空気入りタイヤおよびその製造方法
【課題】インナーライナーとそれに隣接する隣接部材との未加硫粘着性および加硫接着性を十分に有し、かつその間のエアを逃がすことができる空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを成型する際に、インナーライナー9に隣接する隣接部材が、インナーライナー9に隣接する側に、空気を逃がすための通気経路を有し、該隣接部材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはブチルゴムのいずれかのゴム種からなるインスレーション層、もしくはコードに未加硫ゴムシートをトッピングしたカーカス層6であり、該インナーライナー9は、少なくとも第1層を含む単層構造または複層構造であり、該第1層は、SIBS、または該SIBSを含む熱可塑性エラストマー組成物のいずれかからなる。
【解決手段】本発明の空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを成型する際に、インナーライナー9に隣接する隣接部材が、インナーライナー9に隣接する側に、空気を逃がすための通気経路を有し、該隣接部材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはブチルゴムのいずれかのゴム種からなるインスレーション層、もしくはコードに未加硫ゴムシートをトッピングしたカーカス層6であり、該インナーライナー9は、少なくとも第1層を含む単層構造または複層構造であり、該第1層は、SIBS、または該SIBSを含む熱可塑性エラストマー組成物のいずれかからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関し、特に、インナーライナーと隣接部材との間にエアが混入されにくい空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請から、タイヤの軽量化が図られている。タイヤ部材の中で、タイヤ半径方向の内側に配置され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れの量(空気透過量)を低減して耐空気透過性を向上させる働きを有するインナーライナーにおいても、軽量化が行なわれるようになってきた。
【0003】
現在、インナーライナー用ゴム組成物は、ブチルゴム70〜100質量%および天然ゴム30〜0質量%を含むブチル系ゴムを使用することで、タイヤの耐空気透過性を向上させることが行なわれている。また、ブチル系ゴムはブチレン以外に約1質量%のイソプレンを含み、これが硫黄、加硫促進剤、亜鉛華と相俟って、隣接ゴムとの共架橋を可能にしている。上記ブチル系ゴムは、通常の配合では乗用車用タイヤでは0.6〜1.0mm、トラック・バス用タイヤでは1.0〜2.0mm程度の厚みが必要となる。
【0004】
そこで、タイヤの軽量化を図るための試みとして、インナーライナーを構成する材料に、ブチル系ゴムよりも耐空気透過性に優れ、厚みを薄くすることができるポリマーを用いることが提案されている。たとえば、従来技術では、インナーライナー層を軽量化するために、ブチル系ゴムに代えて、熱可塑性エラストマーを用いることが提案されている。
【0005】
しかし、ブチル系ゴムよりも薄い厚みであって、かつ高い耐空気透過性を示す熱可塑性エラストマーは、インナーライナーに隣接するインスレーションゴムやカーカスゴムとの加硫接着力が、ブチル系ゴムよりも劣っている。このため、インナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間に空気が混入して小さな気泡が多数現れる(エアーイン現象)が生じる。
【0006】
このエアーイン現象は、タイヤの内側に小さな斑模様が見えるため外観が悪いという印象をユーザーに与えてしまう他、走行中にエアーを起点としてインナーライナーとインスレーションまたはカーカスとに剥離が生じ、インナーライナーに亀裂が生じてタイヤ内圧が低下するという問題もあり、最悪な場合はタイヤがバーストしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−274359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにインナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間に混入される空気を逃がすための試みとして、たとえば特許文献1(特開2009−274359号公報)には、インスレーションゴムまたはカーカスゴムにエアを逃がす経路を設けている。
【0009】
しかしながら、インナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの接着力が十分ではなく、加硫後にインナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間に、エアを抱き込んでしまうという問題が生じている。
【0010】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インナーライナーとそれに隣接する隣接部材との未加硫粘着性および加硫接着性を十分に有し、かつその間のエアを逃がすことができる空気入りタイヤの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを成型する際に、インナーライナーに隣接する隣接部材が、インナーライナーに隣接する側に、空気を逃がすための通気経路を有し、該隣接部材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはブチルゴムのいずれかのゴム種からなるインスレーション層、もしくはコードに未加硫ゴムシートをトッピングしたカーカス層であり、該インナーライナーは、少なくとも第1層を含む単層構造または複層構造であり、該第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体、または該スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を含む熱可塑性エラストマーのいずれかからなることを特徴とする。
【0012】
上記の通気経路は、インナーライナーの少なくとも端部に面することが好ましい。上記のインナーライナーの端部に面する通気経路の配列密度は、インナーライナーの端部に面する通気経路以外の部分の通気経路の配列密度よりも高いことが好ましい。インナーライナーは、左右のビート部の間に延在し、隣接部材がビート部にインナーライナーの少なくとも端部に隣接して配置されることが好ましい。
【0013】
通気経路は、隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた細溝からなることが好ましい。該細溝は、その単位面積当たりの総容積が2.0〜30.0mm3/cm2であることが好ましい。細溝は、その深さが1.0mm以下であることが好ましい。
【0014】
通気経路は、隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた通気性の糸からなることが好ましい。該通気性の糸は、その単位面積当たりの総体積が0.5〜30.0mm3/cm2であることが好ましい。通気性の糸は、その単位長さ当たりの配列本数が10〜100本/mであることが好ましい。通気経路は、隣接部材のエッジまで延在することが好ましい。
【0015】
通気経路は、隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた複数の貫通する細穴からなることが好ましく、該細穴は、その単位面積当たりの総面積が0.002〜5.0mm2/cm2であることがより好ましい。細穴は、その径が1.5mm以下であることが好ましい。
【0016】
第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体であり、かつスチレンを10〜30質量%含むことが好ましい。
【0017】
上記のインナーライナーは、さらに第2層を含む複層構造であって、該第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体からなるSIS層またはスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなるSIB層を1層または2層以上含むか、または、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソブチレンブロック共重合体のいずれか一方もしくは両方を含む熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。
【0018】
SIS層に含まれるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体は、そのスチレン/イソプレンの重合比が10/90〜30/70であることが好ましい。
【0019】
SIB層に含まれるスチレン−イソブチレンブロック共重合体は、その重量平均分子量が4万〜12万であり、かつスチレン/エチレンの重合比が10/90〜35/65であることが好ましい。
【0020】
本発明は、上記の空気入りタイヤの製造方法により製造した空気入りタイヤに関するものでもある。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、上記のような構成を有することにより、インナーライナーとそれに隣接する隣接部材との未加硫粘着性および加硫接着性を十分に有し、かつその間のエアを逃がすことができる空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の製造方法によって製造される空気入りタイヤの右半分を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材の一例を上面から見たときの模式図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材の一例を上面から見たときの模式図である。
【図4】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材の一例を上面から見たときの模式図である。
【図5】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材の一例を上面から見たときの模式図である。
【図6】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に通気性の糸を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。
【図7】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に細溝および通気性の糸を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。
【図8】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に貫通する細穴を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。
【図9】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に細溝および貫通する細穴を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。
【図10】本発明の空気入りタイヤに用いる単層構造のインナーライナーを示す模式的断面図である。
【図11】本発明の空気入りタイヤに用いる複層構造のインナーライナーを示す模式的断面図である。
【図12】本発明の空気入りタイヤに用いる複層構造のインナーライナーを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<空気入りタイヤ>
本発明の製造方法によって製造される空気入りタイヤの構造を、図1を用いて説明する。図1は、本発明の製造方法によって製造される空気入りタイヤの右半分を示す模式的断面図である。空気入りタイヤ1は、乗用車用、トラック・バス用、重機用などとして用いることができる。空気入りタイヤ1は、トレッド部2とサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部4にわたって設けられ、両端を折り返してビードコア5を係止するカーカス層6と、該カーカス層6のクラウン部外側に2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。
【0024】
カーカス層6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。ベルト層7は、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなる2枚のプライを、タイヤ周方向に対してコードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。また、カーカス層はポリエステル、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°の角度に配列されており、カーカス層とその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。なお、インナーライナー9とカーカス層6との間に、インスレーション層が配置されていてもよい。
【0025】
<隣接部材>
本発明における空気入りタイヤ1は、インナーライナー9に隣接して隣接部材が設けられる。かかる隣接部材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはブチルゴムのいずれかのゴム種からなるインスレーション層、もしくはコードに未加硫ゴムシートをトッピングしたカーカス層6である。
【0026】
そして、本発明では、隣接部材のインナーライナー9に隣接する側に、空気を逃がすための通気経路を有することを特徴とする。このようにインナーライナー9に隣接する隣接部材に通気経路を設けることにより、未加硫タイヤを成型する際に、インナーライナー9とカーカス層6との間、またはインナーライナー9とインスレーション層との間に混入されるエアを逃がすことができ、もって未加硫タイヤまたは加硫後のタイヤでもエア溜まりが少ない空気入りタイヤ1を作製することができる。
【0027】
上記の隣接部材に設けられる通気経路は、図2に示されるように全体に設けるのが好ましいが、図3に示されるように中央には設けずに、両端側に設けるものであってもよい。すなわち、隣接部材に設けられる通気経路がインナーライナーの少なくとも端部に面していることが好ましい。このような位置に通気経路を設けることにより、上記のエアを逃がす効果を高めることができる。ここで、「インナーライナーの端部」とは、インナーライナーが途切れる先端の部分を意味し、たとえば図1中におけるビートコア5の略内部に位置する部分をいう。
【0028】
隣接部材に設けられる通気経路14は、図3に示されるように隣接部材の端部に対して一定の角度をなすものに限られるものではなく、図4に示されるように隣接部材の端部に垂直に伸びるものであってもよい。
【0029】
また、図5に示されるように、図4の通気経路14の間にさらにそれよりも短い通気経路14Aをインナーライナーの端部に面する領域に形成することが好ましい。このようにしてインナーライナー9の端部に面する通気経路14の配列密度を、インナーライナー9の端部に面する通気経路14以外の部分の通気経路の配列密度よりも高くすることができ、もってインナーライナー9の端部側に残留する空気を層間外へ逃がしやすくすることができる。
【0030】
ビード部4まで延在するインナーライナー9の端部は、成形する際に空気が取り込まれ易いため、この部分のインナーライナー9とカーカス層またはインスレーション層との間にエアが混入しやすい。したがって、上記のインナーライナー9は、左右のビート部4の間に延在し、該ビート部4に隣接して隣接部材が配置されることが好ましい。
【0031】
<通気経路>
本発明において、通気経路は、上記の隣接部材のインナーライナー9に隣接して設けられ、隣接部材とインナーライナー9との間に混入されるエアを逃がすために設けられるものである。通気経路は、細溝、通気性の糸、および貫通する細穴からなる群より選択される一種以上の形態で隣接部材に設けられる。以下、各形態の通気経路を説明する。
【0032】
(細溝)
上記の通気経路が細溝によって形成される場合、細溝の単位面積当たりの総容積が2.0〜30.0mm3/cm2であることが好ましく、より好ましくは5.0〜25.0mm3/cm2である。2.0mm3/cm2未満であると、隣接部材との間のエアを効果的に逃がすことができないおそれがあり、30.0mm3/cm2を超えると、逆にエア溜まりの原因となる。このような細溝は、その深さが0.3mm以上1.0mm以下であることが好ましい。1.0mmを超えると、逆にエア溜まりの原因となるため好ましくなく、0.3mm未満であると、エアを効率的に逃すことができない。
【0033】
(通気性の糸)
図6は、本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に通気性の糸を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。上記の通気経路が、図6に示されるように、通気性の糸16によって形成される場合、通気性の糸の単位面積当たりの総体積が0.5〜30.0mm3/cm2であることが好ましく、より好ましくは1.0〜25.0mm3/cm2である。0.5mm3/cm2未満であると、隣接部材との間に混入されるエアを効果的に逃がすことができず、30.0mm3/cm2を超えると、インナーライナーと隣接部材との界面における凹凸が増えるため、これらの両部材の接着性が低下してエア溜まりの原因になる。
【0034】
上記の通気性の糸16は、その単位長さ当たりの配列本数が10〜100本/mであることが好ましく、より好ましくは20〜80本/mである。通気性の糸の単位長さ当たりの配列本数が10本/m未満であると、隣接部材との間に混入されるエアを効果的に逃がすことができず、100本/mを超えると、インナーライナーと隣接部材との界面における凹凸が増えるため、これらの両部材の接着性が低下してエア溜まりの原因になる。かかる通気経路は、隣接部材のエッジまで延在して設けられることが好ましい。なお、図7に示されるように、細溝と通気性の糸とを組み合わせて隣接部材に設けてもよい。
