空間光変調装置および空間光変調方法
【課題】必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易であり且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高め得る空間光変調装置および空間光変調方法を提供する。
【解決手段】空間光変調装置1Aは、印加電界の大きさに応じて入射光の位相を変調する液晶層12と、液晶層12の温度に応じた信号である温度信号Stempを生成する温度センサ17と、複数の画素毎に設けられ、印加電界を発生させる電圧を液晶層12に印加する複数の画素電極13aと、複数の画素電極13aに電圧を提供する駆動装置20Aとを備える。駆動装置20Aは、液晶層12の基準温度T0に対する温度変化量と、液晶層12における位相変調量の変動量との相関を表す関数に含まれる係数αを予め記憶している不揮発性記憶素子23を有し、温度信号Stempに示された温度と係数αとを使用して、電圧の大きさを補正するための演算を行う。
【解決手段】空間光変調装置1Aは、印加電界の大きさに応じて入射光の位相を変調する液晶層12と、液晶層12の温度に応じた信号である温度信号Stempを生成する温度センサ17と、複数の画素毎に設けられ、印加電界を発生させる電圧を液晶層12に印加する複数の画素電極13aと、複数の画素電極13aに電圧を提供する駆動装置20Aとを備える。駆動装置20Aは、液晶層12の基準温度T0に対する温度変化量と、液晶層12における位相変調量の変動量との相関を表す関数に含まれる係数αを予め記憶している不揮発性記憶素子23を有し、温度信号Stempに示された温度と係数αとを使用して、電圧の大きさを補正するための演算を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相変調型の空間光変調装置および空間光変調方法において、液晶層の温度変化に伴う位相変調量の変動分を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カラー液晶表示素子の温度補償装置に関する技術が記載されている。この技術は、温度対最適出力電圧データを、複数のカラー液晶表示素子ごとに、そのばらつきや経時変化に応じて適宜修正できるようにすることを目的としている。図18は、この装置の構成を示すブロック図である。図18に示されるように、この装置は、温度検知回路211と、デジタルの温度対最適出力電圧データが記憶され、温度検知回路211からの温度データに対応する最適出力電圧データが読み出されるデータテーブル212と、データテーブル212から読み出された最適出力電圧データを補正する電圧補正手段217と、その最適出力電圧データをD/A変換して、液晶表示素子の駆動回路に送出するD/A変換回路213と、電圧補正手段217に補正データを与える操作部216と、操作部216からの補正データおよび温度検知回路211からの温度データに基づいてデータテーブル212内の温度対最適出力電圧データを修正する制御手段214とを備えている。
【0003】
また、特許文献2には、液晶パネルをオーバードライブにより高速駆動する液晶パネルの駆動装置に関する技術が記載されている。図19は、この液晶パネル駆動装置の構成を示すブロック図である。この液晶パネル駆動装置は、フレームメモリ231とルックアップテーブル232とを用いてオーバードライブを行う装置であって、異なる温度範囲に対応する複数種類のルックアップテーブル232を備えている。この装置は、温度センサ235から得られるLCDモジュール234の温度情報に基づいて、選択回路233を作動させてルックアップテーブル232を切り替えて用いる。
【0004】
また、特許文献3には、半透過型の液晶表示装置に関する技術が記載されている。図20は、この液晶表示装置の構成を示すブロック図である。この液晶表示装置は、補正回路241を備える。補正回路241は、ルックアップテーブル選択部242、複数の透過モード用ルックアップテーブル243、複数の反射モード用ルックアップテーブル253、フレームメモリ244、モード判定部245、スイッチ246、及びスイッチ制御部256を有している。透過モード用ルックアップテーブル243及び反射モード用ルックアップテーブル253は、現階調と目標階調との組合せに対応づけて信号の時間的変化を強調した補正値(補正階調)を記憶している。なお、図21は、この反射モード用ルックアップテーブル253の構成の一例を示す図表である。
【0005】
スイッチ制御部256は、周囲温度に関する閾値Yを記憶し、モード判定部245から出力されたモード選択信号MDがローレベルであるか、温度センサ248からA/D変換器247を介して出力された周囲温度T0が閾値Y以下であるときには、ローレベルのスイッチ制御信号SCを出力し、それ以外のときには、ハイレベルのスイッチ制御信号SCを出力する。スイッチ246には、ルックアップテーブル選択部242によって選択された透過モード用ルックアップテーブル243または反射モード用ルックアップテーブル253から出力された補正階調と、入力映像信号V1と、スイッチ制御信号SCとが入力される。スイッチ246は、スイッチ制御信号SCがローレベルのときには補正階調を、スイッチ制御信号SCがハイレベルのときには入力映像信号V1を、補正映像信号V2として出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3859317号公報
