説明

空気中の塩分を除去する装置

【課題】動力機器を用いずに自然空冷方式のみで施設内を換気するにあたって、空気中に含まれている塩分をさらに効率よく低減する。
【解決手段】被収容物を収容する収容室(建屋2)を自然通風で換気するにあたって収容室2の外の空気を収容室2の内に取り入れる空気通路7と、空気通路7の途中に設けられ、当該空気通路7内を流れる空気に接触する水39を溜める水溜部9と、水溜部9の天井面と底面に空気の流れる方向に沿って交互に設けられ、空気の流れを上下に蛇行させる斜面10を有する複数の突起11を備え、底側突起11の頂点34と天井側突起11の下端35は水39の水面よりも上に位置するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気に含まれている塩分を除去する空気中の塩分を除去する装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば使用済み核燃料が収容されている収容室を自然通風で換気するにあたって収容室内に取り入れる空気に含まれている塩分を除去する際に用いて好適な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に原子炉の使用済み核燃料を貯蔵し、使用済み核燃料の除熱を行なう施設では、施設内に置かれた使用済み核燃料を入れた容器から放出される熱による浮力を利用した自然空冷方式が採用されている。しかし、自然通風で施設内を換気する自然空冷方式の場合、空気中に塩分が含まれていると、その塩分が使用済み核燃料を密封しているキャニスタと呼ばれる金属容器の表面に付着し、SCCと呼ばれる応力腐食割れを引き起こす虞がある。SCCの発生を防止するためには、キャニスタ表面に付着する塩分濃度がSCCの発生に対する限界の表面付着塩分濃度を超えないようにする必要がある。
【0003】
施設内への塩分の流入を防止するための技術としては、エアーフィルタを用いて微細粉塵を除去する技術(特許文献1)や外気に含まれる塩分粒子をフィルタで除去して送風機で給気を行なう技術(特許文献2)、自然通風によって施設内を換気する為に外気を取り込む際に水に接触させて潮解現象により塩分を除去する技術(特許文献3)が知られている。
【特許文献1】特開平6−182127号
【特許文献2】特開平7−310938号
【特許文献3】特開2007−155314号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2の技術では、フィルタを介して外気を取り込むようにしているので圧力損失が大きく、施設内に冷風を送るには送風機等の動力機器が必要になるといった問題が生じる。また、特許文献2の技術では送風機を用いて給気を行なう強制空冷方式を採用しているが、自然空冷方式に比べて設備コストが大きくなるとともに送風機が止まった場合の安全性が保証できないといった問題が生じる。また、フィルタや送風機を用いるとメンテナンスが面倒であり、メンテナンスにかかるコストが大きくなってしまうといった問題が生じる。
【0005】
一方、特許文献3の技術では、動力機器を用いずに施設内を換気することができる点で優れているものの、圧力損失の増加を抑えつつ塩分除去をより効率よく行うことができれば更に実用的なものとなる。
【0006】
そこで本発明は、動力機器を用いずに自然空冷方式のみで施設内を換気するにあたってスムーズに換気することができ、空気中に含まれている塩分をさらに効率よく低減することができる空気中の塩分を除去する装置を提供することを目的とする。また、本発明は、ランニングコストを削減することができ、メンテナンスを容易に行なうことができる空気中の塩分を除去する装置を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の空気中の塩分を除去する装置は、被収容物を収容する収容室を自然通風で換気するにあたって収容室の外の空気を収容室の内に取り入れる空気通路と、空気通路の途中に設けられ、当該空気通路内を流れる空気に接触する水を溜める水溜部と、水溜部の天井面と底面に空気の流れる方向に沿って交互に設けられ、空気の流れを上下に蛇行させる斜面を有する複数の突起を備え、底側突起の頂点と天井側突起の下端は水の水面よりも上に位置するものである。
【0008】
