説明

空調シート

【課題】使用者の肌温度に応じて空調空気を制御するよう構成された空調シートにおいて、シート内部で、使用者の肌温度を、検出遅れなく正確に検出できるようにする。
【解決手段】空調シート1に着座した乗員の皮膚から放射されるミリ波帯の熱雑音を、受信素子28を介して受信し、肌温度検出回路38にて、その受信信号を増幅・検波することにより、熱雑音の受信レベルに対応した肌温度の検出信号を生成し、制御回路50に入力する。そして、制御回路50は、その検出信号から得られる乗員の肌温度に基づき、空調空気の最適温度及び送風量を求め、空調空気生成部24にて生成される空調空気の温度、及び、ファン20を駆動するモータ22の回転速度を制御する。この結果、空調シート1のシート表面から吹き出す空調空気の温度及び送風量を、乗員の肌温度に応じて最適に制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した使用者に向けてシート表面から空調空気を吹き出すことのできる空調シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート内に、シート表面から空調空気を吹き出すための送風通路を設け、この送風通路に温度調整した空調空気を供給することで、使用者が快適に着座できるようにした空調シートが知られている(例えば、特許文献1,2等参照)。
【0003】
また、この種の空調シートでは、シート表面から吹き出される空調空気の温度や送風量を使用者にとって最適なものにするため、使用者の肌温度を検出し、その検出結果に基づき空調空気の温度や吹出量を制御することも考えられている(例えば、特許文献3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−277020号公報
【特許文献2】特開2009−125536号公報
【特許文献3】特開2008−168769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献3に記載の技術では、使用者の肌温度をサーモグラフィー(熱分布画像)にて検出するため、熱分布画像撮像用のカメラが必要になり、しかも、肌温度検出には画像解析が必要であるため、装置構成が複雑で、コストアップを招くという問題があった。
【0006】
また、サーモグラフィーでは、使用者から放射される赤外線を検出するため、カメラと使用者との間に遮蔽物があると、肌温度を検出することができないことから、例えば、カメラをシート内に収納して、空調シートと一体化することはできないという問題がある。
【0007】
一方、使用者の肌温度を検出するには、例えば、シートの表皮の裏面にサーミスタ等の温度検出素子を設けて、肌温度を直接検出することも考えられる。
しかし、このようにサーミスタ等の温度検出素子をシートに設けた場合、検出温度は、シートの表皮や使用者の衣服の影響を受けるため、使用者の肌温度を正確に検出することができないという問題がある。
【0008】
また特にサーミスタは、温度変化に対する応答が遅いことから、サーミスタを使った肌温度検出では、検出温度と人が感じる温度とに時間的なずれ(換言すれば検出遅れ)が生じるという問題もある。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、使用者の肌温度に応じて空調空気を制御するよう構成された空調シートにおいて、シート内部で、使用者の肌温度を、検出遅れなく正確に検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、シート内に設けられ、シート表面から当該シートに着座した使用者に向けて空調空気を吹き出すための送風通路と、前記空調空気を生成して前記送風通路に供給する空調空気供給手段と、前記シートに着座した使用者の肌温度を検出する肌温度検出手段と、前記肌温度検出手段にて検出された肌温度に基づき、前記空調空気供給手段が生成する空調空気の温度を制御する制御手段と、を備えた空調シートにおいて、前記肌温度検出手段は、前記使用者から放射される熱雑音を受信する受信素子を備え、該受信素子による熱雑音の受信レベルに応じた信号を肌温度検出信号として出力することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の空調シートにおいて、前記受信素子は、マイクロ波帯若しくはミリ波帯の熱雑音を受信するよう構成され、しかも、前記シート内に収納されていることを特徴とする。
【0012】
