説明

空気式物品用の気密多層ラミネート

本発明は、ジエンエラストマー組成物に接着することができ、且つ該ジエン組成物を備えた空気式物品に利用することのできる、膨張ガスに対して気密な多層エラストマーラミネートに関する。前記ラミネートは、少なくとも、下記の2つ:
・シールされる第1層としての、50pceよりも多い、ポリスチレンブロックとポリイソブチレンブロックのコポリマーを含む第1のエラストマー組成物;
・接着性の第2層としての、50pceよりも多い不飽和熱可塑性スチレンコポリマーと、任意構成成分としての0から100pce未満までの含有量の液体可塑剤とを含む第2のエラストマー組成物、
の重ね合せ熱可塑性エラストマー層を含む(pceは対象とする各エラストマー組成物中のエラストマー100部当たりの質量部を表す)。
この多層ラミネートは、極めて良好な不透過特性およびブチルゴム層よりもかなり低いヒステリシスを有し、ジエンエラストマー第3層に対する高い接着力をも有する。また、本発明は、そのようなラミネートを含む自動車用のあらゆる内部チューブまたはタイヤにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレータブル物品、即ち、定義によれば、該物品を空気または等価の膨張ガスによって膨張させたときにその使用可能な形状をとる物品に関する。
本発明は、さらに詳細には、これらのインフレータブル物品の不透過性、特に、空気式タイヤの不透過性を確保する気密層またはラミネートに関する。
【背景技術】
【0002】
“チューブレス”タイプ(即ち、内部チューブを含まないタイプ)の通常の空気式タイヤにおいては、その放射状内面は、気密層(または、より一般的には、あらゆる膨張ガスに対して不透過性である層)を含み、この気密層は、空気式タイヤを膨張させ、加圧下に保つことを可能にする。その不透過特性は、比較的低い圧力低下速度を確保することを可能にし、膨張したタイヤを、通常の操作状況においては、十分な時間、通常数週間または数ヶ月間保つことを可能にしている。また、気密層は、カーカス補強材をタイヤの内部空間から発する空気の拡散から保護する役割を有する。
気密内部層即ち“内部ライナー”のこの役割は、現在のところ、ブチルゴムをベースとする組成物によって満たされており、長い間、その優れた不透過特性についてはよく知られている。
【0003】
しかしながら、ブチルゴムまたはエラストマーをベースとする組成物の1つの周知の欠点は、ブチルゴムが大きなヒステリシスの損失を被ることであり、さらに広い温度範囲に亘って、この欠点は、空気式タイヤの転がり抵抗性を悪化させる。
これらの気密内部層のヒステリシスを、従って、最終的には自動車の燃費を低下させることは、最近の技術が直面している一般的な目的である。
【発明の概要】
【0004】
これに対して、本出願人等は、研究中に、熱可塑性エラストマーをベースとし、そのような目的を満たすと共に優れた不透過特性を付与する特定の多層ラミネートを見出した。
【0005】
従って、第1の主題によれば、本発明は、膨張ガスに対して不透過性であり、ジエンエラストマー組成物に接着することのできるエラストマーラミネートに関し、該ラミネートは、少なくとも、下記の2つの重ね合せ熱可塑性エラストマー層を含むことを特徴とする(phrは、各それぞれのエラストマー組成物において、エラストマーの100質量部当りの質量部を示す):
・気密第1層としての、50phrよりも多い、ポリスチレンブロックとポリイソブチレンブロックを含有するコポリマーを含む第1のエラストマー組成物;
・接着第2層としての、50phrよりも多い不飽和熱可塑性スチレンコポリマーと、任意構成成分としての0から100phr未満までの含有量の液体可塑剤とを含む第2のエラストマー組成物。
【0006】
ブチルゴムと比較して、上記各スチレンエラストマーは、その熱可塑特性故に、溶融(液体)状態のままで加工することができ、従って、簡単化された加工の実現性を提供するという大きな利点を有する。
【0007】
また、本発明は、そのようなラミネートの、インフレータブル物品、特に、空気式タイヤまたは内部チューブ、特に、空気式タイヤ用の内部チューブのようなゴムから製造されたインフレータブル物品における使用に関する。
本発明は、特に、乗用車タイプ、SUV (スポーツ用多目的車)タイプの自動車;二輪車(特にオートバイ);航空機;バン類、重量車両(即ち、地下鉄列車;バス;トラック、けん引車両、トレーラーのような重量道路輸送車両;または農業用車両もしくは土木工事車両のような道路外車両)から選ばれる産業用車両;および、他の輸送または操作用車両に装着することを意図する空気式タイヤにおける上記ラミネートの使用に関する。
【0008】
また、本発明は、それ自体、本発明に従う多層ラミネートを含む任意のインフレータブル物品、特に、空気式タイヤに関する。
本発明およびその利点は、以下の説明および典型的な実施態様、さらにまた、本発明に従うラミネートを組込んでいるラジアルカーカス補強材を有する空気式タイヤを半径断面において略図的に示しているこれらの実施例に関連する単一の図面に照らして容易に理解し得るであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に従うラミネートを組込んでいるラジアルカーカス補強材を有する空気式タイヤを半径断面において略図的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<I. 本発明の詳細な説明>
本説明においては、他に断らない限り、示すパーセント(%)は、全て質量%である。
さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aよりも大きくからbよりも小さいまでの範囲にある値の領域を示し(即ち、限界値aとbを除く)、一方、“a〜b”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aからbまでの範囲である値の領域を意味する(即ち、厳格な限定値aおよびbを含む)。
最後に、用語“phr”は、エラストマー(または“ゴム”、両用語は同義であるとみなす)全体、即ち、検討中の各エラストマー組成物中に存在するエラストマー全体の100質量部当りの質量部を意味する。
【0011】
従って、本発明の多層ラミネートは、少なくとも下記の2つの重ね合せ層を含むという本質的な特徴を有する:
・気密第1層としての、50phrよりも多い、ポリスチレンブロックとポリイソブチレンブロックを含有するコポリマー(“第1の熱可塑性スチレンコポリマー”または“第1のTPSコポリマー”と称する)を含む第1のエラストマー組成物;
・接着第2層としての、50phrよりも多い不飽和熱可塑性スチレンコポリマー(“第2の熱可塑性スチレンコポリマー”または“第2のTPSコポリマー”と称する)と、任意構成成分としての0から100phr未満までの含有量の液体可塑剤とを含む第2のエラストマー組成物。
【0012】
換言すれば、各TPSコポリマーの含有量は、上記ラミネートのそれぞれの層において、50phrよりも多くから100phrまでの範囲内にある。その接着第2層により、このラミネートは、ジエンエラストマー組成物に強力に接着することができる;このラミネートは、特に、このラミネートと接触させることを意図するそのようなジエンエラストマー組成物を備えたインフレータブル物品において使用することができる。
【0013】
先ずは、熱可塑性スチレンエラストマー(“TPSエラストマー”としても知られている)は、スチレン系ブロックコポリマーの形にある熱可塑性エラストマーであることを思い起されたい。熱可塑性ポリマーとエラストマーの中間の構造を有することにより、TPSエラストマーは、知られている通り、可撓性のエラストマーブロック、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(エチレン‐ブチレン)ブロックが結合した硬質ポリスチレンブロックからなる。上記TPSエラストマーは、多くの場合、1つの可撓性セグメントが結合した2つの硬質セグメントを有するトリブロックエラストマーである。硬質および可撓性セグメントは、線状、星型または枝分れ構造であり得る。また、これらのTPSエラストマーは、1つの可撓性セグメントに結合した1つの単一硬質セグメントを有するジブロックエラストマーでもあり得る。典型的には、これらのセグメントまたはブロックの各々は、少なくとも5個よりも多い、一般的には10個よりも多い基本単位(例えば、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマーにおけるスチレン単位とイソプレン単位)を有する。
【0014】
上記第2TPSコポリマーに関しては、“不飽和TPSコポリマー”なる表現は、エチレン系不飽和基を有している、即ち、(共役型または非共役型の)炭素‐炭素二重結合を含むTPSコポリマーを意味するものと理解すべきであることを思い起こされたい。“飽和TPSコポリマー”なる表現は、エチレン系不飽和基を含まない(即ち、炭素‐炭素二重結合の無い)TPSコポリマーを意味するものと理解すべきである。
【0015】
<I−1.第1(気密)層>
気密性またはより一般的にはあらゆる膨張ガスに対して不透過性である上記第1層としては、ポリスチレンブロックとポリイソブチレンブロックを含有するコポリマー(または“第1のTPSコポリマー”)を50phrよりも多く含む第1のエラストマー組成物を使用する。
【0016】
“ポリスチレンブロックとポリイソブチレンブロックを含有するコポリマー”なる表現は、本出願においては、少なくとも1個のポリスチレンブロック(即ち、1個以上のポリスチレンブロック)と少なくとも1個のポリイソブチレンブロック(即ち、1個以上のポリイソブチレンブロック)を含み、これらのブロックと、他の飽和または不飽和ブロック(例えば、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンブロック)および/または他のモノマー単位が結合していても結合していなくてもよい任意の熱可塑性スチレンコポリマーと理解すべきである。
【0017】
この第1のTPSコポリマー、特に、SIBまたはSIBSの存在は、上記ラミネートに優れた不透過特性を付与すると共に、ブチルゴムをベースとする通常の層と比較してヒステリシスを有意に低下させることが観察された。
ポリスチレンブロックとポリイソブチレンブロックを含有するこのコポリマーは、特に、スチレン/イソブチレン (“SIB”と略記する)ジブロックコポリマー、スチレン/イソブチレン/スチレン (“SIBS”と略記する)トリブロックコポリマー、およびこれらの、定義によれば、完全に飽和のSIBBコポリマーとSIBSコポリマーの混合物からなる群から選ばれる。
【0018】
SIBまたはSIBSコポリマーのような、ポリスチレンブロックとポリイソブチレンブロックを含有するコポリマーは、既知であり、商業的に入手可能であり、例えば、KANEKA社から品名“SIBSTAR”(例えば、SIBSについては“Sibstar 103T”、“Sibstar 102T”、“Sibstar 073T”または“Sibstar072T”;SIBについては“Sibstar 042D”)として販売されている。これらのコポリマー、さらにまた、これらコポリマーの合成は、例えば、特許文献 EP 731 112号、US 4 946 899号およびUS 5 260 383号に記載されている。これらのコポリマーは、先ずは生体医学用途用に開発され、その後、医療器具、自動車部品または電気製品用の部品、電線用のシース材、シーリングまたは弾性部品のような多様なTPEエラストマー独自の各種用途において説明されている(例えば、EP 1 431 343号、EP 1 561 783号、EP 1 566 405号またはWO 2005/103146号参照)。しかしながら、本出願人等の知る限り、インフレータブル物品、特に、自動車用の空気式タイヤの分野における応用は知られていない。
【0019】
上記の気密層は、必要に応じて、上記第1のTPSコポリマー以外のエラストマーを少数量(50phr未満)で含み得る。そのような追加のエラストマーは、それらエラストマーのミクロ構造の適合性の限界内において、例えば、天然ゴムまたは合成ポリイソプレンのようなジエンエラストマー、ブチルゴム、または他の飽和熱可塑性スチレンエラストマーでさえであり得る。そのような場合、さらに、好ましくは、第1の気密組成物中の第1のTPSコポリマーの含有量は、70phrよりも多く、特に、80〜100phrの範囲内である。
しかしながら、1つの特定の好ましい実施態様によれば、上記第1のTPSコポリマー、特に、SIBまたはSIBSは、上記気密層中に存在する唯一の熱可塑性エラストマー、より一般的には、唯一のエラストマーである;従って、そのような場合、その含有量は、100phrに等しい。
【0020】
