説明

空燃比制御装置

【課題】空燃比制御指令値をフィードバック補正した時の補正量を学習値としてマップに記憶更新させるにあたり、マップ中の未学習領域を低減させることでドライバビリティ向上を実現させるとともに、記憶容量増加及び演算負荷増大を回避しつつ空燃比制御の高精度化を実現させた空燃比制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの実空燃比を制御する燃料噴射弁のアクチュエータへ出力される制御指令値を、排気中の酸素濃度に基づき補正するフィードバック補正手段と、フィードバック補正手段による補正量を学習値とし、運転状態量と関連付けして学習マップMg1に記憶更新させる学習値更新手段とを備え、学習マップMg1は、運転状態量を複数の大領域に区分して構成されているとともに、該当する大領域内での目標空燃比が同じとなるよう前記区分が為されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気中の酸素濃度に基づき実空燃比を目標空燃比に近づけるよう制御する、空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の空燃比制御装置は、燃料噴射弁からの燃料噴射量指令値(空燃比制御指令値)を排気中の酸素濃度に基づき補正することで、目標空燃比(例えば理論空燃比)での燃焼となるよう制御する空燃比フィードバック制御を行っている。
【0003】
ここで、前記補正の量が周期的に増減を繰り返す状態、すなわち空燃比フィードバック制御が安定した状態の時の補正量の絶対値は、燃料噴射弁等の経年変化により増大する。そして、このような経年変化による補正量(以下、経年変化補正量と呼ぶ)の絶対値が増大すると、空燃比フィードバック制御が安定するまでに要する時間が長くなるため、運転状態の変化(例えばスロットルバルブ開度の変化)に対して目標空燃比にするための制御の応答性が悪くなる。
【0004】
そこで、特許文献1〜3等に記載の制御装置では、内燃機関の運転中に経年変化補正量を学習値として記憶し、当該学習値に基づき燃料噴射量を補正しつつ空燃比フィードバック制御を実行することで、目標空燃比にするための制御の応答性向上を図っている。なお、経年変化補正量は、エンジン回転速度NEやエンジン負荷等の運転状態量に応じて異なる値となるため、運転状態量毎に異なる経年変化補正量を学習値として記憶させている。
【0005】
例えば、図18に示すように吸気圧PM(エンジン負荷)及びエンジン回転速度NEを複数領域に分割(図18の例では実線に示す9分割)してなる学習マップMgxを用い、当該学習マップMgxの各領域「00」〜「08」に学習値を記憶させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−108767号公報
【特許文献2】特開平8−284714号公報
【特許文献3】特開平3−145539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の学習マップMgxでは、各領域「00」〜「08」が全て同じ形状(図18の例では四角形)になるよう分割するとともに、これら同形状の領域「00」〜「08」が複数列及び複数行に規則正しく並ぶよう均等に分割している。このことに起因して、従来では次の問題を抱えていた。
【0008】
すなわち、ただ単に、実空燃比を目標空燃比に精度良く合わせるよう制御するためには、学習マップMgxの領域を細かく分割すればよい。しかしながら、領域を規則正しく均等に分割した従来の学習マップMgxでは、例えば図18中の点線に示す如く分割ピッチを小さくして分割数を増やすと、メモリの記憶容量が膨大になるとともに、学習処理等の演算負荷増大を招く。つまり、学習マップMgxの領域を細かく分割して実空燃比を高精度で制御することと、メモリ小容量化及び演算負荷軽減を図ることは背反する。
【0009】
また、上述の如く分割数を増やすと未学習の領域が増えることとなる。すると、学習済みの領域から未学習の領域へと内燃機関の運転状態が突発的に変化した時に、経年変化補正量(学習値)が不連続に変化することとなるため、運転状態の変化に対する燃料噴射量の変化が不適切な変化となり、ひいてはドライバビリティの悪化を招く。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、空燃比制御指令値をフィードバック補正した時の補正量を学習値としてマップに記憶更新させるにあたり、マップ中の未学習領域を低減させることでドライバビリティ向上を実現させるとともに、記憶容量増加及び演算負荷増大を回避しつつ空燃比制御の高精度化を実現させた空燃比制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0012】
請求項1記載の発明では、内燃機関の実空燃比を制御するアクチュエータへ出力される空燃比制御指令値を、排気中の酸素濃度に基づき補正するフィードバック補正手段と、前記フィードバック補正手段による補正量を学習値とし、前記内燃機関の運転状態量と関連付けして学習マップに記憶更新させる学習値更新手段と、を備え、前記学習マップは、前記運転状態量を複数の大領域に区分して構成されているとともに、該当する大領域内での目標空燃比が所定範囲内となるよう、複数の前記大領域のうち少なくとも1つの大領域の形状を他の大領域の形状と異ならせて区分する異形区分が為されていることを特徴とする。
【0013】
ここで、目標空燃比が同じとなる領域同士の学習値は結果的に殆ど同じ値になっているとの知見を本発明者は鋭意研究により得た。具体的に説明すると、例えば図2に例示する制御マップMQは、エンジン回転速度NE及び吸気圧PM(内燃機関の運転状態量)を複数の領域に区分して構成されており、各領域に目標空燃比(又は目標空燃比に相当する目標燃料噴射量)を記憶させたマップである。マップMQ中の斜線を付した部分の領域は全て同じ目標空燃比(例えば理論空燃比)となっている。そして、図3に例示する学習マップMg1中の符号「04」を付した部分は制御マップMQ中の斜線部分に対応する部分である。つまり、学習マップMg1中の「04」に示す7つの領域が、学習マップMg1上で目標空燃比が同じとなる領域同士に該当し、これらの7つの領域「04」の学習値は、結果的に殆ど同じ値になっている。同様にして、図3の例では同じ番号「00」〜「08」を付した領域の学習値が、殆ど同じ値になっている。そして、このように学習値が同じになる複数の領域「00」〜「08」の外形形状(図3中の太線で示す形状)は、全てが同じ形状になることは有り得ず、また、規則正しく均等に並ぶことも有り得ない。
【0014】
この知見に基づき為された上記発明では、フィードバック補正手段による補正量を運転状態量と関連付けして記憶更新させる学習マップは、運転状態量を複数の大領域に区分して構成されているとともに、該当する大領域内での目標空燃比が同じとなるよう複数の大領域の形状を各々異ならせて区分する異形区分が為されている。図3の例では、学習マップMg1中の太線で囲った9個の領域「00」〜「08」が大領域に相当する。
【0015】
そのため、目標空燃比に拘わらず領域を等ピッチで単純に分割した従来の学習マップMgx(図18参照)においてそもそも学習値が殆ど同じ値となっている領域を、上記発明では大領域としてグループ化していると言える。そのため、大領域の区分数を従来マップMgxの領域分割数よりも少なくしつつ、実空燃比を目標空燃比に合わせるよう制御することを従来マップMgxと同等の精度で実現できる。よって、学習値を記憶させるメモリの記憶容量増加回避、及び学習値を記憶更新させる処理等の演算負荷増大回避と、制御精度向上との両立を図ることができる。
【0016】
また、上述の如く大領域の区分数を学習値の層別によって最適化、すなわち、従来よりも少なくすることが可能となるので、学習マップ中の未学習となっている大領域の数が減少する。よって、学習済みの大領域から未学習の大領域へと内燃機関の運転状態が変化する機会を減少できるので、運転状態の変化に対する空燃比制御指令値の変化を適切な変化にすることができ、ひいてはドライバビリティの向上を実現できる。
【0017】
なお、上記「内燃機関の運転状態量」の具体例としては、エンジン回転速度NE、エンジン負荷及びエンジン温度等が挙げられる。上記「エンジン負荷」の具体例としては、吸気圧センサにより検出された吸気圧、エアフロメータにより検出された吸気量、スロットルバルブセンサにより検出されたスロットル開度、アクセルセンサにより検出されたアクセル操作量等が上げられる。上記「エンジン温度」の具体例としてはエンジン冷却水温度等が挙げられる。
【0018】
また、上記「空燃比制御指令値」の具体例としては、燃料噴射弁の弁体を開閉駆動させる電動アクチュエータに対する噴射指令値や、ディーゼルエンジンにおいてEGR量を指令するEGR指令値等、混合気の空燃比に影響を及ぼす各種指令値が挙げられる。
【0019】
請求項2記載の発明では、前記大領域をさらに複数に区分した小領域であって、異なる2つの大領域と隣接する小領域が存在するよう前記異形区分が為されていることを特徴とする。
【0020】
