説明

空調システム

【課題】所定の換気量が必要な空間であっても適正な空調を実現しつつ、空調に必要な空調設備の容量を削減して省力化可能な空調システムを提供することを課題とする。
【解決手段】室内の床側に空気を供給する置換換気方式の空調システムであって、前記室内の床から離間して設けた複数の空調室内機と、前記空調室内機から送られる空気を、前記室内の温度成層が保たれる所定の風速で吹き出す、前記室内の床側に前記複数の空調室内機の各々に対応付けて設置した複数の給気ユニットと、前記室内の天井側から取り込んだ還気および屋外から取り込んだ外気を前記複数の空調室内機の各々の吸込み側へ導く分岐経路を形成する吸気ダクトと、前記空調室内機の吹出し側と吸込み側とを接続する、前記空調室内機の吸気が前記空調室内機に規定されている上限温度を上回ると開方向に動作するダンパを途中に設けたバイパスダクトと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場のような比較的大きい室内においては、例えば、図8に示すような空調システム101が用いられている。すなわち、室内106に設置された室内機102が、還気(RA)および外気(OA)を吸い込んで、図示しない室外機から流れる冷媒で適当な温度に調整し、室内に給気(SA)する。そして、工場のような比較的大きい室内において、所望の箇所へ給気を行なうべく、例えば、図8に示す空調システム101のように、室内106の随所に給気が行き渡るよう、給気ダクト114を張り巡らして各給気口113から所望の箇所へ給気を行なう。
【0003】
このような空調システム101においては、給気を要するエリアの形状にあわせた給気ダクト114の設置が行なわれるため、例えば、工場の生産ラインのレイアウト変更等により給気を要するエリアの形状が変わる度に、給気ダクト114の改修工事が必要である。ダクトの改修工事は時間を要するため、工場の生産ラインの稼働開始の遅延等に繋がる。
【0004】
また、工場などでは換気目的の排気(EA)ファン107の風量が大きいため、室内機によって空調される空気の風量が相対的に不足する傾向になる。すなわち、室内が負圧になりやすいため、夏には高温多湿、冬には低温の空気が隙間から漏洩して流入し、空調負荷の増大や温熱環境の悪化の虞がある。また、室内機からの空気が室内の空気を攪拌して温度成層を乱すように吹き出ていると、室温に近い空気が天井の換気扇等から屋外へ排気されやすく、空調のために多くの熱エネルギーが必要である。更に、室内機からの空気が室内の空気を攪拌するように吹き出ていると、空調対象域で発生する熱や汚染質が天井から屋外へ効果的に排出されないため、これらを拡散させるためにより多くの空調エネルギーや新鮮な外気の導入が必要となる。
【0005】
このような問題に対応して、例えば、図9に示すような空調システム121も考案されている。この空調システム121は、室内126に設置した室内機122の給気口に、給気ユニット124をダクトで接続している。この給気ユニット124は、低速の給気を行なうことにより、床付近の作業空間を適正な温度に調整可能である。このような低速の給気を行なう給気ユニット124に関しては、例えば、特許文献1〜4に詳細が開示されている。
【0006】
このような空調システム121であれば、低速の給気によって床付近の空間が適正な温度に調整されるので、工場の生産ラインのレイアウトが変更されても改修工事が不要で、室外から高温多湿あるいは低温の空気が流入しても空調対象域の温熱環境が悪化せず、室内の天井付近の空気が給気と混合されないので室温に近い空気が天井から無駄に排気されることもなく、更に、空調対象域で発生する熱や汚染質の拡散のために、より多くの空調エネルギーや新鮮な外気の導入が必要となることもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4421347号公報
【特許文献2】特許第4574317号公報
【特許文献3】特開2007−292365号公報