したがって、空気通路に流入してきた空気が空気通路の途中の水溜部に溜められている水の水面に接触すると、潮解現象によって空気中の塩分が水に溶解する。これにより塩分が低減された空気によって収容室内が換気される。水溜部の天井面と底面には突起が交互に設けられているので、水溜部を通過する空気の流れは強制的に上下に蛇行され、繰り返し何度も水面に衝突させられる。天井側突起の下端は水面よりも上に位置しているので、即ち水中に没していないので空気が流れる空間は確保され、水溜部の水と天井側突起によって空気通路が塞がれることはない。
【0009】
また、請求項2記載の空気中の塩分を除去する装置は、底側突起の頂点が天井側突起の下端よりも上に位置するものである。したがって、水溜部を通過する空気は、天井側突起によって一旦底側突起の頂点よりも低い位置まで下げられた後、底側突起によって上昇されることになり、空気の流れがより確実に蛇行する。
【0010】
また、請求項3記載の空気中の塩分を除去する装置は、底側突起の斜面が濡れているものである。したがって、空気が底側突起の斜面に沿って上昇する際にも潮解現象によって空気中の塩分が水に溶解する。斜面を濡らす手段としては、特に限定されるものではないが、例えば斜面を布、不織布、フェルト等の吸水性の部材で覆い、その部材の端を水中に付けることで水を吸わせて常に濡れた状態にしておくことが考えられる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の空気中の塩分を除去する装置によれば、水溜部の上下に突起を交互に設けているので、空気の流れを強制的に上下に蛇行させて繰り返し水面に衝突させることができる。このため、空気が水面に確実に接触する機会を増やすことができ、収容室内を換気する空気の塩分濃度を効率よく低減することができる。しかも、空気の流れを蛇行させるだけであるので、塩分濃度を低減できる割には圧力損失はそれほど増加しない。また、フィルタを用いる場合のように目詰まりによる圧力損失もない。このように、フィルタを使用せずに収容室内へ流入する外気から効率的に塩分を除去でき、目詰まりによるフィルタ交換の必要がなく低コストで収容室内の機器類における錆の発生防止を図ることができる。
【0012】
また、請求項2記載の空気中の塩分を除去する装置の場合、水溜部を通過する空気の流れをより確実に蛇行させることができ、空気の塩分濃度をより一層効率よく低減することができる。
【0013】
また、請求項3記載の空気中の塩分を除去する装置の場合、空気が水に接触する機会が増え、より一層多くの塩分を水に溶解させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1から図3に本発明の空気中の塩分を除去する装置の第一の実施形態を示す。この実施形態の空気中の塩分を除去する装置(以下、塩分除去装置という)1は、キャニスタとキャスク3の二重容器に格納された図示しない使用済み核燃料を収容する収容室(一般に建屋と呼ばれている。以下、建屋と呼ぶ。)2を自然通風で換気するにあたって外気取り入れ口4の付近に設置されて空気中の塩分を除去するものである。同塩分除去装置1は、建屋2の外の空気を建屋2の内に取り入れる空気通路7と、空気通路7の途中に設けられ、当該空気通路7内を流れる空気に接触する水39を溜める水溜部9と、水溜部9の天井面と底面に空気の流れる方向に沿って交互に設けられ、空気の流れを上下に蛇行させる斜面10を有する複数の突起11を備えている。本実施形態では、水溜部9の底面にトレイ状の窪み(以下、トレイという)を形成することで水39を溜めるようにしている。なお、以下、建屋2の外を「屋外」と称し、建屋2の内を「屋内」と称する。
【0016】
建屋2には屋外の空気を屋内に取り入れる外気取り入れ口4と排気口5とが備えられ、キャスク3から放出される熱によって温められた空気が上昇気流を発生させて屋内の空気を屋外に排出するように構成されている。塩分除去装置1は建屋2の内側の低い位置、例えば壁際の床に設けられており、外気取り入れ口4に取り付けられている。高い位置に設けられた排気口5から温かい空気が排出されると、この空気と入れ替わるようにして屋外の空気が外気取り入れ口4から塩分除去装置1を介して屋内に流入する。このように建屋2は外気取り入れ口4と排気口5によって自然通風で換気が行なわれるように構成されている。
【0017】
塩分除去装置1の空気通路7は、例えばダクト6内に設けられている。ダクト6内は上下複数の隔壁33によって複数段の空気通路7に仕切られており、複数の入口6aと複数の出口6bを有している。本実施形態では、ダクト6内を5段の空気通路7に仕切っている。ただし、空気通路7の段数は5段に限るものではなく、2〜4段、6段以上でも良い。各段の出口6bはダクト6の軸方向に沿って階段状にずれて配置され、水溜部9に形成されたトレイの中に溜まる水39が順次上の段から下の段へ溢流するように設けられている。
