説明

積層構造体及びそれを用いた圧電デバイス

【課題】圧電性能が良好であり、且つ、フレキシブルな積層構造体を提供する。
【解決手段】本発明の積層構造体1は、可撓性基板10と、樹脂基板10上に成膜された、有機高分子樹脂からなるマトリックス31中に複数の無機圧電体32が分散されてなるコンポジット圧電体膜30を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体を用いた赤外線センサ、超音波センサ、圧力センサ等のセンサアレイ、アクチュエータアレイ、パターン化メモリ等に好適な積層構造体、及びこの構造体を用いて得られた圧電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス社会の実現に向けて、入出力デバイスは、携帯用には小型・軽量なウエアラブルデバイスが、据え置き用には環境に溶け込むアンビエントデバイスが望まれている。これらのデバイスは、使いやすさ、及び安全性の観点から、「軽い、割れにくい、曲がる」ことが重要である。従って、近年各種デバイスのフレキシブル化の動きが活発化している。
【0003】
ウエアラブルデバイスやアンビエントデバイスの構成において、ディスプレイや電子ペーパーの分野のフレキシブル化は着実に進んでいるのに対し、各種センサやアクチュエータ、メモリ等の圧電体材料を用いるデバイスのフレキシブル化は、圧電性(強誘電性)の優れる無機圧電体材料の製造に通常600℃以上の高温成膜が必要であることから、フレキシブル基板の耐熱温度の制約によってほとんど進んでいない。
【0004】
高温成膜が不要な圧電材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に代表される高分子物質自身に圧電性を有する圧電高分子が知られている(特許文献1など)。しかしながら、圧電高分子は無機圧電材料に比して圧電d定数が低いため、その用途は、圧力センサ等の、要求される圧電性能の低い一部の用途に限定されてしまう。
【0005】
また、高い圧電性を有する圧電材を用いた圧電素子を素子形成用の基板上に成膜した後、素子形成用基板をエッチング除去し、フレキシブル基板上に貼り付ける手法が試みられている(特許文献2請求項11等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−171935号公報
【特許文献2】特開2003−179282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載されているように、薄膜圧電材料をフレキシブル基板上に貼り付ける手法では、貼り合わせの際に接着剤を用いる必要がある。実際、フレキシブル基板との接着面には下部電極層が形成されているものを用いることから、接着剤を用いた貼り合わせでは、接着剤が圧電膜と電極との良好な接触を阻害する要因となる可能性がある。また、フレキシブル基板が樹脂基板である場合は、圧電膜と基板との剛性や弾性率の違いから、基板の変形に対して圧電膜の変形が追随できず、圧電膜にクラックが入ったり、接着剤が剥がれて圧電膜が剥離されてしまう可能性がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、圧電性能が良好な圧電膜を備え、フレキシブル圧電デバイスに好適に用いることができる積層構造体、及びこれを用いて得られるフレキシブルな圧電デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の積層構造体は、樹脂基板と、該基板上に成膜された、有機高分子樹脂からなるマトリックス中に複数の無機圧電体が分散されてなるコンポジット圧電体膜を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、コンポジット圧電体膜とは、高分子マトリックス樹脂と圧電体との複合体膜を意味する(社団法人 日本セラミックス協会編,「セラミックコンポジット 第2章セラミックープラスチックコンポジット圧電体」,培風館)。
【0011】
本発明の積層構造体において、前記有機高分子樹脂は、露光されることにより、該有機高分子樹脂の被露光部分が所定の液体に対して溶解性又は非溶解性を有する樹脂に変性する感光性を有する樹脂であることが好ましい。ここで、感光性を有する樹脂とは、樹脂自体に上記感光性を有するものであってもよいし、樹脂自体には感光性はないが、感光性を有する物質が混入されることによって感光性を有する樹脂であってもよい。
【0012】
本発明の積層構造体において、前記無機圧電体は、下記一般式(PX)で表される組成を有するペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでもよい)ことが好ましい。
(Bi,A1−x)(B,C1−y)O・・・(PX)
(式(PX)中、AはPb以外の平均イオン価数が2価のAサイト元素、Bは平均イオン価数が3価のBサイト元素,Cは平均イオン価数が3価より大きいBサイト元素であり、A,BおよびCは各々1種又は複数種の金属元素である。Oは酸素。B及びCは互いに異なる組成である。0.6≦x≦1.0、x−0.2≦y≦x。Aサイト元素の総モル数及びBサイト元素の総モル数の、酸素原子のモル数に対する比は、それぞれ1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1:3からずれてもよい。)
上記一般式(PX)において、Aサイト元素Aは、Mg,Ca,Sr,Ba,(Na,Bi),及び(K,Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であることが好ましく、Bサイト元素Bは、Al,Sc,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ga,Y,In,及びRe(希土類元素)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であることが好ましい。
