説明

空調機制御システム

【課題】空調機制御システムにおいて、空調空間の快適性を維持しながら、所望の省エネルギ効果を得ることである。
【解決手段】複数の空調機22,24,26に接続される制御装置40は、空調機22,24,26をそれぞれの最大効率の条件の下で基本的に運転する最大効率運転部42と、各空調ゾーン12,14,16の室温と設定空調温度とを比較する空調状態判断部44と、各空調機22,24,26の冷暖房能力を増加または低減する調整を行う能力調整部46と、能力調整を行った後に適当な所定時間経過後に再び能力調整前の運転状態に戻す運転状態復帰部48と、消費可能な電力上限値が定められているときに、最適運転条件の下で空調機22,24,26を運転する最適運転部50を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機制御システムに係り、特に省エネルギ制御を行う空調機制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空調機の電力消費を抑制するために、省エネルギ制御が行われる。空調機の電力消費を抑えると、冷房能力あるいは暖房能力が低下することがある。そこで、空調機のエネルギ効率と冷暖房能力の関係が問題となる。空調機のエネルギ効率を示すものとして、成績係数(Coefficient Of Performance:COP)が知られている。空調機のCOPとは、空調機に入力されたエネルギによって、どれだけの冷暖房エネルギを出力できるかを数値で示したものである。例えば、空調機が1kWの電力消費で1kWの冷暖房能力を発揮すると、COP=(冷暖房能力)÷(消費電力)=1である。発揮する冷暖房能力が0.5kWであると、COP=0.5となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、空気調和機において、インバータによる圧縮機の運転周波数と成績係数COPとの関係を示す効率曲線が、特定の運転周波数で最大値を有する上側に凸の曲線となることが一般的であると述べられている。これに対し、インバータによる圧縮機の運転周波数と冷暖房能力との関係を示す能力曲線は、運転周波数が増大するほど増加する単純増加曲線となると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−118263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
空調機について省エネルギ制御が行われると、一般的に居室等の空調空間の快適性が低下する。また、空調機のオン・オフパターンによっては、例えば圧縮機の運転効率が低下し、思ったほどの省エネルギ効果が得られないことがある。
【0006】
本発明の目的は、空調空間の快適性を維持しながら、所望の省エネルギ効果を得ることができる空調機制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空調機制御システムは、インバータを有し、運転周波数と効率の関係が特定の運転周波数で効率最大値を示す効率曲線特性と、運転周波数と空調能力との関係が運転周波数の増大と共に増加する能力曲線特性とを有する空調機と、空調機について、省エネルギ制御を行う制御装置と、を備え、制御装置は、省エネルギ制御時間帯において、効率曲線特性の効率最大値を示す特定の運転周波数で空調機を運転させる最大効率運転部と、空調空間における空調設定条件と、実際の空調状態との間の差である空調状態偏差を検出し、検出された空調状態偏差が予め定めた閾値偏差を超えるか否かを判断する空調状態判断部と、空調状態偏差が閾値偏差を超えると判断されるときに、空調機の空調能力が不足していると判断し、空調機の運転周波数を特定の運転周波数から予め定めた増加条件に従って増加させる能力調整部と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る空調機制御システムにおいて、制御装置は、能力調整を行った後、予め定めた経過時間の後、再び最大効率運転の状態に戻す運転状態復帰部を含むことが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る空調機制御システムにおいて、空調制御対象空間を複数に分けた複数の空調ゾーンのそれぞれに配置された複数の空調機を備え、制御装置は、複数の空調ゾーンの全体について予め定められた消費可能な電力上限値を守るために、各空調ゾーンに配置された空調機について、それぞれの特定運転周波数の近傍において予め定められた最適運転周波数で、それぞれの空調機を運転する最適運転部を含み、空調状態判断部は、各空調ゾーンにおける空調設定条件と、実際の空調状態との間の差である空調状態偏差を検出し、検出された