説明

空気調和機

【課題】本発明は、ボス部と駆動モータ回転軸とを固定する固定用ビスの締結用冶具を挿入するための空隙を有する貫流ファンを備えた空気調和機において、風速分布を改善した空気調和機を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の空気調和機は、空気吸込口及び空気吹出口を有する筐体と、空気吸込口から吸込む室内空気を熱交換する熱交換器と、熱交換器の下流側に位置し熱交換器と熱交換した室内空気を空気吹出口から吹出す貫流ファンと、貫流ファンの一端側に配置され貫流ファンを駆動する駆動装置と、を備え、貫流ファンは周方向に配列される複数の翼と複数の翼により形成される複数の空隙とを有し、複数の空隙は貫流ファンを駆動装置に接続するための接続空隙を有し、接続空隙は他の空隙よりも広く形成され、接続空隙を形成する翼の翼弦長が他の翼の翼弦長よりも長く形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貫流ファンを備えた空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
低騒音で吹出した風を一様な流れに乗せて空調空間の遠方まで届けるため、一般に、家庭用空気調和機においては、送風ファンとして貫流ファンが用いられる。貫流ファンの軸方向には隣り合うように貫流ファンを回転させるためのファンモータが配置される。
【0003】
特許文献1では、ボス部の固定用ビスに対向する数枚の翼の軸方向の長さを縮めて、翼の縮めた端部に補助支持板を配置することにより、ボス部と駆動モータ回転軸とを固定する固定用ビスの締結用冶具(ドライバー等)を挿入するため空隙が形成される。
【0004】
特許文献1では、外ボスタイプの貫流ファンに比べ風量は増加するが、翼が省かれた位置で局所的に逆流を起こす。従って、この空隙近傍では風速変動が大きくなり、騒音の増大や効率の低下を招く。また、支持板に大きな切欠きを形成するので、この切欠きから支持板の外側に吹出し空気の一部が回り込み、冷房時などに露付を生じる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−205178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ボス部と駆動モータ回転軸とを固定する固定用ビスの締結用冶具を挿入するための空隙を有する貫流ファンを備えた空気調和機において、風速分布を改善した空気調和機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の空気調和機は、空気吸込口及び空気吹出口を有する筐体と、空気吸込口から吸込む室内空気を熱交換する熱交換器と、熱交換器の下流側に位置し熱交換器と熱交換した室内空気を空気吹出口から吹出す貫流ファンと、貫流ファンの一端側に配置され貫流ファンを駆動する駆動装置と、を備え、貫流ファンは周方向に配列される複数の翼と複数の翼により形成される複数の空隙とを有し、複数の空隙は貫流ファンを駆動装置に接続するための接続空隙を有し、接続空隙は他の空隙よりも広く形成され、接続空隙を形成する翼の翼弦長が他の翼の翼弦長よりも長く形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ボス部と駆動モータ回転軸とを固定する固定用ビスの締結用冶具を挿入するため空隙を有する貫流ファンを備えた空気調和機において、この空隙を形成する翼の翼弦長が他の翼の翼弦長よりも大きく形成するので、この空隙近傍の風速分布が改善し、従って貫流ファン全体の風速分布を改善した空気調和機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】貫流ファンの正面図。
【図2】貫流ファンの構成図。
【図3】貫流ファンの支軸側から見た分解斜視図。
【図4】貫流ファンのボス部拡大図。
【図5】図4のB−B断面。
【図6】ボス固定工具用の空隙部拡大図。
【図7】図6のC−C断面。
【図8】図6のD−D断面。