【0013】
ここで、(Na,Bi)、(K,Bi)との記載は、括弧内の2種類の元素の組み合わせで平均イオン価数が2価となっているものを示している。この場合、イオン価数が1価のNa又はKとイオン価数が3価のBiを等モルずつ配合した組み合わせであるので、いずれも平均イオン価数は2価となる。
【0014】
本発明の積層構造体において、前記無機圧電体の圧電歪定数d33(pm/V)と比誘電率ε33とが下記式(1)及び(2)を満足するものであることが好ましく、更に、前記圧電体の圧電歪定数d33と電圧出力定数g33とが下記式(3)及び(4)を満足するものであることが好ましい。
【0015】
100<ε33<1500 ・・・(1)、
33(pm/V)>12√ε33 ・・・(2)、
100<d33(pm/V) ・・・(3)、
80<g33(×10−3V・m/N) ・・・(4)
ここで、d33及びε33の添字表記は、直交する3つの軸1,2,3を規定した時、最初の添字が電界の印加方向、2番目の添字が歪みの方向を示しており、歪みまたは応力を取り出す方向が、電界を加えた方向に対して平行方向である縦振動モードであることを示している。従って、d33及びε33は縦振動モードの圧電歪定数及び誘電率を示している。
【0016】
前記ペロブカイト型酸化物が、第1の成分としてBaTiOを、第2の成分としてBiFeOを含むことが好ましい。また、前記一般式(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物が、許容因子が1.0より大きい第1の成分と、許容因子が1.0より小さい第2の成分とを含み、下記式(5)を満足することが好ましい。
0.97≦TF(PX)≦1.02・・・(5)
(式中、TF(PX)は上記一般式(PX)で表される酸化物の許容因子である。)
本発明の積層構造体において、前記ペロブスカイト型酸化物のAサイト元素の平均原子量MとBサイト元素の平均原子量Mとの差|M−M|が145より大きいことが好ましい。
【0017】
本発明の積層構造体において、前記コンポジット圧電体膜は、前記基板の基板面に対して突設された複数の凸部の、それぞれの少なくとも一部を形成してなることが好ましい。
【0018】
本発明の圧電デバイスは、上記本発明の積層構造体を備えたことを特徴とするものである。
【0019】
本発明の積層構造体の製造方法は、樹脂基板を用意し、該基板上に、有機高分子樹脂と該樹脂中に分散された複数の無機圧電体を含む塗布液を塗布してコンポジット圧電体膜を成膜し、少なくとも該コンポジット圧電体膜を所定のパターンにパターニングすることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の積層構造体の製造方法において、前記有機高分子樹脂が露光されることにより、該有機高分子樹脂の被露光部分が所定の液体に対して溶解性又は非溶解性を有する樹脂に変性する感光性を有する樹脂であり、該樹脂を露光させることにより前記所定のパターンを形成してパターニングすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の積層構造体は、樹脂基板に成膜された、有機高分子樹脂からなるマトリックス中に複数の無機圧電体が分散されてなるコンポジット圧電体膜を備えた構成としている。かかる構成では、圧電体膜として、圧電性能が良好な無機圧電体がフレキシブルな有機高分子樹脂マトリックス中に分散されたコンポジット圧電体膜を備えているため、圧電性能が良好なフレキシブル圧電デバイスを提供することができる。
【0022】
また、本発明の積層構造体は、接着剤を用いずに、樹脂基板上に圧電体膜を成膜して得ることができる上、基板及び圧電体膜にそれぞれ樹脂を含むため、曲げなどの外力により、圧電体膜の剥離やクラックの混入などを生じにくい。従って、本発明の積層構造体は、信頼性の高い圧電デバイスを提供することができる。
【0023】
また、有機高分子樹脂として、フォトレジスト樹脂等の感光性樹脂を用いる構成では、露光による高精細なパターニングができる。従って、センサアレイ等のアレイ状デバイスの製造において、高精細なアレイ化を実現し、クロストークの少ない、高性能なフレキシブルアレイ状圧電デバイスを提供することができる
更に、圧電体として、上記一般式(PX)で表される組成を有するペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでもよい)圧電体を用いた構成では、圧電性能が良好であり、且つ室温での熱安定性の優れた非鉛系フレキシブル圧電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る一実施形態の圧電デバイス及び積層構造体の構成を示す厚み方向断面図
【図2】(a)〜(c)は、露光により本発明に係る一実施形態の積層構造体をパターニングする工程図
【図3】本発明の非鉛系圧電体及び既存の鉛系、非鉛系材料を用いた圧電体の誘電率と圧電歪定数との関係を示す図
【図4】本発明の非鉛系圧電体及び既存の鉛系、非鉛系材料を用いた圧電体の圧電歪定数と電圧出力定数との関係を示す図
【図5】種々のペロブスカイト型酸化物について、Aサイト元素のイオン半径と、Bサイト元素のイオン半径と、許容因子TFと、結晶系との関係を示す図
【図6】実施例1の圧電セラミックス粉体のXRDスペクトル
【図7】基板の可撓性の測定方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
「積層構造体、圧電デバイス」
