説明

空気吹出口装置

【課題】 装置から吹出される風の速さを変更することなく、リア席の左右両側の乗員の喉だけでなく左右中央の乗員の喉にも所定の速さの風を直接当てることができる、空気吹出口装置の提供。
【解決手段】装置から吹出される風の速さを一定にした状態における、リア席の右側の乗員Aの喉に所定速さの風を当てることができる範囲A1、リア席の左側の乗員Bの喉に所定速さの風を当てることができる範囲B1、リア席の左右中央の乗員Cの喉に所定速さの風を当てることができる範囲C1、の全てが重なり合う範囲Sに、装置10を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リア席に車両左右方向に一列に着座する乗員に風を送るために車室天井に配置される空気吹出口装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、リア席(後部座席)の乗員に風を送るために車室天井の車両左右方向両端部に配置される空気吹出口装置を開示している。
【0003】
ところで、リア席の乗員に風を送るために車室天井に配置される空気吹出口装置には、以下のニーズがある。
(a)所定の速さ(たとえば2m/s〜4m/s)の風を乗員に直接当てることができることが望ましい。その理由は、風の速さが速すぎても遅すぎても、風が当たることによる快適さを乗員が得ることが困難になるからである。
(b)乗員の喉に風を直接当てることができるようになっていることが望ましい。その理由は、乗員の喉より上の部分にしか風を当てることができない場合には、顔(目)や頭に風が当たり乗員が煩わしさを感じるからであり、乗員の喉より下の部分にしか風を当てることができない場合には、衣服に風が当たってしまい風が当たることによる快適さを乗員が得難くなるからである。
【0004】
しかし、上記特許文献1開示の装置には、つぎの問題点がある。
(a)装置が車室天井の左右両端部に設けられているため、リア席の右側と左側の乗員には装置から所定速さ(たとえば2m/s〜4m/s)の風を直接当てることができるが、装置から吹出される風の向きをリア席の左右中央の乗員に向けても、装置からの距離が遠くなるため、リア席の左右中央の乗員に所定速さの風を直接当てることが困難である。
なお、装置から吹出される風の速さを速くすることで(変更することで)、リア席の左右中央の乗員にも所定速さの風を直接当てることができるようにすることも考えられるが、風速を変更する作業を要するため手間がかかる。
(b)乗員に対する装置の配置位置に関する記載が無いため、装置の配置位置によっては、装置からの風を乗員の喉に直接当てることができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−89717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、装置から吹出される風の速さを変更することなく、リア席の左右両側の乗員の喉だけでなく左右中央の乗員の喉にも所定の速さの風を直接当てることができる、空気吹出口装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) リア席に車両左右方向に一列に着座する乗員に風を送るために車室天井に配置される空気吹出口装置であって、
装置から吹出される風の速さを一定にした状態における、(a)前記リア席の右側の乗員Aより車両前方にあり、装置からの風が前記乗員Aの顔や頭によって遮られ前記乗員Aの喉に直接当たらなくなる位置より車両前方で、前記乗員Aの喉からの距離が遠くなることで所定速さの風を前記乗員Aの喉に直接当てることができなくなる位置より車両後方となる範囲A1と、(b)前記リア席の左側の乗員Bより車両前方にあり、装置からの風が前記乗員Bの顔や頭によって遮られ前記乗員Bの喉に直接当たらなくなる位置より車両前方で、前記乗員Bの喉からの距離が遠くなることで前記所定速さの風を前記乗員Bの喉に直接当てることができなくなる位置より車両後方となる範囲B1と、(c)前記リア席の左右中央の乗員Cより車両前方にあり、装置からの風が前記乗員Cの顔や頭によって遮られ前記乗員Cの喉に直接当たらなくなる位置より車両前方で、前記乗員Cの喉からの距離が遠くなることで前記所定速さの風を前記乗員Cの喉に直接当てることができなくなる位置より車両後方となる範囲C1と、の全てが重なり合う範囲に配置される、空気吹出口装置。
(2) アクチュエータと、風向き調整用のフィンと、を有し、
