説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】耐摩耗性を損なうことなくウェット性能を向上する。
【解決手段】ガラス転移点が−45℃以上のジエン系ゴム(スチレンブタジエンゴム)をゴム成分100質量部中に50質量部以上含有するゴム組成物からなるトレッドゴム部を備えた空気入りタイヤを加硫成形し、加硫成形後のトレッドゴム部の表面に電子線を照射し、電子線照射されたトレッドゴム部の表面に、分子内に炭素−炭素二重結合(ビニル基、イソプロペニル基、アリル基等)と親水基(カルボキシル基、水酸基等)を有する化合物を付与することにより、該化合物をトレッドゴム部表面のジエン系ゴムに反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤにおける湿潤路面での走行性能(以下、ウェット性能)を向上するために、トレッドゴム部を構成するゴム組成物にガラス転移点の高いジエン系ゴムを使用したり、充填剤やオイルの配合量を増加させたりする手法がある。しかしながら、これらの手法による場合、耐摩耗性の低下を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平04−045114号公報
【特許文献2】特開平10−025358号公報
【特許文献3】特開2001−233020号公報
【特許文献4】特開2009−166712号公報
【特許文献5】特開2009−173048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、耐摩耗性を損なうことなくウェット性能を向上するべく鋭意検討する中で、特定の官能基を持つ化合物を、加硫した空気入りタイヤのトレッドゴム部に対して、電子線照射を用いて結合させることを考えた。
【0005】
電子線照射を利用してゴムポリマーに化合物を付与する技術として、上記特許文献1には、架橋されたシリコーンゴムにラジカル重合性モノマーを含浸させた後、電子線照射により該モノマーを重合させることが開示されている。また、上記特許文献2では、天然ゴムラテックスフィルムにモノマーを塗布し、電子線照射により重合体膜を形成することが開示されている。しかしながら、特許文献1ではシリコーンゴムの硬度を高めることを目的としており、また特許文献2ではゴム製品の粘着性を改善することを目的としたものであり、いずれも空気入りタイヤとは無関係の技術である。
【0006】
一方、空気入りタイヤに関連するものとして、上記特許文献3には、加硫成形後のタイヤのトレッド表面に電子線を照射することで、氷雪路面でのグリップ性を維持しつつ、ブロック端部近傍での剛性を高めることが開示されている。同様に、上記特許文献4,5にも、グリップ性を保持しつつ、ブロック剛性を高めたり、操縦安定性や耐摩耗性を向上するために、タイヤ表面に電子線を照射することが開示されている。しかしながら、これらの文献にはいずれも、特定の化合物を塗布し、電子線を照射することについては開示も示唆もされていない。
【0007】
本発明は、耐摩耗性を損なうことなくウェット性能を向上することができる空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、ガラス転移点が−45℃以上のジエン系ゴムをゴム成分100質量部中に50質量部以上含有するゴム組成物からなるトレッドゴム部を備えた空気入りタイヤを加硫成形する工程と、加硫成形後の前記トレッドゴム部の表面に電子線を照射する工程と、分子内に炭素−炭素二重結合と親水基を有する化合物を加硫成形後の前記トレッドゴム部の表面に付与する工程とを含むものである。
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤは、ガラス転移点が−45℃以上のジエン系ゴムをゴム成分100質量部中に50質量部以上含有するゴム組成物からなるトレッドゴム部を備えた空気入りタイヤであって、トレッドゴム部の表面への電子線照射により、分子内に炭素−炭素二重結合と親水基を有する化合物を、当該トレッドゴム部の表面の前記ジエン系ゴムに反応させたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加硫成形後の空気入りタイヤに対し、トレッドゴム部の表面に限定して親水基を導入することができるので、耐摩耗性を損なうことなく、湿潤路面上の水膜とゴムとの親和性を高めてウェット性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る空気入りタイヤの半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る空気入りラジアルタイヤの一例を示したものである。このタイヤは、トレッド部(1)と、左右一対のビード部(2)と、トレッド部(1)とビード部(2)との間に介在する左右一対のサイドウォール部(3)とよりなり、トレッド部(1)の径方向内側に配されたカーカス層(4)が、そこから両側のサイドウォール部(3)を経てビード部(2)でビードコア(5)の内側から外側に巻き上げられることにより係止されている。
【0014】
トレッド部(1)におけるカーカス層(4)の外周側にはベルト層(6)が配されており、該ベルト層(6)の外周側に接地面を構成するトレッドゴム部(7)が設けられている。トレッドゴム部(7)の表面には、周方向に延びる縦溝やこれに交差する方向に延びる横溝などの複数の溝(8)が設けられている。このような構造を持つ空気入りタイヤは、常法に従い、グリーンタイヤ(未加硫タイヤ)を作製した後、加硫成形することにより製造することができる。