上記第1のTPSコポリマー、特に、SIBまたはSIBSは、それら自体で、上記第1エラストマー層において、インフレータブル物品に関連する気体(該物品内で使用される)に対する不透過性の機能が満たされるには十分である。
しかしながら、この第1のTPSコポリマーは、可塑剤としての増量剤オイル(エクステンダーオイルまたは可塑化用オイル)と組合せ得る;増量剤オイルの役割は、上記気密層の、従って、本発明のラミネートのモジュラスを低め且つ粘着力を高めることによって加工性、特に、インフレータブル物品への組込みを容易にすることである。
【0021】
この任意構成成分としての増量剤オイルは、好ましくは、100phr未満、即ち、上記第1気密層中に存在するエラストマー全体(即ち、上記第1のTPSコポリマー+必要に応じての追加のエラストマー)の100質量部当りの100質量部未満の含有量で使用する。
【0022】
任意の増量剤オイル、好ましくは、エラストマー、特に、熱可塑性エラストマーを増量または可塑化することのできる弱極性を有する増量剤オイルを使用し得る。
周囲温度(23℃)において、これらのオイルは、比較的粘稠であり、本来固体である樹脂とは特に対照的に、液体(即ち、注釈として、最終的にその容器の形をとる能力を有する物質)である。
【0023】
好ましくは、増量剤オイルは、ポリオレフィンオイル(即ち、オレフィン、モノオレフィンまたはジオレフィンの重合によって得られるオイル)、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル(低または高粘度を有する)、芳香族オイル、鉱油およびこれらのオイル類の混合物からなる群から選択する。
好ましくは、ポリブテンオイル、特に、ポリイソブチレン(PIBと略記する)オイルを使用する;これらのオイルは、試験した他のオイル類と、特に、パラフィンタイプのオイルと比較して、諸性質の最良の妥協点を示した。
【0024】
ポリイソブチレンオイルの例としては、特に、Univar社から商品名“Dynapak Poly”(例えば、“Dynapak Poly 190”)として、BASF社から商品名“Glissopal”(例えば、“Glissopal 1000”)または“Oppanol”(例えば、“Oppanol B12”)として、INEOS Oligomer社から品名“Indopol H1200”として販売されているものがある;パラフィン系オイルは、例えば、Exxon社から商品名“Telura 618”として、またはRepsol社から商品名“Extensol 51”として販売されている。
【0025】
上記増量剤オイルの数平均分子量(Mn)は、好ましくは200g/モルと25 000g/モルの間、より好ましくは300g/モルと10 000g/モルの間である。過度に低いMn値においては、オイルが上記組成物の外に移行するリスクが存在し、一方、過度に高いMn値は、この組成物が硬質になり過ぎる結果となり得る。350g/モルと4000g/モルの間、特に400g/モルと3000g/モルの間のMn値が、意図する用途、特に、空気式タイヤにおける使用において優れた妥協点を構成することが判明している。
【0026】
上記増量剤オイルの数平均分子量(Mn)は、SECによって測定する;試験標本を、先ず、約1g/lの濃度にテトラヒドロフラン中に溶解し、次いで、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルター上で、注入前に濾過する。装置は、WATERS Allianceクロマトグラフである。溶出溶媒はテトラヒドロフランであり、流量は1ml/分であり、系の温度は35℃であり、分析時間は30分である。商品名“STYRAGEL HT6E”を有する2本のWATERSカラムセットを使用する。ポリマー試験標本溶液の注入容量は、100μlである。検出器は、WATERS 2410示差屈折計であり;クロマトグラフデータを処理するその関連ソフトウェアは、WATERS MILLENIUMシステムである。算出した平均分子量を、ポリスチレン標準によって得た較正曲線と対比する。
【0027】
当業者であれば、特に使用することを意図するインフレータブル物品の気密エラストマー層の特定の使用条件に応じて増量剤オイルの量を如何にして調整するかは、以下の説明および実施態様に照らして知り得ることであろう。
【0028】
増量剤オイルを使用する場合、その増量剤含有量は、5phrよりも多く、特に5phrと100phrの間であるのが好ましい。上記の最低値よりも低いと、上記気密層、従って、上記多層ラミネートは、ある種の用途においては高過ぎる剛性を有するリスクに至り、一方、推奨する最高値よりも高いと、上記ラミネートが不十分な凝集力を有し且つ検討中の用途次第では有害であり得る不透過性喪失のリスクが存在する。
これらの理由により、特に、上記ラミネートの空気式タイヤにおける使用においては、増量剤オイル含有量は、好ましくは10phrよりも多く、特に10phrと90phrの間、さらにより好ましくは20phrよりも多く、特に20phrと80phrの間である。
好ましくは、上記の気密層は、0.05mmよりも大きい、より好ましくは0.1mmと10mmの間 (例えば、0.2〜2mm)の厚さを有する。
【0029】
特定の用途分野並びに関与する寸法および圧力に応じて、本発明を実施する方法は変動し得、上記気密第1層は、実際に、幾つかの好ましい厚さ範囲を有することは容易に理解するであろう。従って、例えば、乗用車用の空気式タイヤの場合、上記気密第1層は、少なくとも0.3mm、好ましくは0.5mmと2mmの間の厚さを有し得る。もう1つの例によれば、重量車両または農業車両用の空気式タイヤの場合、好ましい厚さは、1mmと3mmの間であり得る。もう1つの例によれば、土木工学分野における車両用または航空機用の空気式タイヤの場合、好ましい厚さは、2mmと10mmの間であり得る。
【0030】
<I−2.第2(接着)層>
接着第2層として、上記気密第1層と組合せて、第2のエラストマー組成物を使用する;この組成物の本質的な特徴は、50phrよりも多い(即ち、50phrよりも多くから100phrまでの)不飽和第2TPSコポリマーを含むことである。