【特許文献4】特開2007−322049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような空調システムにおいて、市販されている汎用のパッケージエアコン等を用いる場合には、室内機の吸込み湿球温度が、高圧カットを防止する観点で定められる一般的な上限値(例えば、冷房時24℃WB)を超える場合に備えるべく、高圧カットを防止したオールフレッシュ型のパッケージエアコンを用いる必要がある。オールフレッシュ型のパッケージエアコンは、通常型のパッケージエアコンに比べて風量を半分程度に減らすことで高圧カットを防止しているため、室内の空調に必要な冷房能力と風量を得るためには、倍程度の容量(台数)の室内機を室内に設置する必要がある。このため、室内のスペースが狭くなる虞がある。
【0009】
また、図8の空調システム101のように作業空間の上方に設置されていた給気口が、図9の空調システム121のようなシステム構成では床に設置された給気ユニット124に設けられることになるため、室内のスペースが狭くなる虞がある。
【0010】
また、低速の給気を行なう給気ユニットであれば、吹出し温度を高くしても作業空間の温熱環境を適正に維持できる。このため、冷房で消費するエネルギーを削減する目的で行なう外気冷房を、図8の空調システム101のようなシステム構成よりも長期間行なうことができるが、室内の空調に必要な冷房能力と風量を得る目的で室内機の台数を増やすと、外気を取り入れるためのダクトを取り回す量が増大する。
【0011】
また、床に置いた室内機と給気ユニットとを、室内に取り回したダクトで接続する際、生産ラインや通路類と干渉しないようダクトを立ち上げたりする必要もあり、ダクト量の増加や曲がり部分の増加によって送風動力が増大し、エネルギー消費が増大する虞もある。
【0012】
更に、還気のエンタルピよりも外気のエンタルピの方が高い場合には、必要な外気量を確保しつつ、必要な給気量を確保するように還気の量と外気の量とをダンパ開度の調整などによって適当に調整することが有効であるが、室内機の台数分のダンパが必要になり、設備費が増える虞がある。
【0013】
本願は、上記事項に鑑みてなされたものであり、所定の換気量が必要な空間であっても適正な空調を実現しつつ、空調に必要な空調設備の容量を削減して省力化可能な空調システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明では、複数の空調室内機を室内の床から離間して設け、この空調室内機から送られる空気を、床側に設置した給気ユニットによって、室内の温度成層が保たれる所定の風速で吹き出すことにした。そして、各空調室内機の吸込み側には、室内の天井側から取り込んだ還気および屋外から取り込んだ外気を導く吸気ダクトを接続することにし、更に、空調室内機の吹出し側と吸込み側とは、空調室内機の吸気が規定の上限温度を上回ると開方向に動作するダンパを途中に設けたバイパスダクトを接続することにした。
【0015】
詳細には、室内の床側に空気を供給する置換換気方式の空調システムであって、前記室内の床から離間して設けた複数の空調室内機と、前記空調室内機から送られる空気を、前記室内の温度成層が保たれる所定の風速で吹き出す、前記室内の床側に前記複数の空調室内機の各々に対応付けて設置した複数の給気ユニットと、前記室内の天井側から取り込ん
だ還気および屋外から取り込んだ外気を前記複数の空調室内機の各々の吸込み側へ導く分岐経路を形成する吸気ダクトと、前記空調室内機の吹出し側と吸込み側とを接続する、前記空調室内機の吸気が前記空調室内機に規定されている上限温度を上回ると開方向に動作するダンパを途中に設けたバイパスダクトと、を備える。
【0016】
ここで、上記空調室内機は、冷媒が管内を流れるコイルと熱交換を行うことにより空気を調和する空調機器であり、例えば、市販の天井吊り下げ或いは天井埋め込み型のパッケージエアコン等を適用することができる。
【0017】
また、上記給気ユニットは、直接または低い基台を介して室内の床に据え付ける床置式の空調機器であり、空調室内機によって調和された空気を、当該給気ユニットに設けた吹出口から所定の風速で吹き出す。ここで、所定の風速とは、室内の温度成層が保たれる風速であり、例えば、給気ユニットが旋回流誘引型でない場合は室内の温度成層が乱れない0.5m/s程度の微風速以下の風速であり、給気ユニットが旋回流誘引型の場合は室内の温度成層が乱れない1.2m/s程度の微風速以下の風速である。なお、給気ユニットは、1つの室内機に対して一対一で対応付けて設けられるものである必要は無く、例えば、1つの室内機に対して複数の給気ユニットが接続されていてもよいし、或いは、複数の室内機に対して1つの給気ユニットが接続されていてもよい。
【0018】
