説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】カーカス層をリヨセル繊維コードからなるカーカス材で構成したタイヤのユニフォーミティを向上するようにした空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】多数のリヨセル繊維コード7を平行配列したすだれ織物11の耳部13同士を互いに重ね合わせるように接合したカーカス材10を、リヨセル繊維コード7がタイヤ周方向に交差するように配置した空気入りラジアルタイヤにおいて、すだれ織物11の耳部13にレーヨン繊維コード8を配置したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤに関し、さらに詳しくは、カーカス層をリヨセル繊維コードからなるすだれ織物で構成したタイヤのユニフォーミティを向上するようにした空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのカーカス層には、ナイロン繊維やレーヨン繊維などからなるコードを平行に配列したすだれ織物が使用されている。レーヨン繊維は、ナイロン繊維などに比べ弾性率が大きいため、高性能タイプの空気入りラジアルタイヤのカーカス層に使用することで、その操縦安定性をさらに向上させることができる。一方、同じセルロース繊維であるリヨセル繊維は、レーヨン繊維よりも高弾性で寸法安定性に優れていることから、レーヨン繊維コードの代わりにリヨセル繊維コードをカーカス層に使用することにより、さらに操縦安定性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、リヨセル繊維コードからなるすだれ織物でカーカス層を構成した場合には、以下に説明するように、加硫後のタイヤサイド部に凹みを発生し、タイヤユニフォーミティが悪化するという問題がある。
【0004】
すなわち、一般に、図5(A)に示すように、カーカス層を構成するすだれ織物11は、リヨセル繊維コードをたて糸として平行に配列し多数本のコード15に、細い緯糸9が粗いピッチで織り込まれて形成されている。このすだれ織物11をゴム引きし、コードの配列方向にタイヤ成形時にタイヤ幅方向に挿入される長さLwに順次切断して、多数の短尺状すだれ織物11a、11b、・・・11nにする。次いで、図5(B)に示すように、多数の短尺状すだれ織物11a、11b、・・・11nが耳部13、13′同士を互いに重ね合わせるように並び換えられ矢印E方向に長く連結された連続帯状のカーカス材10に形成される。この連続帯状のカーカス材10がタイヤ成形時にタイヤ周方向に巻回する長さLに切り取られ、コードが成形ドラムの軸方向と平行になるように巻き付けられ、未加硫タイヤになったときタイヤ周方向に略90°の角度をなすように成形される。
【0005】
上記のようにカーカス材10の耳部13、13′同士の接合部分は、本体部の2倍の厚さになっているため、この部分にはコードが2倍に増量されている。したがって、リヨセル繊維コードは弾性率が高く寸法安定性に優れているため、加硫時においてカーカス材の本体部12の伸びに対して、2倍の密度でリヨセル繊維コードが配置されたカーカス材10の耳部の接合近傍がその伸びに追随することができず、加硫後にサイド部に凹部が発生することになるのである。
【特許文献1】特開2004−66930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーカス層をリヨセル繊維コードからなるすだれ織物で構成したタイヤのユニフォーミティを向上するようにした空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の空気入りラジアルタイヤは、多数のリヨセル繊維コードを平行配列したすだれ織物の耳部同士を互いに重ね合わせるように接合したカーカス材を、前記リヨセル繊維コードがタイヤ周方向に交差するように配置した空気入りラジアルタイヤにおいて、前記すだれ織物の耳部にレーヨン繊維コードを配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、リヨセル繊維コードからなるすだれ織物の耳部にリヨセル繊維コードよりも弾性率の低いレーヨン繊維コードを配置したため、このすだれ織物の耳部同士の接合部が加硫時に本体部の伸びに追随することでサイド部に凹部を形成しなくなり、タイヤのユニフォーミティを向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、本発明の空気入りラジアルタイヤの子午線方向の半断面図を示す。
