説明

積層型コイル部品

【課題】高いQ値を得ることができる積層型コイル部品を提供する。
【解決手段】
積層型コイル部品1では、焼成後のコイル導体4,5の粒径が10μm〜22μmである。焼成後のコイル導体4,5の粒径を10μm以上とすることにより、高周波で十分なQ値を得ることができる程度に、コイル導体の表面粗さを小さくできる。また、焼成後のコイル導体4,5の粒径を22μm以下になるようにすることによって、焼成中にコイル導体4,5の金属が急激に融解することを抑制できる。以上によって、高い品質を確保しつつも、高いQ値を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型コイル部品として、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。この積層型コイル部品では、ガラスセラミックのシート上にコイル導体の導体パターンを形成し、各シートを積層すると共に各シートにおけるコイル導体を電気的に接続し、焼成することによって内部にコイル部が配置された素体が形成される。また、素体の両端面に、コイル部の端部と電気的に接続された外部電極部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−297533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、積層型コイル部品は、その構造や製造方法などの理由などにより、ワイヤを巻回した巻線コイルに比してQ(quality factor)値が低かった。しかしながら、近年特に高周波に対応できる部品が要求されることに伴い、積層型コイル部品に対しても、高いQ値が要求されている。従来の積層型コイル部品では、このような要求を満たすまでの、高いQ値を実現することができなかった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、高いQ値を得ることができる積層型コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
コイルのQ値を上げるためには、コイル導体の表面の平滑性を上げることが好適である。高周波の場合は、コイル導体表面の抵抗が高いと表皮効果によってQ値を高くできない。そして、コイル導体の表面の平滑性が低い場合は表面抵抗が高くなる。そこで、本発明者らは、コイル導体の表面の平滑性を上げてQ値を上げるためには、焼成後の導体の粒径を所定の範囲内の大きさとすることが好適であることを見出した。
【0007】
具体的には、本発明者らは、焼成後のコイル導体の粒径を10μm以上とすることにより、高周波で十分なQ値を得ることができる程度に、コイル導体の表面粗さを小さくできることを見出した。一方、本発明者らは、焼成後のコイル導体の粒径を大きくするようにしすぎた場合、焼成中にコイル導体の金属の融解が急激に進み、その結果、コイル導体の断線や引出部の引込み等が発生してしまうことを見出した。そこで、本発明者らは、焼成後のコイル導体の粒径として22μm以下を目標とすることによって、コイル導体の金属の急激な融解を抑制できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明に係る積層型コイル部品は、複数の絶縁体層を積層することによって形成される素体と、複数のコイル導体によって素体の内部に形成されるコイル部と、を備え、焼成後のコイル導体の粒径が10μm〜22μmであることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る積層型コイル部品では、焼成後のコイル導体の粒径を10μm以上とすることにより、高周波で十分なQ値を得ることができる程度に、コイル導体の表面粗さを小さくできる。また、焼成後のコイル導体の粒径を22μm以下になるようにすることによって、焼成中にコイル導体の金属が急激に融解することを抑制できる。以上によって、高い品質を確保しつつも、高いQ値を得ることができる。
【0010】
また、本発明に係る積層型コイル部品において、素体は、ガラスセラミックからなることが好ましい。これによって、素体の誘電率を小さくすることができ、Q値を高くすることができる。
【0011】