【図9】貫流ファンの翼C、翼D先端の拡大図。
【図10】貫流ファンのボス側から見た分解斜視図。
【図11】空気調和機に組込んだ貫流ファンと送風モータの透視図。
【図12】貫流ファンを空気調和機に組込んだ断面図。
【図13】風速分布の改善効果を示す図。
【図14】静圧特性の改善効果を示す図。
【図15】静圧特性の改善効果を示す図。
【図16】送風モータ消費電力の改善効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。まず、本発明の貫流ファンについて図1〜図4、図6〜図11を用いて説明する。図1は貫流ファンの正面図である。図2は貫流ファンの構成図である。図1、図2では説明を判り易くするため、ボス部周辺の翼の一部の図示を省略し、内部のボス部を図示する。図3は貫流ファンの支軸側から見た分解斜視図である。図4(a)は貫流ファンのボス部拡大図、(b)はボス側の支え円板を破断した空隙部の図である。図6はボス固定工具用の空隙部拡大図である。図7は図6のC−C断面である。図8は図6のD−D断面である。図9は貫流ファンの翼C、翼D先端の拡大図である。図10は貫流ファンのボス側から見た分解斜視図である。図11は空気調和機に組込んだ貫流ファンと送風モータの透視図である。
【0011】
図1において、貫流ファン311の両端には円形のボス付き支え円板316b、支軸付き支え円板316cが位置する。支え円板316b、316cの間には、複数枚の円形の中空支え円板316aが間隔を空けて位置する。これらの支え円板316a、316b、316cは、それぞれの中心がファン中心軸L上に位置するように互いに平行に配置される。
【0012】
支え円板316の間には、支え円板316の円周方向に配列される複数の翼314が配置される。図3に示すように、これらの翼314は、貫流ファンの回転方向の面が凹状に湾曲し、貫流ファンの回転方向と反対の面が凸状に湾曲するいわゆる翼型の形状を有する。また、翼314はファン中心軸Lに対して略平行に形成される。
【0013】
図2の317aはボス部のない単翼車である(ボス無し単翼車317a)。ボス無し単翼車317aは、中空支え円板316aの一方の面に翼A314aが配置され、他方の面に隣接するボス無し単翼車317aの翼A314aの先端が嵌り込む連結穴318a(図10参照)を有する。中空支え円板316aは、翼314aを保持すると共に、単翼車を複数連結した貫流ファン311全体の強度を高める。
【0014】
図2に示すように、支軸付き支え円板316cの外側面の中心からは支軸326が外側に延びており、この支軸326は図11に示すように軸受231により空調機器の筐体20に支持される。支軸付き支え円板316cの内側面には、中空支え円板316aと同様に、隣接するボス無し単翼車317aの翼A314aの先端が嵌まり込む連結穴318c(図10参照)を有する。
【0015】
図3、図4に示すように、ボス付き支え円板316bの内側面(翼B314b、翼C314c、翼D314d等が立設する面)は、送風モータ313のモータ軸313aに貫流ファン311を固定するためのボス322を有する。ボス322には、モータ軸313aとボス322を固定するためのねじ323が、ファン中心軸Lに対し垂直に設けられる。ボス322を介して貫流ファン311が、送風モータ313(図11参照)によって回転駆動されると、貫流ファン311が回転して風が発生する。
【0016】
図4に示すように、貫流ファン311のボス322は、送風モータ313側のボス付き支え円板316bの内側に設けられる。従って、ボス322とモータ軸313aとを固定するためのねじ323を締めるための固定工具用空隙321を形成するため、ボス付き支え円板316bとこれに隣接する中空支え円板316aとの間に複数枚渡される翼314のうち1〜2枚の翼314を省く等により、固定工具用空隙321が形成される。固定工具用空隙321は貫流ファンの翼314により形成される他の空隙よりも広い(固定工具用空隙321を対向して配置された翼314の翼間は、他の空隙を形成する翼314の翼間よりも広い。)。
【0017】