上記空調システムは、室内の天井側から取り込んだ還気および屋外から取り込んだ外気を、上記空調室内機が吸気ダクトから取り込み、この空調室内機が調和した空気を上記給気ユニットが所定の風速で室内に吹き出すことにより、室内の温度成層を保ちながら汚染質を天井側に搬送することができる。空調室内機が調和した空気の一部を、バイパスダクトを介して空調室内機が取り込むことにより、風量の少ないオールフレッシュ型ではなく、標準型の空調室内機でも置換換気を行なう空調システムを構成することができる。この結果、所定の換気量が必要な空間であっても適正な空調を実現しつつ、空調に必要な空調設備の容量を削減して省力化することが可能となる。
【0019】
ここで、前記吸気ダクトには、前記各空調室内機の吸込み側へ導く前記還気の量と前記外気の量とを、前記還気および前記外気の温度あるいはエンタルピに応じて調整可能なダンパが更に設けられていてもよい。上記吸気ダクトにこのようなダンパが設けられていれば、還気の量と外気の量とを、温度あるいはエンタルピに応じてダンパで調整することにより、空調温度を制御目標値に近づける上で好適な吸気を選択し、空調に要するエネルギー消費を削減することができる。
【0020】
また、上記空調システムは、前記空調室内機が処理する熱負荷に応じて、特定の吸気ダクトに繋がる空調室内機の運転台数、あるいは特定の吸気ダクトに繋がる空調室内機に冷媒を供給する空調室外機の運転台数を変更する制御手段を更に備えるものであってもよい。
【0021】
一般的に、空調機器の成績係数は一様でなく、特定の熱負荷をピークとしたカーブを描く。よって、空調室内機や空調室内機が複数あるようなシステム構成においては、上記制御手段のように、熱負荷に応じた運転台数の変更を行なうことにより、空調システム全体のエネルギー消費を削減できる。ここで、熱負荷に応じた運転台数の変更とは、複数ある空調室内機や空調室外機が成績係数の高い領域で運転されるよう、運転台数を増減させるものであり、例えば、成績係数が最も効率的になるような熱負荷が運転機に加わるよう、運転中の空調室内機の台数を調整することにより、空調室内機と室外機圧縮機のエネルギー消費を削減する。
【0022】
上記空調システムをこのような制御手段で制御することにより、システム全体のエネル
ギー消費を削減することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
上記空調システムであれば、所定の換気量が必要な空間であっても適正な空調を実現しつつ、空調に必要な空調設備の容量を削減して省力化可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る空調システムの構成図である。
【図2】全外気運転モードの運転状態を示した図である。
【図3】還気冷房運転モードの運転状態を示した図である。
【図4】暖房レス運転モードの運転状態を示した図である。
【図5】パッケージエアコンのCOPを示したグラフである。
【図6】パッケージエアコンが2台ある場合の運転フロー図である。
【図7】変形例に係る空調システムの構成図である。
【図8】従来技術に係る第一の空調システムの構成図である。
【図9】従来技術に係る第二の空調システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本願発明の実施形態について説明する。下記実施形態は、本願発明の一態様を示したものであり、本願発明の技術的範囲を下記の実施形態に限定するものではない。
【0026】
実施形態に係る空調システムの構成を図1に示す。この空調システム1は、図1に示すように、室内機2A,2Bや兼用吸込みチャンバ3、給気ユニット4A,4B、各種のダクト類を備えており、建物の室内6に設置されている。なお、室内6の天井には、図1に示すように、室内6を換気するための排気ファン7が設置されているが、室内6の空気汚染の可能性が低ければ排気ファン7は省略してもよい。また、一つの兼用吸込みチャンバ3に繋がった室内機2A,2Bや給気ユニット4A,4Bによって構成されるシステムは、室内6に複数設置されていてもよい。排気ファン7は、通年の季節変動や室内6の汚染状況等に応じて排気量を適宜変えられるよう、電源スイッチを個々に設けてもよいしファンの回転数を増減するインバータ装置を設けてもよい。なお、以降の運転態様の説明は、断りがない限り冷房時のものである。
【0027】
