説明

空気調和機

【課題】空気調和機の室内機における吹出口の長手方向両端部で、室内から空気調和機内部への室内空気の逆流を抑制すると共に、送風機の高風量を維持し、これによって低電力化及び低騒音化を実現できる空気調和機を得る。
【解決手段】貫流ファン8の回転軸線方向AXの長さは吹出口の長手方向長さよりも長く、貫流ファン8が吹出口の両端から回転軸線方向AXに延長する延長部8a、及び空気調和機本体に設けられ、貫流ファン8の延長部8aから吹出される吹出し気流が衝突する衝突壁18を備える。さらに、延長部8aの翼部13aと、吹出口3に対向する翼部13bとを異なる形状とし、翼部13aから吹き出される吹出し気流の風速が、翼部13bから吹き出される吹出し気流の風速よりも小さくなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気調和機に関し、特に室内機と室外機を有するセパレート型の空気調和機の室内機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の室内機は、空気調和を行う屋内(家屋や事務所等の室内)に設置され、吸込口から吸い込んだ室内空気を熱交換器にて冷凍サイクルを循環する冷媒と熱交換させ、暖房運転であればその室内空気を暖め、冷房運転であればその室内空気を冷やして、吹出口より再び室内へと送風するものであり、そのために室内機本体内部に、送風機と熱交換器を収納している。
【0003】
空気調和機の室内機には多様な形態が存在するが、吹出口が細長い壁掛けタイプや一方向吹き出しの天井埋め込みタイプなどには、送風機として、貫流ファン(クロスフローファンや横流ファン、横断流ファンとも呼ばれる)が用いられることがよく知られている。空気調和機の室内機の吸込口から吹出口に至る空気流に対して、貫流ファンの上流側に熱交換器が配置され、即ち吸込口と貫流ファンの間に熱交換器が配置され、貫流ファンの下流側に吹出口が位置する。室内機の吹出口の長手方向の長さは貫流ファンの長手方向(回転軸線方向)の全長と略同様であり、貫流ファンの両端部の長手方向外側には、所定の空間を空けて貫流ファンの回転軸を支持する支持部及び駆動モータなどが配置される。
【0004】
貫流ファン(以下、ファンと略す)は、外径と内径を有する環状(リング状)の平板である支持板に、横断面が略円弧状に湾曲している複数の翼を所定角度傾斜させて同心環状に固着して成る羽根車単体を、回転軸線方向に複数連結して構成される。回転軸線方向で、一方の端部の羽根車単体の羽根先端には、室内機本体の軸受部に支持される回転軸が取り付けられた円板状の端板が固着され、他方の端部の羽根車単体は、他の部分の支持板とは異なり、駆動モータのモータ回転軸が取り付け固定されるボス部を中央に備えたボス付端板を有している。駆動モータが回転駆動することで、ファンは回転軸の中心である回転軸線周りに回転する。翼は回転方向前方にその外周側先端が位置するように傾斜している。
以下、説明のため回転軸線方向に連なる羽根車単体をファンの連と呼ぶ。また、回転軸線方向でファンの両端部に位置する羽根車単体をそれぞれ端部連と呼ぶ。
【0005】
ファンの回転に伴い、室内空気が吸込口から空気調和機の室内機本体へ吸い込まれ、熱交換器を通過する際に上記のとおり温度調節された調和空気となって、ファンを横切った後、吹出口に至る風路を通過して、室内機本体の下部に形成される吹出口から室内へと吹き出される。
【0006】
室内機の内部の気圧は、熱交換器を通過する際に空気に摩擦抵抗(圧力損失)が掛かるため、大気圧よりも低くなる。これに対し、ファンは大気圧に打ち勝つエネルギーを気流に与えて吹出口から風を吹き出しているのであるが、ファンから大気圧に打ち勝つだけの十分なエネルギーが気流に供給されないと、室内機の内部の気圧が室内機の外部の大気圧よりも低くなる。この場合に、吹出口から室内機の内部に室内空気が吸い込まれる現象が生じ、この現象を逆吸いと称する。
【0007】
ファンの回転軸線方向の両端部付近では逆吸いが発生しやすくなる。その理由は以下のとおりである。
ファンの回転軸線方向の両端部は、回転体である羽根車単体を構成する端板と、この端板の外側で端板に対向するように、風路の側面を構成する側壁が配置されている。この端板と側壁との間は、5mm程度の距離は離し、両者が接触し回転摩擦が生じてしまうことを防いでいる。ところが、端板とこの端板に対向する側壁の間に形成される空間はファンの回転軸線方向の両端部の外側に位置する。この空間は、熱交換器を通過時の圧力損失で大気圧よりも低い圧力雰囲気である。そのため、室内機の外部の大気圧との圧力差によって逆吸いが生じやすいと考えられる。逆吸いが発生すると、ファン全体として風量が減少し、ファン性能が低下する。また、逆流発生のために空気流れに乱れが生じ、騒音の増加を招く。さらに冷房運転時に逆吸いが発生すると、逆吸いによって室内機内部に入り込んだ高湿度の室内空気が室内機内部の低温壁面に接触して結露し、その結露水がその後水滴となって室内に飛散する(これを露飛びと称する)恐れがある。特に、例えば吸込口にホコリが堆積するなどによって通風抵抗が大きくなると、ファンによって十分なエネルギーが供給されにくくなって逆吸いが発生しやすくなる。
【0008】
上記のような逆吸いの発生を防止するために、貫流ファンの回転軸線方向の両端部に、各側壁に向けてラッパ状に広がる外周面を持つ部材が取り付けられ、ラッパ状の部材によって、ファンの回転軸線方向の両端部と、その外側の大気圧よりも気圧が低くなる空間との隙間を狭くして、逆吸いの防止を図る事例がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−33893号公報(0009〜0013欄、図1、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ファンの回転軸線方向(長手方向)の両端部のそれぞれに設けられ、側壁に向けてラッパ状に広がる外周面を持つ部材は、ファンの端部と側壁との間の空間に入り込もうとする空気を阻止するように設けられている。そして、吹出口の両端部から室内機内部に逆流しようとする空気は、ラッパ状の外周面によって再び吹出口の方へ流されることで、逆吸いの防止を図っている。ところがファン端部と側壁との回転摩擦の発生をなくすために、回転するファンと固定部である空気調和機の室内機本体の側壁との隙間をゼロにすることはできない。このため、ラッパ状に広がる外周面を持つ部材と側壁との隙間を通って生じる逆吸いを防止することは困難であるという課題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、逆吸いを防止できると共に、高風量を維持し、低電力化及び低騒音化を実現できる空気調和機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る空気調和機は、
空気調和機本体の上部に設けられ室内空気が吸い込まれる吸込口と、この吸込口から吸い込まれた前記室内空気と熱交換する熱交換器と、前記空気調和機本体の下部に該空気調和機本体の左右方向に長手方向を伸ばすように設けられ、前記熱交換器にて熱交換された前記室内空気が室内へ吹き出される吹出口と、前記熱交換器と前記吹出口の間に前記空気調和機本体の左右方向を回転軸線方向とするように設けられ、前記吸込口から前記吹出口へ前記室内空気を送風する貫流ファンと、を備え、
前記貫流ファンは、環状の支持板の外周に沿って設けられる複数の翼を有する羽根車単体を前記回転軸線方向に複数固着されてなり、
前記貫流ファンの前記回転軸線方向の長さは前記吹出口の長手方向の長さよりも長く、前記貫流ファンが前記吹出口の前記長手方向の両端から前記回転軸線方向に延長する延長部を有すると共に、前記空気調和機本体に設けられ、前記貫流ファンの前記延長部から吹出される吹出し気流が衝突する衝突壁を具備するものであって、前記貫流ファンの前記回転軸線方向で、前記延長部の翼は、前記吹出口に対向する翼の翼形状と異なり、前記吹出口に対向する翼から吹き出される吹出し気流よりも風速の小さい吹出し気流が得られる翼形状であるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吹出口の両端部付近では、貫流ファンの端部連からの吹出し気流を衝突壁に衝突させて大気圧より高い淀み圧を作るので、室内空気が室内機の外部から吹出口を通って室内機の内部に進入する逆吸いを防止できる。このため、逆吸いの発生によって生じていたファン性能の低下や騒音の増加や露飛びなどを防止できる。さらに、ファンの回転軸線方向で、衝突壁に対向する部分から吹き出す気流の風速を、吹出口に対向する部分から吹き出す気流の風速よりも小さくすることで、ファン全体では高風量を維持しながら逆吸いを防止し、低電力化及び低騒音化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る貫流ファンが搭載された空気調和機の室内機を示す外観斜視図である。
