説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】色目の異なるゴムを表出させるに際して、バフ研磨の場合に生じる静電気の発生に伴う問題、調整作業の煩雑さ、仕上がりの粗さ、生産性の低さという問題を解決することができる空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】加硫タイヤのサイドウォール部の凸部の表層部を削り取ることにより色目の異なるゴムを表出させる表出工程を備えた空気入りタイヤの製造方法であって、超音波カッターを用いて凸部の表層部を削り取る空気入りタイヤの製造方法。加硫タイヤをインフレートすることなく、加硫タイヤのサイドウォール部を内側から支持して凸部の表層部を削り取る空気入りタイヤの製造方法。超音波カッターの刃を、プライ角度90度に対して傾斜させて凸部の表層部を削り取る空気入りタイヤの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)のサイドウォール部に、周辺とは色目の異なる浮出しマークを形成した空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サイドウォール部の表面に色彩の異なる文字やライン(浮出しマーク)を形成したタイヤが使用されている。
【0003】
このような浮出しマークは、従来、加硫成形によって形成された浮出しマーク形成用の凸部を、タイヤ研磨装置を用いてバフ掛けし、その表面を覆う黒色の薄い被覆ゴム層を除去して白色等の色目の異なるゴムを表出させて形成されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
具体的には、回転する砥石で凸部の表面を切削することによりバフ掛けが行われるが、このとき、互いに逆方向に回転する2つの砥石を1セットとして用い、一方の砥石で削った後に反り返りをもう一方の砥石で修正している。
【0005】
そして、タイヤをインフレートし、砥石の高さを上下に調節して、削る高さをコントロールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−275136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来のタイヤ研磨装置によるバフ掛けには、次のような問題があった。
【0008】
(1)砥石によりバフ掛けをするに際して静電気が発生するため、バフ粉がタイヤに付着する。このため、バフ粉を吸引するためのバキュームと、バフ粉を散らすためのエアブローを設けることが必要となるが、非常に高い騒音レベルとなり、また、エネルギーの無駄も多くなり、装置回りが汚れる。
【0009】
(2)バフ粉は砥石との摩擦により発熱しているため、火災の恐れがある。また、静電気によりバフ粉が固まることも不利に働くことになる。
【0010】
(3)インフレートなどの余計な動作も多く、サイクルタイムが長くなる。
【0011】
(4)また、色々なプロファイルのタイヤを同じラインで研磨するため、サイズ毎に調整することが必要で煩雑である。そして、同サイズでもロット間でタイヤ幅が微妙に異なり、特に、加硫工程から仕上げ工程に流れた時の温度差が大きく影響するため、制御が難しい。
【0012】
(5)また、砥石をインフレート面に平行にするためには、予め凹形状とすることで研磨面をプロファイルと平行に保つ必要がある。そして、研磨はリムに嵌合している状態で行われるため、複数のリムサイズに使用可能な多段リムを用いた場合には、削り面とリムが干渉する可能性があり、多段リムの適用が極限られる。
【0013】
(6)また、インフレートなど余分な動作が多いため、サイクルタイムが長くなる。また、研磨が過ぎるとマークをえぐる恐れがあるため、バフ掛けにより一度に大量の研磨を行うことができない。
【0014】
(7)また、バフ掛けはある程度砥石に押し付けて行う必要があるため、例えば、スピューのように小さく薄いゴム破片は砥石から逃げてしまい、バフ掛けできなくなる。
【0015】
(8)さらに、タイヤにはLRO(ラテラルランナウト)があるため、バフに深いところと浅いところが生じて、飾りなどのマークの幅が均一にならない恐れがある。この問題に対しては、予めタイヤのLROを測定してバフ掛けを行うことにより対応することが可能であるが、生産性が低下し、装置コストも高くなる。
【0016】
このように、タイヤ研磨装置によりバフ掛けを行う場合には、静電気の発生に伴う問題、調整作業の煩雑さ、仕上がりの粗さ、生産性の低さという問題があった。
【0017】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解決することができる空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
請求項1に記載の発明は、
加硫タイヤのサイドウォール部の凸部の表層部を削り取ることにより色目の異なるゴムを表出させる表出工程を備えた空気入りタイヤの製造方法であって、
超音波カッターを用いて前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
【0020】
請求項2に記載の発明は、
前記加硫タイヤをインフレートすることなく、加硫タイヤのサイドウォール部を内側から支持して前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0021】
