説明

空質浄化装置の運転方法

【課題】光触媒性部材からなる脱臭フィルターの脱臭能力が受ける空気中の湿度影響を低減すること。
【解決手段】送風手段ならびに紫外線照射手段および光触媒性部材からなる脱臭フィルターを有する脱臭デバイスにおいて、少なくとも室温における湿潤雰囲気下で被分解物を含む空気を光触媒性部材からなる脱臭フィルターへ送風開始する過程の前に、湿度によりおよぼされる脱臭速度への影響を低減するために、少なくとも0.27〜5.4J/cm紫外線を照射する過程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に悪臭成分の分解除去や殺菌、防汚など光触媒活性を有する酸化チタンを用いた空質浄化装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタン光触媒は、殺菌や防汚等の目的で、様々な場面で実用化されており、その用途は、屋外用途に限らず、屋内の殺菌や脱臭等にも応用されつつある。
【0003】
特に、脱臭、空質浄化技術では、四大臭気成分のアセトアルデヒド、酢酸、アンモニア、硫黄化合物ガス(硫化水素、メチルメルカプタン)を速やかに脱臭、分解する技術が望まれている。大きくは活性炭やゼオライトなどの吸着剤を用い、臭気を濃縮貯蔵する方法と、熱分解法、熱触媒分解法、オゾン分解法、プラズマ放電分解法、光触媒分解法など、臭気を直接分解する方法に分けられる。
【0004】
吸着剤を用いる方法では、煙草の主流煙、副流煙に多く含まれるアセトアルデヒドの吸着力が乏しく、一旦吸着されても再び臭気を放出する問題があった。また直接分解法の熱分解法、触媒分解法では発熱や消費電力の問題、オゾン分解法、プラズマ放電分解法ではオゾン発生による安全性の問題があったが、光触媒分解法では、紫外線を照射して再生利用することを繰り返すことにより、脱臭フィルターの長寿命化が可能であった。
【0005】
従来より、光触媒分解においてその活性効率を上げる取組みはなされている(例えば、参考文献1参照)。
【0006】
しかし、光触媒部材を用いた脱臭フィルターの被分解物除去性能は使用雰囲気中の湿度の影響を強く受けることが知られていた。
【0007】
従来の湿度対策としての手法は、除湿剤・乾燥剤等を用いて被分解物を含有する空気から水分を除去する方法(例えば、特許文献2参照)、空気中の水分を凝結除去する方法(例えば、特許文献3参照)、被分解物を含有する空気を加熱処理することにより相対湿度を下げる方法(例えば、特許文献4参照)があった。
【特許文献1】特開平10−212204号公報
【特許文献2】特開2000−70671号公報
【特許文献3】特開2002−292235号公報
【特許文献4】特開2005−80726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1においてファン運転開始10〜60秒前に紫外線照射を開始する方法が開示されているが、光触媒性部材が受ける湿度の影響をなんら解決するものではない。
【0009】
また、特許文献2に記載された除湿剤・乾燥剤を用いる方法では、空気中の水分を吸着することにより容易に吸着飽和に達し、その除湿能力は著しく低下する。仮にその除湿能力を再生させる手法を併用したとしても、そのためにはヒーター等余分の装置が必要となり、コストが大きな問題となる。
【0010】
特許文献3記載の水分を凝結除去する方法も、特別にリービヒ冷却器等の冷却部を設ける必要があり、高コストである上、デバイスの構成も煩雑なものとなる。
【0011】
特許文献4記載の空気を加熱する方法も、ヒーターを装備する必要があり、コストが問題となる上、空気を加熱処理するため、常にデバイスから温風が吐出されることとなり、気温も湿度も高い日本の夏場に屋内使用することは難しい。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、湿度の影響を低減することを目的とした光触媒性部材を用いた空質浄化装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明の運転方法は、少なくとも湿潤雰囲気下で被分解物を含む空気を光触媒性部材へ送風開始する前に、湿度の影響を低減するために少なくとも1.5〜30分間紫外線を照射する過程を有し、光触媒性部材からなるフィルターで脱臭を行う。
【0014】