しかし、このように、ボス322のねじ323を締め付ける固定工具用の空隙321を形成するために他の空隙よりも広くしたり、単純にそこにあるべき翼314を省いてしまうと、貫流ファン311の風速分布が低下する。
【0018】
このような固定工具用の空隙321による風速分布の低下を抑制させるため、図6に示すように、固定工具用の空隙321を形成し固定工具用の空隙321を挟んで対向する翼C314c、翼D314dの翼弦長を、他の翼B314bの翼弦長よりも大きくした。一例として、固定工具用の空隙321を挟んで対向する翼C314c、翼D314dを、他の翼B314bよりも、内側に突出させた。また、貫流ファンの軸中心から、翼C314c、翼D314dを、他の翼B314b等を含む全ての翼の外周側端部までの距離は等距離とする。
【0019】
翼C314c、翼D314dは、翼Bの内径円Rb(他の翼B314bの内側端部を結ぶ線により形成される円)より外側の部分は翼Bと同形状とすることができる。ボス部と駆動モータ回転軸とを固定する固定用ビスの締結用冶具を挿入するため固定工具用の空隙321を有する貫流ファンを備えた空気調和機において、固定工具用の空隙321を形成する翼の翼弦長が他の翼の翼弦長よりも大きく形成するので、固定工具用の空隙321による送風性能の低減を抑制できるので、固定工具用の空隙321の風速分布が改善し、従って貫流ファン全体の風速分布を改善した空気調和機を提供することができる。風速分布を改善することにより、同一の風量を得るために必要な圧縮機の回転数が減少し、更に貫流ファンにおける騒音も下がる。また、除去した翼の質量の分だけ貫流ファンのアンバランスが増加するが、翼弦長を長くしたことで、アンバランスの量が減少し、アンバランスが抑制される。
【0020】
翼C314c、翼D314dは、翼Bの内径円Rb(他の翼B314bの内側端部を結ぶ線により形成される円)より外側の部分は翼Bと同形状とし、内側に突出した部分の中心線の曲率を翼Bの内径円Rbの位置での曲率より大きくして、緩やかに、ボス322に向かって伸びるように形成する。ボス付き単翼車317bの翼C314c、翼D314dの延長部314c′、314d′を除いた部分の配列位置を、ボス無し単翼車317aの翼A314aの配列位置と同様の配置とする(つまり、貫流ファンは、貫流ファンの一端側に接続空隙を備えないボス付き単翼車を配置し、貫流ファンの一端側から他端側に向かって、ボス付き単翼車から接続空間を備えない複数のボス無し単翼車を順次連結して構成され、接続空隙を形成する翼以外のボス付き単翼車を構成する翼は対応するボス無し単翼車の翼と同様に配列され、ボス無し単翼車の翼は対応する他の何れのボス無し単翼車の翼とも同様に配列される。)。このように、固定工具用の空隙321を挟んで対向する翼C314c、翼D314dを形成することで、ボス付き単翼車317bとボス無し単翼車317aの連結部での局所的な風の流れが、空隙部321の近傍を除いて、ボス無し単翼車317a同士の連結部での局所的な風の流れとほぼ同一となり、ボス無し単翼車317a同士を連結した場合の送風特性、連結構造の検討結果の大半を援用できる。このため、ボス付き単翼車317bで検討が必要な部分は空隙321を挟む翼C314c、翼D314dの延長部314c′、314d′の長さを含めた形状だけとなり、検討事項を大幅に省略して、開発期間を短縮することができる。
【0021】
翼C314c、翼D314dが隣接する単翼車317aの中空支え円板316aに接する部分は翼A314aと同形状とし、図7、図9に示すように、翼先端段差f′を設け、翼C314c、翼D314dで翼弦長を延長する部分は翼C314c、翼D314dの根元から翼先端段差f′の手前までの間とする。
【0022】
ボス無し単翼車317aの中空支え円板316aは、前述したように、隣接するボス無し単翼車317aの翼A314aの先端が嵌まり込むため、図8に示すように、深さfで、翼A314aの翼型形状に合わせた連結穴318aを有する。連結穴318aの翼型中心線に沿った長さeは、翼A314aの先端部での翼型中心線の長さをe′としたとき、e≧e′である。翼B314bは翼A314aと同形状であり、翼B314bも翼A314aと同様、図8に示すように、中空支え円板316aの連結穴318aに嵌まり込む。また、翼C、翼Dの延長部314c′、314d′を除いた部分は翼Bと同じ翼型であり、段差部で翼型中心線に沿った長さe′は翼B314bと同様に、図7に示すように、e≧e′となる。