空調状態偏差が予め定めた閾値偏差を超えるか否かを各空調ゾーンごとに判断し、能力調整部は、空調状態偏差が閾値偏差を超えると判断される空調ゾーンについて、その空調ゾーンに配置された空調機の空調能力が不足していると判断し、当該空調機の運転周波数を最適運転周波数から予め定めた増加条件に従って増加させ、当該空調機以外の他の空調機の中から、予め定めた能力調整組合せに従って定められる空調機の運転周波数を最適運転周波数から予め定めた低減条件に従って低減させる処理を行うことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る空調機制御システムにおいて、制御装置は、各空調機の空調ゾーンに対する空調負荷の余力特性に基づいて、能力調整組合せを予め定めて記憶する記憶部を含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る空調機制御システムにおいて、制御装置は、各空調機の余力特性を学習によって更新する余力特性学習部を含み、記憶部は、更新された各空調機の余力特性に基づいて能力調整組合せを更新することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、空調機制御システムは、省エネルギ制御時間帯において、効率曲線特性の効率最大値を示す特定の運転周波数で空調機を運転させる。そして、空調設定条件と実際の空調状態との間の差である空調状態偏差が予め定めた閾値偏差を超えると判断されるときは、空調機の空調能力が不足していると判断して、空調機の運転周波数を特定の運転周波数から予め定めた増加条件に従って増加させる。これにより、効率最大条件の下の運転を基本的状態とし、その状態で空調状態偏差が大きいときは、空調機の運転周波数を増加させて、空調機の冷暖房能力を高める。空調機の運転周波数を増加させると冷暖房能力は増大し、運転周波数を低減すると冷暖房能力も低減する。これにより、効率最大運転を基本として、省エネルギ制御を行いながら、空調空間の快適性を維持することができる。
【0013】
また、空調機制御システムにおいて、能力調整を行った後、予め定めた経過時間の後、再び最大効率運転の状態に戻すので、効率最大運転を基本として、省エネルギ制御を行いながら、空調空間の快適性を維持することができる。
【0014】
また、空調機制御システムにおいて、空調制御対象空間を複数に分けた複数の空調ゾーンのそれぞれに配置された複数の空調機を備えるときは、予め定められた電力上限値を守るために、各空調ゾーンに配置された空調機について、それぞれの特定運転周波数の近傍において予め定められた最適運転周波数で、それぞれの空調機を運転する。そして、各空調ゾーンにおける空調設定条件と、実際の空調状態との間の差である空調状態偏差が予め定めた閾値偏差を超えると判断されるときは、その空調ゾーンに配置された空調機の空調能力が不足していると判断し、当該空調機の運転周波数を最適運転周波数から予め定めた増加条件に従って増加させる。そして、当該空調機以外の他の空調機の中から、予め定めた能力調整組合せに従って定められる空調機の運転周波数を最適運転周波数から予め定めた低減条件に従って低減させる。これにより、電力上限値を守りながら、空調空間の快適性を維持することができる。
【0015】
また、空調機制御システムにおいて、各空調機の空調ゾーンに対する空調負荷の余力特性に基づいて、能力調整組合せを予め定めて記憶する。これにより、空調機の制御を適切なものとできる。
【0016】
また、空調機制御システムにおいて、各空調機の余力特性を学習によって更新する。そして更新された各空調機の余力特性に基づいて能力調整組合せが更新される。これによって、空調機の制御を常に最適なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施の形態の空調機制御システムの構成を説明する図である。
【図2】空調機の効率曲線特性と能力曲線特性を説明する図である。
【図3】別の空調機の効率曲線特性と能力曲線特性を示す図である。
【図4】他の空調機の効率曲線特性と能力曲線特性を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の空調機制御システムにおいて用いられる能力調整組合せの例を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態における空調機制御手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る実施の形態において、電力上限値が定められている場合の空調機制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、空調機制御システムの対象となる空調制御空間を3つの空調ゾーンに区分したものについて述べるが、これは説明のための例示に過ぎず、空調ゾーンの数は3以外でも構わない。例えば、1つであってもよく、2つであってもよく、4以上であってもよい。また、3つの空調ゾーンが東西に並ぶものとし、中央の空調ゾーンが最も広い空間として説明するが、これらも例示であって、配置、空間の広さはこれ以外であっても構わない。例えば、各階に分けられた空調ゾーンであってもよく、異なる複数の建物のそれぞれを別々の空調ゾーンとしてもよい。各空調ゾーンにそれぞれ1つの空調機が配置されるものとするが、2つ以上の空調機が配置されるものとしてもよい。