【0018】
空気通路7の水溜部9は空気の中に含まれている塩分を回収するものであり、屋外から外気取り入れ口4を介して流入してきた空気を案内する案内部8の下流に設けられている。水溜部9のトレイの先端部は出口6bからダクト6の軸方向に沿って屋内の奥側に向かって突出している。また、各段のトレイは上方から水39が流れ落ちてきた際にその水39を受け入れ易くするように階段状に積み重ねられるように形成されている。
【0019】
水溜部9の天井面と底面には複数の突起11が設けられている。天井側突起11と底側突起11は、空気の流れる方向に沿って交互に設けられている。各突起11は、例えば横断面形状三角形の突条であり、例えば図3に示すようにダクト6をその幅方向に横切り、ダクト6の両側壁の間にわたって設けられている。なお、底側突起11は水溜部9の幅方向に複数に分割されており、隣り合う底側突起11の間を水39が流れるようにし、各段のトレイ上に水39が均一に行き渡るようになっている。突起11には、空気の流れを上下に蛇行させる斜面10が設けられている。また、底側突起11の頂点34は水面よりも上に位置している。同様に、天井側突起11の下端35も水面よりも上に位置し、空気が流れる空間が確保されている。本実施形態では、底側突起11の頂点34は天井側突起11の下端35よりも上に位置しており、空気の流れがより確実に蛇行するように図られている。ただし、底側突起11の頂点34を天井側突起11の下端35よりも上に位置させなくても良く、例えば図4(A)に示すように、底側突起11の頂点34を天井側突起11の下端35と同じ高さにしても良く、図4(B)に示すように、底側突起11の頂点34を天井側突起11の下端35よりも下に位置させても良い。これらの場合であっても各突起11の斜面10によって空気の流れを上下に蛇行させることができる。
【0020】
なお、突起11を設ける数は各段毎に変えても良く、全ての段で同一にしても良い。また、突起11の横断面の形状・大きさは全ての突起11について同一でも、相違していても良く、あるいは一部の突起11のみを相違させても良い。また、各段毎に突起11の横断面の形状・大きさを相違させても良い。また、底側突起11の横断面の形状・大きさと天井側突起11の横断面の形状・大きさを同一にしても良く、相違させても良い。さらに、水溜部9の全領域にわたって突起11を形成しても良く、一部領域を残して突起11を形成しても良い。
【0021】
案内部8は屋外から外気取り入れ口4及び入口6aを介して流入してきた空気を水溜部9に案内するものである。案内部8はダクト6の各入口6aと外気取り入れ口4とが連通するように外気取り入れ口4の縁に取り付けられている。屋外の空気が外気取り入れ口4及び入口6aを介して案内部8に流入してくると、その空気はトレイ上に導かれる。また、案内部8は屋外から外気取り入れ口4及び入口6aを介して流入してきた空気を水39に向けて下降させるように屈曲した形状に形成されている。つまり、案内部8には屋外から外気取り入れ口4及び入口6aを介して流入してきた空気を下降気流にしてトレイ上に導く下り傾斜部12が形成されている。したがって、トレイに水39が溜められた際には、屋外から外気取り入れ口4及び入口6aを介して案内部8に流入してきた空気はトレイ上の水39に衝突するようになる。
【0022】
建屋2の屋根13には雨水を屋内に取り入れるための孔13aが形成されている。この孔13aは雨水通路14を介して建屋2の内部に連通している。屋根13を伝う雨水は孔13aに流入し、雨水通路14を通ってダクト6の上面に導かれる。ダクト6の上面にはダクト6の軸方向に沿って長溝(図示省略)が形成されている。この長溝はダクト6の最上段の水溜部9のトレイに向かって形成されている。したがって、雨水通路14の排水口14aから流れ落ちてくる雨水は長溝に流れ込み、この長溝によってダクト6の最上段の水溜部9のトレイに導かれる。この最上段のトレイでオーバーフローした雨水39はその1つ下の段のトレイに流れ込む。各トレイでオーバーフローした雨水39は順次に下段のトレイに流れ込む。最下段のトレイからオーバーフローした雨水39はダクト6の下方に設置されている排水管15に流れ込み、排水口16から屋外に排出される。
【0023】
ダクト6の最上段のトレイには水位計17が設置されている。雨が降らずにトレイに溜められている水39の水位が蒸発などによって予め定められた水位を下回った際には、これを水位計17が検知し、この検知結果を受けてソレノイド(図示省略)がオンされる。ソレノイドがオンされると水道のバルブ18が開かれ、最上段のトレイに水道水39が供給される。したがって、トレイは雨水の有無に関わらず常に水39が満たされた状態になっている。