【0023】
翼C314c、翼D314dの翼先端段差f′は、翼A314aを隣接するボス無し単翼車317aに連結する際に(ボス無し単翼車317aの中空支え円板316aの翼A314aと反対側の面に設けた連結穴318aに翼C314c、翼D314dの先端が嵌まり込む際に)、翼C314c、翼D314dの延長部314c′、314d′が邪魔にならないように設けたものである。翼C314c、翼D314dの翼先端段差f′はf′≧fとする。
【0024】
このように構成することで、ボス付き単翼車317bに隣接する単翼車を含めて、ボス付き単翼車317b以外の単翼車をボス無し単翼車317aに統一できるので、単翼車の成形型の種類をボス無し単翼車317aの成形型とボス付き単翼車の成形型の2種類で済みむので、成形型の種類の増加を抑制できる。
【0025】
なお、ボス付き単翼車317bの軸方向の寸法を、ボス無し単翼車317aの軸方向の寸法と異なるようにしてもよい。熱交換器33の横幅が変更になった場合であっても、軸方向の寸法を増減させたボス付き単翼車317bの成形型を用意するだけで、適切な長さの貫流ファン311を構成することができる。
【0026】
また、実施例の貫流ファンは、支え円板の外周寄りの一面に、周方向に多数の翼を配列してなる単翼車を、軸方向に複数個連結し連結して構成する。この貫流ファンの一端を構成する単翼車は貫流ファンの駆動装置の軸に貫流ファンを固定するボスを備え、貫流ファンの他端を構成する単翼車は支軸を備える備え、該ボス側端の単翼車を請求項1乃至請求項3の貫流ファンとする。
【0027】
これにより、翼幅の短い単翼車を複数個重ねて、所要の長さの貫流ファンとするので、個々の単翼車の翼幅は小さくて済み、コスト的に有利なプラスチックス製にすることができる。この場合、プラスチックスを使用しての射出成形でも、成形型の抜き勾配の所為で生ずる、支え円板に立てる翼の付け根と先端の翼弦長の差が、翼幅が短くなったことで小さくなって、送風性能に及ぼす悪影響が減少する。
【0028】
また、ボス付き単翼車と隣接するボス無し単翼車との性能差が減少し、ボス付き単翼車部の空気吹出口の風速が増し、風速分布が改善して、使用者の不満を和らげることができる。また、プラスチックスを使用することで翼の中央部に厚みを持たせた翼形を採用することによって騒音などの送風性能がアップする。
【0029】
また、実施例の貫流ファンは、ボス付き単翼車の翼間を、隣接する単翼車の翼間とボス部固定工具用の空隙部に相当する部分を除いて同一とする。プラスチックス製の貫流ファンでは、両端を除いた中央部の単翼車を全く同一形状の単翼車とすることで、成形型の種類を削減し、初期費用を抑制することができる。このとき、隣接する単翼車同士の連結部には翼形状に合わせた凹部を支え円板に形成する等して、重ねただけで位置が確定するようにする。ボス付き単翼車の翼列ピッチ角を、隣接する単翼車の翼列ピッチ角とボス部固定工具用の空隙部に相当する部分を除いて同一とするので、隣接するボス無し単翼車の支え円板に、ボス無し単翼車同士の連結に用いる翼形状に合わせた凹部を設けることで、ボス付き単翼車を隣接する単翼車に重ねただけで位置を確定することができる。
【0030】
このように、ボス付き単翼車に隣接するボス無し単翼車として他のボス無し単翼車と同一の単翼車を使用でき、他のボス無し単翼車と異なる連結凹部を持った単翼車を別に作る必要が無い。従って、成形型の種類を増加させず、製作の初期費用を低減することができ、また、部品の種類も増えないので、製作時の管理コストも低減することができる。
【0031】