【0035】
(貫通する細穴)
図8は、本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に貫通する細穴を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。上記の通気経路は、図8に示されるように、隣接部材を貫通するようにして複数の細穴17を設けることによって構成されるものであってもよい。上記の通気経路が、貫通する細穴によって形成される場合、貫通する細穴は、その単位面積当たりの総面積が0.002〜5.0mm2/cm2であることが好ましく、より好ましくは0.01〜4.0mm2/cm2である。上記の細穴の単位面積あたりの総面積が0.002mm2/cm2未満であると、隣接部材との間のエアを効果的に逃がすことができないおそれがある。一方、5.0mm2/cm2を超えると、逆にエア溜まりの原因となるため好ましくない。
【0036】
上記の細穴は、隣接部材の全体に設けることが好ましいが、細溝と同様に、中央部のみに設けずに、インナーライナーの端部のみに設けても、エアを効果的に逃がすことができる。また、細溝と同様に、インナーライナーの端部に面する領域の細穴の配列密度を高めてもよいし、ビート部まで延在するインナーライナーの端部のみに細孔を設けてもよい。
【0037】
上記の細穴の径は、1.5mm以下であることが好ましい。細穴の径が1.5mmを超えると、逆にエア溜まりの原因になるため好ましくない。また、細穴の径の下限値は、上述の単位面積あたりの総面積を満たす範囲であれば特に限定されない。なお、図9に示されるように、細溝と貫通する細穴とを組み合わせて隣接部材に設けてもよい。
【0038】
<インナーライナー>
本発明において、インナーライナー9は、少なくとも第1層を含む単層構造または第1層および第2層を含む複層構造であることが好ましい。該第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう)、または該SIBSを含む熱可塑性エラストマーからなることを特徴とする。以下においては、まず、図10に示される第1層のみからなる単層構造のインナーライナーを説明する。
【0039】
(第1層)
図10に示されるように、第1層20に含まれるSIBSのイソブチレンブロックによって、優れた耐空気透過性を有する。したがって、SIBSを含む第1層をインナーライナーに用いた場合、耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0040】
さらに、SIBSは芳香族以外の分子構造が完全飽和であることにより、劣化硬化が抑制され、優れた耐久性を有する。したがって、図10に示されるSIBSを含む第1層をインナーライナーに用いた場合、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0041】
SIBSを含む第1層をインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造した場合、SIBSを含有させることにより耐空気透過性を確保するため、たとえばハロゲン化ブチルゴムなどの、従来耐空気透過性を付与するために使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用しないか、使用する場合にも使用量の低減が可能である。これによってタイヤの軽量化が可能であり、燃費の向上効果が得られる。
【0042】
かかる第1層は、SIBSを10質量%以上30質量%以下含み、さらに天然ゴム、イソプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種のゴム成分を70質量%以上90質量%以下含むことが好ましい。また、これらのポリマー成分100質量部に対して、硫黄を0.1質量部以上5質量部以下含むことが好ましい。このようにSIBSにゴム成分および硫黄を添加して加熱混合すると、加熱混合中にゴム成分と硫黄とが加硫反応して、SIBSがマトリックス(海)で、ゴム成分が島となる海島構造を形成する。
【0043】
SIBSの含有量が10質量%未満であると、インナーライナーの空気遮断性が低下するおそれがある。一方、SIBSの含有量が30質量%を超えると、隣接部材との加硫接着力が不十分であるおそれがある。SIBSの含有量は空気遮断性の確保の観点から、ポリマー成分中15質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0044】
上記のような海島構造を有する第1層は、SIBSからなるマトリックス相に由来する空気遮断性を有する。さらに、島相を形成するゴム成分は、ゴム成分を含む隣接部材との未加硫粘着性を有するとともに、加熱混合中に隣接部材のゴム成分とも加硫反応をするため、隣接部材との加硫接着性も有する。したがって、SIBSにゴム成分または硫黄を含むことが好ましい。これにより第1層からなるインナーライナーは、空気遮断性に優れると同時に、隣接部材との未加硫粘着性および加硫接着性を有することができる。なお、以下において、第1層に含まれる、SIBS、ゴム成分、および硫黄を併せて「ポリマー成分」と記すこともある。
【0045】
インナーライナーの厚みは、0.05mm以上0.6mm以下が好ましく、より好ましくは、0.05mm以上0.4mm以下である。インナーライナーの厚みが0.05mm未満であると、該第1層をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、該第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、インナーライナーの厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。
【0046】
SIBSの分子量は、特に制限はないが、流動性、成形化工程、ゴム弾性などの観点から、GPC法による重量平均分子量が5万以上40万以下であることが好ましい。重量平均分子量が5万未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、40万を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0047】
SIBSは、一般的にスチレン単位を10質量%以上40質量%以下含む。耐空気透過性と耐久性がより良好になる点で、SIBS中のスチレン単位の含有量は10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0048】
SIBSは、イソブチレン単位とスチレン単位のモル比(イソブチレン単位/スチレン単位)が、該共重合体のゴム弾性の点から40/60〜95/5であることが好ましい。SIBSにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱い(重合度が10,000未満では液状になる)の点からイソブチレンブロックでは10,000〜150,000程度、またスチレンブロックでは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0049】
SIBSは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、リビングカチオン重合法により得ることができる。
【0050】
特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。この他にも、リビングカチオン重合法によるビニル化合物重合体の製造法が、たとえば、米国特許第4,946,899号、米国特許第5,219,948号、特開平3−174403号公報などに記載されている。
【0051】
SIBSは分子内に芳香族以外の二重結合を有していないために、たとえばポリブタジエンなどの分子内に二重結合を有している重合体に比べて紫外線に対する安定性が高く、耐候性が良好である。
【0052】
(ゴム成分)
インナーライナーを構成する第1層は、ゴム成分を含むことが好ましい。ゴム成分は第1層にゴム成分を含む隣接部材との未加硫粘着性を与えることができる。さらに硫黄と加硫反応することにより、ポリマー組成物にカーカスやインスレーションなどの隣接部材との加硫接着性を与えることができる。
【0053】
ゴム成分は、天然ゴム、イソプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、なかでも破壊強度および接着性の観点から、天然ゴムを含むことが好ましい。
【0054】
ゴム成分の含有量は第1層に含まれるポリマー成分中、60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。ゴム成分の含有量が60質量%未満であると、第1層に含まれるポリマー成分の粘度が高くなり押出加工性が悪化するため、インナーライナーを薄く作製することができないおそれがある。一方、ゴム成分の含有量が95質量%を超えると、インナーライナーの空気遮断性が低下するおそれがある。ゴム成分の含有量は未加硫粘着性および加硫接着性の観点から、第1層を構成するポリマー成分中70質量%以上90質量%以下が好ましい。
【0055】
(硫黄)
インナーライナーを構成する第1層は硫黄を含むことが好ましい。硫黄としては、ゴム工業において加硫時に一般的に用いられる硫黄を用いることができる。中でも不溶性硫黄を用いることが好ましい。ここで不溶性硫黄とは、天然硫黄S8を加熱、急冷し、Sx(x=10万〜30万)となるように高分子量化した硫黄のことをいう。不溶性硫黄を用いることで、通常、硫黄をゴム加硫剤として用いた場合に生じるブルーミングを防止することができる。
【0056】
かかる硫黄の含有量は、第1層に含まれるポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である。硫黄の含有量が0.1質量部未満であると、ゴム成分の加硫効果を得ることができない。一方、硫黄の含有量が5質量部を超えると、第1層の硬度が高くなり、第1層をインナーライナーに用いた場合に、空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれがある。硫黄の含有量は、さらに0.3質量部以上3.0質量部以下が好ましい。
【0057】
(添加剤)
本発明の空気入りタイヤを構成するインナーライナーに用いられる第1層は、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫促進剤などの添加剤を含むことができる。ステアリン酸はゴム成分の加硫助剤として機能する。ステアリン酸の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。ステアリン酸の含有量が1質量部未満であると、加硫助剤としての効果を得ることができない。一方、ステアリン酸の含有量が5質量部を超えると、第1層を構成する成分の粘度が低下し、破壊強度が低下するおそれがあるため好ましくない。ステアリン酸の含有量は、さらに1質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0058】
酸化亜鉛はゴム成分の加硫助剤として機能する。酸化亜鉛の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上8質量部以下であることが好ましい。酸化亜鉛の含有量が0.1質量部未満であると、加硫助剤としての効果を得ることができない。一方、酸化亜鉛の含有量が8質量部を超えると、第1層の硬度が高くなり、第1層をインナーライナーに用いた場合に、空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれがある。酸化亜鉛の含有量は、さらに0.5質量部以上6質量部以下が好ましい。
【0059】
老化防止剤は、老化と呼ばれる酸化劣化、熱劣化、オゾン劣化、疲労劣化などの一連の劣化を防止する機能を有する。老化防止剤は、アミン類やフェノール類からなる一次老化防止剤と硫黄化合物やフォスファイト類からなる二次老化防止剤とに分類される。一次老化防止剤は各種ポリマーラジカルに水素を供与して自動酸化の連鎖反応を停止させる機能を有し、二次老化防止剤はヒドロキシペルオキシドを安定なアルコールに変えることにより安定化作用を示すものである。
【0060】
老化防止剤としては、アミン類、フェノール類、イミダゾール類、リン類またはチオウレア類などが挙げられる。
【0061】
アミン類としては、フェニル−α−ナフチルアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンポリマー、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、p、p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジクミルジフェニルアミン、N,N'-ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N'-ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0062】
フェノール類としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−tert−アミルハイドロキノンなどが挙げられる。
【0063】
イミダゾール類としては、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどが挙げられる。
【0064】
その他、トリス(ノニル化フェニル)フォスファイトなどのリン類、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオウレア、トリブチルチオウレアなどのチオウレア類、オゾン劣化防止用ワックスなどを用いても良い。
【0065】
上記の老化防止剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせても用いても良い。なかでも、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンを用いることが好ましい。
【0066】
老化防止剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。老化防止剤の含有量が0.1質量部未満であると、老化防止効果を得ることができない。一方、老化防止剤の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物にブルーミング現象が発生する。老化防止剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0067】
加硫促進剤としては、チウラム類、チアゾール類、チオウレア類、ジチオカーバミン酸塩類、グアニジン類およびスルフェンアミド類などを用いることができる。
【0068】
チウラム類としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドまたはジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられる。
【0069】
チアゾール類としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアソールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドまたは、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなどが挙げられる。
【0070】
チオウレア類としては、N,N’−ジエチルチオウレア、エチレンチオウレアまたはトリメチルチオウレアなどが挙げられる。
【0071】
ジチオカーバミン酸塩類としては、ジメチルジチオカーバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカーバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカーバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカーバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカーバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカーバミン酸銅、ジメチルジチオカーバミン酸鉄(III)、ジエチルジチオカーバミン酸セレン、ジエチルジチオカーバミン酸テルルなどが挙げられる。
【0072】
グアニジン類としては、ジ−o−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ジカテコールボレードのジ−o−トリルグアニジン塩などが挙げられる。
【0073】
スルフェンアミド類としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなどが挙げられる。
【0074】
上記の加硫促進剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせても良い。なかでも、ジベンゾチアジルスルフィドを用いることが好ましい。
【0075】
加硫促進剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満であると、加硫促進効果を得ることができない。一方、加硫促進剤の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物の硬度が高くなり、第1層をインナーライナーに用いた場合に、空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれがある。さらに、第1層を作製するときの原料費が上昇する。加硫促進剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0076】
(インナーライナーの製造方法)