図1において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。ビード部3に埋設された左右一対のビードコア4間にカーカス層5が装架され、タイヤ幅方向の端部がそれぞれビードコア4の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。トレッド部1においては、カーカス層5の外側に、上下一対のベルト層6がタイヤ1周にわたって配置されている。
【0010】
カーカス層5を構成するカーカス材10は、図2に示すように、多数の短尺状すだれ織物11a、11b、・・・11nの耳部13、13′同士を互いに重ね合わせて構成されている。短尺状すだれ織物11a、11b、・・・11nの本体部12には多数のリヨセル繊維コード7がカーカス材10の長さ方向Eとほぼ直交するように平行に配置され、耳部13、13′にはリヨセル繊維コード7とレーヨン繊維コード8が混在するように平行に配置されている。
【0011】
図3は、短尺状すだれ織物11a、11b、・・・11nの一枚を平面状に展開したものであり、矢印Eがタイヤ成形後にタイヤ周方向になるカーカス材10の長さ方向になる。
【0012】
短尺状すだれ織物11a、11b、・・・11nは、本体部12を多数のリヨセル繊維コード7とし、両端の耳部13、13′をレーヨン繊維コード8が混在するように織成された長尺状のすだれ織物(図5(A)参照)が、RFL液のデイップ処理がなされ未加硫ゴムで被覆された後に、リヨセル繊維コード7及びレーヨン繊維コード8とほぼ直交するように所定の長さLwに切断され形成されたものである。このように切断された多数の短尺状すだれ織物11a、11b、・・・11nが、図2に示したように、耳部13、13′同士を重ね合わせ接合を繰り返しながら矢印E方向に連続的に連結された帯状のカーカス材10に作製される。
【0013】
この連続帯状のカーカス材10がタイヤ成形時にタイヤ周方向に巻回する長さに切り取られ、コードが成形ドラムの軸方向と平行になるように巻き付けられ、未加硫タイヤになったときタイヤ周方向に略90°の角度をなすように成形される。
【0014】
本発明において、上記のように形成されたカーカス材10の耳部13には、少なくとも一部にレーヨン繊維コード8が配置される。レーヨン繊維コードは、リヨセル繊維コードに比べて弾性率が低いため、タイヤ加硫時のブラダーによるリフトアップにおいて、カーカス材の本体部12の伸びに対してカーカス材の耳部13の伸びを許容する。このため、サイド部に凹みを発生することがない。
【0015】
カーカス材10の耳部13、13′におけるレーヨン繊維コードの配置の仕方は、特に制限されるものではないが、好ましくは、図4(a)〜(c)のように、レーヨン繊維コードとリヨセル繊維コードとを1本ずつ交互に配置するのがよい。また、図4(d)のように、カーカス材の耳部13、13′をすべてレーヨン繊維コードにしてもよい。
【0016】
リヨセル繊維コードとレーヨン繊維コードとを交互に配置する場合は、図4(a)のように、カーカス材の耳部13の端14から、奇数番目をレーヨン繊維コードにしてもよいし、図4(b)のように、偶数番目をレーヨン繊維コードにしてもよいが、好ましくは図4(a)のように奇数番目にするのがよい。また、図4(c)のように両端部14、14′で、レーヨン繊維コードの並べ順を異ならせてもよい。これら配置の選択は、リヨセル繊維コード及びレーヨン繊維コードの特性の差、タイヤの種類やサイズに応じて行えばよい。
【0017】
一方、レーヨン繊維は、リヨセル繊維に比べて吸湿しやすく、吸湿により収縮する特性がある。このため、本発明のカーカス層に使用するレーヨン繊維コードとしては、すだれ織物を織成する前に、荷重100g以下の張力下に巻取り直し処理を行うことにより、レーヨン繊維コードに縮み代を付与することが好ましい。この巻取り直し処理により、両端のすだれ織物の耳部の耳吊りがなくなり、すだれ織物の平坦性が向上するため、未加硫ゴムの被覆工程を円滑にすることができる。
【0018】
また、本発明のカーカス層に使用するリヨセル繊維コード及びレーヨン繊維コードは、下式(I)で表される撚り係数αが、2000〜3200であることが好ましく、より好ましくは2300〜2900であるとよい。
α=N×(T/1.111)1/2 ・・・(I)
(式中、Nは上撚り数[回/10cm]、Tは繊維コードの総繊度[dtex]である。)
【0019】
撚り係数αを2000以上にすることによりコードの収束性を維持し、工程通過性を良好にし、かつ耐久性を良好にする。また、3200以下にすることにより、リヨセル繊維コード及びレーヨン繊維コードの高い弾性率を維持し、優れた操縦安定性を確保することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1〜3