本発明のラミネートにおける上記(不飽和)第2TPSコポリマーをベースとするこの第2層の存在は、空気式タイヤのようなインフレータブル物品において通常使用する組成物のようなジエンゴム組成物への上記ラミネートの接着を大いに改良するのを可能にしたことを観察した。例としては、1つのそのようなジエンゴム組成物は、例えば、空気式タイヤのカーカス補強材において一般的に使用する組成物のような天然ゴムをベースとする組成物であり、この組成物は、一般的に、また、知られている通り、そのような空気式タイヤの不透過性内部層と直接接触する。
【0031】
1つの好ましい実施態様によれば、上記第2のTPSコポリマーは、スチレンブロックとジエンブロックを含むコポリマーであり、これらのジエンブロックは、特に、イソプレンまたはブタジエンブロックである。さらに好ましくは、この不飽和第2TPSコポリマーは、スチレン/ブタジエン (SB)、スチレン/イソプレン (SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン (SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン (SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン (SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン (SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン (SIS)およびスチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン (SBIS)の各ブロックコポリマー、並びにこれらのコポリマーの混合物からなる群から選ばれる。
【0032】
本発明のもう1つの特に好ましい実施態様によれば、第2のTPSコポリマーの含有量は、70phrよりも多く、より好ましくは80〜100phrの範囲内である。上記の不飽和第2TPSコポリマーは、有利には、上記接着第2組成物のエラストマーマトリックスの全体を構成し得る(この場合、100phrの含有量で存在する)。
【0033】
例えば、SBS、SISまたはSBBSのような不飽和TPSエラストマーは、周知であり、例えば、Kraton社から品名“Kraton D”(例えば、SISおよびSBSエラストマーの、例えば、製品D1161、D1118、D1116、D1163)として、Dynasol社から品名“Calprene”(例えば、SBSエラストマーの、例えば、製品C405、C411、C412)として、或いはAsahi社から品名“Tuftec”(例えば、SBBSエラストマーの例の製品P1500)として商業的に入手可能である。
【0034】
上記第2のTPSコポリマー以外に、上記接着第2組成物は、使用する特定の用途に応じて、液体可塑剤 (室温、即ち、23℃において液体である)を含み得る或いは含み得ない、液体可塑剤の役割は、上記不飽和第2TPSコポリマーを可塑化し、従って、上記接着層に、さらにまた、上記ラミネートにより一層の可撓性を付与することである。
【0035】
そのような液体可塑剤を使用する場合、液体可塑剤は、0phrと100phrの間、好ましくは5phrと50phrの間、特に10〜40phrの範囲内の含有量で存在し、これらの値の範囲は、本発明のラミネートの一方の上記接着層の加工の容易性と他方の上記接着層の他の(気密)層への接着の有効性との間に優れた妥協点を示す。
【0036】
本発明の1つの特定の実施態様によれば、この液体可塑剤は、特にポリイソブチレンオイルのようなポリブテンオイル、パラフィンオイルおよびこれらオイル類の混合物からなる群から選ばれる、前項において説明したような増量剤オイルからなり得る。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、この液体可塑剤は、液体エラストマー、即ち、典型的には50 000g/モル未満、好ましくは30 000g/モル未満の低分子量を有するエラストマーからなり得る。液体エラストマーは、特に、IR、SBR、BRのような液体ジエンエラストマーであり得る。
【0037】
好ましくは0.01mmよりも大きい上記接着剤層の厚さは、特に上記接着層の上記ラミネートの他の気密層への付着方法の関数として、例えば、0.01mmと0.5mmの間の広い範囲で変動し得る。有利には、本発明の1つの特定の実施態様によれば、上記接着層は、上記気密層と同時押出加工する。
【0038】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、各(第1および第2の)TPSコポリマー中のスチレンの質量含有量は、5%と50%の間の量である。上記の最低値よりも低いと、これらのエラストマーの熱可塑特性が実質的に低下するリスクに至り、一方、推奨する最高値よりも高いと、上記ラミネートの弾力性が悪影響を受け得る。これらの理由により、スチレン含有量は、より好ましくは10%と40%の間、特に15%と35%の間である。
【0039】
用語“スチレン”は、本説明においては、非置換または置換スチレンをベースとする任意のモノマーを意味するものと理解すべきである;置換スチレンのうちでは、例えば、メチルスチレン(例えば、α‐メチルスチレン、β‐メチルスチレン、p‐メチルスチレン、tert‐ブチルスチレン)、クロロスチレン(例えば、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン)を挙げることができる。
【0040】
各(第1および第2の)TPSコポリマーのTg (ガラス転移温度;ASTM D3418に従って測定)は、−20℃よりも低く、特に、−40℃よりも低いことが好ましい。これらの最低温度よりも高いTg値は、極めて低温で使用するときの上記ラミネートの性能を低下させ得る;そのような使用においては、各TPSコポリマーのTgは、さらにより好ましくは、−50℃よりも低い。
【0041】
各(第1および第2の)TPSエラストマーの数平均分子量(Mnで示す)は、好ましくは30 000g/モルと500 000g/モルの間、より好ましくは40 000g/モルと400 000g/モルの間である。上記の最低値よりも低いと、エラストマー鎖間の凝集力が、特にエラストマーの増量剤オイルまたは他の液体可塑剤による必要に応じての希釈のために、悪影響を受けるリスクに至る。さらにまた、高すぎる分子量Mnは、上記2つの層の可撓性に関して有害であり得る。従って、50 000〜300 000g/モルの範囲内にある値が、特に空気式タイヤにおける上記多層ラミネートの使用において、特に適していることを観察している。
【0042】