第1層のみからなる単層構造のインナーライナーは、たとえば以下の方法で製造することができる。2軸押出機に各配合剤を投入して約150〜280℃、50〜300rpmの条件下で混練し、SIBS、ゴム成分、硫黄および必要に応じて各種添加剤が動的架橋された第1層を構成する組成物のペレットを得る。得られたペレットをTダイ押出機に投入して、所望の厚さの第1層を得る。
【0077】
2軸押出機中では、熱可塑性樹脂組成物であるSIBSがマトリックス相となり、ゴム成分が島相となり分散する。さらに、2軸押出機中で、ゴム成分と添加剤成分とが反応し、島相であるゴム成分が架橋反応する。ゴム成分が2軸押出機中で動的に架橋されることから動的架橋と呼ばれている。2軸押出機中でゴム成分が架橋しても、系のマトリックス相は熱可塑性樹脂成分からなるため、系全体のせん断粘度が低く、押出加工が可能となる。
【0078】
2軸押出機で得られた動的架橋された第1層を構成する組成物のペレットは、ゴム成分は架橋しているが、マトリックス相の熱可塑性樹脂成分は可塑性を保持しており、系全体の可塑性を生み出す役割を果たしている。そのため、Tダイ押出においても可塑性を示すため、シート状に成形することが可能になる。
【0079】
さらに動的架橋されたポリマー組成物のペレットはゴム成分が架橋しているため、該ペレットを用いて作製された第1層をインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造する際に空気入りタイヤを加熱しても、カーカス層へのインナーライナーを構成する材料の侵入を防止することができる。
【0080】
上記のインナーライナーは、第1層のみの場合を説明したが、それのみに限られるものではなく、第1層および第2層を含む複層構造であってもよい。複層構造の場合のインナーライナーの構造を図11を用いて説明する。
【0081】
インナーライナー30は、図11に示されるように、上述した第1層31に加えて、第2層32を含むことが好ましい。かかる第2層32は、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、硫黄を0.1質量部以上5質量部以下含む熱可塑性樹脂組成物よりなることが好ましい。ここで、第1層31は、上記で述べたとおりのものを用いる。
【0082】
インナーライナー30の合計厚みは、0.05mm以上0.6mm以下が好ましい。インナーライナーの合計厚みが0.05mm未満であると、該インナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、該インナーライナーがプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、インナーライナーの合計厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。インナーライナーの合計厚みは、さらに0.05mm以上0.4mm以下であることが好ましい。さらに、第1層の厚みが0.1mm以上0.59mm以下であり、第2層の厚みが0.01mm以上0.2mm以下であることが好ましい。
【0083】
(第2層)
上記の第2層は、熱可塑性エラストマーおよび硫黄を含む熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。熱可塑性エラストマーに硫黄を添加することにより、第1層との未加硫粘着力および加硫接着力を向上させることができる。さらに、カーカス層やインスレーション層などの隣接部材との未加硫粘着力および加硫接着力も向上する。
【0084】
(熱可塑性エラストマー)
第2層に含まれる熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブテン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレントリブロック共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。なお、これらの熱可塑性エラストマーはエポキシ基を有するエポキシ変性熱可塑性エラストマーであってもよい。なかでも、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体またはエポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体を用いることが好ましい。以下、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体を説明する。
【0085】
(スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体)
スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう)のイソプレンブロックはソフトセグメントであるため、SISを含む熱可塑性樹脂組成物はゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SISを含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、エアーインを防ぐことができ、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0086】
SISの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC法による重量平均分子量が10万以上29万以下であることが好ましい。重量平均分子量が10万未満であると引張強度が低下するおそれがあり、29万を超えると押出加工性が悪くなるため好ましくない。
【0087】
SIS中のスチレン単位の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0088】
SISは、イソプレン単位とスチレン単位のモル比(イソプレン単位/スチレン単位)が、90/10〜70/30であることが好ましく、より好ましくは86/14〜77/23である。SISにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソプレンブロックでは500〜5,000程度、またスチレンブロックでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0089】
SISは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、リビングカチオン重合法により得ることができる。
【0090】
SISを含む第2層は、SIS、硫黄およびその他の添加剤をバンバリーミキサーで混合したのち、押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをシート化する通常の方法によって得ることができる。
【0091】
(スチレン−イソブチレンジブロック共重合体)
スチレン−イソブチレンジブロック共重合体(以下、SIBともいう)のイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SIBを含む熱可塑性樹脂組成物はゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SIBを含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、エアーインを防ぐことができ、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0092】
SIBとしては、直鎖状のものを用いることがゴム弾性および接着性の観点から好ましい。
【0093】
SIBの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC法による重量平均分子量が4万以上12万以下であることが好ましい。重量平均分子量が4万未満であると引張強度が低下するおそれがあり、12万を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0094】
SIB中のスチレン単位の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
【0095】
該SIBは、イソブチレン単位とスチレン単位のモル比(イソブチレン単位/スチレン単位)が、90/10〜65/35であることが好ましい。SIBにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソブチレンブロックでは300〜3,000程度、またスチレンブロックでは10〜1,500程度であることが好ましい。
【0096】
SIBは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、リビングカチオン重合法により得ることができる。
【0097】
国際公開第2005/033035号には、攪拌機にメチルシクロヘキサン、n−ブチルクロライド、クミルクロライドを加え、−70℃に冷却した後、2時間反応させ、その後大量メタノールを添加して反応を停止させ、60℃で真空乾燥してSIBを得るという製造方法が開示されている。
【0098】
SIBを含む第2層は、SIB、硫黄およびその他の添加剤をバンバリーミキサーで混合したのち、押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをシート化する通常の方法によって得ることができる。
【0099】
(エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体)
エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体(以下、エポキシ化SBS)は、ハードセグメントがポリスチレンブロック、ソフトセグメントがブタジエンブロックであり、ブタジエンブロックに含まれる不飽和二重結合部分をエポキシ化した熱可塑性エラストマーである。エポキシ化SBSはソフトセグメントを有するため、エポキシ化SBSを含む熱可塑性樹脂組成物はゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、エポキシ化SBSを含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、エアーインを防ぐことができ、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0100】
エポキシ化SBSの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC法による重量平均分子量が1万以上40万以下であることが好ましい。重量平均分子量が1万未満であると補強効果が低下するおそれがあり、40万を超えると熱可塑性樹脂組成物の粘度が上昇するおそれがあるため好ましくない。
【0101】
エポキシ化SBS中のスチレン単位の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0102】
エポキシ化SBSは、ブタジエン単位とスチレン単位のモル比(ブタジエン単位/スチレン単位)が、90/10〜70/30であることが好ましい。エポキシ化SBSにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からブタジエンブロックでは500〜5,000程度、またスチレンブロックでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0103】
エポキシ化SBSを含む第2層は、SIB、硫黄およびその他の添加剤をバンバリーミキサーで混合したのち、押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをシート化する通常の方法によって得ることができる。
【0104】
(硫黄)
硫黄は、第1層に用いられるものと同様のものを用いることができる。硫黄の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である。硫黄の含有量が0.1質量部未満であると、架橋反応をしないおそれがある。一方、硫黄の含有量が5質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の架橋密度が上がり粘度が上昇するおそれがある。硫黄の含有量は、さらに0.3質量部以上3質量部以下が好ましい。
【0105】
ステアリン酸の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。ステアリン酸の含有量が1質量部未満であると、加硫しないおそれがある。一方、ステアリン酸の含有量が5質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の破壊強度の低下のおそれがある。ステアリン酸の含有量は、さらに1質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0106】
酸化亜鉛の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上8質量部以下であることが好ましい。酸化亜鉛の含有量が0.1質量部未満であると、加硫しないおそれがある。一方、酸化亜鉛の含有量が8質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の硬度が高くなり耐久性が低下するおそれがある。酸化亜鉛の含有量は、さらに0.5質量部以上6質量部以下が好ましい。
【0107】
老化防止剤の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。老化防止剤の含有量が0.1質量部未満であると、老化防止効果が得られないおそれがある。一方、老化防止剤の含有量が5質量部を超えると、ブルーミング現象が発生するおそれがある。老化防止剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0108】
加硫促進剤の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満であると、加硫促進効果を得られないおそれがある。一方、加硫促進剤の含有量が5質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の硬度が高くなり、耐久性が低下するおそれがある。さらに、熱可塑性樹脂組成物の原料費が上昇する。加硫促進剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0109】
(インナーライナーの製造方法)
このような第1層および第2層を含む複層構造のインナーライナーは、たとえば以下の方法で製造することができる。上述したように第1層を作製し、さらに押出成形やカレンダー成形などによって熱可塑性樹脂組成物をシート化して第2層を作製する。第1層と第2層とを貼り合わせて2層構造のインナーライナーを得る。また、ポリマー組成物および熱可塑性樹脂組成物のそれぞれのペレットをラミネート押出や共押出などの積層押出をして作製することもできる。
【0110】
このような第1層の厚みは、0.05mm以上0.6mm以下が好ましい。第1層の厚みが0.05mm未満であると、該インナーライナーを用いた生タイヤの加硫時に、該第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、第1層の厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。さらに、第2層の厚みが0.01mm以上0.3mm以下であることが好ましい。
【0111】
インナーライナーは、図12に示されるように3層の積層構造のものであってもよい。かかるインナーライナー40は、ポリマー成分および硫黄を含むポリマー組成物よりなる第1層41ならびに熱可塑性エラストマーおよび硫黄を含む熱可塑性樹脂組成物よりなる第2層42を備える。かかる第2層42は、それぞれ異なる種類の熱可塑性樹脂組成物よりなる第2a層42aおよび第2b層42bを備える。
【0112】
このようなインナーライナーの厚みは、0.05mm以上0.6mm以下が好ましい。インナーライナーの厚みが0.05mm未満であると、該インナーライナーを用いた生タイヤの加硫時に、該インナーライナーがプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、インナーライナーの厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。さらに、第1層の厚みが0.1mm以上0.59mm以下であり、第2a層の厚みが0.01mm以上0.2mm以下、第2b層の厚みが0.01mm以上0.2mm以下であることが好ましい。
【0113】
なお、図12においては、第2層42が、第2a層42aおよび第2b層42bの2層から構成されているが、第2層42は、さらに第2c層のように、熱可塑性樹脂組成物からなる層を3層以上含んでいてもよい。かかる第2c層は、第1層と第2a層との間に設けてもよいし、第1層と第2b層との間に設けてもよいし、第2a層と第2b層との間に設けてもよい。
【0114】
上記の第2層を構成する第2a層42aおよび第2b層42bは、それぞれ熱可塑性樹脂エラストマーがスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体よりなるSIS層、熱可塑性エラストマーがスチレン−イソブチレンジブロック共重合体よりなるSIB層、および熱可塑性エラストマーがエポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体よりなるエポキシ化SBS層の中から選択される。なかでも第2a層42aとして、SIS層、第2b層42bとしてエポキシ化SBS層を用いることが好ましい。
【0115】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、たとえば以下の方法で製造することができる。
【0116】