【0019】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0020】
図1は、空調機制御システム10の構成を説明する図である。この空調機制御システム10は、1つの空調制御空間としての建物を西側から東側に3つの空調ゾーン12,14,16として分け、それぞれの空調ゾーン12,14,16に、空調機22,24,26と、室温検出器32,34,36を配置して、3つの空調ゾーン12,14,16の快適性を維持しながら、空調機22,24,26の省エネルギ制御を行なう機能を有するシステムである。
【0021】
空調ゾーン12,14,16は、建物の1つの広い空間を空調機22,24,26のそれぞれの管轄として単に区分したものである。空調ゾーン12,14,16の間に仕切り壁等があるわけではない。もっとも、仕切壁があって、空調ゾーン12,14,16がそれぞれ居室となっていても構わない。空調ゾーン12,14,16は、建物の西側から東側に向かって並んでいるので、これを空調ゾーンW,C,Eと呼ぶことで、各空調ゾーン間の配置関係がよく分かる。そこで、以下では、空調ゾーン12,14,16を場合によって、空調ゾーンW,C,Eと呼ぶことにする。
【0022】
空調ゾーンWとされる西側の空調ゾーン12は西日の影響等により、外気の影響を最も受けやすく、空調ゾーンCとして示される中央の空調ゾーン14は、空間の大きさも大きく、また中央に配置されることから外気の影響を最も受けにくく、空調ゾーンEとして示される東側の空調ゾーン16は、西側の空調ゾーン12ほどではないがある程度外気の影響を受ける。このように、空調ゾーン12,14,16は、空調を行う際の空調負荷の特性がそれぞれ異なる3つの空調空間の例として示されている。
【0023】
空調機22,24,26は、空調ゾーン12,14,16にそれぞれ設けられ、蒸発器と、圧縮器と、凝集器と、減圧弁とを備える循環型の冷暖房装置である。圧縮機には、インバータが含まれる。空調機22,24,26は、空調ゾーンW,C,Eの空調負荷の相違に応じて選択された仕様を有し、それぞれの冷暖房特性は異なっている。空調機22,24,26は、後述する制御装置40によって、その動作が制御される。
【0024】
なお、空調機22,24,26においては、空調対象空間に設置される室内機と、主に大気と熱交換を行うために室外に設置される室外機によって構成されるものも含まれる。この場合、圧縮機は室外機に搭載される。また、このような構成の空調機において、1台もしくは、複数台の室外機に対して、複数台の室内機をもって空調機を構成するいわゆるビル用マルチエアコンも含む。この場合、空調機22を構成する全ての室内機が空調ゾーン12に、空調機24を構成する全ての室内機が空調ゾーン14に、空調機26を構成する全ての室内機が空調ゾーン16に設置され、それぞれのゾーンの空調を行うこととなる。
【0025】
室温検出器32,34,36は、空調ゾーン12,14,16のそれぞれの適当な場所に設置される温度センサである。室温検出器32,34,36の検出データは、適当な信号線を介して、制御装置40に伝送される。
【0026】
なお、室温検出器は、空調機の制御を行うために空調機に接続されたセンサであってもよく、この場合、空調機の制御信号線を介して、制御装置40に室内温度が伝送されることになる。また、1つのゾーンに複数の室内機が設置される場合は、代表室内機の温度を制御装置40に伝送してもよく、また、平均の温度を制御装置40に伝送してもよい。さらに、制御装置40にて、代表室内機の温度を選択してもよく、平均温度を演算してもかまわない。
【0027】
制御装置40は、3台の空調機22,24,26と、3つの室温検出器32,34,36に接続され、3台の空調機22,24,26の動作を全体として制御する機能を有する。かかる制御装置40は、空調制御に適したコンピュータで構成することができる。
【0028】
