説明

積層電解質膜とその製造方法、膜電極接合体及び燃料電池

【課題】高温領域、かつ無加湿条件で運転される燃料電池の電解質膜として使用される、積層電解質膜とその製造方法、この積層電解質膜を使用した膜電極接合体、及びこの膜電極接合体を備える燃料電池において、電解質膜からの酸の漏出を軽減するとともに、電解質膜に欠陥が存在する場合でも、急激な電池性能の低下を防止すること、及びこのような性能を有する電解質膜を簡便に製造する。
【解決手段】積層電解質膜を、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーと、を含む高分子膜が2つ以上積層された構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温、無加湿条件で運転される燃料電池の電解質膜として使用される、積層電解質膜とその製造方法、この積層電解質膜を使用した膜電極接合体、及びこの膜電極接合体を備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性ポリマーに酸を含浸させたタイプの電解質膜を用いることにより、燃料ガスが無加湿という条件下で、100℃以上の温度領域で作動する燃料電池システムを構築することができる(例えば、特許文献1を参照)。上記タイプの電解質膜としては、例えば、ポリベンズイミダゾールのフィルムに硫酸又はリン酸を含浸させた電解質膜が公知の技術として開示されている。このタイプの燃料電池は、発生する熱を効果的に利用することにより、フルオロポリマー(例えば、「ナフィオン」という商品名で知られるポリマーなど)を利用する低温領域(主に、80℃以下)で作動するタイプの燃料電池と比較してエネルギー効率が高い、という特徴を有している。
【0003】
ただし、塩基性ポリマーに酸を含浸させたタイプの電解質膜を用いた燃料電池は、運転中に電解質膜から酸が漏出し、その電池性能を低下させる、あるいは漏出した酸が周辺の部材を腐食させる、という問題を含んでいる。この問題に対して、含浸させる酸を重合可能なものとし、電解質中で重合させて酸ポリマーとし、電解質膜からの酸の漏出を軽減する技術が開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
【特許文献1】特公平11‐503262号公報
【特許文献2】特公平05‐527073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の技術は、電解質膜にピンホールや異物の混入等の潜在的な欠陥が存在する場合、酸の漏出よりも、膜の欠陥の影響による電池性能低下が大きく、その効力を発揮することができない、という問題を有している。例えば、電解質膜にピンホールが存在する場合、燃料ガスのリークが起きて電池性能低下の要因となるおそれがある。また、電解質膜に異物が混入している場合、その混入部位が膜の化学的または機械的な劣化の起点となる可能性がある。
【0006】
また、特許文献1の技術には、目的とする電解質膜を得るのに、基材となるポリベンズイミダゾール等のフィルムを成膜してから、その後に酸を含浸させるという2段階の製造工程が必要であり、電解質膜の製造方法としては煩雑であるという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、高温領域、かつ無加湿条件で運転される燃料電池の電解質膜として使用される、積層電解質膜とその製造方法、この積層電解質膜を使用した膜電極接合体、及びこの膜電極接合体を備える燃料電池において、電解質膜からの酸の漏出を軽減するとともに、電解質膜に欠陥が存在する場合でも、急激な電池性能の低下を防止すること、及びこのような性能を有する電解質膜を簡便に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーと、を含む高分子膜が2つ以上積層された積層電解質膜を燃料電池用の電解質膜として用いることにより、電解質膜からの酸の漏出を軽減するとともに、電解質膜に欠陥が存在する場合でも、急激な電池性能の低下を防止することができることを見出した。また、本発明者らは、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーとを含むキャスト溶液を作成し、このキャスト溶液を用いて作成した電解質膜を積層することで、上記の性能を有する電解質膜を簡便に製造できることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明のある観点によれば、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーと、を含む高分子膜が2つ以上積層されている積層電解質膜が提供される。
【0010】
ここで、前記積層電解質膜において、前記酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーが、架橋構造を有することが好ましい。
【0011】
また、前記積層電解質膜において、前記酸性基が、ホスホン酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される1種以上の酸性基を含むことが好ましい。
【0012】
