態の上記の作用効果に加えて、第2フルビード33により、ボルト穴3周りのシール性能が向上するという作用効果を得ることができる。この構成は、積層型ガスケットがシリンダヘッドガスケット等であって、第2シール対象穴3が水穴等のシール性が必要な場合に特に有効である。
【0022】
なお、第2シール対象穴3において、高いシール面圧が必要でない場合には第2フルビード33の代りに図5及び図6に示すように第2ハーフビード34で形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の積層型ガスケットの構成を示すビード板の平面図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の積層型ガスケットの図1のA−A部分の断面図である。
【図3】本発明に係る第2の実施の形態の積層型ガスケットの構成を示すビード板の平面図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の積層型ガスケットの図3のA−A部分の断面図である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態の積層型ガスケットの別の構成を示すビード板の平面図である。
【図6】本発明に係る第2の実施の形態の積層型ガスケットの図5のA−A部分の断面図である。
【図7】参考としての積層型ガスケットの構成を示すビード板の平面図である。
【図8】参考としての積層型ガスケットを示す、図7のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1、1A、1B 排気マニホールドガスケット(積層型ガスケット)
2 第1シール対象穴
3 ボルト穴(第2シール対象穴)
10 第1金属基板
12 折り返し部(フランジ部)
20 第2金属基板
21 第2金属基板の内周側平坦部
22 第1ハーフビード
23 第2金属基板の外周側平坦部
30、30A、30B ビード板
31 第1フルビード
33 第2フルビード
34 第2ハーフビード
40 中間板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属基板を第1シール対象穴の周縁部に折り返し部を形成すると共に、該折り返し部内に、第2金属基板の内周側平坦部を挿入して該第2金属基板を配置し、該第2金属基板において、前記内周側平坦部の外周側に、外周側平坦部が板厚方向に関して前記折り返し部側に配置される第1ハーフビードを形成し、
更に、前記折り返し部内で、前記第2金属基板の前記内周側平坦部と前記第1金属基板との間に、第1シール対象穴用の前記第1金属基板側に凸となる第1フルビードを有するビード板を積層すると共に、前記第2金属基板の前記外周側平坦部と前記ビード板の前記第1フルビードより外周側の外周側平坦部との間に中間板を積層した積層型ガスケットにおいて、
前記第1金属基板と、前記第2金属基板の前記外周側平坦部と、前記ビード板の前記外周側平坦部と、前記中間板とに、第2シール対象穴を設けると共に、前記ビード板を前記第1シール対象穴と第2シール対象穴とを囲むように形成したことを特徴とする積層型ガスケット。
【請求項2】
前記第1フルビードの位置における各金属構成板の板厚の合計と、前記第2シール対象穴の周縁部周辺における各金属構成板の板厚の合計とを一致させたことを特徴とする請求項1記載の積層型ガスケット。
【請求項3】
前記ビード板に、前記第2シール対象穴を囲む第2フルビード又は第2ハーフビードを設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の積層型ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−202625(P2008−202625A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36436(P2007−36436)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000198237)石川ガスケット株式会社 (57)
【Fターム(参考)】