ここで、図13に示す学習マップMg5は上記発明の一例であり、6個の大領域「00」〜「05」に異形区分されている。図中の点線で区分された各領域は上記発明に係る「小領域」に相当する。例えば、大領域「03」に含まれる小領域03aに隣接する他の小領域は周囲の8個であり、そのうちの3個が「03」、3個が「00」、2個が「04」の大領域に属している。したがって、小領域03aは、他の異なる2つの大領域「00」「04」と隣接していると言える。
【0021】
これに対し、図18に示す従来の学習マップMgxでは、複数の領域「00」〜「08」を規則正しく区分しているので、例えば大領域「03」に含まれる小領域03bは、他の異なる3つの大領域「00」「01」「04」と隣接することとなる。
【0022】
要するに、上記発明を例示する学習マップMg5では、小領域03aが2つの大領域「00」「04」と隣接するよう、2つの大領域「00」「03」の形状を各々異ならせて区分(異形区分)していると言える。
【0023】
請求項3記載の発明では、前記大領域をさらに複数に区分した小領域であって、異なる4つ以上の大領域と隣接する小領域が存在するよう前記異形区分が為されていることを特徴とする。
【0024】
ここで、図15に示す学習マップMg7は上記発明の一例であり、10個の大領域「00」〜「09」に異形区分されている。図中の点線で区分された各領域は上記発明に係る「小領域」に相当する。例えば、大領域「08」の小領域08aに隣接する他の小領域は周囲の8個であり、小領域08aは、他の異なる5つの大領域「00」「04」「06」「07」「09」と隣接していると言える。
【0025】
要するに、上記発明を例示する学習マップMg7では、小領域08aが5つの大領域「00」「04」「06」「07」「09」と隣接するよう、各々の大領域の形状を異ならせて区分(異形区分)していると言える。
【0026】
請求項4記載の発明では、所定の大領域の角部のうち前記学習マップの外縁以外に位置する角部が、他の大領域の1つの角部としか接触しないよう、前記異形区分が為されていることを特徴とする。
【0027】
ここで、図13に示す学習マップMg5は上記発明の一例であり、例えば、大領域「03」の形状は四角形であるため4つの角部p1,p2,p3,p4を有する。そして、角部p1,p2,p4は学習マップMg5の外縁に位置しており、角部p3は外縁以外に位置している。そして角部p3は、大領域「04」の角部とは接触するものの、大領域「00」の角部とは接触していない。
【0028】
これに対し、図18に示す従来の学習マップMgxでは、複数の領域「00」〜「08」を規則正しく区分しているので、例えば大領域「03」の角部のうち学習マップMgxの外縁以外に位置する角部p3は、3つの大領域「00」「01」「04」の角部と接触することとなる。
【0029】
要するに、上記発明を例示する学習マップMg5では、その外縁以外に位置する角部p3が他の大領域「04」の1つの角部とだけ接触するよう、2つの大領域「00」「03」の形状を各々異ならせて区分(異形区分)していると言える。
【0030】
請求項5記載の発明では、角部を6つ以上有する多角形の大領域が存在するよう、前記異形区分が為されていることを特徴とする。
【0031】
ここで、図13に示す学習マップMg5は上記発明の一例であり、例えば、大領域「01」「02」「04」の形状は角部を6つ有する六角形である。これに対し、図18に示す従来の学習マップMgxでは、複数の領域「00」〜「08」を規則正しく区分しているので、全ての大領域「00」〜「08」は四角形となる。要するに、上記発明を例示する学習マップMg5では、六角形の大領域「01」「02」「04」が存在するよう、各々の大領域の形状を異ならせて区分(異形区分)していると言える。なお、図13では六角形の大領域を例示しているが、n角形(n≧6)であればよく、特にnが偶数であることが望ましい。
【0032】
請求項6記載の発明では、前記学習マップは、前記大領域をさらに複数の小領域に区分して構成されているとともに、前記小領域の各々に前記学習値を記憶させるよう構成され、1つの小領域で前記学習値が記憶更新された場合には、その小領域の学習値を同一の大領域内の他の小領域へコピーすることを特徴とする。
【0033】
これによれば、運転状態量を等ピッチで区分して小領域を構成し、それらの小領域をグループ化して大領域を構成していると言える。つまり、運転状態量を等ピッチで区分しつつも、目標空燃比が同じとなるよう大領域を構成することができる。
【0034】
請求項7記載の発明では、複数の前記小領域のうち予め設定された特定小領域について、前記特定小領域と同一大領域内の他の小領域から前記特定小領域への学習値のコピーは許可し、前記特定小領域から前記他の小領域への学習値のコピーは禁止することを特徴とする。
【0035】
例えば、記憶更新した小領域の学習値の信頼性が低い場合には、その学習値を他の小領域へコピーすると大領域内全体が信頼性の低い学習値となってしまい、望ましくない。そこで上記発明では、信頼性が低いと想定される小領域を「特定小領域」として予め設定しておき、特定小領域から他の小領域への学習値のコピーを禁止するので、大領域内全体が信頼性の低い学習値になることを回避できる。但し、他の小領域から特定小領域への学習値のコピーは許可するので、特定小領域を速やかに学習済みにすることができる。
【0036】
信頼性の低い特定小領域の具体例として、請求項8記載の如く、前記他の小領域に比べて学習頻度の低い小領域が挙げられる。また、他の具体例として、複数の小領域のうち内燃機関にブレーキ力(エンジンブレーキ)を発揮させることが想定される小領域、或いは内燃機関での燃焼が不安定になると想定される小領域を、特定小領域として設定することが挙げられる。
【0037】
請求項9記載の発明では、複数の前記小領域のうち予め設定された独立小領域について、前記独立小領域と同一大領域内の他の小領域から前記独立小領域への学習値のコピーを禁止するとともに、前記独立小領域から前記他の小領域への学習値のコピーも禁止することを特徴とする。
【0038】
ここで、同じ大領域内であっても、空燃比制御指令値の設定手法を小領域毎に異ならせることが望ましい場合がある。例えば、請求項10記載の如く内燃機関の出力を最大とするよう運転者により操作されていると想定される小領域(WOT小領域)については、燃料噴射量指令値(空燃比制御指令値)を最大にすることが要求され、このようなWOT小領域へ他の小領域の学習値をコピーしてしまうと、燃料噴射量指令値(空燃比制御指令値)が最大にならないことが懸念される。また、WOT小領域から他の小領域へ学習値をコピーしてしまうと、他の小領域において燃料噴射量指令値(空燃比制御指令値)が過大になることが懸念される。
【0039】
この点を鑑みた上記請求項9記載の発明では、他の小領域から独立小領域への学習値のコピーを禁止するとともに、独立小領域から他の小領域への学習値のコピーも禁止するので、前記懸念を解消できる。
【0040】
請求項11記載の発明では、前記学習マップは、前記大領域をさらに複数の小領域に区分して構成されているとともに、前記小領域の各々に前記学習値を記憶させるよう構成され、1つの小領域で前記学習値が記憶更新された場合には、その小領域の学習値を同一の大領域内の他の小領域へ、予め設定された重み付けに基づき補正してコピーすることを特徴とする。
【0041】
ところで、1つの小領域で学習値(基準学習値)が記憶更新された場合において、上記発明に反して前記基準学習値と同一の値を他の小領域へコピーさせると、コピー先の学習値の変化に過不足が生じる場合がある。そこで上記発明では、小領域毎に予め重み付けを設定しておき、基準学習値を前記重み付けに基づき補正し、その補正した値を他の小領域へコピーさせている。これによれば、基準学習値と同一の値を他の小領域へコピーさせる場合に比べて、コピー先の学習値を最適な値に高精度で近づけることができる。
【0042】
さらに、請求項12記載の如く、コピー先の小領域がコピー元の小領域から離れているほど、そのコピー先における重み付けを小さく設定することで、ドライバビリティが急激に変化する等のリスクを低減できる。よって、ドライバビリティを向上させるよう学習値を最適にできる。
【0043】
また、請求項13記載の如く、コピー先の小領域が、学習値を変化させることによる運転状態量の変化が大きい領域(いわゆる高負荷領域)であるほど、そのコピー先における重み付けを小さく設定した方が、コピー先でのドライバビリティ急変に影響を与えにくく、段階的に学習させることが可能となる。よって、ドライバビリティを向上させるよう学習値を最適にできる。
【0044】
請求項14記載の発明では、複数の前記小領域のうち予め設定された特定小領域について、前記補正してコピーすることを、前記特定小領域と同一大領域内の他の小領域から前記特定小領域へは許可し、前記特定小領域から前記他の小領域へは禁止することを特徴とする。
【0045】
例えば、記憶更新した小領域の学習値の信頼性が低い場合には、その学習値を補正した値を他の小領域へコピー(補正コピー)すると大領域内全体が信頼性の低い学習値となってしまい、望ましくない。そこで上記発明では、信頼性が低いと想定される小領域を「特定小領域」として予め設定しておき、特定小領域から他の小領域への学習値の補正コピーを禁止するので、大領域内全体が信頼性の低い学習値になることを回避できる。但し、他の小領域から特定小領域への学習値の補正コピーは許可するので、特定小領域を速やかに学習済みにすることができる。