【0024】
以上のように構成された塩分除去装置1においては、屋外の空気が案内部8に流入すると、その空気は水溜部9の水面に向かって導かれる。屋外から案内部8に流入してきた空気は下り傾斜部12で水溜部9の水面に向かって下降し、水面に衝突する。このようにして空気が水39に接触すると、空気中に塩分が含まれている場合にはその塩分が潮解現象によって水39に溶解する。また、案内部8から水溜部9に空気が流入すると、突起11によって空気の流れが上下に蛇行される。即ち、天井側突起11と底側突起11とが交互に形成されているので、空気の流れを確実に蛇行させることができる。これによって空気が水面に確実に接触する機会が増え、より一層多くの塩分を水39に溶解させることができる。また、ダクト6内には複数段の空気通路7を形成しているので、屋外からダクト6に流入してきた空気と水39との接触面積を大きくすることができ、これにより屋外からダクト6に流入してきた空気に含まれている塩分を効率的に捕捉することができる。さらに、水溜部9を通過した空気が出口6bから出るときに出口6bを覆うようにして上段のトレイから流れ落ちてくる水39に接触するので、ここでも潮解現象を利用して空気中の塩分を溶解させることができる。このように屋内を自然通風で換気するにあたって塩分除去装置1を用いることにより、屋外から屋内に流入する空気の流れを遮ることなく、その空気中に含まれている塩分を大幅に低減することができる。したがって、屋内を自然通風で十分に換気することができ、塩分除去装置1を十分に実用的なものにすることができる。また、屋内に置かれている金属性の機器の錆の発生を抑えることができる。また、構造が簡素であるのでランニングコストを大幅に削減することができる。また、構造が簡素であるのでメンテナンス作業が容易になる。
【0025】
本発明の塩分除去装置1では、水溜部9の上下に突起11を交互に設けているので、空気の流れを強制的に上下に蛇行させて繰り返し水面に衝突させることができる。このため、空気が水面に確実に接触する機会を増やすことができ、収容室内を換気する空気の塩分濃度を効率よく低減することができる。しかも、空気の流れを蛇行させるだけであるので、塩分濃度を低減できる割には圧力損失はそれほど増加しない。また、フィルタを用いる場合のように目詰まりによる圧力損失もない。このように、フィルタを使用せずに収容室内へ流入する外気から効率的に塩分を除去でき、目詰まりによるフィルタ交換の必要がなく低コストで収容室内の機器類における錆の発生防止を図ることができる。
【0026】
本発明の塩分除去装置1は、キャスク3を収容する建屋2に備えられるばかりではなく、キャスク3が露天で貯蔵される場合にはキャスク3に直接装備させるようにしても良い。この第二の実施形態を図5に示す。なお、第一の実施形態と同一の構成部材については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0027】
図5に示すように、キャスク3は使用済み核燃料19を密封する金属容器であるキャニスタ20を収容し、このキャニスタ20を自然空冷で除熱するものである。キャスク3は、キャスク3の有底円筒状の本体部21と、この本体部21の内側に形成されている中空部22の開口22aを塞ぐ蓋23とから構成されている。キャスク3はキャスク3の外側の空気をキャスク3の内側に取り入れる外気取り入れ口24と、本体部21の内部に収容されるキャニスタ20の発熱によって温められ、上昇した空気をキャスク3の外側に排出する排気口25とを備えている。外気取り入れ口24は階段状に屈曲している通路26を介して中空部22に連通している。中空部22を形成している内壁面27の底27aには複数の台座28が固定されている。キャニスタ20は開口22aから中空部22に入れられ、本体部21の内壁面27とキャニスタ20の外壁面29との間に隙間が形成されるように台座28の上に載置される。開口22aが蓋23で塞がれると、蓋23の内側面23aとキャニスタ20の外壁面29との間に隙間が形成され、蓋23の内側面23aと本体部21の上面21aとの間に複数の通路30が形成される。この通路30は階段状に屈曲しており、排気口25と中空部22とを連通している。塩分除去装置1は外気取り入れ口24と出口6bとが対向し、且つ出口6bが外気取り入れ口24に近接するように配置されている。塩分除去装置1は支持部材31を介して例えばキャスク3の外壁面や地面などに固定されている。なお、図5に示す実施形態ではトレイには水道水が供給されるものとする。