【0015】
本実施形態では、上記トレッドゴム部(7)を形成するゴム組成物として、ガラス転移点(Tg)が−45℃以上のジエン系ゴムをゴム成分100質量部中に50質量部以上含有するゴム組成物を用いる。
【0016】
ガラス転移点が−45℃以上のジエン系ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられ、これらの中でも特にスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。該ジエン系ゴムのガラス転移点が−45℃未満では、常温域での該ジエン系ゴムポリマーの動きが大きく、電子線照射により該ポリマー上に発生したラジカルの消失が早くなる。そのため、分子内に炭素−炭素二重結合と親水基を有する化合物との反応率が低くなってしまい、ウェット性能の改善効果が不十分となる。ガラス転移点の下限は特に限定されないが、タイヤのトレッドゴム部としての使用を考慮すると、0℃以下が好ましく、より好ましくは−10℃以下である。ガラス転移点は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて(測定温度範囲:−150℃〜50℃)測定される値である。
【0017】
上記ゴム成分は、ガラス転移点が−45℃以上のジエン系ゴムを50質量%以上含有する。より好ましくは60質量%以上である。50質量%未満では、ウェット性能の改善効果が不十分となる。なお、ゴム成分としては、ガラス転移点が−45℃以上のジエン系ゴム単独であってもよく、また、他のジエン系ゴムとのブレンドであってもよい。ブレンドされる他のジエン系ゴムとしては、ガラス転移点が−45℃未満である各種ジエン系ゴムを用いることができる。例えば、ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)などが挙げられ、また、ガラス転移点が−45℃未満であるスチレンブタジエンゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム及びスチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムを用いてもよい。
【0018】
上記ゴム組成物には、充填剤として、カーボンブラック及び/又はシリカを配合することができる。該充填剤の配合量は、特に限定されないが、上記ゴム成分100質量部に対して40〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは60〜120質量部である。カーボンブラックとしては、特に限定するものではないが、SAFクラス(N100番台)、ISAFクラス(N200番台)、HAFクラス(N300番台)(ともにASTMグレード)のものが好ましく用いられる。また、上記シリカとしては、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカなどが挙げられ、特に含水珪酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。なお、充填剤としてシリカを配合する場合、スルフィドシランやメルカプトシランなどのシランカップリング剤を併用することが好ましく、シランカップリング剤は、通常、シリカ100質量部に対して2〜25質量部にて用いることができる。
【0019】
上記ゴム組成物には、その他に、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を適宜配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0020】
上記ゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて混練することで調製され、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤのトレッドゴム部(7)を形成することができる。なお、空気入りタイヤのトレッドゴム部には、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、接地面を構成するゴムに好ましく用いられる。すなわち、単層構造のものであれば、当該トレッドゴム部が上記ゴム組成物からなり、2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【0021】
以上のようにして加硫成形した後、本実施形態では、そのトレッドゴム部(7)の表面に電子線を照射する。電子線を照射することにより、トレッド表面に存在する上記ジエン系ゴムの炭素−炭素二重結合(C=C)部分やC−H結合部分等においてラジカルを発生させることができる。なお、トレッドゴム部(7)の表面とは、踏面部だけでなく、溝(8)の側面部や底面部も含まれる。
【0022】
電子線の照射条件としては、特に限定されないが、加速電圧が150〜1000kV、より好ましくは200〜500kVであり、照射線量が10〜400kGy、より好ましくは50〜250kGyであることが好ましい。
【0023】