【0046】
なお、信頼性の低い特定小領域の具体例として、前記他の小領域に比べて学習頻度の低い小領域が挙げられる。また、他の具体例として、複数の小領域のうち内燃機関にブレーキ力(エンジンブレーキ)を発揮させることが想定される小領域、或いは内燃機関での燃焼が不安定になると想定される小領域を、特定小領域として設定することが挙げられる。
【0047】
請求項15記載の発明では、複数の前記小領域のうち予め設定された独立小領域について、前記補正してコピーすることを、前記独立小領域と同一大領域内の他の小領域から前記独立小領域へ、及び前記独立小領域から前記他の小領域へのいずれについても禁止することを特徴とする。
【0048】
ここで、同じ大領域内であっても、空燃比制御指令値の設定手法を小領域毎に異ならせることが望ましい場合がある。例えば、内燃機関の出力を最大とするよう運転者により操作されていると想定される小領域(WOT小領域)については、燃料噴射量指令値(空燃比制御指令値)を最大にすることが要求され、このようなWOT小領域へ他の小領域の学習値を補正してコピー(補正コピー)してしまうと、燃料噴射量指令値(空燃比制御指令値)が最大にならないことが懸念される。また、WOT小領域から他の小領域へ学習値を補正コピーしてしまうと、他の小領域において燃料噴射量指令値(空燃比制御指令値)が過大になることが懸念される。この点を鑑みた上記発明では、他の小領域から独立小領域への学習値の補正コピーを禁止するとともに、独立小領域から他の小領域への学習値の補正コピーも禁止するので、前記懸念を解消できる。
【0049】
請求項16記載の発明では、1つの前記大領域で前記学習値が記憶更新された場合には、その記憶更新された学習値に応じて他の大領域の学習値を補正することを特徴とする。
【0050】
ここで、複数の大領域の学習値同士は少なからず相関性を有している。そのため、1つの大領域で学習値が大きく変化すれば、他の大領域の学習値も大きく変化させるのが妥当であることが多い。例えば、燃料タンクへ補給した燃料の性状が残存燃料の性状と異なる場合等、燃料性状が急変した場合には、全ての大領域において学習値を変化させるのが妥当である。この点を鑑みた上記発明によれば、1つの大領域で学習値が記憶更新された場合には、その記憶更新された学習値に応じて他の大領域の学習値を補正するので、学習していない他の大領域の学習値についても最適な値にすることができる。
【0051】
また、例えば他の領域が未学習である場合に、その未学習大領域を初期値から補正することにより学習済みにできるので、未学習領域を早期に無くすことができる。よって、学習済みの大領域から未学習大領域へ運転状態が変化した時にドライバビリティが急激に変化する等のリスクを低減できる。よって、ドライバビリティを向上させるよう学習値を最適にできる。
【0052】
請求項17記載の発明では、記憶更新による学習値の変化量が所定量以上であることを条件として、他の大領域の学習値を補正することを特徴とする。
【0053】
先述した通り、燃料性状が急変した場合には全ての大領域において学習値を変化させるのが妥当である。しかしながら、記憶更新による学習値の変化量が所定量未満であれば、燃料性状が急変していない可能性が高い。そこで上記発明では、学習値の変化量が所定量以上であることを条件として他の大領域の学習値を補正するので、燃料性状が急変していない場合等、補正が不要な場合にまで他の大領域の学習値を補正してしまうことを回避できる。
【0054】
請求項18記載の発明では、記憶更新による学習値の変化量が大きいほど、他の大領域に対する補正量を大きくすることを特徴とする。
【0055】
先述した通り、複数の大領域の学習値同士は少なからず相関性を有している。したがって、1つの大領域での学習値の変化量が大きければ、他の大領域の学習値も大きく変化させるのが妥当である。この点を鑑みた上記発明によれば、記憶更新による学習値の変化量が大きいほど他の大領域に対する補正量を大きくするので、他の大領域の学習値を最適な値に近づけることを促進できる。
【0056】
請求項19記載の発明では、記憶更新した大領域から前記他の大領域が離れているほど、他の大領域に対する補正量を小さくすることを特徴とする。
【0057】
離れた大領域同士であるほど前記相関性が低い場合が多い。この点を鑑みた上記発明によれば、記憶更新した大領域から他の大領域が離れているほど他の大領域に対する補正量を小さくするので、他の大領域の学習値を過剰に補正してしまうことを抑制して最適な値に近づけることを促進できる。
【0058】
請求項20記載の発明では、複数の前記大領域は、前記運転状態量を不等間隔に区分して設定されていることを特徴とする。
【0059】
従来の学習マップMgxは、図18に示す如く目標空燃比とは無関係に領域を等ピッチで区分している。しかしながら、領域内の目標空燃比が同一となるよう区分するとともに、その領域の範囲をできるだけ大きくして区分数を少なくしようとすると、等ピッチで分割する従来の学習マップMgxでは限界があり、領域を細かく分割せざるを得ない。この点を鑑みた上記発明では、運転状態量を不等間隔に区分して大領域を設定するので、大領域内の目標空燃比が同一となるよう区分するにあたり、各々の大領域の範囲を大きくすることを容易に実現できる。よって、大領域の区分数をより一層少なくできるので、メモリの記憶容量増加回避及び演算負荷増大回避と制御精度向上との両立を促進できるとともに、未学習となっている大領域の数を少なくしてドライバビリティを向上させることを促進できる。
【0060】
請求項21記載の発明では、複数の前記大領域のうち少なくとも1つの大領域は、他の大領域により複数に分断されて、前記学習マップ上において離散的に配置されていることを特徴とする。
【0061】
要するに上記発明は、離散配置された大領域同士が略同一(所定範囲内)の目標空燃比になっている場合において、それらを1つの大領域としてグループ化していると言える。これによれば、略同一目標空燃比の離散配置された大領域を、別々の異なる大領域として区分する場合に比べて、空燃比の制御性を低下させることなく大領域の区分数を減少できる。換言すれば、大領域内の目標空燃比が略同一(所定範囲内)となるよう区分するにあたり、各々の大領域の範囲を大きくすることをさらに促進できる。よって、メモリの記憶容量増加回避及び演算負荷増大回避と制御精度向上との両立をさらに促進できるとともに、未学習となっている大領域の数を少なくしてドライバビリティを向上させることをさらに促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる空燃比制御装置が適用された、内燃機関の制御システム全体の概略構成を示す図。
【図2】第1実施形態において、エンジン回転速度NE及び吸気圧PMに対する目標噴射量の最適値が記憶されたマップを示す図。
【図3】第1実施形態にかかる学習マップを示す図。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる学習マップを示す図。
【図5】第2実施形態において、学習値のコピーを実施する処理の手順を示すフローチャート。
【図6】本発明の第3実施形態にかかる学習マップを示す図。
【図7】本発明の第4実施形態にかかる学習マップを示す図。
【図8】本発明の第5実施形態において、学習値を補正してコピーする手法を説明する図。
【図9】第5実施形態において、学習値を補正してコピーする手法を説明する図。
【図10】第5実施形態において、重み付けの設定例を示す図。
【図11】図10に対する変形例1を示す図。
【図12】図10に対する変形例2を示す図。
【図13】本発明の第7実施形態にかかる学習マップを示す図。
【図14】図13に対する変形例1を示す図。
【図15】図13に対する変形例2を示す図。
【図16】図13に対する変形例3を示す図。
【図17】本発明の第8実施形態にかかる学習マップを示す図。
【図18】従来の学習マップを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0064】
(第1実施形態)
まず、図1に基づいて内燃機関の制御システム全体の概略構成を説明する。本実施形態では内燃機関としてガソリンエンジン10が適用されており、当該エンジン10は自動二輪車に搭載された走行駆動源として機能するものである。
【0065】
エンジン10の吸気管11には、電動モータ12によって開度調節される電子スロットルバルブ13とスロットル開度を検出するスロットル開度センサ14とが設けられている。更に、スロットルバルブ13の下流側には、吸気圧力を検出する吸気圧センサ15が設けられている。また、吸気管11のうちシリンダヘッドの吸気ポート近傍部分には、燃料を噴射する燃料噴射弁16が取り付けられている。また、エンジン10のシリンダヘッドには点火プラグ17が取り付けられており、イグニッションコイル18にて昇圧された高電圧を点火プラグ17にて火花放電させることにより筒内の混合気に着火する。
【0066】