制御装置40は、3台の空調機22,24,26をそれぞれの最大効率の条件の下で基本的に運転する最大効率運転部42と、各空調ゾーン12,14,16の室温と設定空調温度とを比較する空調状態判断部44と、各空調機22,24,26の冷暖房能力を増加または低減する調整を行う能力調整部46と、能力調整を行った後に適当な所定時間経過後に再び能力調整前の運転状態に戻す運転状態復帰部48と、消費可能な電力上限値が定められているときに、最大効率条件の近傍である最適運転条件の下で3台の空調機22,24,26を運転する最適運転部50と、空調機22,24,26が配置される空調ゾーンW,C,Eの空調負荷についての余力特性を学習する余力特性学習部52を含んで構成される。
【0029】
かかる機能はソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には空調機制御プログラムを実行することで実現できる。かかる機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0030】
制御装置40に接続される記憶部60は、空調管理プログラム等を格納する機能を有する記憶装置である。また、記憶部60は、各空調機22,24,26について、それぞれの効率曲線特性と能力曲線特性の組合せ62,64,66を記憶し、また、能力調整を行うときの能力調整組合せ68を記憶する機能を有する。
【0031】
図2から図4は、各空調機22,24,26について、効率曲線特性と能力曲線特性の組合せ62,64,66の例を説明する図である。効率曲線特性と能力曲線特性は、空調機22,24,26ごとに相違するが、基本的な曲線の傾向は同じであるので、以下では、図2に示される空調機22に代表させて説明を続ける。
【0032】
空調機22についての効率曲線特性は、横軸に空調機22の運転周波数をとり、縦軸に空調機22の成績係数COPを取ったものである。空調機22には圧縮機が含まれ、圧縮機にはインバータが用いられるので、運転周波数は、このインバータの動作周波数に相当することになる。効率曲線特性は、図2に示されるように、運転周波数がゼロから増大するとCOPが増大し、特定の運転周波数f22で最大値をとり、特定の運転周波数f22を超えるとCOPは減少する。このように、効率曲線特性は、特定の運転周波数f22で最大値を有する上側に凸の曲線となる。
【0033】
空調機22についての能力曲線特性は、横軸に空調機22の運転周波数をとり、縦軸に空調機22の冷暖房能力を取ったものである。冷暖房能力とは、空調機22が冷房機能を発揮しているときはその冷房能力、暖房機能を発揮しているときはその暖房能力のことである。能力曲線特性は、図2に示されるように、運転周波数が増大するほど増加する単純増加曲線となる。
【0034】
図3は、空調機24に対する効率曲線特性と能力曲線特性の組合せ64で、ここでは、特定の運転周波数がf24で示されている。図4は、空調機26に対する効率曲線特性と能力曲線特性の組合せ66で、ここでは、特定の運転周波数がf26で示されている。このように、空調機ごとに特定の運転周波数は異なるが、一般的には、空調機の最大動作周波数のおよそ60%程度の周波数が効率最大となる特定の運転周波数となる。
【0035】
このように、空調機22,24,26は、それぞれの特定の運転周波数f22,f24,f26で運転するときに最大効率となるので、省エネルギ運転となる。図2から図4に示されるように、最大効率となる特定の運転周波数f22,f24,f26のときに冷暖房能力が最大となるわけではない。特定の運転周波数f22,f24,f26から運転周波数を増加すると、冷暖房能力が増大し、逆に、特定の運転周波数f22,f24,f26から運転周波数を低減すると、冷暖房能力も低下する。
【0036】
したがって、最大効率の条件で空調機22,24,26を運転しているときに、空調機22,24,26のいずれかの空調機の冷暖房能力が不足していると判断されるときは、その空調機の運転周波数を増大すればよい。そのような能力調整を能力増加調整と呼ぶことができる。ところが、運転周波数を特定の運転周波数f22,f24,f26から変更すると、その空調機は最大効率で運転していないことになるので、電力消費が増加することが生じる。電力消費を抑制するには、冷暖房能力を低下させればよく、具体的にはその空調機の運転周波数を低減すればよい。そのような能力調整を能力低減調整と呼ぶことができる。
【0037】
最大効率運転を行っていて、空調空間の温度が設定温度と差が生じてくると、その空調空間の快適性が損なわれる。そこで、空調機22,24,26の運転周波数を特定の運転周波数f22,f24,f26から変更して空調機22,24,26の冷暖房能力を増加させる。すなわち、当該空調機の能力増加調整が行われる。そのようにすると、能力増加調整を行った空調機の電力消費が増加するので、省エネルギ制御時間帯の間では、他の空調機の電力消費を低減することが好ましい。とくに、電力会社の契約等で、電力消費の上限値が予め定められているときには、他の空調機の電力消費を抑制して、複数の空調機全体の電力消費値が電力上限値を超えないようにする必要になる。すなわち、当該空調機以外の空調機の能力低減調整を行う必要が生じる。