また、本発明に係る積層型コイル部品において、前記ガラスセラミックは、86.7〜92.5重量%のSiOと、0.5〜2.4重量%のAlを含有することが好ましい。素体のガラスセラミックの組成をこのような範囲とすることによって、コイル導体の表面の平滑性を一層向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る積層型コイル部品において、コイル導体を覆うカリウムの被覆層が形成されていることが好ましい。コイル導体の周りにカリウムが存在する場合、当該コイル導体の周りの素体の軟化点を下げることができ、焼成時に当該領域の素体が軟化して平滑になり易くなる。これに伴って、そこに接するコイル導体の表面も平滑にすることができる。
【0013】
また、本発明に係る積層型コイル部品において、焼成後のコイル導体の粒径が11μm〜18μmであることが好ましい。これによって、コイル導体の金属の急激な融解を一層抑制できると共に、コイル導体の表面粗さを一層小さくできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、積層型コイル部品のQ値を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る積層型コイル部品を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る積層型コイル部品を示す断面図である。
【図3】コイル導体の表面の平滑性と表面抵抗の関係を示す模式図である。
【図4】コイル部配置層の軟化点が低い場合であって、保形層を有する場合と有さない場合の焼成時の素体の状態を示す模式図である。
【図5】素体の状態とコイル導体の表面の平滑性の関係を示す模式図である。
【図6】実施例に係る積層型コイル部品のコイル導体の、導体粒径と表面粗さの関係を示すグラフである。
【図7】実施例に係る積層型コイル部品の各種条件を示す表である。
【図8】選定した積層型コイル部品についての、周波数と交流抵抗値の関係を示すグラフである。
【図9】選定した積層型コイル部品のコイル導体の断面を示す写真である。
【図10】選定した積層型コイル部品についての、周波数とQ値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る積層型コイル部品の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る積層型コイル部品を示す断面図である。図1及び図2に示すように、積層型コイル部品1は、複数の絶縁体層を積層することによって形成される素体2と、複数のコイル導体4,5によって素体2の内部に形成されるコイル部3と、素体2の両端面に形成される一対の外部電極6と、を備えている。
【0018】
素体2は、セラミックグリーンシートを複数積層させた焼結体からなる直方体状または立方体状の積層体である。ここで、素体2は、図2に示すように、内部にコイル部3が配置されるコイル部配置層2Aと、当該コイル部配置層2Aを挟むように一対設けられる保形層2Bと、を備えた構成を採用してもよい。あるいは、図1に示すように、素体2が保形層2Bを有することなく、コイル部配置層2Aのみからなる構成を採用してもよい。
【0019】
コイル部配置層2Aは、コイル導体4の粒径を所定の範囲内にすることができるものであれば特に限定されないが、例えば、ガラスセラミックスからなることが好ましい。これによって、素体2の誘電率を小さくすることができ、Q値を高くすることができる。また、コイル部配置層2Aは、非晶質のセラミックスからなることが好ましい。これによって、コイル導体4,5の平滑性を上げることができる。また、コイル部配置層2Aは、SiOを含有することが好ましい。これによって、コイル部配置層2Aの誘電率を小さくすることができる。また、コイル部配置層2Aは、Alを含有することが好ましい。これによって、コイル部配置層2Aでの結晶転移を防止することができる。また、コイル部配置層2Aは、コイル導体4,5を覆う被覆層7を形成するために、KOを含有することが好ましい。
【0020】
コイル部配置層2Aは、主成分として、ホウケイ酸ガラス成分を35〜60重量%含有し、石英成分を15〜35重量%含有し、残部にアモルファスシリカ成分を含有し、副成分として、アルミナを含有し、アルミナの含有量が、前記主成分100重量%に対して、0.5〜2.5重量%含有する。且つ、コイル部配置層2Aは、焼成後において、SiOが86.7〜92.5重量%、Bが6.2〜10.7重量%、KOが0.7〜1.2重量%、Alが0.5〜2.4重量%の組成を有する。ガラスセラミックスが、86.7〜92.5重量%のSiOと、0.5〜2.4重量%のAlを含有することによって、コイル導体4,5の表面の平滑性を一層向上させることができる。なお、MgO、CaOを1.0重量%以下含有してもよい。