このようにして電子線照射したトレッドゴム部(7)の表面に対し、発生したラジカルが存在している段階で(即ち、ラジカルが消失する前に)、モノマーを付与する。ここで、モノマーとは、分子内に炭素−炭素二重結合と親水基を有する低分子化合物をさす。モノマーの付与方法としては、特に限定されず、例えば、モノマーが液体の場合、そのまま又は水などの溶媒で希釈し、あるいはまた、モノマーが固体の場合、水などの溶媒に溶解することにより、モノマー液(モノマーを含有する液体)を調製し、該モノマー液をトレッドゴム部(7)の表面に塗布すればよい。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、刷毛塗りや、スプレー噴霧、更には、モノマー液を入れた槽内にトレッドゴム部(7)を浸ける等、種々の方法を採用することができる。モノマーが気体の場合、該モノマーを充填した雰囲気内に空気入りタイヤを置くことによっても、モノマーを付与することができる。
【0024】
モノマーを付与した後、所定時間放置させる。なお、放置させる際に、オーブンなどに入れて加温(例えば、30〜80℃)してもよい。
【0025】
トレッドゴム部(7)の表面に付与されたモノマーは、分子内に有する炭素−炭素二重結合部分が、ラジカル重合反応により、トレッドゴム部(7)の表面のジエン系ゴムに反応する。すなわち、電子線照射により発生した上記ジエン系ゴムのラジカルに対し、モノマーの炭素−炭素二重結合が反応することにより、モノマーが上記ジエン系ゴムポリマーに結合される。なお、ラジカル重合反応によりモノマーが順次に連結していくことにより、ジエン系ゴムポリマーを幹とし、該モノマーが連結してなる重合体部分を側鎖とするグラフト重合体が形成されてもよい。
【0026】
これにより、トレッドゴム部(7)の表面に、モノマーの持つ親水基が導入される(なお、かかるモノマーによる表面処理部(親水性被膜)を、図1において符号9で示した。)。そのため、湿潤路面上の水膜とトレッドゴム部(7)との親和性を高め、また、トレッドゴム部(7)のブロックや溝による排水効果を高めることができるので、ウェット性能が向上する。なお、モノマーはトレッドゴム部(7)の内部には浸透していかないため、親水基が導入されるのは、トレッドゴム部(7)の表面のみである。そのため、トレッドゴム部(7)が摩耗していくと、踏面部自体は内部のゴムが露出するため親和性を高める効果は得られないが、図1に示すように溝(8)の側面部及び底面部にも、表面処理部(9)が存在するため、ウェット性能の向上効果を維持することができる。また、表面のみの改質であるため、トレッドゴム部(7)全体としての耐摩耗性は維持することができる。
【0027】
トレッドゴム部(7)の表面に対するモノマーの付与量は、特に限定されず、例えば、100〜10000g/mとすることができる。
【0028】
上記モノマーとしては、ラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合としてHC=CR−(但し、Rは水素原子又はメチル基)で表される不飽和基を少なくとも1つ有するとともに、親水基として路面の水との親和性の高いカルボキシル基、水酸基を少なくとも1つ有するものを用いることが好ましい。より詳細には、上記モノマーとして、下記一般式(1)で表される化合物を用いることである。
【0029】
【化1】

【0030】
式中、Rは水素原子またはメチル基、Xはカルボキシル基又は水酸基、Aは酸素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の有機基、nは0又は1を表す。Aは、より好ましくは、エステル結合又はエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜8の2価の有機基である。
【0031】
より詳細には、モノマーとしては、ラジカル重合に必要なビニル基(HC=CH−)、イソプロペニル基(HC=C(CH)−)、アリル基(HC=CH−CH−)のいずれか1つを有し、かつ、路面の水との親和性の高いカルボキシル基(−COOH)、水酸基(−OH)を少なくとも1つ有する化合物であり、例えば、カルボキシル基を有するものとして、メタクリル酸、アクリル酸、4−ビニル安息香酸、3−ブテン酸等が挙げられ、水酸基を有するものとして、アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、6−へプテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、8−ノネン−1−オール、9−デセン−1−オール、10−ウンデセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のアルケノール、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等が挙げられ、これらは、いずれか1種、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
上記実施形態では、電子線を照射した後にモノマーを付与したが、モノマーを付与してから電子線照射しても構わない。すなわち、本発明では、加硫成形後のトレッドゴム部の表面に電子線を照射してから、電子線照射されたトレッドゴム部の表面に上記モノマーを付与してもよく、あるいはまた、加硫成形後のトレッドゴム部の表面に上記モノマーを付与してから、該トレッドゴム部の表面に電子線を照射してもよく、更には、電子線照射とモノマー付与を同時に行ってもよく、いずれによっても上記モノマーをトレッドゴム部の表面に反応させることができる。