【図2】実施の形態1に係り、図1のQ−Q線における縦断面図である。
【図3】実施の形態1に係る貫流ファンを示す概略図であり、図3(a)は貫流ファンの側面図、図3(b)は図3(a)のU−U線断面図である。
【図4】実施の形態1に係り、5個の羽根車単体(連)を回転軸線方向に固定してなるファンを拡大して示す斜視図(図4(a))及び支持板を示す説明図(図4(b))である。
【図5】実施の形態1に係る空気調和機の室内機を斜め下方から見た斜視図である。
【図6】実施の形態1に係る衝突壁を示す斜視図である。
【図7】実施の形態1に係り、図5のB−B線における断面図である。
【図8】実施の形態1に係る室内機の内部構成を簡略化して示す模式図である。
【図9】実施の形態1に係る貫流ファンの端部連の翼を拡大して示す模式図である。
【図10】実施の形態1に係る貫流ファンの端部連における吹出口対向翼部と衝突壁対向翼部の翼断面を重ねて示す説明図である。
【図11】実施の形態1に係る貫流ファンの端部連の1枚の翼を示す斜視図である。
【図12】実施の形態1に係る貫流ファンの端部連の翼とその周辺を拡大して示す説明図である。
【図13】従来装置と実施の形態1の端部連付近を比較して示す説明図である。
【図14】実施の形態1に係り、翼間を通る気流を説明する説明図である。
【図15】実施の形態1に係る貫流ファンの他の構成例を示し、1枚の翼を拡大して示す斜視図である。
【図16】実施の形態1に係る貫流ファンの端部連の翼とその周囲を拡大して示す説明図である。
【図17】本発明の実施の形態2に係る貫流ファンの端部連における吹出口対向翼部と衝突壁対向翼部の翼断面を重ねて示す説明図である。
【図18】実施の形態2に係り、端部連の1枚の翼を示す斜視図である。
【図19】実施の形態2に係り、端部連の翼部による気流を示す説明図である。
【図20】実施の形態2に係り、翼間を通る気流を説明する説明図である。
【図21】本発明の実施の形態3に係る貫流ファンの端部連における吹出口対向翼部と衝突壁対向翼部の翼断面を重ねて示す説明図である。
【図22】実施の形態3に係り、端部連の1枚の翼を示す斜視図である。
【図23】実施の形態3に係り、端部連の翼部による気流を示す説明図である。
【図24】本発明の実施の形態1〜実施の形態3に係り、貫流ファンの端部連の他の構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について、図に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る貫流ファン8が搭載された空気調和機の室内機1を示す外観斜視図、図2は図1のQ−Q線における縦断面図である。空気の流れを、図1では白抜き矢印で示し、図2では点線矢印で示す。空気調和機は実際には室内機と室外機とで冷凍サイクルを構成するが、ここでは室内機の構成に関するものであり、室外機に関しては省略する。図1及び図2に示すように、空気調和機の室内機(以下、室内機と記す)1は左右方向に伸びる細長い略直方体形状であり、部屋の壁に設置される。室内機1本体の上部1aには、室内空気が吸い込まれる吸込口となる吸込グリル2、ホコリを静電させ集塵する電気集じん器5、ホコリを除塵する網目状のフィルタ6が配設される。さらに、並列される複数のアルミフィン7aに配管7bが貫通する構成の熱交換器7が、貫流ファン8の正面側と上部側に、ファン8を囲むように配置される。また、室内機1本体の前面1bは前面パネルで覆われ、室内機1本体の下部には吹出口3が設けられ、熱交換器7で熱交換された室内空気が吹出口3から室内へ吹き出される。吹出口3は室内機1本体の左右方向である長手方向に細長く伸びる開口で構成される。即ち、吹出口3の長手方向が室内機1本体の左右方向と一致するように吹出口3が設けられる。送風機である貫流ファン8は、熱交換器7と吹出口3の間に、室内機1本体の左右方向(長手方向)を回転軸線方向とするように設けられ、モータ16で回転駆動されて吸込口2から吹出口3へ室内空気を送風する。室内機1本体の内部には、ファン8に対して吸込領域E1と吹出領域E2を分離するスタビライザー9及びリアガイド部10を有する。リアガイド部10は、例えば渦巻状であり、吹出風路11の背面を構成する。吹出口3には上下風向ベーン4a、左右風向ベーン4bが回動自在に取り付けられ、室内への送風方向を変化させる。図中、Oはファン8の回転中心を示し、E1はファン8の吸込領域、E2は回転中心Oに対して吸込領域E1と反対側に位置する吹出領域である。スタビライザー9の舌部9aとリアガイド部10の空気流の上流側端部10aとで、ファン8の吸込領域E1と吹出領域E2が分離されている。また、ROはファン8の回転方向を示す。
【0016】
図3は本実施の形態に係る貫流ファン8を示す概略図であり、図3(a)は貫流ファンの側面図、図3(b)は図3(a)のU−U線断面図である。図3(b)の下半分は向こう側の複数枚の翼が見えている状態を示し、上半分は1枚の翼13を示している。図4(a)は5個の羽根車単体14を回転軸線方向AXに固定してなるファン8を拡大して示す斜視図、図4(b)は支持板12を示す説明図である。図4では、モータ16やモータシャフト16aを省略して羽根車の部分を貫流ファン8として示す。ファン8を構成する羽根車単体14の数や1つの羽根車単体14を構成する翼13の数はいくつでもよく、この個数で限定されるものではない。
【0017】
図3、図4に示すように、貫流ファン8は、回転軸線方向AX(長手方向)に複数、例えば5個の羽根車単体14を有する。羽根車単体14の一端に環状の支持板12が配設され、回転軸線方向AXに伸びる複数の翼13が支持板12の外周に沿って配設される。例えばAS樹脂やABS樹脂などの熱可塑性樹脂で成形された羽根車単体14を、支持板12の中心を通る回転軸線方向AXに複数個備え、超音波溶着などによって翼13の先端を隣に配置する羽根車単体14の支持板12に連結する。そして他端に位置する端板12bには翼13が設けられておらず、円板のみである。回転軸線方向AXの一端に位置する支持板12aの中心にファンシャフト15aが設けられ、他端に位置する端板12bの中心にファンボス15bが設けられる。そして、ファンボス15bとモータ16のモータシャフト16aがネジ等で固定される。即ち、ファン8の回転軸線方向AXの両端に位置する支持板12a、端板12bは円板形状であり、回転軸線17が位置する中央部分にファンシャフト15a及びファンボス15bが形成される。両端を除く支持板12は、回転中心となる回転軸線17が位置する中央部分が空間の環状で、図4(b)に示すように内径K1と外径K2を有する。ここで、図3(b)、図4(b)で、一点鎖線はモータシャフト16aとファンシャフト15aを結び、回転中心Oを示す仮想回転軸線であり、ここでは回転軸線17とし、回転軸線17の伸びる方向が回転軸線方向AXである。また、1つの羽根車単体を連14と称し、回転軸線方向AXの両端部に位置する連を端部連14aと称する。
【0018】
図5は本実施の形態に係る空気調和機の室内機1本体を斜め下方から見た斜視図である。ここで、上下風向ベーン4a及び左右風向ベーン4bは取り除いて示しており、吹出口3を通してファン8の一部が見えている。室内機の吹出口3の長手方向の長さL1に比べて、ファン8の回転軸線方向AXの長さL2が長く構成される(L2>L1)。この吹出口3は、その長手方向が室内機1本体の左右方向と一致するように開口している。そして、ファン8の両方の端部連14aの一部は吹出口3の両端からそれぞれ延長され、この延長部、即ちファン8の両方の端部連14aで、吹出口3に面していない部分をファン延長部8aと称する。そして、ファン延長部8aから吹出される吹出し気流が衝突する衝突壁18をファン延長部8aに対向する室内機1本体に設ける。図6は衝突壁18を示す斜視図であり、ファン延長部8aと衝突壁18と吹出風路11の関係を示す。また、図7は図5のB−B線断面図であり、衝突壁18を含む部分の空気調和機の室内機1の縦断面を示す。図7の斜線部分は衝突壁18を示す。