【0038】
このように、省エネルギ制御時間帯においては、1つの空調機の能力増加調整を行うと、他の空調機の能力低減調整を行うことになる。場合によっては、快適性を維持するために複数台の空調機の能力増加調整を行う必要が生じ、逆に、電力消費値を電力上限値以下とするために複数台の空調機の能力低減調整を行う必要が生じることがある。
【0039】
そのような場合に、1つの空調機の能力増加調整を行った場合に、他の空調機の中のどの空調機について能力低減調整を行うかの能力調整組合せを予め定め、これを記憶部60に記憶しておくことがよい。図5は、そのようにして予め定めた能力調整組合せ68の例を示す図である。
【0040】
図5は、縦軸に沿って能力増加調整を行なった空調ゾーンに配置される空調機として、3台の空調機22,24,26を並べ、横軸に沿って能力低減調整を行う空調ゾーンに配置される空調機として、3台の空調機22,24,26を並べたものである。例えば、空調ゾーンWの空調機22が冷暖房能力不足と判断されて能力増加調整が行われると、空調機22の運転周波数が効率最大の特定の運転周波数から増加させることとなって、電力消費が増大する。消費可能な電力上限値が定まっている場合には、他の空調機24,26の電力消費を低減する能力低減調整を行うことになる。図5によれば、そのような場合に、能力低減調整を行う第1優先順位が空調ゾーンCの空調機24、第2優先順位が空調ゾーンEの空調機26と予め定めてある。
【0041】
同様に、空調ゾーンCの空調機24について能力増加調整を行った場合は、能力低減調整を行う第1優先順位が空調ゾーンEの空調機26、第2優先順位が空調ゾーンWの空調機22と予め定められる。また、空調ゾーンEの空調機26について能力増加調整を行った場合は、能力低減調整を行う第1優先順位が空調ゾーンCの空調機24、第2優先順位が空調ゾーンWの空調機22と予め定められる。
【0042】
空調機の運転をローテーションすることは従来から行われていることであるが、図5における能力調整組合せは、各空調機22,24,26がそれぞれ配置される空調ゾーンW,C,Eに対する各空調機22,24,26の空調負荷の余力特性によって予め定められる。
【0043】
空調ゾーンに対する空調負荷の余力特性とは、所定の空調条件にしたときに、空調機がさらにどの程度の冷暖房負荷を余力として有しているかに関する特性である。端的に言えば、空調機が所定の空調を行うのに、余裕を持って運転しているか、能力一杯で運転しているかに関する特性である。
【0044】
余力特性は次のようにして評価することができる。すなわち、ある一定条件の運転を行っていて、設定温度と実際の温度との差である温度偏差が予め定めた閾値偏差となると、能力不足とされるが、この能力不足と判断される頻度の大小で余力特性が評価できる。すなわち、能力不足と判断される頻度が多い空調機は、その担当する空調ゾーンの空調負荷に対し、余力があまりないと考えられる。逆に、能力不足と判断される頻度が少ない空調機は、その担当する空調ゾーンの空調負荷に対し、余力が十分あると考えられる。一定条件の運転としては、例えば、最大効率運転等を用いることができる。
【0045】
余力特性に関し、その他の評価基準としては、ある一定条件の運転開始から能力不足と判断されるまでの運転時間の長短がある。すなわち、一定条件の運転開始から能力不足と判断されるまでの時間が短い空調機は、その担当する空調ゾーンの空調負荷に対し、余力があまりないと考えられる。逆に、一定条件の運転開始から能力不足と判断されるまでの時間が長い空調機は、その担当する空調ゾーンの空調負荷に対し、余力が十分あると考えられる。
【0046】
図1の例で説明すると、最も西側の空調ゾーンWは、外気温の影響を受けやすいので、空調機22が能力不足と判断される頻度が高いと考えられる。その観点から、空調機22は、空調負荷に対して余力が比較的に少ないと考えられる。中央の空調ゾーンCは、空間が比較的大きく、また、両隣が空調を行っている他の空調ゾーン12,16であるので、一定の室温に維持しやすいと考えられる。その観点から、空調機24が能力不足と判断される頻度が少なく、空調機24は、空調負荷に対して余力が比較的に多いと考えられる。東側の空調ゾーンEは、西側の空調ゾーンWほどではないが外気温の影響を受けるので、空調機26が能力不足と判断される頻度は、空調機22よりは少なく、空調機24よりは多いと考えられる。その観点から、空調機26の空調負荷に対する余力は、空調機22と空調機24の中間程度と考えられる。
【0047】
