説明

空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置

【課題】通常のエバボレータに大きな変更を加えることなく、エバボレータの配管とその中を流れる冷媒との接触面積を増大させてエバボレータによる熱交換の効率を大きく改善することができる空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置を提供する。
【解決手段】本空調装置用冷媒拡散器は、エバボレータを具備する蒸気圧縮式ヒートポンプ装置の該エバボレータに設ける冷媒拡散器であって、上記冷媒拡散器は、上記エバボレータの配管の冷媒導入口側端部内に設けられ、該配管の軸方向を軸として平板が捻られている螺旋形状体であることを特徴とする。これにより冷媒7が配管21の内壁面の略全体に接触するようになるため、配管21の内壁面と冷媒7とが接触する面積が増加し、従来よりもエバボレータによる熱交換の効率を大きく改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気圧縮式ヒートポンプ装置のエバボレータによる熱交換の効率を改善するための空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置に関する。更に詳しくは、通常のエバボレータに大きな変更を加えることなく、エバボレータの配管とその中を流れる冷媒との接触面積を増大させてエバボレータによる熱交換の効率を大きく改善することができる空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍装置や冷房装置、暖房機等の空調装置に用いられる蒸気圧縮式ヒートポンプは、周囲から熱を奪うエバボレータと周囲に熱を放出するコンデンサとの間を、冷媒がコンプレッサによって循環する。また、エバボレータは、図6に例示するように、冷媒が流れる配管21と、配管21の周囲に熱交換する面積を増やすためのフィン23等とからなる。
このエバボレータの熱交換の効率を上げるには様々な方法が検討されており、その一つとして冷媒と配管とが接触する面積を増やすことができる構造が検討されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。また、また、外気と配管とが接触する面積を増やすことができる構造が検討されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平08−105699号公報
【特許文献2】特開平10−220917号公報
【特許文献3】特開2003−121090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、配管の内壁面に螺旋状の溝を形成することによって冷媒と配管とが接触する面積が増加し、熱交換の効率が上がることを提案している。
また、特許文献2は、配管の内壁を多孔質にして冷媒を浸透させることによって冷媒と配管とが接触する面積が増加し、熱交換の効率が上がることを提案している。
特許文献3は、配管に周設されているフィンを配管の周に沿って螺旋状に配設することによって外気との接触面積を増加させて、熱交換の効率が上がることを提案している。
【0005】
しかし、これらの特許文献1〜3においては、配管内を流れる冷媒が配管の内壁面に接触していることを前提としており、冷媒が配管の内壁面に接触しないことについては検討も示唆もされていなかった。
また、特許文献1及び2に示す配管の全ての内壁面に螺旋状の溝や多孔質物等を設ける方法は、通常の管材をそのまま使用することができず煩雑な配管の加工が必要となる。更に、配管の外周に螺旋状のフィンを設けたりすることは、通常のエバボレータの構造を大きく変更する必要があるため煩雑である。
本発明は、上記の従来の問題を解決するものであり、通常のエバボレータに大きな変更を加えることなく、エバボレータの配管とその中を流れる冷媒との接触面積を増大させてエバボレータによる熱交換の効率を大きく改善することができる空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.エバボレータを具備する蒸気圧縮式ヒートポンプ装置の該エバボレータに設ける冷媒拡散器であって、上記冷媒拡散器は、上記エバボレータの配管の冷媒導入口側端部内に設けられ、該配管の軸方向を軸として平板が捻られている螺旋形状体であることを特徴とする空調装置用冷媒拡散器。
2.上記冷媒拡散器のピッチは、6〜13mmである上記1.記載の空調装置用冷媒拡散器。
3.上記冷媒拡散器の全長は、15〜100mmである上記2.記載の空調装置用冷媒拡散器。
