説明

空間光変調器およびその画素駆動方法

【課題】細線状に形成された磁性体からなる磁性細線を用いて、簡易な構造で、かつ開口率を向上させた空間光変調器を提供する。
【解決手段】空間光変調器10は、細線方向に単位長さLbで区切られた領域を画素として所定数の画素を細線方向に連続して設けられた磁性細線1を、複数並設して画素アレイを形成し、データ書込部50および走査電流源8をさらに備える。磁性細線1は画素を設けられた領域である画素領域1pxの外に細線方向に区切られた書込領域1wが設けられており、データ書込部50が書込領域1wを所定の画素における磁化方向に変化させて形成した磁区は、走査電流源8が磁性細線1に細線方向に直流パルス電流を供給することにより、当該磁区を区切る磁壁と共に細線方向に沿って移動して、前記所定の画素に到達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を磁気光学効果により光の位相や振幅等を空間的に変調して出射する空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器は、画素として光学素子(光変調素子)を用い、これをマトリクス状に2次元配列して光の位相や振幅等を空間的に変調するものであって、ディスプレイ技術や記録技術等の分野で広く利用されている。空間光変調器として、従来より液晶が用いられているが、近年では、高速処理かつ画素の1μm以下の微細化の可能性が期待される磁気光学材料を用いた磁気光学式空間光変調器の開発が進められている。
【0003】
磁気光学式空間光変調器(以下、空間光変調器)においては、磁性体に入射した光が透過または反射する際にその偏光の向きを変化(旋光)させて出射するファラデー効果(反射の場合はカー効果)を利用し、磁性体の中でも特に効果の大きい磁気光学材料を使用している。例えば明るく表示しようとする画素(選択画素)における光変調素子の磁化方向とそれ以外の画素(非選択画素)における光変調素子の磁化方向を異なるものにして、選択画素から出射した光と非選択画素から出射した光で、その偏光の回転角(旋光角)に差を生じさせることで、選択画素のみを明るく表示する。このような光変調素子の磁化方向を変化させる方法として、光変調素子に磁界を印加する磁界印加方式の他に、近年では光変調素子に電流を供給することでスピンを注入するスピン注入方式(例えば、特許文献1)がある。
【0004】
スピン注入方式の光変調素子は、具体的には、TMR(Tunnel MagnetoResistance:トンネル磁気抵抗効果)素子やCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane Giant MagnetoResistance:垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子等の、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)にも適用されるスピン注入磁化反転素子を適用することができる。スピン注入磁化反転素子は、間に非磁性または絶縁性の中間層を挟んだ少なくとも2層の磁性膜からなる積層体で、その上下に一対の電極を接続して膜面に垂直に電流を供給することにより、スピンが注入されて磁性膜の一部の層(磁化自由層)の磁化方向が変化(反転)する。スピン注入磁化反転素子は素子サイズ(面積)が小さいほど小さい電流で容易に磁化反転し、このようなスピン注入磁化反転素子を適用した光変調素子は、磁界を発生させるために各光変調素子の外周に沿って電極(配線)を備える磁界印加方式よりもいっそうの微細化を可能とする。
【0005】
また、光変調素子の別の態様として、本発明者らは、細線加工された磁性体(磁性細線)を光変調素子とする空間光変調器を開発している(特許文献2)。これは、磁性細線においては、2以上の磁区が細線方向に区切られて形成され易く、これらの磁区を区切る磁壁が当該磁性細線に電流を細線方向に供給することにより移動するという磁壁移動を利用している(非特許文献1,2参照)。詳しくは、図17に示すように、画素104毎に1本の磁性細線101を備え、その両端に接続した一対の電極131,132にて細線方向に電流を供給すると、電流の向きとは反対方向へ磁壁が移動して、磁壁の移動前後の位置に挟まれた領域における磁化方向が反転するので、この領域を光の入射領域(開口領域)として反射光を取り出すことができる。なお、図17においては、磁性細線101の磁化方向を示すため、電極132の一部を切り欠いて表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−83686号公報
【特許文献2】特開2010−20114号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. Koyama et al., “Control of Domain Wall Position by Electrical Current in Structured Co/Ni Wire with Perpendicular Magnetic Anisotropy”, Appl. Phys. Express 1, 101303 (2008)
【非特許文献2】Xin Jiang et al., “Enhanced stochasticity of domain wall motion in magnetic racetracks due to dynamic pinning”, Nature Communications, 1, pp.1-5 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載したスピン注入磁化反転素子は、所望の磁気特性を得るためには、磁性膜や中間層の膜厚を1nmまたはそれ以下の精度で制御する必要があり、またさらに磁性膜を多層膜とする等の複雑な構造を要し、生産上の課題が多い。また、スピン注入磁化反転素子には上下に電極材料を設けるので、光変調素子として光を入出射するためには、光の入出射側に、光を透過する透明電極材料を適用しなくてはならない。透明電極材料は、金属電極材料と比べて導電性に大きく劣るため、特により多数の光変調素子をマトリクス状に配列した高精細の空間光変調器になるほど中央部で動作が遅れる虞がある。このような空間光変調器を動作させるために大電流を供給する必要があり、省電力化の点で改良の余地がある。あるいは、電極(配線)を厚膜化することで断面積を大きくすれば配線抵抗を低減できるが、金属電極材料も含めて配線幅に比して膜厚を大きくすることは製造上の限界があり、微細化された画素では困難となる。
【0009】
一方、特許文献2に記載した光変調素子は、図17に示すように、1本の磁性細線101からなる簡易な構造であるが、この磁性細線101には磁壁を挟んで開口領域における磁化方向と異なる磁化方向の磁区が形成されている。したがって、磁性細線101において画素情報として取り出せる光は、中央部の磁壁の移動前後の位置に挟まれた領域からの反射光に限定され、画素104の開口率には限界があり、改良する余地がある。
【0010】
本発明は前記課題に鑑み創案されたもので、磁性細線を適用して生産が容易となる簡易な構造で、十分な開口率の画素を備えた空間光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明者らは、磁性細線における磁壁の移動速度が数十m/sから250m/s程度と極めて高速であることから、空間光変調器の1行における光変調素子を連続した1本の磁性細線で構成し、当該1行におけるすべての画素のデータを1画素ずつ順番に書き換えることに想到した。
【0012】
本発明に係る空間光変調器は、画素をマトリクス状に配列してなる画素アレイと、前記画素アレイの画素のそれぞれを当該画素の入力された2値のデータに基づき異なる2つの磁化方向のいずれかにする画素駆動手段と、を備えるものである。そして、前記画素アレイは、複数の画素を一列に配列して備えて前記配列方向に沿って細線状に形成された磁性体からなる磁性細線を複数並設して形成され、前記磁性細線は、前記複数の画素を備える画素領域と書込領域とを細線方向に区切るように、予め指定された位置に設けられることを特徴とする。一方、前記画素駆動手段は、前記磁性細線を前記書込領域において所定の磁化方向にする書込手段と、前記磁性細線の両端に接続して、当該磁性細線に形成された磁区をこの磁区を区切る磁壁と共に断続的に移動させるパルス電流を供給する電流供給手段と、前記磁性細線に供給されるパルス電流における電流停止時に、前記磁性細線を前記書込領域において所定の画素のデータに基づく磁化方向にするように前記書込手段を制御し、前記書込領域に形成された磁区を前記所定の画素に到達させるように前記電流供給手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
かかる構成により、空間光変調器は、マトリクス状に配列した画素アレイを行毎に1本の磁性細線で構成して、その両端にて電流を供給すればよく、さらに磁性細線のそれぞれについて、設定された書込領域をデータに基づく磁化方向にすればよいので、簡易な構造とすることができる。また、画素毎に電極を直接に接続する必要がなく、したがって外部から画素アレイの領域へ接続する配線がないので、1つの画素において、磁性細線の当該領域全体が光の入射領域となり、開口率が高くなる。
【0014】
また、本発明に係る空間光変調器において、前記書込手段は前記磁性細線に磁界を印加するものとすればよい。かかる構成により、空間光変調器は、書込領域も含めて簡易な構造とすることができ、磁気ディスク等の磁気ヘッドと同様の公知の書込方法を適用して、磁性細線の書込領域を所望の磁化方向にすることができる。
【0015】
あるいは、本発明に係る空間光変調器において、前記磁性細線が書込領域にスピン注入磁化反転素子構造を備え、前記書込手段は前記磁性細線のスピン注入磁化反転素子構造に膜面に垂直な方向に電流を供給するものとすればよい。かかる構成により、空間光変調器は微細な画素としても、複数の磁性細線について並行して、高速なスピン注入磁化反転により書込領域を所望の磁化方向にすることができる。
【0016】
また、本発明に係る空間光変調器は、前記画素駆動手段が、磁性細線の少なくとも書込領域から画素領域が設けられた側の反対側の端までを2つの磁化方向の一方にする初期化手段を備えて、前記書込手段が、磁性細線を書込領域において前記2つの磁化方向の他方のみにする構成にしてもよい。かかる構成により、書込手段は磁化を一方向にすることができればよいので、駆動回路を簡易な構造にすることができる。
【0017】
さらに、本発明に係る空間光変調器は、前記磁性細線が、画素を細線方向に区切る境界の1箇所以上で括れた形状に形成されていることが好ましい。あるいは、前記磁性細線が、画素を細線方向に区切る境界の1箇所以上で屈曲した細線形状に形成されていることが好ましい。
【0018】
かかる構成により、パルス電流における電流停止時に磁性細線の括れた箇所または屈曲した箇所に磁壁が到達して停止するので、磁性細線において、書込領域で形成された磁区が設定された画素に到達するように移動させることが容易となり、正確に表示することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る空間光変調器は、前記画素アレイが磁気転写膜を磁性細線に接触させて備え、前記磁気転写膜を透過して前記磁性細線に光を入射させることが好ましい。
【0020】
かかる構成により、空間光変調器は、ファラデー効果の大きい磁気転写膜を、磁性細線の光の入射側に接触させて備えるため、画素に入射した光が磁気転写膜を透過することにより、入射した光を大きく旋光させて出射する。
【0021】
また、本発明に係る空間光変調器の画素駆動方法は、複数の画素を一列に配列して備えて前記配列方向に沿って細線状に形成された磁性体からなる磁性細線を複数並設して画素をマトリクス状に配列されてなる画素アレイとする空間光変調器において、前記画素アレイのそれぞれの画素を、当該画素の入力された2値のデータに基づき異なる2つの磁化方向のいずれかにする方法である。その方法は、前記磁性細線に備えられた複数の画素における配列された順に、1つの画素を選択する画素選択工程と、前記磁性細線を、前記複数の画素を備える領域とは細線方向に区切られて予め設けられた書込領域において、前記選択した1つの画素のデータに基づく磁化方向にする書込工程と、前記磁性細線に形成されている磁区を、前記書込領域から前記複数の画素を備える領域へ向けて細線方向に、前記画素の1つ分の長さの距離を移動させる磁区移動工程と、を順番に繰り返して、前記磁性細線に備えられたすべての画素をデータに基づく磁化方向にするものである。そのために、前記並設された複数の磁性細線のそれぞれについて、前記磁性細線に形成された磁区が当該磁区を区切る磁壁と共に断続的に移動するパルス電流を、当該磁性細線へその細線方向に供給することにより、前記パルス電流における電流停止時に前記画素選択工程と前記書込工程とを行い、前記パルス電流における電流供給時に前記磁区移動工程を行うことを特徴とする。
