説明

空気入りタイヤ

【課題】カット入力起因の故障に対する耐久性を損ねることなく、走行時の発熱を抑制して、かかる発熱による接着性の低下を抑制した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】スチールコードをゴム被覆してなる少なくとも1層のカーカスプライ2を備える空気入りタイヤである。スチールコードの、曲げ剛性が380kg/mm以上500kg・mm以下であり、かつ、ヒステリシスロスが3.5kg・mm以下である。スチールコードの打込み数は、好適には3.3本/50mm以上5.5本/50mm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、カーカスプライの補強コードを改良した重荷重用空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
重荷重用タイヤは、主として荒地を走行するため、カット傷を受けやすいことから、高い耐久性が求められている。しかし、かかる耐久性の確保のためにトレッドゴム層を厚くすると、タイヤ重量が増大するため、走行時の繰り返し歪により、ゴムの発熱が高くなってしまうという難点があった。
【0003】
また、かかる耐久性の確保のために、カーカスプライに太径の複撚り構造のスチールコード(一般的に引張強力の高いスチールコード)を適用すると、やはりタイヤ重量が増大するため、同様に、走行時の繰り返し歪により、ゴムの発熱が高くなってしまう。さらに、この場合、複撚り構造のスチールコードは、曲げ変形時に大きなヒステリシスロスを発生させるため、コード自体も発熱が高いものとなっていた。
【0004】
重荷重用タイヤに係る改良技術としては、例えば、特許文献1に、良好な耐発熱性および耐久性を確保しながら、耐カット性および耐チップ性を改善することを目的として、トレッド部のカーカス層外周側に4層のベルト層を設け、カーカス層側から2番目と3番目に位置する2,3番ベルト層の補強コードをタイヤ周方向に対する傾斜方向を逆向きにして互いに交差するように配列し、この2,3番ベルト層をそれぞれタイヤ幅方向で3分割した構造にし、2番ベルト層および3番ベルト層の左右の分割位置を、それぞれ所定に規定した重荷重用空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−250313号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、タイヤの耐久性を確保する目的で、トレッドゴム層を厚くしたり、太径のスチールコードを適用したりすると、タイヤ重量が増大することに起因して、走行時におけるゴムの発熱が高くなってしまう。走行時における発熱が高くなると、ゴム物性の低下が促進されるために、スチールコード端を起点とするセパレーションや、ゴムとスチールコードとの接着性の低下に起因するセパレーションの問題が発生しやすくなり、結果として、タイヤの耐久性を損なうこととなっていた。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、カット入力起因の故障に対する耐久性を損ねることなく、走行時の発熱を抑制して、かかる発熱による接着性の低下を抑制した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、カーカスプライに用いるスチールコードとして、特定の物性値を有するものを用いることで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、スチールコードをゴム被覆してなる少なくとも1層のカーカスプライを備える空気入りタイヤにおいて、
前記スチールコードの、曲げ剛性が380kg/mm以上500kg・mm以下であり、かつ、ヒステリシスロスが3.5kg・mm以下であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、前記スチールコードの打込み数が、3.3本/50mm以上5.5本/50mm以下であることが好ましい。本発明の空気入りタイヤは、特には、重荷重用空気入りタイヤとして好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記構成としたことにより、カット入力起因の故障に対する耐久性を損ねることなく、走行時の発熱を抑制して、かかる発熱による接着性の低下を抑制した空気入りタイヤを実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一例の空気入りタイヤを示す幅方向片側断面図である。
【図2】カーカスプライにおけるスチールコードの打込み状態を示す概略部分断面図である。
【図3】スチールコードの歪−荷重曲線を示すグラフである。
【図4】曲げ剛性の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明の一例の空気入りタイヤの幅方向片側断面図を示す。図示するタイヤは、左右一対のビード部11と、そのタイヤ半径方向外側に延在するサイドウォール部12と、両サイドウォール部12間に跨って接地部を形成するトレッド部13とからなり、各ビード部11にそれぞれ埋設されたビードコア1間にわたりトロイド状をなして跨り、スチールコードをゴム被覆してなる1層のカーカスプライ2と、そのクラウン領域のタイヤ半径方向外側に配置され、並置配列された補強コードが積層間で交差されてなる、少なくとも1層、好適には4〜6層、図示する例では6層のベルト3とを備えている。
【0014】
本発明においては、カーカスプライ2を構成するスチールコードとして、曲げ剛性が380kg/mm以上500kg・mm以下であり、かつ、ヒステリシスロスが3.5kg・mm以下であるものを用いる点が重要である。カーカスプライ2を構成するスチールコードとして、上記物性を満足するものを用いることで、走行時におけるカーカスコード起因の発熱を低減して、ゴムとコードとの接着性の低下を抑制し、発熱起因の故障に対する耐久性を向上させた空気入りタイヤを実現することが可能となった。なお、かかるスチールコードのヒステリシスロスは、スチールコードに荷重を付加して除去したときのエネルギーの損失分として、図3に示すようなスチールコードの歪−荷重曲線で囲まれた斜線部として定義される。
【0015】
