説明

空気透過性・防水性2層フィルム

【課題】防水性、蒸気透過性及び気体透過性のシート材及び製造方法を提供する。
【解決手段】シート材14は、防水性のミクロ孔質層10とミクロ孔質層10に付着した熱可塑性層12とを含む。熱可塑性層12は蒸気透過性及び空気透過性である。ミクロ孔質層10が少なくとも部分的に熱可塑性層12と一体化されて領域16、即ちミクロ孔質層10が水滴を通過させてしまう原因となる化学物質がシート材14上に存在しても、水蒸気及び空気の通過を許すが水滴の通過を阻止する領域16を形成する。
【効果】領域16は、ミクロ孔質層10の少なくとも防水特性への化学物質の妨害を防ぐとともに2層10、12の剥離を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にシート材又はフィルム、特に耐水浸透性、水蒸気透過性、空気透過性及び化学物質の存在による著しい特性劣化に対する耐性などの特性を有するシート材又はフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー及び熱可塑性エラストマーは公知であり、屋外用シート材又はフィルムなどの多種多様な用途に使用されている。フルオロポリマー層又は熱可塑性エラストマー層を使用して、通気性や耐水浸透性などのいくつかの望ましい特性を得ることができる。つまり、通気性・耐水性シート材が得られることが知られている。このようなシート材は屋外環境で非常に有用である。例えば、このようなシート材を使用して、衣料品、屋外用品、保護用品などを製造できる。しかし、防虫剤などからのある種の化学物質の存在により、シート材の特性の少なくとも一部が劣化、例えば耐水浸透性のレベルが低下することがある。具体的には、シート材上に化学物質が存在することにより、シート材が水を浸透/通過させる傾向が増加する。水の浸透/通過傾向が増加した状態を濡れもしくは浸みこみ(wetting out)ということがある。
【発明の概要】
【0003】
以下に示す発明の概要は、本発明のいくつかの観点を基本的に理解するためのものである。この概要は本発明の包括的概観ではない。さらに、この概要は、本発明の必須の構成要素を特定するものでも、本発明の範囲を定めるものでもない。この概要は後述する詳細な説明の序文として、本発明のいくつかの概念を単純化した形で示すことを目的としているだけである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの観点では、本発明は、防水性、蒸気透過性及び気体透過性のシート材を提供する。シート材は、防水性のミクロ孔質層とミクロ孔質層に付着した熱可塑性層とを含む。熱可塑性層は蒸気透過性及び空気透過性である。ミクロ孔質層が少なくとも部分的に熱可塑性層と一体化されて領域、即ち、ミクロ孔質層が水滴を通過させてしまう原因となる化学物質がシート材上に存在しても、水蒸気及び空気の通過を許すが水滴の通過を阻止する領域を形成する。
【0005】
別の観点では、本発明は、防水性、蒸気透過性及び気体透過性のシート材の製造方法を提供する。本方法は、防水性ミクロ孔質である第1層を用意する工程を含む。本方法は、熱可塑性である第2層を用意する工程を含む。本方法は、第1層と第2層とを少なくとも部分的に一体化して領域、即ちミクロ孔質層が水滴を通過させてしまう原因となる化学物質がシート材上に存在しても、水蒸気及び空気の通過を許すが水滴の通過を阻止する領域を形成する工程を含む。
【0006】
他の観点では、本発明は、防水性、蒸気透過性及び気体透過性のシート材を提供する。シート材は、防水性のミクロ孔質層とミクロ孔質層に付着した熱可塑性層とを含む。熱可塑性層は蒸気透過性及び空気透過性である。ミクロ孔質層が少なくとも部分的に熱可塑性層と一体化されて、ミクロ孔質層の少なくとも防水特性への化学物質の妨害を防ぐ領域を形成する。
【0007】
さらに他の観点では、本発明は、防水性、蒸気透過性及び気体透過性のシート材を提供する。シート材は、防水性のミクロ孔質層とミクロ孔質層に付着した熱可塑性層とを含む。熱可塑性層は蒸気透過性及び空気透過性である。ミクロ孔質層が少なくとも部分的に熱可塑性層と一体化されて領域、即ち、ミクロ孔質層と熱可塑性層との剥離を防止し、ミクロ孔質層が水滴を通過させてしまう原因となる化学物質がシート材上に存在しても、水蒸気及び空気の通過を許すが水滴の通過を阻止する領域を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の上記その他の観点は添付図面を参照して以下の説明を読むことで、当業者に明らかになるであろう。