【0019】
ファン8の回転軸線方向AXの両端部に設けられるファン延長部8aでは、吹出風路11の背面は、途中までリアガイド10の上流側で構成されるが、図7に示すように途中から衝突壁18に対向するようになり、吹出口3のような開口に接続されず、スタビライザ9に続く。そして、吹出風路11におけるファン8の羽根車の外周から衝突壁18までの距離は、図7にて符号アで示すようにリアガイド10の最も上流側10aからスタビライザ9に続く部分まで略同じである。また、ファン延長部8aから吹き出される吹出し気流が、衝突壁18に衝突する衝突領域を領域E3で示す。即ち、ファン8から気流が吹き出される領域を示す吹出領域E2(図8参照)のうち、ファン延長部8aから気流が吹き出される領域が衝突領域E3である。ファン延長部8aの外周から衝突壁18の表面までの距離アは、例えば10mm程度である。
【0020】
これに対し、ファン8の回転軸線方向AXで、ファン延長部8aを除く部分、即ちファン8の回転軸線方向AXの中央部分では、図2に示すように、吹出風路11の背面は吹出口3に至るまでリアガイド10で構成され、リアガイド10の最も上流側10aから吹出口3まで渦巻き形状をなし、徐々にファン8の羽根車の外周からリアガイド10までの距離が大きくなるような構成である。
【0021】
図8は、室内機1の内部構成を簡略化して示す模式図であり、気流方向(白抜き矢印)に従って、吸込口2、熱交換器7、ファン8、吹出口3の関係を簡略化して示す。また、図9は貫流ファン8の一方の端部連14aの1枚の翼13を拡大して示す模式図である。ファン8の回転軸線方向AXの他方の端部連14aも図9と同様である。回転軸線方向AXで、ファン8は両端部にファン延長部8aを有し、吹出領域E2では衝突壁18に対向する。この衝突壁18に対向する吹出領域E2を衝突領域E3と称している。一方、ファン8の回転軸線方向AXで、ファン延長部8aを除く部分、即ちファン8の回転軸線方向AXの中央部分は、吹出領域E2では開口で構成される吹出口3に対向して配設される。ここで、両端板12a、12bの位置をファン端面8bとし、回転軸線方向AXの中央部分のファン8で、吹出口3と対向している部分をファン中央部8cとする。また、側壁30は室内機1の内部の吸込口2から吹出口3に至る風路の両側面を構成している。
【0022】
以下、本実施の形態で用いたファンの各長さの一例を示す。
羽根車単体14の端部で翼13に固定されている環状の支持板12の外径K2をΦ110mm、内径K1をΦ60mmとし、この支持板12の円周上に複数枚、例えば35枚の翼13が固定されている。また、回転軸線方向AXでは、例えば吹出口3の長手方向長さL1=610mm、ファン8の回転軸線方向AXの全長L2=640mm、衝突壁18の回転軸線方向AXの所定の幅L3=30mmである。衝突壁18は、例えば回転軸線方向AXには衝突壁18の長さL3の半分程度でファン延長部8aを覆っており、ファン延長部8aの回転軸線方向AXの長さイは、例えば15mmである。また、Sはファン8の両端の端板12a、12bと側壁30の間にできる空間を示している。空間Sの回転軸線方向AXの長さは、例えば15mmである。さらに、端部連14aの回転軸線方向AXの長さは、25mm〜70mmとし、2つの端部連14aを除く他の連14の回転軸線方向AX長さを略80mmとする。
【0023】
また、図9に示すように、ファン8の端部連14aにおいて、衝突壁18に対向するファン延長部8aの翼13aは他の部分の翼と異なる形状である。即ち、端部連14aの回転軸線17に垂直な翼断面形状は、衝突壁18に対向する部分の翼13aと衝突壁18に対向しない部分、即ち吹出口3に対向する部分の翼13bで異なる。
【0024】
以下、ファン延長部8a、即ち衝突壁18と対向する部分の翼13aと、吹出口3と対向する部分の翼13bの翼断面形状の違いについて説明する。ここで、回転軸線方向AXの衝突壁18と対向する部分の翼13aを衝突壁対向翼部13aと称し、吹出口3に対向する部分の翼(言い換えると衝突壁18と対向しない部分の翼)13bを吹出口対向翼部13bと称する。
【0025】
図10は衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bの翼断面を重ねて示す説明図であり、回転軸線17に垂直な断面を示す。翼13a、13bは回転方向RO側の面(圧力面19と称する)と回転方向と逆向きの面(負圧面20と称する)から成り、圧力面19と負圧面20の中央である、翼の反り線21(一点鎖線で示す)は略円弧形状である。また、衝突壁対向翼部13a及び吹出口対向翼部13bにおいて、翼内周側端部及び翼外周側端部共に丸い円弧形状である。このため、翼内周側端部Ha、Hb及び翼外周側端部Ga、Gbは、それぞれの円弧形状の曲率中心と定め、衝突壁対向翼部13aの反り線21aは翼内周側端部Haと翼外周側端部Gaを結ぶ円弧であり、吹出口対向翼部13bの反り線21bは翼内周側端部Hbと翼外周側端部Gbを結ぶ円弧となる。なおここで、添え字のaは衝突壁対向翼部13aの各部を示し、bは吹出口対向翼部13bの各部を示す。
【0026】
また、翼内周側線端部Ha、Hbと翼外周側端部Ga、Gbを結ぶ直線を翼弦線Mと称する。ここで、衝突壁対向翼部13aの翼弦線Maの長さを、吹出口対向翼部13bの翼弦線Mbの長さよりも短く構成する点に本実施の形態の特徴がある。例えば、翼弦線Maの長さを13mm〜14mm、翼弦線Mbの長さを15mm〜16mmとし、翼弦線Maは翼弦線Mbよりも2〜3mm短くしている。ここで、翼外周側端部Ga、Gbの回転による軌跡を翼外径とし、翼外径24で示す。また、翼内周側端部Ha、Hbの回転による軌跡を翼内径とし、翼内径25で示す。本実施の形態では、衝突壁対向翼部13aの翼外周側端部Gaと吹出口対向翼部13bの翼外周側端部Gbは、図10に示すように同じ位置としており、翼外径24は翼外周側端部Ga、Gbを通る。一方、衝突壁対向翼部13aの翼内周側端部Haを通る翼内径25aは、吹出口対向翼部13bの翼内周側端部Hbを通る翼内径25bよりも大きく、翼内径25bの外側に翼内径25aが位置することになる。
【0027】
図11は端部連14aの1枚の翼13を示す斜視図である。衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bで翼形状が異なり、衝突壁対向翼部13aは短い翼弦線Maで構成される部分であり、吹出口対向翼部13bは長い翼弦線Mbで構成される部分である。図中、Dは衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bの境界部分を示し、DGは翼弦線Ma、Mbの長さの差によって生じる段差である。なお、回転軸線方向AXで端部連14aの内側に位置する連14、例えば図4(a)の構成では、端部連14aを除く3つの中央部に配置されている連14の翼形状は、吹出口対向翼部13bと同様の形状とし、単一の翼形状で構成する。
【0028】
以下、本実施の形態に係る翼の動作について図12に基づいて説明する。図12は図9と同様、端部連14aの翼13とその周辺を拡大して示す説明図である。室内機1本体の外部は大気圧P0である。空気調和機が運転され、モータ16によってファン8が回転される。貫流ファン8がRO方向に回転することにより、室内空気が室内機1本体の上部に設けられる吸込口2から吸い込まれ、熱交換器7を通過する際に配管7b内を流れる冷媒と熱交換される。そして空気調和された気流Aとなり貫流ファン8を通って吹出口3から室内へ吹き出される。ここで、貫流ファン8に流入する時の吸込領域E1の気圧Pe1は、吸込口2から吸い込まれた室内空気が熱交換器7を通過する際に摩擦抵抗(圧力損失)が生じるため、大気圧P0よりも低くなる。空間Sは、吸込領域E1と連続する空間であり、同じ圧力雰囲気であるので、吸込領域E1と同等の気圧Pe1(<大気圧P0)である。また、端部連14aの吹出し側に着目すると、衝突壁18に対向する場所に吹き出した気流Aaは衝突壁18に当たり、風速のエネルギーが圧力のエネルギーに変換されて、衝突領域E3には淀み圧P1が発生する。ファン8の回転が速くなるにつれて気流Aaの風速Vaが大きくなり、淀み圧P1は高くなる。風速Vaが所定の値以上であれば、淀み圧P1が大気圧P0よりも高くなる。この淀み圧P1が大気圧P0より高くなるときの風速Vaは、搭載する熱交換器などの圧力損失に応じて異なる。