前記フィンが前記アクチュエータの駆動力にて向きを変更可能とされている、(1)記載の空気吹出口装置。
【発明の効果】
【0008】
上記(1)の空気吹出口装置によれば、装置が、装置から吹出される風の速さを一定にした状態における範囲A1,B1,C1の全てが重なり合う範囲に配置されるため、装置から吹出される風の速さを変更することなく、装置から吹出される風の向きを変えるだけで、リア席の乗員A、B、Cの各々の喉に所定速さの風を当てることができる。
【0009】
上記(1)の空気吹出口装置によれば、さらに、以下の効果を得ることができる。
装置が範囲A1,B1,C1の全てが重なり合う範囲に配置されるため、装置を車室天井の一箇所にまとめて配置できる。そのため、装置に風を導くためのダクトを複数設ける、ダクトに分岐部を設ける、等は不要である。そのため、ダクトを複数設ける、ダクトに分岐部を設ける、等を要する場合に比べて、コスト上有利である。
また、装置を車室天井の一箇所にまとめて配置できるため、装置を1個のみにすることができる。その場合、装置が複数設けられる場合に比べて、部品点数を削減できコスト上有利である。
【0010】
上記(2)の空気吹出口装置によれば、フィンがアクチュエータの駆動力にて向きを変更可能とされているため、装置から吹出される風の向きをアクチュエータの駆動力にて自動的に周期的に変えることができる。そのため、風向きを手動で変更する作業は不要である。
また、風の向きを自動的に周期的に変えることができるため、乗員に当たる風を間欠風(時々当たる風)にすることができる。そのため、風が乗員に当たり続ける場合に比べて、乗員に当たる風を自然の風に近づけることができ乗員に快適さを感じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明実施例の空気吹出口装置が搭載される車両の、車両左右方向から見たときの部分概略断面図である。
【図2】本発明実施例の空気吹出口装置が搭載される車両の、車両後方から見たときの部分概略断面図である。
【図3】本発明実施例の空気吹出口装置の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明実施例の空気吹出口装置の配置位置を検討するために用いた、空気吹出口装置および該装置に風を導くダクトの斜視図である。
【図5】図4における装置から風を吹出したときの、(乗員の喉元における風速)―(空気吹出口装置の鉛直下方からの角度)のグラフである。
【図6】図5の結果から乗員の喉位置で所定の速さの風を確保できる領域を示すとともに、近すぎて顔や頭に当たって喉を狙えなくなる領域を示す、模式図である。
【図7】範囲A1,B1,C1の重なり合う範囲を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明実施例の空気吹出口装置を、図面を参照して説明する。なお、図において、UPは車両の上方を示し、FRは車両前方を示す。
【0013】
本発明実施例の空気吹出口装置(以下、単に装置ともいう)10は、図1、図2に示すように、車両用である。装置10が搭載される(配置される)車両は、2列シート車両であってもよく、3列シート車両であってもよく、4列以上のシートを有する車両であってもよい。装置10は、3人がけのリア席(後部座席)50に車両左右方向に一列に着座する乗員A,B,Cに風を送るために車室天井Rに配置される。リア席50は、2列目以降であれば何列目であってもよい。
装置10は、車両に設けられるダクト40と繋がれており、ダクト40内を流れてきた空気(風)を車室内に吹出す。
【0014】
装置10は、風向き調整用のフィンがアクチュエータの駆動力にて向きを変更可能な、いわゆるスイングレジスタである。装置10の構造は特に限定するものではないが、装置10の構造の一例を、図3を参照して説明する。
【0015】
装置10は、図3に示すように、車室天井Rに固定して取付けられるパネル11と、パネル11に回転可能(揺動可能)に支持されるハウジング12と、パネル11に取付けられるアクチュエータ13と、ハウジング12に取付けられアクチュエータ13の駆動力にて向きを変更可能な風向き調整用のフィン14と、を有する。
なお、ハウジング12は、図3に示す例では、1個のパネル11に2個設けられる場合を示しているが、1個のパネル11に1個のみ設けられていてもよく、1個のパネル11に3個以上設けられていてもよい。