図面を参照して、本発明にかかる一実施形態の圧電デバイスについて説明する。図1は、本実施形態の圧電デバイス(圧電素子)の構成を示す厚み方向断面図である。視認しやすくするために各部の縮尺は適宜変更して示してある。
【0026】
図1に示されるように、圧電デバイス(圧電素子)2は、樹脂基板10上に、下部電極層20、及びパターニングされたコンポジット圧電体膜30が順次積層された積層構造体1’と、パターニングされた各コンポジット圧電体膜30上に形成された上部電極40とを備えたものである。
【0027】
積層構造体1’において、コンポジット圧電体膜30のパターニング方法は特に制限されず、フォトリソグラフィ法、印刷法、インクジェット法等の直接描画法等が挙げられるが、高精細なパターニングが可能であることから、フォトリソグラフィ法が好ましい。
【0028】
フォトリソグラフィ法によりパターニングする場合は、まず、樹脂基板10上に下部電極層20及びコンポジット圧電体膜30をベタ成膜した積層構造体1を作製し(図2(a))、パターニング形状に合わせてマスクMをコンポジット圧電体膜30上に配してその上面から露光する(図2(b))。
【0029】
次いで、露光後のコンポジット圧電体膜30の溶解性に応じた現像処理を施し、パターニングされた積層構造体1’を得ることができる(図2(c))。フォトリソグラフィに適したコンポジット圧電体膜30の構成については後記する。
【0030】
樹脂基板10としては、フレキシブルな樹脂基板であれば特に制限されないが、膜厚500μm以下の樹脂基板であることが好ましい。
【0031】
樹脂基板10としては、ポリイミド,PTFE,ポリエチレンナフタレート,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリカーボネート,ポリサルホン,ポリアリレート,ポリアミド等が挙げられ、使用環境に応じて耐熱性及び吸湿性等により選択することができる。また、上記樹脂基板中に酸化ケイ素粒子,金属ナノ粒子,無機酸化物ナノ粒子,無機窒化物ナノ粒子, 金属系・無機系のナノファイバー又はマイクロファイバー等を含んだ複合樹脂基板等でもよい。
【0032】
下部電極20及び上部電極40としては特に制限されず、コンポジット圧電体膜30において発生した電荷を好適に取り出すことができるものであればよい。例えば、Sn,Al,Ni,Pt,Au,Ag,Cu,Cr,Mo等が挙げられる。下部電極20及び上部電極40の膜厚も、基板10と同様、圧電コンポジットのフレキシビリティを損なわなければ特に制限されず、例えば30μm以下であることが好ましい。かかる電極は、真空蒸着法やスパッタリング法等の気相成膜法や、塗布法、スクリーン印刷およびインクジェット法等の印刷法、あるいは金属フォイルの貼付により形成することができる。
【0033】
コンポジット圧電体膜30は、有機高分子樹脂からなるマトリックス31中に、粉末状、又は粒子状の複数の無機圧電体32が分散されたものである。コンポジット圧電体膜30は、フレキシビリティ性、耐衝撃性、易加工性、大面積化が可能、等の高分子材料特有の特性と、無機圧電体の優れた圧電性能(d定数)が活かされた圧電体膜であり、無機圧電材料に比して電力出力定数(圧電g定数)が高く、また、音響インピーダンスが人体や水に近いため、各種センサや超音波探触子、ハイドロホン等の超音波トランスデューサーや制振材(ダンパー)、振動発電への応用が期待されている。
【0034】
マトリックス31としては、有機高分子樹脂であれば特に制限されない。例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,ポリスチレン,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂),アクリル樹脂等の汎用プラスチック、ポリアミド,ポリカーボネート,ポリエチレンテレフタレート(PET),熱可塑性ポリイミド等のエンジニアリングプラスチック、アクリルゴム,アクリロニトリルブタジエンゴム,イソプレンゴム,ウレタンゴム,ブタジエンゴム,シリコーンゴム等の合成ゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF),及びその共重合体等の圧電性高分子、フェノール樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ポリイミド等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。マトリックス31は圧電デバイス2の用途や製造方法に応じて好ましい物理特性を有するものを選択すればよく、また、無機圧電体32と結合性の良好なものであることが好ましい。
【0035】
上記したように、コンポジット圧電体膜30を露光によりパターニングして積層構造体1’を作製する場合は、マトリックス31を、露光されることにより、被露光部分が所定の液体に対して溶解性又は非溶解性を有する樹脂に変性する感光性を有する樹脂とする必要がある。
【0036】
かかる樹脂としては、SU−8(化薬マイクロケム社製ネガ型レジスト),PMER−900(東京応化工業社製ポジ型レジスト)等の高精細なパターニングが可能なネガ型あるいはポジ型のレジスト材等が好ましい。また、感光性を有さない樹脂に、感光性を付与する低分子物質が混入されたものであってもよい。かかる低分子物資としては、光反応性モノマーやオリゴマー、光開始剤、増感剤等が挙げられる。
【0037】
上記したコンポジット圧電体膜の応用分野においては、単位電界あたりの歪量(発信能)の指標である圧電歪み定数(d定数)、及び単位応力あたりの発生電界強度(受信能)の指標であるg定数の双方の大きさ、又はそのバランスの優れた圧電材料が求められている。従って、用いる無機圧電体32としては圧電d定数が高く、また、誘電率が比較的低く、g定数を低下させにくいものとすることが好ましい。