【0029】
空気調和機の室内機1に搭載される貫流ファン8は、例えば弱冷房、強冷房などの運転モードに応じて運転する回転数が設定される。最も低い回転数で運転する時の風速で、大気圧P0より高い淀み圧P1が得られるように、衝突壁18とファン8の外周との間隔ア、及び衝突壁対向翼部13aの回転軸線方向AXの長さイ、衝突壁対向翼部13aの翼弦線Maの長さを決定する。このように衝突壁対向翼部13a及び衝突壁18を設ければ、室内機1の運転中、即ちファン8の回転時には、ファン8の端部連14aの衝突領域E3を淀み圧P1(>大気圧P0)の空間とすることができる。空間Sに通じる衝突領域E3を淀み圧P1>大気圧P0とすることで圧力差を形成し、淀み圧P1が大気圧P0の室内空気の流入を遮断する。このため、吹出口3を通って室内機1の外部から室内機1の内部の圧力の低い空間Sへ室内空気が流入する逆吸いが発生するのを防止できる。
【0030】
図13は、従来装置と本実施の形態のファン8の端部連14a付近を比較して示す説明図である。図13(a)〜(c)のいずれの場合も、吸込口2から吸い込まれた気流が熱交換器7などを通過する際に生じる摩擦抵抗(圧力損失)によって、空間Sは大気圧P0よりも低い圧力雰囲気の空間である。図13(a)のようにファンの回転軸線方向AXの端部連14aでは、空間Sの圧力(<大気圧P0)と大気圧P0との圧力差によって、室内機1の外部から吹出口3を通って室内機1の内部の空間Sに向かう逆吸いW1が生じる。図13(b)に示す構成では、特許文献1のようにファン8の回転軸線方向AXの両端部連14aに、室内機1の側壁30に向かってラッパ状に広がる部材Tを備えたものである。この場合には、図13(a)と比較して、端部連14aと側壁30との間の隙間は小さくなっているが、全く隙間がなくなっているわけではない。やはり、大気圧P0の方が空間Sの気圧よりも高いため、図13(a)と同様に、室内機1の外部から吹出口3を通って室内機1の内部の空間Sに向かう逆吸いW2が生じる。これに対し、本実施の形態を示す図13(c)では、ファンの両端部連14aと衝突壁18とが回転軸線方向AXで対向して重なる部分(ファン延長部8a)を設け、この部分の吹出し気流を衝突壁18に衝突させ、この衝突領域E3に大気圧P0より高い淀み圧P1を発生させる。即ち、ファン延長部8aと衝突壁18との間に、吹出口3と空間Sとを隔離する淀み圧P1の雰囲気が形成される。このため、室内機1の外部から吹出口3を通って室内機1の内部の空間Sに向かう流れを遮断して、逆吸いが発生するのを防止できる。
【0031】
ところが、衝突壁18を設けて吹出し気流を衝突壁18に衝突させることは、通風抵抗を大きくすることになるので、ファン8にとって負荷が大きくなり、エネルギー損失や騒音の増加につながる。これに対し、本実施の形態では、ファン8の両端連14aの翼形状に関し、互いに異なる翼形状13a、13b、ここでは図10に示したように、翼弦線Ma、Mbを異なる長さとする。衝突壁18に対向する衝突壁対向翼部13aの翼弦線Maの長さを吹出口対向翼部13bの翼弦線Mbの長さよりも短くしたので、衝突壁対向翼部13aでは風速の小さい(低風量)の気流が得られ、吹出口対向翼部13bでは風速の大きい(高風量)の気流が得られる。
【0032】
図14は翼間を通る気流を説明する説明図であり、図14(a)は衝突壁対向翼部13aを通過する気流を示し、図14(b)は吹出口対向翼部13bを通過する気流を示す。図14(a)では、気流Aaは衝突壁18に衝突することで淀み圧P1を発生させ、図14(b)では、気流Abは吹出風路11を流れて吹出口3から吹き出される。貫流ファン8では、翼13の圧力面19で気流を押すことによって気流にエネルギーが与えられ、翼弦線Mの長短によって圧力面19の面積の大小が決まる。このため、長い翼弦線Mbの吹出口対向翼部13bでは、短い翼弦線Maの衝突壁対向翼部13aよりも大きなエネルギーが気流Abに与えられ、衝突壁対向翼部13aを通過する吹出し気流Aaよりも風速Vbが大きくなる。即ち、気流Aaの風速Va<気流Abの風速Vbとなる。これは気流Aaの風量<気流Abの風量と同じことである。
【0033】
ファン8回転軸線方向AXの全長、または端部連14aの全長に亘って短い翼弦線Maで構成すると、気流に与えるエネルギーが十分ではなく、ファン全体として風量が十分に得られない。また、端部連14aの全長に亘って長い翼弦線Mbで構成すると、ファン延長部8aで衝突壁18に衝突する気流の衝突損失が大きく、ファンにとって負荷が大きいのでエネルギー損失及び騒音増加の原因になる。これに対し、本実施の形態に係る翼形状では、衝突壁18と対向する部分の翼部13aの翼形状を短い翼弦線Maとすることで、淀み圧P1が大気圧P0よりも若干高くなるような最小限のエネルギーを気流に与えるように構成する。また、衝突壁18と対向しない部分の翼部13bの翼形状を翼弦線Maよりも長い翼弦線Mbとすることで、気流に大きなエネルギーを与える。
【0034】
衝突壁対向翼部13aの気流Aaを気流Abよりも小さい風速(低風量)としたので、大気圧P0より高い淀み圧P1を得ると同時に、衝突壁18に衝突する気流によるエネルギー損失を極力小さくする。さらに、衝突領域E3の風速Vaが吹出口3に向かう風速Vbよりも小さいことから、風速Vbの気流が衝突壁18に衝突する場合よりも衝突音が低減され、低騒音化を実現できる。一方、吹出口対向翼部13bの気流Abを気流Aaより大きい風速Vbとすることで、ファン全体として高風量を維持する。ファン8の回転軸線方向AXの長さは吹出口3の長手方向長さよりも長い構成であり、吹出口3の長手方向の一端から他端に亘って吹き出す気流Abの速度Vbを大きくできるので、さらに逆吸いの発生を防止できる。例えば、淀み圧P1が大気圧P0よりもわずかに高い程度であったとしても、吹出口3の長手方向の一端から他端に亘って吹き出す気流Abの速度Vbが大きいので、吹出口3の両端部で発生しやすい逆吸いを確実に防止できる。この逆吸いを防止することで、冷房運転時に逆吸いによって室内機1の内部に入り込んだ高湿度の室内空気が室内機1の内部の低温壁面に接触して結露し、その結露水がその後水滴となって室内に飛散する露飛びを防止できる。また、ファン全体として高風量を維持することで、ファン性能を向上し、低電力化を実現できる。
【0035】
以上のように、本実施の形態では、空気調和機の室内機1本体の上部1aに設けられ室内空気を吸い込む吸込口2と、この吸込口から吸い込まれた前記室内空気と熱交換する熱交換器7と、空気調和機の室内機1本体の下部に空気調和機の室内機1本体の左右方向に長手方向を伸ばすように設けられ、熱交換器7にて熱交換された室内空気を室内へ吹き出す吹出口3と、熱交換器7と吹出口3の間に空気調和機の室内機1本体の左右方向を回転軸線方向AXとするように設けられ、吸込口2から吹出口3へ室内空気を送風する貫流ファン8と、を備え、貫流ファン8は、環状の支持板12の外周に沿って設けられる複数の翼13を有する羽根車単体14を回転軸線方向AXに複数固着されてなり、貫流ファン8の回転軸線方向AXの長さL1は吹出口3の長手方向の長さL2よりも長く、貫流ファン8が吹出口3の長手方向の両端から回転軸線方向AXに延長する延長部8aを有すると共に、空気調和機の室内機1本体に設けられ、貫流ファン8の延長部8aから吹き出される吹出し気流が衝突する衝突壁18を具備するものであって、貫流ファン8の回転軸線方向AXで、延長部8aの翼13aを、吹出口3に対向する翼13bの翼形状と異なり、吹出口3に対向する翼13bから吹き出される吹出し気流Abよりも風速Vaの小さい吹出し気流Aaが得られる翼形状とすることにより、吹出し気流Aaによって、衝突壁18の前面に大気圧P0より高い淀み圧P1を発生させ、室内機1の外部から吹出口3を通って室内機1の内部に室内空気が流入する逆吸いを防止できる効果がある。この逆吸いを防止することで気流の乱れを低減でき、空気調和機の冷房運転時の露飛びを防止できる。且つ、吹出口3から吹き出す気流Abの高風量を確保でき、ファン性能を向上できる。さらに、衝突壁18に向かう吹出し気流Aaの風速Vaを、吹出口3に向かう吹出し気流Abの風速よりも小さくできるので、気流が衝突壁18に衝突する際のエネルギー損失及び騒音を抑制できる空気調和機が得られる。