このように空調機によって余力特性が異なるので、図5では、能力低減調整が必要な場合の優先順位を、空調負荷に対する余力の大きい順に、空調ゾーンCの空調機24−空調ゾーンEの空調機26−空調ゾーンWの空調機22として、予め設定されている。
【0048】
なお、図5では、能力増加調整が必要な空調機を1台としてあるが、場合によっては、同時に2台の空調機の冷暖房能力が不足することが生じえる。その場合に、いずれの空調機の方を優先して能力増加調整を行うかについても、上記の余力特性に基づいて予め定めておくことができる。能力増加調整が必要な場合の優先順位は、余力の小さい順に、空調ゾーンWの空調機22−空調ゾーンEの空調機26−空調ゾーンCの空調機24とすることができる。
【0049】
上記構成の作用について、図6、図7を用いてさらに説明する。図5は、一般的な省エネルギ制御における空調機制御手順を示すフローチャートである。図6は、消費可能な電力上限値が定まっている場合省エネルギ制御における空調機制御手順を示すフローチャートである。これらの各手順は、空調機制御プログラムの各処理手順にそれぞれ対応する。
【0050】
最初に図6を用いて、一般的な省エネルギ制御における空調機制御の手順を説明する。以下では、3台の空調機22,24,26についての制御手順を述べるが、空調機が複数台ある場合でも、個々の空調機について独立して実行することができる。
【0051】
各空調機22,24,26は、基本的には、最大効率の下で運転が行われる(S10)。すなわち、各空調機22,24,26は、それぞれ、効率曲線特性における特定の運転周波数f22,f24,f26で運転が行われる。特定の運転周波数は、各空調機22,24,26によって異なるので、制御装置40の最大効率運転部42は、記憶部60を参照して、それぞれの空調機22,24,26に対する特定の運転周波数f22,f24,f26を読み出し、その条件で各空調機22,24,26の運転制御を実行する。この運転状態は、最大効率運転状態であるので、省エネルギ制御に適したものである。
【0052】
次に、適当な制御タイミングごとに、各空調ゾーンW,C,Eの室温と、設定温度とを比較して、その間の温度偏差Δθを求める。求めた温度偏差Δθを、予め定めた閾値温度偏差Δθ0と比較する(S12)。各空調ゾーンW,C,Eの室温は、室温検出器32,34,36によってそれぞれ取得することができる。したがって、S12の手順は、各空調機22,24,26について行われる。
【0053】
設定温度は、ユーザが設定した温度でもよく、あるいは、省エネルギ制御の下でふさわしい室温として予め定めた推奨温度でもよい。閾値温度偏差Δθ0は、ユーザが快適性を損なうと感じる限度に基づいて予め設定される。例えば、Δθ0を2℃程度と設定することができる。
【0054】
S12の手順は、制御装置40の空調状態判断部44の機能によって実行される。なお、Δθ−Δθ0は、空調状態偏差に相当する。S12において、全部の空調機22,24,26について、ΔθがΔθ0を超えないと判断されると、全部の空調機22,24,26について、最大効率運転の下で快適性が維持できていることになる。
【0055】
このように、S12において、最大効率運転の下で快適性が維持できていると判断されると、省エネルギ制御について特に電力消費の上限値が設定されていない場合には、S10に戻って、最大効率運転を継続することができる。省エネルギ制御について、電力会社との契約等で、電力消費の上限値が設定されているときの手順は図7において後述する。
【0056】
S12で、少なくとも1台の空調機について、ΔθがΔθ0を超えると判断されると、その空調機は、能力不足と判断されて、S14に進む。例えば、能力不足とされたものが空調機22とすると、S14において、空調機22に対して、能力増加調整が行われる。具体的には、予め定めた増加条件に従って、空調機22の運転周波数を特定の運転周波数f22から増加させる制御を行う。予め定めた増加条件としては、Δθ−Δθ0=0とするための冷暖房負荷に対応する運転周波数とすることができる。すなわち、Δθ0=2℃とすれば、設定温度からの温度偏差Δθが2℃を超えている状態から温度偏差Δθを2℃以下とするように、冷暖房負荷を増加させる。S14の手順は、制御装置40の能力調整部46の機能によって実行される。
【0057】
能力不足とされた空調機22に対して能力増加調整が行われると、その能力調整が完了してから所定時間経過したか否かが判断される(S16)。所定時間としては、例えば30分から1時間程度とすることができる。所定時間経過すると、再びS10に戻り、空調機22は、能力調整前の運転状態である最大効率運転に復帰する。この手順は、制御装置40の運転状態復帰部48の機能によって実行される。
【0058】