【0038】
圧電d定数の高い無機圧電体32としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)をはじめとする鉛系圧電材料が挙げられるが、鉛は毒性の強い元素であることから、製造過程での廃棄物や使用中の材料からの流出、そして使用後の廃棄による土壌汚染、大気汚染等の環境問題が避けられないため、非鉛系圧電材料であることが好ましい。
【0039】
本発明者らは、高い圧電性能を有する非鉛系ペロブスカイト型酸化物の材料設計について検討を繰り返し、非鉛系ペロブスカイト型酸化物において初めて、鉛系ペロブスカイト型酸化物とほぼ同等の圧電性能を有する組成を見出した。
以下に、本実施形態の圧電コンポジット1に用いる無機圧電体32についてその材料設計手法を含めて説明する。
【0040】
圧電歪には、
(i)自発分極軸のベクトル成分と電界印加方向とが一致したときに、電界印加強度の増減によって電界印加方向に伸縮する通常の電界誘起圧電歪(真性圧電歪(intrinsic))、
(ii)電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転することで生じる圧電歪、
(iii)電界印加強度の増減によって結晶を相転移させ、相転移による体積変化を利用する圧電歪、
(iv)電界印加により相転移する特性を有する材料を用い、自発分極軸方向とは異なる方向に結晶配向性を有する強誘電体相を含む結晶配向構造とすることで、より大きな歪が得られるエンジニアードドメイン効果を利用する圧電歪(エンジニアードドメイン効果を利用する場合には、相転移が起こる条件で駆動してもよいし、相転移が起こらない範囲で駆動してもよい)などが挙げられる。
【0041】
上記(i)の圧電歪は真性(intrinsic)圧電歪、(ii)〜(iv)はいずれも外因性(extrinsic)の圧電歪であり、(i)〜(iv)はそれぞれの歪発生の原理に応じた組成や結晶配向構造とすることにより大きな圧電歪が得られる。圧電歪(i)〜(iv)は単独で又は組み合わせて利用することができる。
【0042】
従来、鉛系のペロブスカイト型酸化物のバルクセラミクスでは、MPB組成において、圧電歪み定数(d定数)と、Aサイト元素の平均原子量MとBサイト元素の平均原子量Mとの差|M−M|とには相関があり、|M−M|が大きいほど電気機械結合係数kが大きくなり、d定数が大きくなることが報告されている(東芝レビューVol.59, No. 10, p.41 (2004))。本発明者は、非鉛系のペロブスカイト型酸化物においても同様の相関があることを見出している。
【0043】
従って、|M−M|が大きくなるように、Aサイト元素とBサイト元素とを選択することにより、より優れた圧電歪み定数を有する圧電体を得ることができると考えられる。例えば、Aサイト元素としてできるだけ質量Mの大きいものを選択し、Bサイト元素としてできるだけ質量Mの小さいものを選択すればよい。上記した文献に記載された鉛系のペロブスカイト型酸化物における|M−M|の値から判断すると、|M−M|は145より大きいことが好ましい。
【0044】
ペロブスカイト型酸化物において、各サイトに入りうる元素は、イオン半径及びイオン価数によってほぼ限定される。
【0045】
本発明者らは、特開2008-195603において、AサイトがBi(原子量209.0)を主成分とするペロブスカイト型酸化物において、モルフォトロピック相境界(MPB)及びその近傍となるように、組成を設計することにより、高い電気機械結合係数k33値及び優れた圧電性能を、非鉛系ペロブスカイト型酸化物において達成したことを報告している。ここで、「MPBの近傍」とは、電界をかけた時に相転移する領域のことである。
【0046】
本発明者らは、上記Aサイト元素とBサイト元素との質量差の圧電性能への寄与は、MPB組成に限らず、少なからず存在すると考え、|M−M|が145を超えるように設計可能な質量の大きいAサイト元素をBi(209.0)とし(()内の数値は原子量)、具体的には下記一般式(PX)で表される組成を有するペロブスカイト型酸化物からなるもの(不可避不純物を含んでもよい)とすることにより、非鉛圧電体において高いd定数を実現できることを見いだした。
(Bi,A1−x)(B,C1−y)O・・・(PX)
(式(PX)中、AはPb以外の平均イオン価数が2価のAサイト元素、Bは平均イオン価数が3価のBサイト元素,Cは平均イオン価数が3価より大きいBサイト元素であり、A,BおよびCは各々1種又は複数種の金属元素である。Oは酸素。B及びCは互いに異なる組成である。0.6≦x≦1.0、x−0.2≦y≦x。Aサイト元素の総モル数及びBサイト元素の総モル数の、酸素原子のモル数に対する比は、それぞれ1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1:3からずれてもよい。)
【0047】
式(PX)に表されるように、Aサイト元素はBiだけであってもよいし、Pb以外の平均イオン価数が2価のAサイト元素Aを含んでもよい。Aサイト元素Aとしては、Aサイト元素Aは、Mg,Ca,Sr,Ba,(Na,Bi),及び(K,Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であることが好ましい。
【0048】
また、Aサイトの主成分(60モル%以上)はイオン価数が3価のBiであるので、Bサイト元素Bは、平均イオン価数が3価の金属元素となり、質量の小さい元素であることが好ましい。かかるBサイト元素Bとしては、Al,Sc,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ga,Y,In,及びRe(希土類元素)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素が挙げられる。