また、ボス付き単翼車の最大翼間を構成する翼の隣接するボス無し単翼車との連結部形状を、隣接するボス無し単翼車の相当部分と同一とする。これにより、隣接するボス無し単翼車の支え円板に、ボス無し単翼車同士の連結に用いる翼形状に合わせた凹部を設け、その中のボス付き単翼車の翼が入る凹部にボス付き単翼車を重ねて融着や接着などの方法で連結する。このとき、翼弦長を延長した部分は隣接するボス無し単翼車の支え円板に僅かな隙間で近接するのみとなるが、隣接する単翼車との連結強度は上記の連結部で充分確保できるので、この部分を融着や接着する必要はない。このように、ボス無し単翼車の種類が一種類で済むので、成形型の種類を増加させずにすみ、製作の初期費用を低減することができる。また、部品の種類も増えないので、製作時の管理コストも低減することができる。
【0032】
次に、翼C、翼Dの延長部について図5〜図7、図9を用いて説明する。図5は図4のB−B断面である。
【0033】
一般に、貫流ファンを運転するときには、貫流ファンのアンバランスに注意が必要である。アンバランスは構造上や製造上の様々なことが原因で生じ、アンバランスが大きいと、振動や騒音の増加につながり、貫流ファンを組込んだ製品の品質を損なう。このため、貫流ファンの翼にバランスウェイトを取り付け、アンバランスを小さくする。この場合、元々のアンバランスの量が大きいと、取り付けるバランスウェイトの個数が増え、アンバランス除去作業の作業量が増加する。このため、元々のアンバランスの量を小さくしておくことが重要である。
【0034】
翼C314cの延長長さを5mm、10mm、20mmに変化させて、図11の空気調和機に組込み、ボス付き単翼車317bを通った空気が吹出す位置(風速比較位置F:図11参照)での風速を比較した。その結果、延長長さ10mmの場合に風速の改善が良好であった。
【0035】
図5に示すように、翼C、翼Dに延長部314c′、314d′を設けたことにより、翼C、翼Dの翼弦長gc、gdは翼Bの翼弦長gbより大きくなる。この時、延長部314c′、314d′の質量によるモーメント分、アンバランス量が改善される。これを実施例の貫流ファン(外径(貫流ファンの中心軸から翼の外径側端部までの距離×2)Do=110mm、内径(貫流ファンの中心軸から翼の内径側端部までの距離×2)Db=83.5mm、内外径差Do−Db=26.5、翼弦長gb=15.7mm、翼数34枚)で試算すると、ボス固定工具用空隙321を設けるために、単に1枚の翼を除去したときのアンバランスの量の80%を、翼C、翼Dの延長部314c′、314d′でキャンセルできる。なお、このときの翼C、翼Dの内径Dc、Ddは63.5mm、内外径差Do−Dcは46.5mmとなり、これは当初の内外径差の1.8倍である。更なる試算によれば、当初の内外径差の2倍まで延長部を伸ばすと(翼C、翼Dの内径Dc、Dd=57mm、内外径差=53mm)、上記のアンバランス量をほぼ100%キャンセルできることが判った。
【0036】
一般的に、空調機器用の貫流ファンの形状は、負荷の特性、必要とされる性能に合わせて、相似則からの類推で、外径、長さ等の主要な諸元が決定される。従って、外径側羽根角度、内径側羽根角度、内外径比等は類似する。このため、上述の延長部314c′、314d′の長さと内外径差との関連も同様になる。
【0037】
実施例では、翼C、翼Dの延長部314c′、314d′の中心線の翼C、翼Dの内径円Rc、Rd側を直線とし、翼Bの内径円Rbのところで翼Bの翼型の中心線と滑らかにつないだ。また、この内径円Rc、Rd側の直線を貫流ファン311の軸心に向かう直線とした。これは、翼内径端から気流の出入りがあるため、双方向の気流に配慮したためである。
【0038】
このようにすることで、また、貫流ファンのボスを固定するための固定工具用空隙を確保することができる。なお、固定工具用空隙に凸面を向ける翼C314cでは、この直線の方向を貫流ファンの軸心よりも遠いところで交わるように、または、まったく交わらないようにすると固定工具用空隙の広さをより確実に確保することができる。
【0039】