また次に、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の空調シートにおいて、前記制御手段は、前記肌温度検出手段にて検出された肌温度を外部装置に出力可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の空調シートにおいては、肌温度検出手段が、シートに着座した使用者の肌温度を検出し、制御手段が、その検出された肌温度に基づき、空調空気供給手段が生成する空調空気の温度を制御する。従って、本発明の空調シートによれば、送風通路を介してシート表面から吹き出される空調空気の温度を、使用者の肌温度に応じて最適に制御することができる。
【0014】
また、本発明では、肌温度検出手段が、使用者から放射される熱雑音を受信する受信素子を備え、その受信素子による熱雑音の受信レベルに応じた信号を肌温度検出信号として出力するように構成されている。
【0015】
このため、本発明の空調シートによれば、シートに着座した使用者の肌温度を、常時正確に検出することができる。
つまり、人体からは、体温に応じた熱雑音が出力されており、その熱雑音は、物体の熱雑音よりも強いことから、本発明では、その熱雑音を受信素子にて受信することで、使用者の肌温度を検出するのである。
【0016】
そして、人体から放射される熱雑音は、雑音電波であるので、使用者と受信素子との間に電波を遮蔽する遮蔽物がなければ、受信することができることから、受信素子を、シートの外に配置した場合は勿論のこと、シート内に収納した場合でも、使用者の身体から放射される熱雑音(延いては肌温度)を正確に検出することができるようになる。
【0017】
なお、これは、シートの表皮やシート内に設けられるクッション材には、通常、電波が透過する皮や合成樹脂にて構成され、電波を遮蔽する金属等は用いられないためである。
従って、本発明の空調シートによれば、シートに着座した使用者の肌温度を検出遅れなく正確に検出して、空調空気の温度等を最適に制御することができ、しかも、受信素子をシート内に収納できることから、空調シートの外付け部品を少なくして、空調シートをコンパクトにすることができる。
【0018】
ここで、受信素子をシート内に収納した場合、受信素子の受信特性がシートの表皮やクッション材から影響を受けることは少ないものの、その影響をゼロにすることはできない。そこで、この影響をより小さくするには、請求項2に記載のように、受信素子を、マイクロ波帯若しくはミリ波帯の熱雑音を受信するように構成するとよい。
【0019】
つまり、マイクロ波帯若しくはミリ波帯の熱雑音は、高周波であるため、表皮やクッション材に対する透過性がよく、受信素子を、これらの周波数帯の電波(熱雑音)を受信するアンテナ素子にて構成すれば、受信素子をシート内に収納した場合の熱雑音(延いては肌温度)の検出精度を向上ことができる。
【0020】
一方、肌温度検出手段にて検出された肌温度は、例えば、本発明の空調シートが設置される室内の空調を制御するのにも利用できることから、請求項3に記載のように、制御手段を、肌温度検出手段にて検出された肌温度を外部装置に出力可能に構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態の空調シート全体の構成を表す概略構成図である。
【図2】肌温度検出回路の構成を表す説明図である。
【図3】制御回路にて実行される空調制御を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
本実施形態の空調シート1は、自動車の運転席若しくは助手席として使用される自動車用シートであり、図1に示すように構成されている。
【0023】
すなわち、本実施形態の空調シート1は、使用者である車両乗員が着座する着座部2と、背凭れ部3と、ヘッドレスト部4とから構成されており、背凭れ部3には、ダクト16を介して内部に空調空気を導入し、背凭れ部3の表皮6からクッション材8にかけて形成された多数の送風孔14から空調空気を吹き出すための送風通路12が設けられている。
【0024】
この送風通路12に空調空気を導入するためのダクト16は、先端部分が背凭れ部3の外に引き出されており、その先端部分には、モータ22により回転駆動されるファン20が設けられている。
【0025】
このファン20は、外気導入部から外気を導入し、ダクト16を介して送風通路12に供給するためのものであり、外気導入部には、送風通路12に供給する外気を冷却又は加熱することで、適正温度の空調空気を生成する空調空気生成部24が設けられている。
【0026】
なお、この空調空気生成部24は、例えば、供給される電流の方向及び電流量に応じて空調空気の温度を調整可能なペルチェ素子にて構成されている。