【0049】
Aサイト元素Aを含む場合、Aは平均イオン価数が2価であるので、Bサイト元素Cとして平均イオン価数が4価の金属元素を同じモル数含んでいることが好ましい。同じモル数よりも多い場合、Bサイト元素Cはドナー・ドーパントとして機能するが、20%以下まで含まれていてもよい。Bサイト元素Cには、平均イオン価数が4価より大きいものを含んでいてもよい。この場合、平均イオン価数が4価より大きい元素Cは、元素Aと同じモル数であってもドナー・ドーパントとして機能する。ドーパントとしてのBサイト元素Cは、20%以下まで含まれていてもよい。Aサイト元素Aを含まない場合は、Bサイト元素Cは平均イオン価数が4価以上の場合にドナー・ドーパントとして機能する。ドーパントとしてのBサイト元素CとしてはNb,Mn等が好ましい。
【0050】
また、上記したコンポジット圧電体膜の応用分野においては、圧電d定数が高く、また、誘電率が比較的低く、g定数を低下させにくいものとすることが好ましく、上記一般式(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる無機圧電体32において、圧電歪定数d33(pm/V)と比誘電率ε33とが下記式(1)及び(2)を満足する組成とすることが好ましい。
100<ε33<1500 ・・・(1)、
33(pm/V)>12√ε33 ・・・(2)
【0051】
一般に、既に述べた(i)の通常の電界誘起圧電歪(intrinsicな圧電歪:真性圧電歪)の縦振動モードの圧電歪定数d33(pm/V)と比誘電率ε33とはd33=k33√s√ε√ε33の関係にあり、電力出力定数g33は、g33=d33/εε33で算出されることが知られている。つまり、intrinsicな圧電歪において、α=k33√s√εとした時、d33は√ε33に比例し、g33は反比例する(k33は電気機械結合係数、εは真空の誘電率(N/V)、sは弾性コンプライアンス(m/N))。
【0052】
また、これまで開発されている公知材料、及び本発明者らが発明し開示してきた高いintrinsicな圧電歪が得られる材料は、鉛系(Pb系)、非鉛系材料共に、√ε33に対してd33はほぼ比例することが確認されている(図3を参照)。
【0053】
しかしながら、本発明者らが組成及びその製造方法、配向性等を検討した結果、図3に示される直線上から大きくはずれる、同じ誘電率ε33を有しながらd33値がこれまでの材料に比して大きい圧電体、即ち、上記式(1)及び(2)を満足する無機圧電体32とすることにより、下記式(3)及び(4)を満足する、d33値及びg33が共に優れる、すなわち、発信能および受信能が共に優れる圧電体とすることに成功した(図4を参照。組成は図中に記載。詳細は特願2009−162423を参照のこと。)。
100<d33(pm/V) ・・・(4)
80<g33(×10−3V・m/N) ・・・(5)
(式中、g33は前記圧電体の電圧出力定数(圧電感度定数)である。)
【0054】
既に述べたように、ペロブスカイト型酸化物において、AサイトイオンとBサイトイオンの質量差|M−M|が大きいほど電気機械結合係数が大きくなり、d定数が高くなる。一方、sはヤング率の逆数であるため、比較的低いヤング率も材料を選定することによりある程度特性を高めることは可能であるが、ある程度材料によって範囲が固定される値である。従って、比誘電率を高くすることなくd33値を高くするには、k33値を高くすることが好ましい。
【0055】
例えば、上記一般式(PX)において、第1成分としてBaTiOを、第2成分としてBiFeOを含むものとすることにより比誘電率を大きく高めることなく、d定数を高くすることが可能となる。BiFeOの結晶系は菱面体晶であり、BaTiOの結晶系は正方晶であることから、この2成分を含むペロブスカイト型酸化物は、MPB組成を形成することができる。従って、上記したiii)やiv)の圧電歪を利用し、より高いd定数を実現することができる。
【0056】
MPB組成とする場合は、下記式(5)を満足するような組成とすればよい。また、下記式(6)を満足する第3成分Dを含んでいることがより好ましい。第3成分Dは下記式(7)を満足していることが更に好ましい。第3成分Dは、一般式(PX)においてBiBO又はACOのいずれかの酸化物である。
【0057】
0.97≦TF(PX)≦1.02・・・(5)、
TF(BiFeO)<TF(D)<TF(BaTiO)・・・(6)、
0.97≦TF(D)≦1.02・・・(7)
(式中、TF(PX)は上記一般式(PX)で表される酸化物の許容因子、TF(BiFeO)、TF(D)、及びTF(BaTiO)はそれぞれ()内に記載の酸化物の許容因子である。)
【0058】
図5は、1個又は2個の元素によりAサイトが構成され、1個又は2個の元素によりBサイト元素が構成された種々のペロブスカイト型酸化物について、Aサイト元素の平均イオン半径と、Bサイト元素の平均イオン半径と、許容因子TFと、結晶系との関係を示す図である。図中、結晶系を示す符号は各々、C:立方晶(cubic crystal)、M:単斜晶(monoclinic crystal)、PC:疑立方晶(pseudocubic crystal)、R:菱面体晶(rhombohedral crystal)、T:正方晶(tetragonal crystal)、Tr:三方晶(trigonal crystal)である。図5中にMnが2つ記載されているが、0.64Åは3価のMnのイオン半径であり、0.67Åは2価のMnのイオン半径である。
【0059】
TF=1.0のとき、ペロブスカイト構造の結晶格子は最密充填となる。この条件では、Bサイト元素は結晶格子内でほとんど動かず安定した構造を取りやすい。この組成では、立方晶又は疑立方晶などの結晶構造を取りやすく、強誘電性を示さない、あるいは強誘電性を示してもそのレベルは極めて小さい。