【図1】本発明の製造方法における空気透過性・防水性2層シート材の一例の側面図である。
【図2】本発明による熱貼合せ後の空気透過性・防水性2層シート材の一例の側面図であり、通気性、防水性及び化学物質により引き起こされる変化に対する耐性を与える各部分を示す。
【図3】2層シート材の製造にともなう熱貼合せプロセスの一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の1つ以上の観点を組み入れた実施形態の例を図に示し、説明する。これらの図示例は本発明を限定するものではない。例えば、本発明の1つ以上の観点は別の実施形態及び別の種類の物品にも使用することができる。さらに、いくつかの用語は、本明細書で便宜的に用いられているだけであり、本発明の限定と解釈すべきでない。またさらに、図面において、同じ要素には同じ参照番号を用いる。
【0010】
図1に、本発明の1つの観点による実施例を示す。具体的に、この実施例には、空気透過性、蒸気透過性、防水性及び化学物質により引き起こされる変化に対して耐性である2層シート材14(図2)を構成するのに用いられる構成材料層10及び12を示す。防水性は、一般に理解されているように、蒸気でない水の浸透を防ぐ性質を意味することは明らかである。図示の構成材料層10及び12を用いて得られる2層シート材14は2つの層からなり、第1層10は空気透過特性、蒸気透過特性及び防水特性を有するミクロ孔質フルオロポリマー層であり、第2層12は空気透過特性及び蒸気透過特性を有する熱可塑性エラストマー層である。したがって、第1層10は防水性のミクロ孔質層の一例であり、第2層12は熱可塑性層の一例である。
【0011】
シート材14を単にフィルム又は布地と呼んでもよい。これらの用語「シート材」、「フィルム」及び「布地」は同意語とみなすべきである。また、図面で、第2層12の波線は、第1層と識別・対比するためだけのものであり、断面を意味するものではない。シート材の寸法(即ち、長さ、幅及び厚さ)は広い範囲で変えることができ、図の模式的表示が寸法を制限するものでないことは明らかである。
【0012】
本発明の1つの観点によれば、これらの2つの層10及び12を互いに結合して、防水性、水蒸気透過性及び空気透過性を得る。さらに、フルオロポリマー第1層10の耐水浸透性を損なう化学物質が存在しても、防水性、水蒸気透過性及び空気透過性が得られる。防水性が低下すると、濡れや浸透を招く。図2に、層10と12を結合してシート材14を形成した例を示す。
【0013】
図2に例示したフルオロポリマー層10は、疎水性であり、空気及び水蒸気透過性でもある。これらの特徴を図2に模式的に示す。一例では、フルオロポリマーは、ePTFEとして知られる延伸ミクロ孔質ポリテトラフルオロエチレンである。フルオロポリマーは、多数の微孔状の開口を有し、水滴の通過を阻止するには十分小さいが、空気や蒸気の通過には十分大きい気孔(ポア)を提供する。孔径はフルオロポリマー層の透過性と強度に直接影響する。孔径が大きくなるにつれて、フルオロポリマー層はより通気性になり、水蒸気及び空気が通過しやすくなる。しかし、孔径が大きいと、フルオロポリマーの強度が低下し、フルオロポリマー層が簡単に破れたり、分解することにつながる。同様に、孔径が小さいと、蒸気及び空気の透過性が下がるが、高強度の層になる。したがって、最適な孔径から、強度及び通気性のバランスがとれたフルオロポリマー層を得ることができる。
【0014】
透湿度(MVTR=moisture vapor transmission rateとして知られる)は、膜を通過する水蒸気の量であり、g/m2/dayで表す。空気透過率は、立方フィート/minで表し、空気がサンプルを通過するのにかかる時間を測定する。MVTR及び空気透過率が高いと、汗及び体の熱が、膜を通過し、体からすばやく取り除かれるので快適度が高くなる。
【0015】
この例では、フルオロポリマー層10は、坪量が0.5オンス/平方ヤード〜0.65オンス/平方ヤード、厚さが0.0017インチ〜0.003インチの範囲にあるいくつかの異なる品質のePTFEを含む。したがって、このような構成材料の使用は、軽量で薄い2層シート材14の製造に役立ち、快適度の向上に寄与する。使用できるいくつかのフルオロポリマー層、即ち膜(メンブレン)をその特性とともに以下の表1に示す。
【0016】
【表1】