【0022】
かかる手順により、マトリクス状に配列した画素アレイを行毎に1本の磁性細線で構成した空間光変調器について、磁性細線にパルス電流を供給し、設定された書込領域に画素を1つずつ順番にそのデータに基づく磁化方向にすることで、画素毎に配線を接続することなく、すべての画素を所望の磁化方向にすることができる。
【0023】
さらに、本発明に係る空間光変調器の画素駆動方法は、前記書込工程を配列された画素の1番目について行う前に、磁性細線の少なくとも書込領域から画素領域が設けられた側の反対側の端までを2つの磁化方向の一方にする初期化工程を行って、前記書込工程のそれぞれにおいて、選択した1つの画素のデータに基づく磁化方向が前記一方の磁化方向と同じである場合は磁性細線の磁化方向を変化させないようにしてもよい。
【0024】
かかる手順により、最初に1回の初期化工程を行うことで、書込工程においては、磁性細線の書込領域を2つの磁化方向の他方にのみすればよく、簡易な構造とした空間光変調器について、多くの時間を要しないで、磁性細線の画素をデータに基づく磁化方向にすることができる。
【0025】
さらに、本発明に係る空間光変調器の画素駆動方法は、2以上の磁性細線について、共通のパルス電流を供給し、前記工程のそれぞれを並行して行うことが好ましい。
【0026】
かかる手順により、画素アレイのすべての画素を所望の磁化方向にすることに要する時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る空間光変調器によれば、画素の開口率が高く、容易に製造可能な空間光変調器とすることができる。また、本発明に係る空間光変調器の画素駆動方法によれば、前記空間光変調器について、所望の画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る空間光変調器の構成を説明する磁性細線の斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る空間光変調器の光変調部の平面図である。
【図3】本発明に係る空間光変調器を用いた表示装置の構成を説明する模式図で、図2の水平方向に沿った断面図に対応する図である。
【図4】第1実施形態に係る空間光変調器の光変調部の構成を説明するための磁性細線の細線方向における断面図であり、(a)は上向きの磁化方向への書込時の模式図、(b)は磁区の移動時の模式図、(c)は下向きの磁化方向への書込時の模式図を示す。
【図5】第1実施形態に係る空間光変調器の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明に係る空間光変調器において、画像データに基づいて画像を表示する動作を説明する図であり、(a)は画像、(b)は画像データ、(c)は画素列データ、(d)は画素アレイである。
【図7】第1実施形態に係る空間光変調器における画素駆動方法を説明するフローチャートである。
【図8】第1実施形態に係る空間光変調器における画素駆動方法を説明するタイミングチャートである。
【図9】第1実施形態の変形例に係る空間光変調器の光変調部の平面図である。
【図10】第2実施形態に係る空間光変調器の構成を示すブロック図である。
【図11】第2実施形態に係る空間光変調器における画素駆動方法を説明するフローチャートである。
【図12】第2実施形態の変形例に係る空間光変調器の光変調部の別の構成を説明するための磁性細線の細線方向における断面図であり、(a)は上向きの磁化方向への書込時の模式図、(b)は下向きの磁化方向への書込時の模式図を示す。
【図13】第3実施形態に係る空間光変調器の光変調部の構成を説明するための磁性細線の細線方向における断面図である。
【図14】第4実施形態に係る空間光変調器の光変調部の構成を説明するための磁性細線の細線方向における断面図であり、(a)は初期化時の模式図、(b)は上向きの磁化方向への書込時の模式図、(c)は磁区の移動時の模式図を示す。
【図15】第4実施形態に係る空間光変調器における画素駆動方法を説明するフローチャートである。
【図16】実施例の光変調部のサンプルの磁気力顕微鏡像写真であり、磁性細線の幅が、(a)は150nm、(b)は250nm、(c)は500nmである。
【図17】従来の磁性細線を画素に適用した空間光変調器の構成を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る空間光変調器を実現するための形態について、図を参照して説明する。本明細書の図を参照した説明において、横(水平)および縦(垂直)とは平面図における方向を指す。
【0030】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る空間光変調器10は、図1に示すように、横方向に延設されたストライプ状の磁性細線1と、それぞれの磁性細線1の両端に接続して当該磁性細線1へ走査電流源8にてパルス電流を供給する走査電流供給部(電流供給手段)80(図5参照)と、それぞれの磁性細線1について当該磁性細線1の限定された領域(書込領域1w)における磁化方向を上向きおよび下向き(所定の一方向およびその反対方向の異なる2方向)のいずれかにするデータ書込部(書込手段)50と、を備える。空間光変調器10は、図5に示すように、走査電流供給部80およびデータ書込部50の動作を制御する制御部90をさらに備える。
【0031】
本実施形態に係る空間光変調器10は、図2に示すように、基板2上に並設された8本の磁性細線1を光変調部20として備える。磁性細線1は、細線方向に所定の単位長さLbで区切られた領域を1つの画素4として、一列(一行)に配列された8個の画素4を細線方向に連続して備え、この画素4毎に前記いずれかの磁化方向を示す。すなわち磁性細線1は、磁区が細線方向に分割されて形成されている。また、磁性細線1において、すべての(本実施形態では8個の)画素4が設けられた領域を画素領域1pxと称する。そして、光変調部20は、磁性細線1を8本備えるので、8列×8行の64個のマトリクス状に配列された画素4(画素アレイ40)を備えていることになる。本明細書において、光変調部20(画素アレイ40)は行方向(横方向)を磁性細線1の細線方向としているが、行と列とを入れ替えた構成にしてもよい。なお、一般的な空間光変調器の画素アレイは、例えばフルハイビジョンでは水平(横)方向1920×垂直(縦)方向1080の約207万画素であるが、本明細書では簡略化して説明するために8列×8行で構成する。
【0032】
ここで、画素4は、図2において破線枠で示すように、磁性細線1,1間の空隙(絶縁層6)を含めた領域であるが、適宜、磁性細線1の単位長さLbで区切られた領域を指す。また、一般的に画素とは1個で色調および階調を表示可能な最小単位であり、例えばフルカラー(RGB3色×256階調)表示をするために1画素で24ビットの多数の情報を有するが、本明細書における画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報として明/暗の2値(1ビット)を提示する手段を指す。
【0033】
(空間光変調器の光変調動作)
本発明に係る空間光変調器の光変調動作を、図3を参照して、この空間光変調器を用いた表示装置にて説明する。表示装置は、図17に示す従来の空間光変調器100を用いたものや、スピン注入磁化反転素子を光変調素子としたものと同様の構成とすればよい。本実施形態に係る空間光変調器10は反射型であり、また、その光変調部となる磁性細線1が垂直磁気異方性材料からなり磁化方向が上向きまたは下向きを示すため、表示装置は以下の構成とすることが好ましい。空間光変調器10の画素アレイ40の直上には、画素アレイ40に向けて光(レーザー光)を照射する光源等を備える光学系OPSと、光学系OPSから照射された光を画素アレイ40に入射する前に1つの偏光成分の光(1つの向きの偏光、以下、適宜偏光という)にする偏光子PFiと、この上方から画素アレイ40に入射する偏光(入射偏光)を透過させ、かつ画素アレイ40で反射して出射した光を側方へ反射するハーフミラーHMと、が配置される。そして、画素アレイ40の上方の前記ハーフミラーHMの側方には、ハーフミラーHMで反射して到達した光から特定の偏光成分の光を遮光する偏光子PFoと、偏光子PFoを透過した光を検出する検出器PDとが配置される。
【0034】
光学系OPSは、例えばレーザー光源、およびこれに光学的に接続されてレーザー光を画素アレイ40の全面に照射する大きさに拡大するビーム拡大器、さらに拡大されたレーザー光を平行光にするレンズで構成される(図示省略)。光学系OPSから照射された光(レーザー光)は様々な偏光成分を含んでいるため、この光を画素アレイ40の手前の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光(偏光)にする。偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、検出器PDはスクリーン等の画像表示手段である。
【0035】
光学系OPSは、平行光としたレーザー光を、画素アレイ40へ膜面に垂直に(入射角0°で)入射するように照射する。レーザー光は偏光子PFiを透過して偏光(入射偏光)となり、ハーフミラーHMを透過して画素アレイ40の上方からすべての画素4すなわち磁性細線1に向けて入射する。入射偏光は、磁性細線1で反射して、画素アレイ40から出射偏光として出射する。入射角0°であることから、出射偏光は入射偏光と同一の光路となる。そこで、偏光子PFiと画素アレイ40との間に画素アレイ40に対して45°傾斜させたハーフミラーHMを配置して、出射偏光を側方へ反射させることで、出射偏光だけを偏光子PFoに到達させる。偏光子PFoはすべての出射偏光のうちの特定の偏光を遮光し、偏光子PFoを透過した光が検出器PDに入射する。なお、入射偏光を傾斜させて画素アレイ40に入射し(入射角>0°)、出射偏光と光路が重複しないようにして、ハーフミラーHMを配置しない構成としてもよい。ただし、入射方向が磁化方向に平行に近いほど磁気光学効果が高いので、入射角は30°程度以内とすることが好ましい。
【0036】
光は、磁性細線1で反射したときまたは透過したときに、その偏光の向きが、磁気光学効果により、当該磁性細線1の光が入射した領域における磁化方向に対応して一方向およびその反対方向に同じ角度で回転する(旋光する)。図3においては、光は磁性細線1で反射したときのカー効果により角度θkで旋光し、上向きの磁化方向を示す領域で反射した光は+θk、下向きの磁化方向を示す領域で反射した光は−θk旋光する。偏光子PFoは、入射偏光に対して−θk旋光した光を遮光するものとする。そのため、下向きの磁化方向の領域(磁区)で反射した出射偏光は、偏光子PFoで遮光され、一方、上向きの磁化方向の磁区で反射した出射偏光は、偏光子PFoを透過して検出部PDに照射される。したがって、1本の磁性細線1から出射した光は、当該磁性細線1に形成された磁区毎に明暗(白黒)に切り分けられたパターンとなって検出部PDへ表示される。したがって、1本の磁性細線1において、その細線方向に区切られた画素4毎に上向きまたは下向きのいずれか所望の磁化方向として、磁区を形成することで、画素毎に明/暗(白/黒)を切り分けられた画像を表示することができる。
【0037】
従来の空間光変調器100(図17参照)等においては、光変調動作を行う磁性体(光変調素子)は画素毎に分離されて備えられる。したがって、すべての光変調素子(磁性細線101)が異なる組合せの一対の電極に接続されるように、電極131,132を画素アレイ140の横、縦の格子状の配線として設けることで、画素104毎に所望の磁化方向にすることを可能としている。これに対して、本発明に係る空間光変調器10においては、図2に示すように、磁性体(磁性細線1)は、横(行方向)に連続した細線状であって複数の画素4に共有され、縦(列方向)にのみ1画素ずつ分離されている。したがって、同じ行の画素4同士では1本の磁性細線1の両端にて共通の電流を供給される。以下、行方向に連続して一体の磁性体で構成された画素であって、画素間に配線がなくても、画素毎に所望の磁化方向にすることが可能な空間光変調器10について、詳細に説明する。
【0038】
(磁性細線)