4.上記蒸気圧縮式ヒートポンプ装置は、車載用の冷凍機及び冷蔵機用である上記1.乃至上記3.のいずれかに記載の空調装置用冷媒拡散器。
5.エバボレータを具備する蒸気圧縮式ヒートポンプ装置の該エバボレータに設ける空調装置であって、上記空調装置は、上記エバボレータの配管の冷媒導入口側端部内に設けられ、該配管の軸方向を軸として平板が捻られている螺旋形状体である冷媒拡散器が設けられていることを特徴とする空調装置。
6.上記冷媒拡散器のピッチは、6〜15mmである上記5.記載の空調装置。
7.上記冷媒拡散器の全長は、15〜100mmである上記6.記載の空調装置。
8.上記冷媒拡散器は、はんだ付けにより上記配管内に設けられている上記5.乃至上記7.のいずれかに記載の空調装置。
9.上記蒸気圧縮式ヒートポンプ装置は、車載用の冷凍機及び冷蔵機用である上記5.乃至上記8.のいずれかに記載の空調装置。
【発明の効果】
【0007】
図6に例示するように、エバボレータ2の冷媒が流れる配管21の管径よりも、エバボレータ2に接続される冷媒の接続管6の管径が細い場合、接続管6から配管21に冷媒7が勢いよく流れ込んで、流れの径がほとんど拡がることなく略直線状に進むため、冷媒7のほとんどが配管21の内壁面に接触しないという問題が生じる。また、配管21内を流れる冷媒7は、重力等の影響によって配管21の一部の内壁側に偏って流れ、配管21の内壁面全体と接触することが少ないという問題が生じる。
本発明の空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置は上記問題に着目し、図5に例示するように、エバボレータ2の配管21の冷媒導入口側端部22内に、配管の軸方向に螺旋の軸が位置する螺旋形状体である冷媒拡散器3を設けることにより、冷媒導入口から導入される冷媒7が螺旋状に回転することにより拡散し、配管21の内壁面の略全体に接触するようになるため、配管21の内壁面と冷媒7とが接触する面積が増加し、従来よりもエバボレータによる熱交換の効率を大きく改善することができる。
また、冷媒拡散器は、冷媒導入口に挿入した状態で配設することができ、エバボレータの配管全体を変更する必要がない。更に、冷媒の流通を大きく妨げることがないため、コンプレッサ等の設計を変える必要がない。これらの理由のため、通常のエバボレータ及び空調装置の設計を大きく変更を加える必要がない。また、既存の空調装置のエバボレータの冷媒導入口に冷媒拡散器を設けても熱交換の効率改善の効果があり、本発明を容易に導入することができる。
【0008】
更に、冷媒拡散器のピッチを所定範囲にする場合は、エバボレータに導入される冷媒の勢いを著しく低下させることなく、且つ配管の内壁面の略全体に接触するように、冷媒を冷媒が螺旋状に回転させることができるので、熱交換の効率を改善させることができる。
また、冷媒拡散器の全長を所定範囲にする場合は、エバボレータの配管の冷媒導入口側端部への配設を容易に行うことができ、既存の空調装置のエバボレータの冷媒導入口に冷媒拡散器を設けても熱交換の効率改善の効果があり、本発明を容易に導入することができる。
更に、冷媒拡散器をはんだ付けにより設ける場合は、エバボレータの配管の冷媒導入口側端部への配設を容易に行うことができ、既存の空調装置のエバボレータの冷媒導入口に冷媒拡散器を設けても熱交換の効率改善の効果があり、本発明を容易に導入することができる。
また、車載用の冷凍機及び冷蔵機用である場合は、車載用の冷凍機等は搭載する場所が狭いため、エバボレータが小さく、冷媒の流れが速くなりがちであるため、本発明を用いることにより冷媒拡散器による拡散の効果がより得られることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1〜5を参照しながら本発明の空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置を詳しく説明する。
本発明の空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置は、エバボレータを具備する蒸気圧縮式ヒートポンプ装置のエバボレータに設ける空調装置であって、冷媒拡散器は、エバボレータの配管の冷媒導入口側端部内に設けられ、配管の軸方向を軸として平板が捻られている螺旋形状体であることを特徴とする。
【0010】
本空調装置は、接続管によって接続されているエバボレータと、コンデンサと、コンプレッサとを少なくとも備え、周囲から熱を奪うエバボレータと周囲に熱を放出するコンデンサとの間を、冷媒がコンプレッサによって循環する構造の上記「蒸気圧縮式ヒートポンプ装置」であればよく、冷房機、冷凍機、暖房機及びこれら複数の機能を備える空調装置として用いることができる。また、据置きでもよいし、トラック及び乗用車等の自動車及び鉄道車両等の上記「車載用」のいずれでもよい。これらのうち、車載用の冷凍機及び冷蔵機を好例とすることができる。配設するための場所が小さくても大きな冷却能力が必要であるからである。