かかるカーカスプライ2を構成するスチールコードの曲げ剛性が380kg・mm未満である場合、すなわち、コード径が細い場合には、引張強力が低くなるため、タイヤとして所定の安全率を確保できなくなってしまう。一方、かかるスチールコードの曲げ剛性が500kg・mmを超える場合、すなわち、コードを構成するフィラメント径が太い場合には、タイヤの転動による繰り返し入力により、スチールコード自体の疲労性が悪化してしまう。また、かかるスチールコードのヒステリシスロスが3.5kg・mmより高い場合には、走行時の発熱低減効果が得られないため、本願発明の効果が得られず、カーカスプライの接着性向上に繋がらない。本発明において、カーカスプライ2を構成するスチールコードの、曲げ剛性は好適には400kg/mm以上500kg・mm以下であり、また、ヒステリシスロスは好適には、2.7kg・mm以上3.3kg・mm以下である。
【0016】
図2は、カーカスプライ2におけるスチールコード20の打込み状態を示す断面図である。本発明において、カーカスプライ2におけるスチールコード20の打込み数は、好適には3.3本/50mm以上5.5本/50mm以下、より好適には4.0本/50mm以上5.0本/50mm以下とする。打込み数を5.5本/50mmより大きくした場合、タイヤ重量が重くなるために、発熱低減の効果が得にくくなる。また、隣り合うコード間隔が狭くなって、コード端の亀裂が進展しやすくなるため、コード端からのセパレーションが発生しやすくなってしまう。一方、打込み数を3.3本/50mm未満とした場合、タイヤ重量は軽くなるものの、打込み数が少なくなるために、タイヤとして所定の安全率を得にくくなる。
【0017】
さらに、カーカスプライ2に適用するスチールコードとしては、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせたコアストランドとシースストランドとを、さらに複数本にて撚り合わせてなる複撚り構造のコードを用いることが好ましく、特には、各ストランド内およびコード自体が、ともに同方向撚りであることが好ましい。さらにまた、かかるストランドは、コード自体の耐疲労性を確保するために、3層撚り構造とすることが好ましい。本発明においては、かかるスチールコードを構成するフィラメントの径や本数、撚りピッチ(撚り角)、撚り方法等を適宜選定することにより、曲げ剛性およびヒステリシスロスの値を上記範囲内に調整することができる。
【0018】
本発明においては、カーカスプライ2を構成するスチールコードについて、上記条件を満足するものであればよく、このコードを被覆するコーティングゴムのゴム配合や、カーカスプライ以外のタイヤの各構成部材等の条件については、特に制限されるものではない。
【0019】
例えば、図示する例では、カーカスプライ2は、ビードコア1の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止されている。また、トレッド部13の表面には適宜トレッドパターンが形成されており、最内層にはインナーライナー(図示せず)が形成されている。さらに、本発明のタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の又は酸素分圧を変えた空気、もしくは窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【0020】
本発明の空気入りタイヤは、重荷重用空気入りタイヤとして好適であり、特には、米国のタイヤ規格であるTRA規格で51インチ以上の大型タイヤに好適に適用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
タイヤサイズ4000R57の空気入りタイヤを、カーカスプライのスチールコードに下記表中に示す条件を満足するものを用いて製造した。カーカスプライは1層とした。なお、下記表中のスチールコードの曲げ剛性およびヒステリシスロスは、ゴム引きコードを加硫後、コード径の厚さまで加硫ゴムを除去した試験サンプルを用いて、図4に示すように、チャック間距離10cm、試験速度10mm/minにて3点曲げ変形させたときの歪−荷重曲線から算出した。得られたタイヤについて、下記に従い、タイヤ温度および接着性に関して、耐久性を評価した。
【0022】
<タイヤ温度>
各供試タイヤにTRA規格記載の空気圧を充填し、正規荷重を負荷して、室内ドラム上を平均20km/hの速度で15000分間走行させた後、最大屈曲部におけるカーカスプライコードの温度を測定した。また、この温度を、従来例の温度を100として指数表示した。指数値が小さいほど温度が低く、発熱が小さいことを示す。
【0023】
<接着性>
上記室内ドラム走行後の各供試タイヤからカーカスプライコードを取り出して、最大屈曲部におけるゴムの被覆率を調査し、接着性の評価とした。被覆率が高いほど、接着性が良好であることを示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
上記表中に示すように、カーカスプライに本発明の条件を満足するスチールコードを用いた各実施例においては、かかる条件を満足しない従来例および比較例に比して、カーカスプライの温度上昇を抑制することができ、接着性の向上が図られていることがわかる。
【符号の説明】
【0027】
1 ビードコア
2 カーカスプライ
3 ベルト
11 ビード部
12 サイドウォール部
13 トレッド部
20 スチールコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールコードをゴム被覆してなる少なくとも1層のカーカスプライを備える空気入りタイヤにおいて、
前記スチールコードの、曲げ剛性が380kg/mm以上500kg・mm以下であり、かつ、ヒステリシスロスが3.5kg・mm以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記スチールコードの打込み数が、3.3本/50mm以上5.5本/50mm以下である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
重荷重用空気入りタイヤである請求項1または2記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−143859(P2011−143859A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7348(P2010−7348)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】