磁性細線1は、磁性体を厚さおよび幅に対して十分に長い細線状に形成してなる。図2に示すように、光変調部20において、磁性細線1,1,…は、平面視で絶縁層6を挟んで互いに平行に、基板2上に形成されている。前記した通り、磁性細線1は画素4となる領域を含み、所定数(8個)の画素4が細線方向に連続して設けられた画素領域1pxが光変調を行う部分である。画素領域1pxは磁性細線1における光の入射領域であり、画素領域1pxに入射した光が磁性細線1を透過または反射して出射すると、画素4毎に当該画素4における磁化方向に対応して異なる2つの角度のいずれかで旋光した光に変調される。また、磁性細線1は、画素領域1pxの外(図2では画素領域1pxの左側)の細線方向に区切られた領域に、書込領域1wが設けられている。書込領域1wは、データ書込部50により、磁性細線1に設けられた画素4の1つと同じ磁化方向に変化させる領域である。磁性細線1は、ある画素4の上向きまたは下向きの磁化方向と同じ磁化方向の磁区を書込領域1wに形成され、この磁区が細線方向に移動されて画素領域1pxの前記画素4に到達することで当該画素4が所望の磁化方向となる。本実施形態において、このような動作(画素の駆動)は、図1に示すようにそれぞれの磁性細線1について並行して実行される。
【0039】
磁性細線1は、垂直磁気異方性の磁気光学材料で形成される。このような材料として、公知の強磁性材料を適用でき、具体的には、Co等の遷移金属とPd,Pt,Cuとを繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、またTb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)が挙げられる。これらの材料はスパッタリング法等の公知の方法により成膜され、フォトリソグラフィおよびエッチングまたはリフトオフにより、以下の細線形状に成形されて磁性細線1となる。本実施形態においては、磁性細線1は垂直磁気異方性材料であるので、異なる2つの磁化方向とは、図1および図3に示すように上向きまたは下向きのいずれかを指す。
【0040】
磁性細線1は、厚さ(膜厚)70nm以下、幅300nm以下であれば、形成時(製造時)に、細線方向に磁区が分割され易いので、好ましい。また、前記した磁区の移動は磁性細線1に電流を細線方向に供給することでなされ、その移動速度は断面積あたりの電流密度に比例して速くなるため、磁性細線1の厚さおよび幅(断面積)が小さいほど、小さい電流で磁区を高速で移動させることができる(後記参照)。なお、磁性細線は、厚さや幅が前記範囲よりも大きい場合、幅方向等にも磁区が分割されて複数形成される場合があるが、予め外部磁界を印加しておくことで、細線方向のみに磁区が分割された状態にすることができる。ただし、磁性細線1が薄いと入射した光が透過し易いため、反射型の空間光変調器10においては、磁性細線1は材料にもよるが厚さ30nm程度以上とすることが好ましい。あるいは、基板2上にAl,Ta,Ag等の非磁性金属からなる反射層を設けて、光を透過するように厚さ300nm程度以下のSiO2等の絶縁層を介して、磁性細線1を形成してもよい(図示せず)。この場合は、磁性細線1を透過した光がさらに絶縁層を透過して反射層で反射して、再び絶縁層および磁性細線1を透過して出射する。したがって、旋光角を大きくするために磁性細線1は光を透過させる範囲で厚いことが好ましい。一方、後記するように、磁性細線1を書込領域1wにおいてスピン注入磁化反転させるためには、厚さ5〜30nmとすることが好ましい。また、入射光(図3に示すレーザー光)の波長にもよるが、磁性細線1,1ピッチ(画素ピッチ)は200nm程度以上とすることが好ましく、磁性細線1の幅は100nm程度以上とすることが好ましい。
【0041】
磁性細線1における画素4の細線方向長さ(単位長さLb)は、磁性細線1,1ピッチと同様に入射光の波長によって設定され、200nm程度以上とすることが好ましい。一方、単位長さLbが長くなると磁区を移動させる距離が長くなって画素アレイ40の画像の表示に要する時間(応答時間)が長くなる。また、画素4に到達する磁区は書込領域1wにて形成されることから、単位長さLbは後記の書込領域1wの細線方向長さ以下となる。以上より、磁性細線1の細線方向長さは、画素4の個数(本実施形態では8個)分すなわち画素領域1pxと、書込領域1wと、さらに両端の電極31,32の接続のための領域と、を少なくとも要する。
【0042】
書込領域1wは、磁性細線1をこの領域に限定して当該磁性細線1に設けた各画素4と同じ磁化方向に変化させるために設定された細線方向に区切られた領域である。したがって、少なくともこの領域においては、磁性細線1を、上向きまたは下向きの所望の磁化方向に変化させる(適宜、書込をする、という)ことを可能にするため、書込方式に対応した構造とする。書込領域1wの細線方向長さは、単位長さLb以上であればよく、書込方式や加工精度等に対応したものとすればよい。また、磁性細線1における書込領域1wの位置は、画素領域1pxの外であって後記の磁区(および磁壁)の移動方向に対して後側であればよく、さらにデータ書込部50等が画素領域1pxへの光の入出射を妨げることがないようにすればよい。
【0043】
本実施形態においては、書込方式としてスピン注入磁化反転が適用される。書込領域1wにスピン注入磁化反転素子構造を形成することで、磁性細線1をスピン注入磁化反転にて所望の磁化方向にすることができる。詳しくは、図4(a)に示すように、磁性細線1を、書込領域1wにおいて磁化固定層51に中間層52を介して積層してスピン注入磁化反転素子の磁化自由層とし、このスピン注入磁化反転素子構造へ電流を膜面垂直方向に流すための一対の電極34,33を上下に接続する。本実施形態では磁化固定層51、中間層52、磁性細線1(磁化自由層)の積層順としているが、上下逆順に積層した構造でもよい。スピン注入磁化反転素子構造は、CPP−GMR素子やTMR素子等の公知の素子である。磁化固定層51は、磁性細線1と同様に強磁性の垂直磁気異方性材料とし、磁性細線1の書込領域1wにおける保磁力よりも大きくなるような材料または厚さ等とし、その磁化方向を上向きまたは下向きの一方に固定する(図4では下向きの磁化方向)。中間層52は、Cu等の非磁性導体またはMgO等の絶縁体からなる。また、下部電極33および上部電極34は、後記の正電極31および負電極32と同様の金属電極材料を適用できる。また、前記した通り、書込領域1wの細線方向長さは単位長さLb以上とするため、200nm程度以上とすることが好ましい。一方、スピン注入磁化反転素子構造は、好適にスピン注入磁化反転可能とするために、平面視で一辺が300nm程度以下の正方形またはこれに相当する面積であることが好ましい。したがって、書込領域1wの細線方向長さは、磁性細線1の幅にもよるが、300nm以下とすることが好ましい。
【0044】
書込領域1wをこのような構成とすることで、上向きまたは下向きに電流を供給されることにより、磁性細線1を書込領域1wにおいて磁化固定層51の磁化方向と同じ方向または反対方向の磁化方向にすることができる。例えば図4(a)では、電流を下部電極33から上部電極34へ、上向きに供給された結果、電流の供給前には(以下、初期状態と称する)磁化方向が下向きを示していた磁性細線1を、書込領域1wにおいて上向きに反転させている。
【0045】
図1および図4に示すように、本実施形態において磁性細線1は、画素領域1pxにおいて、上面に局所的に薄くなるように凹部1c0,1c1,…(適宜まとめて凹部1cと表す)が形成されている。このような断面積(細線方向に垂直な断面)が局所的に小さい箇所には磁壁が生成され易いため、磁性細線1は凹部1cを形成した箇所で区切るように磁区が形成された状態になり易い。また、磁性細線1への電流の供給を停止した時に磁壁が凹部1cに係止(トラップ)され易いため、パルス電流における停止時(ベース期間)に近傍に到達していた磁壁が凹部1cまで移動してから静止する。したがって、磁性細線1の画素4を区切る境界に凹部1cが形成されていることにより、後記するように、書込領域1wに形成した磁区を各画素4に正確に到達させ易くなる。磁性細線1において磁壁を係止させるためには、断面積が局所的に小さく、すなわち括れた形状に形成されていればよいので、凹部1cに限られず、例えば平面視で幅狭となるように側面を凹ませた括れが形成されてもよい(図示せず)。そして、磁性細線1において、凹部1c等の括れた箇所は、磁壁を好適に係止させるためには、その幅または厚さが他の部分に対して断面積で98%以下になるように狭くまたは薄くすることが好ましい。ただし、括れた箇所での断面積が小さくなると、磁性細線1にパルス電流を供給する際の抵抗が増大するため、60%以上にすることが好ましい。
【0046】
また、凹部1cは、例えば画素領域1pxの端部(図4(c)の凹部1c0,1c8)等の1箇所または2箇所に形成されてもよいが、隣り合う画素4,4同士で同じデータが連続すると間に磁壁が生成しないため、画素4の所定数毎に形成されることが好ましく、すべての画素4の境界に形成されることが最も好ましい。また、括れ(凹部1c)の形状は、磁壁を係止する効果を揃えるために同じとすることが好ましい。また、画素領域1pxの外の、書込領域1wとの間にも凹部を形成して、例えば書込領域1wでの磁区の形成に伴って生成した磁壁が、単位長さLbの距離をシフト移動して到達する位置(図4(b)における磁壁DW1の静止位置)に係止させるようにしてもよい。なお、前記した通り、磁壁の移動速度は細線方向に垂直な断面における電流密度に比例するが、凹部1cによる断面の狭い領域は磁性細線1全体に比して僅かであり、一定の電流を供給されているときの磁性細線1における磁壁の移動速度は一定であるとみなすことができる。
【0047】
(電極)
正電極31および負電極32は、一対の電極として磁性細線1にその細線方向の一方向に電流を供給するための端子であり、図2および図4に示すように磁性細線1の両端に接続される。本実施形態では図4に示すように、電極31,32は共に磁性細線1の上面に接続されているが、磁性細線1における接続面はこれに限られず、例えば下面に接続されてもよい。また、図2に示すように、本実施形態では、磁性細線1のそれぞれに電極31,32が一対ずつ接続されているが、例えば8本すべての磁性細線1を並列に接続するように、図2における縦方向に延設した電極31,32としてもよい(図示せず)。電極31,32は、Cu,Al,Ta,Cr,W,Ag,Au,Pt等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料からなり、スパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィ等によりストライプ状に成形される。また、電極31,32の厚さ、幅および細線方向長さは、磁性細線1,1ピッチ(画素ピッチ)、材料や供給する電圧・電流等によって設定される。
【0048】
(基板)
基板2は、磁性細線1等を所望の形状や位置に形成するための光変調部20の土台であり、例えば表面を熱酸化したSi基板等の公知の基板が適用できる。あるいは光変調部20の下方から光を入射させる場合は、基板2は透明な材料からなり、例えば、SiO2、酸化マグネシウム(MgO)、ガラス等の公知の透明基板材料が挙げられる。
【0049】
(絶縁層)
絶縁層6は、光変調部20における磁性細線1,1間、正電極31,31間および負電極32,32間、ならびに基板2と磁性細線1との間や磁性細線1の上に配される。絶縁層6は、例えばSiO2,Si34,Al23等の公知の絶縁材料からなり、また光変調部20の全体で同じ材料を適用しなくてもよい。
【0050】
(走査電流供給部)
走査電流供給部80は、図4(b)に示すように、光変調部20の各磁性細線1の両端に電極31,32を介して接続した走査電流源8をパルス電流源として備え、直流電流(走査電流Iscと称する)をパルス電流として、磁性細線1に正電極31から負電極32へ、すなわち細線方向の一方向に供給する。磁性細線1に走査電流Iscを正電極31側から負電極32側へ供給されると、その反対方向に磁性細線1中を流れる電子e-により、磁壁が磁性細線1中を当該磁性細線1の負電極32側から正電極31側へ細線方向に沿って移動し、磁壁に区切られた磁区も共に移動する(図4(b)参照)。したがって、磁性細線1の書込領域1wで形成された磁区は、細線方向に沿って画素領域1pxへ移動する。さらに、走査電流Iscをパルス電流として供給することにより、磁区が磁性細線1中を断続的に移動するため、後記するように画素4の1個単位で移動して、画素領域1pxにおける所定の画素4に到達させることができる。
【0051】