【0021】
あるいは、コイル部配置層2Aは、主成分として、ホウケイ酸ガラス成分を35〜75重量%含有し、石英成分を5〜40重量%含有し、珪酸亜鉛成分を5〜60重量%含有する。ホウケイ酸ガラスは主成分として、SiO=70〜90重量%、B=10〜30重量%、副成分として、KO、NaO、BaO、SrO、AlおよびCaOのうちの少なくとも1種以上を合計で5重量%以下含有する。且つ、コイル部配置層2Aは、焼成後において、SiO=53.7〜89.5重量%、B=3.5〜22.5重量%、ZnO=3.0〜35.8重量%、KO、NaO、BaO、SrO、AlおよびCaOのうちの少なくとも1種以上を合計で3.8重量%以下の組成を有してもよい。
【0022】
図2に示すように、保形層2Bを有するような構成とする場合は、素体2を次のような構成とすることが好ましい。すなわち、保形層2Bは、コイル部配置層2Aの端面のうち、積層方向において対向する端面2a及び端面2bの全面を覆うように形成されている。保形層2Bは、コイル部配置層2Aの焼結時の形状を保つ機能を有している。積層方向におけるコイル部配置層2Aの厚みは、例えば、0.1mm以上であり、積層方向における保形層2Bの厚みは5μm以上である。
【0023】
図2に示すような構成とする場合、コイル部配置層2Aは、主成分として、ホウケイ酸ガラス成分を35〜60重量%含有し、石英成分を15〜35重量%含有し、残部にアモルファスシリカ成分を含有し、副成分として、アルミナを含有し、アルミナの含有量が、前記主成分100重量%に対して、0.5〜2.5重量%含有する。且つ、コイル部配置層2Aは、焼成後において、SiOが86.7〜92.5重量%、(B)が6.2〜10.7重量%、KOが0.7〜1.2重量%、Alが0.5〜2.4重量%の組成を有する。コイル部配置層2Aが、86.7〜92.5重量%のSiOを含有することによって、コイル部配置層2Aの誘電率を小さくすることができる。また、コイル部配置層2Aが、0.5〜2.4重量%のAlを含有することによって、コイル部配置層2Aでの結晶転移を防止することができる。なお、MgO、CaOを1.0重量%以下含有してもよい。
【0024】
保形層2Bは、主成分として、ガラス成分を50〜70重量%含有し、アルミナ成分を30〜50重量%含有している。且つ、保形層2Bは、焼成後において、SiOが23〜42重量%、Bが0.25〜3.5重量%、Alが34.2〜58.8重量%、アルカリ土類金属酸化物12.5〜31.5重量%の組成を有し、該アルカリ土類金属酸化物中の60重量%以上(すなわち保形層2B全体の7.5〜31.5重量%)がSrOである。
【0025】
図2のような構成とする場合、コイル部配置層2Aの軟化点は、保形層2Bの軟化点または融点よりも低く設定されている。具体的に、コイル部配置層2Aの軟化点は800〜1050℃であり、保形層2Bの軟化点または融点は1200℃以上である。コイル部配置層2Aの軟化点を低くすることによって、コイル部配置層2Aを非晶質にすることができる。保形層2Bの軟化点または融点を高くすることによって、焼成時に軟化点の低いコイル部配置層2Aが変形しないように形状を保持することができる。
【0026】
SrOが含有されていると軟化点を下げることができないため、コイル部配置層2AにはSrOが含有されていない。ここで、SrOは拡散し難いため、焼成時に保形層2BのSrOがコイル部配置層2Aに拡散することは抑制される。また、コイル部配置層2Aには、SrOが含有されていない分、相対的に低誘電率なSiOを多くすることができ、これによって誘電率を低くすることができる。従って、コイルのQ(quality factor)値を上げることができる。一方、保形層2BにはSrOが含有されている分、SiOの含有量がコイル部配置層2Aに比して少なく誘電率が高くなるが、当該保形層2Bにはコイル導体4,5は内包されておらず、コイルのQ値には影響を及ぼさない。また、コイル部配置層2AはSiOの含有量が高く強度が低いが、保形層2BはSiOの含有量が低く強度が高い。すなわち、保形層2Bは、焼成後にコイル部配置層2Aの補強層としても機能することができる。