図2に示した線図に戻ると、例示の熱可塑性エラストマー層12は親水性であり、空気及び水蒸気透過性である。これらの特徴を図2に模式的に示す。熱可塑性エラストマー層12は、多孔質であり、液体の水にさらされると気孔が水で埋まる。フルオロポリマー層10と同様に、熱可塑性エラストマー層12の孔径は、強度と水及び空気透過性に直接影響する。孔径が大きいと透過性は増加するが強度の低い材料になる。1実施形態では、熱可塑性エラストマー層12は、ポリエーテル共重合体、例えばポリエーテルポリエステルブロック共重合体、ポリエーテルポリアミドブロック共重合体、ポリウレタン(PU)などにすることができる。
【0017】
前述のように、シート材14は、2成分であり、2つの層10及び12を含む。これを図2に模式的に示す。しかし、図2の例は2つの層10及び12の重なりの概念を示すことも明らかである。この重なりは、2つの構成層が混ざり合ったり、相互移入したりして結合することを表す。この混ざり合い、相互移入などにより、増進した特性を与える領域16が形成される。その特性は、具体的には、第1層10から耐液滴浸透性(即ち、防水性)を失わせる化学物質がシート材14上に存在するのにもかかわらず、シート材14の全体としての耐液滴浸透性を保持する特性である。このような全体としての耐液滴浸透性(即ち、防水性)の保持能力が、シート材14内部での混ざり合い、相互移入などから形成される領域16より与えられる。
【0018】
領域16は第1層10と第2層12の剥離も防止することは明らかである。このような剥離防止はシート材14の耐久性につながる。具体的には、シート材14のサンプルを30℃の淡水中で200時間洗濯しても剥離はなかった。
【0019】
図3に2層シート材14の製造方法の一例を模式的に示す。この例では、部材20(例えば、加熱ローラー)により2つの構成材料層10及び12に熱と圧力をかける。このような加工中に材料層10及び12を左から右へ移動する。具体的には、部材20は、部材を通過する移動部分に熱と圧力をかける。なお、別の方法を使用してもよい。
【0020】
下記の表2に、種々のフルオロポリマー材料層を種々の非フルオロポリマー材料層と結合した多数の2層材料サンプルを示す。サンプルの種類は、上記の表1のフルオロポリマーとこれに結合したミクロ孔質熱可塑性層によって同定する。各組合せの種々の特性を示す。
【0021】
【表2】

図3に戻ると、具体例では、フルオロポリマー層10と熱可塑性エラストマー層12を熱貼合せにより相互接着することができる。熱貼合せ中に、高温及び高圧を2層シート材14にかけて2つの層間に結合を形成する。高温及び高圧により、各層の表面が、部分的に液化し、熱可塑性エラストマーがフルオロポリマーの気孔中に流れ込むにつれて対応する表面に食い込む。2つの層間の結合強度、即ち接着強度は各層の表面積に比例して増加する。したがって、粗い表面は、表面積が大きく、強い結合を形成する能力がある。表1及び表2の水蒸気透過率(MVTR)及び空気透過率の結果を比べるとわかるように、2層シート材14の熱貼合せは、MVTR及び空気透過率を僅かに低下することがある。2層を熱貼合せする場合、最適なバランスの温度と圧力を用いることが重要である。温度及び圧力が高すぎると、熱可塑性エラストマー表面の過剰な液化を引き起こし、フルオロポリマーの気孔が目詰まりしたり、蒸気及び空気の透過率が著しく低下したりすることがある。温度及び圧力が低すぎると、2つの層間の結合が弱くなる。したがって、温度と圧力のバランスを取ることが有益である。
【0022】
熱貼合せより、フルオロポリマー層及び熱可塑性エラストマー層を結合させて、化学物質に対して耐性である領域16を形成する。化学物質に対して耐性である領域16は2つの層間の結合を含む区域である。領域16は、使用者に有害であったり、2層シート材14を損傷するおそれのある一般の化学汚染物質の通過を低減するように設計される。化学物質が存在すると、強度を低下したり、蒸気及び空気の透過特性を損なうことにより2層シート材14の劣化を引き起こす。第1層10の材料の耐水性の劣化を引き起こす化学物質の一例は、DEETとも呼ばれるN,N−ジエチル−m−トルアミドである。劣化を引き起こす化学物質の他の例には燃料及び溶剤に存在する化学物質がある。またさらに、酸のような別の化学汚染物質も考えられる。このような化学物質は、望ましい材料特性を劣化する傾向があることから攻撃剤といわれることもある。勿論、本発明では化学物質が限定されることはない。このような化学物質がシート材12上に存在すると、通常、第1層10のミクロ孔質材料が水滴を通過させる原因となるが、本発明は、このような望ましくない事態(即ち、防水性の低下)を防止し、このような化学物質に対する耐性を付与する。
【0023】