一方、エンジン10の排気管19には、排気中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等を有する触媒装置20が設けられ、この触媒装置20の上流側に、排気中の酸素濃度を検出するA/Fセンサ21が設けられている。本実施形態では、排気中酸素濃度を検出するセンサとしてA/Fセンサ21を採用しているが、O2センサを採用してもよい。なお、A/Fセンサ21は、排気中の酸素濃度に応じた酸素濃度検出信号を出力することで、混合気の空燃比をリニアに検出可能なセンサである。O2センサは、排気中の酸素濃度が所定値よりも多いか少ないかを検出することで、混合気が所定値(理論空燃比)に対してリッチ及びリーンのいずれであるかを2値検出するセンサである。
【0067】
空燃比制御装置としてのECU30(電子制御ユニット)は、ROM30a(不揮発性メモリ)、RAM30b(揮発性メモリ)、EEPROM30c(書換可能不揮発性メモリ)及びCPU30dを有するマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU30には、先述したスロットル開度センサ14、吸気圧センサ15、水温センサ22及びクランク角センサ26の検出信号が入力される。水温センサ22は、エンジン10のシリンダブロックに取り付けられて冷却水温を検出する。クランク角センサ26は、エンジン10のクランク軸の回転速度NEを検出する。
【0068】
ECU30は、各種センサから入力された検出信号に基づき、ROM30aに記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁16の燃料噴射量、噴射時期、スロットルバルブ13の開度(スロットル開度)、及び点火プラグ17の点火時期等を制御する。
【0069】
次に、燃料噴射量の制御内容について詳細に説明する。
【0070】
燃料噴射弁16の弁体を開閉駆動させる電動アクチュエータ(図示せず)の作動をECU30が制御することで、燃料噴射量を制御している。より詳細には、弁体の開弁時間を制御することで、1回の開弁により為される燃料噴射量を制御している。ECU30は、エンジン回転速度NE及びエンジン負荷に基づき目標噴射量を算出し、算出した目標噴射量を後述するフィードバック補正値及び学習値に基づき補正する。そして、これらの補正が為された最終目標噴射量に基づき指令信号(空燃比制御指令値)を前記電動アクチュエータへ出力する。
【0071】
図2は、エンジン回転速度NE及び吸気圧PM(エンジン負荷)に対する目標噴射量の最適値が記憶されたマップMQを示す。このマップMQはROM30aに記憶されており、予め実施した試験により得られた適合値である。この適合値は、基本的には空燃比が理想空燃比となるよう設定されているが、マップMQ中の領域によっては理想空燃比よりもリッチ又はリーンとなるよう設定されている。したがって、目標噴射量を適合値として記憶したこのマップMQは、目標空燃比が記憶されたマップであるとも言える。
【0072】
すなわち、本実施形態にかかる空燃比制御装置は、エンジンの運転状態量(例えばNE,PM)に応じた目標空燃比、又はその目標空燃比に相当する物理量(例えば目標噴射量、目標噴射時間等)が予め記憶された記憶手段(ROM30a)を備えていると言える。そして、ECU30は、クランク角センサ26及び吸気圧センサ15の検出値によるエンジン回転速度NE及び吸気圧PMに基づき、マップMQを用いて目標噴射量を算出する。
【0073】
ここで、燃料噴射弁16の機差ばらつき等に起因して、マップMQに基づく目標噴射量で燃料噴射弁16の作動を制御しても、実空燃比は目標空燃比からずれることが懸念される。そこでECU30は、A/Fセンサ21により検出された実空燃比と目標空燃比との偏差を算出し、当該偏差に基づきフィードバック補正量を算出する。そして、このフィードバック補正量を用いて目標噴射量を補正することで、A/Fフィードバック制御を実施する。これにより、前記懸念を解消して、実空燃比を目標空燃比に精度良く近づけることができる。
【0074】
上記フィードバック補正量が周期的に増減を繰り返す状態、すなわちA/Fフィードバック制御が安定した状態の時のフィードバック補正量は、燃料噴射弁16等の経年変化によりその絶対値は増大する。そして、このような経年変化による補正量(経年変化補正量)の絶対値が増大すると、A/Fフィードバック制御が安定するまでに要する時間が長くなるため、運転状態の変化(例えばスロットル開度の変化)に対して目標空燃比にするための制御の応答性が悪くなる。そこで、エンジン10の運転中に経年変化補正量を学習値として記憶し、当該学習値に基づき目標噴射量を補正しつつA/Fフィードバック制御を実行することで、目標空燃比にするための制御の応答性向上を図っている。
【0075】
なお、上述の如く経年変化補正量を学習値として記憶させるよう制御する時のECU30は「学習値更新手段」に相当し、A/Fフィードバック制御を実施する時のECU30は「フィードバック補正手段」に相当する。
【0076】
また、EEPROM30cに上記学習値を書き込むことで、エンジン停止後にも学習値は保持される。よって、次回イグニッションスイッチをオンさせた時にも、いち早く実空燃比を目標空燃比に近づけることができる。
【0077】
図3は、前記学習値が記憶更新される学習マップMg1を示す。この学習マップMg1はEEPROM30cに記憶されており、エンジン10の運転状態量を複数の小領域に区分して構成されている。つまり、運転状態量毎(小領域毎)に経年変化補正量を学習する。これによれば、運転状態量に応じた経年変化補正量が学習されるので、一律に学習した場合に比べて、実空燃比を目標空燃比に近づけることの精度を向上できる。
【0078】
図3に示す例では、エンジン回転速度NE及び吸気圧PM(エンジン負荷)を運転状態量として用いており、これら両パラメータNE,PMを等間隔で区分している。具体的には、エンジン回転速度NEをNE1〜NE9の9区分とし、吸気圧PMをPM1〜PM9の9区分としている。したがって、学習マップMg1は81個の小領域に等間隔で区分されている。
【0079】
各々の小領域には領域番号「00」〜「08」等が付与されている。そして、同じグループ番号の小領域については同じ学習値を記憶更新させており、グループ化されていると言える。図3の例では、学習マップMg1中の太線で囲った大領域が小領域のグループ範囲を示している。換言すれば、学習マップMg1は9個の大領域に区分して構成されている。
【0080】
目標噴射量が記憶された図2のマップMQは、先述したように、エンジン回転速度NE及び吸気圧PM毎の目標空燃比を表しているとも言える。そして、学習マップMg1では、マップMQにてNE,PM毎に設定された目標空燃比が同じとなる小領域同士を、大領域としてグループ化して学習値をコピーさせている。換言すれば、マップMQのうち目標空燃比が同じとなる範囲(同一空燃比範囲)と、学習マップMg1のうち同一の大領域に対応する範囲(同一グループ範囲)とは重複する。
【0081】
なお、マップMQ及び学習マップMg1を複数の領域に区分するにあたり、同一空燃比範囲と同一グループ範囲とが完全に一致するよう区分することが望ましい。但し、同一空燃比範囲の境界と同一グループ範囲の境界とが完全に一致していなくても、両範囲の少なくとも一部が重複していればよい。
【0082】
また、両範囲が重複するよう学習マップMg1を複数の領域に区分した結果、図3の例では複数の大領域が不等間隔で区分されており、複数の大領域が不規則に並べられている。例えば、領域番号「01」が属するグループのNE範囲(NE3〜NE5)は、領域番号「00」が属するグループのNE範囲(NE1〜NE2)と比べれば広く、領域番号「02」が属するグループのNE範囲(NE6〜NE9)と比べれば狭い。また、例えば、領域番号「06」が属するグループのPM範囲(PM7〜PM10)は、領域番号「01」が属するグループのPM範囲(PM1〜PM3)と比べて広い。
【0083】
また、同一空燃比範囲と同一グループ範囲とが重複するよう学習マップMg1を複数の領域に区分した結果、図3の例では1つの大領域が他の大領域により複数に分断されて、学習マップMg1上において離散して配置されている。例えば、領域番号「00」が属するグループの一部であってPM5,NE3に該当する小領域は、領域番号「03」が属するグループにより、PM1〜PM10,NE1〜NE2に該当する小領域から離散して配置されている。
【0084】
ちなみに、エンジン10を市場へ出荷する前に予めエンジン10を運転させて学習値を記憶更新させていく試験を実施し、その試験により得られた目標空燃比が同一となった小領域をグループ化して、上述した大領域の区分を設定すればよい。或いは、前記試験により学習値が同一となった小領域をグループ化して、上述した大領域の区分を設定してもよい。これらの設定では、グループ化された複数の小領域の学習値が厳密に同一となることに限定されず、例えば、学習値の存在範囲を所定範囲毎に分け、その所定範囲内の学習値となった小領域同士をグループ化するようにしてもよい。
【0085】
ECU30のマイコンは、先述したように、A/Fフィードバック制御が安定したことを条件として、その時の経年変化補正量(学習値)を学習マップMg1中の該当する小領域へ記憶更新させる。そして、このようにいずれかの小領域に対して学習が為された時に、その更新された学習値を他の小領域へコピーする処理を実施する。