【0027】
ここで、図4(a)に示すように、素体が結晶質であると、当該素体の表面の凹凸の影響により、そこに接するコイル導体の表面も凹凸が大きくなる可能性があるのに対し、図4(b)に示すように、素体が非晶質であると、当該素体の滑らかな表面の影響により、そこに接するコイル導体の表面も滑らかになり、より好ましい。すなわち、素体を非晶質とすることがより好ましい。なお、本実施形態における図2に示す構成では、素体は完全な非昌質ではなくアルミナ成分が少量(0.5〜2.4重量%)含まれている分だけ、結晶質を一部含むが、極めて少量であるため、図4(b)のような滑らかな表面が得られる。一方、素体を非晶質とするために軟化点を低くする場合、図5(b)に示すように、素体全体が軟化することによって素体の形状が丸まってしまい、形状が保てない場合があるが、図2のような保形層2Bを有する構成を採用した場合、図5(a)に示すように、素体の形状を保つことができるため、好ましい。図2の構成を採用した場合、コイル部配置層2Aを非晶質とするために、軟化点が保形層2Bよりも低く設定しても、軟化点が低くされたコイル部配置層2Aは、保形層2Bによって挟まれているため、焼成時に丸まることなく、形が保たれる。なお、保形層2Bを有していなくとも非晶質とできる場合は、図1のような構成としてもよい。また、素体が非晶質であることに限定されず、所望のコイル導体の粒径が得られる限り、結晶質であってもよい。
【0028】
コイル部3は、巻線部に係るコイル導体4と、外部電極6と接続される引出部に係るコイル導体5と、を有している。コイル導体4,5は、例えば銀、銅及びニッケルのいずれかを主成分とした導体ペーストによって形成される。図2の構成の場合、コイル部3は、コイル部配置層2Aの内部にのみ配置され、保形層2Bの中には配置されない。また、コイル部3のいずれのコイル導体4,5も保形層2Bと接触していない。積層方向におけるコイル部3の両端部は、保形層2Bから離間しており、当該コイル部3と保形層2Bとの間にはコイル部配置層2Aのセラミックが配置される。巻線部に係るコイル導体4は、コイル部配置層2Aを形成するセラミックグリーンシート上に、導体ペーストにて所定の巻線の導体パターンを形成することで構成される。各層の導体パターンは、スルーホール導体によって積層方向に接続される。また、引出部に係るコイル導体5は、巻線パターンの端部を外部電極6まで引き出すような導体パターンによって構成される。なお、巻線部のコイルパターンや巻線数や、引出部の引出し位置などは特に限定されない。
【0029】
コイル部3のコイル導体4,5の周りには、当該コイル導体4,5を覆うK(カリウム)の被覆層7が形成されている。この被覆層7は、コイル部配置層2Aを形成する焼成前のセラミックグリーンシートにカリウムを含有させることで、焼成時にカリウムがコイル導体4,5の周りに集まることによって、形成される。
【0030】
コイル導体4,5の焼成後の粒径は、10μm〜22μmであることが好ましく、11μm〜18μmであることがより好ましい。表面抵抗を下げるべくコイル導体4,5の表面粗さを小さくすることが好ましい。コイル導体4,5の粒径を10μm以上とすることによって、表面粗さを小さくし、高周波でQ値を高くすることができる。また、コイル導体4,5の粒径を22μm以下とすることによって、コイル導体4,5を構成する金属(例えば銀)の融解により断線や引出部の引込み等が発生することを抑制することができる。
【0031】
一対の外部電極6は、素体2の端面のうち、積層方向と直交する方向において対向する両端面を覆うように形成されている。各外部電極6は、当該両端面全体を覆うように形成されていると共に、一部が当該両端面から他の四面へ回り込んでいてもよい。各外部電極6は、例えば銀、銅及びニッケルのいずれかを主成分とした導体ペーストをスクリーン印刷するか、あるいは印刷とディップ方式を用いて形成する。
【0032】
次に、上述した構成の積層型コイル部品1の製造方法について説明する。
【0033】
まず、コイル部配置層2Aを形成するセラミックグリーンシートを用意する。上述のような組成となるように、セラミックのペーストを調整し、ドクターブレード法などによりシート成型することで、各セラミックグリーンシートを用意する。図2のような構成とする場合、保形層2Bを形成するセラミックグリーンシートも用意する。
【0034】