【特許文献2】特開2004−133159号公報
【特許文献3】特開2007−233061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来より、空間光変調素子(Spatial light modulator;SLM)によって光の位相を変調する技術が知られている。一般に、空間光変調素子は、液晶層と、液晶層に沿って複数の画素毎に設けられた電極とを備えている。電極に電圧が印加されると、その電圧の大きさに応じて液晶分子が回転し、液晶の複屈折率が変化する。この液晶層に光が入射すると、液晶層の内部において光の位相が変化し、該入射光に対して位相差を有する光が外部へ出射される。ここで、印加電圧の大きさと、電圧印加の前後における出射光の位相差(すなわち位相変調量)との関係を表したものが、空間光変調素子の位相変調特性である。この位相変調特性において、位相変調量と印加電圧との関係は非線形である。なお、このような非線形の関係を容易に変換する為、一般的に、位相変調量と印加電圧との対応する数値を複数示したルックアップテーブル(Look Up Table;LUT)が使用される。
【0008】
しかしながら、液晶層の温度が変化すると、位相変調量と印加電圧との関係が変動するという問題がある。すなわち、或る一定の電圧を印加した場合であっても、その時の液晶層の温度によって、位相変調量が異なるのである。このような現象は、空間光変調素子が使用される用途によっては深刻な問題を生じる。例えば、レーザ加工において、レーザ光源から出力されるレーザ光を空間光変調素子を介して被加工物に照射する場合、位相変調量の誤差は加工精度に大きな影響を及ぼす。また、顕微鏡や検眼鏡等に空間光変調素子を使用する場合、その使用温度によっては有用な観察像が得られないおそれがある。
【0009】
なお、上述した特許文献1に記載された温度補償装置は、液晶表示素子の温度変化に伴う色変化を補正することを目的としている。この温度補償装置は、液晶表示素子の温度と印加電圧値との関係を表すLUTを予め保持しており、検出された温度に対応する印加電圧値をLUTから選択する。また、特許文献2,3に記載された装置は、温度と印加電圧値との関係を表すLUTを複数備えており、温度変化の大きさに応じて最適なLUTを選択する。このように、特許文献1〜3に記載された装置はいずれも温度と印加電圧値との関係を表すLUTを備えている。しかしながら、前述したように位相変調量と印加電圧との関係は非線形であり、これらの関係もLUTで表すと、特許文献2,3のように複数の温度に対応する複数のLUTを保持しなければならず、大きな記憶容量が必要となる。また、そのようなLUTの作成には多くの手間を要し、所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度も抑えられてしまう。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易であり且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる空間光変調装置および空間光変調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明による空間光変調装置は、一次元もしくは二次元に配列された複数の画素毎に入射光の位相を変調する空間光変調装置であって、(1)印加電界の大きさに応じて入射光の位相を変調する液晶層と、(2)液晶層の温度に応じた信号である温度信号を生成する温度センサと、(3)複数の画素毎に設けられ、印加電界を発生させる電圧を液晶層に印加する複数の画素電極と、(4)複数の画素電極に電圧を提供する電圧生成部とを備える。電圧生成部は、記憶手段を有している。この記憶手段には、液晶層の基準温度に対する温度変化量と液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数、並びに印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数が予め記憶されている。電圧生成部は、温度センサから提供された温度信号に示された温度と、一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量の目標値である位相変調量指示値を補正するための演算を行ったのち、複数の第2の係数を使用して位相変調量指示値を印加電圧相当値に換算し、該印加電圧相当値に応じた電圧を複数の画素電極に提供する。
【0012】