【0036】
特に、翼13の回転軸線17に垂直な断面における、翼外周側端部Gと翼内周側端部Hとを結ぶ線分を翼弦線Mとし、延長部8aの翼13aの翼弦線Maの長さが、吹出口3に対向する翼13bの翼弦線Mbの長さよりも短くすることにより、翼弦線Mの長さに応じて気流に与えるエネルギーが変化し、延長部8の翼である衝突壁対向翼部13aから吹き出される吹出し気流Aaの風速Vaは、吹出口3に対向する吹出口対向翼部13bから吹き出される吹出し気流Abの風速Vbよりも小さい。このため、エネルギー損失を抑制できると共に逆吸いを防止でき、衝突壁18で発生する気流による騒音を低減できる。且つ、吹出口3に対向する翼部13bでは衝突壁18に対向する翼部13aの吹出し気流Aaの速度Vaよりも大きな速度Vbの吹出し気流Abとすることで、ファン全体として高風量を確保できる。
【0037】
ここで、吹出口対向翼部13bの翼弦線Mbは、衝突壁対向翼部13aの翼弦線Maよりも長く、翼弦線長さの差を2〜3mmとしたがこれに限るものではない。吹出口対向翼部13bの翼弦線Mbを衝突壁対向翼部13aの翼弦線Maの1/8〜1/3長くすればよい。例えば、翼弦線Maを12mmとしたとき、翼弦線Mbは13.5mm〜16mmとする。翼弦線Mbが13.5mmよりも短いと、風量を増加する効果が得られず、16mmよりも長いと、両端部連14a内の境界領域で段差DGが大きくなり、スムーズな空気流が得られない。
【0038】
また、翼弦線Mの長さを異なるように構成する際、翼外周側端部Ga、Gbの位置は同じとし、翼内周側端部Ha、Hbの位置を変化させて一枚の翼を構成したが、これに限るものではない。翼外周側端部Ga、Gbの位置を変化させてもよい。また、翼内周側端部Ha、Hbの位置と翼外周側端部Ga、Gbの位置の両方を変化させてもよい。
【0039】
なお、図11に示す翼断面形状が変化する境界部分Dが、回転軸線方向AXに衝突壁端面18aの近傍に位置するように構成するのが好ましい。ただし、製造時や取り付け時の誤差により多少のずれが発生し得るが、衝突壁18は回転軸線方向AXに所定の長さの幅を有するため、衝突領域E3の少なくとも一部に大気圧P0より高い淀み圧P1を発生させることができるように構成すれば、衝突壁端面18aと翼断面形状が変化する境界部分Dとがちょうど一致していなくても問題はない。翼形状が変化する境界部分Dが衝突壁端面18aよりも衝突壁18の方にずれると、翼弦線Maよりも長い翼弦線Mbの翼間を通過したエネルギーの大きな気流Abが衝突壁18と衝突することになり、エネルギー損失が若干多くなるが、淀み圧P1は高くなり、確実に吹出口3から空間Sへの逆吸いを防止できる。逆に、翼断面形状が変化する境界部分Dが衝突壁端面18よりも吹出口3の方にずれると、翼弦線Mbよりも短い翼弦線Maの翼間を通過したエネルギーの小さな気流Aaが吹出口3に流れることになり、若干の低風量化を招くが、エネルギーの大きな気流Abが衝突壁18に衝突することが確実にないので、エネルギー損失の増加を抑制できる。どちらにしても、吹出口3の長手方向の両端部付近に大気圧P0より高い淀み圧P1を発生させることができ、吹出口3から室内機1本体の内部への逆吸いを防止できる。
【0040】
図15は、本実施の形態に係る空気調和機に用いられる貫流ファンの他の構成例を示し、1枚の翼13を拡大して示す斜視図である。貫流ファンの端部連14aのうち、衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bとで翼断面形状を異なるように構成し、さらに2種類の断面形状13a、13bの間を回転軸線方向AXになだらかな曲線面または直線面で接続する遷移部13cを設ける。例えば、図11では形状の異なる翼部の境界部分Dで階段状であった段差DGを、翼断面形状が滑らかに変化するように、傾斜する直線で接続して遷移部13cを構成する。段差が2mmであった場合、回転軸線方向AXで境界部分Dを中央にして左右に1mmづつの位置を直線で結んで遷移部13cとする。
【0041】
図11のように2種類の断面形状13a、13bの境界部分Dで翼断面が急変化する形状では、衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bとの間に段差DGができ、この段差DG付近を流れる気流に風速差が発生する。このため、風速差による流れの混合が渦に発達してエネルギー損失を大きくし、また、乱れた気流が衝突壁18に衝突して騒音を増加させることも起こり得る。これに対し、遷移部13cによって渦の発生を抑制し、エネルギー損失を小さくできると共に騒音の増加を防止することができる。
この遷移部13cは、直線で接続する形状に限らず、他の形状でもよい。例えば、円弧状の曲線で接続してもよい。この時は、吹出口3側に凸の円弧状でも、また吹出口3側に凹の円弧状でもよい。
【0042】
また、図16は本実施の形態に係る貫流ファン8の端部連14aの翼13a、13bとその周囲を拡大して示す説明図である。衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bの間の遷移部13cは、図16に示すように回転軸線方向AXに衝突壁端面18a近傍に位置されることが好ましいが、製造時や取り付け時の誤差により多少のずれが発生しても問題はない。前述と同様、翼断面形状が変化する遷移部13cが衝突壁端面18aよりも衝突壁18の方にずれると、翼弦線Maよりも長い翼間を通過したエネルギーの大きな気流が衝突壁18と衝突することになり、エネルギー損失が若干多くなるが、淀み圧P1は高くなり、確実に吹出口3から空間Sへの逆吸いを防止できる。逆に、翼断面形状が変化する遷移部13cが衝突壁端面18よりも吹出口3の方にずれると、翼弦線Mbよりも短い翼間を通過したエネルギーの小さな気流が吹出口3に流れることになり、若干の低風量化を招くが、エネルギーの大きな気流が衝突壁18に衝突することがなく、エネルギー損失の増加を防止できる。
【0043】
以上のように、本実施の形態では、ファン8の回転軸線方向AXで翼形状が異なる境界部分Dは、衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bの翼形状を、傾斜する直線や凹形状や凸形状の曲線形状で滑らかに変化させることにより、翼形状の異なる部分での渦の発生を防止して、エネルギー損失を低減できる効果がある。
【0044】
実施の形態2.
図17は本発明の実施の形態2に係る貫流ファン8の端部14aにおける吹出口対向翼部13bと衝突壁対向翼部13aの翼断面を重ねて示す説明図であり、回転軸線17に垂直な断面を示す。図において、実施の形態1と同一符号は同様、または相当部分を示す。端部連14a付近の空気調和機の室内機の形状は、実施の形態1の図1〜図9に示すものと同様である。実施の形態1と同様、ファン延長部8aの衝突壁18に対向する衝突壁対向翼部13aと吹出口3に対向する吹出口対向翼部13bで、異なる翼形状とし、特にこの実施の形態2では、翼外周側端部Ga、Gbにおいて出口角αを異なるように構成する。
【0045】
ここで出口角αについて説明する。翼13の回転軸線17に垂直な断面における、翼外周側端部Ga、Gbの回転による軌跡を翼外径24とし、翼13の回転方向前方の圧力面19と回転方向後方の負圧面20との中央を反り線21とし、翼外径24と反り線21との交点における翼外径24の接線と反り線21の接線とのなす角度を出口角αとする。従って、衝突壁対向翼部13aの出口角αaは、翼外径24と反り線21aとの交点である翼外周側端部Gaにおいて、翼外径24の接線F1a(実線で示す)と反り線21aの接線F2a(実線で示す)とのなす角度である。また、吹出口対向翼部13bの出口角αbは、翼外径24と反り線21bとの交点である翼外周側端部Gbにおいて、翼外径24の接線F1b(点線で示す)と反り線21bの接線F2b(点線で示す)とのなす角度である。
【0046】
本実施の形態では、衝突壁対向翼部13aの出口角αa<吹出口対向翼部13bの出口角αbとすることを特徴としている。例えば、衝突壁対向翼部13aの出口角αaを24〜26°、吹出口対向翼部13bの出口角αbを26〜28°とする。ここでは、衝突壁対向翼部13aの翼内周側端部Haと吹出口対向翼部13bの翼内周側端部Hbは同じ位置としている。
【0047】