DEETは防虫剤によく用いられる有効成分である。2層シート材14を屋外用途、例えば手袋、ブーツ、テントなどに用いることができるので、シート材14が防虫剤に使用するDEETなどの化学物質による防水性の劣化に対して耐性をもつことは有利である。この耐劣化性のため、シート材14は、化学物質が存在しても、防水性、蒸気透過性及び空気透過性を維持できる。2層シート材14は、長時間(例えば、表2に示したように16時間)のDEET曝露後でも値を維持できる。これと比べて、表1に示したように、フルオロポリマー層のみでは、DEET曝露16時間後の値は低い。
【0024】
最終2層シート材14の厚さは、100μm(即ち0.1mm)未満とすることができる。この薄さは、軽量と相まって、2層シート材14の快適度を増加する。シート材14を両面で別の布地層と組合せて、屋外用品、例えば手袋、ブーツ、テントなどの製造に用いることもできる。
【0025】
2層材料の使用例には、手袋、帽子、コート、ジャケット、シャツ、ズボン、肌着、靴、ブーツ、保護被服、他の種々の衣料品、リュックサック、寝袋、テント、他の種々の屋外用品などが挙げられるが、これらに限らない。人が身につけるものにかかわる使用では、人が汗をかくと、皮膚上で水蒸気状及び液状の発汗両方が起こることは明らかである。MVTR及び空気透過率が高いと、この水蒸気状及び液状の汗がすばやく2層材料を通過することができる。したがって、2層シート材は人が身につける物に関して述べた上記の使用例において非常に有効である。勿論、本発明はこのような使用例に限定されず、別の使用例も考えられる。
【0026】
以上、本発明をその実施形態について説明した。本明細書を読み、理解することで種々の変更及び改変を当業者が想起することができる。本発明の1つ以上の観点を取り込んだ実施形態は、特許請求の範囲に入るかぎり、このような変更及び改変のすべてを含むものとする。
【符号の説明】
【0027】
10 ミクロ孔質層
12 熱可塑性層
14 シート材
16 領域
20 部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水性のミクロ孔質層(10)と、ミクロ孔質層(10)に付着した蒸気透過性及び空気透過性である熱可塑性層(12)とを含むシート材(14)であって、
ミクロ孔質層(10)が少なくとも部分的に熱可塑性層(12)と一体化されて領域(16)、即ちミクロ孔質層(10)が水滴を通過させてしまう原因となる化学物質がシート材(14)上に存在しても、水蒸気及び空気の通過を許すが水滴の通過を阻止する領域(16)を形成した、
防水性、蒸気透過性及び気体透過性のシート材(14)。
【請求項2】
ミクロ孔質層(10)が延伸ポリテトラフルオロエチレンである、請求項1記載のシート材(14)。
【請求項3】
熱可塑性層(12)がポリウレタンである、請求項1記載のシート材(14)。
【請求項4】
厚さが0.1mm未満である、請求項1記載のシート材(14)。
【請求項5】
ミクロ孔質層(10)が熱貼合せにより少なくとも部分的に熱可塑性層(12)と一体化されている、請求項1記載のシート材(14)。
【請求項6】
領域(16)がミクロ孔質層(10)と熱可塑性層(12)との剥離を防止する、請求項1記載のシート材(14)。
【請求項7】
防水性ミクロ孔質である第1層(10)を用意し、
熱可塑性である第2層(12)を用意し、
第1層(10)と第2層(12)とを少なくとも部分的に一体化して領域(16)、即ちミクロ孔質層(10)が水滴を通過させてしまう原因となる化学物質がシート材(14)上に存在しても、水蒸気及び空気の通過を許すが水滴の通過を阻止する領域(16)を形成する
工程を含む、防水性、蒸気透過性及び気体透過性シート材(14)の製造方法。
【請求項8】
第1層(10)が延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
熱可塑性層がポリエーテル共重合体である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
シート材(14)の厚さが0.1mm未満である、請求項7記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120385(P2010−120385A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263444(P2009−263444)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(507168926)ビーエイチエイ・グループ・インコーポレーテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】BHA GROUP, INC.
【Fターム(参考)】