コイル導体4,5を形成する導電性ペーストを用意する。この導電性ペーストには、所定の粒度特性を有する銀、ニッケル又は銅を主成分とする導体粉を含ませる。具体的に、導体粉として、平均粒径1μm〜3μm、標準偏差0.7μm〜1.0μmのものを用いる。なお、このような粒度特性の導体粉を得るために分級を行ってもよい。
【0035】
続いて、コイル部配置層2Aとなる各セラミックグリーンシートの所定の位置、すなわちスルーホール電極が形成される予定の位置に、レーザー加工等によってスルーホールをそれぞれ形成する。次に、コイル部配置層2Aとなる各セラミックグリーンシートの上に、各導体パターンをそれぞれ形成する。ここで、各導体パターン及び各スルーホール電極は、銀又はニッケルなどを含んだ導電性ペーストを用いてスクリーン印刷法により形成される。
【0036】
続いて、各セラミックグリーンシートを積層する。図2のような構成とする場合、保形層2Bとなるセラミックグリーンシートの上にコイル部配置層2Aとなるセラミックグリーンシートを積み重ね、その上から保形層2Bとなるセラミックグリーンシートを重ねる。なお、底部と上部に形成される保形層2Bは、それぞれ一枚のセラミックグリーンシートによって形成されてもよく、複数枚のセラミックグリーンシートによって形成されてもよい。次に、積層方向に圧力を加えて各セラミックグリーンシートを圧着する。
【0037】
続いて、この積層された積層体を、例えば、900〜940℃、10〜60分にて焼成を行い、素体2を形成する。コイル導体の粒径の目標粒径を10μm〜22μmとして、焼成条件を調整する。なお、図2のような構成とする場合、設定される焼成温度は、コイル部配置層2Aの軟化点以上であって、保形層2Bの軟化点または融点未満に設定する。このとき、保形層2Bはコイル部配置層2Aの形状を保つ。
【0038】
続いて、この素体2に外部電極6を形成する。これにより、積層型コイル部品1が形成されることとなる。外部電極6は、素体2の長手方向の両端面にそれぞれ銀、ニッケル又は銅を主成分とする電極ペーストを塗布して、所定温度(例えば、600〜700℃程度)で焼付けを行い、さらに電気めっきを施すことにより形成される。この電気めっきとしては、Cu、Ni及びSn等を用いることができる。
【0039】
次に、本実施形態に係る積層型コイル部品1の作用・効果について説明する。
【0040】
コイルのQ(quality factor)値を上げるためには、コイル導体の表面の平滑性を上げることが好適である。周波数が高くなれば高くなるほど表皮深さが浅くなり、高周波の場合は、コイル導体の表面の平滑性がQ値に影響を与える。例えば、図3(b)に示すようにコイル導体の表面の平滑性が低く、凹凸が形成されていた場合、コイル導体の表面抵抗が上がり、コイルのQ値が下がってしまう。一方、図3(a)のようにコイル導体の表面の平滑性が高ければ、コイル導体の表面抵抗が下がり、コイルのQ値を上げることができる。
【0041】
ここで、本発明者らは、焼成後のコイル導体の粒径を10μm以上とすることにより、高周波で十分なQ値を得ることができる程度に、コイル導体の表面粗さを小さくできることを見出した。一方、本発明者らは、焼成条件等を調整することで焼成後のコイル導体の粒径を大きくするようにしすぎた場合、焼成中にコイル導体の金属の融解が急激に進み、その結果、コイル導体の断線や引出部の引込み等が発生してしまうことを見出した。そこで、本発明者らは、焼成後のコイル導体の粒径として22μm以下を目標とすることによって、コイル導体の金属の急激な融解を抑制できることを見出した。
【0042】
従って、本実施形態に係る積層型コイル部品1では、焼成後のコイル導体4,5の粒径が10μm〜22μmである。焼成後のコイル導体4,5の粒径を10μm以上とすることにより、高周波で十分なQ値を得ることができる程度に、コイル導体の表面粗さを小さくできる。また、焼成後のコイル導体4,5の粒径を22μm以下になるようにすることによって、焼成中にコイル導体4,5の金属が急激に融解することを抑制できる。以上によって、高い品質を確保しつつも、高いQ値を得ることができる。
【0043】
また、積層型コイル部品1において、コイル導体4,5を覆うカリウムの被覆層7が形成されている。コイル導体4,5の周りにカリウムが存在する場合、当該コイル導体4,5の周りの素体2の軟化点を下げることができ、焼成時に当該領域の素体2が軟化して平滑になり易くなる。これに伴って、そこに接するコイル導体4,5の表面も平滑にすることができる。また、コイル導体4,5をカリウムの被覆層7で覆って保護することで、コイル導体4,5とガラスセラミックスとの境界付近でクラックが生じることを防止することができる。