また、フィン14の向きは、アクチュエータ13の駆動力でハウジング12をパネル11に対して回転させることで変更可能とされていてもよく、アクチュエータ13の駆動力でフィン14をハウジング12に対して動かすことで変更可能とされていてもよい。
【0016】
ここで、装置10の配置位置(搭載位置)について、説明する。
装置10は、図7に示すように、装置10から吹出される風の速さを一定にした状態における、範囲A1,B1,C1の全てが重なり合う範囲Sに配置される。
なお、範囲A1は、リア席50の右側の乗員Aより車両前方にあり、装置10からの風が乗員Aの顔や頭によって遮られ乗員Aの喉に直接当たらなくなる位置A2より車両前方で、乗員Aの喉からの距離が遠くなることで所定速さ(たとえば2〜4m/s(両端含む)、以下同じ)の風を乗員Aの喉に直接当てることができなくなる位置A3より車両後方となる範囲である。
また、範囲B1は、リア席50の左側の乗員Bより車両前方にあり、装置10からの風が乗員Bの顔や頭によって遮られ乗員Bの喉に直接当たらなくなる位置B2より車両前方で、乗員Bの喉からの距離が遠くなることで所定速さの風を乗員Bの喉に直接当てることができなくなる位置B3より車両後方となる範囲である。
また、範囲C1は、リア席50の左右中央の乗員Cより車両前方にあり、装置10からの風が乗員Cの顔や頭によって遮られ乗員Cの喉に直接当たらなくなる位置C2より車両前方で、乗員Cの喉からの距離が遠くなることで所定速さの風を乗員Cの喉に直接当てることができなくなる位置C3より車両後方となる範囲である。
【0017】
範囲A1について説明する。なお、範囲B1,C1については、範囲A1の説明に順ずるため、説明を省略する。
【0018】
(i)範囲A1が乗員Aより車両前方にある理由は、範囲A1が乗員Aより車両後方にあると装置10からの風が乗員Aの後頭部や背中等に当たってしまい、装置10からの風を乗員Aの喉に当てられないからである。
【0019】
(ii)範囲A1が、装置10からの風が乗員Aの顔や頭によって遮られ乗員Aの喉に直接当たらなくなる位置A2より車両前方である理由は、乗員Aより車両前方にある装置10を、車両後方に乗員Aに近づけすぎてしまうことによる弊害を抑制するためである。
【0020】
(iii)範囲A1が、乗員Aの喉からの距離が遠くなることで所定速さ(たとえば2〜4m/s)の風を乗員Aの喉に直接当てることができなくなる位置A3より車両後方である理由は、乗員Aより車両前方にある装置10を、車両前方に乗員Aから離し過ぎてしまうことによる弊害を抑制するためである。
【0021】
なお、「位置A3」は、乗員Aと装置10との間の距離、装置10からの吹出し量(流量)、車室天井R面に対するフィン14の角度、等により変わるが、図4〜図6を用いて具体的な一例を説明する。
乗員Aと装置10との間の距離が750mmであり(条件1)、装置10からの吹出し量(流量)がフィン14を全開(0°)にした状態で90m3/hであり(条件2)、フィン14の角度が全開(0°)から車両後方側に乗員A方向に70°である(条件3)、の3つの条件の下で、図4に示すように車両後方から前方に向かって延びるダクト40を通ってきた空気を装置10から吹出し、乗員Aの喉に所定速さ(2〜4m/s)の風を当てることができるか否かを調べた。なお、「乗員Aと装置10との間の距離を750mm」を条件(条件1)とした理由は、この距離がリア席50に着座している乗員Aが手を伸ばして装置10に届く最遠距離であると想定される距離でありこれ以上離れてしまうとリア席50に着座している乗員Aが手を伸ばしても装置10に手が届かなくなり装置10の操作が困難になるおそれがあるからである。
その結果、図5に示すようなグラフを得ることができた。なお、図5は、(乗員の喉元における風速)―(空気吹出口装置の鉛直下方からの角度)のグラフである。
図5から次のことがわかる。
装置10の鉛直下方から車両後方への角度が53°以下であれば、乗員Aの喉に所定速さの風を当てることができるが、装置10の鉛直下方から車両後方への角度が53°より大になると、乗員Aの喉に所定速さの風を当てることができなくなる。すなわち、図6に示すように、装置10の鉛直下方から車両後方への角度が53°以下であれば、乗員Aの喉から装置10までの距離が近く乗員Aの喉に所定速さの風を当てることができるが、装置10の鉛直下方から車両後方への角度が53°より大になると、乗員Aの喉から装置10までの距離が遠くなり乗員Aの喉に所定速さの風を当てることができなくなってしまう。よって、角度53°より大となる位置が、上記の3つの条件下における「位置A3」である。