【0060】
TF>1.0のとき、Aサイト元素に対してBサイト元素が小さい。この条件では、結晶格子が歪まなくてもBサイト元素は結晶格子内に入りやすく、かつBサイト元素は結晶格子内で動きやすい。この組成では、正方晶(自発分極軸<001>方向)などの結晶構造を取りやすく、強誘電性を有する。TFの値が1.0から離れる程、強誘電性は高くなる傾向がある。
【0061】
TF<1.0のとき、Aサイト元素に対してBサイト元素が大きい。この条件では、結晶格子が歪まなければBサイト元素が結晶格子内に入らない。この組成では、斜方晶(自発分極軸<110>方向)又は菱面体晶(自発分極軸<111>方向)などの結晶構造を取りやすく、強誘電性を有する。TFの値が1.0から離れる程、強誘電性は高くなる傾向がある。
【0062】
表1は、TF>1.0の第1成分とTF<1.0の第2成分との既存の種々の混晶について、各成分単独の結晶系/Aサイトイオン半径/Bサイトイオン半径/TF、モルフォトロピック相境界(MPB)となる第1成分と第2成分との割合(モル比)、及びMPB組成の第1成分と第2成分との混晶のAサイト平均イオン半径/Bサイト平均イオン半径/TFをまとめたものである。表1中、結晶系を示す符号は各々、T:正方晶(tetragonal crystal)、O:斜方晶(orthorhombic crystal)、R:菱面体晶(rhombohedral crystal)である。
【0063】
表1から分かるように、MPB組成のTFは0.97〜1.02に収まっている。従って、0.97≦TF(PX)≦1.02・・・(5)を満足する組成とすることにより、圧電体11は、MPB又はその近傍の組成を有するものとすることができる。
【0064】
【表1】

【0065】
上記第1成分BaTiOのTF値はTF=1.059、第2成分BiFeOのTF値はTF=0.989であるので、TF>1.0の第1成分とTF<1.0の第2成分を含んでおり、このことからもこの2成分を含む系ではMPBを構成できることがわかる。従って、一般式(PX)において、全体のTFが0.97〜1.02となるように、第1成分と第2成分の組成比を調整する、あるいは、更に第3成分Dを加えて組成比を調整することで、MPB組成のペロブスカイト型酸化物とすることができる。
【0066】
第3成分としては、具体的には、Aサイト元素は、La,Ca,Sb,Bi,Si,Sr等が挙げられ、Bサイト元素は、Nd,Nb,Ta,Cr,Fe,Sc等が挙げられる。
【0067】
例えば、第三成分としてはSrTiOが挙げられる。SrTiOはTF=1.002でほぼ1.0(0.97〜1.01の範囲内)にあるので、BaTiOとBiFeOとにSrTiOを添加することで、添加後の全体のTFを0.97〜1.01とすることができる。第三成分の好ましいものとしては、SrTiO以外にCaTiOが挙げられる。
【0068】
Aサイト及びBサイトにドーパントを添加することにより、電気特性が良好になることが知られている。ドーパントとして好ましい元素としては、既に述べたNbやMnの他、Mg,Ca,Sr,Ta,W,及びLn(=ランタニド元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,及びLu))等の金属イオンが挙げられる。また、第3成分を構成する元素に一部が各サイトのドーパントとして機能してもよい。
【0069】
また、BiFeOはキュリー温度の高い材料として知られている。従って、一般式(PX)において、BiFeOの組成が多くなればなるほど、圧電体11のキュリー温度は高くなる。従って、高温雰囲気下での使用の可能性も高くなり、より室温での熱安定性に優れるものとなる。
【0070】
上記ペロブスカイト型酸化物の相構造は、BaTiO、BiFeO、第3成分の3成分が共存した3相混晶構造になる場合もあるし、BaTiO、BiFeO、及び第3成分が完全固溶して1つの相になる場合もあるし、その他の構造もあり得る。
【0071】
また、第3成分の結晶系は立方晶系又は疑立方晶系である態様が好ましい。圧電体111が、上記第1〜第3成分の3相混晶構造であるペロブスカイト型酸化物は、発明者が特開2007-116091号にて提案している電界誘起相転移の系に有効な材料であり、高い圧電性能が得られることを見出している。
【0072】
上記BaTiO、BiFeOを含みMPB組成近傍の組成とすることにより、圧電体11は、上記式(3)及び式(4)を満足する、d定数及びg定数が双方が高い圧電素子とすることができる。以上述べたように、圧電コンポジット1は、圧電体11として、上記一般式(PX)で表される組成を有するペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでもよい)ものを用いている。かかるペロブスカイト型酸化物は、本発明者らが非鉛系ペロブスカイト型酸化物において、高い圧電性能(d定数)を有するための材料設計手法を発明し、非鉛系ペロブスカイト型酸化物において初めて、鉛系ペロブスカイト型酸化物とほぼ同等の高い圧電性能を有する組成として見出したものである。また、このペロブスカイト型酸化物は、キュリー点も高いため熱安定性にも優れている。従って、本実施形態によれば、圧電性能が良好であり、且つ室温での熱安定性の優れた非鉛系コンポジット圧電体膜30とすることができる。
【0073】
また、本発明者らは、上記材料設計において、d定数及びg定数双方が優れた組成を見いだした。従って、本発明者らが見いだしたd定数及びg定数双方が優れた組成のペロブスカイト型酸化物からなる無機圧電体32(不可避不純物を含んでもよい)を用いることにより、d定数及びg定数の双方の大きさ及びバランスの優れた、これまでにない高性能なコンポジット圧電体30を実現することができる。