単層構造のインナーライナーまたは複層構造のインナーライナーを用いて生タイヤを作製する。複層構造のインナーライナーを用いる場合は、第2層をカーカスやインスレーションに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置することが好ましい。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、第2層とカーカスまたはインスレーションなどの隣接部材とが加硫接着することができる。したがって得られた空気入りタイヤにおいて、インナーライナーが隣接部材と良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0117】
次に、生タイヤを金型に装着し、ブラダーにより150〜180℃で3〜50分間、加圧しつつ加熱して加硫タイヤを得る。次に、得られた加硫タイヤを50〜120℃で10〜300秒間冷却することが好ましい。
【0118】
空気入りタイヤは、上述の単層構造または複層構造のインナーライナーを用いる。該インナーライナーを構成するSIBS、SIS、SIB、エポキシ化SBSなどは熱可塑性樹脂である。このため、加硫タイヤを得る工程において、たとえば150〜180℃に加熱されると、金型内で軟化状態となる。軟化状態の熱可塑性樹脂は、固体状態よりも反応性が向上するため、隣接部材と融着する。すなわち、膨張したブラダーの外側表面と接するインナーライナーは、加熱により軟化してブラダーに融着してしまう。インナーライナーとブラダーの外側表面が融着した状態で加硫タイヤを金型から取り出そうとすると、インナーライナーが、隣接するインスレーションやカーカスから剥離してしまい、エアーイン現象が生じてしまう。また、タイヤの形状自体が変形してしまう場合もある。
【0119】
そこで、得られた加硫タイヤを直ちに120℃以下で10秒以上急冷することにより、インナーライナーに用いられている熱可塑性樹脂を固化させることができる。熱可塑性樹脂が固化すると、インナーライナーとブラダーとの融着が解消し、加硫タイヤを金型から取り出す際の離型性が向上する。
【0120】
冷却温度は50〜120℃が好ましい。冷却温度が50℃より低いと、特別な冷却媒体を準備する必要があり、生産性を悪化させるおそれがある。冷却温度が120℃を超えると、熱可塑性樹脂が十分に冷却されず、金型開放時にインナーライナーがブラダーに融着したままとなり、エアーイン現象が発生するおそれがある。冷却温度は、70〜100℃であることがさらに好ましい。
【0121】
冷却時間は10〜300秒間が好ましい。冷却時間が10秒より短いと熱可塑性樹脂が十分に冷却されず、金型開放時にインナーライナーがブラダーに融着したままとなり、エアーイン現象が発生する恐れがある。冷却時間が300秒を超えると生産性が悪くなる。冷却時間は、30〜180秒であることがさらに好ましい。
【0122】
加硫タイヤを冷却する工程は、ブラダー内を冷却して行うことが好ましい。ブラダー内は空洞であるため、加硫工程終了後にブラダー内に冷却温度に調整された冷却媒体を導入することができる。かかる冷却媒体としては、空気、水蒸気、水、およびオイルからなる群より選択される1種以上を用いることができる。
【0123】
なお、加硫タイヤを冷却する工程は、ブラダー内を冷却することと併せて、金型に冷却構造を設置して実施することも可能である。
【0124】
冷却媒体としては、空気、水蒸気、水およびオイルよりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。なかでも、冷却効率に優れている水を用いることが好ましい。
【実施例1】
【0125】
<実施例1〜6、比較例1:細溝>
(カーカス層の作製)
実施例1〜6の空気入りタイヤにおいては、インナーライナーに隣接する未加硫のカーカス層に対し、図4または図5に示される形状の細溝を設けた。一方、比較例1の空気入りタイヤにおいては、細溝を設けないカーカス層を用いた。図4の細溝は、図1の空気入りタイヤの点Aからカーカス層のエッジまで細溝を設けたものである。一方、図5の細溝は、図4の細溝に対し、さらに短い細溝を加えたものであり、かかる短い細溝は、図1の点Cからカーカス層のエッジまで細溝を設けたものである。これらの細溝の総容積および深さを表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
<実施例7〜14:通気性の糸>
実施例7〜14の空気入りタイヤにおいては、インナーライナーに隣接する未加硫のカーカス層に対し、実施例1〜6の細溝に代えて、通気性の糸を用いたことが異なる他は、実施例1〜6と同様のカーカス層を作製した。かかる通気性の糸の総体積および配列本数を表2に示す。
【0128】
【表2】
【0129】
<実施例15〜18:細穴>
実施例15〜18の空気入りタイヤにおいては、インナーライナーに隣接する未加硫のカーカス層に対し、実施例1〜6の細溝に代えて、細穴を設けたことが異なる他は、実施例1〜6と同様のカーカス層を作製した。かかる細穴の総面積および細穴の径を表3に示す。
【0130】
【表3】
【0131】
(インナーライナーの作製)
まず、第1層を構成する材料として、60質量部のIIR(エクソンモービル株式会社、製品名:エクソンクロロブチル1066)と、40質量部のスチレンーイソブチレンースチレントリブロック共重合体(SIBS:カネカ株式会社製、製品名:シブスターSIBSTAR 102T)と、3質量部のステアリン酸(花王株式会社製、製品名:ステアリン酸ルナックS30)と、5質量部の酸化亜鉛(三井金属鉱業株式会社製、製品名:亜鉛華1号)と、1質量部の老化防止剤(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学株式会社製、製品名:ノクラック6C)と、1質量部の加硫促進剤(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学株式会社製、製品名:ノクセラーDM)と、0.5質量部の硫黄(鶴見化学工業株式会社、製品名:粉末硫黄)とを配合して、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:200℃)に投入し、200rpmで混練してペレット化した。得られたペレットをTダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイグリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃、フィルムゲージ:0.3mm)に投入した。
【0132】
次に、第2層を構成する材料として、100質量部のスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS、クレイトンポリマー社製、製品名:D1161JP、重量平均分子量150,000、スチレン単位含有量15質量%)と、3質量部のステアリン酸(花王株式会社製、製品名:ステアリン酸ルナックS30)と、5質量部の酸化亜鉛(三井金属鉱業株式会社製、製品名:亜鉛華1号)と、1質量部の老化防止剤(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学株式会社製、製品名:ノクラック6C)と、1質量部の加硫促進剤(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学株式会社製、製品名:ノクセラーDM)と、0.5質量部の硫黄(鶴見化学工業株式会社製、製品名:粉末硫黄)とを配合して、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:200℃)に投入した。
【0133】
そして、2軸押出機において、200rpmで混練してペレット化した。得られたペレットを共押出機(シリンダ温度:200℃)に投入し、共押出方によって、第1層および第2層からなる複層のインナーライナーを厚さ0.3mmで作製した。
【0134】
(空気入りタイヤの作製)
上記で作製したインナーライナーを空気入りタイヤに用いて生タイヤを準備した。なお、インナーライナーは、第1層が生タイヤの半径方向の最も内側に配置され、第2層が生タイヤのカーカス層に接するように配置した。該生タイヤを金型内で170℃で20分間プレス成形して、195/65R15サイズの加硫タイヤを作製した。加硫タイヤを100℃で3分間冷却した後、加硫タイヤを金型から取り出し空気入りタイヤを得た。得られた空気入りタイヤを用いて以下の評価を行った。
【0135】
(評価結果)
試験結果を表1〜表3に示す。
【0136】
<タイヤの性能評価>
各実施例および各比較例の空気入りタイヤのエアーイン性能および屈曲亀裂成長性を以下の方法によって評価した。
【0137】
<(a)エアーイン性能>
加硫後のタイヤ内側を外観で検査し、以下の基準で評価を行なった。
A: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が0個であって、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個の場合。
B: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が1〜3個であって、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個の場合。
C: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が4個以上、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が1個以上の場合。
【0138】
<(b)屈曲亀裂成長試験>
上記で作製した各実施例および各比較例の空気入りタイヤに対し、耐久走行試験を行なうことにより、インナーライナーが割れたり剥がれたりするかを評価した。具体的には、上記で作製した空気入りタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、タイヤ内圧を150kPaとして通常よりも低内圧に設定し、荷重600kg、速度100km/h、走行距離20,000kmで走行した後のタイヤの内部を観察し、かかるタイヤの内部に発生した亀裂および剥離の数を測定した。そして、比較例1の空気入りタイヤに発生する亀裂を基準(100)とし、それに対する各実施例の空気入りタイヤに発生した亀裂成長性を下記の算出式に基づいて指数で表示し、その結果を表1〜表3の「亀裂成長性指数」の欄に示した。なお、亀裂成長性指数の値が大きいほど、耐亀裂成長性が優れることを示す。
【0139】
(亀裂成長性指数)=(比較例1の亀裂数)÷(各配合の亀裂数)×100。
(総合判定)
上記のエアーイン性能および屈曲亀裂成長性を含めた総合判定の判定基準は表4の通り。
【0140】
【表4】
【0141】
表1に示される結果から明らかなように、実施例1〜6のようにカーカス層に細溝を設けた空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が優れていた。これに対し、比較例1のようにカーカス層に細溝を設けない空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が悪かった。この結果から、カーカス層に細溝を設けることにより、インナーライナーとカーカス層の間に混入するエアを除去することができることを導き出すことが明らかである。
【0142】
表2に示される結果から明らかなように、実施例7〜14のようにカーカス層に通気性の糸を設けた空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が優れていた。これに対し、比較例1のようにカーカス層に通気性の糸を設けない空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が悪かった。この結果から、カーカス層に通気性の糸を設けることにより、インナーライナーとカーカス層の間に混入するエアを除去することができることが明らかである。
【0143】
表3に示される結果から明らかなように、実施例15〜18のようにカーカス層に細穴を設けた空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が優れていた。これに対し、比較例1のようにカーカス層に細穴を設けない空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が悪かった。この結果から、カーカス層に細穴を設けることにより、インナーライナーとカーカス層の間に混入するエアを除去することができることが明らかである。
【0144】
以上の結果から、カーカス層のインナーライナーと接する側に通気経路を設けることにより、カーカス層とインナーライナーとの接する面にエアが混入されにくくなり、もってインナーライナーの空気保持性および空気入りタイヤの耐久性を向上させることができることが明らかとなった。
【0145】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0146】
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカス層、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー、14 通気経路、16 通気性の糸、17 貫通する細穴、20,30,40 インナーライナー、31,41 第1層、32,42 第2層、42a 第2a層、42b 第2b層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関し、特に、インナーライナーと隣接部材との間にエアが混入されにくい空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請から、タイヤの軽量化が図られている。タイヤ部材の中で、タイヤ半径方向の内側に配置され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れの量(空気透過量)を低減して耐空気透過性を向上させる働きを有するインナーライナーにおいても、軽量化が行なわれるようになってきた。
【0003】
現在、インナーライナー用ゴム組成物は、ブチルゴム70〜100質量%および天然ゴム30〜0質量%を含むブチル系ゴムを使用することで、タイヤの耐空気透過性を向上させることが行なわれている。また、ブチル系ゴムはブチレン以外に約1質量%のイソプレンを含み、これが硫黄、加硫促進剤、亜鉛華と相俟って、隣接ゴムとの共架橋を可能にしている。上記ブチル系ゴムは、通常の配合では乗用車用タイヤでは0.6〜1.0mm、トラック・バス用タイヤでは1.0〜2.0mm程度の厚みが必要となる。
【0004】
そこで、タイヤの軽量化を図るための試みとして、インナーライナーを構成する材料に、ブチル系ゴムよりも耐空気透過性に優れ、厚みを薄くすることができるポリマーを用いることが提案されている。たとえば、従来技術では、インナーライナー層を軽量化するために、ブチル系ゴムに代えて、熱可塑性エラストマーを用いることが提案されている。
【0005】
しかし、ブチル系ゴムよりも薄い厚みであって、かつ高い耐空気透過性を示す熱可塑性エラストマーは、インナーライナーに隣接するインスレーションゴムやカーカスゴムとの加硫接着力が、ブチル系ゴムよりも劣っている。このため、インナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間に空気が混入して小さな気泡が多数現れる(エアーイン現象)が生じる。
【0006】
このエアーイン現象は、タイヤの内側に小さな斑模様が見えるため外観が悪いという印象をユーザーに与えてしまう他、走行中にエアーを起点としてインナーライナーとインスレーションまたはカーカスとに剥離が生じ、インナーライナーに亀裂が生じてタイヤ内圧が低下するという問題もあり、最悪な場合はタイヤがバーストしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−274359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにインナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間に混入される空気を逃がすための試みとして、たとえば特許文献1(特開2009−274359号公報)には、インスレーションゴムまたはカーカスゴムにエアを逃がす経路を設けている。
【0009】
しかしながら、インナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの接着力が十分ではなく、加硫後にインナーライナーとインスレーションゴムまたはカーカスゴムとの間に、エアを抱き込んでしまうという問題が生じている。
【0010】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インナーライナーとそれに隣接する隣接部材との未加硫粘着性および加硫接着性を十分に有し、かつその間のエアを逃がすことができる空気入りタイヤの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを成型する際に、インナーライナーに隣接する隣接部材が、インナーライナーに隣接する側に、空気を逃がすための通気経路を有し、該隣接部材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはブチルゴムのいずれかのゴム種からなるインスレーション層、もしくはコードに未加硫ゴムシートをトッピングしたカーカス層であり、該インナーライナーは、少なくとも第1層を含む単層構造または複層構造であり、該第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体、または該スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を含む熱可塑性エラストマーのいずれかからなることを特徴とする。
【0012】
上記の通気経路は、インナーライナーの少なくとも端部に面することが好ましい。上記のインナーライナーの端部に面する通気経路の配列密度は、インナーライナーの端部に面する通気経路以外の部分の通気経路の配列密度よりも高いことが好ましい。インナーライナーは、左右のビート部の間に延在し、隣接部材がビート部にインナーライナーの少なくとも端部に隣接して配置されることが好ましい。
【0013】
通気経路は、隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた細溝からなることが好ましい。該細溝は、その単位面積当たりの総容積が2.0〜30.0mm3/cm2であることが好ましい。細溝は、その深さが1.0mm以下であることが好ましい。