室内機2A,2Bは、天吊型の標準型室内機であり、空調機の市場において広く流通している一般的な製品を適用できる。但し、標準型室内機の吸込み空気の湿球上限温度は、例えば24℃WBとオールフレッシュ型よりも低い(狭い)。このため、この空調システム1では、室内機2の吹出し空気の一部を室内機2A,2Bに吸い込ませて、室内機2A,2Bの吸込み空気の湿球温度を湿球上限温度以下にするバイパスダクト8A,8Bを設けている。バイパスダクト8A,8Bは、室内機2A,2Bの吹出し側と吸込み側とを直接繋ぐことにより、室内6をバイパスする経路を形成する。なお、バイパスダクト8A,8Bを流すことが可能な風量は、室内6の熱的な環境にも依るが、概ね室内機2A,2Bの定格風量の2割程度であれば、室内機2A,2Bの吸込み空気の湿球温度が湿球上限温度を上回らない程度に制御できる。
【0028】
オールフレッシュ型のパッケージエアコンの場合、極度に低温あるいは高温の外気であっても吹出し温度を保障するべく、給気量が標準型のパッケージエアコンに比べて2分の1から3分の1程度である。しかしながら、上記室内機2A,2Bのように標準型の室内機であれば、吸込み空気の湿球温度が低い場合には十分な給気量を得ることができ、また、吸込み空気の湿球温度が高い故に給気の一部をバイパスダクト8A,8Bに流しても、オールフレッシュ型の場合よりも十分な給気量を確保することができる。
【0029】
室内機2A,2Bは、兼用吸込みチャンバ3に繋がっており、吸気ダクト9と兼用吸込みチャンバ3を介して外気(OA)や還気(RA)を吸い込む。そして、吸い込んだ空気を、図示しない室外機から流れる冷媒で適当な温度に調整し、温度調整した空気を給気ユニット4A,4Bへ送る。室外機は屋外や屋外と連通した機械室に設けられ、室内機2A,2Bに対応して1台、または共通して1台(マルチ方式)設けられる。室内機2A,2Bは、室内6に設けた温度センサ10の計測値(室内温度)が制御目標値(設定温度)になるように機内のファンの回転数や膨張弁の開度、室外機圧縮機の回転数を調整することにより、室内6の空調を行う。なお、室内機2A,2Bは、必ずしも室内6に設けた温度センサ10に基づいて室温を制御するもののみならず、例えば、室内機の出口と給気ユニットとの間にある給気経路の何れかの箇所に設けた温度センサの計測値(給気温度)が制御目標値(設定温度)になるように作動し、給気温度を制御するものであってもよい。
【0030】
また、吸気ダクト9には、外気の量を調整するダンパ11-OAや、還気の量を調整する
ダンパ11-RAが設けられている。ダンパ11-OA,11-RAは、適当な開度に調整可能な
ものであれば如何なるものであってもよいが、モータダンパを用いれば制御装置による電子制御が容易である。
【0031】
また、吸気ダクト9には、外気の温湿度を計測するセンサ12-OAや、還気の温湿度を
計測するセンサ12-RAが設けられている。なお、センサ12-OAやセンサ12-RAは、必
ずしも温度と湿度の両方を計測するものに限定されるものではなく、例えば、温度のみを計測するものであってもよい。
【0032】
また、バイパスダクト8A,8Bには、室内機2A,2Bの吹出し側から吸込み側へ戻る空気の量を調整するダンパ11A-BP,11B-BPが設けられている。このダンパ11A-BP,11B-BPについても、ダンパ11-OAやダンパ11-RAと同様、適当な開度に調整可能なものであれば如何なるものであってもよいが、モータダンパを用いれば制御装置による電子制御が容易である。ダンパ11A-BP,11B-BPは、室内機2A,2Bの吸込み空気の湿球温度が湿球上限温度を上回らないよう、室内機2A,2Bの吹出し側から吸込み側へ戻る空気の量を適当に調整する。バイパスダクト8A,8Bを、室内機2A,2Bの吹出し側から吸込み側へ流れる気流は、室内機のファンにより吸込み側が負圧となり吹出し側が正圧となることで形成される。なお、室内機2A,2Bの吹出し側から吸込み側へ流れる気流は、室内機とは別体として各バイパスダクト8A,8Bと吸気ダクト9との合流点の下流側、例えば、兼用吸込みチャンバ3の手前または内部に設置したファンによって形成しても良い。
【0033】
