説明

空気入りタイヤ

【課題】トレッドゴムにシリカを配合しても、熱膨張性のマイクロカプセルによる樹脂被覆気泡の形成を良好にし、氷上摩擦力を向上させる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッドゴムがジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを10重量部以上含む補強充填剤を30〜100重量部、熱膨張性物質を内包するマイクロカプセルを1〜20重量部含むゴム組成物からなり、前記シリカ重量に対して硫黄含有シランカップリング剤を3〜15重量%配合すると共に、前記マイクロカプセルの殻材がニトリル系単量体(I)を主成分とする熱可塑性樹脂から構成され、前記熱膨張性物質が150℃での蒸気圧が1.4〜3.0MPaであり、かつゴム組成物の加硫前におけるマイクロカプセルの平均粒径を20〜30μmにすると共に、加硫により膨張後の平均粒径を40〜80μmにして、トレッドゴムの気泡占有面積率を5〜30%にしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、低温時のゴム柔軟性維持のためトレッドゴムにシリカを配合する場合であっても、熱膨張性のマイクロカプセルによる樹脂被覆気泡の形成を良好にし、氷上摩擦力を向上させるようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路用空気入りタイヤ(スタッドレスタイヤ)の氷上摩擦力を向上する構成には種々あるが、そのうちトレッドゴム中に多数の気泡を形成しておくことにより、トレッドが氷面に踏み込むとき氷表面の水膜を吸収除去し、氷面から離れると遠心力で離脱させることを繰り返して氷上摩擦力を向上させるものがある。特許文献1は、このような気泡の形成手段として、タイヤトレッド用ゴム組成物に、熱膨張性のマイクロカプセルを配合し、加硫工程での加熱によって膨張させて樹脂被覆気泡を形成することを提案している。
【0003】
また、スタッドレスタイヤは、トレッドゴムの硬度を低温でも柔軟に維持することにより氷面に対する凝着性を高め、氷上摩擦力を向上するが、その手段として、シリカを配合すると低温時のゴムの柔軟性を確保することができる。しかし、上述したようにトレッドゴムに熱膨張性のマイクロカプセルを配合することにより微小な樹脂被覆気泡を形成するスタッドレスタイヤにおいて、トレッドゴムにシリカを配合した場合には、ゴム組成物の混練中にマイクロカプセルの殻材がシリカにより破壊され、加硫成形時にマイクロカプセルが膨張することができなくなるため所望の樹脂被覆気泡を形成することができなくなり氷上摩擦力が得られないという問題があった。
【0004】
この対策として、特許文献2は、ゴム組成物の混練に当たり、先ずゴムとシリカとの混練を第一次操作として行ない、次いでこのゴムとシリカとの混合物にマイクロプセルを混合する第二次操作を逐次的に行なう方法を提案している。しかし、この方法によってもマイクロカプセルの混合時の破壊を防止するには十分とはいえず、更なる改良が必要であった。
【特許文献1】特開平10−316801号公報
【特許文献2】特開2003−105138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低温時のゴムの柔軟性維持のためトレッドゴムにシリカを配合する場合であっても、熱膨張性のマイクロカプセルによる樹脂被覆気泡の形成を良好にし、氷上摩擦力を向上させるようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、トレッドゴムがジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを10重量部以上含む補強充填剤を30〜100重量部、熱膨張性物質を内包するマイクロカプセルを1〜20重量部含むゴム組成物からなる空気入りタイヤにおいて、前記ゴム組成物に、前記シリカ重量に対して硫黄含有シランカップリング剤を3〜15重量%配合すると共に、前記マイクロカプセルの殻材をニトリル系単量体(I)を主成分とし、分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)及び2以上の重合性二重結合を有する単量体(III)から重合された熱可塑性樹脂から構成すると共に、前記熱膨張性物質の150℃での蒸気圧を1.4〜3.0MPaとし、かつ前記ゴム組成物の加硫前における前記マイクロカプセルの平均粒径を20〜30μmにすると共に、加硫により膨張後の平均粒径を40〜80μmにして、トレッドゴムの気泡占有面積率を5〜30%にしたことを特徴とする。
【0007】
前記マイクロカプセルは、殻材を構成する熱可塑性樹脂が、単量体として、共重合可能な単量体(IV)を追加して含むようにするとよい。
【0008】
前記ニトリル系単量体(I)は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリルから選ばれる少なくとも1種であるとよい。
【0009】
前記分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、スチレンスルホン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸から選ばれる少なくとも1種であるとよい。
【0010】
前記2以上の重合性二重結合を有する単量体(III)は、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が200のポリエチレングリコール(PEG#200)ジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が400のポリエチレングリコール(PEG#400)ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートから選ばれる少なくとも1種であるとよい。