走査電流供給部80は、図1および図5に示すように、走査電流源8に光変調部20の8本すべての磁性細線1をそれぞれの両端で並列に接続して、共通のパルス電流を同時に供給する。本実施形態に係る空間光変調器10においては、すべての磁性細線1に共通のパルス電流を供給できればよく、走査電流供給部80は、磁性細線1毎に走査電流源8を備えてもよい(図示省略)。直流パルス電流における走査電流Isc(ピーク電流)は、電流密度:108〜1013A/m2の範囲で、後記するように所望の速度で磁区が移動するように調整することが好ましい。また、直流パルス電流は、パルス幅(ピーク期間)tH:1ps〜10μs、停止時間(ベース期間)tL:10ps〜10μsの範囲で調整することが好ましく、パルス幅tHは磁区が移動速度に応じて所定の距離を移動する時間に設定し、停止時間tLは後記するデータ書込部50による書込時間tW以上とする。
【0052】
(データ書込部)
データ書込部50は、図1および図5に示すように、光変調部20の磁性細線1毎に設けられ、当該磁性細線1を書込領域1wにおいて所望の磁化方向にする。図4に示すように、データ書込部50は、磁性細線1の書込領域1wに設けた電極33,34に接続する書込電流源5を備える。書込電流源5は、書込領域1wのスピン注入磁化反転素子構造に、直流の電流Iwを正負反転させて書込電流+Iw,−Iwとして供給可能であり、データ書込部50が制御部90に制御されることで電流Iwをいずれか所望の向きで供給する。すなわち、書込電流源5は、供給停止(OFF)状態を含めると+Iw,0,−Iwの3出力を示す。このようなデータ書込部50の動作は、現行の磁気ディスクへの記録に用いられる磁気ヘッドのコイルに供給される電流と同様に、複数のトランジスタで構成されたスイッチング回路を備える駆動回路(例えば、特開2007−234136号公報の図2参照)により実現することができる。本実施形態においては、書込電流+Iw,−Iwの大きさ(絶対値)は、磁性細線1を書込領域1wにおいてスピン注入磁化反転させる電流(スピン注入磁化反転電流)以上とする。
【0053】
データ書込部50は、電極33,34に接続する端子を光変調部20に配置された磁性細線1のピッチに合わせて形成して、配線で電気的に接続するように書込電流源5を設ければよく、磁性細線1を狭ピッチとしても、すべての磁性細線1の書込領域1wに同時に書込を実行することができる。また、スピン注入磁化反転は極めて高速であるので、書込時間tW(書込電流源5の電流供給時間)は数十ps程度以上であればよい。また、書込電流は書込時間tWをパルス幅とするパルス電流として供給してもよい。
【0054】
(制御部)
図5に示すように、制御部90は、外部から入力された画像データ(図6(b)参照)を1行分のデータに分割して画素列データ(図6(c)参照)を生成する画素列データ生成部99と、データ書込部50に磁性細線1への画素列データの書込をさせる画素列制御部9,9,…と、を備える。したがって、画素列制御部9は、画素アレイ40の行数すなわち磁性細線1の本数と同数の8つが備えられ、それぞれが特定の磁性細線1に書込をするデータ書込部50を制御する。また、制御部90はカウンタTCNTをさらに備えることで、画素列制御部9は、磁性細線1に走査電流供給部80が供給するパルス電流に同期するように、データ書込部50を制御する(詳細は後記する)。
【0055】
(光変調部の製造方法)
空間光変調器10の光変調部20は、磁性細線1をリフトオフ法やダマシン法にて形成して製造できる。図4(a)に示す光変調部20の製造方法の一例を以下に説明する。まず、基板2上に、書込領域1wを設ける位置に下部電極33を金属電極材料で形成し、その上に磁化固定層51および中間層52のそれぞれの材料を連続的に成膜して、所望の形状に成形する。次に、基板2上に、SiO2やAl23等の絶縁膜をスパッタリング法等の公知の方法により成膜して、中間層52の上面の高さまで埋め込む。次に、前記絶縁膜(絶縁層6)上および中間層52上にレジストマスクパターンを形成し、磁性材料をスパッタリング法等にて成膜し、レジストを除去して、ストライプ状の磁性細線1,1,…を形成する。そして、それぞれの磁性細線1の表面に、凹部1cを形成する。あるいは、レジストマスクパターンにより幅狭の括れ部を備えた平面視形状の磁性細線1とする。次に、磁性細線1上の当該磁性細線1の両端近傍および書込領域1wに、金属電極材料で電極31,32および上部電極34を形成する。最後に、電極31,32,34上を除いて絶縁膜(絶縁層6)で表面を被覆し、書込領域1wにおいて基板2を裏面から除去して下部電極33を露出させる。
【0056】
磁性細線1をダマシン法にて形成する場合は、基板2上に絶縁膜を成膜するとき、磁性細線1の上面の高さまで成膜し、この絶縁膜に電子線リソグラフィおよびイオンミリングや反応性イオンエッチング(RIE)等のエッチングで磁性細線1,1,…の形状の溝を形成して絶縁層6とする。この絶縁層6の上に磁性材料をスパッタリング法等の成膜方法にて溝に堆積させた後、表面をCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)等で溝内以外の磁性材料を除去して磁性細線1,1,…とする。
【0057】
[画素駆動方法]
次に、本発明に係る空間光変調器を動作(光変調)させる前に、画像データに基づいて画素アレイ40のそれぞれの画素4を所望の磁化方向にする方法(画素駆動方法)を、図5〜図8および適宜図4を参照して説明する。第1実施形態に係る空間光変調器10における画素の駆動方法は、図1に示すように、走査電流源8に並列に接続された磁性細線1,1,…にパルス電流を供給して磁区を断続的にシフト移動させながら、それぞれの磁性細線1の書込領域1wへデータ書込部50にて書込をするものである。
【0058】
(画像データ)
第1実施形態に係る空間光変調器10における画素の駆動方法は、例えば外部のデータベースDBに記憶されている動画データについて、1画面(フレーム)ずつの画像データが、図5に示すように制御部90に入力されて、画素アレイ40により画像を表示するまでの手順である。図6(b)に示すように、画像データF1は、黒く表示する画素を“1”に、白く表示する画素を“0”に表したデータ(画素データ)を横(列方向)に8個並べて、4桁のデータからなる行アドレスを付した12桁のデータを8行並べてなる。このような画像データF1は、一例として、オリジナルの画像(図示省略)を、空間光変調器10の画素アレイ40の構成に合わせて、水平方向Nh列×垂直方向Nv行(8列×8行)のビットマップデータの画像(図6(a)参照)に変換して、黒を“1”に、白を“0”に変換して並べて生成することができる。また、このような画像データ生成機能を空間光変調器10に内蔵してもよい。
【0059】
(画像データの入力、画素列のデータ生成)
図5に示すように、制御部90は、外部のデータベースDBに画像データの出力命令を送信し、この命令を受信したデータベースDBが画像データF1の信号を出力することにより、画像データF1が制御部90に入力される(図7における工程(以下省略)S10,S20)。そして、制御部90において、画素列データ生成部99が画像データF1を1行ずつに分割し、Nh(=8)個のデータからなるNv(=8)本の画素列データを生成する(S31)。画素列データは1本ずつ、行アドレスに基づく画素列制御部9へ分配、出力される(S32)。次に、制御部90は、走査電流供給部80へ、磁性細線1へのパルス電流の供給を開始するように命令を送信して、走査電流供給部80が走査電流源8をONにしてパルス電流の供給を開始する(S50)。走査電流供給部80は、さらにパルス電流と同じタイミングのパルス信号を制御部90に出力する。そして、制御部90は、画素4(磁性細線1)への画素列データ書込工程S60を開始する。
【0060】
(画素列データ書込)
画素列制御部9は個別の画素列データを入力され(S61)、一方、走査電流供給部80へのパルス電流の供給開始命令の送信に伴い、カウンタTCNTはカウントを1から開始する(S62)。そして、画素列制御部9は、画素列データにおけるカウント値iと同じ1番目のデータをデータ書込部50へ出力する。データ書込部50は、2値のデータ“0”または“1”を入力されると、磁性細線1の書込領域1wへの書込をする(S63)。次に、パルス電流における1回目のパルス幅tHの電流供給にて、磁性細線1において、形成されている磁区を単位長さLbの距離だけシフト移動させる(S64)。本実施形態では、単位長さLbの距離だけシフト移動させるために必要な電流供給時間(移動時間)tSCをパルス幅tHとする。次にカウント値iを判定し(S65)、Nh(=8)に到達するまでカウントを1ずつ増やしながら(S66)、データ書込(S63)と磁区のシフト移動(S64)とを繰り返す。
【0061】
ここで、磁性細線1へのデータ書込(S63)、および磁区のシフト移動(S64)について、図4および図7を参照して詳細に説明する。なお、図4においては、図4(a)にのみ基板2および絶縁層6を示し、図4(b)、図4(c)では省略するが、すべて同一の構造の光変調部20を示している。ここでは、行アドレス(0)の画素列データ(図6(c)参照)に基づき磁性細線1(11)に書込をする方法を説明する。
【0062】
画素列制御部9(91)は前記画素列データを入力されてこれを図示しないメモリに一時的に格納し(S61)、カウント開始(S62:i=1)を受けて、格納している画素列データの1番目のデータ“0”をデータ書込部50へ出力する。データ書込部50は、データ“0”を入力されると、内蔵する書込電流源5から書込電流+Iwを所定の書込時間tW供給する。図4(a)に示すように、書込電流源5は、磁性細線1の書込領域1wに設けられたスピン注入磁化反転素子構造に電極33,34で接続されているので、磁性細線1の書込領域1wに上向きの、すなわち磁化固定層51の側から膜面垂直方向に電流Iwが流れる。この電流Iwにより、磁性細線1は、書込領域1wにおいて、磁化固定層51の磁化方向に対して反平行になるべくスピン注入磁化反転する。したがって、書込領域1wに磁化方向が上向きの磁区(磁区D0と称する。図4(b)参照)が形成され、この磁区D0の両側を区切るように磁壁DW1,DW2が生成する(S63)。なお、一般的に、磁壁の長さ(厚さ)は磁性細線の形状や大きさ(幅、厚さ、細線長)等にもよるが、5〜100nm程度で、磁区の長さ(単位長さLb)に対して極めて短い(狭い)が、図4においては磁壁を模式的に拡大して示す。
【0063】
書込電流源5からの書込電流+Iwの供給が停止した(OFF)後、磁性細線1に、走査電流供給部80からパルス電流における1回目の電流供給(1パルス)として走査電流Iscがパルス幅tHの時間だけ供給される。本実施形態においては、このようにパルス電流における1回目の電流供給が1番目のデータの書込の後に実行されるようにするために、図8に示すように待ち時間thldを設けている。なお、パルス電流における1回目の電流供給の次に書込がされてもよい。図4(b)に示すように、走査電流Iscを、磁壁DW1,DW2が単位長さLbの距離だけ移動する時間tSC(=パルス幅tH)磁性細線1に供給し、これに伴い磁壁DW1,DW2に挟まれた磁区D0も等距離移動、すなわちシフト移動する。したがって、磁区D0の少なくとも一部(単位長さLbの長さ)が書込領域1wから退出する(S64)。
【0064】
パルス電流における電流停止(パルス信号の立下がり)に同期して、カウント値iを判定して1増やし(S65:No,S66:i=2)、2番目のデータ“1”の書込をする(S63)。詳しくは、データ書込部50が画素列制御部9からデータ“1”を入力されて、書込電流−Iwを書込電流源5から供給することにより、図4(c)に示すように磁性細線1の書込領域1wに下向きの、すなわち磁化固定層51の側へ膜面垂直方向に電流Iwが流れる。この電流Iwにより、磁性細線1は、書込領域1wにおいて、磁化固定層51の磁化方向と平行になるべく、反平行の磁化方向を示す磁区D0が当該書込領域1wに限定してスピン注入磁化反転する。その結果、書込領域1wに存在していた磁壁DW2が消滅し、磁壁DW3が生成するので、1番目のデータ“0”の書込で形成された磁区D0は、細線方向長さがパルス電流の1パルス(走査電流Iscのパルス幅tH供給)による移動距離Lbとなる。そして、書込電流−Iwの供給が停止した後は、再び走査電流源8からパルス電流における次の1パルスとして走査電流Iscが磁性細線1に供給されて、磁壁DW1,DW3が単位長さLbの距離だけ移動する(S64)。
【0065】