このようにして、最大効率運転を基本として、冷暖房能力が不足すると判断された空調機について一時的に能力増加調整を行うことで、空調空間の快適性を維持しながら、所望の省エネルギ効果を得ることができる。
【0059】
次に、消費可能な電力最大値が定められている場合についての空調機制御の手順について図7を用いて説明する。電力最大値が設定されている場合には、各空調機22,24,26は、必ずしも最大効率で運転する必要がないが、省エネルギ性を考慮すると、できるだけ最大効率付近で運転することが好ましい。そこで、電力最大値を満たすように、予め、空調機22,24,26について最適運転条件を定めておく。最適運転条件は、運転周波数で定めることができる。
【0060】
最適運転条件は最大効率条件に近づけるのが好ましいので、空調機22,24,26について、最適運転条件の運転周波数である最適運転周波数は、効率最大のときの特定の運転周波数f22,f24,f26のそれぞれの近傍に取られる。その組合せは1通りではなく、複数通りがありえる。
【0061】
そこで、電力上限値が定まっている場合には、空調機22,24,26の全体でその電力上限値を満たすように予め最適運転周波数の組合せを定め、それぞれの最適運転周波数で、各空調機22,24,26が運転される(S20)。この手順は、制御装置40の最適運転部50の機能によって実行される。
【0062】
次に、適当な制御タイミングごとに、各空調ゾーンW,C,Eの室温と、設定温度とを比較して、その間の温度偏差Δθを求める。求めた温度偏差Δθを、予め定めた閾値温度偏差Δθ0と比較する(S22)。この手順の内容は、図6で説明したS12と同じで、空調状態判断部44の機能によって実行される。
【0063】
S22において、全部の空調機22,24,26について、ΔθがΔθ0を超えないと判断されると、全部の空調機22,24,26について、最適運転の下で快適性が維持できていることになる。このように、S22において、最適運転の下で快適性が維持できていると判断されれば、S20に戻って、最適効率運転を継続することができる。
【0064】
S22で、少なくとも1台の空調機について、ΔθがΔθ0を超えると判断されると、その空調機については能力増加調整を行うが、電力上限値の条件を守るために、他の空調機について能力低減調整を行うことになる。そこで、記憶部60から能力調整組合せ68が読み出される(S24)。そして、読み出された能力調整組合せに従って、能力増加調整と能力低減調整とが行われる(S26)。S24,S26の手順は、制御装置40の能力調整部46の機能によって実行される。
【0065】
例えば、S22で、能力不足とされたものが空調機22とすると、S24において読み出された内容が図5の能力調整組合せ68の通りであるとすると、空調機22に能力増加調整が行われると共に、能力低減調整の第1優先順位である空調機24について能力低減調整が行われる。
【0066】
能力増加調整の内容は図6のS14で説明したものと同様である。すなわち、能力増加調整は、空調機22の運転周波数を最適運転周波数から予め定めた増加条件に従って増加させる。能力低減調整は、予め定めた低減条件に従って、空調機24の運転周波数を最適運転周波数から低減させる制御を行う。予め定めた低減条件としては、Δθ−Δθ0=±2℃とするための冷暖房負荷に対応する運転周波数とすることができる。この2℃は、Δθ0と同じ値である。すなわち、空調ゾーンCについて、現在の室温に維持するものとして、やや快適性を犠牲にして、電力消費を抑制する。
【0067】
能力不足とされた空調機22に対して能力増加調整が行われ、これに対応して空調機24に対して能力低減調整が行われると、それらの能力調整が完了してから所定時間経過したか否かが判断される(S28)。この手順は図6のS16と同じ内容のものであり、所定時間経過すると、再びS20に戻り、空調機22,24は、能力調整前の運転状態である最適運転状態に復帰する。この手順は、制御装置40の運転状態復帰部48の機能によって実行される。
【0068】
図5の能力調整組合せ68は、各空調機22,24,26の空間ゾーンW,C,Eに対する空調負荷の余力特性に基づいて定められる。余力特性は、空間ゾーンW,C,Eの空調負荷が変われば変化する。例えば、一日の時間、季節、その空調空間にいる人の数、設備の状況によって変化する。余力特性は、上記のように、能力不足と判断される頻度の大小、または、ある一定条件の運転開始から能力不足と判断されるまでの運転時間の長短によって評価できる。したがって、図7のS22で肯定的判断が行われた回数、あるいは、S20の開始からS22の肯定的判断が行われるまでの時間で、各空調機22,24,26の余力特性が評価できる。
【0069】