また、給気ユニット4A,4Bは、旋回流によって周囲の空気を誘引しながら室内6へ給気する旋回流誘引型給気ユニットであり、空気に旋回成分を与えるべく傾斜したフィンを放射状に設けた給気口が、フィンの傾斜方向が互いに逆向きになるように縦横に多数並んでいる。このように、空気の旋回方向が交互になるように給気口を設けることにより、給気口から吹き出る空気の旋回成分が相殺されず、互いに旋回運動を助長し合う。そして、給気口から空気が旋回しながら吹き出ることにより、誘引する周囲空気の誘引量が非旋回の場合よりも増大して給気速度が速やかに減衰し、室内6の気流を乱さずドラフト感の少ない低速な給気を実現する。
【0034】
置換換気を行なうシステムにおいては、室内の温度成層を乱さないことが重要であり、本空調システム1においても、室内6の温度成層を乱さないよう、室内機2A,2Bから送られる空気を給気ユニット4A,4Bにより低速で給気する。一般的に、旋回流誘引型の給気ユニットの場合は吹出口における風速が1.2m/s程度の微風速以下となるように給気すれば、温度成層が乱れにくいとされているため、給気ユニット4A,4Bや室内機2A,2Bの選定もこれに従うようにする。なお、給気ユニットが旋回流誘引型でない
場合には、0.5m/s程度の微風速以下となるように給気すれば、温度成層が乱れにくい。
【0035】
また、室内機2A,2Bと給気ユニット4A,4Bとを繋ぐダクトの途中には、空気の逆流を防止するダンパ11A-CD,11B-CDが設けられており、室内機2A,2Bのうち何れか一方の室内機が停止した際、停止した室内機を空気が逆流するのを防止する。なお、ダンパ11A-CD,11B-CDは、チャッキダンパであってもよいし、室内機の運転状態に応じて開閉動作するモータダンパや、油圧あるいは空気圧で開閉動作するシリンダダンパ等であってもよい。
【0036】
なお、本実施形態では、兼用吸込みチャンバ3に2つの室内機2A,2Bが接続され、室内機2A,2Bに給気ユニット4A,4Bが接続されているが、給気ユニットは1つの室内機に対して一対一で対応付けて設けられるものである必要は無く、兼用吸込みチャンバ3には1つの室内機あるいは3つ以上の室内機が接続されていてもよいし、1つの室内機に対して複数の給気ユニットが接続されていてもよいし、或いは、複数の室内機に対して1つの給気ユニットが接続されていてもよい。複数の室内機に対して1つの給気ユニットを接続する場合には、例えば、給気ユニットの内部を可動式のダンパあるいは仕切部材等で複数に区画し、各区画に対応付けて各給気ユニットが接続されるようにする。給気ユニットは、例えば、上面視矩形状に形成し、4方向に吹出す態様にすれば、給気ユニットの四隅の部分でダンパ等により内部を4つの区画に分け、各区画に給気ユニットを接続することで、1つの給気ユニットに対して4台の室内機を接続することが可能となる。
【0037】
また、還気を吸い込む吸込み口や、給気ユニット4A,4Bの給気口は、室内6を効果的に空調することができれば如何なる平面的位置であってもよいが、例えば、吸込み口を室内6の天井高の2分の1以上の高さにしておき、給気口の上端を室内6の天井高の2分の1より低い高さにしておくと、給気ユニット4A,4Bから低速で吹き出した温度の低い空気によって上昇させられた暖かい空気が吸込み口に吸い込まれるので、室内6を効率的に空調することができる。
【0038】
なお、吸込み口は、居住領域以上の高さであればよく、室内機2A,2Bが居住領域以上の高さに設置されている場合は、吸気ダクト9に還気用のダクトを設けずに兼用吸込みチャンバにダンパ付きの還気の吸込み口を設けても良いし、室内機2A,2B背面の開口(ダンパ付き)から直接還気を吸込むようにしても良い。
【0039】
このように構成される空調システム1であれば、風量の少ないオールフレッシュ型を用いず、標準型の天井埋め込み用あるいは天井吊り下げ用パッケージエアコンを用いることができ、また、給気側のダクトを兼用するために、より少ない室内機台数および容量、少ないダクト量、少ないダンパ台数でシステムを構築できる。この結果、設備費や保守費を大幅に削減でき、年間を通じた省エネルギー運転を実現することができる。また、置換換気の採用にあたっても床に設置する設備機器を少なくすることができ、室内で使用可能な面積を大きくすることができる。また、年間を通じて省エネルギー運転を実現しつつ、温熱快適性や空気清浄度の向上を図ることができる。更に、この空調システム1は、冷気を空調対象域に溜めるため、例えば、工場の生産ラインのレイアウト変更等に伴うダクトの改修工事が不要になる。
【0040】