【0014】
通気経路は、隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた通気性の糸からなることが好ましい。該通気性の糸は、その単位面積当たりの総体積が0.5〜30.0mm3/cm2であることが好ましい。通気性の糸は、その単位長さ当たりの配列本数が10〜100本/mであることが好ましい。通気経路は、隣接部材のエッジまで延在することが好ましい。
【0015】
通気経路は、隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた複数の貫通する細穴からなることが好ましく、該細穴は、その単位面積当たりの総面積が0.002〜5.0mm2/cm2であることがより好ましい。細穴は、その径が1.5mm以下であることが好ましい。
【0016】
第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体であり、かつスチレンを10〜30質量%含むことが好ましい。
【0017】
上記のインナーライナーは、さらに第2層を含む複層構造であって、該第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体からなるSIS層またはスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなるSIB層を1層または2層以上含むか、または、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソブチレンブロック共重合体のいずれか一方もしくは両方を含む熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。
【0018】
SIS層に含まれるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体は、そのスチレン/イソプレンの重合比が10/90〜30/70であることが好ましい。
【0019】
SIB層に含まれるスチレン−イソブチレンブロック共重合体は、その重量平均分子量が4万〜12万であり、かつスチレン/エチレンの重合比が10/90〜35/65であることが好ましい。
【0020】
本発明は、上記の空気入りタイヤの製造方法により製造した空気入りタイヤに関するものでもある。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、上記のような構成を有することにより、インナーライナーとそれに隣接する隣接部材との未加硫粘着性および加硫接着性を十分に有し、かつその間のエアを逃がすことができる空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の製造方法によって製造される空気入りタイヤの右半分を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材の一例を上面から見たときの模式図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材の一例を上面から見たときの模式図である。
【図4】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材の一例を上面から見たときの模式図である。
【図5】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材の一例を上面から見たときの模式図である。
【図6】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に通気性の糸を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。
【図7】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に細溝および通気性の糸を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。
【図8】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に貫通する細穴を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。
【図9】本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に細溝および貫通する細穴を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。
【図10】本発明の空気入りタイヤに用いる単層構造のインナーライナーを示す模式的断面図である。
【図11】本発明の空気入りタイヤに用いる複層構造のインナーライナーを示す模式的断面図である。
【図12】本発明の空気入りタイヤに用いる複層構造のインナーライナーを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<空気入りタイヤ>
本発明の製造方法によって製造される空気入りタイヤの構造を、図1を用いて説明する。図1は、本発明の製造方法によって製造される空気入りタイヤの右半分を示す模式的断面図である。空気入りタイヤ1は、乗用車用、トラック・バス用、重機用などとして用いることができる。空気入りタイヤ1は、トレッド部2とサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部4にわたって設けられ、両端を折り返してビードコア5を係止するカーカス層6と、該カーカス層6のクラウン部外側に2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。
【0024】
カーカス層6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。ベルト層7は、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなる2枚のプライを、タイヤ周方向に対してコードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。また、カーカス層はポリエステル、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°の角度に配列されており、カーカス層とその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。なお、インナーライナー9とカーカス層6との間に、インスレーション層が配置されていてもよい。
【0025】
<隣接部材>
本発明における空気入りタイヤ1は、インナーライナー9に隣接して隣接部材が設けられる。かかる隣接部材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはブチルゴムのいずれかのゴム種からなるインスレーション層、もしくはコードに未加硫ゴムシートをトッピングしたカーカス層6である。
【0026】
そして、本発明では、隣接部材のインナーライナー9に隣接する側に、空気を逃がすための通気経路を有することを特徴とする。このようにインナーライナー9に隣接する隣接部材に通気経路を設けることにより、未加硫タイヤを成型する際に、インナーライナー9とカーカス層6との間、またはインナーライナー9とインスレーション層との間に混入されるエアを逃がすことができ、もって未加硫タイヤまたは加硫後のタイヤでもエア溜まりが少ない空気入りタイヤ1を作製することができる。
【0027】
上記の隣接部材に設けられる通気経路は、図2に示されるように全体に設けるのが好ましいが、図3に示されるように中央には設けずに、両端側に設けるものであってもよい。すなわち、隣接部材に設けられる通気経路がインナーライナーの少なくとも端部に面していることが好ましい。このような位置に通気経路を設けることにより、上記のエアを逃がす効果を高めることができる。ここで、「インナーライナーの端部」とは、インナーライナーが途切れる先端の部分を意味し、たとえば図1中におけるビートコア5の略内部に位置する部分をいう。
【0028】
隣接部材に設けられる通気経路14は、図3に示されるように隣接部材の端部に対して一定の角度をなすものに限られるものではなく、図4に示されるように隣接部材の端部に垂直に伸びるものであってもよい。
【0029】
また、図5に示されるように、図4の通気経路14の間にさらにそれよりも短い通気経路14Aをインナーライナーの端部に面する領域に形成することが好ましい。このようにしてインナーライナー9の端部に面する通気経路14の配列密度を、インナーライナー9の端部に面する通気経路14以外の部分の通気経路の配列密度よりも高くすることができ、もってインナーライナー9の端部側に残留する空気を層間外へ逃がしやすくすることができる。
【0030】
ビード部4まで延在するインナーライナー9の端部は、成形する際に空気が取り込まれ易いため、この部分のインナーライナー9とカーカス層またはインスレーション層との間にエアが混入しやすい。したがって、上記のインナーライナー9は、左右のビート部4の間に延在し、該ビート部4に隣接して隣接部材が配置されることが好ましい。
【0031】
<通気経路>
本発明において、通気経路は、上記の隣接部材のインナーライナー9に隣接して設けられ、隣接部材とインナーライナー9との間に混入されるエアを逃がすために設けられるものである。通気経路は、細溝、通気性の糸、および貫通する細穴からなる群より選択される一種以上の形態で隣接部材に設けられる。以下、各形態の通気経路を説明する。
【0032】
(細溝)
上記の通気経路が細溝によって形成される場合、細溝の単位面積当たりの総容積が2.0〜30.0mm3/cm2であることが好ましく、より好ましくは5.0〜25.0mm3/cm2である。2.0mm3/cm2未満であると、隣接部材との間のエアを効果的に逃がすことができないおそれがあり、30.0mm3/cm2を超えると、逆にエア溜まりの原因となる。このような細溝は、その深さが0.3mm以上1.0mm以下であることが好ましい。1.0mmを超えると、逆にエア溜まりの原因となるため好ましくなく、0.3mm未満であると、エアを効率的に逃すことができない。
【0033】
(通気性の糸)
図6は、本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に通気性の糸を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。上記の通気経路が、図6に示されるように、通気性の糸16によって形成される場合、通気性の糸の単位面積当たりの総体積が0.5〜30.0mm3/cm2であることが好ましく、より好ましくは1.0〜25.0mm3/cm2である。0.5mm3/cm2未満であると、隣接部材との間に混入されるエアを効果的に逃がすことができず、30.0mm3/cm2を超えると、インナーライナーと隣接部材との界面における凹凸が増えるため、これらの両部材の接着性が低下してエア溜まりの原因になる。
【0034】
上記の通気性の糸16は、その単位長さ当たりの配列本数が10〜100本/mであることが好ましく、より好ましくは20〜80本/mである。通気性の糸の単位長さ当たりの配列本数が10本/m未満であると、隣接部材との間に混入されるエアを効果的に逃がすことができず、100本/mを超えると、インナーライナーと隣接部材との界面における凹凸が増えるため、これらの両部材の接着性が低下してエア溜まりの原因になる。かかる通気経路は、隣接部材のエッジまで延在して設けられることが好ましい。なお、図7に示されるように、細溝と通気性の糸とを組み合わせて隣接部材に設けてもよい。
【0035】
(貫通する細穴)
図8は、本発明の空気入りタイヤに用いられる隣接部材に貫通する細穴を設けたときの一例を上面から見たときの模式図である。上記の通気経路は、図8に示されるように、隣接部材を貫通するようにして複数の細穴17を設けることによって構成されるものであってもよい。上記の通気経路が、貫通する細穴によって形成される場合、貫通する細穴は、その単位面積当たりの総面積が0.002〜5.0mm2/cm2であることが好ましく、より好ましくは0.01〜4.0mm2/cm2である。上記の細穴の単位面積あたりの総面積が0.002mm2/cm2未満であると、隣接部材との間のエアを効果的に逃がすことができないおそれがある。一方、5.0mm2/cm2を超えると、逆にエア溜まりの原因となるため好ましくない。
【0036】
上記の細穴は、隣接部材の全体に設けることが好ましいが、細溝と同様に、中央部のみに設けずに、インナーライナーの端部のみに設けても、エアを効果的に逃がすことができる。また、細溝と同様に、インナーライナーの端部に面する領域の細穴の配列密度を高めてもよいし、ビート部まで延在するインナーライナーの端部のみに細孔を設けてもよい。
【0037】
上記の細穴の径は、1.5mm以下であることが好ましい。細穴の径が1.5mmを超えると、逆にエア溜まりの原因になるため好ましくない。また、細穴の径の下限値は、上述の単位面積あたりの総面積を満たす範囲であれば特に限定されない。なお、図9に示されるように、細溝と貫通する細穴とを組み合わせて隣接部材に設けてもよい。
【0038】
<インナーライナー>
本発明において、インナーライナー9は、少なくとも第1層を含む単層構造または第1層および第2層を含む複層構造であることが好ましい。該第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう)、または該SIBSを含む熱可塑性エラストマーからなることを特徴とする。以下においては、まず、図10に示される第1層のみからなる単層構造のインナーライナーを説明する。
【0039】
(第1層)
図10に示されるように、第1層20に含まれるSIBSのイソブチレンブロックによって、優れた耐空気透過性を有する。したがって、SIBSを含む第1層をインナーライナーに用いた場合、耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0040】
さらに、SIBSは芳香族以外の分子構造が完全飽和であることにより、劣化硬化が抑制され、優れた耐久性を有する。したがって、図10に示されるSIBSを含む第1層をインナーライナーに用いた場合、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0041】
SIBSを含む第1層をインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造した場合、SIBSを含有させることにより耐空気透過性を確保するため、たとえばハロゲン化ブチルゴムなどの、従来耐空気透過性を付与するために使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用しないか、使用する場合にも使用量の低減が可能である。これによってタイヤの軽量化が可能であり、燃費の向上効果が得られる。
【0042】
かかる第1層は、SIBSを10質量%以上30質量%以下含み、さらに天然ゴム、イソプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種のゴム成分を70質量%以上90質量%以下含むことが好ましい。また、これらのポリマー成分100質量部に対して、硫黄を0.1質量部以上5質量部以下含むことが好ましい。このようにSIBSにゴム成分および硫黄を添加して加熱混合すると、加熱混合中にゴム成分と硫黄とが加硫反応して、SIBSがマトリックス(海)で、ゴム成分が島となる海島構造を形成する。
【0043】
SIBSの含有量が10質量%未満であると、インナーライナーの空気遮断性が低下するおそれがある。一方、SIBSの含有量が30質量%を超えると、隣接部材との加硫接着力が不十分であるおそれがある。SIBSの含有量は空気遮断性の確保の観点から、ポリマー成分中15質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0044】
上記のような海島構造を有する第1層は、SIBSからなるマトリックス相に由来する空気遮断性を有する。さらに、島相を形成するゴム成分は、ゴム成分を含む隣接部材との未加硫粘着性を有するとともに、加熱混合中に隣接部材のゴム成分とも加硫反応をするため、隣接部材との加硫接着性も有する。したがって、SIBSにゴム成分または硫黄を含むことが好ましい。これにより第1層からなるインナーライナーは、空気遮断性に優れると同時に、隣接部材との未加硫粘着性および加硫接着性を有することができる。なお、以下において、第1層に含まれる、SIBS、ゴム成分、および硫黄を併せて「ポリマー成分」と記すこともある。
【0045】
インナーライナーの厚みは、0.05mm以上0.6mm以下が好ましく、より好ましくは、0.05mm以上0.4mm以下である。インナーライナーの厚みが0.05mm未満であると、該第1層をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、該第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、インナーライナーの厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。
【0046】
SIBSの分子量は、特に制限はないが、流動性、成形化工程、ゴム弾性などの観点から、GPC法による重量平均分子量が5万以上40万以下であることが好ましい。重量平均分子量が5万未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、40万を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0047】
SIBSは、一般的にスチレン単位を10質量%以上40質量%以下含む。耐空気透過性と耐久性がより良好になる点で、SIBS中のスチレン単位の含有量は10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0048】