本運転方法によって、光触媒性部性部材が受ける湿度の影響を特別の装置を設けることなく安価に効率よく低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の運転方法によれば、湿潤雰囲気下で従来の脱臭方法と比較して、最大2倍以上の脱臭速度で被分解物を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(実施の形態1)
本発明において、光触媒とは、紫外線等の光を照射することによって、触媒活性を示す物質をいい、具体的には、光を照射することによって、種々の有機物質や無機物質の分解除去や殺菌等を行うことができ、例えば、アセトアルデヒドやメルカプタン類等の悪臭成分の分解除去、菌類や藻類の殺菌除去、窒素酸化物の酸化分解除去およびガラスの超親水性化による防汚機能の付与等に好適に用いることができる。
【0018】
本発明では、例えばアセトアルデヒドを分解脱臭して減少するアセトアルデヒドの脱臭速度定数をもって、光触媒活性の優劣を述べる。脱臭速度定数とは、光触媒性部材へファンを用いて送風開始した後の時間に対するアセトアルデヒド濃度を対数表示した時の傾きで表される。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態における脱臭速度評価装置の簡易図である。
【0020】
開口部の断面が10cm×10cmの筒状筐体1中に約0.1gの酸化チタン(アナタース型酸化チタンとフッ素の少なくとも一部が化学結合している酸化チタンで、フッ素の含有量が、3.5重量%である酸化チタン)を塗布したアルミニウム製パンチングメタル(空孔率37%、大きさ8cm×18cm)を試験試料2として水平に設置した。酸化チタンを塗布する基材としては、酸化チタンにより酸分解されない無機物、または酸化チタンの塗布は蒸留水中に酸化チタンを分散させた塗布液をパンチングメタル上に製膜、乾燥することにより作製した。筒状筐体1の片側にはプロペラファン4を設置し、試験試料2側が吸気側、ファン4側が排気側となるような送風を可能とした。風速は試験試料2表面で1m/sとなるようにした。
【0021】
筒状筐体1の上面は紫外線透過ガラス5で作製し、筐体1中に設置した試験試料2への紫外線の照射を可能とした。
【0022】
このようにして作製した脱臭ユニットを100Lの容積を持つアクリル製の密閉容器6中に設置した。密閉容器6中には試験試料に紫外線を照射するための、ブラックライト3(National製6W×5本)を取り付けた。
【0023】
アクリル製の密閉容器6には湯浴中に浸したバブラーを連結し、湿潤な空気を導入することで、密閉容器6中の湿度制御を行った。
【0024】
密閉容器6中の湿度を0、20、40、60、70、80%に制御した。密閉容器6中の湿度が平衡状態に達するよう、40分間目的の湿度で維持するとともに、ファン4による送風を開始する前の紫外線照射時間を0分、5又は10分、40分と変化させることにより、送風開始前の紫外線照射エネルギーを制御し、脱臭速度定数kの紫外線照射エネルギー(J/cm)依存性を測定した。
【0025】
紫外線照射エネルギーは、照射エネルギー/J cm=照射強度/W cm×照射時間/秒で計算した。紫外線照射強度は、送風開始前後とも2mW/cmとした。
【0026】
ファン4を運転させるタイミングで被分解物質としてアセトアルデヒドガスを密閉容器6内の初期濃度が10ppmとなるように導入した。
【0027】
実施例1における試験結果を図2に示す。
【0028】
相対湿度0%を除く、相対湿度20〜80%の範囲で従来運転方法(送風開始前の紫外線照射エネルギー:0J/cm)と比較して向上が見られる結果となった。
【0029】
(実施の形態2)
脱臭速度評価装置は実施の形態1と同様のものが用いられた。密閉容器6中の湿度を60%とし、送風開始前の紫外線照射強度を1、2、3mW/cmで行った。送風開始後の光照射強度はいずれの場合とも2mW/cm2で行った。
【0030】
実施例2における試験結果を図3に示す。
【0031】
紫外線の照射強度に関係なく、照射エネルギーが0.8〜2.0 J/cmとなった時点で脱臭性能は飽和する結果が得られた。
【0032】
実施の形態2において湿度60%、照射エネルギー1.2 J/cm(照射強度:2mW/cm、照射時間:10分)の条件で試験を行った際と、従来の運転方法である、湿度60%、照射エネルギー0 J/cmで試験を行った時の脱臭性能の比較を図4に示す。紫外線を照射している間、ファンを止め送風を行わずとも、紫外線照射により脱臭速度が向上し、60分後には従来の方法よりも優れた脱臭結果となった。