図7のS30は、S22で肯定的判断が行われた回数で余力特性を評価するものとして、S22で肯定的判断が出された都度、カウント数を更新する。そして、各空調機22,24,26において、予め定めた期間におけるカウント数を比較し、カウント数の少ない順序を余力のある順序とする余力特性学習を行う(S32)。そして、学習された余力順序の結果から、能力低減調整の優先順位を変更して、図5の能力調整組合せ68の更新を行う(S34)。このように学習によって、常に能力調整組合せ68が最新の状態とされる。S30、S32,S34の手順は、制御装置40の余力特性学習部52の機能によって実行される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る空調機制御システムは、空調機の省エネルギ制御に利用できる。
【符号の説明】
【0071】
10 空調機制御システム、12,14,16 空調ゾーン、22,24,26 空調機、32,34,36 室温検出器、40 制御装置、42 最大効率運転部、44 空調状態判断部、46 能力調整部、48 運転状態復帰部、50 最適運転部、52 余力特性学習部、60 記憶部、62,64,66 効率曲線特性と能力曲線特性の組合せ、68 能力調整組合せ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータを有し、運転周波数と効率の関係が特定の運転周波数で効率最大値を示す効率曲線特性と、運転周波数と空調能力との関係が運転周波数の増大と共に増加する能力曲線特性とを有する空調機と、
空調機について、省エネルギ制御を行う制御装置と、
を備え、
制御装置は、
省エネルギ制御時間帯において、効率曲線特性の効率最大値を示す特定の運転周波数で空調機を運転させる最大効率運転部と、
空調空間における空調設定条件と、実際の空調状態との間の差である空調状態偏差を検出し、検出された空調状態偏差が予め定めた閾値偏差を超えるか否かを判断する空調状態判断部と、
空調状態偏差が閾値偏差を超えると判断されるときに、空調機の空調能力が不足していると判断し、空調機の運転周波数を特定の運転周波数から予め定めた増加条件に従って増加させる能力調整部と、
を含むことを特徴とする空調機制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の空調機制御システムにおいて、
制御装置は、
能力調整を行った後、予め定めた経過時間の後、再び最大効率運転の状態に戻す運転状態復帰部を含むことを特徴とする空調機制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の空調機制御システムにおいて、
空調制御対象空間を複数に分けた複数の空調ゾーンのそれぞれに配置された複数の空調機を備え、
制御装置は、
複数の空調ゾーンの全体について予め定められた消費可能な電力上限値を守るために、各空調ゾーンに配置された空調機について、それぞれの特定運転周波数の近傍において予め定められた最適運転周波数で、それぞれの空調機を運転する最適運転部を含み、
空調状態判断部は、各空調ゾーンにおける空調設定条件と、実際の空調状態との間の差である空調状態偏差を検出し、検出された空調状態偏差が予め定めた閾値偏差を超えるか否かを各空調ゾーンごとに判断し、
能力調整部は、空調状態偏差が閾値偏差を超えると判断される空調ゾーンについて、その空調ゾーンに配置された空調機の空調能力が不足していると判断し、当該空調機の運転周波数を最適運転周波数から予め定めた増加条件に従って増加させ、当該空調機以外の他の空調機の中から、予め定めた能力調整組合せに従って定められる空調機の運転周波数を最適運転周波数から予め定めた低減条件に従って低減させる処理を行うことを特徴とする空調機制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の空調機制御システムにおいて、
制御装置は、
各空調機の空調ゾーンに対する空調負荷の余力特性に基づいて、能力調整組合せを予め定めて記憶する記憶部を含むことを特徴とする空調機制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の空調機制御システムにおいて、
制御装置は、
各空調機の余力特性を学習によって更新する余力特性学習部を含み、
記憶部は、
更新された各空調機の余力特性に基づいて能力調整組合せを更新することを特徴とする空調機制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−247100(P2012−247100A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117826(P2011−117826)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】