【0044】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
例えば、上述の実施形態では、一つのコイル部を有する積層型コイル部品を例示したが、例えば、アレイ状に複数のコイル部を有するものであってもよい。
【0046】
[実施例]
積層型コイル部品A−1〜A−7(グループA)と、積層型コイル部品B−1〜B6(グループB)と、積層型コイル部品C−1〜C−5(グループC)と、を作製し、それぞれの積層型コイル部品のコイル導体の導体粒径と表面粗さの関係を測定した。また、表面粗さと交流抵抗値の関係を測定すると共に、コイル導体の状態を観察した。
【0047】
〈製造条件(グループA)〉
グループAの積層型コイル部品は、図2に示すような、コイル部配置層2Aを保形層2Bで挟む構造である。
【0048】
積層型コイル部品A−1〜A−7のコイル部配置層2Aを形成するセラミックペーストの組成は、ホウケイ酸ガラス成分が66.1重量%、石英成分が25.4重量%、珪酸亜鉛成分が8.5重量%であり、エチルセルロース(バインダ)が10重量%、テルピオネール(溶剤)が140重量%である。
【0049】
積層型コイル部品A−1〜A−7の保形層2Bを形成するセラミックペーストの組成は、ガラス成分が70重量%、アルミナが30重量%であり、エチルセルロース(バインダ)が10重量%、テルピオネール(溶剤)が140重量%である。
【0050】
積層型コイル部品A−1〜A−7のコイル導体4,5を形成する導体ペーストは、Agが100重量%であり、エチルセルロース(バインダ)が10重量%、テルピオネール(溶剤)が40重量%である。
【0051】
焼成条件を図7の表に示される条件に設定した。
【0052】
上述のような積層型コイル部品A−1〜A−7では、素地特性は非晶質となり、電極特性は易粒成長となる。
【0053】
〈製造条件(グループB)〉
グループBの積層型コイル部品は、図2に示すような、コイル部配置層2Aを保形層2Bで挟む構造である。
【0054】
積層型コイル部品B−1〜B−6のコイル部配置層2Aを形成するセラミックペーストの組成は、ホウケイ酸ガラス成分が60重量%、石英成分が20重量%、アモルファスシリカ成分が20重量%、アルミナが1.5重量%であり、エチルセルロース(バインダ)が10重量%、テルピオネール(溶剤)が140重量%である。
【0055】
積層型コイル部品B−1〜B−6の保形層2Bを形成するセラミックペーストの組成は、ガラス成分が70重量%、アルミナが30重量%であり、エチルセルロース(バインダ)が10重量%、テルピオネール(溶剤)が140重量%である。
【0056】
積層型コイル部品B−1〜B−6のコイル導体4,5を形成する導体ペーストは、Agが100重量%であり、エチルセルロース(バインダ)10重量%、テルピオネール(溶剤)40重量%である。
【0057】
焼成条件を図7の表に示される条件に設定した。
【0058】
上述のような積層型コイル部品B−1〜B−6では、素地特性は非晶質となり、電極特性は易粒成長となる。
【0059】
〈製造条件(グループC)〉
グループCの積層型コイル部品は、図1に示すような、コイル部配置層2Aのみからなる構造である。
【0060】
積層型コイル部品C−1〜C−5のコイル部配置層2Aを形成するセラミックペーストの組成は、ガラス成分が70重量%、アルミナが30重量%であり、エチルセルロース(バインダ)が10重量%、テルピオネール(溶剤)が140重量%である。
【0061】
積層型コイル部品C−1〜C−5のコイル導体4,5を形成する導体ペーストは、Agが100重量%であり、エチルセルロース(バインダ)10重量%、テルピオネール(溶剤)40重量%である。
【0062】
焼成条件を図7の表に示される条件に設定した。
【0063】
上述のような積層型コイル部品C−2〜C−5では、素地特性は結晶質となり、電極特性は難粒成長となる。一方、積層型コイル部品C−1では、素地特性は結晶質となり、電極特性は易粒成長となる。
【0064】
〈導体粒径と表面粗さの測定〉