一方、送風通路12内には、ファン20からダクト16を介して供給された空調空気の温度を検出するため、サーミスタ等からなる温度センサ26が設けられている。また、空調シート1には、送風通路12や送風孔14から外れた位置で、空調シート1に着座した乗員の皮膚から放射されたミリ波帯の熱雑音を受信する受信素子28が設けられている。
【0027】
そして、温度センサ26は、空調温度検出回路36を介して制御回路50に接続され、受信素子28は、肌温度検出回路38を介して制御回路50に接続されている。
なお、空調温度検出回路36は、温度センサ26を介して空調空気の温度を検出し、その検出温度に対応した検出信号を発生するもの(例えば、サーミスタの抵抗値に対応した電圧信号を発生するもの)である。
【0028】
また、肌温度検出回路38は、受信素子28により受信されたミリ波帯の受信信号の受信レベルを、肌温度を表す検出信号として出力するものであり、図2に示すように構成されている。
【0029】
つまり、肌温度検出用の受信素子28は、ミリ波帯の信号(熱雑音)を受信するものであることから、肌温度検出回路38は、その受信信号のレベル低下を防止するため、受信素子28と同一の回路基板に一体的に組み付けられて、空調シート1内に収納される。
【0030】
そして、肌温度検出回路38は、受信素子28から受信信号を増幅する低ノイズアンプからなる増幅部42と、この増幅部42で増幅された受信信号を検波することにより、受信信号の信号レベルに対応した検波信号を生成する検波部44と、検波部44からの出力を更に増幅することで、肌温度を表す検出信号(電圧)を生成する増幅部46とから構成されている。
【0031】
このため、肌温度検出回路38からは、空調シート1に着座した乗員の肌温度を表す検出信号が出力され、制御回路50側では、その検出信号を取り込むことで、乗員の肌温度を正確に検知できることになる。
【0032】
次に、制御回路50は、所謂車載用の電子制御装置(ECU)として、マイクロコンピュータを中心に構成されており、図3に示すフローチャートに沿った空調制御を周期的に実行することにより、送風孔14から乗員に向けて吹き出す空調空気の温度及び送風量を制御する。
【0033】
すなわち、制御回路50は、肌温度検出回路38から入力される検出信号(電圧)を乗員の肌温度として取り込み(S110)、その取り込んだ肌温度に基づき、乗員に適した空調空気の温度(最適温度)と送風量を算出し(S120)、その算出した送風量に応じて、モータ駆動回路32を介してモータ22の回転速度を制御する(S130)と共に、空調温度検出回路36からの検出信号により得られる空調空気の温度が、S120にて算出した最適温度となるように、電流供給回路34を介して空調空気生成部24に流す電流方向及び電流量を制御する(S140)。
【0034】
この結果、本実施形態の空調シート1の背凭れ部3から、空調シート1に着座した乗員に向けて吹き出される空調空気の温度及び送風量は、乗員の肌温度に応じて、最適に制御されることになり、本実施形態の空調シート1によれば、乗員に対し快適な着座環境を提供することが可能となる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の空調シート1によれば、空調シート1に着座した乗員の皮膚から放射されるミリ波帯の熱雑音を、受信素子28を介して受信し、肌温度検出回路38にて、その受信信号を増幅・検波することにより、熱雑音の受信レベルに対応した肌温度の検出信号を生成し、制御回路50に入力するように構成されている。
【0036】
また、ミリ波帯の熱雑音は、空調シート1の背凭れ部3の表皮6や内部のクッション材8を透過し易いことから、受信素子28では、乗員の皮膚から放射されたミリ波帯の熱雑音を極めて低損失で受信することができる。
【0037】
このため、本実施形態の空調シート1によれば、サーミスタ等の温度センサを用いて乗員の肌温度を検出するようにした場合に比べて、乗員の肌温度を正確にしかもリアルタイムに検出して、空調空気の温度及び送風量を最適に制御することができるようになる。
【0038】
また、サーモグラフィーにて肌温度を検出するようにした場合に比べて、乗員の赤外線画像を撮像して画像処理を行う必要がないので装置構成を簡単にして、低コストで実現することができるようになり、しかも、受信素子28及び肌温度検出回路38は、一体化されて、空調シート1内に収納されることから、空調シート1への外付け部品を少なくして、空調シート1をコンパクトにすることができる。
【0039】
なお、本実施形態においては、ファン20、モータ22、空調空気生成部24、及びダクト16が、本発明の空調空気供給手段に相当し、受信素子28及び肌温度検出回路38が、本発明の肌温度検出手段に相当し、制御回路50及び電流供給回路34が、本発明の制御手段に相当する。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様を採ることができる。