また、前記積層電解質膜において、前記酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーが、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸からなる群から選択される1種以上のモノマーを含むことが好ましい。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーとを含むキャスト溶液を作成し、前記キャスト溶液を基材上にキャストして膜状に成形して前駆体膜を形成し、前記前駆体膜を2つ以上積層させた後に、前記酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させる積層電解質膜の製造方法が提供される。
【0014】
ここで、前記積層電解質膜の製造方法において、前記重合は、電離性放射線を利用して行われることが好ましい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のさらに他の観点によれば、酸素極と、燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に位置する燃料電池用電解質膜と、を備え、前記燃料電池用電解質膜は、前述したような積層電解質膜である膜電極接合体が提供される。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のさらに他の観点によれば、前述した膜電極接合体を備える燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温領域、かつ無加湿条件で運転される燃料電池の電解質膜として使用される、積層電解質膜とその製造方法、この積層電解質膜を使用した膜電極接合体、及びこの膜電極接合体を備える燃料電池において、電解質膜からの酸の漏出を軽減するとともに、電解質膜に欠陥が存在する場合でも、急激な電池性能の低下を防止すること、及びこのような性能を有する電解質膜を簡便に製造することが可能となる。
【0018】
また、本発明によれば、電解質膜の耐久性を高めるために2つ以上の電解質膜を積層して膜厚を大きくしても高いプロトン伝導度を保持することができるため、本発明に係る積層電解質膜を用いた燃料電池の長期運転時の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
(本発明に係る積層電解質膜の優位性)
本発明は、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーと、を含む高分子膜が2つ以上積層された積層電解質膜を燃料電池用の電解質膜として用いるものである。本発明の積層電解質膜は、プロトンの伝導を担う媒体である酸成分が重合してポリマー化しているため、従来の技術である塩基性ポリマーに酸を含浸させたタイプの電解質膜と比較して、電解質膜から酸の漏出が軽減されたものとなっている。しかし、これだけでは電解質膜に存在するピンホール等の欠陥が電池性能に与える影響を軽減することはできない。そこで、本発明の積層電解質膜では、酸成分がポリマー化した電解質膜を2つ以上積層させ、仮に1枚目の電解質膜にピンホール等の欠陥が存在しても、積層している他の電解質膜がその欠陥をカバーする構造としている。
【0021】
また、このような構造を有する積層電解質膜を成膜する際、本発明の積層電解質膜の製造方法では、酸がドープされる基材となるポリマーと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーとを含むキャスト溶液を作成し、このキャスト溶液を用いて電解質膜を成膜することとしているため、成膜のプロセスを簡素化できる。
【0022】
しかしながら、従来は、このような製造方法の実現は、電解質膜の成膜の際に均一なキャスト溶液が得られず、安定した成膜ができないという点から実施困難とされてきた。
【0023】
これに対して、本発明者らは、酸がドープされる基材となるポリマーとして酸性基を有するエンジニアリングプラスチックを用い、このエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーとを用いてキャスト溶液を作成することにより、均一なキャスト溶液が得られることを見出した。また、本発明者らは、詳しくは後述するように、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーの重合を、熱重合等によるのではなく、電子線等の電離性放射線を利用して行うことにより、積層電解質膜の製造時間を従来よりも大幅に短縮できるということも見出した。
【0024】
さらに、本発明者らの検討によれば、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーとを含むキャスト溶液をガラス基板等の基材上にキャストして、膜状に成形して前駆体膜を形成し、この前駆体膜を2つ以上積層させた後に、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させることで、積層界面の密着性が向上し、積層させた膜が位置ずれを起こし、電解質膜の製造工程において様々な問題を引き起こすことを防止できるということもわかっている。
【0025】