この空間光変調装置において、電圧生成部の記憶手段は、液晶層の温度変化量と、液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数を記憶している。後述する実施の形態に示されるように、発明者は、このような第1の関数を予め求め、その係数(第1の係数)を記憶させておくことにより、大量のLUTを用いることなく、温度変化による位相変調量の変動を好適に補正できることを見出した。すなわち、この空間光変調装置においては、電圧生成部が、温度センサから提供された温度信号に示された温度と、上記一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量指示値を補正するための演算を行う。これにより、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易な空間光変調装置を提供できる。更に、離散的なデータの集合であるLUTを使用する場合と異なり、所望の位相変調量に応じた印加電圧値を、液晶層の温度変化に対応して連続的に得ることができるので、所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。
【0013】
また、この空間光変調装置において、電圧生成部の記憶手段は、印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数を記憶している。印加電圧と位相変調量との関係は非線形であるため、従来より、位相変調量指示値を印加電圧に換算する為にLUTが多く使用されている。しかしながら、LUTにおいて、例えば液晶層が高温であるときの位相変調量0〜2π(rad)に対して入力値0,1,・・・,255といった整数値を対応させた場合、液晶層が低温であるときには位相変調量0〜2π(rad)に対して対応する入力値が少なくなってしまう(例えば0,1,・・・,200)。このように、LUTを用いた場合、入力値の最小単位に割り当てられる位相変調量が温度によって異なるという問題が生じる。これに対し、後述する実施の形態に示されるように、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との第2の関数を予め求め、その係数(第2の係数)を上述した第1の係数と共に使用することによって、入力値と位相変調量との関係を液晶層の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0014】
また、空間光変調装置は、第1の関数が一次関数であり、第1の係数の個数が一つであることを特徴としてもよい。この場合、電圧の範囲は、第1の関数を一次関数として近似し得る所定範囲に限定されていることが好ましい。また、この場合、電圧生成部が、次の数式
【数1】
(但し、Tは温度センサから提供された温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の位相変調量指示値、φ0は補正後の位相変調量指示値、αは第1の係数)に基づいて、位相変調量指示値を補正するとよい。
【0015】
また、空間光変調装置は、第1の関数がn次関数(nは2以上の整数)であり、第1の係数の個数がn個であることを特徴としてもよい。この場合、電圧生成部が、次の数式
【数2】
(但し、Tは温度センサから提供された温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の位相変調量指示値、φ0は補正後の位相変調量指示値、β1…βnはn個の第1の係数)に基づいて、位相変調量指示値を補正するとよい。
【0016】
また、本発明による空間光変調方法は、印加電界の大きさに応じて入射光の位相を変調する液晶層と、一次元もしくは二次元に配列された複数の画素毎に設けられ、印加電界を発生させる電圧を液晶層に印加する複数の画素電極とを用いる空間光変調方法であって、(1)液晶層の温度に応じた信号である温度信号を温度センサから取得する温度取得ステップと、(2)液晶層の基準温度に対する温度変化量と液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数、並びに印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数を予め記憶している記憶手段から該一又は複数の第1の係数を読み出し、温度信号に示された温度と、一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量の目標値である位相変調量指示値を補正するための演算を行う補正演算ステップと、(3)記憶手段から複数の第2の係数を読み出し、複数の第2の係数を使用して位相変調量指示値を印加電圧相当値に換算する電圧換算ステップと、(4)印加電圧相当値に応じた電圧を複数の画素電極に提供する電圧印加ステップとを含む。
【0017】
この空間光変調方法において、記憶手段は、液晶層の温度変化量と、液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数を記憶している。後述する実施の形態に示されるように、発明者は、このような第1の関数を予め求め、その係数(第1の係数)を記憶させておくことにより、大量のLUTを用いることなく、温度変化による位相変調量の変動を好適に補正できることを見出した。すなわち、この空間光変調方法では、補正演算ステップにおいて、温度センサから提供された温度信号に示された温度と、上記一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量指示値を補正するための演算を行う。これにより、必要な記憶容量を小さくでき、当該方法に使用される装置の作製が容易な空間光変調方法を提供できる。更に、離散的なデータの集合であるLUTを使用する場合と異なり、所望の位相変調量に応じた印加電圧値を、液晶層の温度変化に対応して連続的に得ることができるので、所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。