例えば、上記実施形態では、空調シート1は、自動車の運転席や助手席として使用される自動車用シートであるものとして説明したが、例えば、自動車の後部座席や、バスや電車の乗客用シート等、複数の乗員が着座可能なシートであっても、各乗員の着座位置に上記実施形態で示した空調用構成部品を設けるようにすれば、乗員毎に空調空気を制御して、各乗員に最適な着座環境を提供できる。
【0041】
また、本発明の空調シートは、こうした移動体用のシートに限らず、着座用のシートであれば、どのようなシートでも上記実施形態と同様に適用して、同様の効果を得ることができる。
【0042】
なお、制御回路50には、肌温度を表す検出信号が入力されることから、制御回路50に、この検出信号を外部装置に出力するための出力端子や通信装置を設け、この検出信号を外部装置に送信できるようにしても良い。
【0043】
そして、この場合、外部装置として、車両や室内の空調装置を設定すれば、空調シートが設置される室内の空調空気を使用者にとって最適なものに制御することができるようになる。また、外部装置として、使用者の健康管理用の装置を設定すれば、使用者の体温を管理して、発熱時にはその旨を報知して、使用者に休憩を促すようにすることもできる。
【0044】
また、上記実施形態では、空調シート1の背凭れ部3に、空調制御用の部品を埋め込むものとして説明したが、空調制御用の部品は、着座部2に設けてもよく、背凭れ部3と着座部2の両方に設けても良い。また、送風通路12に連通した送風用のダクトを背凭れ部3の上方(ヘッドレスト部4の近傍)で引き出し、そのダクトを介して乗員の首元に空調空気を送風するようにしてもよい。
【0045】
また更に、上記実施形態では、使用者の肌温度に応じて空調空気の温度と送風量を制御するものとして説明したが、例えば、送風量を手動で切り換えるように構成されているような場合には、空調空気の温度だけを制御するようにしても良い。
【0046】
また上記実施形態では、使用者から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信素子28にて受信し、その受信レベルを肌温度検出回路38にて検出することで、使用者の肌温度を検出するものとして説明したが、受信素子28及び肌温度検出回路38は、使用者から放射されるマイクロ波帯の熱雑音を受信し、その受信レベルを使用者の肌温度として検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…空調シート、2…着座部、3…背凭れ部、4…ヘッドレスト部、6…表皮、8…クッション材、12…送風通路、14…送風孔、16…ダクト、20…ファン、22…モータ、24…空調空気生成部、26…温度センサ、28…受信素子、32…モータ駆動回路、34…電流供給回路、36…空調温度検出回路、38…肌温度検出回路、42…増幅部、44…検波部、46…増幅部、50…制御回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート内に設けられ、シート表面から当該シートに着座した使用者に向けて空調空気を吹き出すための送風通路と、
前記空調空気を生成して前記送風通路に供給する空調空気供給手段と、
前記シートに着座した使用者の肌温度を検出する肌温度検出手段と、
前記肌温度検出手段にて検出された肌温度に基づき、前記空調空気供給手段が生成する空調空気の温度を制御する制御手段と、
を備えた空調シートにおいて、
前記肌温度検出手段は、前記使用者から放射される熱雑音を受信する受信素子を備え、該受信素子による熱雑音の受信レベルに応じた信号を肌温度検出信号として出力することを特徴とする空調シート。
【請求項2】
前記受信素子は、マイクロ波帯若しくはミリ波帯の熱雑音を受信するよう構成され、しかも、前記シート内に収納されていることを特徴とする請求項1に記載の空調シート。
【請求項3】
前記制御手段は、前記肌温度検出手段にて検出された肌温度を外部装置に出力可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空調シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−165830(P2012−165830A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27575(P2011−27575)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】