また、電解質膜を積層することにより、積層電解質膜全体の膜厚が大きくなると膜の電気抵抗が増加し、結果としてプロトンの伝導性が低下する、という問題もある。しかし、本発明者らの検討によれば、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを用いて電解質膜を製造することで、膜厚が大きくなることによる電気抵抗の増加とそれに伴うプロトン伝導性の低下は、実用上問題のない程度であることも明らかにされている。
【0026】
以下、本発明に係る積層電解質膜とその製造方法、及びこの積層電解質膜を使用した膜電極接合体、及びこの膜電極接合体を備える燃料電池について詳細に説明する。
【0027】
(本発明に係る積層電解質膜の構造)
本発明に係る積層電解質膜は、上述したように、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーと、を含む高分子膜が2つ以上積層された構造を有している。
【0028】
〈酸性基を有するエンジニアリングプラスチック〉
本発明に係る積層電解質膜において、「酸性基を有するエンジニアリングプラスチック」を使用することとしたのは、「酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマー」とともに用いた場合に均一なキャスト溶液を作成することができるためである。
【0029】
このように、均一なキャスト溶液を作成するという観点、及び、電解質膜の積層によって膜厚が大きくなった場合でも十分なプロトン伝導性を有するようにするという観点から、本発明における「酸性基」としては、例えば、ホスホン酸基、スルホン酸基、リン酸基、スルファミド基等を含むことが好ましく、この中でも、特に、ホスホン酸基及びスルホン酸基のうちの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。
【0030】
また、本発明に適用可能な「エンジニアリングプラスチック」としては特に限定はされないが、このエンジニアリングプラスチックにドープさせる酸成分との極性溶媒への相溶性や、成膜の際の加工性及び耐熱性や、成膜された電解質膜の耐久性等を考慮すると、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート等が好ましい。
【0031】
また、「酸性基を有するエンジニアリングプラスチック」において、エンジニアリングプラスチック中の酸性基の含有率は、0.1当量/g以上2.0当量/g以下が好ましく、0.5当量/g以上1.5当量/g以下がより好ましい。酸性基の含有率が前記範囲内であると、キャスト溶液における「酸性基を有するエンジニアリングプラスチック」と「酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマー」との混合の均一性を高めることができる。
【0032】
〈酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマー〉
本発明における「酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマー(以下、「酸性モノマー」という。)」とは、その構造中に、上述したような酸性基を有し、かつ、炭素間二重結合、炭素間三重結合、窒素炭素間二重結合、エポキシ環、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、等の付加重合反応や縮合反応によって原子間で結合を生成する機能を有する官能基を有するモノマーを指す。このような酸性モノマーとしては、電解質膜の積層により膜厚が大きくなった場合でも十分なプロトン伝導性を担保するという観点や、上述した酸性基を有するエンジニアリングプラスチックに含浸(ドープ)された酸成分の水中への溶出を抑制するという観点から、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が好ましく、これらのモノマーを単独で、または、複数種を混合して用いることができる。
【0033】
本発明における「酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマー(酸性モノマー)を重合させて得られるポリマー(以下、「酸性ポリマー」という。)」とは、上述したような酸性モノマーが重合可能な官能基を利用して重合し、酸性基を有するポリマーとなった状態を指す。例えば、酸性モノマーがビニルホスホン酸である場合、これを重合させて得られる酸性ポリマーは、ポリビニルホスホン酸である。また、例えば、酸性モノマーがビニルスルホン酸である場合、これを重合させて得られる酸性ポリマーは、ポリビニルスルホン酸である。さらに、例えば、酸性モノマーが2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である場合、これを重合させて得られる酸性ポリマーは、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である。また、酸性モノマーとして、上述したようなモノマーのうち複数種のモノマーを混合して用いる場合、これらを重合させて得られる酸性ポリマーは、前記複数種のモノマーの共重合ポリマーとなる。
【0034】
〈高分子膜〉