【0018】
また、この空間光変調方法において、記憶手段は、印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数を記憶している。印加電圧と位相変調量との関係は非線形であるため、従来より、位相変調量指示値を印加電圧に換算する為にLUTが多く使用されている。しかしながら、LUTにおいて、例えば液晶層が高温であるときの位相変調量0〜2π(rad)に対して入力値0,1,・・・,255といった整数値を対応させた場合、液晶層が低温であるときには位相変調量0〜2π(rad)に対して対応する入力値が少なくなってしまう(例えば0,1,・・・,200)。このように、LUTを用いた場合、入力値の最小単位に割り当てられる位相変調量が温度によって異なるという問題が生じる。これに対し、後述する実施の形態に示されるように、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との第2の関数を予め求め、その係数(第2の係数)を上述した第1の係数と共に使用することによって、入力値と位相変調量との関係を液晶層の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0019】
また、空間光変調方法は、第1の関数が一次関数であり、第1の係数の個数が一つであることを特徴としてもよい。この場合、電圧の範囲が、第1の関数を一次関数として近似し得る所定範囲に限定されていることが好ましい。また、この場合、補正演算ステップにおいて、次の数式
【数3】
(但し、Tは温度センサから提供された温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の位相変調量指示値、φ0は補正後の位相変調量指示値、αは係数)に基づいて、位相変調量指示値を補正するとよい。
【0020】
また、空間光変調方法は、関数がn次関数(nは2以上の整数)であり、第1の係数の個数がn個であることを特徴としてもよい。この場合、補正演算ステップにおいて、次の数式
【数4】
(但し、Tは温度センサから提供された温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の位相変調量指示値、φ0は補正後の位相変調量指示値、β1…βnはn個の第1の係数)に基づいて、位相変調量指示値を補正するとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易であり且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる空間光変調装置および空間光変調方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る空間光変調装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】(a)位相変調部の構成の一部を示す図である。(b)各画素電極上の液晶分子が回転する様子を示す図である。
【図3】電圧生成部の駆動装置及び制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】温度変化係数データの算出方法を示すフローチャートである。
【図5】画素電極への印加電圧と位相変調量との関係の一例を示すグラフである。
【図6】基礎データベースの構成を概念的に示す図である。
【図7】基礎データベースを作成する際に使用される光学系の一例として、偏光干渉計を示す図である。
【図8】印加電圧と位相変調量との関係の具体例を示すグラフである。
【図9】液晶層の温度変化量δ(℃)と、位相変調量の変動量γ(%)との関係の一例を示すグラフである。
【図10】印加電圧と位相変調量との関係から、DA入力値と制御位相値との関係を導出したグラフである。
【図11】図10に示される位相変調量とDA入力値との関係を、横軸に位相変調量をとり、縦軸にDA入力値をとって表したグラフである。
【図12】一実施形態に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。
【図13】第1変形例である空間光変調装置の構成を示すブロック図である。
【図14】第1変形例に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。
【図15】第2変形例である空間光変調装置の構成を示すブロック図である。
【図16】第3変形例である空間光変調装置の構成を示すブロック図である。
【図17】第3変形例に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。
【図18】特許文献1に記載された装置の構成を示すブロック図である。