【0011】
任意成分である前記共重合可能な単量体(IV)は、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレン、クロロスチレン、アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミドから選ばれる少なくとも1種であるとよい。
【0012】
前記熱膨張性物質はイソアルカン、ノルマルアルカンからなる群から選ばれる少なくとも1種であるとよい。
【0013】
前記硫黄含有シランカップリング剤は、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイドから選ばれる1種であるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の空気入りタイヤは、ジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを10重量部以上含む補強充填剤を30〜100重量部、熱膨張性のマイクロカプセルを1〜20重量部配合したトレッドゴム組成物とするに当たり、マイクロカプセルの平均粒径を20〜30μmの比較的小さい径にしたので、ゴム組成物の混合時にシリカが共存してもマイクロカプセルが破壊し難くする。また、マイクロカプセルがその殻材を、ニトリル系単量体(I)を主成分とし、分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)及び2以上の重合性二重結合を有する単量体(III)から重合された熱可塑性樹脂から構成することで、殻材をしなやかにし、かつ殻材に内包した熱膨張性物質の150℃での蒸気圧を1.4〜3.0MPaにしたので、マイクロカプセルの加硫前の平均粒径が小さくても、加硫時に膨張するときの膨張倍率を高くて平均粒径を40〜80μmにすることで、トレッドゴムの気泡占有面積率を5〜30%にしたので、氷上摩擦力を向上する。また、シリカ重量に対して硫黄含有シランカップリング剤を3〜15重量%配合しているので、シリカの分散性を向上しシリカ配合による低温時のトレッドゴムの柔軟性の保持性を高めるため、氷上摩擦力の向上と両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において使用するジエン系ゴムは、トレッド用ゴムコンパウンドに使用可能なゴムであればよく、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、各種のスチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム等が挙げられる。とりわけ、スタッドレスタイヤのトレッドゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムが好ましい。これらジエン系ゴムは、単独で使用してもよいし、又は複数の種類を使用してもよい。
【0016】
トレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、少なくともシリカ10重量部以上を含む補強充填剤30〜100重量部、好ましくは40〜80重量部を配合している。補強充填剤の配合量が30重量部未満の場合、耐摩耗性が悪くなり、逆に、補強充填剤が100重量部を超えると、スタッドレスタイヤ用としてのしなやかさを保つことが難しくなる。シリカ以外の補強充填剤としては、カーボンブラック、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、酸化チタン、アルミナなどを例示することができる。特に、カーボンブラックをシリカと併用するのがよい。
【0017】
シリカの配合は、低温時のトレッドゴムの柔軟性を維持し、氷面に対する凝着性を高め氷上摩擦力を向上することができる。シリカの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し10重量部以上、好ましくは10〜90重量部、より好ましくは10〜70重量部にするとよい。シリカの配合量が10重量部未満の場合、低温時のゴムの柔軟性を十分に維持することができない。シリカの種類は、特に限定されるものではなく、通常ゴム組成物に配合されるものを使用することができ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカ、表面処理シリカを例示することができる。
【0018】
本発明において、硫黄含有シランカップリング剤をトレッド用ゴム組成物中に配合したシリカ重量に対して3〜15重量%、好ましくは5〜10重量%を配合する。硫黄含有シランカップリング剤の配合により、シリカの分散性を向上しゴムとの補強性を高めることにより、低温時のゴムの柔軟性を向上することができる。シランカップリング剤がシリカ重量の3重量%未満の場合、シリカの分散が悪化し低温時のゴムの柔軟性の向上効果は期待することができない。また、シランカップリング剤が15重量%を超える場合、シランカップリング剤同士が重合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0019】
硫黄含有シランカップリング剤は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであればよく、例えば、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0020】
熱膨張性のマイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。このため、未加硫タイヤの加硫時にゴム組成物中のマイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、トレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成する。これにより、氷の表面に発生する水膜を効率的に吸収除去すると共に、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上摩擦力を向上させる。