【0028】
キャスク3内の空気はキャニスタ20から放出される熱によって温められ、上昇気流となってキャニスタ20の上部の排気口25から排出される。排気口25から温かい空気が排出されると、この空気と入れ替わるようにしてキャスク3の外の空気が塩分除去装置1と外気取り入れ口24を介してキャスク3内に流入してくる。
【0029】
キャスク3の外側の空気が各段の空気通路7の案内部8に流入すると、その空気は水溜部9の水面に向かって導かれる。キャスク3の外側から案内部8に流入してきた空気は下り傾斜部12でトレイ上の水面に向かって下降し、やがて水面に衝突する。このようにして空気が水39に接触すると、空気中に塩分が含まれている場合にはその塩分が潮解現象によって水39に溶解する。また、案内部8から水溜部9に空気が流入すると、上下の突起11によって空気の流れが上下に蛇行される。これによって空気が水面に確実に接触する機会が増え、より一層多くの塩分を水39に溶解させることができる。さらに、水溜部9を通過した空気が出口6bから出るときに上段のトレイから流れ落ちてくる水39に接触するので、ここでも潮解現象を利用して空気中の塩分を溶解させることができる。
【0030】
このようにキャスク3内を自然通風で換気するにあたって塩分除去装置1を用いることにより、キャスク3の外側から内側に流入する空気の流れを遮ることなく、その空気中に含まれている塩分を大幅に低減することができる。したがって、キャスク3内を自然通風で十分に換気することができ、塩分除去装置1を十分に実用的なものにすることができる。また、キャニスタ20に塩分が付着することによって引き起こされるSCCを抑止することができる。また、動力を必要とせず、かつ構造が簡素であるので設備コスト並びにランニングコストを大幅に削減することができる。また、構造が簡素であるのでメンテナンス作業が容易になる。
【0031】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態では、使用済み核燃料を収容する施設の例としてキャスク3を収容する建屋2の例を挙げて説明したが、ボールト貯蔵施設のような自然通風による冷却方式を採用する他の施設にも適用できることは言うまでもない。さらに、本発明の塩分除去装置は、上述した実施形態でとりあげた原子力関係の施設に限られず、例えば沿岸地域に立地すると共に外気を取り入れて換気を行う施設であって施設内の設備や保存物にとって外気中の塩分が有害でそれを除去する必要がある場合に広く適用することができる。
【0032】
また、上述した実施形態では、ダクト6を隔壁33で仕切って複数の空気通路7を形成するようにしたが、ダクト6を仕切らずに塩分除去装置1を1本の空気通路7で構成しても良い。
【0033】
また、上述した実施形態では最下段のトレイからオーバーフローした水39を排水管15によって屋外に排水するようにしたが、そのオーバーフローした水39をポンプなどで循環させてトレイに再度供給するようにしても良い。
【0034】
また、上述した第一の実施形態では塩分除去装置1を屋内に設置するようにしたが、図6に示すように、建屋2の外壁に塩分除去装置1を取り付けても良い。この第三の実施形態の場合、ダクト6が屋外に晒されるので、雨水通路14を設けなくても雨樋からの雨水をトレイに直接供給することができる。
【0035】
さらに、図7に示すように、建屋2の外側に塩分除去装置1を設けるようにしても良い。この第四の実施形態の塩分除去装置1では、ダクト6内に案内部8と下り傾斜部12を設けておらず、ダクト6内に取り込んだ空気を直接水溜部9に導く構成となっている。そして、この第四の実施形態の場合も、ダクト6の各入口6aから塩分除去装置1に流入した屋外の空気はトレイ上の水39と接触し、潮解現象によって空気中の塩分が水39に溶解する。さらに、屋外の空気が各入口6aから流入するときに各入口6aを覆うようにして上段のトレイから流れ落ちてくる水39に接触するので、ここでも潮解現象を利用して空気中の塩分を溶解させることができる。
【0036】
また、上述の説明では、ダクト6内を隔壁33で仕切ることで複数段の空気通路7を形成していたが、ダクト6内に複数段の空気通路7を形成する手段としてはこの構成に限るものではない。例えばダクト6内に独立した部品としてのトレイを取り付けて仕切ることで複数段の空気通路7を形成するようにしても良い。
【0037】