【図19】特許文献2に記載された液晶パネル駆動装置の構成を示すブロック図である。
【図20】特許文献3に記載された液晶表示装置の構成を示すブロック図である。
【図21】特許文献3に記載された液晶表示装置の反射モード用ルックアップテーブルの構成の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明による空間光変調装置および空間光変調方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る空間光変調装置1Aの構成を概略的に示すブロック図である。図1に示されるように、本実施形態の空間光変調装置1Aは、位相変調部10を備える。位相変調部10は、シリコン基板の上に液晶が形成された構成を有する、反射型の液晶表示パネル(いわゆるLCOS−SLM)である。この位相変調部10は、入射光の位相を変調する。また、空間光変調装置1Aは、電圧生成部50Aを備える。電圧生成部50Aは、駆動装置20A及び制御装置30Aによって構成されている。位相変調部10、駆動装置20A、及び制御装置30Aは、互いに独立した筐体にそれぞれ収容されている。
【0025】
図2(a)は、位相変調部10の構成の一部を示す側断面図である。位相変調部10は、シリコン基板11と、シリコン基板11上に設けられた液晶層12とを有する。また、位相変調部10は、シリコン基板11と液晶層12との間に配置された第1の電極13、及び該第1の電極13との間に液晶層12を挟む位置に設けられた第2の電極14を更に有する。第1の電極13は、液晶層12に電圧を印加するための複数の画素電極13aを有している。複数の画素電極13aは、複数行および複数列にわたって二次元状に配置されており、これらの画素電極13aによって位相変調部10の複数の画素が規定される。第2の電極14は、ガラス基板15の一方の面上に蒸着された金属膜からなる。ガラス基板15は、上記一方の面とシリコン基板11とが対向するように、スペーサ16を介してシリコン基板11上に支持されている。液晶層12は、シリコン基板11とガラス基板15との間に液晶が充填されて成る。
【0026】
このような構成を備える位相変調部10においては、駆動装置20Aから出力されたアナログ信号電圧が、各画素電極13aと第2の電極14との間に印加される。これにより、液晶層12に電界が生じる。そして、図2(b)に示されるように、各画素電極13a上の液晶分子12aが、その印加電界の大きさに応じて回転する。液晶分子12aは複屈折性を有するので、ガラス基板15を透過して光が入射すると、この光のうち液晶分子12aの配向方向と平行な光成分に限って、液晶分子12aの回転に応じた位相差が与えられる。このようにして、画素電極13a毎に光の位相が変調される。
【0027】
また、後述するように、液晶分子12aの有する複屈折率と画素電極13aへの印加電圧との関係は、液晶層12の温度変化によって変動する。本実施形態の位相変調部10は、このような温度変化による変動分を補正する為に、温度センサ17を更に有する。温度センサ17は、位相変調部10の温度、特に液晶層12の温度を検出するために設けられ、液晶層12の温度に応じた信号である温度信号Stempを生成する。温度センサ17は、例えばシリコン基板11上やガラス基板15上に配置される。
【0028】
電圧生成部50Aは、複数の画素電極13aにアナログ電圧を提供する。図3は、電圧生成部50Aの駆動装置20A及び制御装置30Aの構成を示すブロック図である。図3に示されるように、制御装置30Aは、例えば中央演算処理部(CPU)31、メモリ32およびハードディスク33を有する電子計算機等によって好適に実現される。ハードディスク33は、所望の位相パターン33aを記憶している。位相パターン33aは、位相変調部10の各画素毎に、所望の位相変調量にて位相変調を行うためのデータである。中央演算処理部31およびメモリ32は、位相パターン33aを、位相変調部10の液晶層12に印加する電圧値を制御するための制御入力値(階調値)S1に変換する。なお、位相変調部10では、印加電圧値Vに対して位相変調量φが非線形性を有する。そこで、本実施形態では、位相変調量φとの関係を線形として扱える制御入力値S1を便宜的に定義する。例えば、制御入力値S1を0から255までの整数とし、これらの整数を、位相変調量φ(例えば0〜2π(rad))に対応させるとよい。
【0029】
制御装置30Aは、駆動装置20Aとの間で信号の授受を行う通信部34を更に有しており、制御入力値S1は、通信部34を介して駆動装置20Aの通信部21に送られる。なお、通信部34と通信部21との通信手段は、シリアル通信やパラレル通信等、様々な手段を用いることができる。また、この通信手段は、有線及び無線の何れであってもよい。
【0030】
図3に示されるように、駆動装置20Aは、通信部21、入力処理部22、不揮発性記憶素子(Read Only Memory:ROM)23、加算部24、位相換算部25、温度補正部26、DA入力値生成部27、ディジタル/アナログ変換部28、および温度センサ処理部29を有している。
【0031】