【0021】
マイクロカプセルは配合量が、ジエン系ゴム100重量部に対し、1〜20重量部であり、好ましくは2〜10重量部にするとよい。マイクロカプセルの配合量が、1重量部未満であると、トレッドゴム中の樹脂被覆気泡の容積が不足し氷上摩擦力を十分に得ることができない。逆に、配合量が20重量部を超えると、トレッドゴムの耐摩耗性が悪化する。
【0022】
本発明で使用するマイクロカプセルは、加硫前の平均粒径が20〜30μmである。加硫前のマイクロカプセルの平均粒径、すなわち膨張前の平均粒径を30μmよりも大きくすると、ゴム組成物をシリカと共に混練するときシリカにより破壊されやすくなるため、トレッドゴム中に十分な量の樹脂被覆気泡を形成することができない。しかし、膨張前の平均粒径が20μm未満であっては、ゴム組成物の混合時の破壊は少なくなるが、加熱による膨張後の粒径を十分に確保できないため、所望する氷上摩擦性能が得られなくなる。
【0023】
なお、本発明において、マイクロカプセルの膨張前の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製HEROS&RODOS)を使用して、乾式分散ユニットの分散圧5.0bar、真空度5.0mbarの条件で乾式測定により求められる値にする。
【0024】
上記加硫前のトレッドゴム中のマイクロカプセルは、加硫後、膨張後の平均粒径が40〜80μmである。膨張後のマイクロカプセルの平均粒径を40μm以上にすることにより、トレッドゴム中に形成される樹脂被覆気泡の容積を十分に確保するので水膜の吸収除去効果を向上し、また、ミクロのエッジ効果も大きくなるため、所望する氷上摩擦力を得ることができる。また、膨張後の平均粒径が80μmを超えると、ゴムと氷の接触面積が低下し、水膜の発生しない低温域での性能が不十分になる。
【0025】
なお、本明細書において、膨張後のマイクロカプセルの平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてトレッドゴムの断面観察により測定される平均粒径とする。
【0026】
本発明に使用されるマイクロカプセルは、上述のように加硫前の平均粒径を小さく抑えながら、加硫により膨張後の平均粒径を大きくするため、その殻材をしなやかな構成にすると共に、熱膨張性物質が熱膨張時に所定の蒸気圧を発生するものを使用する。このような殻材と熱膨張性物質の組合せにより、膨張前の平均粒径を小さくしても加熱時の膨張倍率を大きくし、加硫後のトレッドゴム中に所望する大きさの樹脂被覆気泡を形成することができる。
【0027】
このような殻材を形成する熱可塑性樹脂は、ニトリル系単量体(I)を主成分とし、分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)及び2以上の重合性二重結合を有する単量体(III)から共重合する。また、膨張特性を調整するために、必要に応じて、共重合可能な単量体(IV)を加えてもよい。
【0028】
本発明において使用することができるニトリル系単量体(I)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル等及びこれらの混合物が例示される。特に、アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルが好ましい。単量体(I)の共重合比は、好ましくは35〜95重量%、より好ましくは45〜90重量%にするとよい。
【0029】
分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)としては、例えば、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、イタコン酸、スチレンスルホン酸又はナトリウム塩、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等及びこれらの混合物が例示される。単量体(II)の共重合比は、好ましくは4〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%にするとよい。単量体(II)の共重合比が4重量%未満では高温領域における膨張性が低下するおそれがある。
【0030】
2以上の重合性二重結合を有するモノマー(III)としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ジビニル化合物、メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が200のポリエチレングリコール(PEG#200)ジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が400のポリエチレングリコール(PEG#400)ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等及びこれらの混合物が例示される。単量体(III)の共重合比は、好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%にするとよい。単量体(III)の共重合比が0.05重量%未満又は5重量%を超えると高温度領域における膨張性能が不良になる。
【0031】