このように、走査電流供給部80(走査電流源8)が供給するパルス電流(走査電流)と同期して、その停止時(ベース期間)に画素列制御部9は画素列データから順番に1個ずつデータをデータ書込部50に出力し、データ書込部50は2値のデータ“0”、“1”に基づいて書込電流+Iw,−Iwを書込電流源5から供給する。したがって、磁性細線1に1個のデータに基づく書込を実行する度、その後に、形成された磁区D0等がすべて単位長さLbの距離だけシフト移動する。そのため、隣り合う画素4,4同士で同じデータであって間に磁壁が生成していない場合でも、書込をされた領域はすべて書込領域1wから画素領域1pxに向かって移動することになる。また、データ書込部50が書込電流を供給する時期は、必ず走査電流源8からのパルス電流における停止時間(ベース期間)中にして、磁性細線1が走査電流源8、書込電流源5の両方から同時に電流を供給されることがないように、制御部90がデータ書込部50を制御する。したがって、前記した通り、パルス電流における電流の停止時間tLは、書込電流源5による磁性細線1の書込(スピン注入磁化反転)に要する時間(電流供給時間)tW以上とする。
【0066】
そして、磁性細線1に画素列データの最後のすなわちNh(=8)番目のデータ“0”に基づく書込がされた(S63)後の磁区のシフト移動(S64)の次のカウント値iの判定で、画素列データ書込工程S60におけるS63〜S66の繰り返しから抜ける(S65:Yes)。この時点で、磁性細線1において、最後のデータに基づく書込がされた領域は、書込領域1wを退出しているが、画素領域1pxには到達していない。そこで、この領域が画素領域1pxに到達するまで、さらにパルス電流の供給による磁区のシフト移動を行う(S70)。本実施形態では、書込領域1wと画素領域1pxとの間が単位長さLbの2倍であるため、図8に示すように2回のパルス電流の供給を行う。最後に、走査電流供給部80へパルス電流の供給を停止するように命令を送信して、走査電流供給部80が走査電流源8をOFFにしてパルス電流の供給を停止する(S80)。これにより、図3に示すように、磁性細線1は、画素列データのすべてのデータが単位長さLbずつの領域で連続して書込をされて、さらにこの書込をされた領域がすべて画素領域1pxに到達しているので、画素4毎に黒または白のパターンが表示される(図6(d)参照)。
【0067】
磁性細線1は、供給される電流の大きさが一定であれば磁壁の移動速度も一定であるので、ピーク電流Iscおよびパルス幅tHが一定のパルス電流により、単位長さLbの距離ずつ断続的に磁区を移動させることができる。しかし、電流の大きさやパルス幅等の誤差により1回の移動距離が僅かにずれて、この微小ずれが累積されると、画素列データのすべてのデータの書込が完了し(S65:Yes)、さらに磁区のシフト移動(S70)を完了した段階で、書込で形成された磁区が、データに対応する画素4の位置から大きくずれて、正確に表示されなくなる虞がある。このような磁区の位置ずれを防止するために、前記した通り、磁性細線1は、画素4を区切る境界に凹部1cのような括れが形成されている。パルス電流における電流停止時の度に、いずれかの凹部1cの近傍に到達していた磁壁が当該凹部1cで係止され、それに伴いこの磁壁で区切られた磁区もシフト移動するため、磁区の位置の誤差が補正される。パルス電流の調整等により磁性細線1での磁区の位置を十分に制御可能である、あるいは要求される磁区の画素に対する位置精度が粗い等の場合は、磁性細線1は凹部1cのような括れを形成されなくてもよい。
【0068】
なお、磁性細線1において、これらの動作による磁壁の位置の固定後は、それぞれの磁壁を挟んだ2つの磁区のそれぞれで磁性細線1の保磁力により磁化が保持される。したがって、磁性細線1に新たに電流の供給や外部磁界の印加を行うまでは磁区の移動や大きさ(細線方向長さ)の変化、消失は起こらず、書込で形成された磁区は所定の画素4の位置で静止した状態を維持する。また、図4では、全体が下向きの磁化方向を示す初期状態の磁性細線1に書込をしたが、既に画像データ(画素列データ)の書込がされた磁性細線1に新たな画像データの書込をする場合も同様である。この書込において、前の画像データに基づく磁区は、磁区のシフト移動により磁性細線1の終端(正電極31側の端)まで到達すると消失する。
【0069】
本実施形態においては、データ書込(S63)は、カウンタTCNTによりすべての画素列制御部9において同時に実行される。したがって、走査電流供給部80の1つの直流パルス電流源(図示省略)から、すべての磁性細線1に並列にパルス電流を供給して、同時に磁区のシフト移動を行うことができる。さらに、それぞれの磁性細線1に凹部1cが形成されていることで、共通のパルス電流を供給されても磁区の移動における位置ずれが防止できる。そのため、タイミングチャートは図8に示す通りとなる。このように、すべての磁性細線1について並行して同時にデータの書込および磁区の移動を行うことで、画素アレイ40に1つの画像データを表示可能とする作業に要する時間は、前記の1本の磁性細線1の画素領域1pxに画素列データの書込をする作業に要する時間と同じとなり、短時間での表示切替が可能となる。特に、画素アレイ40に新たな1つの画像データを表示可能とするために表示が変化する時間または表示されない時間、すなわち応答時間(図8参照)は、長くなると、動画の表示に残像が視認されるようになって好ましくないため、空間光変調器においては応答時間をより短縮することが要求される。
【0070】
画素アレイ40に画像データF1による画像を表示可能となった後は、次のフレームの画像データの出力をデータベースDBに要求し(S10)、再び画素アレイ40による表示を可能とする。この画像データ出力命令送信(S10)は、外部信号や制御部90に内蔵する発振器等により、例えば1/60秒間毎に行うように設定することができる。また、画像データが入力されなかった場合(S20:No)は、作業を終了するように設定すればよい。このような構成とすることで、空間光変調器10は、光変調部20が簡易な構造であっても高精細な画像を高速で表示することができる。
【0071】
本実施形態では、走査電流供給部80が供給するパルス電流を基準として、制御部90がこのパルス電流と同じタイミングのパルス信号と同期するように制御する構成としたが、反対に、例えば制御部90が発振器を内蔵してパルス信号を出力し、走査電流供給部80がこのパルス信号に同期するパルス電流を供給する構成としてもよい。
【0072】
図8では、パルス電流について、パルス幅tHと停止時間tLを同じ時間すなわちデューティ比50%として示しているが、これに限らず、前記の範囲(パルス幅tH:1ps〜10μs、停止時間tL:10ps〜10μs)でそれぞれ調整可能である。例えば周期(tH+tL)あたりのパルス幅tHを長くする(デューティ比50%超)ことで、磁区を単位長さLb移動させるためのパルス電流の周期が短くなって、その結果、応答時間を短くすることができる。また、本実施形態では、移動時間tSCをパルス幅tHとして、磁区を、パルス電流における1回の電流供給すなわち1周期で単位長さLbの距離を移動させるとしたが、これに限らず2回以上の所定回数の電流供給で断続的に移動させてもよい。この場合は、パルス電流の前記所定回数の周期につき1回の停止時間に、書込電流源5が電流を供給するように制御する。
【0073】
本実施形態に係る空間光変調器10は、上方から入射した光を磁性細線1の表面で反射させて出射する反射型の空間光変調器であるが、透過型の空間光変調器としてもよい。この場合は、基板2に透明基板材料を適用し、また磁性細線1を薄く形成して光を透過し易くするか、磁性ガーネットのような透過率の高い材料で形成する。表示装置においては、画素アレイ40の直上に光学系OPSおよび偏光子PFiが、直下に偏光子PFoおよび検出器PDが配置され、またハーフミラーHMは不要である(図示省略)。
【0074】
また、磁性細線1は面内磁気異方性材料を適用してもよい。面内磁気異方性材料には、Ni,Fe,Coから選択される遷移金属やNi−Fe,Ni−Fe−Mo,Co−Cr等の遷移金属合金、あるいはCo−Pt等のPd,Pt,Cuとの合金が挙げられ、垂直磁気異方性材料の多層膜よりも成膜が容易である。磁性細線1が面内磁気異方性材料からなる場合は、磁性細線1の磁化方向は細線方向に沿った向きとなる(図17参照)ので、磁性細線1の細線方向により平行に近い方向に沿って光を入射することが好ましい。ただし、入射方向は磁性細線1の細線方向と平行に近付き過ぎるとそれぞれの画素4に光が入射することが困難となるので、入射角が80°程度以内となるように、磁性細線1の細線方向に対して10°〜60°程度の角度の方向とすることが好ましい。したがって、磁性細線1が面内磁気異方性材料からなる空間光変調器においては、入射角30°〜80°程度の範囲となるように入射偏光の入射方向を傾斜させるため、入射偏光および出射偏光のそれぞれの光路に合わせて、光学系OPSや偏光子PFi,PFo等が配置される(図示省略)。
【0075】
(変形例)
第1実施形態の変形例に係る空間光変調器について、図9を参照して説明する。第1実施形態の変形例に係る空間光変調器は、光変調部20A以外の要素は空間光変調器10(図1、図5参照)と同一であるので、図示および説明を省略する。さらに光変調部20Aは、磁性細線1A以外の要素は光変調部20(図2参照)における要素と同一であるのでこれらの要素については同じ符号を付し、説明を省略する。光変調部20Aの断面構造は、磁性細線1Aが凹部1cを形成されず一定の厚さであること以外は、図4に示す光変調部20と同一の構造である。したがって、本変形例に係る空間光変調器は、図3に示す第1実施形態に係る空間光変調器10と同様の構成で表示装置に適用することができる。
【0076】
図9に示すように、光変調部20Aにおいて、磁性細線1Aはその細線形状が平面視でジクザグ状に形成されている。詳しくは、磁性細線1Aは画素4,4間の境界で一定の角度で屈曲するように形成されている。磁性細線1Aの材料および大きさ(厚さ、幅、細線方向長さ)等は第1実施形態の磁性細線1と同様である。磁性細線1Aにおいて、屈曲した箇所は、括れ(凹部1c、図4参照)と同様にパルス電流における電流停止時(ベース期間)に磁壁を係止し易いため、磁区のシフト移動において位置ずれを防止することができる。また、磁性細線1Aは、括れを形成された磁性細線1と異なり、厚さおよび幅が一定であるので抵抗が高くならない。磁性細線1Aの屈曲の角度は、好適に磁壁を係止するためには15°〜135°の範囲であることが好ましく、また磁壁を係止する効果を揃えるために同じ角度とすることが好ましい。また、屈曲した箇所は、括れと同様に、例えば画素領域1pxの端部等の1箇所または2箇所でもよい。なお、図9に示すように画素4を区切るすべての境界で屈曲している磁性細線1Aは、隣り合う画素4,4同士で細線方向が非平行であるため、垂直磁気異方性材料で形成されることが好ましい。また、本変形例に係る空間光変調器における画素の駆動方法は第1実施形態と同様であるが、図9に示す光変調部20Aにおいては単位長さLbを画素4における細線方向長さとする。
【0077】
以上のように、第1実施形態およびその変形例に係る空間光変調器によれば、光の入射する部品を簡易な構造として、画素の微細化を容易にし、また開口率の高い空間光変調器となる。
【0078】
[第2実施形態]
第1実施形態に係る空間光変調器10は、画素駆動において、すべての磁性細線1について同時に書込等を行ったが、これに限らず、例えば磁性細線1を2本以上の所定本数(nv本)を一組として、各組から1本ずつ順番に選択して、組数(Nv/nv)の本数の磁性細線1に限定して並列に書込をすることもできる。第2実施形態に係る空間光変調器10Aは、空間光変調器10と同様に8本の磁性細線1を備える光変調部20を備え、隣り合う4本の磁性細線1を一組として画素の駆動を行う。この一組4本の磁性細線1を磁性細線群と称する。このような空間光変調器の制御部およびその周辺の構成、および画素の駆動方法を、図10および図11を参照して説明する。図10、図11において、図5、図7と同じ要素および工程については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0079】
図10に示すように、本実施形態において、制御部90Aは第1実施形態の制御部90と同様に、磁性細線1の本数と同数の8つの画素列制御部91,92,…,98(以下、適宜まとめて画素列制御部9)を備える。そして、それぞれの画素列制御部9は、図5に示す第1実施形態と同様に、磁性細線1毎に設けられたデータ書込部50にデータを出力する。ただし、並列して指定された2つの画素列制御部9がデータを出力する。また、制御部90Aが備えるカウンタTCNTAは、第1実施形態におけるカウンタTCNTが行ったカウント動作(図7のS62,S66)に加え、後記する別のカウント動作を行う。また、走査電流供給部80Aは、選択された磁性細線1に限定してパルス電流を供給するように、例えば走査電流源8および磁性細線1の電極31,32のそれぞれに接続する端子に加えて、端子毎のスイッチをさらに備える(図示省略)。