【0011】
上記「冷媒拡散器」は、図5に例示するように、エバボレータの配管21の冷媒導入口に接続されている接続管6から直線状に導入される冷媒7の流れの向きを、配管21内を螺旋状且つ配管21の内壁面に添うように導入するよう向きを変える板である。これによって配管の内壁面に多く接触するようになり、従来のように冷媒が内壁面に接触していなかったり、一部の内壁側に偏って流れたりするときよりも熱交換効率を大きくすることができる。
冷媒拡散器の材質は、配管及び接続管内を流れる冷媒に侵されず、且つ冷媒の流れの向きを螺旋状に変えることができればよく、銅、アルミニウム及び鉄等の金属等及びその合金、樹脂等を用いることができる。
【0012】
冷媒拡散器の形状は、図3に示す冷媒拡散器3に例示するように、平板の長辺方向を軸にして捻った形状である螺旋形状である。このような形状は、長方形状の平板を捻り回す加工で得ることができ、作製が容易である。また、捻りのピッチは、適宜選択することができ、例えば6〜15mm(好ましくは6〜12.5mm、更に好ましくは7.5〜12.5mm)とすることができる。回数が少なすぎると冷媒の流れが十分に螺旋方向に変わらないため熱交換の効率が上昇しないからである。また、回数が多すぎると冷媒の流速が低下して却って熱交換の効率が低下するためである。
【0013】
冷媒拡散器の大きさは、エバボレータの配管内に収めることができる程度の大きさである。また、冷媒拡散器の全長は15〜100mm(好ましくは20〜80mm、更に好ましくは20〜70mm)が好ましい。このような大きさであれば、配設を容易に行うことができるからである。また、冷媒拡散器の径は、エバボレータの配管の内径と略同じ幅であることが好ましい。冷媒拡散器の周縁と配管の内壁を接合することにより冷媒拡散器を配管内に固定することができ、且つ冷媒を大きく回転させて拡散させることができるからである。更に、エバボレータの配管の内径より小さくてもかまわない。
【0014】
冷媒拡散器をエバボレータの配管内に設ける方法は任意に選択することができる。例えば、はんだ付け及び接着剤等を用いて冷媒拡散器を配管内に固定することができる。このうち、はんだ付け作業が容易であり且つ長期に渡って強固に固定できる点で好ましい。また、エバボレータの配管に冷媒拡散器を一体に形成してもよい。
また、冷媒拡散器をエバボレータに取り付ける位置は、図2に例示するように、エバボレータ2の冷媒を流す配管21のうち、冷媒が接続管6から導入される位置である冷媒導入口に冷媒拡散器3を設けるのが好ましい。冷媒拡散器3によって拡散する冷媒が配管21の全体に渡るためである。また、冷媒拡散器は、エバボレータの配管の「冷媒導入口側端部」に設けられていればよく、図2に例示するように、冷媒拡散器3が冷媒導入口に接するように設けられていてもよいし、冷媒拡散器3が配管21のより奥であって冷媒導入口と接触しない位置に設けられていてもよい。更に、冷媒拡散器3が配管21と接続管6との間にまたがるように設けられていてもよい。
【0015】
尚、冷媒拡散器は、エバボレータに設けることができるが、コンデンサの配管の冷媒導入口側端部に設けることもできる。気体となった冷媒を拡散させることにより、熱交換の効率を高めることができるためである。また、冷暖房兼用の場合は、冷房のときに凝縮器として機能していたコンデンサが暖房のときには蒸発器として機能するようになり、コンデンサにも液状の冷媒が流れるため、冷媒拡散器による冷媒の拡散が有効になるからである。
【実施例】
【0016】
以下、図1〜3に基づき本実施例の空調装置用冷媒拡散器及びそれを用いた空調装置を具体的に説明する。
図1に示すように、本実施例の空調装置1は、エバボレータ2と、コンデンサ4と、コンプレッサ5とを接続管6で接続した構成である。また、図1及び2に示すように、エバボレータ2内の配管21の冷媒導入口側端部22には冷媒拡散器3が設けられている。
冷媒拡散器3は図3に示すように、幅が約6mm、厚さが1mmの銅製平板を全長が30mmとなるように捻って作製した螺旋状体である。尚、図3に示す冷媒拡散器3のピッチは10.0mmである。また、ピッチがそれぞれ12.5、10.0、8.3、7.5及び6.0mm(捻った回数が1.2、1.5、1.8、2.0及び2.5回)の冷媒拡散器3を作製し、それぞれ実施例1〜5とした。
また、冷却能力が−29℃を維持する設定で約3kWである冷凍機に、冷媒拡散器3を設けて本発明の空調装置を得た。より詳しくは、エバボレータ2の内径が約6mmの冷媒導入口から冷媒拡散器3を挿入し、その後、冷媒拡散器3の長辺と、配管21の冷媒導入口側端部22の内壁面とをはんだ付けして冷媒拡散器3を配管21内に固定し、次いで、管径が約4mmの接続管6を接続した。