共重合可能な単量体(IV)は膨張特性を調整するために追加して共重合してもよく、共重合可能な単量体(IV)としては、例えば、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、スチレンスルホン酸またはそのナトリウム塩、α−メチルスチレン、クロロスチレンなどスチレン系モノマー、アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミドなどを例示することができる。単量体(IV)は任意成分であり、これを添加するときは、共重合比は、好ましくは0.05〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%にするとよい。
【0032】
マイクロカプセルの殻材を形成する熱可塑性樹脂は、常法により懸濁重合して得ることができる。また、重合開始剤は、油溶性の過酸化物又はアゾビス系化合物であり、かつ反応温度での半減期が1〜25時間、より好ましくは5〜20時間のものが好ましい。重合開始剤としては、例えば、過酸化物化合物である過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、ペルオキシ酸エステル、ペルオキシジカーボネート及びアゾ化合物を例示することができる。
【0033】
マイクロカプセルの殻材中に内包する熱膨張性物質は、熱によって気化又は膨張する特性をもち、150℃での蒸気圧が1.4〜3.0MPaであるものを使用する。好ましくは蒸気圧が1.5〜2.8MPaであるものがよい。150℃での蒸気圧が1.4MPaより低いと、マイクロカプセルの膨張前の平均粒径を小さくした場合に、膨張倍率を大きくすることができず、所望の大きさの樹脂被覆気泡を形成することができない。また、150℃での蒸気圧が3.0MPaより高いと、加工安定性が低下するので好ましくない。なお、熱膨張性物質の150℃での蒸気圧は、ランキン−デュプレの蒸気圧式により近似される値とする。
【0034】
このような熱膨張性物質としては、上記の蒸気圧を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、イソアルカン、ノルマルアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示される。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2−メチルペンタン、2−メチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン等を挙げることができ、ノルマルアルカンとしては、n−ブタン、n−プロパン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等を挙げることができる。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組合わせて使用してもよい。また、上記以外の物質であっても、これらの炭化水素と混合することにより150℃での蒸気圧が1.4〜3.0MPaになれば混合して使用することができる。
【0035】
また、熱膨張性物質の好ましい形態としては、常温で液体の炭化水素に、常温で気体の炭化水素を溶解させたものがよい。このような炭化水素の混合物を使用することにより、未加硫タイヤの加硫成形温度領域(150〜190℃)において、低温領域から高温領域にかけて十分な膨張力を得ることができる。
【0036】
本発明において使用するマイクロカプセルは、従来に比べ平均粒子径が比較的小さいものであり、このようなマイクロカプセルの作成方法は、まず、単量体、重合開始剤、熱膨張性物質等を含む油性混合物を水系分散媒体中に油状液滴として分散した分散液を調製する。ここで、熱膨張性物質が常温で気体の炭化水素の場合は、十分に冷却した状態で行なうことが好ましい。次いで、この分散液を従来公知の方法により加熱し、懸濁重合を行なうことによりマイクロカプセルが得られる。また、平均粒径20〜30μmのマイクロカプセルを得るためには、好ましくは特開平7−96167号公報記載のように、連続式高速回転高剪断型撹拌分散機が使用される。
【0037】
水系における分散安定剤としては、シリカ、水酸化マグネシウムなどの無機微粒子が用いられる。その他に、分散安定補助剤としてジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸の縮合生成物、ポリビニルピロリドン、メチルセルロール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、各種乳化剤などを用いることができる。
【0038】
本発明の空気入りタイヤにおいて、加硫後のトレッドゴム中の気泡占有面積率は5〜30%にする。好ましくは7〜25%にする。気泡占有面積率が5%未満であると、トレッドゴム中の樹脂被覆気泡の割合が小さいため、氷面上の水膜の吸収除去効果が十分に得らず、氷上摩擦力が十分に得られない。また、気泡占有面積率が30%を超えると、トレッドゴム中の樹脂被覆気泡の容積割合が過大になり、ゴムと氷の接触面積が低下し、水膜の発生しない低温域での性能が不十分になる。
【0039】
なお、本明細書において、気泡占有面積率とは、トレッドゴムの断面を165倍で拡大観察し、画像処理により観察面内に存在する全樹脂被覆気泡の断面が占める面積率を10視野について測定するときの平均値をいう。
【0040】
トレッドゴムを構成するゴム組成物には、通常の加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑化剤(軟化剤)、その他一般ゴム用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0041】
本発明により得られた空気入りタイヤは、トレッドゴムが、シリカを含有し低温時の柔軟性を維持し氷面に対する凝着力を高くすると共に、熱膨張性のマイクロカプセルにより良好な樹脂被覆気泡を形成しているので、氷面上の水膜を吸収除去し、氷上摩擦力を向上することができるため、スタッドレスタイヤとして好適である。