本発明における「酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーと、を含む高分子膜」とは、上述したようなエンジニアリングプラスチックと酸性ポリマーとが、高分子膜中に共存している状態の高分子膜を指す。より具体的には、本発明における高分子膜の形態の一例として、高分子膜の主骨格を構成するエンジニアリングプラスチックのポリマー鎖の間隙に、酸性モノマーが重合して得られる酸性ポリマーが存在している状態が挙げられる。また、本発明における高分子膜の形態の他の例としては、高分子膜の主骨格を構成するエンジニアリングプラスチックが多孔質であり、酸性モノマーが重合して得られる酸性ポリマーが、多孔質の空孔部分に充填されている状態も挙げられる。
【0035】
また、本発明において、高分子膜とは、ポリマーが均質な状態、または、多孔性を有した状態で、膜状あるいはフィルム状になっているものを指す。本発明における高分子膜を形成するポリマーの構成成分としては、上述した酸性基を有するエンジニアリングプラスチックを必須成分として含むが、高分子膜を形成するポリマーの構成成分として、上述したエンジニアリングプラスチック以外のポリマーが含まれていてもよい。このようなポリマーとして好ましいものは、例えば、ポリベンズイミダゾール類、ポリ(ピリジン類)、ポリ(ピリミジン類)、ポリイミダゾール類、ポリベンゾチアゾール類、ポリベンゾオキサゾール類、ポリオキサジアゾール類、ポリキノリン類、ポリキノキサリン類、ポリチアジアゾール類、ポリ(テトラザピレン類)、ポリオキサゾール類、ポリチアゾール類、ポリビニルピリジン類及びポリビニルイミダゾール類等が挙げられ、これらのポリマーを単独で、または、複数種を混合して用いることができる。
【0036】
本発明における高分子膜中に含まれる酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと酸性モノマーを重合させて得られる酸性ポリマーとの配合比は、質量比で1対100から100対1の範囲が好ましく、1対10から10対1の範囲がより好ましく、1対5から5対1の範囲が最も好ましい。ここで、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックは、成膜された電解質膜の耐久性等を向上させる役割がある一方で、配合量が過剰であると、酸性ポリマーの配合量が相対的に少なくなり、プロトン伝導性が十分でなくなるおそれがある。また、酸性ポリマーは、成膜された電解質膜のプロトン伝導性を向上させる役割がある一方で、配合量が過剰であると、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックの配合量が相対的に少なくなり、電解質膜の耐久性等が十分でなくなるおそれがある。これに対して、上記エンジニアリングプラスチックと酸性ポリマーとの配合比を上述した範囲とすることにより、電解質膜の積層により膜厚が大きくなった場合であっても十分なプロトン伝導性を有するとともに、成膜された電解質膜の耐久性等を向上させることができる。
【0037】
〈架橋構造〉
本発明において、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーは架橋構造を有することが好ましい。このような構造をとることによって、得られる電解質膜の耐熱性を向上させることができる。この場合の「架橋構造を有する」とは、酸性モノマーを重合させて得られる酸性ポリマーの構造中に、架橋剤に由来する構造を含むことを意味する。すなわち、「架橋構造を有する」状態において、酸性モノマーの二重結合と架橋剤の二重結合とが重合しており、このとき、架橋剤は2つ以上の二重結合を有するため、例えば、酸性モノマーが重合して得られた酸性ポリマー鎖が2本ある場合には、「架橋構造を有する」状態では、2本のポリマー鎖の間を架橋剤が橋かけしている状態となっている。ここで、架橋剤としては、重合可能な二重結合をその構造中に2つ以上含む化合物であることが好ましい。このような架橋剤の具体例としては、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N’,N−メチレンビスアクリルアミド、エチレンジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジウレタンジメタクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、エバクリルのようなエポキシアクリレート、カルビノール、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ジビニルベンゼン、ビスフェノールAジメチルアクリレート、ジビニルスルホン、ジエチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。なお、これらの化合物は単独で、または、複数種を混合して用いることができる。また、架橋剤の酸性モノマーに対する質量比は、後述するように、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0038】
〈高分子膜中のその他の成分〉
本発明における高分子膜中には、プロトン伝導を補助するために、上述した成分以外の他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、可塑剤、無機粒子、ポリエーテルなどがある。これらの具体例としては、プロトン伝導性を有するもので、一般に公知なものなら特に限定はされないが、例えば、可塑剤としてはフタル酸ジオクチル等、無機粒子としてはSiO等、ポリエーテルとしてはポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0039】