上記TPSエラストマーの数平均分子量(Mn)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、既知の方法で測定する。試験標本を、先ず、約1g/lの濃度にテトラヒドロフラン中に溶解する;その後、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルター上で、注入前に濾過する。使用する装置は、WATERS Allianceクロマトグラフである。溶出溶媒はテトラヒドロフランであり、流量は0.7ml/分であり、系の温度は35℃であり、分析時間は90分である。商品名STYRAGEL (HMW7、HMW6Eおよび2本のHT6E)を有する直列の4本のWATERSカラムセットを使用する。ポリマー試験標本溶液の注入容量は、100μlである。検出器は、WATERS 2410示差屈折計であり、クロマトグラフデータを処理するその関連ソフトウェアは、WATERS MILLENNIUMシステムである。算出した平均分子量を、ポリスチレン標準によって得られた較正曲線と対比する。
【0043】
上記TPSエラストマーの多分散性指数Ip (注:Ip = Mw/Mn;Mwは、質量平均分子量である)は、好ましくは3よりも低く、より好ましくは、Ipは2よりも低い。
【0044】
<I−3.板状充填剤>
好ましくは5%よりも多い、特に5%と50%の間の容量含有量を有する板状充填剤の使用は、有利なことに、上記第1のエラストマー組成物の透過係数を、そのモジュラスを過度に増大させることなく、さらに低下させること(従って不透過性を増強させること)を可能にし、このことは、上記気密層の上記インフレータブル物品中への組込みの容易性を維持することを可能にする。
【0045】
板状充填剤と称する充填剤は、当業者にとって周知である。板状充填剤は、特に、空気式タイヤにおいて、ブチルゴムをベースとする通常の気密層の透過性を低下させるために使用されている。ブチルゴムをベースとするこれらの層においては、板状充填剤は、一般に、比較的低い含有量で使用され、その量は、通常、10〜15phrを越えない(例えば、特許文献US 2004/0194863号、WO 2006/047509号を参照されたい)。
【0046】
板状充填剤は、一般に、比較的顕著な異方性を有する積層プレート、プレートレット、シートまたは葉状(foliates)の形であり得る。板状充填剤の縦横比(F = L/E)は、一般に3よりも大きく、より頻繁には5よりもまたは10よりも大きい。Lは長さ(または大きい方の寸法)を示し、Eはこれら板状充填剤の平均厚さを示し、これらの平均値は機械的に算出する。数十に或いは数百にさえ達する縦横比も一般的である。板状充填剤の平均長は、好ましくは1μmよりも大きく(即ち、これらの板状充填剤は、その場合、ミクロン規模の板状充填剤として知られている板状充填剤である)、典型的には数μm (例えば5μm)と数百μm (例えば500または800μmでさえある)との間である。
【0047】
好ましくは、本発明に従って使用する板状充填剤は、グラファイト、フィロケイ酸塩およびそのような充填剤の混合物からなる群から選択する。フィロケイ酸塩のうちでは、特に、クレー、タルク、雲母、カオリンが挙げられ、これらのフィロケイ酸塩は、必要に応じて、例えば、編成されていないか或いは表面処理によって変性されている;そのような変性フィロケイ酸塩の例としては、特に、酸化チタンで被覆された雲母および界面活性剤によって変性されたクレー(“オルガノクレー”)を挙ることができる。
【0048】
好ましくは、低表面エネルギーを有する、即ち、比較的無極である板状充填剤、例えば、グラファイト、タルク、雲母およびそのような充填剤の混合物からなる群(これらは、必要に応じて変性されているか或いは変性されていない)から、さらにより好ましくは、
グラファイト、タルクおよびそのような充填剤の混合物からなる群から選ばれる板状充填剤を使用する。グラファイトのうちでは、特に、天然グラファイト、膨張グラファイトまたは合成グラファイトを挙げることができる。
【0049】
雲母の例としては、CMMP社から販売されている雲母 (例えば、Mica‐MU (登録商標)、Mica‐Soft (登録商標)、Briomica (登録商標))、バーミキュライト (特に、CMMP社から販売されているShawatec (登録商標)バーミキュライトまたはW.R. Grace社から販売されているMicrolite (登録商標)バーミキュライト)、変性または処理雲母 (例えば、Merck社から販売されているIriodin (登録商標)区分品)を挙げることができる。グラファイトの例としては、Timcal社から販売されているグラファイト(Timrex (登録商標)区分品)を挙げることができる。タルクの例としては、Luzenac社から販売されているタルクを挙げることができる。
【0050】
上記の板状充填剤は、第1のエラストマー組成物の好ましくは5容量%よりも多い、より好ましくは少なくとも10容量%に等しい高含有量で使用する。そのような容量含有量は、典型的には、使用する板状充填剤の平均密度(典型的には2.0と3.0の間)と使用するTPSコポリマーの平均密度とを考慮すれば、好ましくは20phrよりも多い、より好ましくは少なくとも40phrに等しい質量含有量に相当する。
【0051】
上記第1のTPSエラストマー層の不透過性をさらに増強するためには、少なくとも15容量%にまたは20容量%にさえ等しいさらに高含有量の板状充填剤を使用することも可能であり、これらの含有量は、典型的には、少なくとも50phrにまたは80phrにさえ等しい質量含有量に相当する。100phrよりも多い質量含有量も、同等に有利な可能性がある。
【0052】
しかしながら、上記板状充填剤の含有量は、好ましくは、50容量%未満(典型的には500phr未満)であり、この上限は、モジュラスの増大、組成物の脆化、充填剤分散と加工の困難性、言うまでもないヒステリシス悪化の可能性の諸問題に直面し得ることから始まる。
板状充填剤の上記第1の熱可塑性エラストマー組成物中への導入は、種々の既知の方法に従って、例えば、溶液中で配合するによって、密閉ミキサー中で塊状配合することによって、或いは押出成形により配合することによって実施することが可能である。
【0053】
<I−4.各種添加剤>