【0042】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
マイクロカプセルの調製
下記に示す調製方法により、マイクロカプセル−1〜4を作成した。得られた4種類のマイクロカプセル−1〜4の特性を表1に示す。
【0044】
マイクロカプセル−1:
水系として、固形分40%のコロイダルシリカ80g、ジエタノールアミン−アジピン酸縮合物1.5g、塩化ナトリウムを150g、イオン交換水500gを加えて混合後、pH3.5に調整し、水性分散媒体を製造した。油系として、アクリロニトリル70g、メタクリロニトリル70g、メタクリル酸70g、エチレングリコールジメタクリレートを3g、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1gを混合して均一溶液の単量体混合物とし、熱膨張性物質としてイソブタン15g、2−メチルペンタン35gをさらに加えて、油性混合物とした。
この水性分散媒体と油性混合物とを混合し、得られた混合液をホモミキサー(特殊機化工業社製TKホモミキサー)により、回転数9000rpmで5分間分散して懸濁液を調製した。この懸濁液をオートクレーブ中に仕込み、窒素置換し、反応温度60℃で8時間反応させた。反応圧力は0.5MPa、撹拌は350rpmで行った。
得られたマイクロカプセル−1は、ランキン−デュプレの蒸気圧式により近似される蒸気圧を用いたモル分率計算による150℃の蒸気圧が2.2MPaである熱膨張性物質を内包し、平均粒径が25μmであった。
【0045】
マイクロカプセル−2:
熱膨張性物質をイソブタン30gおよび2−メチルペンタン20gに変更した以外は、マイクロカプセル−1と同様の手順でマイクロカプセル−2を製造した。
得られたマイクロカプセル−2は、ランキン−デュプレの蒸気圧式により近似される蒸気圧を用いたモル分率計算による150℃の蒸気圧が3.2MPaである熱膨張性物質を内包し、平均粒径が25μmであった。
【0046】
マイクロカプセル−3:
熱膨張性物質をイソペンタン20g、2−メチルペンタン30gに変更し、ホモミキサーの回転数を8000rpmに変更した以外は、マイクロカプセル−1と同様の手順でマイクロカプセル−3を製造した。
得られたマイクロカプセル−3は、ランキン−デュプレの蒸気圧式により近似される蒸気圧を用いたモル分率計算による150℃の蒸気圧が1.3MPaである熱膨張性物質を内包し、平均粒径が25μmであった。
【0047】
マイクロカプセル−4:
水系として、固形分40%のコロイダルシリカ45g、ジエタノールアミン−アジピン酸縮合物1g、塩化ナトリウムを150g、イオン交換水500gを加えて混合後、pH3.5に調整し、水系分散媒体を製造した。油系として、アクリロニトリル70g、メタクリロニトリル70g、メタクリル酸70g、エチレングリコールジメタクリレートを3g、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1gを混合して均一溶液の単量体混合物とし、熱膨張性物質としてイソペンタン20gおよび2−メチルペンタン30gとともにオートクレーブ中に仕込み混合した。その後、水系分散媒体をオートクレーブ中に仕込み、5分間700rpmで撹拌後、窒素置換し、反応温度60℃で8時間反応させた。反応圧力は0.5MPa、撹拌は350rpmで行った。
得られたマイクロカプセル−4は、ランキン−デュプレの蒸気圧式により近似される蒸気圧を用いたモル分率計算による150℃の蒸気圧が1.3MPaである熱膨張性物質を内包し、平均粒径が40μmであった。
【0048】
【表1】

【0049】
ゴム組成物の調製
表2に示す配合において、加硫促進剤、硫黄、マイクロカプセルを除く成分を1.7リットル密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、155±5℃に達したときに放出して室温冷却した。これに加硫促進剤、硫黄、マイクロカプセルを配合し、バンバリーミキサーで混合し、10種類のゴム組成物(実施例1〜4、比較例1〜6)を調製した。
得られた10種類のゴム組成物(実施例1〜4、比較例1〜6)を所定の金型中で160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。得られた加硫ゴム試験片の気泡占有面積率、マイクロカプセルの膨張後の平均粒径、低温時のゴム硬度差、氷上摩擦力及び耐摩耗性を下記に示す方法により評価した。
【0050】
気泡占有面積率
得られた加硫ゴム試験片の断面を165倍で拡大観察し、画像処理装置(柏木製作所社製NEXUS6400)を使用して、単位面積当たりの気泡占有面積率を10視野について測定し、その平均値を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0051】
マイクロカプセルの膨張後の平均粒径
得られた加硫ゴム試験片の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、マイクロカプセルの膨張後の平均粒径の平均値を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0052】
低温時のゴム硬度差(20℃と−10℃とのゴム硬度の差)
得られた加硫ゴム試験片のゴム硬度を、JIS K6253に準拠し、デュロメータのタイプAにより温度20℃及び−10℃で測定した。2つの温度条件におけるゴム硬度の差を算出し、得られたゴム硬度差を比較例1を100とする指数として表2に示した。この指数が小さいほど低温で硬くなり難く、低温ゴム特性が優れることを意味する。
【0053】
氷上摩擦力(−1.5℃)