【0074】
コンポジット圧電体30は、それぞれ添加剤等を含んでいてもよい。例えば、制振材(ダンパ)の用途では、カーボンブラックやカーボンナノチューブ、金属粒子等の導電性微粒子を含ませることにより、圧電コンポジットの電気伝導度を調整している。これにより、圧電体と導電性微粒子との間に直列回路を形成する状態とした構成とし、振動エネルギーを効率よく熱エネルギーに変換することができる。添加剤は、導電性物質に関わらず、その用途に応じて所望の特性を有する添加物質を用いてよい。
【0075】
上記コンポジット圧電体膜30の成膜方法は特に限定されず、キャスティング法等の溶液成膜法やTダイ成膜等の溶融成膜法により成膜することができる。溶液成膜法の場合、コンポジット圧電体膜30に含まれる無機圧電体32がウィスカー状やファイバ状等の異方性の形状を有している場合は、溶液成膜において、溶液塗布方向に無機圧電体32の長軸方向を容易に配向させることができる。
【0076】
コンポジット圧電体膜30は、分極処理を施すことが好ましい。上記のように異方性の無機圧電体32が一定方向に配向した構成とすることによって、配向を利用した高い圧電性能(d定数)を得ることができ,好ましい。
【0077】
積層構造体1は、樹脂基板10に成膜された、有機高分子樹脂からなるマトリックス31中に複数の無機圧電体32が分散されてなるコンポジット圧電体膜30を備えた構成としている。かかる構成では、圧電体膜30として、圧電性能が良好な無機圧電体32がフレキシブルな有機高分子樹脂マトリックス31中に分散されたコンポジット圧電体膜30を備えているため、圧電性能が良好なフレキシブル圧電デバイス2を提供することができる。
【0078】
また、積層構造体1(1’)は、接着剤を用いずに、樹脂基板10上に圧電体膜30を成膜して得ることができる上、基板及び圧電体膜にそれぞれ樹脂を含むため、曲げなどの外力により、圧電体膜30の剥離やクラックの混入などを生じにくい。従って、本発明の積層構造体1は、信頼性の高い圧電デバイス2を提供することができる。
【0079】
また、有機高分子樹脂として、フォトレジスト樹脂等の感光性樹脂を用いる構成では、露光による高精細なパターニングができる。従って、センサアレイ等のアレイ状デバイスの製造において、高精細なアレイ化を実現し、クロストークの少ない、高性能なフレキシブルアレイ状圧電デバイス2を提供することができる。
【0080】
更に、無機圧電体32として、上記一般式(PX)で表される組成を有するペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでもよい)圧電体を用いた構成では、圧電性能が良好であり、且つ室温での熱安定性の優れた非鉛系フレキシブル圧電デバイス2を提供することができる。
【0081】
圧電デバイス2は、超音波センサ,圧力センサ,触覚センサ,歪みセンサ等の各種センサや超音波探触子、ハイドロホン等の超音波トランスデューサー、乗り物や建物,又スキーやラケット等のスポーツ用具に用いる制振材(ダンパー)、そして、床や靴、タイヤ等に適用して用いる振動発電装置として好適に使用することができる。
【実施例】
【0082】
本発明に係る実施例について、説明する。
(実施例1)
まず、(Ba0.2,Bi0.8)(Ti0.2,Fe0.80)O3の組成となるように原料として、BaTiO,Bi,Feを調合した。このとき、Biは0.5モル%過剰とした。調合した原料粉末をエタノール中にてボールミルで湿式混合して混合粉末を作製した。混合後、乾燥させて成形した後750℃にて3時間仮焼きを行い、その後粉砕してPVA(ポリビニルアルコール)をバインダーとして使用してプレス成形した。
【0083】
得られた成形体を930℃にて10時間焼成した後粉砕し、400メッシュ(μm)の篩いにかけて圧電セラミックス粉体を得た。得られた粉体の組成をICPにより測定し、目標組成であることを確認した。得られた粉体はペロブスカイト単相であることを確認した(図6)。
【0084】
次いで、SU−8ネガ型レジストを用意し、得られたセラミックス粉体を約50vol.%加え、ロール機にて充分に混合した。得られた混合物を、表面に膜厚10μmのCu膜が貼られたポリイミドフィルム(膜厚50μm)上に、全面スピンコート法により塗布成膜し、コンポジット圧電体膜積層構造体を得た。
【0085】
その後、通常のフォトリソグラフィ工程にて所定のパターン(縦30mm横30mm)にコンポジット圧電体膜をパターニングし、上部電極として銀ペーストをコンポジット圧電体膜上に塗布成膜して圧電素子を作製した。
【0086】
得られた圧電素子に分極処理を施し、測定試料として誘電率及び圧電定数d33を測定した。誘電率は、インピーダンス・アナライザー(アジレント社製4294A)にて測定し、圧電定数d33はd33メーター(ピエゾテスト社製PM300)にて測定した。得られた誘電率は31、圧電定数d33は35pC/Nであった。また、この値は曲率20mmで屈曲させた後に測定しても変化は無かった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の高分子複合圧電体は、赤外線センサ,超音波センサ,圧力センサ,触覚センサ,歪みセンサ等の各種センサやセンサアレイ、パターン化メモリ、超音波探触子、ハイドロホン等の超音波トランスデューサー、乗り物や建物,又スキーやラケット等のスポーツ用具に用いる制振材(ダンパー)、そして、床や靴、タイヤ等に適用して用いる振動発電装置として好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0088】
1,1’ 積層構造体
2 圧電デバイス(圧電素子)
10 樹脂基板
20 下部電極層