本発明のラミネートは、各種添加剤、特に、当業者にとって既知の上記気密層および/または上記接着層中に通常存在する添加剤、例えば、カーボンブラックまたはシリカのような補強用充填剤、非補強用または不活性充填剤、上記の増量剤オイル以外の可塑剤、酸化防止剤またはオゾン劣化防止剤のような保護剤、UV安定剤、組成物を着色するのに有利に使用し得る着色剤、各種加工助剤または他の安定剤、或いは、例えばラミネートのインフレータブル物品の残余の構造体への接着性をさらに促進することのできる促進剤を含み得る。
【0054】
また、上記のTPSコポリマー以外に、本発明の多層ラミネートは、上記第1および第2のTPSエラストマーに対して常に少数質量画分において、例えば、これらのTPSエラストマーと相溶性のある熱可塑性ポリマーのようなエラストマー以外のポリマーも含み得る。
上述した多層ラミネートは、固体(23℃において)で且つ弾性であるコンパウンドであり、特に、その特定の配合故に、極めて高い可撓性と極めて高い変形性に特徴を有する。特に本発明の1つの好ましい実施態様によれば、上記ラミネートの2つの層の各々は、2MPaよりも低い、より好ましくは1.5MPaよりも低い(特に1MPaよりも低い)10%伸びにおける割線伸びモジュラスを有する。この数量は、23℃の温度、500mm/分の引張速度(ASTM D412規格)でもって最初の伸びにおいて(即ち、順応サイクルなしで)測定し、試験片の初期断面に対して標準化する。
【0055】
<I−5.上記ラミネートのインフレータブル物品における使用>
本発明のラミネートは、任意のタイプの“インフレータブル”物品、即ち、定義によれば、空気で膨張させたときにその使用可能な形状をとる任意の物品において使用し得る。そのようなインフレータブル物品の例としては、ゴムボート、バルーンまたはゲームもしくはスポーツにおいて使用するボール類を挙げることができる。
上記ラミネートは、ゴム製の最終製品または半製品いずれかのインフレータブル物品における、特に、二輪車、乗用車または産業用車両のような自動車或いは自転車のような非動力車両用の空気式タイヤにおいて使用するのに特に適している。
【0056】
そのようなラミネートは、好ましくは、インフレータブル物品の内壁上に設置して、内壁を完全にまたは少なくとも部分的に覆うようにするが、その内部構造中に完全に一体化させてもよい。
好ましくは、本発明の多層ラミネートは、好ましくは0.05mmよりも厚く、特に0.1mmと15mmの間、より好ましくは0.5mmと10mmの間である合計厚を有する。
【0057】
ブチルゴムをベースとする通常の気密層と比較して、本発明の多層ラミネートは、以下の典型的な実施態様において実証されているように、有意に低いヒステリシスを示し、従って、空気式タイヤに低下した転がり抵抗性を付与するという利点を有する。
【0058】
<II.本発明の典型的な実施態様>
本発明の多層ラミネートは、全てのタイプの車両の空気式タイヤ、特に、極めて高速で走行することのできる乗用車用のタイヤまたは重量車両のような産業用車両のタイヤにおいて有利に使用することができる。
1つの例として、一葉の添付図面は、乗用車用の本発明に従う空気式タイヤの半径断面を極めて略図的に示している(縮尺で描いていない)。
【0059】
この空気式タイヤ1は、クラウン補強材即ちベルト6によって補強されたクラウン2、2つの側壁3および2つのビード4を有し、これらのビード4の各々は、ビードワイヤー5によって補強されている。クラウン2は、トレッド(この略図には示していない)が取付けられている。カーカス補強材7は、各ビード4内の2本のビードワイヤー5の周りに巻付けられており、この補強材7の上返し8は、例えば、空気式タイヤ1の外側に向って位置しており、この場合、タイヤリム9上に取付けて示している。カーカス補強材7は、それ自体知られている通り、コード、いわゆる“ラジアル”コード、例えば、繊維または金属コードによって補強されている少なくとも1枚のプライからなる、即ち、これらのコードは、実際上、互いに平行に配置されて一方のビードから他方のビードに延びて円周正中面(2つのビード4の中間に位置しクラウン補強材6の中央を通る空気式タイヤの回転軸に対して垂直の面)と80°と90°の間の角度をなしている。
【0060】
上記空気式タイヤ1は、その内壁が、少なくとも2つの層(10a、10b)を含む多層ラミネート(10)を含み、該ラミネートは、内部空洞11の側面上に位置するその第1層(10a)のために気密性であり、その半径方向最外の第2層(10b)のために空気式タイヤの残余の構造体(例えば、そのカーカス補強剤)に対して高接着性であることに特徴を有する。本発明の好ましい実施態様によれば、上記2つの層(10a、10b)は、空気式タイヤの内壁全体を覆っており、一方の側壁から他方の側壁に、少なくとも空気式タイヤが装着位置にあるときのリムフランジまで延びている。
【0061】
この例においては、上記層10a (およそ0.75mmの厚さを有する)は、SIBS elastomer SIBSエラストマー(約15%のスチレン含有量、約−65℃のTgおよび約90 000g/モルの数平均分子量Mnを有する“Sibstar 102T”)、28phr(即ち、上記第1層の5容量%)の板状充填剤 (“Mica‐Soft 15”)およびおよそ65phrの質量含有量を有するポリイソブチレン増量剤オイル(“Indopol H1200”)を含む。
【0062】
層10aは、次のようにして製造した。3種の構成成分(SIBS、板状充填剤およびオイル)を、ツインスクリュー押出機(L/D=40)を使用して、典型的には上記組成物の溶融温度よりも高い温度(およそ190℃)において通常通りに混合した。使用した押出機は、SIBS用の第1の供給口(ホッパー)、板状充填剤用の第2の供給口(ホッパー)および最後のポリイソブチレン増量剤オイル用の加圧液体噴射ポンプを含んでいた;上記押出機は、生成物を所望寸法に押出加工するのを可能にするダイを備えていた。
【0063】
接着第2層10bは、それ自体、単一の不飽和SISエラストマー(約15%のスチレン含有量および約−60℃のTgを有する“Kraton D1161”)からなり、他の添加剤を含んでいなかった。2つの層10aおよび10bを、220℃の温度で同時押出加工して、空気式タイヤに組込む前の本発明の多層ラミネートを最終的に得た。
【0064】
上述したようなその多層ラミネート(10)を備えた空気式タイヤは、加硫(または硬化)前または後において製造し得る。