なお、上記空調システム1は、前述した冷房運転以外では、例えば、次のように運転することができる。
【0041】
<全外気運転モード>
外気のエンタルピが還気のエンタルピ以下の場合(OAエンタルピ≦RAエンタルピ)
であって、外気温度が予め設定した既定の温度(以下、「最低外気設定温度」といい、例えば5℃とする)以上の場合(外気温度≧最低外気設定温度)に推奨する空調システム1の運転状態(本願では「全外気運転モード」という)を図2に示す。
【0042】
全外気運転モードの空調システム1は、ダンパ11-OAを全開とし、ダンパ11-RAを全閉にして室内機2A,2Bを送風運転にする。また、室内6の天井付近の熱気を十分に排出可能な風量が得られるよう、排気ファン7は全台運転する(インバータ装置を設けている場合には最大出力にする)。室内機2A,2Bが送風運転でも空調対象域の温度を設定温度以下に調整可能で、室外機の運転が不要な期間においては、室外機の電源は落として不要な待機電力を削減することが望ましい。
【0043】
なお、室内機2A,2Bを送風運転にしても空調対象域の温度が設定温度より高くなる場合には、室外機を起動して室内機2A,2Bを冷房運転にする。全外気運転モードにおいては外気のエンタルピが還気のエンタルピ以下であるため、室内機2A,2Bを冷房運転しても後述の「還気冷房運転モード」より少ないエネルギーで冷却可能である。
【0044】
また、上記空調システム1であれば、室内機2A,2Bが標準型のパッケージエアコンであるため、オールフレッシュ型のパッケージエアコンに比べて給気ユニット4A,4Bの風量を十分に確保し、作業空間の温熱環境を適正に維持できる。このため、消費するエネルギーを削減する目的で行なう「全外気運転モード」による運転を、図8に示したような空調システム101よりも長期間行なうことができる。
【0045】
<還気冷房運転モード>
外気のエンタルピが還気のエンタルピより高い場合に推奨する空調システム1の運転状態(本願では「還気冷房運転モード」という)を図3に示す。
【0046】
還気冷房運転モードの空調システム1は、ダンパ11-OAを最小外気量が確保できる開
度とし、ダンパ11-RAを全開にして室内機2A,2Bを送風運転にする。ここで、最小
外気量とは、空調対象域の汚染質を排除するために必要な外気の量であり、発生する汚染質の量や必要な清浄度に応じて適宜決定される量である。また、排気ファン7は、室圧が適正になるように運転台数を減らして(インバータ装置を設けている場合には室圧が適正になるように出力を減らして)運転することにより、室外から室内へ侵入する外気量を削減する。気密性が低く室外から室内へ漏洩する空気(以下、漏気という)が多ければ、排気ファン7の運転を制限して排気風量を削減することにより、還気のエンタルピを低減できる。ただし、室内6においてオイルミスト等の汚染質の発生量が多い場合には、室内6の換気回数が適正な回数(例えば、0.5回/h)以上になるようにすることが望ましい。
【0047】
なお、室内機2A,2Bを送風運転にしても空調対象域の温度が設定温度より高くなる可能性がある場合には、室外機を起動して室内機2A,2Bを冷房運転可能な状態にする。
【0048】
<暖房レスおよび暖房運転モード>
外気温度が最低外気設定温度未満の場合(外気温度<最低外気設定温度)と外気温度が低く、上述した全外気運転モードでは空調対象域の温度が第一の下限温度(例えば、18℃)以下になる場合に推奨する空調システム1の運転状態(本願では「暖房レス運転モード」という)を図4に示す。
【0049】
暖房レス運転モードの空調システム1は、室内6の作業域が適正な温度となるようにダンパ11-OAの開度とダンパ11-RAの開度の比率を制御し、室内機2A,2Bを送風運転
にする。給気ユニット4A,4Bの給気速度は緩やかなので、比較的高温の空気が室内6の上部に集まりやすい。よって、温度が比較的高い還気と温度が比較的低い外気とを、適当な比率で混合して給気ユニット4A,4Bから給気してやることにより、室内6の作業域をある程度適正な温度にすることができる。
【0050】
なお、排気ファン7は、室圧が適正になるように運転台数を減らして(インバータ装置を設けている場合には室圧が適正になるように出力を減らして)運転し、室外から室内へ侵入する外気量を削減する。漏気が多ければ、排気ファン7の運転を制限して排気風量を削減することにより、比較的低温な外気の進入を抑制できる。一般に、多くの工場では室内6内の機械類から発生する熱が多いため、冬期は漏気量を少なくすることにより、室内6が十分に暖まるまでの立ち上がり期間を除いて、冬期の暖房を不要にできる。ただし、室内6においてオイルミスト等の汚染質の発生量が多い場合には、室内6の換気回数が適正な回数(例えば、0.5回/h)以上になるようにすることが望ましい。