〈高分子膜の積層〉
本発明における積層電解質膜は、上述したような高分子膜が2つ以上積層された構造を有しているが、「2つ以上積層された構造」とは、図1〜図3に示すように、上述した高分子膜1が複数枚積層している状態にあることを指す。図1、図2及び図3は、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性ポリマーとを含む高分子膜1が、それぞれ、2層、3層および4層積層された例を示している。
【0040】
ここで、各高分子膜間の積層界面は物理的に接触しているだけ状態でも燃料電池用の電解質膜として必要な性能を満たすものが得られる。ただし、キャスト溶液をガラス基板等にキャスト及び成膜して前駆体膜を形成し、得られた前駆体膜を積層させた後に酸性モノマーを重合させると、各高分子膜間の積層界面で化学結合が生じ、これにより積層界面の密着性が高まるため、好ましい。
【0041】
以上詳細に説明したような本発明に係る積層電解質膜は、パーフルオロポリマー型の電解質膜と比べて、高温、無加湿の条件で大きなプロトン伝導度を有する。また、本発明に係る積層電解質膜は、通常の酸を含浸した電解質膜と比べて、酸が重合して全固体化しているために酸の溶出が抑制される。また、本発明に係る積層電解質膜は、2つ以上の高分子膜が積層された構造を有しているので、潜在的な欠陥を原因とする膜劣化の影響を抑制することができる。
【0042】
(本発明に係る積層電解質膜の製造方法)
以上、本発明に係る積層電解質膜の構造について詳細に説明したが、続いて、このような積層電解質膜の製造方法について詳細に説明する。本発明に係る積層電解質膜を製造する方法としては、主に、以下の2通りの方法が挙げられる。
【0043】
〈本発明に係る積層電解質膜の製造方法の概要〉
第1の方法は以下の通りである。まず、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマー(酸性モノマー)とを含むキャスト溶液を作成する。このキャスト溶液を、例えばガラス基板等の基材上にキャストして前駆体膜を形成する。ここで、前駆体膜とは、酸性モノマーの重合前の自立性を有する膜のことを意味する(以下同様)。次に、この前駆体膜中の酸性モノマーを重合させ、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと酸性ポリマーとをその構造中に含んだ高分子膜(以下、このような高分子膜を「単層電解質膜」という。)を作成する。さらに、このようにして作成した複数枚の単層電解質膜を積層させることにより、本発明に係る積層電解質膜とする。
【0044】
第2の方法は以下の通りである。まず、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマー(酸性モノマー)とを含むキャスト溶液を作成する。このキャスト溶液を、例えばガラス基板等の基材上にキャストして前駆体膜を形成する。次に、このようにして形成された複数枚の前駆体膜をこの状態で(酸性モノマーが重合していない状態で)積層させる。さらに、積層された2つ以上の前駆体膜において酸性モノマーを重合させ、本発明に係る積層電解質膜とする。
【0045】
これら2通りの方法のうち、第2の方法によって得られる積層電解質膜は、各単層電解質膜(高分子膜)の積層界面に化学結合が形成され、これにより、積層界面の密着性を向上させることができる。また、後述するように、電離性放射線を利用して酸性モノマーを重合反応させる場合には、第2の方法によれば、積層させる各前駆体膜のそれぞれに電離線放射線を照射する必要が無く、積層された前駆体膜全体に対して電離性放射線を照射すれば良いので、電離性放射線の照射回数を低減できる。以上のような観点からは、本発明に係る積層電解質膜の製造方法としては、第2の方法によることが好ましい。
【0046】
〈積層されていることの確認〉
このようにして得られた積層電解質膜において、各(単層)電解質膜が積層しているか否かは、積層電解質膜の断面を観察することにより確認することができる。この観察には、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用い、膜断面の観察の結果、積層界面の存在を確認することができれば、各電解質膜が積層していると判定する。また、積層界面が明瞭でなく、積層界面の存在を明瞭に確認できない場合でも、積層電解質膜の膜面に対して平行な方向にせん断力を加えた結果、積層界面が剥離する場合に、各電解質膜が積層していると判定することもできる。
【0047】
〈キャスト溶液の作成〉
以上のような積層電解質膜の製造方法において、キャスト溶液の作成は、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを溶媒に溶解させて均一な溶液とすることにより行う。均一な溶液となっているかどうかは、作成されたキャスト溶液がほぼ透明な外観を有している場合には、均一な溶液になっていると判断することができる。この場合は、キャスト溶液をガラス基板等にキャストした後に、溶媒を蒸発させてから成膜して前駆体膜を作成する。キャスト溶液を作成する際の溶媒としては、上記エンジニアリングプラスチックや酸性モノマーとの溶解性等を考慮すると、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオアミド、2−ピロリジノン、N−メチルピロリドン等が好ましい。
