説明

積層構造体及びその製造方法

【課題】インジウムターゲット内における不要な不純物の含有が良好に抑制された積層構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】積層構造体は、バッキングプレート、バッキングプレート上に形成された、インジウムと金属Mとの合金からなるロウ材、及び、ロウ材上に形成されたインジウムターゲットを備え、金属Mが、亜鉛、銀、及び、ビスマスから選択された1種以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層構造体及びその製造方法に関し、より詳細にはバッキングプレート及びインジウムターゲットを備えた積層構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バッキングプレート及びインジウムターゲットを備えた積層構造体は、一般に、バッキングプレート上に溶解させた接合用のロウ材を設け、その上にインジウムターゲットを設置して作製されている。
【0003】
インジウムターゲットの接合用のロウ材は、その融点がInの融点(156.4℃)より低いことが必要である。そのため、ロウ材の構成材料としては、通常、Snを添加したIn−Sn合金(Sn濃度:約10at%、融点:約145℃)が用いられている。
【0004】
しかしながら、In−Snロウ材は、インジウムターゲットをバッキングプレートに接合する際に加える熱や、積層構造体を用いたスパッタリングの際の熱等によって、ロウ材中のSnがインジウムターゲットへ拡散しやすい。このため、スパッタリング後のターゲットをバッキングプレートから剥がして再利用する際の歩留まりが低下する、又は、Snを含んだ部分の精製コストが余分にかかるために全体のコストが増加するという問題がある。
【0005】
このような合金成分のターゲットへの拡散を抑制する技術として、例えば、特許文献1には、In−Snターゲットの接合用のロウ材として、同じ合金系であるIn−Snを用いたボンデッドターゲットに係る発明が開示されている。そして、これによれば、ターゲットへのロウ材からの金属の拡散による汚染が抑制されると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、In中にIn−Cu合金が微細分散しているロウ材を用いたロウ付け方法に係る発明が開示されている。そして、これによれば、高強度のロウ付け方法を提供することができると記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、Inに微量(10〜750ppm)のCaを添加したロウ材に係る発明が開示されている。そして、これによれば、ロウ材のInがバッキングプレートのCuに拡散反応し、このCuが脆性のある金属間化合物の発生を抑制することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−234968号公報
【特許文献2】特開平7−80634号公報
【特許文献3】特開平8−300183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、ターゲットの構成材料がIn−Sn合金であり、In単体で構成されたターゲットに対して不純物の拡散を抑制する技術ではない。
また、特許文献2に開示された技術は、In中にIn−Cu合金が微細分散しているロウ材を用いているが、このロウ材の融点はInの融点より高いため、インジウムターゲットの接合用のロウ材として用いることはできない。
さらに、特許文献3に開示された技術は、ロウ材の融点をInより低くしようとするものではなく、このロウ材をインジウムターゲットの接合用のロウ材として良好に用いることができるかは不明である。
【0010】
そこで、本発明は、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有が良好に抑制された積層構造体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討したところ、バッキングプレートとインジウムターゲットとの間に、インジウムと、亜鉛、銀、及び、ビスマスから選択された1種以上との合金からなるロウ材を形成することで、インジウムの溶解鋳造の際のインジウムターゲット内への不純物の拡散を防止することができ、それによって使用済みInターゲットの再利用の歩留まりの低下が良好に抑制され、且つ、当該再利用の処理コストが良好となることを見出した。
【0012】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、バッキングプレート、バッキングプレート上に形成された、インジウムと金属Mとの合金からなるロウ材、及び、ロウ材上に形成されたインジウムターゲットを備え、金属Mが、亜鉛、銀、及び、ビスマスから選択された1種以上である積層構造体である。
【0013】
本発明に係る積層構造体は一実施形態において、ロウ材がインジウムと亜鉛との合金であり、合金の亜鉛濃度が0.1〜5at%である。
【0014】
本発明に係る積層構造体は別の一実施形態において、ロウ材がインジウムと銀との合金であり、合金の銀濃度が0.1〜4at%である。
【0015】
本発明に係る積層構造体は更に別の一実施形態において、ロウ材がインジウムとビスマスとの合金であり、合金のビスマス濃度が0.1〜10at%である。
【0016】
本発明に係る積層構造体は更に別の一実施形態において、ロウ材の厚さが0.1〜2.0mmである。
【0017】