【0033】
なお、本発明を適用できる空気入りタイヤは、特に限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどの重荷重用タイヤなど、各種の空気入りタイヤに適用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(第1実施例)
バンバリーミキサーを使用して常法に従い実施例1−1〜3及び比較例1−1〜4のゴム組成物を調製した。各ゴム組成物のゴム成分は下記表1に示す通りである。なお、表1中のゴム成分の質量部は、油展分で配合されるオイルを除くポリマー分としての質量部である。各ゴム成分の詳細は以下の通りである。
【0036】
・SBR1739:日本ゼオン(株)製スチレンブタジエンゴム「Nipol 1739」(Tg=−35℃、37.5質量部油展ゴム)
・BR:宇部興産(株)製ブタジエンゴム「UBEPOL BR150」
【0037】
各ゴム組成物には、共通配合として、ゴム成分100質量部に対し、シリカ(エボニック社製「Ultrasil VN3」)75質量部、シランカップリング剤(エボニック社製「Si69」 )6質量部、アロマオイル(昭和シェル石油(株)製「エキストラクト4号S」)35質量部(但し、ゴム成分の油展分を含めた合計量)、老化防止剤(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)2質量部、ステアリン酸(工業用ステアリン酸)2質量部、酸化亜鉛(1号亜鉛華)3質量部、ワックス(日本精蝋(株)製「パラフィンワックス」)2質量部、加硫促進剤(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)1.5質量部、硫黄(5%油処理粉末イオウ)2質量部を配合した。
【0038】
得られたゴム組成物をトレッド用ゴム組成物として用いて、195/65R15の空気入りラジアルタイヤを常法に従い加硫成形し、次いで、表1に示す条件に従い、電子線照射、モノマー塗布を行って空気入りタイヤを製造した。
【0039】
詳細には、実施例1−1では、加硫成形後のタイヤに対し、電子線照射装置を用いて、トレッドゴム部の表面に、温度:室温、加速電圧:200kV、照射線量:200kGyの条件で、電子線を照射した。照射後直ちに、該タイヤのトレッドゴム部をモノマ−液に浸けて、トレッドゴム部表面にモノマーを付与した。モノマー液としては、モノマーA:メタクリル酸の50質量%水溶液を用いた。その後、トレッドゴム部をモノマー液から出し、室温で4時間放置することにより、モノマーをトレッドゴム部表面に結合させた空気入りタイヤを得た。
【0040】
実施例1−2ではモノマー液として、モノマーB:2−ヒドロキシエチルメタクリレートの50質量%水溶液を用い、その他は実施例1−1と同様にして空気入りタイヤを得た。実施例1−3ではモノマー液として、モノマーC:アリルアルコールの50質量%水溶液を用い、その他は実施例1と同様にして空気入りタイヤを得た。
【0041】
比較例1−1は、コントロールとして、電子線照射とモノマー塗布を行わなかった例である。比較例1−2は、電子線照射をせずにモノマー液を付与した例であり、電子線照射していないことを除いて実施例1−1と同様にした。比較例1−3は、電子線は照射したがモノマー液を付与しなかった例であり、モノマー液を付与していないことを除いて実施例1−1と同様にした。比較例1−4は、従来によるウェット性能向上手法を適用した例であり、比較例1−1に対し、SBR1739の比率を増加した例である。
【0042】
得られた各空気入りタイヤについて、ウェット性能と耐摩耗性を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0043】
・ウェット性能:2000ccのFR車にタイヤを4輪装着し(リムサイズ:15×6、空気圧:210kPa)、湿潤路面(水深1mmの舗装路面)において、速度100km/hから制動力をかけてABSを作動させたときの停止するまでの制動距離を測定することで評価し、制動距離の逆数について、比較例1−1の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど、制動距離が短く、ウェット制動性能に優れることを示す。
【0044】
・耐摩耗性:タクシーにタイヤを4輪装着し、約5000km毎にローテーションしながら、20000km走行後の残溝深さを測定し、比較例1−1の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど、残溝深さが深く、耐摩耗性に優れることを示す。
【0045】
結果は表1に示す通りであり、親水基を持つモノマーをトレッドゴム表面に付与した実施例1−1〜3であると、耐摩耗性を損なうことなく、ウェット性能を向上することができた。これに対し、電子線照射を実施していない比較例1−2や、電子線照射を実施したもののモノマーを付与していない比較例1−3では、ウェット性能の改善効果は見られなかった。また、高TgのSBRを増量した比較例1−4では、ウェット性能は向上したものの、耐摩耗性が損なわれていた。
【0046】
【表1】

【0047】
(第2実施例)
