説明

空気入りタイヤ及びタイヤ補強用スチールコード

【課題】ゴム入りスチールコードを使用したタイヤの製造過程で生ずるスチールコードの硫化を抑制して耐久性を向上するようにした空気入りタイヤおよびそのタイヤ補強用スチールコードを提供する。
【解決手段】複数本のスチールワイヤWが撚り合わされた撚線であって、この撚線の内部空隙に予め未加硫ゴム組成物13を充填したゴム入りスチールコード10によりタイヤ補強層を形成し、加硫成形された空気入りタイヤにおいて、スチールコード10の表面に樹脂膜14を被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ及びタイヤ補強用スチールコードに関し、更に詳しくは、ゴム入りスチールコードを使用したタイヤの製造過程で生ずるスチールコードの硫化を抑制して耐久性を向上するようにした空気入りタイヤおよびタイヤ補強用スチールコードに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのベルト層などに使用される補強用スチールコードは、複数本のスチールワイヤを撚り合わせた撚線からなり、そのためコード内部には長手方向に沿って空隙が形成されている。従って、トレッド部に形成された傷などに水が浸入してベルト層に達すると、その水がスチールコードの内部空隙に浸入し、スチールコードを長手方向に腐蝕させ、耐久性を低下させる原因になっていた。このため空気入りタイヤの加硫工程では、加硫時に出来るだけスチールコードの内部空隙に未加硫ゴムを流入させて空隙を無くすようにすることが行われている。
【0003】
しかし、加硫時にスチールコードの内部空隙に未加硫ゴムを流入させて空隙を消失させる為には、加硫時間を長くする必要がある為、生産性を低下させる原因になっていた。このような問題を改善する為、スチールコードを撚り加工する工程で、予め内部空隙に未加硫ゴム組成物を充填させるようにしたゴム入りスチールコードが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、空気入りタイヤの少品種多量生産の時代には、乾燥状態に梱包されたスチールコードを、開梱後に直ぐにタイヤ生産の為に消化していたが、近年のようにユーザーの嗜好の多様化により多品種少量生産化されるようになると、スチールコードの開梱からタイヤ生産の為に消化される迄に長期間かかる場合が多くなっている。しかし、このように開梱から消化される迄の期間が長期化すると、スチールコードをゴムで被覆加工する迄の間に、内部空隙の未加硫ゴム組成物から硫黄成分がスチールコードの表面に滲出してスチールコード表面を硫化させる為、ゴムとの接着性を低下させて、タイヤの耐久性を低下させ易くなるという問題があることが分かった。
【0005】
このような問題の対策として、例えば特許文献2に記載のように、ゴム入りスチールコードの表面に油膜を施すということが考えられる。しかしながら、本発明者が実験により確認したところによれば、ゴム入りスチールコードの表面を油膜で被覆すると、却って未加硫ゴム中の硫黄成分が滲出し易くなり、スチールコードの表面の硫化を促進してしまうことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−88667号公報
【特許文献2】特開2008−308808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述する問題点を解決するもので、ゴム入りスチールコードを使用したタイヤの製造過程で生ずるスチールコードの硫化を抑制して耐久性を向上するようにした空気入りタイヤおよびそのタイヤ補強用スチールコードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、複数本のスチールワイヤが撚り合わされた撚線であって、該撚線の内部空隙に予め未加硫ゴム組成物を充填したゴム入りスチールコードによりタイヤ補強層を形成し、加硫成形された空気入りタイヤにおいて、前記スチールコードの表面に樹脂膜を被覆したことを特徴とする。
【0009】
また、上述する構成において、更に、以下(1)〜(4)に記載するように構成することが好ましい。
(1)前記樹脂膜の厚さが0.05〜0.40μmである。
(2)前記樹脂膜がクマロン樹脂又はレゾルシン樹脂からなる。
(3)前記スチールコードがm+n撚り構造又はl+m+n撚り構造からなる。
(4)前記ゴム入りスチールコードのタイヤ補強層を押し出し成形により成形する。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明のタイヤ補強用スチールコードは、複数本のスチールワイヤが撚り合わされた撚線であって、該撚線の内部空隙に未加硫ゴム組成物を充填したゴム入りスチールコードの表面に樹脂膜を被覆した構成からなることを特徴とする。
【0011】
また、上述する構成において、更に、以下(5)〜(7)に記載するように構成することが好ましい。
(5)前記樹脂膜の厚さが0.05〜0.40μmである。
(6)前記樹脂膜がクマロン樹脂又はレゾルシン樹脂からなる。