請求項3に記載の発明は、
前記超音波カッターの刃を、プライ角度90度に対して傾斜させて前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0022】
請求項4に記載の発明は、
プライ角度90度に対する前記刃の傾斜角度が30〜60度であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0023】
請求項5に記載の発明は、
前記凸部の表層部を削り取ることにより表出する表出面が、サイドウォール部と略同一プロファイルとなるように前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0024】
請求項6に記載の発明は、
サイドウォール部の前記凸部の表層部全面を削り取るために必要な刃渡りを有する超音波カッターを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【0025】
請求項7に記載の発明は、
前記加硫タイヤをタイヤ中心の周りに回転させ、または前記超音波カッターを前記加硫タイヤの周方向に移動させて前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、色目の異なるゴムを表出させるに際して、前記した静電気の発生に伴う問題、調整作業の煩雑さ、仕上がりの粗さ、生産性の低さという問題を解決することができる空気入りタイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法に使用される超音波カッター装置の要部を模式的に示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法に使用される超音波カッター装置を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法に使用される超音波カッター装置の使用状況を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0029】
図1は、本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法に使用される超音波カッター装置の要部を模式的に示す正面図であり、二点鎖線はチャック装置2のチャック爪2aによりタイヤTを支持している状態を示している。図2は、本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法に使用される超音波カッター装置を模式的に示す斜視図である。図3は、本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法に使用される超音波カッター装置の使用状況を模式的に示す斜視図である。
【0030】
本実施の形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、加硫タイヤのサイドウォール部の凸部の表層部を削り取って色目の異なるゴムを表出させる表出工程において、超音波カッターを用いるため、説明の便宜上、まず、超音波カッター装置について説明する。
【0031】
1.超音波カッター装置
図1に示すように、超音波カッター装置は、超音波カッター1と、タイヤ保持体4と、支持フレーム7とを備えている。
【0032】
超音波カッター1は、刃を超音波振動させることにより、タイヤTのサイドウォールSWに形成されている凸部Mの表層部を削り取るものであり、超音波カッター1は、超音波カッター1の位置調整機能を兼ねる支持フレーム7により支持されている。
【0033】
超音波カッター1の刃は、刃が凸部Mに当たったときに凸部Mが撓んで刃から逸れる(逃げる)ことを防いで凸部Mの表層部を確実に削り取れるようにするため、プライ角度90度に対して傾斜してサイドウォールの凸部Mの表層部の上面に位置するように設定されている。また、刃の好ましい傾斜角度は、プライ角度90度に対して30〜60度である。
【0034】
また、超音波カッター1の刃渡りは、サイドウォール部SWの凸部Mの幅方向、すなわち加硫タイヤの周方向に直交する方向の全長に跨るように設定されている。
【0035】
タイヤ保持体4は、チャック装置2と、タイヤTを水平に支持する架台3とを備えている。
【0036】
架台3の上面には、図2に示すように、タイヤTを架台3の上で回転させるための多数のベアリング3aが配置されており、架台3の中央部にはチャック装置2を収めるための中央孔31が設けられている。
【0037】
チャック装置2は、架台3の中央孔31を通じて本体部2bが昇降するように構成されており、本体部2bと、本体部2bから側方に放射状に突出する複数のチャック爪2aとを備えている。
【0038】
なお、超音波カッター1の上方には、切削屑を適宜吸引できるバキューム装置が設けられている。
【0039】
2.表出工程
次に、超音波カッター装置1を用いた白色等の色目の異なるゴムの表出工程について説明する。
【0040】
(1)まず、加硫タイヤTを保持体4の架台3の上に載置する。
【0041】
(2)次に、チャック装置2を上昇させ、タイヤTの上下のサイドウォール部SWの間に進入させる。
【0042】
(3)次に、チャック装置2の本体部2bからチャック爪2aを放射状に突出させて上側のサイドウォール部SWの裏面側にチャック爪2aを接触させて上側のサイドウォール部SWを下から支持する。