【0080】
(画素駆動方法)
画素の駆動方法を、図11に示すフローチャートを参照して説明する。制御部90Aが画像データF1(図6(b)参照)を入力されて、画素列データ(図6(c)参照)を生成、分配するまでは、図7を参照して説明した通りである(S10,S20,S31,S32A)。
【0081】
画素列データの分配(S32A)に伴い、カウンタTCNTAはカウントを1から開始し(S41)、制御部90Aは、各組の磁性細線群からカウント値jと同じ1番目の磁性細線1を選択する(S42)。そして、走査電流供給部80Aが選択された2組計2本の磁性細線1(11,15)に限定してパルス電流の供給を開始する(S50A)。一方、制御部90Aは、選択された2本の磁性細線1に対応する画素列データを格納した画素列制御部9(91,95)を動作させて、2本の磁性細線1への画素列データの書込をする(S60)。そして、書込により形成した磁区を画素領域1pxに到達させて(S70)、パルス電流の供給を停止する(S80A)。S50A,S60,S70,S80Aの工程は、選択された磁性細線11,15に限定して行われていること以外は、第1実施形態のS50,S60,S70,S80(図7参照)と同様である。
【0082】
次にカウント値jを判定し(S43)、nv(=4)に到達するまでカウントを1ずつ増やし(S44)、次の磁性細線1に切り替えて(S42)、画素列データの書込および磁区のシフト移動を行う一連の工程(S50A,S60,S70,S80A)を繰り返す。そして、磁性細線群のすべての磁性細線1に画素列データの書込が行われた後のカウント値jの判定(S43:Yes)で、画像データのすべての書込が完了する。
【0083】
本実施形態に係る画素の駆動方法によれば、一組の磁性細線群の磁性細線1の本数(4本)分、画素列データの書込等を繰り返すため、第1実施形態に係る画素の駆動方法の4倍の応答時間を要することになる。しかし、パルス電流(走査電流)および書込電流をそれぞれ同時に供給する磁性細線1の本数が少ないため、省電力化が可能となる。したがって、本実施形態に係る画素の駆動方法は、画素アレイ40の画素数が少ない場合や高速応答の必要がない場合に、好適である。また、一組の磁性細線群を隣り合う磁性細線1,1,1,1として、同時に書込をする2本の磁性細線1,1は3本おき(磁性細線11,15他)としたが、例えば、隣り合う2本の磁性細線1,1に同時に書込をする組合せとしてもよい。また、nv=Nv(=8)として、磁性細線1に1本ずつ順番に画素列データの書込をすることもできる。
【0084】
(変形例)
前記第2実施形態においては、第1実施形態と同様に、磁性細線1毎に備えられたデータ書込部50で書込をする仕様としたが、同時に動作するデータ書込部50は、4本の磁性細線1(磁性細線群)につき1つである。したがって、このような画素の駆動を行う空間光変調器10Aは、一組の磁性細線群に1つのデータ書込部50Aを備えてもよい。具体的には、1つのデータ書込部50Aは、書込電流源5、4本の磁性細線1の電極33,34のそれぞれに接続する端子および端子毎のスイッチを備えて、制御部90Aが選択した磁性細線1に限定して書込電流+Iw,−Iwを供給する(図示省略)。また、所定本数の磁性細線群毎にデータ書込部50Aを備えればよいので、磁性細線1,1のピッチよりも大きい書込手段による書込方式を適用することができる。
【0085】
このような書込方式として、現行の磁気ディスクへの書込(記録)と同様に、データ書込部50Aが磁気ヘッド55を備えて外部磁界を印加してもよい。この場合は図12(a)に示すように、データ書込部50Aは、書込領域1wにおいて光変調部20Bに対向する磁気ヘッド55をさらに備え、書込電流源5は磁気ヘッド55のコイルに接続される。書込電流源5が供給する書込電流+Iw,−Iwは、磁性細線1を書込領域1wにおいて所定の方向に磁化するための磁界を磁気ヘッド55から発生させるための直流電流であり、コイルに供給される電流Iwの向きにより磁界の向きが反転する。図4(a)、(c)に示すスピン注入磁化反転と同様に、データ書込部50Aが2値のデータ“0”、“1”に基づいて書込電流+Iw,−Iwを書込電流源5から供給することで、磁気ヘッド55から異なる向きの磁界が発生して磁性細線1に印加される。このように磁界を印加する書込方式においては、書込時間tWは数百ps程度以上であればよい。
【0086】
一方、光変調部20Bは、磁気ディスクと同様に磁性細線1の下(磁気ヘッド55の主磁極に対向する側の反対側)に非磁性層54を介して軟磁性層53を積層して備える。軟磁性層53により、磁気ヘッド55からの外部磁界が磁性細線1で垂直な書き込み磁束を形成するための磁路を形成する。このような構成とすることで、例えば図12(a)では、初期状態の磁化方向が下向きの磁性細線1を、書込領域1wにおいて、磁気ヘッド55(主磁極のみ図示)が上向きの磁界を印加して磁化を上向きに反転させている。同様に、図12(b)(基板2および絶縁層6は図示省略)では、磁気ヘッド55が下向きの磁界を印加して磁化を下向きに反転させている。なお、面内磁気異方性材料からなる磁性細線1については、細線方向に沿った向きの磁界を印加されればよいので、軟磁性層53および非磁性層54を備える必要がなく、光変調部20Bはさらに簡易な構造とすることができる。
【0087】
また、磁気ヘッド55は、磁性細線群のすべての磁性細線1の書込領域1wに一括に書込をするような構造とする。本発明に係る空間光変調器10Aにおいては、磁気ディスクを回転駆動させる記録装置と異なり、磁気ヘッド55を光変調部20Bに対して高速で移動させることが困難であるからである。これらの磁性細線1が書込領域1wにおいて同じ磁化方向とされても、選択されていない磁性細線1は磁区のシフト移動が行われていないので、当該磁性細線1の画素4に前記磁化方向の磁区が到達することはない。
【0088】
以上のように、第2実施形態に係る空間光変調器によれば、すべての磁性細線に並列してデータの書込を実行しなくても画像の表示が可能であり、省電力で駆動できる空間光変調器とすることができる。さらに、第2実施形態の変形例に係る空間光変調器によれば、いっそう簡易な構造の空間光変調器とすることができる。
【0089】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る空間光変調器について、図13を参照して説明する。第3実施形態およびその変形例に係る空間光変調器は、光変調部20C,20D以外は、第1実施形態に係る空間光変調器10(図1〜図5参照)や第2実施形態に係る空間光変調器(図10、図12参照)と同様の構成であり、同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。図13(a)に示すように、光変調部20Cは、図4に示す光変調部20に、磁気転写膜3を画素領域1pxにおける磁性細線1の上面に接触するように備えた構造である。このような空間光変調器においては、光は、上方から磁気転写膜3を透過して磁性細線1の上面で反射、再び磁気転写膜3を透過して出射する。したがって、本実施形態に係る空間光変調器を適用した表示装置は、図3に示す第1実施形態に係る空間光変調器10と同様の構成とすることができる。また、本実施形態に係る空間光変調器は、第1実施形態と同様に磁性細線1を透過性の高いものとし、基板2を透明基板とすることで、透過型の空間光変調器としてもよい。
【0090】
(磁気転写膜)
磁気転写膜3は、外部の磁気を帯びて容易に磁化され、特に接触する磁性体の磁気に強く影響される。したがって、図13(a)に示すように、磁気転写膜3は、下面に磁性細線1が接触して配置された領域では、当該磁性細線1に形成された磁区の直上の領域でそれぞれ同じ磁化方向を示す磁区が形成され、磁区を区切る磁壁が生成する。したがって、磁性細線1において磁界の印加等による書込や磁区のシフト移動により、磁性細線1のある領域における磁化方向が変化すれば、それに対応して前記領域の直上における磁気転写膜3の磁化方向が速やかに変化する。したがって、磁性細線1にパルス電流を供給したとき、見かけ上、磁性細線1と共に磁気転写膜3においても磁区がシフト移動する。なお、本実施形態では磁性細線1は垂直磁気異方性材料からなるが、面内磁気異方性材料であっても同様に磁気転写膜3に磁性細線1の磁化方向が転写される。ファラデー効果の大きい磁気転写膜3に磁性細線1を積層することにより、磁性細線1で反射する光が磁気転写膜3を透過して出射するため、旋光角を大きくして、磁化方向の違いによる出射光の偏光の向きの差を拡大して磁気の検出精度を向上させることができる。
【0091】
磁気転写膜3は、低保磁力で、磁気光学効果の大きい(ファラデー回転角の大きい)絶縁性の磁性材料からなり、透過率の高い材料が好ましい。このような材料として、具体的にはイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe512:YIG)のような磁性ガーネット膜が挙げられ、特にビスマス置換磁性ガーネット(Y3-XBiXFe512:Bi−YIG)はファラデー回転角が約5°/μm(波長532nm)と大きいことから好ましい。磁性ガーネット膜は、例えばGd3Ga512(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット:GGG)単結晶基板上に液相エピタキシャル成長(Liquid Phase Epitaxy:LPE)法にて成膜させることで製造できる。あるいは、スピンコート焼結法の一種である有機金属分解(Metal Organic Decomposition:MOD)法や、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法にて、ガラス基板等に磁気転写膜3を成膜することもできる。磁気転写膜3の膜厚は特に限定されず、厚くするほど比例してファラデー回転角を大きくすることができるが、一方で光が吸収されて出射光が減衰するため、具体的には0.1〜2μm程度が好ましい。磁気転写膜3を成膜するための基板2Aは透明基板材料であるので、成膜した磁気転写膜3は、基板2Aごと画素アレイ40の平面視形状に合わせて切り出して、基板2Aを上に向けて、光変調部20Cの磁性細線1上に貼り付ければよい。詳しくは、光変調部20Cの製造において、磁性細線1,1間を絶縁層6で埋めた後、その上に磁気転写膜3を貼り付けるように重ねる。
【0092】
磁気転写膜3は、少なくとも画素領域1px(画素アレイ40)の領域に形成すればよく、図13(b)に示す変形例のように光変調部20Dの全面に形成してもよい。一例として、基板2に代えて基板2Aを光変調部20Dの形状とし、その全面に磁気転写膜3を成膜し、磁気転写膜3の上に磁性細線1,1,…を形成する。あるいは磁気転写膜3は、磁性細線1の形成時に同じ平面視形状に加工されてもよい。このような空間光変調器においては、光を光変調部20Dの下方から基板2Aを透過させて入射させる。光はさらに磁気転写膜3を透過して磁性細線1の下面で反射、再び磁気転写膜3を透過して出射する。また、磁性細線1はその上面に凹部1cが形成されている場合、光が磁性細線1の平滑な下面で反射するので、乱反射が抑えられて好ましい。なお、書込領域1wにおける軟磁性層53等は磁性細線1の上に形成したが、例えば成膜した磁気転写膜3を書込領域1wにおいて除去し、磁性細線1の形成前に軟磁性層53および非磁性層54、あるいは下部電極33、磁化固定層51および中間層52(図13(a)参照)を積層してもよい。また、磁気転写膜3を、第1実施形態の変形例に係る空間光変調器の光変調部20A(図9参照)に備えてもよい。
【0093】
以上のように、第3実施形態およびその変形例に係る空間光変調器によれば、画素における磁化方向の違いによる旋光角の差が大きくなるため、画素の明/暗の切り分けおよび切り換えのための選択性に優れた空間光変調器となる。
【0094】
[第4実施形態]
第1、第2実施形態およびその変形例に係る空間光変調器10,10A等についての画素駆動における磁性細線1への書込は、2値のデータのそれぞれに基づく2つの磁化方向にするものであるが、これに限らず、磁性細線1を予め一方の磁化方向にしておくことで、書込においては他方の磁化方向にするのみとしてもよい。このような空間光変調器の構成および画素の駆動方法を、図14および図15を参照して説明する。