【0033】
湿度60%における従来の運転方法における脱臭速度定数と、図3の結果から求めた、投入した照射エネルギーに対する脱臭速度定数を求め、60分後の濃度を計算した時の比較結果を図5に示す。
【0034】
照射強度を3mW/cmとした時、1分間すなわち0.18 J/cmの光照射を行った時に対して、1.5分間すなわち少なくとも0.27J/cmの光照射を行うことにより、60分後のアセトアルデヒド濃度を比較した時、従来運転方法に対してより顕著な優位差を発現させることができる。
【0035】
また、同様の照射強度で30分間すなわち5.4 J/cmの光照射を行った場合は、60分後のアセトアルデヒド濃度を従来例と比較した時優れた脱臭性能を発現させる。
【0036】
一方35分間すなわち6.3 J/cmの紫外線を照射した時には、60分後の濃度を比較した時に従来例の脱臭能力を上回ることができない。脱臭開始前の紫外線照射時間が長すぎて、脱臭にかける時間が減少したためである。
【0037】
(実施の形態3)
次に、スイッチがオン状態にされることにより、光触媒性部材に少なくとも0.27〜5.4J/cm2紫外線を照射する第一工程と、それに引続く紫外線を照射しながら被分解物を光触媒性部材へ送風を開始する第二工程からなる方法で運転を行うことで、より高速分解する空質浄化装置の形態例について示す。
【0038】
図6は実施形態3の空質浄化装置10の側面図である。図において、11は通気性のフィルター状基材に光触媒層を設けた光触媒性部材である。12は紫外線を含む光源であり、最大照射強度が352nmの波長を発するブラックライトや冷陰極管で、光触媒性部材11に均質に照射されるように反射板13が配備されている。また、14はシロッコファンなどの送風手段であり、空質浄化装置10へ汚染空気を導入し、また、浄化された空気を装置外へ排出する。
【0039】
実施形態3の空質浄化装置10は、最も一般的に用いられる浄化装置の形態であり、空気清浄機、脱臭機、半導体クリーンルームの浄化装置、印刷工場、塗装工場などの産業用VOC浄化装置に使うことが出来る。光触媒性部材11に、光源12で紫外線照射を行うことで光触媒は活性化する。そこに、送風手段14を駆動することで、室内の臭いや、VOC、菌などの有機物を含む空気が入り口15から入り、光触媒部材11に接触すると、空気中の有機物は酸化分解され清浄な空気となって、出口16より出て行く。これを繰り返すことで、空質浄化装置10の周囲の空気はきれいになる。
【0040】
(実施の形態4)
次に、相対湿度検出部と被分解物濃度検出部とを備えた空質浄化装置であって、自動的に相対湿度20〜80%を検出し、かつ被分解物濃度検出部で規定値以上を検出した時に、光触媒性部材に少なくとも0.27〜5.4J/cm2紫外線を照射する第一工程と、それに引続く紫外線を照射しながら被分解物を光触媒性部材へ送風を開始する第二工程からなる方法で運転を行うことで、より高速分解する空質浄化装置の形態例について示す。
【0041】
図7は実施形態4の空質浄化装置20の側面図である。図において、21は通気性のフィルター状基材に光触媒層を設けた光触媒性部材である。22は紫外線を含む光源であり、最大照射強度が352nmの波長を発するブラックライトや冷陰極管で、光触媒性部材21に均質に照射されるように反射板23が配備されている。また、24はシロッコファンなどの送風手段であり、空質浄化装置20へ汚染空気を導入し、また、浄化された空気を装置外へ排出する。前記紫外線を照射する第一工程、ならびに第二工程を開始するタイミングを検知するための、湿度検出部27および被分解物質濃度検出部28を有している。
【0042】
実施形態4の空質浄化装置20は、最も一般的に用いられる浄化装置の形態であり、空気清浄機、脱臭機、半導体クリーンルームの浄化装置、印刷工場、塗装工場などの産業用VOC浄化装置に使うことが出来る。光触媒性部材21に、光源22で紫外線照射を行うことで光触媒は活性化する。そこに、送風手段24を駆動することで、室内の臭いや、VOC、菌などの有機物を含む空気が入り口25から入り、光触媒部材21に接触すると、空気中の有機物は酸化分解され清浄な空気となって、出口26より出て行く。これを繰り返すことで、空質浄化装置20の周囲の空気はきれいになる。
【0043】
実施の形態4に示した運転方法では、送風を開始するタイミングを従来運転方法と同時にすることが可能であり、投入する紫外線照射エネルギーに係わらず従来運転方法よりも優れた脱臭速度を示す。従って従来運転方法よりも優れた特性を得るためには投入する紫外線エネルギーは任意であるが、前記5.4J/cm以上のエネルギーの投入は、エネルギーの浪費であり必要ない。