【0086】
以上により、本実施形態によれば、学習マップMg1は、エンジン回転速度NE及び吸気圧PMを複数の小領域に区分して構成されているとともに、これらの小領域を複数のグループに分けて大領域を設定している。そして、マップMQ中の同一空燃比範囲と、学習マップMg1中の同一グループ範囲とが一致(又は少なくとも一部が重複)するようグループ化されている。換言すれば、該当する大領域内での目標空燃比が同じとなるよう複数の小領域はグループ化されている。その結果、複数の大領域の形状が各々異なる形状となるよう学習マップMg1は異形区分されることとなる。そして、1つの小領域で学習値が記憶更新された場合には、その小領域の学習値を同一の大領域内の他の小領域へコピーする。
【0087】
したがって、EEPROM30cの記憶容量を、学習マップMg1中の小領域の数だけ記憶容量を確保させた場合に比べて少なくできる。よって、学習値を記憶させるEEPROM30cの記憶容量増加回避及びCPU30dの演算負荷増大回避と、実空燃比を目標空燃比に合わせる制御の高精度化との両立を図ることができる。
【0088】
また、上述の如く学習値をコピーするので、マップ中の未学習となっている小領域の数を少なくできる。よって、学習済みの小領域から未学習の小領域へと内燃機関の運転状態が変化する機会を減少できるので、運転状態の変化に対する燃料噴射弁16への指令信号の変化を適切な変化にすることができる。つまり、噴射量制御が不連続となることを回避できるので、ドライバビリティの向上を実現できる。
【0089】
さらに本実施形態では、学習マップMg1上において離散配置されている領域同士(例えば、領域番号「01」)であっても、略同一(所定範囲内)の目標空燃比になっていれば、それらを1つの大領域としてグループ化している。これによれば、大領域の範囲を大きくすることをさらに促進できる。よって、EEPROM30cの記憶容量増加回避及びCPU30dの演算負荷増大回避と、制御精度向上との両立をさらに促進できるとともに、未学習となっている大領域の数を少なくしてドライバビリティを向上させることをさらに促進できる。
【0090】
(第2実施形態)
本実施形態では、図3に示す学習マップMg1を、図4に示す学習マップMg2に変更しており、当該学習マップMg2では、以下に説明する特定小領域及び独立小領域が設定されている。
【0091】
図4に示す例では、エンジン回転速度NE及び吸気圧PM(エンジン負荷)を運転状態量として用いており、これら両パラメータNE,PMを等間隔で分割している。具体的には、エンジン回転速度NEをNE1〜NE9の9分割とし、吸気圧PMをPM1〜PM10の10分割としている。したがって、学習マップMg2は90個の小領域に等間隔で分割されている。
【0092】
各々の小領域には領域番号「00」〜「08」「A8」「B8」等が付与されている。これらの領域番号は、1桁目のグループ番号「0」〜「8」と2桁目の属性番号「0」「A」「B」とを組み合わせて構成されている。そして、同じグループ番号の小領域については同じ学習値を記憶更新させており、グループ化されていると言える。図4の例では、学習マップMg2中の太線で囲った大領域が小領域のグループ範囲を示している。換言すれば、学習マップMg2は9個の大領域に分割して構成されている。
【0093】
属性番号「0」は該当する小領域が通常小領域であることを示し、属性番号「A」は該当する小領域が後述する特定小領域であることを示し、属性番号「B」は該当する小領域が後述する独立小領域であることを示す。
【0094】
通常小領域とは、他の小領域の学習値を自身へコピーすること、及び自身の学習値を他の小領域へコピーすることの両方を許容する領域である。特定小領域とは、他の小領域の学習値を自身へコピーすることは許容するが、自身の学習値を他の小領域へコピーすることは禁止されている領域である。独立小領域とは、他の小領域の学習値を自身へコピーすること、及び自身の学習値を他の小領域へコピーすることのいずれもが禁止されている領域である。
【0095】
例えば、通常小領域の学習値が新規に記憶された場合又は記憶更新された場合には、その通常小領域の学習値を、同一グループ内(同一大領域内)の他の小領域へコピーする。但し、前記他の小領域が独立小領域である場合には前記コピーを禁止する。前記他の小領域が通常小領域又は特定小領域である場合には前記コピーを許可する。また、特定小領域又は独立小領域の学習値が新規に記憶された場合又は記憶更新された場合には、その特定小領域又は独立小領域の学習値を他の小領域へコピーすることを禁止する。
【0096】
特定小領域は、通常小領域に比べて学習頻度が低くなると想定される小領域として予め設定された領域であり、図4の例では、高負荷PM7,PM8,PM9、かつ高回転NE9の領域を特定小領域A8に設定している。このような高負荷高回転の領域は使用する頻度が極めて低く、かつ、その領域を保持している時間も極めて短い。そのため、仮に、運転条件がこの高負荷高回転領域になって学習したとしても、その学習値は信頼性が低い。
【0097】
なお、特定小領域の他の例としては、エンジンブレーキを発揮させることが想定される小領域(例えば低負荷PM1かつ高回転NE9の領域)、或いは内燃機関での燃焼が不安定になると想定される小領域(例えば高負荷PM9かつ低回転NE1の領域)を特定小領域として設定することが挙げられる。これらの領域についても、仮に学習したとしてもその学習値は信頼性が低い。
【0098】
独立小領域は、スロットルバルブ13を最大にして内燃機関の出力を最大とするよう運転者により操作されていると想定される小領域として予め設定された領域であり、所謂WOT(wide-open throttle)領域である。図4の例では、高負荷PM10の領域を独立小領域B0,B6,B7,B8に設定している。
【0099】
図5は、ECU30のマイコンが行う処理のうち、学習マップMg2中のある小領域で学習値が記憶更新された場合の、他の小領域への学習値のコピーを実施する処理の手順を示すフローチャートである。先述したように、A/Fフィードバック制御が安定したことを条件として、その時の経年変化補正量(学習値)を学習マップMg2中の該当する小領域へ記憶更新させる。このようにいずれかの小領域に対して学習が為された時に、図5の処理が実行される。
【0100】
先ず、ステップS10において、学習した小領域が特定小領域であるか否かを判定し、続くステップS20では、学習した小領域が独立小領域であるか否かを判定する。特定小領域及び独立小領域のいずれでもないと判定された場合に(S10:NOかつS20:NO)、続くステップS30において、学習した小領域と同一の大領域内の他の小領域のうち、独立小領域を除く全ての小領域へ、学習した小領域の学習値をコピーする。一方、学習した小領域が特定小領域或いは独立小領域であると判定された場合には(S10:YES又はS20:YES)、学習値を他の小領域へコピーすることなく図5の処理を終了する。
【0101】
以上により、本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果に加え、以下の効果が発揮される。すなわち、信頼性が低いと想定される小領域を「特定小領域」として予め設定しておき、特定小領域から他の小領域への学習値のコピーを禁止する。そのため、大領域内全体が信頼性の低い学習値になることを回避できる。但し、他の小領域から特定小領域への学習値のコピーは許可するので、特定小領域を速やかに学習済みにすることができる。
【0102】
ところで、自動2輪車に搭載されたエンジン10の場合、自動4輪車に搭載されたエンジンに比べてエンジン回転速度NEの最高値が高く、回転の立ち上がり及び立下りが速い(つまり回転速度NEが急激に変化する)といった特性がある。したがって、本実施形態にかかる自動2輪車用エンジン10の場合、信頼性が低いと想定される小領域(特定小領域)が顕著に存在することとなる。そのため、自動2輪車用エンジン10に本発明の空燃比制御装置を適用した本実施形態によれば、上述の如く特定小領域を設置したことによる効果が好適に発揮される。
【0103】
また、本実施形態では、他の小領域からWOT領域(独立小領域)への学習値のコピーを禁止するとともに、WOT領域から他の小領域への学習値のコピーも禁止する。そのため、WOT領域へ他の小領域の学習値をコピーすることにより燃料噴射量が最大にならないといった懸念や、WOT領域から他の小領域へ学習値をコピーすることにより他の小領域において燃料噴射量が過大になるといった懸念を解消できる。
【0104】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、学習マップMg1を小領域に区分し、これらの小領域をグループ化した結果、学習マップMg1は複数の大領域に区分して構成されている。これに対し、図6に示す本実施形態では、小領域に区分することを廃止して、該当する大領域内での目標空燃比が同じとなるよう複数の大領域に区分して学習マップMg3を構成する。なお、上記第2実施形態にかかる特定小領域及び独立小領域を設定したい場合には、図6に示す学習マップMg3中に、これらの特定小領域及び独立小領域を大領域とは別に設定すればよい。
【0105】