通信部21は、制御装置30Aの通信部34との間で、制御入力値S1等の信号の授受を行う。入力処理部22は、通信部21から受けた信号に基づいて、垂直同期信号及び水平同期信号を生成する為のトリガ信号Strを発生させる。不揮発性記憶素子23は、面歪み補正パターンデータ23a、温度変化係数データ23b、多項近似式データ23c及びその係数データ23dを記憶する記憶手段である。面歪み補正パターンデータ23aは、シリコン基板11に画素電極13a周辺の回路素子を作り込む際に第1の電極13の表面に生じる面歪みを、液晶層12により与える位相差によって補正するためのデータである。温度変化係数データ23bは、液晶層12の温度変化による、画素電極13aへの印加電圧と位相変調量との関係の変動を補正するための係数に関するデータである。多項近似式データ23c及びその係数データ23dは、液晶層12の非線形性、すなわち各画素電極13aに与えられる電圧の大きさと位相変調量との間の非線形性を補正するためのデータである。なお、多項近似式データ23c及びその係数データ23dは、液晶層12の温度が基準温度であるときのデータである。
【0032】
加算部24は、不揮発性記憶素子23から面歪み補正パターンデータ23aを読み出し、制御装置30Aから提供された制御入力値S1に面歪み補正パターンデータ23aを加算することにより、面歪み補正後の制御入力値S2を生成する。加算部24は、生成した制御入力値S2を、位相換算部25へ出力する。位相換算部25は、制御入力値S2を、位相変調量の目標値(位相変調量指示値)である制御位相値φTに変換する。具体的には、次の数式(1)を用いて制御位相値φTを算出する。なお、この制御位相値φTは、現在の液晶層12の温度Tに対応する値である。
【数5】
位相換算部25は、このようにして生成した制御位相値φTを、温度補正部26へ出力する。
【0033】
温度補正部26は、制御位相値φTに対し、液晶層12の温度変化による変調特性の変動分を補正する。温度補正部26は、不揮発性記憶素子23から温度変化係数データ23bを読み出す。そして、温度補正部26は、この温度変化係数データ23bと、温度センサ処理部29から得られる温度値Tsとに基づいて、制御位相値φTに所定の演算処理を施すことにより、液晶層12の温度が基準温度T0である場合に換算した位相変調量指示値である制御位相値φ0を生成する。温度補正部26は、生成した制御位相値φ0を、DA入力値生成部27へ出力する。
【0034】
DA入力値生成部27は、不揮発性記憶素子23から多項近似式データ23c及びその係数データ23dを読み出す。そして、DA入力値生成部27は、多項近似式データ23c及びその係数データ23dを使用して、温度補正部26から出力された制御位相値φ0に所定の演算処理を施すことにより、DA入力値y0(印加電圧相当値)を生成する。このDA入力値y0は、制御位相値φ0を、液晶層12の現在温度Tにおいて目標とする位相値を得るために好適な値であって、且つディジタル/アナログ変換部28への入力に好適な値に変換したものである。DA入力値生成部27は、生成したDA入力値y0を、ディジタル/アナログ変換部28へ出力する。ディジタル/アナログ変換部28は、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vを、DA入力値y0に基づいて発生させる。これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aを通じて位相変調部10へ出力され、各画素電極13a(図2参照)に印加される。位相変調部10では、印加電圧Vの大きさに応じて液晶分子12a(図2参照)の傾きが変化し、屈折率の変化が生じる。その結果、所望の位相パターン33aに対応する位相分布が空間的に表現され、入射光の位相が変調される。
【0035】
温度センサ処理部29は、位相変調部10の温度センサ17から、液晶層12の現在の温度に関する温度信号Stempを受ける。温度センサ処理部29は、この温度信号Stempから読み取られる液晶層12の温度値Tsを、温度補正部26に提供する。
【0036】
なお、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23に記憶されている面歪み補正パターンデータ23a、温度変化係数データ23b、多項近似式データ23c及びその係数データ23dの全部又は一部は、制御装置30Aのハードディスク33に記憶されてもよい。その場合、加算部24、位相換算部25、温度補正部26及びDA入力値生成部27の全部又は一部の機能は、中央演算処理部31およびメモリ32によって実現されるとよい。
【0037】
ここで、温度変化係数データ23bの算出方法を説明する。図4は、その算出方法を示すフローチャートである。また、図5は、画素電極13aへの印加電圧Vと位相変調量φとの関係の一例を示すグラフである。図5には、液晶層12の温度が基準温度T0であるときのグラフG11、空間光変調装置1Aの使用環境において想定される最高温度TmaxであるときのグラフG12、及び空間光変調装置1Aの使用環境において想定される最低温度TminであるときのグラフG13が示されている。なお、温度変化係数データ23bの算出は、例えば空間光変調装置1Aの検査時などに行われるとよい。
【0038】