【0095】
第4実施形態に係る空間光変調器は、光変調部20E、データ書込部50B(図示省略)以外の要素は空間光変調器10(図1、図5参照)と同一であるので、図示および説明を省略し、光変調部20Eにおいても、図4に示す光変調部20と同じ要素には同じ符号を付して説明を省略する。さらに本実施形態に係る空間光変調器は、図14(a)に示すように、光変調部20Eに対向させた電磁石71等で構成される初期化部(初期化手段)70を備える。
【0096】
本実施形態に係る空間光変調器の光変調部20Eは、図13(b)に示す第3実施形態の変形例に係る空間光変調器の光変調部20Dと同様に、透明な基板2A上に磁性細線1が形成され、下方から光を入射される。さらに、光変調部20Eは、第1実施形態に係る空間光変調器10の光変調部20と同様の、書込領域1wにスピン注入磁化反転素子構造を形成された磁性細線1を備えるが、書込領域1wの細線方向長さは単位長さLbと略一致するように形成される。また、光変調部20Eは、第1実施形態とは書込領域1wのスピン注入磁化反転素子構造の積層順を逆とし、さらに電極31,32も磁性細線1の下面に接続されるが、それぞれ第1実施形態と同じ積層順であってもよい。さらに光変調部20Eは、第1実施形態の変形例に係る空間光変調器の光変調部20A(図9参照)と同様に平面視で屈曲させた形状の磁性細線1Aとしたり、第3実施形態に係る空間光変調器の光変調部20C,20D(図13参照)と同様に磁気転写膜3を備えてもよい。
【0097】
(初期化部)
初期化部70は、制御部90(図5参照)により制御され、光変調部20Eのすべての磁性細線1を2つの磁化方向のうちの共通の一方にするものである。これを磁性細線1の初期化と称し、本実施形態においては磁性細線1を下向きの磁化方向にする。初期化される磁性細線1の領域は、本実施形態においては後記するように磁性細線1の全体であることが好ましい。さらに磁性細線1の初期化は、1本あるいは所定の本数の磁性細線1毎にされてもよいが、特に、第1実施形態と同様にすべての磁性細線1に同時に書込をする等の場合は、これらすべての磁性細線1に対して一括してされることが好ましい。このように、光変調部20Eのすべての磁性細線1のさらに全体という広範囲を同時に同じ磁化方向にするためには磁界印加によることが好ましく、本実施形態において、初期化部70は、磁界印加手段として光変調部20Eに対向させて設けられた電磁石71、および電磁石71のコイルに接続された初期化電流源7を備える。
【0098】
電磁石71は、初期化電流源7から初期化電流Iinitを供給されて、光変調部20Eに向けて磁界を発生させ、この磁界を印加されて光変調部20Eのすべての磁性細線1が下向きの磁化方向になる。電磁石71は公知の電磁石を適用することができ、光変調部20Eにおける所定の磁性細線1のそれぞれ(本実施形態においてはすべての磁性細線1)に、所定の向きおよび強さの磁界を一様に印加するように構成される。電磁石71は、図14(a)では、1本の磁性細線1のみを示してこの磁性細線1に対向させて表されているが、本実施形態に係る空間光変調器においては、光変調部20Eの全体(上面全体)に対向させた1つが備えられるものとする。なお、これに限らず、電磁石71は、その仕様や光変調部20Eの大きさ(磁性細線1の幅やピッチ)等によっては、1本あるいは所定の本数の磁性細線1毎に設けられてもよい。電磁石71が印加する磁界は、磁性細線1の保磁力を超えて下向きの磁化方向にすることができる強さであればよく、また、本実施形態のように書込領域1wにスピン注入磁化反転素子構造の磁化固定層51を備えてスピン注入磁化反転にて書込をする場合は、磁化固定層51と同じ(平行の)下向きの磁化方向にすることが好ましい。磁性細線1を磁化固定層51と反対の(反平行の)磁化方向にする場合は、電磁石71が印加する磁界を磁化固定層51の保磁力よりも弱くする。
【0099】
磁性細線1の初期化は、負電極32の接続された側の一端から少なくとも書込領域1wまでの領域においてされればよいが、前記した通り、特に、本実施形態のように凹部1c(1c0)等が形成された磁性細線1においては、磁性細線1の全体にされることが好ましい。初期化されないことで画素領域1px等に残存するランダムな長さで分割された磁区同士の間の磁壁や、初期化された領域とされなかった領域との間に生成した磁壁が、画素の駆動における磁区のシフト移動の際に、凹部1cに係止されて移動距離がずれる虞があるため、初期化にて磁性細線1の全体を一様な磁化方向にして磁壁が生成しないようにする。したがって、電磁石71は、光変調部20Eの全体に対向して設けられ、特にこのような場合には、画素領域1pxへの光の入出射を妨げることがないように、光の入出射側と反対側に、本実施形態においては光変調部20Eの上方に設けられる。なお、本実施形態においては、図14(a)に、電磁石71が、光変調部20Eの磁性細線1の負電極32の接続された側の一端(左端)から書込領域1w近傍までの領域に対向する位置に設けられ、この領域に限定して磁界を印加するように示しているが、磁性細線1の全体を初期化する。
【0100】
(データ書込部)
データ書込部50Bは、第1実施形態のデータ書込部50に対して、書込電流源5に代えて書込電流源5Bを備えること以外は同様の構成であり、制御部90により制御される(図5参照)。書込電流源5Bは、書込電流源5と同様に書込領域1wに電極33,34を介して接続されるが、1値の書込電流+Iwのみを供給し、すなわちOFF状態を含めて+Iw,0の2出力を示す。したがって、データ書込部50Bは、第1実施形態に係る空間光変調器10のデータ書込部50等と異なり、ON/OFFの切替えのみの簡易な回路で駆動することができる。本実施形態において、書込電流+Iwは、初期化部70(電磁石71)によって下向きにされた磁性細線1の磁化方向を、書込領域1wにおいてスピン注入磁化反転させて上向きにする(反平行にする)ものである。
【0101】
(画素駆動方法)
本実施形態に係る空間光変調器における画素の駆動方法を、図15に示すフローチャートを参照して説明する。図15において、図7に示す第1実施形態と同じ工程については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0102】
制御部90は、画像データF1(図6(b)参照)を入力されて、画素列データ(図6(c)参照)を生成、分配する工程(S20,S31,S32)と並行して、初期化部70によりすべての磁性細線1の磁化方向を下向きにする、すなわちデータ“1”の書込をする初期化工程S90を行う。このとき、初期化部70の初期化電流源7は、磁性細線1の磁化方向が下向きに揃えられるために要する時間だけ初期化電流Iinitを供給し、その後は供給を停止して初期化工程S90を完了する。磁性細線1の保磁力や本数等、電磁石71が印加する磁界の強さや領域の広さにもよるが、初期化電流Iinitを供給して磁界を印加する時間、すなわち初期化時間は数百ps程度以上であればよい。初期化工程S90は、パルス電流の供給を開始する(S50)前に、あるいは画素列データ書込工程S60Bにおける1番目のデータの判定(S67:i=1)までに行えばよく、例えば画像データ出力命令送信(S10)と同時であってもよい。
【0103】
画素列データ書込工程S60Bは、図7を参照して説明した第1実施形態の画素列データ書込工程S60とほぼ同様であるが、磁性細線1へのデータ書込(S63)に代えて、データ書込部50Bに入力されたデータが“0”である(S67:Yes)場合にのみ、磁性細線1に当該データ“0”の書込をして(S63B)、磁区をシフト移動させる(S64)。一方、データ書込部50Bに入力されたデータが“1”である(S67:No)場合は、磁性細線1に何らの書込をせずに磁区のシフト移動(S64)のみを行う。なお、画素列データ書込工程S60Bにおいては、第1実施形態と比較すると工程S67が追加されているが、第1実施形態におけるデータ書込(S63)は、データ書込部50が2値のデータ“0”、“1”のどちらを入力されたかに応じて当該データに基づいて異なる書込をするため、工程や処理時間が実質的に増加するものではない。
【0104】
ここで、磁性細線1へのデータ書込(S63B)および磁区のシフト移動(S64)について、図14を参照して詳細に説明する。なお、図14においては、図14(a)にのみ基板2Aおよび絶縁層6を示し、図14(b)、図14(c)では省略するが、すべて同一の構造の光変調部20Eを示し、また当該光変調部20Eには電磁石71が対向している。ここでは、第1実施形態における説明と同様に、行アドレス(0)の画素列データ(図6(c)参照)に基づき磁性細線1(11)に書込をする方法を説明する。
【0105】
データ書込部50Bは、第1実施形態と同様に、画素列制御部9(91)から画素列データの1番目のデータ“0”を入力されると、内蔵する書込電流源5Bから書込電流+Iwを供給する。したがって、図14(b)に示すように、磁性細線1の書込領域1wに下向きの、すなわち磁化固定層51の側から膜面垂直方向に電流Iwが流れて、磁性細線1は、書込領域1wにおいて、磁化固定層51の磁化方向に対して反平行になるべくスピン注入磁化反転する。これにより、書込領域1wに磁化方向が上向きの磁区(磁区D0と称する。図14(c)参照)が形成され、磁区D0の両側を区切るように磁壁DW1,DW2が生成する(S63B)。同時に、磁性細線1における書込領域1wの画素領域1pxと反対側に、磁壁DW2で磁区D0と区切られて、磁化方向が初期化時の下向きのままの磁区D1が形成される。
【0106】
書込電流源5Bからの書込電流+Iwの供給が停止した(OFF)後、磁性細線1に、走査電流供給部80からパルス電流における1回目の電流供給(1パルス)として走査電流Iscがパルス幅tHの時間だけ供給されて、図14(c)に示すように、磁区D0がこれを挟む磁壁DW1,DW2と共に単位長さLbの距離だけシフト移動する。前記した通り、書込領域1wの細線方向長さが単位長さLbと略一致するので、磁区D0の全体が書込領域1wから退出した時点で静止する(S64)。すなわち、書込領域1wには磁区D1が到達する。
【0107】
ここで、磁性細線1においては、電子e-が注入される負電極32側の最端の磁区D1により当該磁区D1と逆方向の上向きのスピンを持つ電子が弁別されて、負電極32からは下向きのスピンを持つ電子のみが注入される。この下向きのスピンを持つ電子の注入により、磁区D1は下向きの磁化方向を維持したままで磁壁DW2のシフト移動に伴って細線方向に伸長する。したがって、磁性細線1において、走査電流Iscの供給により磁区のシフト移動(S64)が繰り返されても、磁性細線1の負電極32側の端から書込領域1wまでは、常に1つの下向きの磁化の磁区が存在し、すなわちデータの判定(S67)時において書込領域1wは常に下向きの磁化を示す。
【0108】
そして、2番目のデータ“1”については、書込領域1wは既に下向きの磁化を示しているので書込をする必要がなく、データ書込部50Bはデータ“1”を入力されると、パルス電流における電流停止の間も書込電流源5BをOFF状態のままとする。そして、再び走査電流源8からパルス電流における次の1パルスとして走査電流Iscが磁性細線1に供給されると、磁壁DW1,DW2およびこれらに挟まれた磁区D0が単位長さLbの距離を移動し(S64)、それに伴い磁区D1が同距離だけ伸長する。磁区D1のこの伸長した部分が、磁区のシフト移動(S70)を完了した段階で対応する画素4となる。
【0109】
このように、最初に、磁性細線1の磁化方向を下向きとしてデータ“1”の書込をすることで、データ1個ずつの書込において、データ“0”の場合にのみ実際の書込をすればよい。ただし、データ“1”については書込がされないため、第1実施形態(図4(b)、(c)参照)と異なり、書込領域1wへのデータ“0”の書込で形成された磁区は、単位長さLb(パルス幅tH)とは関係なく、書込領域1wの細線方向長さを維持して、画素領域1px(画素4)に到達する。したがって、書込領域1wは、前記した通り細線方向長さが単位長さLbと一致することが最も好ましく、要求される磁区の画素に対する位置精度等に応じた範囲に設計される。
【0110】
本実施形態に係る空間光変調器の画素駆動方法は、第1実施形態と比較すると、画素アレイ40に1フレームの画像を表示する度に1回の初期化工程S90を行う分の処理時間がパルス電流の供給開始(S50)前に加算される以外は、図8に示すタイミングチャートと同様となり、応答時間の増加は微小である。なお、図8に示すタイミングチャートにおける書込電流源5の出力が「−Iw」であるとき、本実施形態においては書込電流源5Bの出力が「0」となる。さらに、本実施形態では1フレーム毎に初期化するとしたが、これに限らず、例えば動画の表示において所定フレーム数毎に、さらには空間光変調器の起動時に1回のみ、初期化する設定としてもよい。