ゴム成分の組成を表2に示すようにSBR1739/BR=55/45とし、その他は第1実施例と同様にして空気入りタイヤを作製した。より詳細には、実施例2−1は実施例1−1、比較例2−1は比較例1−1、比較例2−2は比較例1−2、比較例2−3は比較例1−3と、それぞれ上記ゴム成分の組成のみが異なる。得られた空気入りタイヤについて、第1実施例と同様にしてウェット性能と耐摩耗性を評価した。但し、評価の基準は比較例2−1とした。結果は表2に示す通りであり、親水基を持つモノマーをトレッドゴム表面に付与した実施例2−1であると、耐摩耗性を損なうことなく、ウェット性能を向上することができた。
【0048】
【表2】

【0049】
(第3実施例)
ゴム成分の組成を表3に示すようにSBR1739/BR=35/65とし、その他は第1実施例と同様にして空気入りタイヤを作製した。より詳細には、比較例3−1は比較例1−1、比較例3−2は比較例1−2、比較例3−3は実施例1−1と、それぞれ上記ゴム成分の組成のみが異なる。得られた空気入りタイヤについて、第1実施例と同様にしてウェット性能と耐摩耗性を評価した。但し、評価の基準は比較例3−1とした。結果は表3に示す通りであり、この場合、高TgのSBRの配合比が少ないため、比較例3−3に示すように、電子線照射とモノマー塗布の双方を実施したにもかかわらず、ウェット性能の向上効果は見られなかった。
【0050】
【表3】

【0051】
(第4実施例)
SBR1739に代えて、ランクセス社製スチレンブタジエンゴム「VSL5525−1」(Tg=−20℃)を用い、その他は第1実施例と同様にして空気入りタイヤを作製した。より詳細には、実施例4−1は実施例1−1、実施例4−2は実施例1−2、実施例4−3は実施例1−3、比較例4−1は比較例1−1、比較例4−2は比較例1−2、比較例4−3は比較例1−3と、それぞれ上記ゴム成分のみが異なる。得られた空気入りタイヤについて、第1実施例と同様にしてウェット性能と耐摩耗性を評価した。但し、評価の基準は比較例4−1とした。結果は表4に示す通りであり、親水基を持つモノマーをトレッドゴム表面に付与した実施例4−1〜3であると、耐摩耗性を損なうことなく、ウェット性能を向上することができた。
【0052】
【表4】

【0053】
(第5実施例)
SBR1739に代えて、SBR1723:日本ゼオン(株)製スチレンブタジエンゴム「SBR1723」(Tg=−55℃、37.5質量部油展ゴム)を用い、その他は第1実施例と同様にして空気入りタイヤを作製した。より詳細には、比較例5−1は比較例1−1、比較例5−2は比較例1−2、比較例5−3は実施例1−1と、それぞれ上記ゴム成分のみが異なる。得られた空気入りタイヤについて、第1実施例と同様にしてウェット性能と耐摩耗性を評価した。但し、評価の基準は比較例5−1とした。結果は表5に示す通りであり、この場合、SBRのガラス転移点が低かったため、比較例5−3に示すように、電子線照射とモノマー塗布の双方を実施したにもかかわらず、ウェット性能の向上効果は見られなかった。
【0054】
【表5】

【0055】
以上の実施例に示されるように、高TgのSBRを特定量使用したトレッドコム部を持つタイヤを加硫成形した後、電子線の照射と、親水基を持つモノマーでの処理を行うことにより、耐摩耗性を損なうことなく、ウェット性能の向上を引き出すことができた。
【符号の説明】
【0056】
1…トレッド部、2…ビード部、3…サイドウォール部、4…カーカス層、5…ビードコア、6…ベルト層、7…トレッドゴム部、8…溝、9…表面処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が−45℃以上のジエン系ゴムをゴム成分100質量部中に50質量部以上含有するゴム組成物からなるトレッドゴム部を備えた空気入りタイヤを加硫成形する工程と、
加硫成形後の前記トレッドゴム部の表面に電子線を照射する工程と、
分子内に炭素−炭素二重結合と親水基を有する化合物を加硫成形後の前記トレッドゴム部の表面に付与する工程と、
を含む空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記化合物が、前記炭素−炭素二重結合としてHC=CR−(但し、Rは水素原子又はメチル基)で表される基を少なくとも1つ有するとともに、前記親水基としてカルボキシル基と水酸基の少なくとも1つを有するものであることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記化合物が、下記一般式(1)で表されるものであることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Xはカルボキシル基又は水酸基、Aは酸素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の有機基、nは0又は1を表す。)
【請求項4】
ガラス転移点が−45℃以上のジエン系ゴムをゴム成分100質量部中に50質量部以上含有するゴム組成物からなるトレッドゴム部を備えた空気入りタイヤであって、
トレッドゴム部の表面への電子線照射により、分子内に炭素−炭素二重結合と親水基を有する化合物を、当該トレッドゴム部の表面の前記ジエン系ゴムに反応させたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−51148(P2012−51148A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193668(P2010−193668)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】