また、翼C、翼Dの延長部314c′、314d′の肉厚を貫流ファンの軸心に向かって、一定な部分と、一様に減少する部分とを組合わせる。このように、肉厚を単調に減少させることで、翼C、翼D314c、314dは翼型の基本である中間に最大翼厚部を持ち、前方及び後方に向かって単調に減少する形状を保持することができる。このようにすることで、翼C、翼Dの延長部314c′、314d′の延長部に平坦な平面部が生まれ、連続した曲面で構成されたものに較べて、成形型の製作が単純化される。
【0040】
更に、翼C、翼Dの延長部314c′、314d′の延長寸法を翼の付根で最大とし、翼の先端段差位置Sで最小にして、その中間では単調に減少するようにする。これにより、隣接する単翼車の翼と接近する部分では延長部分の寸法が小さくなって、隣接する単翼車の翼との寸法差が減少し、貫流ファンの翼車内の気流の乱れが緩和され、騒音の発生などが抑制される。
【0041】
このように、最大翼間を形成する翼の内径を他の翼の内径より小さくして翼弦長を増加させて、最大翼間を形成する翼の内外径差は他の翼の内外径差の2倍以下とする(つまり、{(貫流ファンの中心軸から接続空隙を形成する翼の外側端部までの距離)−(貫流ファンの中心軸から接続空隙を形成する翼の内側端部までの距離)}≦2×{(貫流ファンの中心軸から他の翼の外側端部までの距離)−(貫流ファンの中心軸から他の翼の内側端部までの距離)}の関係とする。)。これにより、貫流ファンの外径が維持され、貫流ファンを組込む電気機器の大型化を回避できる。内径を小さくするとファン特性が改善する。一方、翼の内外径差が他の翼の内外径差の2倍を越えると、内径を小さくしたことによる回転モーメントの増加が除去した翼の回転モーメントと同等となるが、内径を小さくしたことによって貫流ファンの内部渦が不安定になるなど悪影響が生じる。従って、内外径差を2倍以下にするのが好ましい。内外径差が2倍以下の場合でも、空隙を確保するために翼を除去したことによるアンバランスの量の80%程度は改善できる。
【0042】
また、接続空隙を形成する翼は接続空隙と貫流ファンの中心軸とを結ぶ線上に位置しない。具体的には、空隙に凸面を向けて空隙を構成する翼の内径に向かう延長部中心線の延長線は空隙部と回転中心の間を横切らないように構成する。これにより、内周側の入口角を90°近傍に設定して、貫流ファンの特性の劣化を抑制すると共に、翼の延長部が空隙部からのボス固定用工具の挿脱の妨げになることがない。
【0043】
また、最大翼間を形成する翼の他の翼の内径より小さくした部分に、平坦な翼面を有する。これにより、翼車をプラスチックスで製作する場合の成形型の製作が簡単になり、型費用を節減できる。特に、この部の肉厚を、最大翼間を形成する翼の他の翼の内径より大きい部分の最大肉厚以下で且つ最大肉厚の50%以上とすると、成形が容易で翼の強度も充分な貫流ファンを得ることができる。また、平坦部を設けることで、翼の内径側の羽角度を大略90度にすることができ、貫流ファンとしての基本構造を崩すことがないので、安定した性能を得ることができる。
【0044】
また、最大翼間を構成する翼の翼弦長をボス側から隣接単翼車に向かうに連れ、単調に減少させる。これにより、ボス部が存在することで劣化が著しいボス付き単翼車の翼の付け根部分のファン特性を改善でき、また、隣接する単翼車との境界部分に生ずる翼の内径寸法の激変を緩和し、ファン内気流の乱れを抑制することができる。
【0045】
ここで、本発明の貫流ファンを家庭用の空気調和機に用いた場合について、図11〜図12を用いて説明する。空気調和機に組込んだ貫流ファンと送風モータの透視図、図12は貫流ファンを空気調和機に組込んだ断面図である。
【0046】
空気調和機の室内機2は、筐体本体21の中央部に位置する室内熱交換器33と、熱交換器33の下流側に位置する貫流ファン311と、室内熱交換器33下端の下方に位置する露受皿35等を備え、筐体本体21の被空調空間に面して化粧パネル25を有する。この化粧パネル25は、室内空気を吸い込む空気吸込口27、27′と、温湿度が調和された空気を吹出す空気吹出口29とを有する。吸込パネル251は、化粧パネル25に設けた回動軸を支点として開閉アームをアーム駆動装置で駆動することにより回動され、空気調和機の運転時に空気吸込口27′を開く。これにより、運転時には空気吸込口27、27′から室内機2内に室内空気が吸引される。一方、上下風向板291は、両端部に設けた回動軸を支点にして、駆動モータにより空気調和機の運転時に所要の角度回動して空気吹出口29を開き、その状態に保持する。貫流ファン311からの吹出気流を貫流ファン311の長さに略等しい幅を持つ吹出風路290に流し、吹出口29に配した上下風向板291で気流の上下方向を偏向して、熱交換された空気を室内に吹き出す。