【0048】
ただし、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと酸性モノマーに熱を加えることにより、これらが溶融混合して均一な溶融液となる場合には、上記のような溶剤は不要である。この場合は、均一な溶融液であるキャスト溶液をそのままガラス基板等にキャストして成膜することで前駆体膜を作成することができる。
【0049】
〈キャスト溶液への架橋剤の添加〉
本発明に係る積層電解質膜の製造方法において、キャスト溶液中に、必要に応じて架橋剤を添加してもよい。架橋剤を添加することにより、形成された積層電解質膜の耐熱性等を向上させることができる。架橋剤の具体例については上述したとおりである。また、キャスト溶液への架橋剤の添加量としては、形成された積層電解質膜の耐熱性向上等の観点から、酸性モノマー100質量%に対し、0.1質量%以上50質量%以下の範囲が好ましく、1質量%以上30質量%以下の範囲がより好ましい。また、本発明に係る積層電解質膜の製造に用いるキャスト溶液中には、その他の添加剤として、溶液の粘度調整用の水または溶剤を添加してもよい。
【0050】
〈酸性モノマーの重合方法〉
本発明に係る積層電解質膜の製造方法において、酸性モノマーの重合方法としては、特に限定されないが、例えば、重合開始剤を用いて熱を加えて重合(熱重合)させる方法、紫外線を照射して重合させる方法、プラズマを照射して重合させる方法、電離性放射線(例えば、α線,β線,陽子線,電子線,中性子線等の粒子線や、γ線,X線等の電磁放射線)を照射して重合させる方法などを用いることができる。熱重合では、キャスト溶液中に重合開始剤を添加して作成された前駆体膜をオーブン等で加熱する。加熱温度、加熱時間等の加熱条件は、得られる電解質膜の特性を見ながら調整することが可能である。このときの重合開始剤としては、特に限定はされないが、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸、アゾビスイソブチルニトリル等を使用できる。紫外線による重合では、作成された前駆体膜に紫外線を照射する。プラズマによる重合では、作成された前駆体膜にプラズマを照射する。電離性放射線による重合では、作成された前駆体膜に電離性放射線を照射する。紫外線による重合、プラズマによる重合、電離性放射線による重合において、紫外線、プラズマ、電離性放射線の強度、照射時間等の照射条件は、得られる電解質膜の特性を見ながら調整することが可能である。
【0051】
ここで、本発明における酸性モノマーの重合方法としては、上述した各種の方法のうちで、電離性放射線を利用する重合方法、特に、電子線を利用する重合方法が好ましい。このように、電離性放射線(特に、電子線)を前駆体膜に照射して重合すると、他の方法により重合する場合と比べ、積層電解質膜の製造における酸性モノマーの重合に要する時間を従来よりも大幅に短縮することができる。また、電離性放射線による重合方法の場合には、重合開始剤を用いる必要がないので、重合開始剤の偏在による重合班の発生や、脱泡や製品化した後に重合開始剤が残留していることによる悪影響などを抑制することができる。
【0052】
以上説明したような本発明に係る積層電解質膜の製造方法では、高分子膜へ酸を含浸する工程が不要であるため、一工程で簡便に電解質膜を得ることができる。
【0053】
(本発明に係る膜電極接合体)
本発明に係る膜電極接合体は、酸素極と、燃料極と、酸素極と燃料極との間に位置する燃料電池用電解質膜を備え、この燃料電池用電解質膜として、上述した本発明に係る積層電解質膜を使用するものである。具体的には、本発明に係る膜電極接合体は、図4に一例を示すように、酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと酸性ポリマーとを含む高分子膜1が積層された積層電解質膜を、カソード電極2、アノード電極3で狭持した構造を有する。図4で示されている積層電解質膜は、2層の電解質膜(高分子膜1)で構成さている。ここで、カソード電極3は酸素極、アノード電極4は燃料極に対応する。各電極は、燃料電池が作動する際に供給されるガスに接する電極層であり、公知の技術によって得られるものを使用することができる。
【0054】
電極と積層電解質膜を用いて膜電極接合体を作成する方法としては、積層電解質膜をカソード電極とアノード電極に狭持させれば良い。具体的には、例えば、固体高分子型燃料電池(PEFC)の場合には、上述のようにして得た積層電解質膜の両側を電極としての触媒層で挟み、さらにガス拡散層を設け、これらを一体化して膜電極接合体を製造する。また、電極と電解質膜の密着性を高める目的で、膜電極接合体の膜面方向に圧力がかかる状態でプレスすることも推奨される。
【0055】
(本発明に係る燃料電池)
本発明に係る燃料電池は、上述した本発明に係る膜電極接合体を備える。本発明に係る積層電解質膜は、高温領域、かつ無加湿の条件下で、安定して高いプロトン伝導性及び高い酸の漏出軽減効果を有するので、これを用いた本発明に係る燃料電池は、電解質膜に欠陥が存在する場合でも、急激な電池性能の低下を防止できるとともに、起電力特性、電流−電圧特性、電池寿命等の発電特性に優れるものとなる。
【0056】