【0017】
このような空調装置を、長さが10mでありアルミニウム合金製のトラック用の荷室内の最奥部に通常の配設方法により配設し、その後、外気温が約18〜8℃の屋内で、10分間の慣らし運転を行った後、次いで−30℃の設定で冷却し、10分間隔で庫内の温度をエバボレータ2の空気取り込み口の位置で測定を行った。また、冷媒拡散器3を設けていない他は同じ構成である比較例を用意し、同じ方法で測定を行った。これらの結果を図4に示す。
【0018】
図4に示すように、冷媒拡散器3を設けていない比較例では、60分にかけて約−30℃に到達したが、冷媒拡散器3を設けた空調装置1である実施例1〜5は、約26〜42分という短い時間で−30℃以下に到達している。特に実施例2は、約26分で−30℃以下に到達しており、他の実施例1、3〜5の約37〜42分よりも短い時間で−30℃以下に到達している。このように、冷媒拡散器3を設けることによって、熱交換の効率を大きく改善し、冷却能力が比較例の約3kWから大幅に上昇することが分かる。
【0019】
また、上記構成の空調装置において、外気が約30℃のときに−30℃の設定で動作させたとき、比較例では1.5〜2.0時間要したのに対し、実施例2は約1時間で設定温度に到達した。このことからも冷媒拡散器3を設けることによって、熱交換の効率を大きく改善し、冷却能力が大幅に上昇することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】空調装置用冷媒拡散器を設けた空調装置の構成を説明するための模式図である。
【図2】空調装置用冷媒拡散器を設けた空調装置の構成においてエバボレータの冷媒導入口側端部を詳細に説明するための模式拡大図である。
【図3】空調装置用冷媒拡散器の形状を説明するための模式図である。
【図4】本実施例の空調装置を動作させたことによる温度の変化を示すグラフである。
【図5】空調装置用冷媒拡散器を設けたエバボレータ内を流れる冷媒の流れを説明するための模式図である。
【図6】従来のエバボレータ内を流れる冷媒の流れを説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0021】
1;空調装置、2;エバボレータ、21;配管、22;冷媒導入口側端部、3;冷媒拡散器、4;コンデンサ、5;コンプレッサ、6;接続管、7;冷媒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エバボレータを具備する蒸気圧縮式ヒートポンプ装置の該エバボレータに設ける冷媒拡散器であって、
上記冷媒拡散器は、上記エバボレータの配管の冷媒導入口側端部内に設けられ、該配管の軸方向を軸として平板が捻られている螺旋形状体であることを特徴とする空調装置用冷媒拡散器。
【請求項2】
上記冷媒拡散器のピッチは、6〜13mmである請求項1記載の空調装置用冷媒拡散器。
【請求項3】
上記冷媒拡散器の全長は、15〜100mmである請求項2記載の空調装置用冷媒拡散器。
【請求項4】
上記蒸気圧縮式ヒートポンプ装置は、車載用の冷凍機及び冷蔵機用である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の空調装置用冷媒拡散器。
【請求項5】
エバボレータを具備する蒸気圧縮式ヒートポンプ装置の該エバボレータに設ける空調装置であって、
上記空調装置は、上記エバボレータの配管の冷媒導入口側端部内に設けられ、該配管の軸方向を軸として平板が捻られている螺旋形状体である冷媒拡散器が設けられていることを特徴とする空調装置。
【請求項6】
上記冷媒拡散器のピッチは、6〜15mmである請求項5記載の空調装置。
【請求項7】
上記冷媒拡散器の全長は、15〜100mmである請求項6記載の空調装置。
【請求項8】
上記冷媒拡散器は、はんだ付けにより上記配管内に設けられている請求項5乃至7のいずれか一項に記載の空調装置。
【請求項9】
上記蒸気圧縮式ヒートポンプ装置は、車載用の冷凍機及び冷蔵機用である請求項5乃至8のいずれか一項に記載の空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−78187(P2010−78187A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244801(P2008−244801)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(398052829)中部車体株式会社 (1)
【Fターム(参考)】