なお、第四の実施形態のように下り傾斜部12を設けない構成とした場合も、ダクト6の各入口6aから流入した空気の流れを上下の突起11によって上下に蛇行させて水面に衝突させ、水39に塩分を溶解させることができる。
【0038】
また、上述した第一の実施形態では建屋2に対して塩分除去装置1を用いた例を挙げて説明し、第二の実施形態ではキャスク3に対して塩分除去装置1を用いた例を挙げて説明したが、塩分除去装置1を備えるキャスク3を収容する建屋2に対して塩分除去装置1を備えるようにしても良い。これにより建屋2に対して備えた塩分除去装置1で捕捉しきれなかった塩分をキャスク3に対して備えた塩分除去装置1で捕捉することができるので、キャニスタに付着する塩分の量をより一層低減することができる。
【0039】
また、底側突起11の斜面10を常時濡らすようにしても良い。この場合の一例を図8に示す。斜面10は、例えば布、ガーゼ、不織布、フェルト等の吸水性の表面部材36で覆われている。この表面部材36の下端は水39に漬されており、水39を吸い上げて全体が常に濡れている。このように濡れた表面部材36で斜面10を覆うことで、斜面10を常時濡れた状態にすることができる。ただし、斜面10を濡らす手段としては、これに限るものではない。例えば、上段の水溜部9の底面に孔をあけて下段の水溜部9の底側突起11の斜面10上に水39を滴下させて当該斜面10を常時濡らすようにしても良く、その他の手段でも良い。底側突起11の斜面10を常時濡らすことで、空気と水39との接触面積が増え、より多くの塩分を水39に溶解させて空気中の塩分をより多く除去することができる。
【0040】
また、上述の説明では、入口6a又は出口6bにおいて上段のトレイの水39を下段のトレイに流れ落ちるようにしていたが、即ちトレイの端から水39が流れ落ちるようにしていたが、流れ落ちる位置はトレイの端に限るものではなく、トレイの途中の位置から流れ落ちるようにしても良い。
【0041】
また、上述の説明では、水溜部9を通過した空気が出口6bから出る時又は屋内の空気が入口6aから流入する時に上段のトレイから流れ落ちてくる水39に接触させるようにしていたが、このような構成にしなくても良い。
【0042】
また、水溜部9に当該水溜部9の水39を吸い上げて保持し空気通路7内を流れる空気に接触させる水保持部材37を設けても良い。水保持部材37は全ての段に設けても良いし、一部の段に設けても良い。この場合の一例を図9及び図10に示す。なお、図10では水39の記載を省略している。この例の水保持部材37は空気の流れに沿う壁状を成しており、各段毎に例えば6枚ずつダクト6の幅方向に並んで設けられている。即ち、各段の水溜部9は6枚の水保持部材37によって7列の通路に仕切られている。6枚の水保持部材37は例えば等間隔で配置されている。ただし、各水保持部材37を必ずしも等間隔で配置する必要はない。また、水保持部材37の枚数は6枚に限るものではなく、5枚以下あるいは7枚以上でも良く、通路面積等に応じて適宜決定される。
【0043】
水保持部材37は水溜部9の底面に設けられ、その上端と天井面との間には隙間が設けられている。ただし、水保持部材37の上端と天井面との間に隙間を設けなくても良い。水保持部材37の水没する部位には、例えば小孔、スリット、切り欠き等の流路38が設けられており、水保持部材37を挟んだ両側の水39の流れを可能にして水位を均一にする。ただし、水保持部材37を例えば天井面に設けても良く、この場合には、水保持部材37の下端と水溜部9の底面との間に隙間を設けることで水39の流れを可能にできるので流路38の形成を省略することができる。
【0044】
水保持部材37は、水溜部9に形成されたトレイのほぼ全長にわたって設けられている。ただし、必ずしもトレイのほぼ全長にわたって水保持部材37を設ける必要なく、部分的に水保持部材37を設けても良い。また、水保持部材37を空気の流れ方向に沿って複数に分割し、間隔をあけて各水保持部材37を設けても良い。
【0045】
水保持部材37は、例えば図11に示すように、例えば布、ガーゼ、不織布、フェルト等の吸水性の表面部材40で覆われている。この表面部材40の下端は水39に漬されており、水39を吸い上げて全体が常に濡れている。このように濡れた表面部材40で水保持部材37の表面を覆うことで、水保持部材37の表面を常時濡れた状態にすることができる。ただし、水保持部材37の表面を濡れた状態に保持する手段としては、これに限るものではない。例えば、上段の水溜部9の底面に孔をあけて下段の水溜部9の水保持部材37上に水39を滴下させることでその表面を常時濡れた状態にしても良く、その他の手段でも良い。