上述のような積層型コイル部品について、導体粒径と表面粗さの測定を行い、図6に示すグラフに両者の関係をプロットした。導体粒径については、導体断面のSIM(Scanning Ion Microscopy)像を撮影し、画像解析ソフトにより粒子の面積を算出し、面積相当円の直径を導体粒径とした。表面粗さについては、導体断面のうちコイル導体と素体との境界部分について、コイル導体の凹凸の高さと凹凸の幅を測定し、凹凸の幅に対する凹凸の高さの百分率を取得し、このような凹凸を100箇所以上サンプリングして統計処理し、当該百分率の平均値を表面粗さとした。
【0065】
〈交流抵抗値の測定〉
上述の積層型コイル部品のうち、図7の中から、積層型コイル部品A−1,A−7,C−1,C−2をピックアップし、交流抵抗値を測定した。各積層型コイル部品の導体周囲長は155μmで、単位μm当たりの交流抵抗値を測定した。測定結果を図8に示す。また、各積層型コイル部品の導体断面の写真を図9に示す。更に、図8に示す交流抵抗値からQ値を計算した結果を図10に示す。図10に示すように、表面粗さが約8%の積層型コイル部品C−1(及びそれより表面粗さが小さいA−1及びA−7)は、1GHzにおいて巻線コイルの80%程度のQ値を得ることができる。すなわち、表面粗さが8%以下であれば、巻線コイルの代わりに同じ回路で使用しても、充分に機能させることができるレベルの性能を得られることが理解される。また、図8によれば、表面粗さが約18%の積層型コイル部品C−2は、交流抵抗値が高くなっている。一方、表面粗さが約5%の積層型コイル部品A−7、及び表面粗さが約1%の積層型コイル部品A−1については、積層型コイル部品C−1よりさらに、交流抵抗値が低下していた。このように、積層型コイル部品A−1,A−7のように表面粗さを6%以下の十分に小さい値にすることで交流抵抗値を低下させることができる。すなわちQ値を向上させることができる。図6から理解されるように、少なくとも導体粒径が10μm以上であれば、表面粗さを6%以下の十分に小さい値に抑えられることができ、確実にQ値の高い製品を得られることが理解される。
【0066】
〈コイル導体の状態の観察〉
次に、各積層型コイル部品について、コイル導体の状態を観察し、金属の融解による断線や、引出部の引込み等を観察した。この観察では、各条件について100個の積層型コイル部品をそれぞれ製造し、観察を行った。積層型コイル部品A1、A2については、100個中、100個の積層型コイル部品について断線等が確認された。一方、他の条件に係る積層型コイル部品については、100個中100個について、そのような断線等は観察されず良好な状態であることが確認された。この結果より、コイル導体の粒径が22μm以下であれば、コイル導体の融解が急激に進むことを抑制し、断線等を防止できることが理解される。
【0067】
〈総合評価〉
以上の結果より、コイル導体の粒径を10μm〜22μmを目標粒径とすることで、高周波であっても高いQ値を得ることができると共に、断線等のない良好な状態の積層型コイル部品を得ることができることが理解される。
【符号の説明】
【0068】
1…積層型コイル部品、2…素体、2A…コイル部配置層、2B…保形層、3…コイル部、4,5…コイル導体、6…外部導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁体層を積層することによって形成される素体と、
複数のコイル導体によって前記素体の内部に形成されるコイル部と、を備え、
焼成後の前記コイル導体の粒径が10μm〜22μmであることを特徴とする積層型コイル部品。
【請求項2】
前記素体は、ガラスセラミックからなることを特徴とする請求項1記載の積層型コイル部品。
【請求項3】
前記ガラスセラミックは、86.7〜92.5重量%のSiOと、0.5〜2.4重量%のAlを含有することを特徴とする請求項2記載の積層型コイル部品。
【請求項4】
前記コイル導体を覆うカリウムの被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の積層型コイル部品。
【請求項5】
焼成後の前記コイル導体の粒径が11μm〜18μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の積層型コイル部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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