30 コンポジット圧電体膜
31 有機高分子樹脂マトリックス
32 無機圧電体
40 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板と、
該基板上に成膜された、有機高分子樹脂からなるマトリックス中に複数の無機圧電体が分散されてなるコンポジット圧電体膜を備えたことを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記有機高分子樹脂が、露光されることにより、該有機高分子樹脂の被露光部分が所定の液体に対して溶解性又は非溶解性を有する樹脂に変性する感光性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記無機圧電体が、下記一般式(PX)で表される組成を有するペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでもよい)ことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層構造体。
(Bi,A1−x)(B,C1−y)O・・・(PX)
(式(PX)中、AはPb以外の平均イオン価数が2価のAサイト元素、Bは平均イオン価数が3価のBサイト元素,Cは平均イオン価数が3価より大きいBサイト元素であり、A,BおよびCは各々1種又は複数種の金属元素である。Oは酸素。B及びCは互いに異なる組成である。0.6≦x≦1.0、x−0.2≦y≦x。Aサイト元素の総モル数及びBサイト元素の総モル数の、酸素原子のモル数に対する比は、それぞれ1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1:3からずれてもよい。)
【請求項4】
Aサイト元素Aが、Mg,Ca,Sr,Ba,(Na,Bi),及び(K,Bi)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であることを特徴とする請求項3に記載の積層構造体。
【請求項5】
Bサイト元素Bが、Al,Sc,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ga,Y,In,及びRe(希土類元素)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であることを特徴とする請求項3又は4に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記無機圧電体の圧電歪定数d33(pm/V)と比誘電率ε33とが下記式(1)及び(2)を満足するものであることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の積層構造体。
100<ε33<1500 ・・・(1)、
33(pm/V)>12√ε33 ・・・(2)
【請求項7】
前記無機圧電体の圧電歪定数d33と電圧出力定数g33とが下記式(3)及び(4)を満足するものであることを特徴とする請求項6に記載の積層構造体。
100<d33(pm/V) ・・・(3)、
80<g33(×10−3V・m/N) ・・・(4)
【請求項8】
前記ペロブカイト型酸化物が、第1の成分としてBaTiOを、第2の成分としてBiFeOを含むことを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項9】
前記一般式(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物が、許容因子が1.0より大きい第1の成分と、許容因子が1.0より小さい第2の成分とを含み、下記式(5)を満足することを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載の積層構造体。
0.97≦TF(PX)≦1.02・・・(5)
(式中、TF(PX)は上記一般式(PX)で表される酸化物の許容因子である。)
【請求項10】
Aサイト元素の平均原子量MとBサイト元素の平均原子量Mとの差|M−M|が145より大きいことを特徴とする請求項3〜9のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項11】
前記コンポジット圧電体膜が、前記基板の基板面に対して突設された複数の凸部の、それぞれの少なくとも一部を形成してなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の積層構造体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の積層構造体を備えたことを特徴とする圧電デバイス。
【請求項13】
樹脂基板を用意し、
該基板上に、有機高分子樹脂と該樹脂中に分散された複数の無機圧電体を含む塗布液を塗布してコンポジット圧電体膜を成膜し、
少なくとも該コンポジット圧電体膜を所定のパターンにパターニングすることを特徴とする積層構造体の製造方法。
【請求項14】
前記有機高分子樹脂が、露光されることにより、該有機高分子樹脂の被露光部分が所定の液体に対して溶解性又は非溶解性を有する樹脂に変性する感光性を有する樹脂であり、
該樹脂を露光させることにより前記所定のパターンを形成してパターニングすることを特徴とする請求項13に記載の積層構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−181866(P2011−181866A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47472(P2010−47472)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】