【0111】
(変形例)
初期化部70は、画素駆動において所定本数の磁性細線1に限定して書込をする第2実施形態に係る空間光変調器10A(図10参照)に備えられてもよい。このような空間光変調器の画素駆動(図11参照)においては、制御部90Aが磁性細線群における1番目の磁性細線1を選択する(S42:j=1)前に、すべての磁性細線1を初期化する。あるいは電磁石71が磁界を印加する磁性細線1の領域が限定されて、画素領域1pxにおける磁化方向を変化させない場合は、磁性細線1を選択した(工程S42)毎に当該磁性細線1に限定して初期化してもよい。
【0112】
さらに、初期化部70は、書込方式として磁界印加を適用した第2実施形態の変形例に係る空間光変調器(図12参照)に備えられてもよい。この場合は、書込電流源5Bが磁気ヘッド55のコイルに接続され、磁気ヘッド55が磁性細線1に印加する磁界は図12(a)に示すような上向きのみとする。ここで、磁気ヘッド55は、前記した通り磁性細線群毎に設けられてそのすべての磁性細線1の書込領域1wに一括に磁界を印加して書込をしてもよいが、単位長さLbと細線方向長さが略一致する書込領域1wに限定して磁界を印加する。また、データ書込部50Aが前記磁気ヘッド55により磁性細線群毎のすべての磁性細線1の書込領域1wに一括に書込をするので、磁性細線群におけるそれぞれの磁性細線1について、画素列データ書込工程S60B(図15参照)における1番目のデータの判定(S67:i=1)前に、磁区を少なくとも単位長さLbの距離シフト移動させて、書込領域1wに磁区D1を到達させるようにする(図14(c)参照)。
【0113】
以上のように、第4実施形態に係る空間光変調器によれば、書込手段に正負反転可能な電流を出力するための複雑な駆動回路を適用する必要がないため、画素をいっそう微細化しても、狭ピッチ化された磁性細線のそれぞれに容易に書込手段を設けることができる。特に、書込方式としてスピン注入磁化反転を適用した場合には、書込領域のスピン注入磁化反転構造について平行、反平行になるそれぞれのスピン注入磁化反転電流の大きさ(絶対値)が異なっても書込手段にさらに複雑な駆動回路を適用する必要がなく、スピン注入磁化反転電流の大きさを揃えたスピン注入磁化反転構造とする必要もない。
【実施例1】
【0114】
本発明の効果を確認するために、第1実施形態に係る空間光変調器の光変調部(図2、図3参照)を模擬するサンプルを作製し、形成される磁区を観察した。表面を熱酸化したSi基板を基板2および絶縁層6(熱酸化膜:SiO2)とし、ダマシン法にて磁性細線1を形成した。すなわち、RIE法にて熱酸化膜に長さ10μmの直線状の溝を一定間隔で形成し、その上に垂直磁気異方性材料である[Co(0.3nm)/Pd(1.2nm)]×30の多層膜(合計厚さ45nm)を成膜し、CMPにて溝内以外の前記Co/Pd多層膜を除去することにより、磁性細線1を形成してサンプルとした。溝の幅を変化させることにより、幅150nm(1μmピッチ)、幅250nm(1.5μmピッチ)、幅500nm(1.5μmピッチ)の3種類の磁性細線を形成した。
【0115】
作製したサンプルに、初期化として10kGの磁界を上向きに(基板2側から磁性細線1へ向けて)印加して、すべての磁性細線の全体の磁化を飽和させた(一様な磁化方向とした)後、磁性細線(Co/Pd多層膜)の保磁力より少し小さい0.6kGの下向きの磁界を印加して、それぞれの磁性細線に複数の磁区を形成した。このサンプルの表面を磁気力顕微鏡(MFM)にて画像化して観察した。図16に示すMFM像写真において、磁性細線は、磁化方向が上向きか下向きかによって磁区毎に白/黒のコントラストを示す。図16(a)、(b)に示すように、幅が150nm、250nmの磁性細線は、それぞれ細線方向にのみ磁区が分割されて、複数の磁区が細線方向に沿って形成されることが確認された。特に幅が150nmの磁性細線は、磁区を区切る境界線(磁壁)が細線方向にほぼ垂直に生成して、磁区の平面視形状が矩形となり、また最小で長さ約30nmの微小な磁区が形成された。このことから、十分に幅の狭い磁性細線1は、1個の画素4において一様な磁化方向を安定して示すことが容易であるといえる。これに対して、図16(c)に示すように、幅が500nmの磁性細線は、外部から磁界を印加されるだけでは幅方向にも磁区が分割される場合がある。
【実施例2】
【0116】
本発明の効果を確認するために、第1実施形態に係る空間光変調器(図2、図3、図7、図8参照)をフルハイビジョンの画素数としたものにおいて、計算機を用いたシミュレーションにより応答時間を求めた。すなわち、本実施例における空間光変調器の画素数は、水平方向1920×垂直方向1080とし、また磁性細線1の細線方向を水平方向とする。また、画素サイズは一辺250nmとした。したがって、空間光変調器に設ける磁性細線1の本数は1080本、ピッチは250nmとなる。そして、1本の磁性細線1において、画素4の数は1920個、単位長さLbは250nmであるので、画素領域1pxの長さは250nm×1920=480μmとなる。また、書込領域1wと画素領域1pxとの間隔を2μm、すなわち画素4の80個分の長さとする。また、磁性細線1の幅および厚さは実施例1のサンプルの1つと同じとして、幅150nm、厚さ45nmとする。すなわち、画素4は開口率0.6となる。
【0117】
このような磁性細線1に9.45mAの直流電流のパルス電流を供給するものとする。電流密度は1.4×1012A/m2であり、このパルス電流による磁性細線1の磁壁の移動速度は40m/sとする(非特許文献1参照)。
【0118】
磁性細線1の前記パルス電流の電流供給による磁壁の単位長さLbの移動時間tSC:6.25nsであり、パルス電流における1回の電流供給で磁壁および磁区を単位長さLbの距離を移動させるため、パルス幅tH:6.25nsとする。また、停止時間tL:6.25ns(デューティ比:50%)として、パルス周期は12.5nsとなる。したがって、本実施例に係る空間光変調器の応答時間は、12.5ns×(1920+80)=25μsとなる。現行の液晶による空間光変調器の応答時間が20〜30msであるので、大幅な高速化が可能になる。そして、本実施例に係る空間光変調器は、フルハイビジョンにおける1フレームの1/60秒間(≒16.7ms)に対して十分に短い応答時間であるので、このような動画の表示において十分な性能を有するといえる。
【0119】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0120】
10,10A 空間光変調器
1,1A,11〜18 磁性細線
1c,1c0〜1c8 凹部
1px 画素領域
1w 書込領域
20,20A,20B,20C,20D,20E 光変調部
2,2A 基板
3 磁気転写膜
31 正電極
32 負電極
40 画素アレイ
4 画素
50,50A データ書込部(書込手段)
5,5B 書込電流源
55 磁気ヘッド
70 初期化部(初期化手段)
71 電磁石
7 初期化電流源
8 走査電流源
90,90A 制御部
D0,D1 磁区
DW1,DW2,DW3 磁壁
Lb 単位長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素をマトリクス状に配列してなる画素アレイと、前記画素アレイの画素のそれぞれを当該画素の入力された2値のデータに基づき異なる2つの磁化方向のいずれかにする画素駆動手段と、を備える空間光変調器であって、
前記画素アレイは、複数の画素を一列に配列して備えて前記配列方向に沿って細線状に形成された磁性体からなる磁性細線を、複数並設して形成され、
前記磁性細線は、前記複数の画素を備える画素領域と書込領域とを細線方向に区切るように、予め指定された位置に設けられ、
前記画素駆動手段は、前記磁性細線を前記書込領域において所定の磁化方向にする書込手段と、
前記磁性細線の両端に接続して、当該磁性細線に形成された磁区を、この磁区を区切る磁壁と共に断続的に移動させるパルス電流を供給する電流供給手段と、
前記磁性細線に供給されるパルス電流における電流停止時に、前記磁性細線を前記書込領域において所定の画素のデータに基づく磁化方向にするように前記書込手段を制御し、前記書込領域に形成された磁区を前記所定の画素に到達させるように前記電流供給手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする空間光変調器。
【請求項2】
前記書込手段は、前記磁性細線の前記書込領域に磁界を印加することにより、所定の磁化方向にすることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
前記磁性細線は、前記書込領域にスピン注入磁化反転素子構造を備え、
前記書込手段は、前記スピン注入磁化反転素子構造に膜面に垂直な方向に電流を供給することにより、前記磁性細線を所定の磁化方向にすることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項4】
前記画素駆動手段は、前記磁性細線の少なくとも前記書込領域から前記画素領域が設けられた側の反対側の端までを、前記2つの磁化方向の一方にする初期化手段を備え、
前記書込手段は、前記磁性細線を前記書込領域において、前記2つの磁化方向の他方のみにすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項5】
前記磁性細線は、前記画素を細線方向に区切る境界の1箇所以上で括れた形状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項6】
前記磁性細線は、前記画素を細線方向に区切る境界の1箇所以上で屈曲した細線形状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項7】
前記画素アレイは、磁気転写膜を前記磁性細線に接触させて備え、
前記磁気転写膜を透過して前記磁性細線に光を入射させることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の空間光変調器。
【請求項8】
複数の画素を一列に配列して備えて前記配列方向に沿って細線状に形成された磁性体からなる磁性細線を複数並設して画素をマトリクス状に配列されてなる画素アレイとする空間光変調器において、前記画素アレイのそれぞれの画素を、当該画素の入力された2値のデータに基づき異なる2つの磁化方向のいずれかにする空間光変調器の画素駆動方法であって、
前記磁性細線に備えられた複数の画素における配列された順に、1つの画素を選択する画素選択工程と、
前記磁性細線を、前記複数の画素を備える領域とは細線方向に区切られて予め設けられた書込領域において、前記選択した1つの画素のデータに基づく磁化方向にする書込工程と、
前記磁性細線に形成されている磁区を、前記書込領域から前記複数の画素を備える領域へ向けて細線方向に、前記画素の1つ分の長さの距離を移動させる磁区移動工程と、を順番に繰り返して、前記磁性細線に備えられたすべての画素をデータに基づく磁化方向にし、
前記並設された複数の磁性細線のそれぞれについて、前記磁性細線に形成された磁区が当該磁区を区切る磁壁と共に断続的に移動するパルス電流を、当該磁性細線へその細線方向に供給することにより、前記パルス電流における電流停止時に前記画素選択工程と前記書込工程とを行い、前記パルス電流における電流供給時に前記磁区移動工程を行うことを特徴とする空間光変調器の画素駆動方法。
【請求項9】
前記書込工程を前記配列された画素の1番目について行う前に、前記磁性細線の少なくとも前記書込領域から前記画素領域が設けられた側の反対側の端までを前記2つの磁化方向の一方にする初期化工程を行い、
前記書込工程のそれぞれにおいて、前記選択した1つの画素のデータに基づく磁化方向が前記一方の磁化方向と同じである場合は、前記磁性細線の磁化方向を変化させないことを特徴とする請求項8に記載の空間光変調器の画素駆動方法。
【請求項10】
2以上の前記磁性細線について、共通のパルス電流を供給することにより、前記工程のそれぞれを並行して行うことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の空間光変調器の画素駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図16】
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