(7)前記樹脂膜を樹脂溶液を含浸させた布構造物に前記ゴム入りスチールコードを接触させて形成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数本のスチールワイヤを撚り合わせた撚線の内部空隙に予め未加硫ゴム組成物を充填したゴム入りスチールコードでタイヤ補強層を形成する場合であっても、そのゴム入りスチールコードの表面を樹脂膜で被覆したので、ゴム入りスチールコードを開梱してからタイヤ生産の為に消化する迄の期間が長期間になっても、未加硫ゴム中の硫黄成分のスチールコード表面への滲出を抑えてスチールコード表面の硫化を抑制する為、ゴムとの接着性の低下が防止され、タイヤの耐久性を向上することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線方向の半断面図である。
【図2】本発明に使用するゴム入りスチールコードの実施形態を示す横断面図である。
【図3】本発明に使用するゴム入りスチールコードの他の実施形態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示す本発明の空気入りタイヤにおいて、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右1対のビード部3、3間にはカーカス層4が装架され、そのタイヤ幅方向の両端部がそれぞれビードコア5の周りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられている。また、サイドウォール部2からビード部3に亘る領域にはカーカス層4の折り返し端部の外側に沿ってサイド補強層6が設けられている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には4層のベルト層7が配置されている。
【0015】
上記ベルト層7の補強コードはスチールコードからなり、複数本のワイヤを撚り合わせた撚線の内部空隙にゴムが充填されたゴム入りスチールコードが用いられている。ここで、ゴム入りスチールコードとは、未加硫タイヤに加工される前の撚線工程で予め内部空隙に未加硫ゴムが充填されるように加工されたものをいう。このようにゴム組成物が充填されたゴム入りスチールコードは、スチールコードの内部空隙が消失しているので、浸水による腐蝕によって耐久性が低下することを防止することが出来る。更に、本発明に使用されるゴム入りスチールコードは、表面が樹脂膜によって被覆された構成になっていて、この樹脂膜により内部空隙に充填した未加硫ゴム組成物の硫黄成分がスチールコードの表面に滲出してスチールコードの表面を硫化することを防止するようになっている。従って、このゴム入りスチールコードがコートゴムに埋設されてベルト層7に加工される迄の期間が長期化した場合であっても、ゴムとの接着性が低下することがなく、加硫後のタイヤの耐久性を向上することが出来る。
【0016】
上述した表面を樹脂膜で被覆されたゴム入りスチールコードは、ベルト層に使用される他、カーカス層4やサイド補強層6などの他のタイヤ補強層にも同様に使用することが出来る。
【0017】
スチールコードの表面を被覆する樹脂膜の厚さとしては、0.05〜0.40μmが好ましい。厚さが0.05μmより小さいと、スチールコードの表面の硫化を抑制する効果が小さくなる。逆に、厚さが0.40μmより大きいと、樹脂膜の被覆加工において、樹脂膜の乾燥が困難になる為、生産効率が悪化する。
【0018】
樹脂膜の素材としては、クマロン樹脂、レゾルシン樹脂、松脂、セラック石油樹脂などが挙げられる。好ましくは、クマロン樹脂又はレゾルシン樹脂を用いるとよく、更に好ましくは、クマロン樹脂を用いるとよい。クマロン樹脂は、これら樹脂の中で最も扱い易いため、生産性を悪化させることなくスチールコードの表面の硫化抑制効果を得ることが出来る。
【0019】
上述のゴム入りスチールコードの構造は、複数本のスチールワイヤが撚り合わされたものであれば、m+n撚り構造、或いは、l+m+n撚り構造のいずれであってもよい。
【0020】
図2は、m+n撚り構造のゴム入りスチールコードを例示するものである。図2に示すゴム入りスチールコード10は、m=3本のスチールワイヤWが撚り合わされたコア11とその外側にn=8本のスチールワイヤWが撚り掛けられたシース12とからなる3+8撚り構造になっている。コア11の中心空隙及びコア11とシース12との間の空隙に未加硫ゴム組成物13が充填されている。また、このゴム入りスチールコード10の表面に樹脂膜14が被覆されている。このようにスチールコードがm+n撚り構造の場合は、mが1〜3、nが4〜9であることが好ましい。
【0021】
図3は、l+m+n撚り構造のゴム入りスチールコードを例示するものである。図3に示すゴム入りスチールコード10は、l=3本のスチールワイヤWが撚り合わされたコア11と、その外側にm=9本のスチールワイヤWが撚り掛けられた第1シース12aと、更にその外側にn=15本のスチールワイヤWが撚り掛けられた第2シース12bと、からなる3+9+15撚り構造になっている。コア11の中心空隙及びコア11と第1シース12aとの間の空隙に未加硫ゴム組成物13が充填されている。また、このゴム入りスチールコード10の表面に樹脂膜14が被覆されている。このようにスチールコードがl+m+n撚り構造の場合は、lが1〜3、mが4〜9、nが10〜15であることが好ましい。
【0022】
スチールコード10の表面に樹脂膜14を被覆しているので、撚線からゴム被覆までの間にスチールコード表面が硫化することを防止することが出来るので、スチールコードとコートゴムとの接着性を向上することが出来、タイヤの耐久性低下を抑制することが出来る。
【0023】