以上により、本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。なお、図6に示す例では、1つの大領域(例えば「00」「01」「05」に示す大領域)が他の大領域により複数に分断されて、学習マップMg3上において離散して配置されている。また、図6に示す例では、複数の大領域が不等間隔で区分されている。
【0106】
(第4実施形態)
上記第3実施形態にかかる学習マップMg3では、1つの大領域を離散して配置させているが、図7に示す本実施形態では、このような離散して配置することを廃止している。但し、該当する大領域内での目標空燃比が同じとなるよう、複数の大領域を不等間隔で区分させている。なお、上記第2実施形態にかかる特定小領域及び独立小領域を設定したい場合には、図7に示す学習マップMg4中に、これらの特定小領域及び独立小領域を大領域とは別に設定すればよい。以上により、本実施形態によっても、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0107】
(第5実施形態)
上記各実施形態では、小領域の学習値が新規に記憶された場合又は記憶更新された場合には、その小領域の学習値(基準学習値)と同じ値を、同一グループ内(同一大領域内)の他の小領域へコピーしている。これに対し本実施形態では、予め設定された重み付けに基づき前記基準学習値を補正し、その補正後の値を他の小領域へコピーしている。
【0108】
図8は、本実施形態による上記補正の一態様を示す図であり、図8の縦軸は、図3の学習マップMg1のうち領域番号「01」の学習値を示し、図8の横軸は、学習マップMg1の横軸である吸気圧PMを示す。また、図8の例では、図中の白丸に示す学習値g1a,g2a,g3a,g5aが学習マップMg1に記憶されている状態において、PM1の領域の学習値g1aが黒丸に示す学習値g1b(基準学習値)に更新された場合を想定している。この場合、他の小領域PM2,PM3,PM5の学習値g2a,g3a,g5aも同様にΔQだけ変化させてg2a’,g3a’,g5a’とするのではなく、それぞれの小領域に設定された重み付けw2,w3,w5に応じて変化量ΔQを補正して、その補正後の変化量だけ学習値g2a,g3a,g5aを変化させている。
【0109】
要するに、図8の例では他の小領域PM2,PM3,PM5の学習値を基準学習値g1bと同じ値に更新するのではなく、重み付けw2,w3,w5に基づき基準学習値g1bを補正した値に更新している。その結果、同一グループ内の小領域は異なる値の学習値g1b,g2b,g3b,g5bを記憶することとなる。なお、図8の例では小領域PM2,PM3,PM5の各々の重み付けw2,w3,w5は0.7,0.4,0.0に設定されている。したがって、小領域PM5は学習前後で同じ値になっている。
【0110】
なお、コピー先の小領域PM2,PM3,PM5が未学習の場合には、基準学習値g1bと同じ値をコピー先の小領域へコピーし、コピー先の小領域PM2,PM3,PM5が学習済みの場合には、先述のように重み付けw2,w3,w5に基づき基準学習値g1bを補正した値をコピーする。
【0111】
図8は、各々の学習値g1a,g2a,g3a,g5aが同一の値になっている初期状態を想定した一態様であるのに対し、図9は、各々の学習値g1a,g2a,g3a,g5aが異なる値になっている状況下で、PM1の領域の学習値g1aが基準学習値g1bに更新された場合の一態様である。PM1の領域の学習値を更新させる時の変化量がΔQである場合に、予め設定されている重み付けw2,w3,w5をΔQに乗算して補正して、各小領域PM2,PM3,PM5の更新変化量ΔQ×w2,ΔQ×w3,ΔQ×w5を算出する。そして、各小領域PM2,PM3,PM5のg2b,g3b,g5bに前記更新変化量を加算して、学習値g2b,g3b,g5bとなるように更新する。
【0112】
図10は、図3に示す学習マップMg1の部分拡大図であり、カッコ内に示す数値は、小領域毎に予め設定しておいた重み付けw1,w2,w3,w5を示す。図10の例では、吸気圧PMに応じて重み付けを異なる値に設定している。つまり、同一グループ内において吸気圧PMが同じである小領域同士については、重み付けを同じ値に設定している。これに対し図11に示す変形例1では、同一グループ内においてエンジン回転速度NEが同じである小領域同士について、重み付けを同じ値に設定している。そして、これらの重み付けw1,w2,w3,w5の値は、コピー元の小領域(PM1,NE3)から離れた領域であるほど小さい値に設定して、コピー先における基準学習値g1bの反映度合いを低くしている。
【0113】
また、図12に示す変形例2では、エンジン回転速度NE又は吸気圧PMが同じ小領域であっても重み付けを異なる値に設定することを許容した例である。但し、コピー元の小領域(PM1,NE3)からコピー先の小領域までの学習マップMg1上の距離が遠いほど重み付けの値を小さく設定して、コピー先における基準学習値g1bの反映度合いを低くしている。
【0114】
以上により、本実施形態によれば、図8の符合g2b’,g3b’,g5b’に示す如く基準学習値g1bと同一の値を他の小領域へコピーさせるのではなく、予め設定した重み付けに応じた値に他の小領域の学習値を更新させるので、コピー先の学習値を最適な値に高精度で近づけることができる。
【0115】
(第6実施形態)
上記第5実施形態では、コピー元の小領域(PM1,NE3)からコピー先の小領域までの距離が遠いほど重み付けの値を小さく設定しているのに対し、本実施形態では、コピー先の小領域が、以下に説明する「インパクト」が大きい領域であるほど、そのコピー先における重み付けを小さく設定している。
【0116】
すなわち、例えば低負荷低NEの小領域では、学習値を僅かに変化させただけでエンジン運転状態量が大きく変化する。これに対し高負荷高NEの小領域では、低負荷低NEの小領域に比べればエンジン運転状態量は大きく変化しない。つまり、学習値を所定量だけ変化させたことに起因して生じるエンジン運転状態量の変化を「インパクト」と定義しており、インパクトが大きい領域であるほど重み付けを小さくして基準学習値g1bの反映度合いを低くするのが本実施形態である。
【0117】
例えば、上記第5実施形態と同様にしてPM1,NE3の領域の学習値g1aが基準学習値g1bに更新された場合において、小領域PM2,PM3は小領域PM5に比べてインパクトが大きい領域であるとみなして、小領域PM2,PM3の重み付けw2,w3をPM5の重み付けw5よりも小さいに値に設定することが、本実施形態の一例として挙げられる。
【0118】
以上により、インパクトが大きい領域であるほど重み付けを小さくして基準学習値g1bの反映度合いを低くする本実施形態によれば、エンジンの運転状態量が急激に変化することを抑制でき、車両のドライバビリティを向上できる。
【0119】
(第7実施形態)
本実施形態では、複数の大領域の形状を各々異ならせて区分する異形区分の例として、図3に示す学習マップMg1とは別の態様で異形区分した種々の例を、図13〜図16を用いて説明する。
【0120】
図13に示す学習マップMg5は、実線に示す6個の大領域「00」〜「05」に異形区分されている。図中の点線で区分された各領域は小領域を示す。3つの大領域「00」「03」「05」は四角形であり、残り3つの大領域「01」「02」「04」は六角形である。また、同じ四角形であっても大領域「00」と大領域「03」はその形状を異にする。また、同じ六角形であっても大領域「01」「02」「04」はその形状を異にする。つまり、大領域「00」と「05」が同じ形状であることを除けば、他の大領域は全て異なる形状に区分(異形区分)されていると言える。
【0121】
すなわち、学習マップMg5のうち目標空燃比が同じとなる領域をグループ化したときのグループ毎の形状は、全てが同じ形状で規則正しく並ぶことはなく、各々が異なる形状で不規則に並ぶこととなる。この異形で不規則な並びに対応して、大領域を異形区分している。例えば、大領域内での目標空燃比が同じとなるよう異形区分した結果、大領域「03」に含まれる小領域03aが2つの大領域「00」「04」と隣接することとなる。或いは、大領域「03」の角部p3は、大領域「04」の角部とは接触するものの、大領域「00」の角部とは接触していないようになる。
【0122】
図14に示す学習マップMg6はMg5の変形例であり、大領域「01」が、他の大領域「04」により複数に分断されて離散配置された小領域01aを有する例である。例えば、目標空燃比が同じとなる領域が離散的に分布していたとしても、前記小領域01aの如く離散配置することで、同じ学習値を記憶させるようグループ化できる。なお、小領域01bは、小領域01cと角部p5が接触する態様で離散配置された例を示す。
【0123】
なお、このように離散配置された小領域01a,01bは、同一大領域01内の他の小領域(小領域01bの左側に位置する13個の小領域)と比べて学習頻度が高く、小領域01a,01bによって頻繁に得られる学習値を13個の他の小領域にコピーすることで、相対的に学習頻度の低い他の小領域の学習値の更新頻度が増え、未学習領域を減らすことができる。
【0124】