図18は端部連14aの1枚の翼13を示す斜視図である。この構成例では衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bとの間に遷移部13cを設けて滑らかに変化する形状としている。例えば、異なる翼形状の境界部分Dを図11に示すような段差DGではなく、境界部分Dで回転軸線方向AXに所定の幅、例えば境界部分Dの左右方向に数mmずつの幅をとり、その幅を遷移部13cとして、左右方向および翼外径24方向に傾斜する直線や凹状の曲線や凸状の曲線で滑らかに接続する。
【0048】
図19は端部連14aの翼部13a、13bの翼間を流れる気流を示す説明図であり、図19(a)は翼部13a、13bの回転軸線17に垂直な断面を重ねて示し、図19(b)は翼外周側端部Ga、Gbから吹き出す吹出し気流Aa、Abの流れ方向を比較して示す。翼内周側端部Ha、Hbから翼間に流入した気流は、翼13の圧力面19で気流を押すことによってエネルギーが与えられて翼外周側端部Ga、Gbから吹出領域E2に流れる。気流Aa、Abは、翼13の圧力面19から離れて吹出領域E2に吹き出す際、それぞれの反り線21a、21bの接線F2a、F2bの方向に飛び出す。衝突壁対向翼部13aの出口角αaは吹出口対向翼部13bの出口角αbよりも小さいため、翼外周側端部Gaにおける反り線21aの接線F2aは、翼外周側端部Gbにおける反り線21bの接線F2bよりも回転方向(RO方向)を向く。逆に、翼外周側端部Gbにおける反り線21bの接線F2bは、吹出し気流Aaよりもファン径方向(図19にて実線矢印RRaで示す方向)を向く。ここで、ファン径とは、回転軸線17の断面において、回転中心Oと翼13のそれぞれの翼外周側端部Hとを結ぶ直線であり、ファン径方向RRとは、回転中心Oから翼13のそれぞれの翼外周側端部Gに向かう方向である。図19では、例えば衝突壁対向翼部13aのファン径方向(RRa方向:回転中心Oから翼外周側端部Gaに向かう方向)を示しており、吹出口対向翼部13bのファン径方向(RRb方向)は、回転中心Oから翼外周側端部Gbに向かう方向になる。また、回転方向(RO方向)に関しては、衝突壁対向翼部13aの回転方向(RO方向)は、翼外周側端部Gaにおける翼外径24の接線F1a(図17参照)上で回転方向(RO方向)前方に向かう方向であり、吹出口対向翼部13bの回転方向(RO方向)は、翼外周側端部Gbにおける翼外径24の接線F1b上で回転方向(RO方向)前方に向かう方向である。
前述のように、出口角αの大きさに応じて、翼間から吹き出す吹出し気流Abと吹出し気流Aaの吹き出す方向が異なる。
【0049】
図19(b)は、吹出し気流Aa、Abをファン径方向(RR方向)成分Aax、Abxとファンの回転方向(RO方向)成分Aay、Abyとに分解して示す。貫流ファン8は、吸込領域E1から吸い込んだ空気を翼間に通過させ、主に翼間からファン径方向(RR方向)成分の割合が大きい方向に気流を吹き出すような構成である。そして、翼間から吹き出した気流を、吹出風路11の背面に形成されているリアガイド10で徐々に吹出口3方向に導く。このため、ファン径方向(RR方向)成分の割合が大きい気流の方が、回転方向(RO方向)成分の割合が大きい気流よりも吹出口3付近で風速が大きくなる。図19(b)に示すように、衝突壁対向翼部13aから吹き出す気流の方向は、出口角αaが吹出口対向翼部13bの出口角αbよりも小さいので、回転方向(RO方向)成分Aayが回転方向(RO方向)成分Abyよりも大きい。一方、ファン径方向(RR方向)成分Aaxはファン径方向(RR方向)成分Abxよりも小さい。このため、吹出領域E2において、衝突壁対向翼部13aの翼間を通って衝突領域E3に向かう気流Aaの風速Vaは風速Vbよりも小さくなる。即ち、出口角αbの大きさに応じて、吹出し気流のファン径方向成分と回転方向成分の割合が変化し、ファン径方向成分が大きいと、吹出し気流の風速は大きくなる。
【0050】
図20(a)、(b)は端部連14aの翼部13a、13bによる翼間から吹出す吹出す気流を示す説明図であり、図20(a)は衝突壁対向翼部13aで回転軸線17に垂直な断面を示し、図20(b)は吹出口対向翼部13bで回転軸線17に垂直な断面を示している。図20(a)の実線矢印に示すように、衝突壁対向翼部13aでは、気流Aaが回転方向(RO方向)に向くため、衝突壁18に略垂直に衝突する気流の風速Vaは、ファン径方向(RR方向)に向いて流れる気流Abの風速Vbよりも小さい。衝突壁対向翼部13aを通って衝突壁18に衝突する気流は、風速Vaのエネルギーが圧力のエネルギーに変換されて淀み圧P1を発生させるのであるが、このときの淀み圧P1は、大気圧P0よりも若干高い程度が好ましい。淀み圧P1が高すぎると、衝突による損失が大きくなってエネルギー損失の増加を招いたり、騒音の増加を招くことになる。この実施の形態2では翼部13aを通って流れる気流Aaの向きが気流Abよりも回転方向(RO方向)を向くので、衝突壁18に衝突する気流Aaの速度Vaが速度Vbよりも小さくなり、衝突流が緩和される。このため、エネルギー損失の抑制及び騒音の抑制を図ることができる。
【0051】
特に、衝突壁対向翼部13aの出口角αaを決定する際、ファンの最も回転数の低い運転モードの時に淀み圧P1が大気圧P0よりも若干高くなるような最小限のエネルギーを気流に与える形状にすればよい。淀み圧P1を大気圧P0より高くすることで、室内機1の外部から室内機1の内部に空気が流れ込んでしまう逆吸いを防止できる。さらに、逆吸いを防止する必要最小限の淀み圧P1を得ることで、衝突流によるエネルギー損失を低減でき、騒音の増加を抑制することができる。
【0052】
一方、吹出口3と対向する吹出口対向翼部13bは、出口角αbを衝突壁対向翼部13aの出口角αaよりも大きくしているので、図20(b)の点線矢印に示すように気流Abの吹出し方向が気流Aaよりもファン径方向(RR方向)を向く。図19(b)で示したように、吹出し気流Abのファン径方向(RR方向)成分Abxが衝突壁対向翼部13aのファン径方向(RR方向)成分Aaxよりも大きく、吹出口3に向かう気流Abの風速Vbは、衝突壁18に向かう気流Aaの風速Vaよりも大きくなる。このため、ファン8の全体の翼形状を衝突壁対向翼部13aの単一の形状で構成するよりも、吹出口3に向かう風速(風量)を大きくできる。また、吹出口3に対向する吹出口対向翼部13bで十分な風速(風量)が得られることで、全体として高風量を実現でき、ファン性能を向上でき、低電力化を図ることができる。また、吹出口3の長手方向の一端から他端に至るまで吹き出す風速(風量)を大きくできるので、室内機1の外部から吹出口3を通って室内機1の内部に流入しようとする逆吸いを防止することができる。
【0053】
以上のように、本実施の形態によれば、翼13の回転軸線17に垂直な断面における、翼外周側端部Gの回転による軌跡を翼外径24とし、翼13の回転方向前方の圧力面19と回転方向後方の負圧面20との中央を反り線21とし、翼外径24と反り線21との交点Gにおける翼外径24の接線F1と反り線21の接線F2とのなす角度を出口角αとし、延長部8aの翼13aの出口角αaを、吹出口3に対向する翼13bの出口角αbよりも小さくすることにより、出口角αの大きさに応じて吹出し気流のファン径方向成分と回転方向成分の割合が変化し、延長部8aの翼13aは、吹出口3に対向する翼13bから吹き出される吹出し気流Abの風速Vbよりも小さい風速Vaの吹出し気流Aaが得られる。この吹出し気流Aaによって、衝突壁18の前面に大気圧P0より高い淀み圧P1を発生させ、室内機1の外部から吹出口3を通って室内機1の内部に室内空気が流入する逆吸いを防止できる。且つ、吹出口3から吹き出す気流Abの高風量を確保でき、ファン性能を向上できる。さらに、衝突壁18に向かう吹出し気流Aaの風速Vaを、吹出口3に向かう吹出し気流Abの風速Vbよりも小さくできるので、気流が衝突壁18に衝突する際のエネルギー損失及び騒音を抑制できる空気調和機が得られる。
【0054】
ここで、出口角αを異なるように構成する際、翼内周側端部Ha、Hbの位置は同じとし、翼外周側端部Ga、Gbの位置を変化させて一枚の翼を構成したが、これに限るものではない。翼内周側端部Ha、Hbの位置を変化させてもよい。また、翼外周側端部Ga、Gbの位置と翼内周側端部Ha、Hbの位置を共に変化させて構成してもよい。
【0055】
実施の形態3.