【0047】
本発明の貫流ファンを図12の空気調和機の室内機に組込んで運転した結果について、図11、図13〜図16を用いて説明する。図13は風速分布の改善効果である。図14は静圧特性の改善効果1を示す図である。図15は静圧特性の改善効果2を示す図である。図16は送風モータ消費電力の改善効果を示す図である。
【0048】
本発明の貫流ファン311及び従来の貫流ファンを図11、図12の空気調和機の室内機に組込み、空気吹出口29の風速比較位置A〜G(図11参照)で風速を比較した。本発明の貫流ファンと従来の貫流ファンとの違いは、ボス付き単翼車の最大翼間を挟んだ翼を内径側に10mm延長した点であり、他の部分は同一である。
【0049】
ボス付き単翼車の位置での風速に注目すると、図13に示すように、最右端の比較位置Gでは貫流ファンから吹き出た気流は、貫流ファンの長さと略等しい吹出風路290を流れるが、途中で吹出風路が大きく貫流ファンの軸方向外側に拡がるため、気流が横方向に膨らむ影響で、本発明の貫流ファンと従来の貫流ファンとで吹出し風速の違いはほとんど無い。他方、ボス付き単翼車の軸方向のほぼ中央部となる比較位置Fでは、風速の大きいところ(図13の黒丸と白丸)での差はほとんど無いが、気流の抵抗が大きくなって風速が小さくなったところ(図13の黒三角と白三角)では、従来の延長無しファンの風速1.8m/sに対して、実施例の延長10mmファンの風速は2.2m/sと大幅に改善された。
【0050】
一般に、快適性と省エネを両立させるためには、設定温度の近傍で、熱負荷に見合った低能力で、圧縮機を連続運転させることが重要なポイントである。現在、インバータ制御によって低能力での連続運転が行われている。この場合、低能力、低消費電力での運転時間が長くなるので、低能力時の低消費電力化が省エネに大きく貢献する。図13の結果によれば、特に風速の小さいところで空気吹出口29の風速分布が改善された。これは、低能力時に対応した低風量で運転するときの送風モータの消費電力の低減につながる。従って、省エネ、低騒音化に直結する効果が期待できる。
【0051】
次に、実施例の貫流ファンの静圧特性の改善効果について図14、図15を用いて説明する。静圧を比較した結果を図14に示す。前述の風速を比較した点に近い部分(つまり、空気調和機に組込んだ時の作動点に近い部分)で同一の静圧を示す風量が増加した。これは、言い換えれば、同一の風量、静圧を得るために必要な貫流ファンの回転数を下げることができるということである。貫流ファンの回転数を下げた分、消費電力が下がるので、省エネになる。また、騒音も下げることができる。
【0052】
図15は回転数を下げたときの結果である。この場合、空気調和機に組込んだときの作動点は、上述の回転数1106/minのデータから推定して、5m3/min、3Pa前後と考えられる。この値の近くでは上述と同様に、同一の静圧を示す風量が増加した。これにより、同一の風量、静圧を得るための送風モータの回転数を下げて、省エネ、低騒音化を図ることができる。
【0053】
次に、実施例の送風モータの消費電力の改善効果について図16を用いて説明する。送風モータの消費電力を比較した結果を図16に示す。この場合、風量の多いところでは、消費電力の差は認められないが、風量の少ないところでは、0.1W程度の消費電力の差が認められる。0.1W程度の消費電力の低減でも、前述したように、低能力、低風量での運転時間が長いので、大きな省エネ効果となる。このように、本発明の貫流ファンを空調機器に使用すると、吹出口の風速分布を改善し、省エネに寄与することができる。
【符号の説明】
【0054】
231 軸受
311 貫流ファン
313 送風モータ