図15に示す学習マップMg7はMg5の変形例であり、高精度な学習値が要求される領域について、大領域の区分数を増加した例であり、具体的には、NE=3500〜5500rpm、PM=50〜80kPaの領域に4つの大領域「06」〜「09」を増加させている。なお、この学習マップMg7は、排気量125ccの小型二輪車を想定したものである。追加した4つの大領域「06」〜「09」は、他の大領域よりも小さく設定されており、図15の例では1つの小領域で1つの大領域を構成している。
【0125】
なお、アイドル回転速度で低負荷の領域には高精度な学習値が要求される場合が多いので、このようなアイドル領域に対応する大領域を、他の大領域よりも小さい形状(例えば1つの小領域で構成)に設定して好適である。また、空燃比が大きく変化していく領域に対応する大領域についても高精度な学習値が要求される場合が多いので、空燃比変化が大きい領域であるほど、対応する大領域の形状を小さく設定して好適である。
【0126】
図16に示す学習マップMg7はMg5の変形例であり、大領域の区分数を変更させることなく小領域の区分数を増加させている。このように小領域の区分数を増加させることで、一点鎖線に示す部分のように大領域の形状を細かく設定でき、大領域の形状設定自由度を向上できるので、学習値の精度を向上でき、空燃比の制御性を向上できる。それでいて、大領域の区分数を増加させることは不要であるため、学習値を記憶させるメモリの記憶容量増加回避、及び学習値を記憶更新させる処理等の演算負荷増大回避を図ることと、空燃比の制御性向上との両立を図ることができる。
【0127】
なお、本実施形態では小型二輪車を想定したが、大型二輪車及び四輪自動車であっても同様の作用効果を奏する。
【0128】
(第8実施形態)
上記各実施形態では、1つの小領域で学習値が記憶更新された場合には、その小領域と同一の大領域内の他の小領域についてはコピーして学習値を変更させるものの、他の大領域については学習値を変更させない。これに対し本実施形態では、1つの小領域で学習値が記憶更新された場合に、その小領域と同一の大領域内の他の小領域のみならず、他の大領域内の学習値をも変更(補正)させる。
【0129】
図17に示す学習マップMg9を用いて具体的に説明すると、例えば大領域「01」内の符号01dに示す小領域について学習値が更新された場合に、大領域「01」内の全ての小領域へ小領域01dの学習値をコピーするとともに、他の大領域「00」「02」〜「08」のうち予め指定された大領域「07」「08」に対して、或いは全ての大領域「00」「02」〜「08」に対して、学習値を補正する。或いは、大領域「01」と「07」「08」とを予め関連付けしておき、大領域「01」の学習値が記憶更新された場合に、関連付けされた大領域「07」「08」のみを補正するようにしてもよい。
【0130】
次に、上記補正を実施する際の補正量について説明する。例えば、小領域01dの学習前の値がA、学習後の値がBである場合において、小領域01dの学習値の変化量A−Bが大きいほど、他の大領域「00」「02」〜「08」の補正量を大きくする。
【0131】
例えば、大領域「01」での変化率(A−B)/Aを算出し、他の大領域「07」「08」の既存の学習値に前記変化率を乗じて補正する。或いは、他の大領域「07」「08」毎に重みを設定しておき、既存の学習値に前記変化率及び重みを乗じて補正してもよい。又は、大領域「01」での変化量(A−B)を算出し、他の大領域「07」「08」の既存の学習値に前記変化量を加算して補正する。或いは、他の大領域「07」「08」毎に重みを設定しておき、前記変化量に重みを乗じて得られた値を、既存の学習値に加算して補正してもよい。これにより、小領域01dの学習値の変化量A−Bが大きいほど、他の大領域「00」「02」〜「08」の補正量は大きくなる。
【0132】
さらに、上記補正量に関し、記憶更新した大領域「01」から他の大領域「07」「08」が離れているほど、他の大領域「07」「08」に対する補正量を小さくする。例えば小領域01dの学習値を記憶更新した場合において、その小領域01dに該当する大領域「01」からの距離は、大領域「08」の方が「07」より遠い(離れている)。この場合、例えば大領域「08」に対する前記重みを「07」に対する重みよりも小さく設定することで、大領域「08」の補正量又は補正割合を「07」よりも小さくする。
【0133】
ここで、複数の大領域の学習値同士は少なからず相関性を有しているため、例えば大領域「01」の学習値を増加させた場合には他の大領域「00」「02」〜「08」の学習値も増加させるのが妥当であることが多い。例えば、燃料タンクへ補給した燃料の性状が残存燃料の性状と異なる場合には、全ての大領域「00」〜「08」において学習値を増加又は減少させるのが妥当である。この点を鑑み、本実施形態では、1つの大領域「01」で学習値が記憶更新された場合には、その記憶更新された学習値に応じて他の大領域「00」「02」〜「08」の学習値を補正するので、学習していない他の大領域の学習値についても、車両の特性に合った最適な値にすることができる。
【0134】
さらに本実施形態によれば、例えば他の領域「00」「02」〜「08」が未学習である場合に、その未学習大領域「00」「02」〜「08」の学習初期値を補正して学習済みにできるので、未学習の大領域「00」「02」〜「08」を早期に無くすことができる。よって、学習済みの大領域から未学習大領域へ運転状態が変化した時にドライバビリティが急激に変化する等のリスクを低減できる。よって、ドライバビリティを向上させるよう学習値を最適にできる。
【0135】
また、本実施形態によれば、記憶更新による学習値の変化量A−Bが大きいほど他の大領域に対する補正量を大きくするので、他の大領域の学習値を最適な値に近づけることを促進できる。また、記憶更新した大領域「01」から他の大領域「07」「08」が離れているほど、他の大領域「07」「08」に対する補正量を小さくするので、他の大領域「07」「08」の学習値を過剰に補正してしまうことを抑制して、各々の学習値を車両の特性に合った最適値に近づけることを促進できる。
【0136】
(第8実施形態の変形例)
上記第8実施形態を実施するにあたり、学習値の変化量が所定量以上であることを条件として他の大領域の学習値を補正するようにしてもよい。例えば小領域01dの学習値が記憶更新された場合において、小領域01dの学習値の変化量A−Bが予め設定しておいた所定量未満であれば、他の大領域「00」「02」〜「08」について前記補正を実施することを禁止する。一方、前記変化量A−Bが所定量以上であれば、他の大領域「00」「02」〜「08」について前記補正を実施することを許可する。
【0137】
ここで、燃料性状が急変した場合には全ての大領域「00」〜「08」において学習値を変化させるのが妥当であるが、記憶更新による学習値の変化量が所定量未満であれば、燃料性状が急変していない可能性が高い。この点を鑑みた本変形例では、学習値の変化量A−Bが所定量以上であることを条件として他の大領域「00」「02」〜「08」の学習値を補正するので、燃料性状が急変していない場合等、補正が不要な場合にまで他の大領域「00」「02」〜「08」の学習値を補正してしまうことを回避できる。
【0138】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0139】
・上記各々の学習マップMg1〜Mg9に記憶された学習値(経年変化補正量)を用いて目標噴射量を補正するにあたり、現時点でのエンジン運転状態が学習マップ中の複数の小領域(又は大領域)の境界付近にある場合には、現時点でのエンジン運転状態に該当する領域の学習値と、隣接する領域の学習値とを用いて線形補間を行い、この線形補間により得られた値を用いて目標噴射量を補正するようにしてもよい。
【0140】
・上記第2実施形態では、独立小領域を通常小領域とグループ化して、独立小領域を大領域に含ませているが、独立小領域を大領域から外すよう学習マップMg1を構成してもよい。
【0141】
・エンジン回転速度NE及びエンジン負荷に基づき燃料の目標噴射量を算出するにあたり、上記第1実施形態では、エンジン負荷を表すパラメータとして吸気圧PM1を用いている。換言すれば、エンジン負荷と相関のある吸気量を吸気圧PM1から推定し、推定した吸気量を用いて目標噴射量を算出している。これに対し、スロットル開度センサ14によるスロットル開度を用いて、或いはスロットル開度から推定した吸気量を用いて目標噴射量を算出してもよい。この場合の学習マップは、エンジン回転速度NE及びスロットル開度を複数の領域に区分して構成してもよい。
【0142】
・また、吸気量(質量)を検出するエアフロメータ27(図1参照)を設け、エアフロメータ27により検出した吸気量を用いて目標噴射量を算出してもよい。この場合の学習マップは、エンジン回転速度NE及び吸気量を複数の領域に区分して構成してもよい。
【0143】
・上記各実施形態では、エンジン10の運転状態量としてエンジン回転速度NE及びエンジン負荷(吸気圧PM)を採用し、これらNE,PMを複数に区分して学習マップMg1〜Mg4を構成しているが、本発明はこれに限られるものではなく、例えばエンジン冷却水温度TWをNE,PMに加えて、これらNE,PM,TWの各々を複数に区分して構成した3次元マップとなるよう学習マップを構成してもよい。この場合においても、同一の大領域内での目標空燃比が同じとなるように大領域を区分する(又は小領域をグループ化する)ことが要求される。