図21は本発明の実施の形態3に係り、空気調和機に用いられる貫流ファン8の端部連14aにおける吹出口対向翼部13bと衝突壁対向翼部13aの翼断面を重ねて示す説明図であり、回転軸線17に垂直な断面を示す。図において、実施の形態1と同一符号は同様、または相当部分を示す。端部連14a付近の室内機1の形状は、実施の形態1の図1〜図9に示すものと同様である。実施の形態1と同様、ファン延長部8aの衝突壁18に対向する部分の翼部である衝突壁対向翼部13aと吹出口3に対向する吹出口対向翼部13bで、異なる翼形状とし、特に実施の形態3では、翼断面で反り角βを異なるように構成している点が特徴である。翼13の回転軸線17に垂直な断面において、翼13の回転方向前方の圧力面19と回転方向後方の負圧面20の中央の点を、翼内周側端部Hから翼外周側端部Gに亘って結んだ線が反り線22である。この反り線22は略円弧形状をなす。そして、反り角βとは、円弧形状の反り線22の中心角(開き角度)である。例えば、衝突壁対向翼部13aの反り線22aは、翼内周側端部Haと翼外周側端部Gaを結ぶ円弧であり、この反り線22aを弧として形成される扇形Naの中心角が反り角βaである。一方、吹出口対向翼部13bの反り線22bは、翼内周側端部Hbと翼外周側端部Gbを結ぶ円弧であり、この反り線22bを弧として形成される扇形Nbの中心角が反り角βbである。
【0056】
ここで、衝突壁対向翼部13aの反り角βaと吹出口対向翼部13bの反り角βbを異なる角度とし、反り角βa<反り角βbとしている。例えば、衝突壁対向翼部13aの反り角βaを40°程度、吹出口対向翼部13bの反り角βbを45°程度とする。
【0057】
図22は端部連14aの1枚の翼を示す斜視図である。この構成例では、衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bとの間に遷移部13cを設け、1枚の翼を滑らかに変化する形状としている。例えば、異なる翼形状の境界部分Dを図11に示すような段差DGではなく、境界部分Dで回転軸線方向AXに所定の幅、例えば境界部分Dの左右方向に数mmずつの幅をとり、その幅を遷移部13cとして、左右方向および翼外径24方向に傾斜する直線や凹状の曲線や凸状の曲線で滑らかに接続する。
【0058】
図23は端部連14aの衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bによる気流を示す説明図である。反り角βの異なる翼部13a、13bによる気流Aa、Abを比較すると、翼部13a、13bが気流Aa、Abに与えるエネルギーが異なる。即ち、翼13の圧力面19で気流を押すことによって気流にエネルギーが与えられる際、実施の形態1で述べたように圧力面19の面積が大きいと、より大きなエネルギーが気流に与えられる。また、圧力面19のカーブ形状が急であると、気流の向きを圧力面19で大きく曲げることになり、より大きなエネルギーが気流に与えられる。図21に示すような形状の場合、衝突壁対向翼部13aの反り角βaは吹出口対向翼部13の反り角βaよりも小さく構成され、圧力面19aのカーブ形状が圧力面19bよりも緩やかな形状である。このため、反り角βbが大きい翼部13bよりも翼部13aが気流に与えるエネルギーが小さく、吹出し気流Aaの風速Vaが小さくなる。従って、衝突壁対向翼部13aの反り角βaを反り角βbよりも小さく構成すれば、吹出し気流Aaの風速Vaが吹出し気流Abの風速Vbよりも小さくなり、衝突壁18への衝突流が緩和され、淀み圧P1が高くなりすぎるのを抑制できる。
【0059】
ここで、衝突壁対向翼部13aの反り線22aと吹出口対向翼部13bの反り線22bを同じとした状態で、反り角βa<反り角βbとして形状を異なるように構成する場合には、圧力面19のカーブ形状は同じになるが、翼形状としては実施の形態1に記載したように翼弦線Mの長さを異なるように構成することと同等である。結果としては、反り角βの大きい方が圧力面19の面積が大きくなるので、やはり吹出し気流の風速は、反り角βaの小さい翼部13aからの吹出し気流Aaの風速Vaの方が、反り角βbの大きい翼部13bからの吹出し気流Abよりも小さくなる。
【0060】
特に、衝突壁対向翼部13aの反り角βaを決定する際、ファン8の最も回転数の低い運転モードの時に淀み圧P1が大気圧P0よりも若干高くなるような最小限のエネルギーを気流に与える形状にすればよい。淀み圧P1を大気圧P0より高くすることで、室内機1の外部から室内機1の内部に空気が流れる逆吸いを防止できる。さらに、逆吸いを防止する必要最小限の淀み圧P1を得ることで、衝突流によるエネルギー損失を抑制できる。さらに衝突壁18に衝突する風速が低減されるので、低騒音化できる。
【0061】
一方、衝突壁18に対向しない吹出口対向翼部13bの反り角βbを、衝突壁対向翼部13aの反り角βaよりも大きく構成したので、衝突壁対向翼部13aの圧力面19よりも急なカーブ形状となり、翼部13bが気流に与えるエネルギーが大きくなる。このため、翼13bの翼間を通って大きなエネルギーを与えられた吹出し気流Abは、風速Vaよりも大きな風速Vaで吹出口3に導かれる。吹出口3に対向する吹出口対向翼部13bで十分な風速Vb(風量)が得られることで、全体として高風量を実現でき、ファン性能を向上でき、低電力化を図ることができる。また、吹出口3の長手方向の一端から他端に至るまで十分な風速Vb(風量)の吹出し気流Abが得られることで、室内機1の外部から吹出口3を通って室内機1の内部に流入しようとする逆吸いを防止することができる。
【0062】
以上のように、本実施の形態によれば、翼13の回転軸線17に垂直な断面における、翼13の回転方向前方の圧力面19と回転方向後方の負圧面20との中央を反り線22とし、反り線22を弧として形成される扇形Nの中心角を反り角βとし、延長部8aの翼部13aの反り角βaを、吹出口3に対向する翼部13bの反り角βbよりも小さくすることにより、反り角βの大きさに応じて気流に与えるエネルギーが変化し、延長部8aの翼部13aは、吹出口3に対向する翼部13bから吹き出される吹出し気流Abの風速Vbよりも小さい吹出し気流Aaが得られる。吹出し気流Aaを衝突壁18に衝突させることで、衝突壁18の前面に大気圧P0より高い淀み圧P1を発生させ、室内機1の外部から吹出口3を通って室内機1の内部に室内空気が流入する逆吸いを防止できる効果がある。この逆吸いを防止することで気流の乱れを低減でき、空気調和機の冷房運転時の露飛びを防止できる。且つ、吹出口3から吹き出す気流Abの高風量を確保でき、ファン性能を向上できる。さらに、衝突壁18に向かう吹出し気流Aaの風速Vaを、吹出口3に向かう吹出し気流Abの風速よりも小さくできるので、気流が衝突壁18に衝突する際のエネルギー損失及び騒音を抑制できる空気調和機が得られる。
【0063】
ここで、衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bの反り角βa、βbを異なるように構成する際、翼外周側端部Ga、Gbの位置は同じとし、翼内周側端部Ha、Hbの位置を変化させて一枚の翼を構成したが、これに限るものではない。翼外周側端部Ga、Gbの位置を変化させてもよい。また、翼外周側端部Ga、Gbの位置と、翼内周側端部Ha、Hbの位置の両方を変化させてもよい。
【0064】
実施の形態2、実施の形態3において、衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bの間に遷移部13cを設ける構成について述べたが、実施の形態1における図11のように、遷移部13cを設けないような形状にしてもよい。ただし、貫流ファン8を構成する端部連14aの回転軸線方向AXで翼形状が異なる境界部分Dを遷移部13cとし、衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bの翼形状を傾斜した直線や凹形状や凸形状の曲線で滑らかに変化するように接続すれば、翼形状の異なる部分での渦の発生を防止して、エネルギー損失を低減できる効果がある。
【0065】
実施の形態1〜実施の形態3において、羽根車単体のうちの両端部連14aを構成する翼13の回転軸線方向AXで、衝突壁18と対向する部分の翼部13aの形状と吹出口3と対向する部分の翼部13bの形状の2種類の形状を有するものとしたが、これに限るものではない。衝突壁端面18aの位置に連と連の間の支持板12が位置するように構成してもよい。例えば、図24は本発明の実施の形態1〜実施の形態3に係り、貫流ファンの端部連の他の構成例を示す説明図である。この図24に示すように衝突壁18と対向するファン延長部8aを1つの端部連14aとして、この端部連14aの翼形状を、実施の形態1では翼弦線の短い翼13aで構成し、その隣の連14の翼形状を翼弦線の長い翼13bで構成してもよい。実施の形態2、実施の形態3の構成でも、同様のことが言える。
【0066】
また、回転軸線方向AXで、必ずしも衝突壁18に対向するファン延長部8a全体の翼形状を、吹出口3に対向する翼部13bから吹き出す吹出し気流Abよりも小さい風速が得られる構成にしなくてもよい。即ち、回転軸線方向AXで、衝突壁18と対向する翼13のうちの少なくともファン8の両端側、即ちファン端面8b側に近い翼部の形状を、吹出口対向翼部13bよりも小さな風速が得られる形状とすればよい。ファン端面8bと側壁30の間の空間Sが圧力の低い空間になるので、この空間Sに近い部分に、大気圧P0よりも高い淀み圧P1を発生させる構成であることが好ましい。このため、ファン延長部8aのうちの少なくともファンの両端部のそれぞれにおいて、ファン端面8b側に近い部分の翼13を衝突壁対向翼部13aとすれば、衝突壁対向翼部13aから吹き出される吹出し気流Aaが衝突壁18に衝突することで淀み圧P1が衝突領域E3に発生して、室内空気の逆吸いを防止できる効果がある。この逆吸いを防止することで気流の乱れを低減でき、空気調和機の冷房運転時の露飛びを防止でき、ファン性能の向上を図ることができる。