SIBSは、イソブチレン単位とスチレン単位のモル比(イソブチレン単位/スチレン単位)が、該共重合体のゴム弾性の点から40/60〜95/5であることが好ましい。SIBSにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱い(重合度が10,000未満では液状になる)の点からイソブチレンブロックでは10,000〜150,000程度、またスチレンブロックでは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0049】
SIBSは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、リビングカチオン重合法により得ることができる。
【0050】
特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。この他にも、リビングカチオン重合法によるビニル化合物重合体の製造法が、たとえば、米国特許第4,946,899号、米国特許第5,219,948号、特開平3−174403号公報などに記載されている。
【0051】
SIBSは分子内に芳香族以外の二重結合を有していないために、たとえばポリブタジエンなどの分子内に二重結合を有している重合体に比べて紫外線に対する安定性が高く、耐候性が良好である。
【0052】
(ゴム成分)
インナーライナーを構成する第1層は、ゴム成分を含むことが好ましい。ゴム成分は第1層にゴム成分を含む隣接部材との未加硫粘着性を与えることができる。さらに硫黄と加硫反応することにより、ポリマー組成物にカーカスやインスレーションなどの隣接部材との加硫接着性を与えることができる。
【0053】
ゴム成分は、天然ゴム、イソプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、なかでも破壊強度および接着性の観点から、天然ゴムを含むことが好ましい。
【0054】
ゴム成分の含有量は第1層に含まれるポリマー成分中、60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。ゴム成分の含有量が60質量%未満であると、第1層に含まれるポリマー成分の粘度が高くなり押出加工性が悪化するため、インナーライナーを薄く作製することができないおそれがある。一方、ゴム成分の含有量が95質量%を超えると、インナーライナーの空気遮断性が低下するおそれがある。ゴム成分の含有量は未加硫粘着性および加硫接着性の観点から、第1層を構成するポリマー成分中70質量%以上90質量%以下が好ましい。
【0055】
(硫黄)
インナーライナーを構成する第1層は硫黄を含むことが好ましい。硫黄としては、ゴム工業において加硫時に一般的に用いられる硫黄を用いることができる。中でも不溶性硫黄を用いることが好ましい。ここで不溶性硫黄とは、天然硫黄S8を加熱、急冷し、Sx(x=10万〜30万)となるように高分子量化した硫黄のことをいう。不溶性硫黄を用いることで、通常、硫黄をゴム加硫剤として用いた場合に生じるブルーミングを防止することができる。
【0056】
かかる硫黄の含有量は、第1層に含まれるポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である。硫黄の含有量が0.1質量部未満であると、ゴム成分の加硫効果を得ることができない。一方、硫黄の含有量が5質量部を超えると、第1層の硬度が高くなり、第1層をインナーライナーに用いた場合に、空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれがある。硫黄の含有量は、さらに0.3質量部以上3.0質量部以下が好ましい。
【0057】
(添加剤)
本発明の空気入りタイヤを構成するインナーライナーに用いられる第1層は、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫促進剤などの添加剤を含むことができる。ステアリン酸はゴム成分の加硫助剤として機能する。ステアリン酸の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。ステアリン酸の含有量が1質量部未満であると、加硫助剤としての効果を得ることができない。一方、ステアリン酸の含有量が5質量部を超えると、第1層を構成する成分の粘度が低下し、破壊強度が低下するおそれがあるため好ましくない。ステアリン酸の含有量は、さらに1質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0058】
酸化亜鉛はゴム成分の加硫助剤として機能する。酸化亜鉛の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上8質量部以下であることが好ましい。酸化亜鉛の含有量が0.1質量部未満であると、加硫助剤としての効果を得ることができない。一方、酸化亜鉛の含有量が8質量部を超えると、第1層の硬度が高くなり、第1層をインナーライナーに用いた場合に、空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれがある。酸化亜鉛の含有量は、さらに0.5質量部以上6質量部以下が好ましい。
【0059】
老化防止剤は、老化と呼ばれる酸化劣化、熱劣化、オゾン劣化、疲労劣化などの一連の劣化を防止する機能を有する。老化防止剤は、アミン類やフェノール類からなる一次老化防止剤と硫黄化合物やフォスファイト類からなる二次老化防止剤とに分類される。一次老化防止剤は各種ポリマーラジカルに水素を供与して自動酸化の連鎖反応を停止させる機能を有し、二次老化防止剤はヒドロキシペルオキシドを安定なアルコールに変えることにより安定化作用を示すものである。
【0060】
老化防止剤としては、アミン類、フェノール類、イミダゾール類、リン類またはチオウレア類などが挙げられる。
【0061】
アミン類としては、フェニル−α−ナフチルアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンポリマー、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、p、p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジクミルジフェニルアミン、N,N'-ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N'-ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0062】
フェノール類としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−tert−アミルハイドロキノンなどが挙げられる。
【0063】
イミダゾール類としては、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどが挙げられる。
【0064】
その他、トリス(ノニル化フェニル)フォスファイトなどのリン類、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオウレア、トリブチルチオウレアなどのチオウレア類、オゾン劣化防止用ワックスなどを用いても良い。
【0065】
上記の老化防止剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせても用いても良い。なかでも、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンを用いることが好ましい。
【0066】
老化防止剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。老化防止剤の含有量が0.1質量部未満であると、老化防止効果を得ることができない。一方、老化防止剤の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物にブルーミング現象が発生する。老化防止剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0067】
加硫促進剤としては、チウラム類、チアゾール類、チオウレア類、ジチオカーバミン酸塩類、グアニジン類およびスルフェンアミド類などを用いることができる。
【0068】
チウラム類としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドまたはジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられる。
【0069】
チアゾール類としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、N−シクロヘキシルベンゾチアゾール、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアソールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドまたは、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなどが挙げられる。
【0070】
チオウレア類としては、N,N’−ジエチルチオウレア、エチレンチオウレアまたはトリメチルチオウレアなどが挙げられる。
【0071】
ジチオカーバミン酸塩類としては、ジメチルジチオカーバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカーバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカーバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカーバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカーバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカーバミン酸銅、ジメチルジチオカーバミン酸鉄(III)、ジエチルジチオカーバミン酸セレン、ジエチルジチオカーバミン酸テルルなどが挙げられる。
【0072】
グアニジン類としては、ジ−o−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ジカテコールボレードのジ−o−トリルグアニジン塩などが挙げられる。
【0073】
スルフェンアミド類としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなどが挙げられる。
【0074】
上記の加硫促進剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせても良い。なかでも、ジベンゾチアジルスルフィドを用いることが好ましい。
【0075】
加硫促進剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満であると、加硫促進効果を得ることができない。一方、加硫促進剤の含有量が5質量部を超えると、ポリマー組成物の硬度が高くなり、第1層をインナーライナーに用いた場合に、空気入りタイヤの耐久性能が低下するおそれがある。さらに、第1層を作製するときの原料費が上昇する。加硫促進剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0076】
(インナーライナーの製造方法)
第1層のみからなる単層構造のインナーライナーは、たとえば以下の方法で製造することができる。2軸押出機に各配合剤を投入して約150〜280℃、50〜300rpmの条件下で混練し、SIBS、ゴム成分、硫黄および必要に応じて各種添加剤が動的架橋された第1層を構成する組成物のペレットを得る。得られたペレットをTダイ押出機に投入して、所望の厚さの第1層を得る。
【0077】
2軸押出機中では、熱可塑性樹脂組成物であるSIBSがマトリックス相となり、ゴム成分が島相となり分散する。さらに、2軸押出機中で、ゴム成分と添加剤成分とが反応し、島相であるゴム成分が架橋反応する。ゴム成分が2軸押出機中で動的に架橋されることから動的架橋と呼ばれている。2軸押出機中でゴム成分が架橋しても、系のマトリックス相は熱可塑性樹脂成分からなるため、系全体のせん断粘度が低く、押出加工が可能となる。
【0078】
2軸押出機で得られた動的架橋された第1層を構成する組成物のペレットは、ゴム成分は架橋しているが、マトリックス相の熱可塑性樹脂成分は可塑性を保持しており、系全体の可塑性を生み出す役割を果たしている。そのため、Tダイ押出においても可塑性を示すため、シート状に成形することが可能になる。
【0079】
さらに動的架橋されたポリマー組成物のペレットはゴム成分が架橋しているため、該ペレットを用いて作製された第1層をインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造する際に空気入りタイヤを加熱しても、カーカス層へのインナーライナーを構成する材料の侵入を防止することができる。
【0080】
上記のインナーライナーは、第1層のみの場合を説明したが、それのみに限られるものではなく、第1層および第2層を含む複層構造であってもよい。複層構造の場合のインナーライナーの構造を図11を用いて説明する。
【0081】
インナーライナー30は、図11に示されるように、上述した第1層31に加えて、第2層32を含むことが好ましい。かかる第2層32は、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、硫黄を0.1質量部以上5質量部以下含む熱可塑性樹脂組成物よりなることが好ましい。ここで、第1層31は、上記で述べたとおりのものを用いる。
【0082】
インナーライナー30の合計厚みは、0.05mm以上0.6mm以下が好ましい。インナーライナーの合計厚みが0.05mm未満であると、該インナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、該インナーライナーがプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、インナーライナーの合計厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。インナーライナーの合計厚みは、さらに0.05mm以上0.4mm以下であることが好ましい。さらに、第1層の厚みが0.1mm以上0.59mm以下であり、第2層の厚みが0.01mm以上0.2mm以下であることが好ましい。
【0083】
(第2層)
上記の第2層は、熱可塑性エラストマーおよび硫黄を含む熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。熱可塑性エラストマーに硫黄を添加することにより、第1層との未加硫粘着力および加硫接着力を向上させることができる。さらに、カーカス層やインスレーション層などの隣接部材との未加硫粘着力および加硫接着力も向上する。
【0084】
(熱可塑性エラストマー)
第2層に含まれる熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブテン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレントリブロック共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。なお、これらの熱可塑性エラストマーはエポキシ基を有するエポキシ変性熱可塑性エラストマーであってもよい。なかでも、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体またはエポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体を用いることが好ましい。以下、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体を説明する。
【0085】
(スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体)
スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう)のイソプレンブロックはソフトセグメントであるため、SISを含む熱可塑性樹脂組成物はゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SISを含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、エアーインを防ぐことができ、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0086】
SISの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC法による重量平均分子量が10万以上29万以下であることが好ましい。重量平均分子量が10万未満であると引張強度が低下するおそれがあり、29万を超えると押出加工性が悪くなるため好ましくない。
【0087】
SIS中のスチレン単位の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0088】
SISは、イソプレン単位とスチレン単位のモル比(イソプレン単位/スチレン単位)が、90/10〜70/30であることが好ましく、より好ましくは86/14〜77/23である。SISにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソプレンブロックでは500〜5,000程度、またスチレンブロックでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0089】
SISは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、リビングカチオン重合法により得ることができる。
【0090】
SISを含む第2層は、SIS、硫黄およびその他の添加剤をバンバリーミキサーで混合したのち、押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをシート化する通常の方法によって得ることができる。
【0091】
(スチレン−イソブチレンジブロック共重合体)