【0051】
また、外気温度が最低外気設定温度未満の場合(外気温度<最低外気設定温度)と外気温度が低く、上述した全外気運転モードでは空調対象域の温度が第一の下限温度よりも低い第二の下限温度(例えば、16℃)以下になる場合に推奨する空調システム1の運転状態(本願では「暖房運転モード」という)は、室内6の作業域が適正な温度となるようにダンパ11-OAを最小外気量が確保できる開度に絞りつつ、ダンパ11-RAを給気風量が確保できる開度にし、室内機2A,2Bを暖房運転にする。
【0052】
空調システム1をこのように運転すれば、年間を通じて効率的な空調システムの運用を実現することができる。上述した各運転モードは、制御装置によって自動的に切り替わるようにしてもよいし、手動で切り替えるようにしてもよい。制御装置による場合は、エンタルピを電気的に計測可能なセンサ類を設ける。なお、このような空調制御は、エンタルピに代わって温度で実現してもよい。
【0053】
なお、室内機の運転台数は、例えば、次のように決定することができる。パッケージエアコンは、図5に示すように、負荷率に応じてCOP(成績係数)が変化し、負荷率が小さくなるとCOPが極端に低下することが知られている。そこで、各パッケージエアコンの給排気温度差、あるいは電流値(または電力量)を計測して負荷率を把握し、負荷率が小さくてCOPが悪化する場合にはパッケージエアコンの運転台数を減らすことで、運転機のCOPを改善することが省エネルギーに効果的である。運転台数を減らした運転を実施する場合には、最低外気量を確保するよう、外気を導入するダンパの開度と還気を導入するダンパの開度を適宜変更することが望ましい。給排気温度差は、例えば、兼用吸込みチャンバ3および給気ユニット4で給気温度や吸込み温度を計測することにより算出可能である。
【0054】
図6は、パッケージエアコンが2台ある場合の運転フロー図である。図6では、温度差が例えば5℃以下となった場合に1台の室内機を停止して1台運転とし、給排気温度差が例えば10℃以上となった場合に2台運転に戻すことを例示している。すなわち、空調システム1を起動直後は、給排気温度差が大きいため、室内機が2台運転となる(S101)。しかしながら、2台運転を継続すると、やがて給排気温度差が小さくなり、例えば、5℃以下になる(S102)。すると、室内機を1台停止とし、1台運転にする(S103)。ここで、熱負荷が増大すると、室内機が1台運転中に給排気温度差が大きくなり、例えば、10℃を超えるに至る(S104)。すると、停止中の室内機を起動し、2台運転にする(S101)。
【0055】
なお、給排気温度差を用いた運転台数の制御は、室外機の圧縮機の運転電流値等で負荷率を把握し、これに基づいて運転台数の変更を実施するようにしてもよい。この場合、例
えば、圧縮機の負荷率が30%以下であれば運転台数を減らして1台運転とし、例えば90%以上の負荷率になれば1台運転を2台運転に戻すようにしてもよい。室内機が2台設置されている場合に、各室内機をこのように運転すれば、運転機のCOPが改善されて省エネルギーに効果的である。なお、室内機の運転台数を変更する場合には、ダンパ11-OAやダンパ11-RAの開度を適宜変更する。
【0056】
このような運転台数の変更、及び運転台数の変更に伴うダンパの調整は、制御装置で自動的に制御するようにしてもよいし、手動で制御するようにしてもよい。室外機の運転については、室内機と室外機が一対一の場合は、室外機も室内機の停止と連動して停止し、複数の室内機に対して室外機が1台設けられている場合(マルチ方式の場合)には、室外機圧縮機の回転数を落として運転する。
【0057】
なお、上述した実施形態では、兼用吸込みチャンバ3に2つの室内機2A,2Bが繋がっていた。しかし、兼用吸込みチャンバ3には室内機が3つ以上繋がっていてもよい。例えば、兼用吸込みチャンバに室内機を4つ繋いだ場合の変形例を以下に示す。
【0058】