このような本発明の燃料電池は、上述のようにして得た膜電極接合体を用いて、公知の方法により製造することができる。すなわち、上述のようにして得られた膜電極接合体の両側を金属セパレータ等のセパレータで挟み、単位セルを構成し、この単位セルを複数並べることにより、燃料電池スタックを製造することができる。
【実施例】
【0057】
次に、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例1〜3では、積層電解質膜を製造し、得られた積層電解質膜について、150℃・無加湿でのプロトン伝導度(mS/cm)の測定、酸成分の溶出性の評価、及び、積層界面の密着性の評価を行った。
【0058】
〈プロトン伝導度の測定方法〉
得られた積層電解質膜のプロトン伝導度を、150℃・無加湿の条件で、交流インピーダンス法によって測定した。
【0059】
〈酸成分の溶出性の評価方法〉
得られた積層電解質膜に含まれる酸成分(実施例1の場合はポリビニルホスホン酸)の溶出性を評価するため、以下の試験を行った。予め重量を測定した積層電解質膜をテフロン(登録商標)シートで挟み込み、プレス機により、膜厚方向に1トン/cmの圧力を25℃の温度で1分間加えた。積層電解質膜の周囲と膜の表面に染み出た酸成分をふき取り、処理後の膜の重量を測定した。このように測定した重量を用いて、下記の式(1)から酸成分の溶出率(%)を算出した。
【0060】
溶出率(%)=(1−(処理前の積層電解質膜の重量−処理後の積層電解質膜の重量)/(処理前の積層電解質膜の重量−積層電解質膜中の酸性基を有するエンジニアリングプラスチックの重量))×100・・・(1)
【0061】
〈積層界面の密着性の評価方法〉
得られた積層電解質膜の積層界面の密着性を評価するため、膜の表裏面を指で挟んで積層している単層膜がずれる方向に力を加え、積層界面が剥離するか否かを確認し、積層界面が剥離しないものを、良好な密着性を有するものとした。
【0062】
以下、各実施例及び比較例の詳細について説明する。
【0063】
(実施例1:積層電解質膜の作成と評価)
酸性基を有するエンジニアリングプラスチックとしてイオン交換容量1.5meq/gのスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(Aldrich製のポリエーテルエーテルケトンをクロルスルホン酸でスルホン化したもの:以下同様)3質量部、酸性モノマーとしてビニルホスホン酸(東京化成製:以下同様)8質量部、架橋剤としてポリエチレングリコールジメタクリレート(Aldrich製:以下同様)1質量部、溶媒としてジメチルアセトアミド(関東化学製:以下同様)20質量部を混合して均一なキャスト溶液とした。
【0064】
これをガラス基板上にキャストし、80℃で3時間加熱してジメチルアセトアミドを除去し、厚みが150μmの前駆体膜を得た。この前駆体膜を2枚重ねて、窒素雰囲気下、250kVの加速電圧で、200kGyの電子線照射(照射時間は1秒以内)を行い、積層電解質膜を得た。この積層電解質膜の150℃・無加湿におけるプロトン伝導度は8.5mS/cm、酸成分の溶出率は0%であり、界面の密着性は良好であった。
【0065】
(実施例2:積層電解質膜の作成と評価)
イオン交換容量(0.5)meq/gのスルホン化ポリエーテルスルホン(Aldrich製のポリエーテルスルホンをクロルスルホン酸でスルホン化したもの)2質量部、ビニルホスホン酸4質量部、ポリエチレングリコールジメタクリレート1質量部、ジメチルアセトアミド15質量部を混合して均一なキャスト溶液とした。
【0066】
これをガラス基板上にキャストし、80℃で3時間加熱してジメチルアセトアミドを除去し、厚みが100μmの前駆体膜を得た。この前駆体膜を2枚重ねて、窒素雰囲気下、250kVの加速電圧で、200kGyの電子線照射(照射時間は1秒以内)を行い、積層電解質膜を得た。この積層電解質膜の150℃・無加湿におけるプロトン伝導度は1.1mS/cm、酸成分の溶出率は0%であり、界面の密着性は良好であった。
【0067】
(実施例3:積層電解質膜の作成と評価)
イオン交換容量1.5meq/gのスルホン化ポリエーテルエーテルケトン3質量部、ビニルホスホン酸8質量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸1質量%水溶液(和光純薬製2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸を純水に溶解したもの)を1質量部、ポリエチレングリコールジメタクリレート1質量部、ジメチルアセトアミド20質量部を混合して均一なキャスト溶液とした。
【0068】
これをガラス基板上にキャストし、80℃で3時間加熱してジメチルアセトアミドを除去し、厚みが130μmの前駆体膜を得た。この前駆体膜を2枚重ねて、オーブン中で80℃、3時間の熱処理を行い、積層電解質膜を得た。この積層電解質膜の150℃・無加湿におけるプロトン伝導度は6.5mS/cm、酸成分の溶出率は0%であり、界面の密着性は良好であった。
【0069】
(比較例1)
実施例1と同様にして前駆体膜を得た後に、前駆体膜を積層せずに1枚の状態で、電子線照射処理を行い、単層の電解質膜を得た。この単層電解質膜を積層電解質膜と同様に評価した。その結果、この単層電解質膜の150℃・無加湿におけるプロトン伝導度は7.9mS/cm、酸成分の溶出率は0%であった。
【0070】
(比較例2)
キャスト溶液の作成のため、ポリベンズイミダゾール3質量部、ビニルホスホン酸8質量部、ポリエチレングリコールジメタクリレート1質量部、ジメチルアセトアミド20質量部を混合した。その結果、均一な溶液とはならず、沈殿が生じた。