第1の場合(即ち、空気式タイヤの硬化前)、上記2層ラミネートを、通常の方法で、所望の位置に1回で単純に適用する;その後、加硫を通常通りに実施する。空気式タイヤ技術の熟練者にとっての1つの有利な製造変法は、例えば、第1工程において、気密層(10a)を構築用ドラム上に直接置き、その後に接着層(10b)を置いて、適切な厚さの2層形とし、そのようにして形成させたラミネートを当業者にとって周知の製造方法に従って未硬化状態の空気式タイヤの残余の構造体で覆うことにあるであろう。
【0065】
第2の場合(即ち、空気式タイヤの硬化後)、例えばその独自の加硫系自体を含む上記多層ラミネートを、硬化させた空気式タイヤの内側に、任意の適切な手段によって、例えば、結合させることによって適用する。
【0066】
以下の実施例においては、不透過特性を、先ず、一方のブチルゴムをベースとする組成物の試験標本および他方の本発明に従うラミネート(SIBSをベースとする気密第1層に関してはPIB増量剤オイルを含むものと含まないもの)において分析した。
【0067】
この分析においては、硬質壁透磁率計(permeameter)を使用し、圧力センサー(0〜6バールの範囲に較正した)を備え、且つ空気注入バルブを備えたチューブと連結したオーブン(本例では60℃の温度)内に入れた。上記透磁率計は、ディスク形状(本例においては、例えば、65mmの直径を有する)で且つ3mmまでの範囲であり得る均一な厚さ(本例においては0.5mm)を有する標準試験標本を受入れ得る。圧力センサーを、0.5Hzの周波数で連続収集(2秒毎に1ポイント)を実施するコンピュータに接続しているNational Instruments社のデータ収集カード(0〜10Vのアナログ4チャンネル収集)に接続する。透過係数(K)を回帰直線から測定して(1000ポイントに亘っての平均)、試験した試験標本全体の圧力低下の傾斜αを、時間の関数として、装置の安定化後、即ち、圧力が時間の関数として直線的に降下する定常状態を得た後に得る。
【0068】
先ずは、気密層がSIBSエラストマーのみを含む(即ち、増量剤オイルまたは他の添加剤を含まない)ラミネートは、ブチルゴムをベースとする通常の組成物の透過係数と実質的に同等の極めて低い透過係数を有することが特筆される。このことは、既に、そのようなラミネートにおける顕著な結果を構成している。
【0069】
既に示しているように、不透過性の一定の損減が代償として許容されるならば、増量剤オイルの気密第1層への添加は、有利なことに、上記ラミネートのモジュラスの低下および粘着力の増強により、多層ラミネートのインフレータブル物品への組込みを容易にし得る。
【0070】
即ち、気密第1層中で65phrの増量剤オイルを使用することによって、透過係数は、パラフィン系オイルのような通常のオイルの存在下においては、およそ2.5倍上昇した(従って、気密性は低下した)のに対し、この係数は、PIBオイル(“Indopol H1200”)の存在下では1.5の倍数、即ち、空気式タイヤでの使用に対して実際上あまり有害でない上昇倍数しか上昇しなかったことを観察した;このことが、第1TPSコポリマーとPIBオイルのようなポリブテンオイルとの組合せが、本発明の多層ラミネートにおいて不透過性の最良の妥協点を提供することが判明したいきさつである。さらにまた、上述したように板状充填剤 (この例においては28phr)の添加により、増量剤オイルの添加による不透過性の損失を有利に補完することを可能にしていた。
【0071】
さらにまた、接着試験 (剥離試験)を実施して、上記ラミネートが、ジエンエラストマー層に、さらに具体的には、(素練り)天然ゴムとN330 カーボンブラック(天然ゴムの100部当りの65部)をベースとし、さらに、通常の添加剤 (イオウ、促進剤、ZnO、ステアリン酸、酸化防止剤、ナフテン酸コバルト)を含む空気式タイヤカーカース補強材用の標準のゴム組成物に硬化後に接着する能力を試験した。
接着第2層(SISエラストマー)の使用は、3よりも高い或いは多くの場合はさらにそれよりもはるかに高い倍数でもって、上記気密第1層と天然ゴム組成物間の接着力を大いに改善することを可能にすることを観察した。
【0072】
上記の実験室試験の後、乗用車タイプの本発明に従う空気式タイヤ(寸法 195/65 R15)を製造した;タイヤの内壁を、1.05mmの合計厚を有するラミネート(10a、10b)で被覆し(タイヤの残余部を製造する前に、構築用ドラム上に付着させ)、その後、タイヤを加硫させた。
上記ラミネートは、SIBS(100phr)と板状充填剤をベースとし、アッセンブリ全体を65phrのPIBオイルで増量した気密第1層と、上述したようなSISエラストマー単独(100phr)からなる重ね合せ接着第2層とから形成されていた。
【0073】
本発明に従うこれらの空気式タイヤを、ブチルゴムをベースとし同じ厚さを有する通常の気密層を含む対照空気式タイヤ(Michelin “Energy 3”ブランド)と比較した。各空気式タイヤの転がり抵抗性を、ISO 87‐67 (1992年)法に従って、フライホイール上で測定した。
本発明の空気式タイヤは、当業者にとっては極めて有意に且つ予期に反して、上記対照空気式タイヤと対比してほぼ4%低下した転がり抵抗性を有することを観察した。
【0074】
結論として、本発明の多層ラミネートは、極めて良好な不透過特性およびブチルゴムをベースとする層と比較して低減されたヒステリシスを、さらにまた、天然ゴムのような第3のジエンエラストマー層に対する特に高い接着力を有する。従って、本発明は、空気式タイヤの設計者に、そのようなタイヤを装着した自動車の燃費を節減する機会を提供する。
【符号の説明】
【0075】
1 空気式タイヤ
2 クラウン
3 側壁
4 ビード
5 ビードワイヤー
6 クラウン補強材(ベルト)
7 カーカス補強材
8 カーカス補強材の上返し
9 タイヤリム
10 多層ラミネート層
10a 第1気密層
10b 第2接着剤層
11 内部空洞


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の少なくとも2つの重ね合せ熱可塑性スチレンエラストマー層を含むことを特徴とする、膨張ガスに対して不透過性であるエラストマーラミネート:
・気密第1層としての、50phrよりも多い、ポリスチレンブロックとポリイソブチレンブロックを含有するコポリマー(“第1のTPSコポリマー”と称する)を含む第1のエラストマー組成物;