タイヤサイズが195/60R14、タイヤ構造が図1であり、カーカス層を形成するカーカス材を本体部がリヨセル繊維コードからなるすだれ織物により構成することを共通条件にし、すだれ織物の耳部のコードの配置を表1のように異ならせた4種類の空気入りラジアルタイヤ(実施例1〜3、従来例)を製作した。
【0022】
得られたタイヤの操縦安定性及びサイド部凹みの歩留りを下記の方法で評価し、得られた結果を表1に示す。
【0023】
操縦安定性
供試タイヤをリムサイズ14×6JJのリムに装着し、空気圧を220kPaにして乗用車に取付け、訓練された5名のテストドライバーがテストコースを周回するときのフィーリングを評点し、その平均値により評価した。得られた結果を、従来例を100とする指数で表した。この数値が高いほど操縦安定性が優れることを示す。
【0024】
サイド部凹みの歩留り
供試タイヤのサイド部の凹みの深さを計測し得られた結果の逆数を、従来例を100とする指数で表した。この数値が高いほどサイド部凹みの歩留りが優れることを示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1のコードの種類において、「リヨセル」は、撚り係数αが2705で、水分率が12重量%あるリヨセル繊維コードを表し、「レーヨン」は、撚り係数αが2705で、水分率が14.7重量%あるレーヨン繊維コードを表す。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の空気入りラジアルタイヤの子午線方向の半断面図である。
【図2】本発明の空気入りラジアルタイヤに使用するカーカス材の長さ方向断面の部分断面図である。
【図3】図2のカーカス材を構成する短尺状すだれ織物の展開図である。
【図4】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の空気入りラジアルタイヤのカーカス材に使用されるすだれ織物耳部を例示する説明図である。
【図5】(A)は、カーカス材に使用するすだれ織物の展開図であり、(B)は、(A)のすだれ織物を短尺状にして連続的に接合したカーカス材の展開図である。
【符号の説明】
【0028】
5 カーカス層
7 リヨセル繊維コード
8 レーヨン繊維コード
10 カーカス材
11 すだれ織物
11a、11b、・・・11n 短尺状すだれ織物
12 本体部
13 耳部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のリヨセル繊維コードを平行配列したすだれ織物の耳部同士を互いに重ね合わせるように接合したカーカス材を、前記リヨセル繊維コードがタイヤ周方向に交差するように配置した空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記すだれ織物の耳部にレーヨン繊維コードを配置した空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記すだれ織物の耳部に、前記リヨセル繊維コードとレーヨン繊維コードとを交互に配置した請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記すだれ織物の耳部の端から奇数番目に前記レーヨン繊維コードを配置した請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記すだれ織物の耳部の端から偶数番目に前記レーヨン繊維コードを配置した請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記すだれ織物に織成前の前記レーヨン繊維コードが、荷重100g以下の張力で巻取り直し処理を行ったものである請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記リヨセル繊維コード及びレーヨン繊維コードの下式(I)で表される撚り係数αが2000〜3200である請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。
α=N×(T/1.111)1/2 ・・・(I)
(式中、Nは上撚り数[回/10cm]、Tは繊維コードの総繊度[dtex]である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−87587(P2008−87587A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269381(P2006−269381)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】