【0071】
(実施例4:膜電極接合体の作成と発電特性の評価)
実施例1において、2枚の膜を積層させる段階で、2枚の膜の一方に注射針を用いて10箇所孔(ピンホール)を開けた。他は実施例1と全く同じ方法で積層電解質膜を得た。この積層電解質膜を市販のカソード電極、アノード電極(Electrochem社製)で狭持して膜電極接合体とした。この膜電極接合体を150℃、無加湿、水素100ml/分、酸素100ml/分のガス供給下で燃料電池運転を行い、発電特性(開回路電圧)を測定した。測定開始直後の開回路電圧は0.91Vであり、24時間後もこの値は変化しなかった。
【0072】
(比較例3)
実施例4において、2枚の膜を積層させる段階で、2枚の膜の一方に注射針を用いて10箇所孔を開けたが、孔を開けたこの膜のみを用いて、つまり2枚の膜を積層させずに、膜電極接合体を実施例1と同様に作成した。測定開始直後の開回路電圧は0.89Vであったが、24時間後の値は0.01V以下に低下していた。
【0073】
(評価結果の比較)
実施例1〜3の結果は、本発明によって得られる積層電解質膜が、プロトン伝導性、酸成分の溶出性、積層界面の密着性において優れていることを示している。実施例1と比較例2の差は、本発明と従来技術である塩基性ポリマーと酸性モノマーを用いてキャスト溶液を作成した場合との差を比較するものであるが、本発明は、積層界面の密着性および溶出性において優れているとともに、塩基性ポリマーと酸性モノマーを用いると均一なキャスト溶液を作成できないことがわかる。実施例4と比較例3の差は、膜電極接合体における本発明の効果を示すものである。本発明の適用例である実施例4では、積層させた一方の膜にピンホール欠陥が多数存在しても発電特性は良好であった。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明における積層電解質膜の積層パターンの一例を示す説明図である。
【図2】本発明における積層電解質膜の積層パターンの一例を示す説明図である。
【図3】本発明における積層電解質膜の積層パターンの一例を示す説明図である。
【図4】本発明における膜電極接合体の構造の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1 酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと酸性ポリマーとを含む高分子膜
2 カソード電極
3 アノード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーと、を含む高分子膜が2つ以上積層されていることを特徴とする、積層電解質膜。
【請求項2】
前記酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させて得られるポリマーが、架橋構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の積層電解質膜。
【請求項3】
前記酸性基が、ホスホン酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される1種以上の酸性基を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の積層電解質膜。
【請求項4】
前記酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーが、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸からなる群から選択される1種以上のモノマーを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の積層電解質膜。
【請求項5】
酸性基を有するエンジニアリングプラスチックと、酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーとを含むキャスト溶液を作成し、
前記キャスト溶液を基材上にキャストして膜状に成形して前駆体膜を形成し、前記前駆体膜を2つ以上積層させた後に、
前記酸性基及び重合可能な官能基を有するモノマーを重合させることを特徴とする、積層電解質膜の製造方法。
【請求項6】
前記重合は、電離性放射線を利用して行われることを特徴とする、請求項5に記載の積層電解質膜の製造方法。
【請求項7】
酸素極と、燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に位置する燃料電池用電解質膜と、を備え、
前記燃料電池用電解質膜は、請求項1〜4のいずれかに記載の積層電解質膜であることを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜電極接合体を備える、燃料電池。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−129240(P2010−129240A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300191(P2008−300191)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】