313a モータ軸
314 翼
314a 翼A
314b 翼B
314c 翼C
314c′ 翼Cの延長部
314d 翼D
314d′ 翼Dの延長部
316 支え円板
316a 中空支え円板
316b ボス付き支え円板
316c 支軸付き支え円板
317 単翼車
317a ボス無し単翼車
317b ボス付き単翼車
318a 中空支え円板の連結穴
318c 支軸付き支え円板の連結穴
321 固定工具用空隙
322 ボス
323 ねじ
326 支軸
A〜G 風速比較位置
Da〜Dd 翼A〜翼Dの内径
Do 翼A〜翼Dの外径
Ga〜Gd 翼A〜翼Dの翼弦長
L ファン中心軸
R 回転方向
Ra〜Rd 翼A〜翼Dの内径円
S 先端段差位置
e 支え円板連結穴翼型中心線長さ
e′ 翼先端段差位置での翼型中心線長さ
f 支え円板連結穴深さ
f′ 翼先端段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気吸込口及び空気吹出口を有する筐体と、
前記空気吸込口から吸込む室内空気を熱交換する熱交換器と、
前記熱交換器の下流側に位置し、前記熱交換器と熱交換した室内空気を前記空気吹出口から吹出す貫流ファンと、
前記貫流ファンの一端側に配置され、前記貫流ファンを駆動する駆動装置と、を備え、
前記貫流ファンは、周方向に配列される複数の翼と、前記複数の翼により形成される複数の空隙と、を有し、
複数の前記空隙は前記貫流ファンを前記駆動装置に接続するための接続空隙を有し、
前記接続空隙は他の前記空隙よりも広く形成され、
前記接続空隙を形成する前記翼の翼弦長が他の前記翼の翼弦長よりも長く形成される空気調和機。
【請求項2】
請求項1において、前記接続空隙を形成する翼は、他の翼よりも、内周側に突出する空気調和機。
【請求項3】
請求項2において、前記貫流ファンの軸中心から、前記接続空隙を形成する前記翼及び複数の前記翼の外周側端部までの距離は等距離である空気調和機。
【請求項4】
請求項3において、{(前記貫流ファンの中心軸から前記接続空隙を形成する前記翼の外側端部までの距離)−(前記貫流ファンの中心軸から前記接続空隙を形成する前記翼の内側端部までの距離)}≦2×{(前記貫流ファンの中心軸から他の前記翼の外側端部までの距離)−(前記貫流ファンの中心軸から他の前記翼の内側端部までの距離)}の条件を満たす空気調和機。
【請求項5】
請求項3において、前記接続空隙を形成する前記翼は、前記接続空隙と前記貫流ファンの中心軸とを結ぶ線上に位置しない空気調和機。
【請求項6】
請求項3において、前記接続空隙を形成する翼のうち他の翼よりも内周側に突出する部分は平坦な翼面を有する空気調和機。
【請求項7】
請求項3において、前記貫流ファンは、前記貫流ファンの一端側に前記接続空隙を備えないボス付き単翼車を配置し、前記貫流ファンの一端側から他端側に向かって、前記ボス付き単翼車から前記接続空間を備えない複数のボス無し単翼車を順次連結して構成され、
前記駆動装置が配置される貫流ファンの一端側から、前記貫流ファンの他端側に向かい、前記接続空隙を形成する前記翼の翼弦長は短く形成される空気調和機。
【請求項8】
請求項3において、前記貫流ファンは、前記貫流ファンの一端側に前記接続空隙を備えないボス付き単翼車を配置し、前記貫流ファンの一端側から他端側に向かって、前記ボス付き単翼車から前記接続空間を備えない複数のボス無し単翼車を順次連結して構成され、
前記接続空隙を形成する前記翼以外の前記ボス付き単翼車を構成する翼は、対応する前記ボス無し単翼車の翼と同様に配列され、
前記ボス無し単翼車の翼は、対応する他の何れの前記ボス無し単翼車の翼とも同様に配列される空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−79617(P2013−79617A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220612(P2011−220612)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】