【0067】
また、回転軸線方向AXで、吹出口3に対向する翼部13の全長で、ファン延長部8aから吹き出される吹出し風速Vaよりも大きい風速が得られる翼形状としなくてもよい。即ち、図8の一方の衝突壁端面18aから他方の衝突壁端面18aに至る吹出口3に対向するファン8の翼部13の全てを、ファン延長部8aの翼部13aよりも大きい風速の気流が得られる翼形状にしなくてもよい。前述のように、衝突壁端面18aと翼形状の境界部をぴったりと一致させるのは組み立て公差等により困難である。少なくとも、ファン中央部8c(図8参照)を吹出口対向翼部13bの翼形状とすることで、ファン中央部8cから吹き出される吹出し気流の風速を高速に保つことができ、全体として風量を確保でき、ファン性能の向上を図ることができる。
【0068】
本発明では、ファン延長部8aからの吹出し気流が衝突する衝突壁18を空気調和機本体、即ち室内機1本体に設け、衝突壁18に気流を衝突させて淀み圧P1(>大気圧P0)を発生させる構成で、衝突壁18に対向する部分の翼部13aの形状と吹出口3に対向する部分の翼部13bの形状を異なるように構成した。例えば、実施の形態1では翼弦線Mの長さ、実施の形態2では出口角αの大きさ、実施の形態3では反り角βの大きさを異なるようにしたが、これに限るものではない。翼弦線Mの長さ、出口角αの大きさ、反り角βの大きさの、いずれか2つの形状を異なるようにしてもよいし、3つの形状を異なるようにしてもよい。衝突壁18に向かう吹出し気流Aaの風速Vaを、吹出口3に向かう吹出し気流Abの風速Vbよりも小さくなるように構成すればよい。衝突壁対向翼部13aでは、衝突流によって得られる淀み圧P1を大気圧P0より高くするような必要最小限の小さい風速が得られる翼形状とすることで、逆吸いを防止でき、さらに騒音を低減できると共にエネルギー損失を低減できる。これと同時に、吹出口対向翼部13bでは、吹出口3から吹き出す吹出し気流Abとして、衝突壁対向翼部13aの吹出し気流Aaの風速Vaよりも大きい風速Vbが得られる翼形状とすることで、ファン全体で高風量としてファン性能の向上を図り、低電力化を図ることができる空気調和機が得られる。
【0069】
また、衝突壁対向翼部13aと吹出口対向翼部13bの翼形状で、異なる風速の気流が得られる構成として、例えば翼厚を異なる厚さで構成してもよい。ここで、翼厚とは、回転軸線17に垂直な断面において、翼の圧力面19と負圧面20の幅である。即ち、衝突壁18と対向するファン延長部8aの翼13aの翼厚を、吹出口対向翼部13bの翼厚よりも薄い形状とする。翼厚の薄い翼間は翼厚の厚い翼間よりも風路が広い。このため、翼厚の薄い翼間を通った気流は、翼厚の厚い翼間を通った気流よりも速度が小さくなり、衝突壁対向翼部13aでは、吹出口対向翼部13bから吹き出される吹出し気流Abの風速Vbよりも小さい風速Vaの吹出し気流が得られる。この場合、翼内周側端部Hから翼外周側端部Gに至る翼形状全体で翼厚を異なるように構成しなくてもよい。少なくとも衝突壁18及び吹出口3に向かう気流に対して特に影響のある翼外周側端部G付近で、異なる翼厚とすれば、実施の形態1〜3と同様の効果が得られる。
【0070】
また、ファン8の衝突壁18と対向するファン延長部8aを1つの羽根車単体で構成し、その羽根車単体14aの翼の間隔を、ファン中央部8cに位置する羽根車単体14の翼13の間隔と異なるものとしてもよい。即ち、衝突壁18と対向するファン延長部8aの翼13aの間隔を、ファン中央部8cに位置する羽根車単体14の翼13の間隔よりも広くしてもよい。ファン延長部8aの翼13aの間隔を広くすることで翼間を流れる気流の速度は小さくなるので、衝突壁18と対向する衝突領域E3において、ファン中央部8cの翼13から吹き出される吹出し気流の風速よりも小さい風速の吹出し気流が得られる。
【0071】
また、ファン8の衝突壁18と対向するファン延長部8aを1つの羽根車単体で構成し、その羽根車単体14aの翼13aの枚数を、ファン中央部8cに位置する羽根車単体14の翼13の枚数よりも少なくしてもよい。ファン延長部8aの翼13aの枚数を少なくすることで、気流に与えるエネルギーがファン中央部8cよりも小さくなり、衝突壁18と対向する衝突領域E3において、ファン中央部8cの翼13から吹き出される吹出し気流の風速よりも小さい風速の吹出し気流が得られる。
いずれの場合も、ファン8の両端部に設けられたファン延長部8aではファン中央部8cの翼13から吹き出される吹出し気流の風速よりも小さい風速の吹出し気流を吹き出すことで、少なくとも衝突領域E3を大気圧P0よりも高い淀み圧P1の圧力雰囲気とする必要がある。
【0072】
以上のように、「翼形状を異なるように構成する」とは、ファンの回転軸線17に垂直な断面の形状である厚さ、翼弦線M、反り線、出口角α、反り角βなどを異なるように構成することに加えて、翼の間隔、翼枚数、翼の支持板への固定位置などを異なるように構成することも含んでいる。
【0073】
また、衝突壁18の形状は図6に限るものではない。ここでは、衝突壁18と翼の外周との間の距離をリアガイド10の上流側10aから下流側に亘ってほぼ同じ(図7における符号ア参照)としたが、これに限るものではない。リアガイド10の中央部分から下流側に向かって衝突壁18と翼外径24との間の距離が一様でなくてもよい。吹出口3の両端部付近の衝突壁18近傍で、大気圧P0より高い淀み圧P1を発生させる構成であれば、どのような形状でもよい。
また、衝突壁18はリアガイド10と一体的に、例えば樹脂成形されていてもよいし、リアガイド10と別体に構成して、リアガイド10の長手方向(回転軸線方向AX)の両端部に例えばはめ込むように取り付けてもよい。別体に構成すると、室内機1の容量などに応じて形状を変更したり、幅や厚みなどを変更する際に都合がよい。
【符号の説明】
【0074】
1 室内機(空気調和機)、 2 吸込みグリル、 3 吹出口、 4 風向ベーン、 5 電気集じん器、 6 フィルタ、 7 配管、 8 貫流ファン(羽根車)、 8a ファン延長部、 8b ファン端面、 8c ファン中央部、 9 スタビライザー、 10 リアガイド、 11 吹出風路、 12 支持板、 13 翼、 13a 衝突壁対向翼部、 13b 吹出口対向翼部、 13c 遷移部、 14 連(羽根車単体)、 14a 端部連、 15 ファンボス、 16 モータ、 17 回転軸線、 18 衝突壁、 18a 衝突壁端面、 19 圧力面、 20 負圧面、 21 反り線、 22 反り線、 24 翼外径、 25 翼内径、 30 側壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気調和機本体の上部に設けられ室内空気を吸い込む吸込口と、この吸込口から吸い込まれた前記室内空気と熱交換する熱交換器と、前記空気調和機本体の下部に該空気調和機本体の左右方向に長手方向を伸ばすように設けられ、前記熱交換器にて熱交換された前記室内空気を室内へ吹き出す吹出口と、前記熱交換器と前記吹出口の間に前記空気調和機本体の左右方向を回転軸線方向とするように設けられ、前記吸込口から前記吹出口へ前記室内空気を送風する貫流ファンと、を備え、
前記貫流ファンは、環状の支持板の外周に沿って設けられる複数の翼を有する羽根車単体を前記回転軸線方向に複数固着されてなり、
前記貫流ファンの前記回転軸線方向の長さは前記吹出口の長手方向の長さよりも長く、前記貫流ファンが前記吹出口の前記長手方向の両端から前記回転軸線方向に延長する延長部を有すると共に、前記空気調和機本体に設けられ、前記貫流ファンの前記延長部から吹き出される吹出し気流が衝突する衝突壁を具備するものであって、
前記貫流ファンの前記回転軸線方向で、前記延長部の翼は、前記吹出口に対向する翼の翼形状と異なり、前記吹出口に対向する翼から吹き出される吹出し気流よりも風速の小さい吹出し気流が得られる翼形状であることを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記翼の前記回転軸線に垂直な断面における、翼外周側端部と翼内周側端部とを結ぶ線分を翼弦線Mとし、前記延長部の翼の翼弦線Maの長さが、前記吹出口に対向する翼の翼弦線Mbの長さよりも短いことを特徴とする請求項1記載の空気調和機。
【請求項3】
前記翼の前記回転軸線に垂直な断面における、翼外周側端部の回転による軌跡を翼外径とし、前記翼の回転方向前方の圧力面と回転方向後方の負圧面との中央を反り線とし、前記翼外径と前記反り線との交点における前記翼外径の接線と前記反り線の接線とのなす角度を出口角αとし、前記延長部の翼の出口角αaが、前記吹出口に対向する翼の出口角αbよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の空気調和機。
【請求項4】
前記翼の前記回転軸線に垂直な断面における、前記翼の回転方向前方の圧力面と回転方向後方の負圧面との中央を反り線とし、前記反り線を弧として形成される扇形の中心角を反り角βとし、前記延長部の翼の反り角βaが、前記吹出口に対向する翼の反り角βbよりも小さいことを特徴とする請求項1記載の空気調和機。
【請求項5】
前記羽根車単体の前記回転軸線方向で翼形状が異なる境界部分は、前記翼形状が滑らかに変化することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−255628(P2012−255628A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130031(P2011−130031)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】