【0044】
図8に従来運転方法ならびに実施の形態3および実施の形態4における空質浄化装置の運転方法のフローチャート図を示す。
【0045】
「従来運転方法」では、スイッチがオン状態にされることにより、光触媒性部材への紫外線照射および送風手段の運転が同時に開始される。
【0046】
一方本発明にかかる「実施の形態3」では、スイッチがオン状態にされることにより、光触媒性部材に少なくとも0.27〜5.4J/cm紫外線を照射する第一工程と、それに引続く紫外線を照射しながら被分解物を光触媒性部材へ送風を開始する第二工程からなる方法で運転がされる。
【0047】
また本発明にかかる「実施の形態4」では、常に湿度検出器ならびに被分解物質濃度検出器を運転させておき、被分解物濃度検出部で規定値以上になったことを検出し、かつ相対湿度が20〜80%となったことを検出した時に、光触媒性部材に少なくとも0.27〜5.4J/cm紫外線を照射する第一工程と、それに引続く紫外線を照射しながら被分解物を光触媒性部材へ送風を開始する第二工程からなる方法で運転がされる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、例えば脱臭、消臭、空気清浄等の目的で使用される空質浄化方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態1および2における脱臭速度評価装置の図
【図2】本発明の実施の形態1における従来例との比較/紫外線照射エネルギーの図
【図3】本発明の実施の形態2における脱臭速度定数k/照射エネルギーの図
【図4】本発明の実施の形態1における湿度60%、紫外線照射強度2mW/cm、照射時間10分におけるアセトアルデヒドの脱臭特性ならびに従来例との比較の図
【図5】本発明の実施の形態2における、紫外線照射エネルギー低領域とならびに高領域での従来例との比較の図
【図6】本発明の実施形態3における空質浄化装置の断面図
【図7】本発明の実施形態4における空質浄化装置の断面図
【図8】本発明の実施の形態3および実施の形態4における運転方法のフローチャート
【符号の説明】
【0050】
1 筒型筐体
2 試験試料
3 ブラックライト
4 プロペラファン
5 紫外線透過ガラス
6 アクリル製密閉容器
10 空質浄化装置
11 光触媒性部材
12 光源
13 反射板
14 ファン
15 プレフィルター
16 排風口
20 空質浄化装置
21 光触媒性部材
22 光源
23 反射板
24 ファン
25 プレフィルター
26 排風口
27 湿度検出部
28 被分解物質濃度検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒性部材、紫外線を照射する光源、送風手段を有する空質浄化装置の運転方法であって、
湿潤雰囲気下で、0.27〜5.4J/cmの紫外線を前記光触媒性部材に照射する第一工程と、
それに引き続く、紫外線を照射しながら被分解物を光触媒性部材へ送風する第二工程と、
と含む、空質浄化装置の運転方法。
【請求項2】
前記第一工程の紫外線照射エネルギーが0.8〜2.0J/cmであることを特徴とする請求項1に記載の空質浄化装置の運転方法。
【請求項3】
前記第一工程の紫外線照射時間が1.5〜30分であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空質浄化装置の運転方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の光触媒性部材が、フッ素を含有する酸化チタンであることを特徴とする空質浄化装置の運転方法。
【請求項5】
相対湿度検出部と被分解物濃度検出部とを備えた空質浄化装置であって、前記相対湿度20〜80%を検出し、かつ被分解物濃度検出部で規定値以上を検出した時に、請求項1〜4に記載の運転を行う空質浄化装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−272174(P2008−272174A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118661(P2007−118661)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】