【0043】
(4)次に、超音波カッター1をタイヤTのサイドウォール部SWの上に位置させる。また、超音波カッター1は、凸部Mの表層部の表面形状に沿ってサイドウォール部SWと略同一プロファイルとなるように切削する。このため、切削高さは、サイドウォール部SWからの高さでコントロールする。
【0044】
超音波カッター1を入れる方向については、前記のようにプライ角度90度に対して傾斜するように設定されている。
【0045】
(5)次に、前記のように刃渡りが設定された超音波カッター1のカッターを振動させながら、タイヤTのサイドウォール部SWの凸部Mの表面に押し当て、タイヤTを1回転さることにより、凸部Mの表層部を削り取って白色等のゴムを表出させる。なお、タイヤTを回転させずに超音波カッター1を凸部Mに沿って手動によりあるいは自動的に移動させるようにしてもよい。
【0046】
3.本実施の形態の効果
(1)超音波カッター1の刃を振動させながら、削り取るため、静電気の発生がなく、切削屑の付着や固化が抑制される。この結果、火災の発生を防止することができる。
【0047】
(2)サイドウォール部SWを水平に持ち上げた状態で、サイドウォール部SWの表面に沿って水平に削り取ることができるため、表出面のプロファイルの仕上がりが向上する。
【0048】
(3)タイヤを一回転させるだけで表出作業が完了するため、生産性が向上する。
【0049】
(4)超音波カッターは、切削する場合だけ電気を通せばよいため、エネルギー消費が少なくて済む。
【0050】
(5)バキューム装置を設けることにより、作業環境をさらに改善することができるが、その場合、低い騒音レベルでのバキュームで対応可能である。
【0051】
(6)サイドウォール部SWを水平に持ち上げた状態で、カンナを当てて削るように、凸部の表層部タイヤ面を削り取ることができるため、サイズバリエーションが増えても、タイヤ毎の設定を行う必要がなく、段替えなどの問題も発生しない。
【0052】
(7)タイヤのインフレートが不要になるため、リム等も不要になる。このため、リムの段替えもなくなり、生産性が向上する。なお、削り取り作業は、必要に応じてタイヤTにインフレートして行ってもよい。
【0053】
(8)ロット間での制御も容易に行うことができ、サイクルタイムを短縮することができる。
【0054】
(9)そして、研磨でなく削り取り(切削)により浮き出しマークを表出させているため、スピューなどの小さく薄いゴム破片が残る不具合や、反り返りが発生する不具合などが発生しない。
【0055】
(10)LROの影響を受けにくいため、安定して均一な品質を得ることができる。また、装置が平易で安価である。
【0056】
このように本実施の形態の場合、従来のバフ研磨の場合の多くの問題点を効率的に解消することができる。そして、このような本発明は、WSWとBSWのいずれのSWに対しても広く適用することができる。
【0057】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 超音波カッター
2 チャック装置
2a チャック爪
2b チャック装置の本体部
3 架台
3a ベアリング
4 タイヤ保持体
7 支持フレーム
31 中央孔
T タイヤ
SW サイドウォール部
M 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫タイヤのサイドウォール部の凸部の表層部を削り取ることにより色目の異なるゴムを表出させる表出工程を備えた空気入りタイヤの製造方法であって、
超音波カッターを用いて前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記加硫タイヤをインフレートすることなく、加硫タイヤのサイドウォール部を内側から支持して前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記超音波カッターの刃を、プライ角度90度に対して傾斜させて前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
プライ角度90度に対する前記刃の傾斜角度が30〜60度であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記凸部の表層部を削り取ることにより表出する表出面が、サイドウォール部と略同一プロファイルとなるように前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
サイドウォール部の前記凸部の表層部全面を削り取るために必要な刃渡りを有する超音波カッターを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記加硫タイヤをタイヤ中心の周りに回転させ、または前記超音波カッターを前記加硫タイヤの周方向に移動させて前記凸部の表層部を削り取ることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−49158(P2013−49158A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187581(P2011−187581)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】