本発明は別の一側面において、バッキングプレートとインジウムターゲットとを、亜鉛濃度が0.1〜5at%であるインジウムと亜鉛との合金、銀濃度が0.1〜4at%であるインジウムと銀との合金、又は、ビスマス濃度が0.1〜10at%であるインジウムとビスマスとの合金からなり、厚さが0.1〜2.0mmであるロウ材で接合する工程を含む積層構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有が良好に抑制された積層構造体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】In−Zn合金の状態図である。
【図2】In−Ag合金の状態図である。
【図3】In−Bi合金の状態図である。
【図4】In−Sn合金の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る積層構造体は、バッキングプレート、バッキングプレート上に形成されたインジウムと金属M(Mは、亜鉛、銀、及び、ビスマスから選択された1種以上)との合金からなるロウ材、及び、ロウ材上に形成されたインジウムターゲットを備えている。バッキングプレートの形状は特に限定されないが、所定の厚さ及び直径を有する円盤状に形成することができる。バッキングプレートの構成材料は特に限定されないが、例えば銅等の金属材料で形成することができる。インジウムと金属Mとのロウ材は、バッキングプレート上に形成され、インジウムターゲットとバッキングプレートとを接合する機能を有している。インジウムに上記金属Mが所定濃度で添加されて形成された合金は、インジウム単体よりも融点が低いため、ロウ材の形成が容易である。つまり、ターゲットであるインジウムを融解させることなく、バッキングプレートとインジウムターゲットとの接合が容易となる利点がある。また、銅等のバッキングプレートの構成材料との優れた密着性を有しており、インジウムターゲットとバッキングプレートとを良好に接合する。
【0021】
ロウ材中の金属Mは、少量でも添加すればインジウムと金属Mとの合金の融点を下げることができる。ここで、図1〜3に、本発明で用いるロウ材の構成材料であるIn−Zn合金の状態図、In−Ag合金の状態図、及び、In−Bi合金の状態図を示す。また、図4に、従来のロウ材の構成材料であるIn−Sn合金の状態図を示す。
【0022】
図1〜3と図4とを比較すると、従来のロウ材の構成材料であるIn−Sn合金では、例えば融点を145℃(ターゲット材料であるInより低い融点)とするためのSnの添加濃度が約10at%と高いのに対し、本発明で用いるロウ材の構成材料であるIn−Zn合金、In−Ag、及び、In−Bi合金では、Zn、Ag及びBiの添加濃度が低くて良く、そのためインジウムターゲットをバッキングプレートへ接合する際のインジウムターゲット内への不純物の拡散を良好に抑制することができることがわかる。
【0023】
また、金属Mの濃度は、金属Mとインジウムとの合計原子数に対する金属Mの原子数の割合(at%)で、以下の範囲内とすることが好ましい:
(1)ロウ材がインジウムと亜鉛との合金である場合、合金の亜鉛濃度が0.1〜5at%である。
(2)ロウ材がインジウムと銀との合金である場合、合金の銀濃度が0.1〜4at%である。
(3)ロウ材がインジウムとビスマスとの合金である場合、合金のビスマス濃度が0.1〜10at%である。
金属Mは、あまりに添加し過ぎると、不純物としてインジウムターゲットに拡散する濃度が高くなる。このため、亜鉛濃度は5at%以下、銀濃度は4at%以下、ビスマス濃度は10at%以下であることが好ましい。また、金属Mについて、ある程度の添加濃度にして所定のレベルの密着性等の効果を確保しながらも、それ以上の効果を狙うよりは、コスト的に有利であることが望ましい。このような観点から、亜鉛濃度を0.1〜5at%、銀濃度を0.1〜4at%、ビスマス濃度を0.1〜10at%とするのが好ましい。
【0024】
インジウムと金属Mとのロウ材の厚さは、0.1〜2.0mmであるのが好ましい。インジウムと金属Mとのロウ材の厚さが0.1mm未満であると、十分な密着性を提供できない。インジウムと金属Mとのロウ材の厚さが2.0mm超であっても、密着性等の効果は逓減する一方で、高価な金属Mをより含むこととなるために、コスト的に不利となる。インジウムと金属Mとのロウ材の厚さは、好ましくは0.5〜1.0mmである。
【0025】
本発明において、インジウムターゲットとバッキングプレートとの間には、インジウムと金属Mとのロウ材が設けられているが、必要であれば、このロウ材の他に、バッキングプレートとインジウムターゲットとの間に不純物の拡散防止機能を有する薄膜層等を形成してもよい。
【0026】
次に、本発明に係る積層構造体の製造方法の好適な例について、順を追って説明する。
まず、溶解鋳造法等でインジウムインゴットを作製する。続いて、このインジウムインゴットを所定の形状に加工してインジウムターゲットを作製する。この際、使用する原料インジウムは、作製する太陽電池の変換効率を高くするために、より高い純度を有していることが望ましく、例えば、純度99.99質量%(4N)以上のインジウムを使用することが望ましい。また、インジウムターゲットの製造工程の中に、圧延工程を入れてもよい。
次に、所定の材料及び形状のバッキングプレートを用意して、バッキングプレート上にインジウムと金属M(Mは、亜鉛、銀、及び、ビスマスから選択された1種以上)との合金からなるロウ材を溶解させて、その上にインジウムターゲットを設置して、積層構造体を作製する。このとき、ロウ材の合金としては、亜鉛濃度が0.1〜5at%であるインジウムと亜鉛との合金、銀濃度が0.1〜4at%であるインジウムと銀との合金、又は、ビスマス濃度が0.1〜10at%であるインジウムとビスマスとの合金を用いる。また、ロウ材の厚さを0.1〜2.0mmに形成する。