上記実施形態の変形例に係る空調システム21を上から見た図を図7に示す。本変形例に係る空調システム21は、図7に示すように、兼用吸込みチャンバ3に4つの室内機22A,22B,22C,22Dが4方向に取り付けられている。また、バイパスダクト28A,28B,28C,28Dが、吸気ダクト29と各室内機22A,22,B,22C,22Dの吹出し側との間に設けられている。各バイパスダクト28A,28B,28C,28Dを流れる、各室内機22A,22B,22C,22Dの吹出し側から吸込み側への気流は、各室内機22A,22B,22C,22Dのファンにより形成する。各室内機22A,22B,22C,22Dには、給気ユニット24A,24B,24C,24Dが繋がっている。各給気ユニット24A,24B,24C,24Dは、給気口が外側を向くように、互いに背を向けるように設置されている。なお、図7では、還気の吸込み口が吸気ダクト29の給気ユニット24A側に設置されているが、還気の吸込み口はあらゆる方向に向けることが可能である。また、各バイパスダクト28A,28B,28C,28Dを流れる、各室内機22A,22B,22C,22Dの吹出し側から吸込み側への気流は各室内機22A,22B,22C,22Dのファンにより形成しているが、この気流は、室内機とは別体として各バイパスダクト28A,28B,28C,28Dと吸気ダクト29との合流点の下流側、例えば、兼用吸込みチャンバ23の手前または内部に設置したファンによって形成しても良い。
【0059】
また、上記実施形態や変形例に係る空調システムの各室内機は、天井からぶら下げるようにしてもよいが、例えば、床に設置した架台を用いて支持するようにしてもよい。天井高が高い部屋では室内機を吊り下げるために長い吊りボルトを設置する必要が無く、また、保守を考慮した高さに室内機を設置することにより、保守点検用の歩廊を省略可能である。また、外気は、建物に設けたガラリから取り入れても良い。また、給気ユニットは、床に設置するものに限らず、壁等に設置しても良い。
【符号の説明】
【0060】
1,21,101,121・・空調システム
2A,2B,22A,22B,22C,22D,102,122・・室内機
3,23・・兼用吸込みチャンバ
4A,4B,24A,24B,24C,24D,124・・給気ユニット
6,106,126・・室内
7,107・・排気ファン
8A,8B,28A,28B,28C,28D・・バイパスダクト
9,29・・吸気ダクト
10・・温度センサ
11-OA,11-RA,11A-BP,11B-BP,11A-CD,11B-CD・・ダンパ
12-OA,12-RA・・センサ
113・・給気口
114・・給気ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の床側に空気を供給する置換換気方式の空調システムであって、
前記室内の床から離間して設けた複数の空調室内機と、
前記空調室内機から送られる空気を、前記室内の温度成層が保たれる所定の風速で吹き出す、前記室内の床側に前記複数の空調室内機の各々に対応付けて設置した複数の給気ユニットと、
前記室内の天井側から取り込んだ還気および屋外から取り込んだ外気を前記複数の空調室内機の各々の吸込み側へ導く分岐経路を形成する吸気ダクトと、
前記空調室内機の吹出し側と吸込み側とを接続する、前記空調室内機の吸気が前記空調室内機に規定されている上限温度を上回ると開方向に動作するダンパを途中に設けたバイパスダクトと、を備える、
空調システム。
【請求項2】
前記吸気ダクトには、前記各空調室内機の吸込み側へ導く前記還気の量と前記外気の量とを、前記還気および前記外気の温度あるいはエンタルピに応じて調整可能なダンパが更に設けられている、
請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記空調室内機が処理する熱負荷に応じて、特定の吸気ダクトに繋がる空調室内機の運転台数、あるいは特定の吸気ダクトに繋がる空調室内機に冷媒を供給する空調室外機の運転台数を変更する制御手段を更に備える、
請求項1または2に記載の空調システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−57453(P2013−57453A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196128(P2011−196128)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】