【0022】
(iv)範囲A1は、図7に示すように、乗員Aを中心とする円弧状(ほぼ円弧状を含む)に存在する。なお、図7において、範囲A2が真円弧ではなく、長軸半径400mm、短軸半径300mmの略円弧となっている理由は、乗員Aの側方へ装置10を搭載すると、装置10からの風が乗員Aの耳に当たり乗員Aに煩わしさを感じさせるおそれがあるからである。
【0023】
次に、本発明実施例の作用を説明する。
本発明実施例では、装置10が、装置10から吹出される風の速さを一定にした状態における円弧状の範囲A1,B1,C1の全てが重なり合う範囲S(図7参照)に配置されるため、装置10から吹出される風の速さを変更することなく、装置10から吹出される風の向きを変えるだけで、乗員A、B、Cの各々の喉に所定速さの風を当てることができる。
【0024】
装置10がA1,B1,C1の全てが重なり合う範囲Sに配置されるため、装置10を車室天井Rの一箇所にまとめて配置できる。そのため、装置に風を導くためのダクトを複数設ける、ダクトに分岐部を設ける、等は不要である。そのため、ダクトを複数設ける、ダクトに分岐部を設ける、等を要する場合に比べて、材料費を低減できるだけでなく、ダクト40形状の単純化によるコストダウンも図ることができる。
また、装置10を車室天井Rの一箇所にまとめて配置できるため、装置10を1個のみにすることも可能になる。その場合、装置10が複数設けられる場合に比べて、部品点数を削減できコスト上有利である。
【0025】
フィン14がアクチュエータ13の駆動力にて向きを変更可能とされているため、装置10から吹出される風の向きをアクチュエータ13の駆動力にて自動的に周期的に変えることができる。そのため、風向きを手動で変更する作業は不要である。
また、風の向きを自動的に周期的に変えることができるため、乗員に当たる風を間欠風(時々当たる風)にすることができる。そのため、風が乗員に当たり続ける場合に比べて、乗員に当たる風を自然の風に近づけることができ乗員に快適さを感じさせることができる。
【符号の説明】
【0026】
10 空気吹出口装置
11 パネル
12 ハウジング
13 アクチュエータ
14 フィン
40 ダクト
50 リア席
A,B,C 乗員
A1,B1,C1 範囲
R 車室天井
S A1,B1,C1の全てが重なり合う範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リア席に車両左右方向に一列に着座する乗員に風を送るために車室天井に配置される空気吹出口装置であって、
装置から吹出される風の速さを一定にした状態における、(a)前記リア席の右側の乗員Aより車両前方にあり、装置からの風が前記乗員Aの顔や頭によって遮られ前記乗員Aの喉に直接当たらなくなる位置より車両前方で、前記乗員Aの喉からの距離が遠くなることで所定速さの風を前記乗員Aの喉に直接当てることができなくなる位置より車両後方となる範囲A1と、(b)前記リア席の左側の乗員Bより車両前方にあり、装置からの風が前記乗員Bの顔や頭によって遮られ前記乗員Bの喉に直接当たらなくなる位置より車両前方で、前記乗員Bの喉からの距離が遠くなることで前記所定速さの風を前記乗員Bの喉に直接当てることができなくなる位置より車両後方となる範囲B1と、(c)前記リア席の左右中央の乗員Cより車両前方にあり、装置からの風が前記乗員Cの顔や頭によって遮られ前記乗員Cの喉に直接当たらなくなる位置より車両前方で、前記乗員Cの喉からの距離が遠くなることで前記所定速さの風を前記乗員Cの喉に直接当てることができなくなる位置より車両後方となる範囲C1と、の全てが重なり合う範囲に配置される、空気吹出口装置。
【請求項2】
アクチュエータと、風向き調整用のフィンと、を有し、
前記フィンが前記アクチュエータの駆動力にて向きを変更可能とされている、請求項1記載の空気吹出口装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−255751(P2011−255751A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130828(P2010−130828)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(308016242)豊和化成株式会社 (65)
【Fターム(参考)】