スチレン−イソブチレンジブロック共重合体(以下、SIBともいう)のイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SIBを含む熱可塑性樹脂組成物はゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SIBを含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、エアーインを防ぐことができ、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0092】
SIBとしては、直鎖状のものを用いることがゴム弾性および接着性の観点から好ましい。
【0093】
SIBの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC法による重量平均分子量が4万以上12万以下であることが好ましい。重量平均分子量が4万未満であると引張強度が低下するおそれがあり、12万を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0094】
SIB中のスチレン単位の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
【0095】
該SIBは、イソブチレン単位とスチレン単位のモル比(イソブチレン単位/スチレン単位)が、90/10〜65/35であることが好ましい。SIBにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソブチレンブロックでは300〜3,000程度、またスチレンブロックでは10〜1,500程度であることが好ましい。
【0096】
SIBは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、リビングカチオン重合法により得ることができる。
【0097】
国際公開第2005/033035号には、攪拌機にメチルシクロヘキサン、n−ブチルクロライド、クミルクロライドを加え、−70℃に冷却した後、2時間反応させ、その後大量メタノールを添加して反応を停止させ、60℃で真空乾燥してSIBを得るという製造方法が開示されている。
【0098】
SIBを含む第2層は、SIB、硫黄およびその他の添加剤をバンバリーミキサーで混合したのち、押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをシート化する通常の方法によって得ることができる。
【0099】
(エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体)
エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体(以下、エポキシ化SBS)は、ハードセグメントがポリスチレンブロック、ソフトセグメントがブタジエンブロックであり、ブタジエンブロックに含まれる不飽和二重結合部分をエポキシ化した熱可塑性エラストマーである。エポキシ化SBSはソフトセグメントを有するため、エポキシ化SBSを含む熱可塑性樹脂組成物はゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、エポキシ化SBSを含む熱可塑性樹脂組成物をインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、エアーインを防ぐことができ、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0100】
エポキシ化SBSの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC法による重量平均分子量が1万以上40万以下であることが好ましい。重量平均分子量が1万未満であると補強効果が低下するおそれがあり、40万を超えると熱可塑性樹脂組成物の粘度が上昇するおそれがあるため好ましくない。
【0101】
エポキシ化SBS中のスチレン単位の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0102】
エポキシ化SBSは、ブタジエン単位とスチレン単位のモル比(ブタジエン単位/スチレン単位)が、90/10〜70/30であることが好ましい。エポキシ化SBSにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からブタジエンブロックでは500〜5,000程度、またスチレンブロックでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0103】
エポキシ化SBSを含む第2層は、SIB、硫黄およびその他の添加剤をバンバリーミキサーで混合したのち、押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをシート化する通常の方法によって得ることができる。
【0104】
(硫黄)
硫黄は、第1層に用いられるものと同様のものを用いることができる。硫黄の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である。硫黄の含有量が0.1質量部未満であると、架橋反応をしないおそれがある。一方、硫黄の含有量が5質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の架橋密度が上がり粘度が上昇するおそれがある。硫黄の含有量は、さらに0.3質量部以上3質量部以下が好ましい。
【0105】
ステアリン酸の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。ステアリン酸の含有量が1質量部未満であると、加硫しないおそれがある。一方、ステアリン酸の含有量が5質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の破壊強度の低下のおそれがある。ステアリン酸の含有量は、さらに1質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0106】
酸化亜鉛の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上8質量部以下であることが好ましい。酸化亜鉛の含有量が0.1質量部未満であると、加硫しないおそれがある。一方、酸化亜鉛の含有量が8質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の硬度が高くなり耐久性が低下するおそれがある。酸化亜鉛の含有量は、さらに0.5質量部以上6質量部以下が好ましい。
【0107】
老化防止剤の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。老化防止剤の含有量が0.1質量部未満であると、老化防止効果が得られないおそれがある。一方、老化防止剤の含有量が5質量部を超えると、ブルーミング現象が発生するおそれがある。老化防止剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0108】
加硫促進剤の含有量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満であると、加硫促進効果を得られないおそれがある。一方、加硫促進剤の含有量が5質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の硬度が高くなり、耐久性が低下するおそれがある。さらに、熱可塑性樹脂組成物の原料費が上昇する。加硫促進剤の含有量は、さらに0.3質量部以上4質量部以下が好ましい。
【0109】
(インナーライナーの製造方法)
このような第1層および第2層を含む複層構造のインナーライナーは、たとえば以下の方法で製造することができる。上述したように第1層を作製し、さらに押出成形やカレンダー成形などによって熱可塑性樹脂組成物をシート化して第2層を作製する。第1層と第2層とを貼り合わせて2層構造のインナーライナーを得る。また、ポリマー組成物および熱可塑性樹脂組成物のそれぞれのペレットをラミネート押出や共押出などの積層押出をして作製することもできる。
【0110】
このような第1層の厚みは、0.05mm以上0.6mm以下が好ましい。第1層の厚みが0.05mm未満であると、該インナーライナーを用いた生タイヤの加硫時に、該第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、第1層の厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。さらに、第2層の厚みが0.01mm以上0.3mm以下であることが好ましい。
【0111】
インナーライナーは、図12に示されるように3層の積層構造のものであってもよい。かかるインナーライナー40は、ポリマー成分および硫黄を含むポリマー組成物よりなる第1層41ならびに熱可塑性エラストマーおよび硫黄を含む熱可塑性樹脂組成物よりなる第2層42を備える。かかる第2層42は、それぞれ異なる種類の熱可塑性樹脂組成物よりなる第2a層42aおよび第2b層42bを備える。
【0112】
このようなインナーライナーの厚みは、0.05mm以上0.6mm以下が好ましい。インナーライナーの厚みが0.05mm未満であると、該インナーライナーを用いた生タイヤの加硫時に、該インナーライナーがプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、インナーライナーの厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。さらに、第1層の厚みが0.1mm以上0.59mm以下であり、第2a層の厚みが0.01mm以上0.2mm以下、第2b層の厚みが0.01mm以上0.2mm以下であることが好ましい。
【0113】
なお、図12においては、第2層42が、第2a層42aおよび第2b層42bの2層から構成されているが、第2層42は、さらに第2c層のように、熱可塑性樹脂組成物からなる層を3層以上含んでいてもよい。かかる第2c層は、第1層と第2a層との間に設けてもよいし、第1層と第2b層との間に設けてもよいし、第2a層と第2b層との間に設けてもよい。
【0114】
上記の第2層を構成する第2a層42aおよび第2b層42bは、それぞれ熱可塑性樹脂エラストマーがスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体よりなるSIS層、熱可塑性エラストマーがスチレン−イソブチレンジブロック共重合体よりなるSIB層、および熱可塑性エラストマーがエポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体よりなるエポキシ化SBS層の中から選択される。なかでも第2a層42aとして、SIS層、第2b層42bとしてエポキシ化SBS層を用いることが好ましい。
【0115】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、たとえば以下の方法で製造することができる。
【0116】
単層構造のインナーライナーまたは複層構造のインナーライナーを用いて生タイヤを作製する。複層構造のインナーライナーを用いる場合は、第2層をカーカスやインスレーションに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置することが好ましい。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、第2層とカーカスまたはインスレーションなどの隣接部材とが加硫接着することができる。したがって得られた空気入りタイヤにおいて、インナーライナーが隣接部材と良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0117】
次に、生タイヤを金型に装着し、ブラダーにより150〜180℃で3〜50分間、加圧しつつ加熱して加硫タイヤを得る。次に、得られた加硫タイヤを50〜120℃で10〜300秒間冷却することが好ましい。
【0118】
空気入りタイヤは、上述の単層構造または複層構造のインナーライナーを用いる。該インナーライナーを構成するSIBS、SIS、SIB、エポキシ化SBSなどは熱可塑性樹脂である。このため、加硫タイヤを得る工程において、たとえば150〜180℃に加熱されると、金型内で軟化状態となる。軟化状態の熱可塑性樹脂は、固体状態よりも反応性が向上するため、隣接部材と融着する。すなわち、膨張したブラダーの外側表面と接するインナーライナーは、加熱により軟化してブラダーに融着してしまう。インナーライナーとブラダーの外側表面が融着した状態で加硫タイヤを金型から取り出そうとすると、インナーライナーが、隣接するインスレーションやカーカスから剥離してしまい、エアーイン現象が生じてしまう。また、タイヤの形状自体が変形してしまう場合もある。
【0119】
そこで、得られた加硫タイヤを直ちに120℃以下で10秒以上急冷することにより、インナーライナーに用いられている熱可塑性樹脂を固化させることができる。熱可塑性樹脂が固化すると、インナーライナーとブラダーとの融着が解消し、加硫タイヤを金型から取り出す際の離型性が向上する。
【0120】
冷却温度は50〜120℃が好ましい。冷却温度が50℃より低いと、特別な冷却媒体を準備する必要があり、生産性を悪化させるおそれがある。冷却温度が120℃を超えると、熱可塑性樹脂が十分に冷却されず、金型開放時にインナーライナーがブラダーに融着したままとなり、エアーイン現象が発生するおそれがある。冷却温度は、70〜100℃であることがさらに好ましい。
【0121】
冷却時間は10〜300秒間が好ましい。冷却時間が10秒より短いと熱可塑性樹脂が十分に冷却されず、金型開放時にインナーライナーがブラダーに融着したままとなり、エアーイン現象が発生する恐れがある。冷却時間が300秒を超えると生産性が悪くなる。冷却時間は、30〜180秒であることがさらに好ましい。
【0122】
加硫タイヤを冷却する工程は、ブラダー内を冷却して行うことが好ましい。ブラダー内は空洞であるため、加硫工程終了後にブラダー内に冷却温度に調整された冷却媒体を導入することができる。かかる冷却媒体としては、空気、水蒸気、水、およびオイルからなる群より選択される1種以上を用いることができる。
【0123】
なお、加硫タイヤを冷却する工程は、ブラダー内を冷却することと併せて、金型に冷却構造を設置して実施することも可能である。
【0124】
冷却媒体としては、空気、水蒸気、水およびオイルよりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。なかでも、冷却効率に優れている水を用いることが好ましい。
【実施例1】
【0125】
<実施例1〜6、比較例1:細溝>
(カーカス層の作製)
実施例1〜6の空気入りタイヤにおいては、インナーライナーに隣接する未加硫のカーカス層に対し、図4または図5に示される形状の細溝を設けた。一方、比較例1の空気入りタイヤにおいては、細溝を設けないカーカス層を用いた。図4の細溝は、図1の空気入りタイヤの点Aからカーカス層のエッジまで細溝を設けたものである。一方、図5の細溝は、図4の細溝に対し、さらに短い細溝を加えたものであり、かかる短い細溝は、図1の点Cからカーカス層のエッジまで細溝を設けたものである。これらの細溝の総容積および深さを表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
<実施例7〜14:通気性の糸>
実施例7〜14の空気入りタイヤにおいては、インナーライナーに隣接する未加硫のカーカス層に対し、実施例1〜6の細溝に代えて、通気性の糸を用いたことが異なる他は、実施例1〜6と同様のカーカス層を作製した。かかる通気性の糸の総体積および配列本数を表2に示す。
【0128】
【表2】
【0129】
<実施例15〜18:細穴>
実施例15〜18の空気入りタイヤにおいては、インナーライナーに隣接する未加硫のカーカス層に対し、実施例1〜6の細溝に代えて、細穴を設けたことが異なる他は、実施例1〜6と同様のカーカス層を作製した。かかる細穴の総面積および細穴の径を表3に示す。
【0130】
【表3】
【0131】
(インナーライナーの作製)
まず、第1層を構成する材料として、60質量部のIIR(エクソンモービル株式会社、製品名:エクソンクロロブチル1066)と、40質量部のスチレンーイソブチレンースチレントリブロック共重合体(SIBS:カネカ株式会社製、製品名:シブスターSIBSTAR 102T)と、3質量部のステアリン酸(花王株式会社製、製品名:ステアリン酸ルナックS30)と、5質量部の酸化亜鉛(三井金属鉱業株式会社製、製品名:亜鉛華1号)と、1質量部の老化防止剤(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学株式会社製、製品名:ノクラック6C)と、1質量部の加硫促進剤(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学株式会社製、製品名:ノクセラーDM)と、0.5質量部の硫黄(鶴見化学工業株式会社、製品名:粉末硫黄)とを配合して、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:200℃)に投入し、200rpmで混練してペレット化した。得られたペレットをTダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイグリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃、フィルムゲージ:0.3mm)に投入した。
【0132】
次に、第2層を構成する材料として、100質量部のスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS、クレイトンポリマー社製、製品名:D1161JP、重量平均分子量150,000、スチレン単位含有量15質量%)と、3質量部のステアリン酸(花王株式会社製、製品名:ステアリン酸ルナックS30)と、5質量部の酸化亜鉛(三井金属鉱業株式会社製、製品名:亜鉛華1号)と、1質量部の老化防止剤(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、大内新興化学株式会社製、製品名:ノクラック6C)と、1質量部の加硫促進剤(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学株式会社製、製品名:ノクセラーDM)と、0.5質量部の硫黄(鶴見化学工業株式会社製、製品名:粉末硫黄)とを配合して、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:200℃)に投入した。