【0144】
・上記第5及び第6実施形態では、重み付けを0以上1以下の値に制限してコピー先学習値の変化量がコピー元学習値の変化量ΔQよりも少なくなるように設定しているが、重み付けを1以上の値に設定してもよい。また、重み付けを0未満の値(負の値)に設定して、コピー元学習値の増加減少とは逆向きにコピー先学習値を増加減少させてもよい。
【0145】
・上記第5及び第6実施形態においても、上記第2実施形態と同様に「通常小領域」「特定小領域」「独立小領域」を設定することが望ましい。すなわち、通常小領域においては、他の小領域の学習値を重み付けwに基づき補正して自身へコピーすること、及び自身の学習値を重み付けwに基づき補正して他の小領域へコピーすることの両方を許容する。また、特定小領域においては、他の小領域の学習値を重み付けwに基づき補正して自身へコピーすることは許容するが、自身の学習値を重み付けwに基づき補正して他の小領域へコピーすることは禁止する。また、独立小領域においては、他の小領域の学習値を重み付けwに基づき補正して自身へコピーすること、及び自身の学習値を重み付けwに基づき補正して他の小領域へコピーすることのいずれも禁止する。
【0146】
・上述した各種の学習マップMg1〜Mg9では、学習領域の外縁を四角形に設定しているが、図16中の二点鎖線に示すように、学習領域の外縁が六角形以上の多角形となるように異形区分して大領域を設定してもよい。
【0147】
・本発明は、学習マップ中の複数の大領域の全てが異なる形状となるよう異形区分することに限らず、少なくとも1つの大領域が他の大領域と異なる形状になっていればよい。但し、同一大領域内での目標空燃比が略同一(所定範囲内)となっていることを要する。
【0148】
・上記第8実施形態を実施するにあたり、学習頻度が高いと予測される大領域(例えば「01」)を予め設定しておき、当該大領域「01」の学習値が記憶更新されたことを条件として、他の大領域「00」「02」〜「08」の補正を許可し、設定された大領域「01」以外の大領域(例えば「08」)の学習値が記憶更新された場合には、他の大領域「00」〜「07」の学習値を補正することを禁止するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0149】
30…ECU(フィードバック補正手段、学習値更新手段)、Mg1,Mg3,Mg4,Mg5,Mg5,Mg6,Mg7,Mg7,Mg8,Mg9…学習マップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の実空燃比を制御するアクチュエータへ出力される空燃比制御指令値を、排気中の酸素濃度に基づき補正するフィードバック補正手段と、
前記フィードバック補正手段による補正量を学習値とし、前記内燃機関の運転状態量と関連付けして学習マップに記憶更新させる学習値更新手段と、
を備え、
前記学習マップは、前記運転状態量を複数の大領域に区分して構成されているとともに、該当する大領域内での目標空燃比が所定範囲内となるよう、複数の前記大領域のうち少なくとも1つの大領域の形状を他の大領域の形状と異ならせて区分する異形区分が為されていることを特徴とする空燃比制御装置。
【請求項2】
前記大領域をさらに複数に区分した小領域であって、異なる2つの大領域と隣接する小領域が存在するよう前記異形区分が為されていることを特徴とする請求項1に記載の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記大領域をさらに複数に区分した小領域であって、異なる4つ以上の大領域と隣接する小領域が存在するよう前記異形区分が為されていることを特徴とする請求項2に記載の空燃比制御装置。
【請求項4】
所定の大領域の角部のうち前記学習マップの外縁以外に位置する角部が、他の大領域の1つの角部としか接触しないよう、前記異形区分が為されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項5】
角部を6つ以上有する多角形の大領域が存在するよう、前記異形区分が為されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項6】
前記学習マップは、前記大領域をさらに複数の小領域に区分して構成されているとともに、前記小領域の各々に前記学習値を記憶させるよう構成され、
1つの小領域で前記学習値が記憶更新された場合には、その小領域の学習値を同一の大領域内の他の小領域へコピーすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項7】
複数の前記小領域のうち予め設定された特定小領域について、前記特定小領域と同一大領域内の他の小領域から前記特定小領域への学習値のコピーは許可し、前記特定小領域から前記他の小領域への学習値のコピーは禁止することを特徴とする請求項6に記載の空燃比制御装置。
【請求項8】
前記他の小領域に比べて学習頻度の低い小領域を、前記特定小領域として設定することを特徴とする請求項7に記載の空燃比制御装置。
【請求項9】
複数の前記小領域のうち予め設定された独立小領域について、前記独立小領域と同一大領域内の他の小領域から前記独立小領域への学習値のコピーを禁止するとともに、前記独立小領域から前記他の小領域への学習値のコピーも禁止することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項10】
前記内燃機関の出力を最大とするよう運転者により操作されていると想定される小領域を、前記独立小領域として設定することを特徴とする請求項9に記載の空燃比制御装置。
【請求項11】
前記学習マップは、前記大領域をさらに複数の小領域に区分して構成されているとともに、前記小領域の各々に前記学習値を記憶させるよう構成され、
1つの小領域で前記学習値が記憶更新された場合には、その小領域の学習値を同一の大領域内の他の小領域へ、予め設定された重み付けに基づき補正してコピーすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項12】
コピー先の小領域がコピー元の小領域から離れているほど、そのコピー先における前記重み付けを小さく設定することを特徴とする請求項11に記載の空燃比制御装置。
【請求項13】
コピー先の小領域が、前記学習値を変化させることによる前記運転状態量の変化が大きい領域であるほど、そのコピー先における前記重み付けを小さく設定することを特徴とする請求項11又は12に記載の空燃比制御装置。
【請求項14】
複数の前記小領域のうち予め設定された特定小領域について、前記補正してコピーすることを、前記特定小領域と同一大領域内の他の小領域から前記特定小領域へは許可し、前記特定小領域から前記他の小領域へは禁止することを特徴とする請求項11〜13のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項15】
複数の前記小領域のうち予め設定された独立小領域について、前記補正してコピーすることを、前記独立小領域と同一大領域内の他の小領域から前記独立小領域へ、及び前記独立小領域から前記他の小領域へのいずれについても禁止することを特徴とする請求項11〜14のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項16】
1つの前記大領域で前記学習値が記憶更新された場合には、その記憶更新された学習値に応じて他の大領域の学習値を補正することを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項17】
記憶更新による学習値の変化量が所定量以上であることを条件として、他の大領域の学習値を補正することを特徴とする請求項16に記載の空燃比制御装置。
【請求項18】
記憶更新による学習値の変化量が大きいほど、他の大領域に対する補正量を大きくすることを特徴とする請求項16又は17に記載の空燃比制御装置。
【請求項19】
記憶更新した大領域から前記他の大領域が離れているほど、他の大領域に対する補正量を小さくすることを特徴とする請求項16〜18のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項20】
複数の前記大領域は、前記運転状態量を不等間隔に区分して設定されていることを特徴とする請求項1〜19のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【請求項21】
複数の前記大領域のうち少なくとも1つの大領域は、他の大領域により複数に分断されて、前記学習マップ上において離散して配置されていることを特徴とする請求項1〜20のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−31747(P2012−31747A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169791(P2010−169791)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】