・接着第2層としての、50phrよりも多い不飽和熱可塑性スチレンコポリマー(“第2のTPSコポリマー”と称する)と、任意構成成分としての0から100phr未満までの含有量の液体可塑剤とを含む第2のエラストマー組成物。
【請求項2】
前記第1のTPSコポリマーが、スチレン/イソブチレンコポリマー、スチレン/イソブチレン/スチレンコポリマーおよびこれらのコポリマーの混合物、スチレン/イソブチレン/スチレン(“SIBS”と略記する)コポリマーからなる群から選ばれる、請求項1記載のラミネート。
【請求項3】
前記第1のTPSコポリマーが、スチレン/イソブチレン/スチレンコポリマーである、請求項2記載のラミネート。
【請求項4】
前記第2のTPSコポリマーが、スチレンブロックとジエンブロックを含むコポリマーである、請求項1〜3のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項5】
前記ジエンブロックが、イソプレンまたはブタジエンブロックである、請求項4記載のラミネート。
【請求項6】
前記第2のTPSコポリマーが、スチレン/ブタジエン (SB)、スチレン/イソプレン (SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン (SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン (SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン (SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン (SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン (SIS)およびスチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン (SBIS)の各ブロックコポリマー、並びにこれらのコポリマーの混合物からなる群から選ばれる、請求項5記載のラミネート。
【請求項7】
前記第1の組成物中の第1のTPSコポリマーの含有量が、70phrよりも多い、請求項1〜6のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項8】
前記第2の組成物中の第2のTPSコポリマーの含有量が、70phrよりも多い、請求項1〜7のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項9】
前記第1および第2のTPSコポリマーの各々が、5質量%と50質量%の間のスチレンを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項10】
前記第1および第2のTPSコポリマーの各々のガラス転移温度が、−20℃よりも低い、請求項1〜9のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項11】
前記第1および第2のTPSコポリマーの各々の数平均分子量が、30,000g/モルと500,000g/モルの間である、請求項1〜10のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項12】
前記第1層が、増量剤オイルを含む、請求項1〜11のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項13】
前記増量剤オイルが、ポリオレフィンオイル、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族オイル、鉱油およびこれらのオイル類の混合物からなる群から選ばれる、請求項12記載のラミネート。
【請求項14】
前記増量剤オイルが、ポリブテンオイルである、請求項13記載のラミネート。
【請求項15】
前記ポリブテンオイルが、ポリイソブチレンオイルである、請求項14記載のラミネート。
【請求項16】
前記増量剤オイルの数平均分子量が、200g/モルと25,000g/モルの間である、請求項12〜15のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項17】
前記増量剤オイルの含有量が、5phrよりも多い、請求項12〜16のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項18】
前記増量剤オイルの含有量が、5phrと100phrの間である、請求項17記載のラミネート。
【請求項19】
前記第2の組成物中の液体可塑剤の含有量が、5phrと50phrの間である、請求項1〜18のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項20】
前記第2の組成物中の液体可塑剤が、請求項13〜16のいずれか1項において定義したようなオイルである、請求項1〜19のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項21】
前記第2の組成物中の液体可塑剤が、液体エラストマーである、請求項1〜19のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項22】
前記第1層が、板状充填剤を含む、請求項1〜21のいずれか1項記載のラミネート。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項記載のラミネートを含む、インフレータブル物品。
【請求項24】
前記ラミネートが、前記インフレータブル物品の内壁に配置される、請求項23記載のインフレータブル物品。
【請求項25】
前記インフレータブル物品が、空気式タイヤである、請求項23または24に記載のインフレータブル物品。
【請求項26】
前記インフレータブル物品が、内部チューブである、請求項23または24に記載のインフレータブル物品。

【公表番号】特表2012−510389(P2012−510389A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538885(P2011−538885)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008503
【国際公開番号】WO2010/063427
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】