得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムにはりつけ、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて氷上摩擦係数を測定した。測定温度は−1.5℃、荷重は0.54MPa、ドラム回転速度は25km/hにした。得られた氷上摩擦係数を比較例1を100とする指数にし氷上摩擦力として表2に示した。この指数が大きいほど氷上摩擦力が優れることを意味する。
【0054】
耐摩耗性
得られた加硫ゴム試験片をJIS K6264に準拠して、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を使用して、温度20℃、荷重39N、スリップ率30%、時間4分の条件で摩耗量を測定した。得られた結果は、比較例1の値の逆数を100とする指数で表わし表2に示した。この指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを意味する。
【0055】
【表2】

【0056】
なお、表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、RSS#3
BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
CB:カーボンブラック、東海カーボン社製シースト6
シリカ:日本シリカ社製Niosil AQ
シランカップリング剤:デクサ社製Si69
マイクロカプセル−1〜4:上述の方法により調製したマイクロカプセル1〜4
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日本油脂社製ビーズステアリン酸
老化防止剤:フレキシス社製SANTOFLEX 6PPD
アロマオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドゴムがジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを10重量部以上含む補強充填剤を30〜100重量部、熱膨張性物質を内包するマイクロカプセルを1〜20重量部含むゴム組成物からなる空気入りタイヤにおいて、
前記ゴム組成物に、前記シリカ重量に対して硫黄含有シランカップリング剤を3〜15重量%配合すると共に、前記マイクロカプセルの殻材をニトリル系単量体(I)を主成分とし、分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)及び2以上の重合性二重結合を有する単量体(III)から重合された熱可塑性樹脂から構成すると共に、前記熱膨張性物質の150℃での蒸気圧を1.4〜3.0MPaとし、かつ前記ゴム組成物の加硫前における前記マイクロカプセルの平均粒径を20〜30μmにすると共に、加硫により膨張後の平均粒径を40〜80μmにして、トレッドゴムの気泡占有面積率を5〜30%にした空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記マイクロカプセルの殻材を構成する熱可塑性樹脂が、単量体として、共重合可能な単量体(IV)を追加して含む請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ニトリル系単量体(I)が、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリルから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記分子中に不飽和二重結合とカルボキシル基を有する単量体(II)が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、スチレンスルホン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1,2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記2以上の重合性二重結合を有する単量体(III)が、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が200のポリエチレングリコール(PEG#200)ジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が400のポリエチレングリコール(PEG#400)ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記共重合可能な単量体(IV)が、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレン、クロロスチレン、アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミドから選ばれる少なくとも1種である請求項2〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記熱膨張性物質がイソアルカン、ノルマルアルカンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記硫黄含有シランカップリング剤が、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイドから選ばれる1種である請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2009−190499(P2009−190499A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31595(P2008−31595)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【特許番号】特許第4289508号(P4289508)
【特許公報発行日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】