【0046】
空気通路7に流入した空気はトレイ上の水39と水保持部材37の表面に保持された水39とに接触しながら、且つ上下の突起11によって確実に上下に蛇行を繰り返しながら水溜部9を通過する。このように水溜部9を通過する空気はトレイ上の水39の他、水保持部材37の表面に保持されている水39にも接触するので、空気と水39との接触面積が大きくなる。また、流れの蛇行によってトレイ上の水39に確実に接触する機会が増える。これらのため、より一層多くの塩分を水39に溶解させることができる。水保持部材37は空気の流れに沿う壁状を成しているので、水保持部材37は大きな空気抵抗にならず、水保持部材37を設けても圧力損失を大幅に増加させずに塩分をより効率よく除去することができる。
【0047】
また、上述の説明では、水保持部材37を空気の流れに沿う壁状にしていたが、棒状にしても良い。この場合の一例を図12に示す。水保持部材37は水溜部9の底面に設けられ、天井面に向けて真っ直ぐ延びている。ただし、水保持部材37を天井面に設けても良い。また、水保持部材37を空気の流れ方向上流側又は下流側に向けて傾斜させても良い。水保持部材37は、各空気通路7毎に複数列設けられている。また、各列は複数本の水保持部材37から構成されている。水保持部材37が棒状を成している場合であっても、空気と水39との接触面積を増加させることができ、空気中の塩分をより一層効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の空気中の塩分を除去する装置とキャスクが建屋の中に設置されているときの態様(第一の実施形態)を示す縦断面図である。
【図2】第一の実施形態の空気中の塩分を除去する装置の概略構造を示す側面視縦断面図である。
【図3】同空気中の塩分を除去する装置の水溜部の断面図である。
【図4】同空気中の塩分を除去する装置の水溜部に設けた突起を示し、(A)は底側突起の頂点と天井側突起の下端との高さを同じにした場合の概念図、(B)は底側突起の頂点を天井側突起の下端よりも低くした場合の概念図である。
【図5】第二の実施形態を示す空気中の塩分を除去する装置とキャスクの縦断面図である。
【図6】空気中の塩分を除去する装置を建屋の外壁に取り付けたときの態様(第三の実施形態)を示す側面視縦断面図である。
【図7】空気中の塩分を除去する装置を建屋の外側に設置したときの態様(第四の実施形態)を示す側面視縦断面図である。
【図8】底側突起の斜面を吸水性の部材で覆った様子を示す断面図である。
【図9】水溜部に水保持部材を設けたときの態様(第五の実施形態)を示す側面視縦断面図である。
【図10】第五の実施形態の空気中の塩分を除去する装置の水溜部を示す断面図である。
【図11】水保持部材の断面図である。
【図12】水溜部に水保持部材を設けたときの態様(第六の実施形態)を示す側面視縦断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 空気中の塩分を除去する装置
2 建屋(収容室)
7 空気通路
9 水溜部
10 斜面
11 突起
34 底側突起の頂点
35 天井側突起11の下端
39 空気に接触する水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被収容物を収容する収容室を自然通風で換気するにあたって前記収容室の外の空気を前記収容室の内に取り入れる空気通路と、前記空気通路の途中に設けられ、当該空気通路内を流れる空気に接触する水を溜める水溜部と、前記水溜部の天井面と底面に空気の流れる方向に沿って交互に設けられ、前記空気の流れを上下に蛇行させる斜面を有する複数の突起を備え、前記底側突起の頂点と前記天井側突起の下端は前記水の水面よりも上に位置することを特徴とする空気中の塩分を除去する装置。
【請求項2】
前記底側突起の頂点は前記天井側突起の下端よりも上に位置することを特徴とする請求項1記載の空気中の塩分を除去する装置。
【請求項3】
前記底側突起の斜面は濡れていることを特徴とする請求項1記載の空気中の塩分を除去する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−150606(P2009−150606A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329215(P2007−329215)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】