【0133】
そして、2軸押出機において、200rpmで混練してペレット化した。得られたペレットを共押出機(シリンダ温度:200℃)に投入し、共押出方によって、第1層および第2層からなる複層のインナーライナーを厚さ0.3mmで作製した。
【0134】
(空気入りタイヤの作製)
上記で作製したインナーライナーを空気入りタイヤに用いて生タイヤを準備した。なお、インナーライナーは、第1層が生タイヤの半径方向の最も内側に配置され、第2層が生タイヤのカーカス層に接するように配置した。該生タイヤを金型内で170℃で20分間プレス成形して、195/65R15サイズの加硫タイヤを作製した。加硫タイヤを100℃で3分間冷却した後、加硫タイヤを金型から取り出し空気入りタイヤを得た。得られた空気入りタイヤを用いて以下の評価を行った。
【0135】
(評価結果)
試験結果を表1〜表3に示す。
【0136】
<タイヤの性能評価>
各実施例および各比較例の空気入りタイヤのエアーイン性能および屈曲亀裂成長性を以下の方法によって評価した。
【0137】
<(a)エアーイン性能>
加硫後のタイヤ内側を外観で検査し、以下の基準で評価を行なった。
A: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が0個であって、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個の場合。
B: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が1〜3個であって、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個の場合。
C: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が4個以上、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が1個以上の場合。
【0138】
<(b)屈曲亀裂成長試験>
上記で作製した各実施例および各比較例の空気入りタイヤに対し、耐久走行試験を行なうことにより、インナーライナーが割れたり剥がれたりするかを評価した。具体的には、上記で作製した空気入りタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、タイヤ内圧を150kPaとして通常よりも低内圧に設定し、荷重600kg、速度100km/h、走行距離20,000kmで走行した後のタイヤの内部を観察し、かかるタイヤの内部に発生した亀裂および剥離の数を測定した。そして、比較例1の空気入りタイヤに発生する亀裂を基準(100)とし、それに対する各実施例の空気入りタイヤに発生した亀裂成長性を下記の算出式に基づいて指数で表示し、その結果を表1〜表3の「亀裂成長性指数」の欄に示した。なお、亀裂成長性指数の値が大きいほど、耐亀裂成長性が優れることを示す。
【0139】
(亀裂成長性指数)=(比較例1の亀裂数)÷(各配合の亀裂数)×100。
(総合判定)
上記のエアーイン性能および屈曲亀裂成長性を含めた総合判定の判定基準は表4の通り。
【0140】
【表4】
【0141】
表1に示される結果から明らかなように、実施例1〜6のようにカーカス層に細溝を設けた空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が優れていた。これに対し、比較例1のようにカーカス層に細溝を設けない空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が悪かった。この結果から、カーカス層に細溝を設けることにより、インナーライナーとカーカス層の間に混入するエアを除去することができることを導き出すことが明らかである。
【0142】
表2に示される結果から明らかなように、実施例7〜14のようにカーカス層に通気性の糸を設けた空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が優れていた。これに対し、比較例1のようにカーカス層に通気性の糸を設けない空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が悪かった。この結果から、カーカス層に通気性の糸を設けることにより、インナーライナーとカーカス層の間に混入するエアを除去することができることが明らかである。
【0143】
表3に示される結果から明らかなように、実施例15〜18のようにカーカス層に細穴を設けた空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が優れていた。これに対し、比較例1のようにカーカス層に細穴を設けない空気入りタイヤは、エアーイン性能および屈曲亀裂成長性の両性能が悪かった。この結果から、カーカス層に細穴を設けることにより、インナーライナーとカーカス層の間に混入するエアを除去することができることが明らかである。
【0144】
以上の結果から、カーカス層のインナーライナーと接する側に通気経路を設けることにより、カーカス層とインナーライナーとの接する面にエアが混入されにくくなり、もってインナーライナーの空気保持性および空気入りタイヤの耐久性を向上させることができることが明らかとなった。
【0145】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0146】
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカス層、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー、14 通気経路、16 通気性の糸、17 貫通する細穴、20,30,40 インナーライナー、31,41 第1層、32,42 第2層、42a 第2a層、42b 第2b層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫タイヤを成型する際に、インナーライナーに隣接する隣接部材が、前記インナーライナーに隣接する側に、空気を逃がすための通気経路を有し、
前記隣接部材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはブチルゴムのいずれかのゴム種からなるインスレーション層、もしくはコードに未加硫ゴムシートをトッピングしたカーカス層であり、
前記インナーライナーは、少なくとも第1層を含む単層構造または複層構造であり、
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体、または該スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を含む熱可塑性エラストマーのいずれかからなる、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記通気経路は、前記インナーライナーの少なくとも端部に面する、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記インナーライナーの端部に面する通気経路の配列密度は、前記インナーライナーの端部に面する通気経路以外の部分の通気経路の配列密度よりも高い、請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記インナーライナーは、左右のビート部の間に延在し、
前記隣接部材が前記ビート部に前記インナーライナーの少なくとも端部に隣接して配置される、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記通気経路は、前記隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた細溝からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記細溝は、その単位面積当たりの総容積が2.0〜30.0mm3/cm2である、請求項5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記細溝は、その深さが1.0mm以下である、請求項5または6に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記通気経路は、前記隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた通気性の糸からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記通気性の糸は、その単位面積当たりの総体積が0.5〜30.0mm3/cm2である、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記通気性の糸は、その単位長さ当たりの配列本数が10〜100本/mである、請求項8または9に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
前記通気経路は、前記隣接部材のエッジまで延在する、請求項5〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
前記通気経路は、前記隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた複数の貫通する細穴からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項13】
前記細穴は、その単位面積当たりの総面積が0.002〜5.0mm2/cm2である、請求項12に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項14】
前記細穴は、その径が1.5mm以下である、請求項12または13に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項15】
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体であり、かつスチレンを10〜30質量%含む、請求項1〜14のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項16】
前記インナーライナーは、さらに第2層を含む複層構造であって、
前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体からなるSIS層またはスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなるSIB層を1層または2層以上含むか、または、前記スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体または前記スチレン−イソブチレンブロック共重合体のいずれか一方もしくは両方を含む熱可塑性エラストマーを含む、請求項1〜14のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項17】
前記SIS層に含まれるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体は、そのスチレン/イソプレンの重合比が10/90〜30/70である、請求項16に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項18】
前記SIB層に含まれるスチレン−イソブチレンブロック共重合体は、その重量平均分子量が4万〜12万であり、かつスチレン/エチレンの重合比が10/90〜35/65である、請求項16または17に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法により製造した空気入りタイヤ。
【請求項1】
未加硫タイヤを成型する際に、インナーライナーに隣接する隣接部材が、前記インナーライナーに隣接する側に、空気を逃がすための通気経路を有し、
前記隣接部材は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、またはブチルゴムのいずれかのゴム種からなるインスレーション層、もしくはコードに未加硫ゴムシートをトッピングしたカーカス層であり、
前記インナーライナーは、少なくとも第1層を含む単層構造または複層構造であり、
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体、または該スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を含む熱可塑性エラストマーのいずれかからなる、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記通気経路は、前記インナーライナーの少なくとも端部に面する、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記インナーライナーの端部に面する通気経路の配列密度は、前記インナーライナーの端部に面する通気経路以外の部分の通気経路の配列密度よりも高い、請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記インナーライナーは、左右のビート部の間に延在し、
前記隣接部材が前記ビート部に前記インナーライナーの少なくとも端部に隣接して配置される、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記通気経路は、前記隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた細溝からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記細溝は、その単位面積当たりの総容積が2.0〜30.0mm3/cm2である、請求項5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記細溝は、その深さが1.0mm以下である、請求項5または6に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記通気経路は、前記隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた通気性の糸からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記通気性の糸は、その単位面積当たりの総体積が0.5〜30.0mm3/cm2である、請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記通気性の糸は、その単位長さ当たりの配列本数が10〜100本/mである、請求項8または9に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
前記通気経路は、前記隣接部材のエッジまで延在する、請求項5〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
前記通気経路は、前記隣接部材のインナーライナーに隣接して設けられた複数の貫通する細穴からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項13】
前記細穴は、その単位面積当たりの総面積が0.002〜5.0mm2/cm2である、請求項12に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項14】
前記細穴は、その径が1.5mm以下である、請求項12または13に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項15】
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体であり、かつスチレンを10〜30質量%含む、請求項1〜14のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項16】
前記インナーライナーは、さらに第2層を含む複層構造であって、
前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体からなるSIS層またはスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなるSIB層を1層または2層以上含むか、または、前記スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体または前記スチレン−イソブチレンブロック共重合体のいずれか一方もしくは両方を含む熱可塑性エラストマーを含む、請求項1〜14のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項17】
前記SIS層に含まれるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体は、そのスチレン/イソプレンの重合比が10/90〜30/70である、請求項16に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項18】
前記SIB層に含まれるスチレン−イソブチレンブロック共重合体は、その重量平均分子量が4万〜12万であり、かつスチレン/エチレンの重合比が10/90〜35/65である、請求項16または17に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法により製造した空気入りタイヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−131031(P2012−131031A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261320(P2010−261320)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】
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