特に、スチールコードをコートゴムで被覆したゴムシート材の加工において、押し出し成形によりタイヤ補強層を成形する場合には、スチールコードの開梱からゴムシート材が成形されるまでに長期間かかる場合が多い為、本発明のゴム入りスチールコードを使用すれば硫化抑制効果が効果的に作用し、タイヤ耐久性の向上に寄与させることが出来る。
【0024】
本発明のゴム入りスチールコードにおいて、樹脂膜を形成する方法は特に限定されないが、好ましくは樹脂溶液を含浸させた布構造物にゴム入りスチールコードを接触させて樹脂膜を形成する方法が好ましい。即ち、樹脂を溶剤に溶かして樹脂溶液として布構造物に含浸させ、この布構造物にゴム入りスチールコードを接触させると、樹脂溶液がスチールコード表面に均一な薄膜になって塗布することが出来、かつ、塗布後に溶剤を揮発させることでスチールコード上に樹脂のみを厚みむらのない均一な樹脂膜として形成することが出来るからである。このとき、紐構造物を布構造物に対する樹脂溶液の供給路として用いることが好ましい。この樹脂膜の形成方法において、樹脂の好ましい溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、エタノール、アセトン、ブタノールなどを挙げることが出来る。
【実施例】
【0025】
タイヤサイズ295/80R22.5の空気入りタイヤを製造するにあたって、スチールコード(3×0.32+8×0.35HT)の表面に樹脂膜を形成したゴム入りスチールコード(実施例1〜4)と、スチールコードの表面に樹脂膜を形成していないゴム入りスチールコード(従来例1)で、それぞれ4層のベルト層のうちカーカス層側から2番目及び3番目のベルト層を形成した。このとき、樹脂膜の厚さと種類を表1のように異ならせた。これらのゴム入りスチールコードを未加硫ゴム組成物の充填撚線加工から6ヶ月間、湿度30%以下に保ったビニール袋中に密閉して保管した後ゴム被覆したゴムシート材に成形し、これをベルト層とする未加硫タイヤを製造した。このようにして、樹脂膜の厚さと樹脂の種類が表1のように異なるゴム入りスチールコードからなるベルト層を有する従来例1、実施例1〜4の5種類の空気入りタイヤを製造した。
【0026】
従来例1は、樹脂膜を被覆していない例である。実施例1〜3は、いずれもクマロン樹脂膜を被覆した例であり、樹脂膜の厚さが異なっている。実施例4はレゾルシン樹脂膜を被覆した例である。
【0027】
これら5種類のタイヤについて、以下の試験方法によりタイヤ耐久性能を測定した。
【0028】
タイヤ耐久性能
タイヤをリムサイズ22.5×8.25のリムにリム組みし、空気圧850kPaを充填し、荷重45kNを負荷し、速度45km/hで、直径1707mmの回転ドラム上で走行させ、タイヤが故障するまでの走行距離を測定した。従来例1の走行距離を100として指数で示した。指数値が大きいほどタイヤ耐久性能が優れている。
【0029】
【表1】

【符号の説明】
【0030】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 サイド補強層
7 ベルト層
10 ゴム入りスチールコード
11 コア
12 シース
13 未加硫ゴム組成物
14 樹脂膜
W スチールワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のスチールワイヤが撚り合わされた撚線であって、該撚線の内部空隙に予め未加硫ゴム組成物を充填したゴム入りスチールコードによりタイヤ補強層を形成し、加硫成形された空気入りタイヤにおいて、前記スチールコードの表面に樹脂膜を被覆した空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記樹脂膜の厚さが0.05〜0.40μmである請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記樹脂膜がクマロン樹脂又はレゾルシン樹脂からなる請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記スチールコードがm+n撚り構造又はl+m+n撚り構造からなる請求項1、2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム入りスチールコードのタイヤ補強層を押し出し成形により成形した請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
複数本のスチールワイヤが撚り合わされた撚線であって、該撚線の内部空隙に未加硫ゴム組成物を充填したゴム入りスチールコードの表面に樹脂膜を被覆した構成からなるタイヤ補強用スチールコード。
【請求項7】
前記樹脂膜の厚さが0.05〜0.40μmである請求項5に記載のタイヤ補強用スチールコード。
【請求項8】
前記樹脂膜がクマロン樹脂又はレゾルシン樹脂からなる請求項5又は6に記載のタイヤ補強用スチールコード。
【請求項9】
前記樹脂膜を樹脂溶液を含浸させた布構造物に前記ゴム入りスチールコードを接触させて形成した請求項5、6又は7に記載のタイヤ補強用スチールコード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−73609(P2011−73609A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228075(P2009−228075)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】