【0027】
このようにして得られた積層構造体は、各種のスパッタリングターゲットとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0029】
(実施例1〜15)
まず、純度4Nのインジウムを原料として使用し、このインジウム原料を160℃で溶解させ、この溶体を周囲が直径205mm、高さ7mmの円柱状の鋳型に流し込み、自然冷却により、凝固して得られたインジウムインゴットを直径204mm、厚さ6mmの円板状に加工して、スパッタリングターゲットとした。
次に、直径250mm、厚さ5mmの銅製のバッキングプレートを準備した。次に、インジウムと、表1に記載した濃度の金属M(Mは、亜鉛、銀、及び、ビスマス)との合金を150℃で溶解させたものをバッキングプレート上に設けてロウ材を形成した。続いて、ロウ材の上に上記インジウムのスパッタリングターゲットを設置して、バッキングプレートとインジウムターゲットとを接合することにより積層構造体を作製した。
【0030】
(比較例1)
インジウムと金属Mとの合金からなるロウ材を形成せず、接合時の温度を156.6℃とした以外は実施例と同様の条件で積層構造体を作製した。
【0031】
(比較例2)
ロウ材の金属Mについて表1に記載した元素及び濃度とした以外は、実施例1と同様の条件で積層構造体を作製した。
【0032】
(評価)
実施例及び比較例で得られた積層構造体のインジウムターゲットについて、バッキングプレート側である下面から1〜2mmの間にあるインジウム及び2〜3mmの間にあるインジウムをそれぞれ削り取って、その中に含まれる金属Mの濃度をICP分析法で測定した。
各測定結果を表1に示す。

【0033】
【表1】

【0034】
実施例1〜15は、ロウ材の金属Mの濃度が0.05〜12at%であるため、インジウムターゲットとバッキングプレートとが良好に密着し、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有が良好に抑制されている。
特に、ロウ材中のZnの濃度が0.1〜5at%の範囲内であった実施例2〜4は、Znの濃度が当該範囲外であった実施例1及び5に対してインジウムターゲットとバッキングプレートとがより良好に密着し、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有がより良好に抑制されている。
また、特に、ロウ材中のAgの濃度が0.1〜4at%の範囲内であった実施例7〜9は、Agの濃度が当該範囲外であった実施例6及び10に対してインジウムターゲットとバッキングプレートとがより良好に密着し、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有がより良好に抑制されている。
さらに、特に、ロウ材中のBiの濃度が0.1〜10at%の範囲内であった実施例12〜14は、Biの濃度が当該範囲外であった実施例11及び15に対してインジウムターゲットとバッキングプレートとがより良好に密着し、インジウムターゲット内における不要な不純物の含有がより良好に抑制されている。
比較例1は、インジウムと金属Mとの合金からなるロウ材を形成しなかったため、バッキングプレートとインジウムターゲットとを接合する際に、インジウムターゲット自体が融解してしまった。
比較例2は、ロウ材中の金属がSnであり、その濃度が10at%であるため、インジウムターゲットに多くのSnを含んでしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート、
前記バッキングプレート上に形成された、インジウムと金属Mとの合金からなるロウ材、及び、
前記ロウ材上に形成されたインジウムターゲット
を備え、
前記金属Mが、亜鉛、銀、及び、ビスマスから選択された1種以上である積層構造体。
【請求項2】
前記ロウ材がインジウムと亜鉛との合金であり、前記合金の亜鉛濃度が0.1〜5at%である請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記ロウ材がインジウムと銀との合金であり、前記合金の銀濃度が0.1〜4at%である請求項1に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記ロウ材がインジウムとビスマスとの合金であり、前記合金のビスマス濃度が0.1〜10at%である請求項1に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記ロウ材の厚さが0.1〜2.0mmである請求項1〜4のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項6】
バッキングプレートとインジウムターゲットとを、亜鉛濃度が0.1〜5at%であるインジウムと亜鉛との合金、銀濃度が0.1〜4at%であるインジウムと銀との合金、又は、ビスマス濃度が0.1〜10at%であるインジウムとビスマスとの合金からなり、厚さが0.1〜2.0mmであるロウ材で接合する工程を含む積層構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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