まず、液晶層12において想定される最高温度Tmaxと、最高温度Tmaxのときに位相変調部10に要求される最大位相変調量φmaxとに基づいて、画素電極13aへの印加電圧の範囲を設定する(ステップS11)。なお、以下の説明においては、理解の容易のため、最大位相変調量φmaxを2π(rad)に設定する。また、本ステップS11において設定された印加電圧範囲Aの最大値をVbとし、最小値(すなわち最大位相変調量φmaxに対応する電圧値)をVaとする(図5を参照)。
【0039】
次に、予め用意しておいたデータベース(以下、基礎データベースという)に基づいて、上記ステップS11において設定された印加電圧範囲A(Va〜Vb)における、液晶層12の温度変化に伴う位相変調特性の変動量を算出する(ステップS12)。ここで、図6は、基礎データベースの構成を概念的に示す図である。基礎データベース41は、液晶層12の温度範囲Tmin〜Tmaxにおいて、この温度範囲に含まれる離散的な温度値群の各温度毎に用意された複数のデータ(印加電圧Vと位相変調量φとの関係を示すデータ)を含む。なお、これら複数のデータの中には、図6に示されるように、基準温度T0のときの印加電圧Vと位相変調量φとの関係を示す基準時データ41aと、液晶層12の温度が最大温度Tmaxのときの印加電圧Vと位相変調量φとの関係を示す高温時データ41bと、液晶層12の温度が最低温度Tminのときの印加電圧Vと位相変調量φとの関係を示す低温時データ41cとが含まれる。これらのデータ41a〜41cを含め、基礎データベース41に含まれる複数のデータにおいては、印加電圧Vと位相変調量φとの関係は全て非線形である。本ステップS12では、このような基礎データベース41を使用して、液晶層12の温度変化に伴う位相変調特性の変動量を、印加電圧範囲A(Va〜Vb)の全範囲にわたって算出する。
【0040】
ここで、図7は、基礎データベースを作成する際に使用される光学系の一例として、偏光干渉計100を示す図である。この偏光干渉計100は、温度制御装置101、ハーフミラー102、レンズ103、検光子104、偏光子105、光源106、及び受光素子107を備えている。温度制御装置101は、位相変調部10の液晶層12の温度を任意の温度に制御するための装置である。光源106は所定波長の光を発生する。この所定波長の光は、偏光子105及びハーフミラー102を介して、位相変調部10へ入射する。受光素子107は、位相変調部10からの出射光の光強度を検出する。位相変調部10からの出射光は、ハーフミラー102において反射したのちレンズ103及び検光子104を介して受光素子107に達する。検光子104は、偏光子105に対してクロスニコルまたはオープンニコルの関係にある。
【0041】
基礎データベースを作成する際には、まず、位相変調部10を温度制御装置101に収容し、位相変調部10の液晶層12を任意の温度に制御する。そして、液晶層12の温度が所定の温度で安定したのち、液晶層12に印加可能な全電圧範囲で印加電圧を変化させながら該電圧を画素電極13aに印加し、その電界によって生じる入射光と出射光との位相差を計測する。具体的には、液晶層12の配向方向に対して平行な直線偏光の光を偏光子105により生成し、この光を位相変調部10に入射させる。このとき、画素電極13aへの印加電圧の大きさに応じて、位相変調部10からの出射光には位相変調(位相遅延)が生じる。そして、この出射光が検光子104を通過する際、この検光子104は偏光子105に対してクロスニコル(またはオープンニコル)の関係にあるので、出射光の位相変調量に応じてその光強度が変化する。したがって、受光素子107において検出される光強度と、そのときの印加電圧値とに基づいて、印加電圧と位相変調量との関係、すなわち液晶層12の温度が所定温度であるときの基礎データベースが好適に得られる。
【0042】
なお、図8は、このようにして得られる印加電圧と位相変調量との関係の具体例を示すグラフであり、グラフG21は液晶層12の温度が20度(最低温度Tmin)である場合、グラフG22は液晶層12の温度が27度(基準温度T0)である場合、グラフG23は液晶層12の温度が42度(最高温度Tmax)である場合をそれぞれ示している。また、このグラフにおいて、印加電圧範囲Aにおける最小電圧Va(すなわち位相変調量が2π(rad)となる印加電圧)は1.56(V)である。図8を参照すると、液晶層12の温度が基準温度T0である場合には、最大電圧Vbに対する位相変調量φとして2.56π(rad)が得られ、最低温度Tminである場合には、最大電圧Vbに対する位相変調量φとして2.79π(rad)が得られることがわかる。
【0043】
以上のようにして、本ステップS12では、液晶層12の温度毎に、液晶層12に印加可能な全電圧範囲にわたって位相変調量φを計測し、その結果を温度毎のテーブルにまとめる。
【0044】
なお、位相変調部10においては、入射光の波長によって設定電圧範囲A(Va〜Vb)が異なるので、位相変調量φも入射光の波長によって異なる。しかしながら、本実施形態においては、基準波長の入射光を用いて上述したステップS12を一度のみ行い、その結果得られた基礎データベースに対して以下の変換式を適用することにより、別の波長における基礎データベースを得ることができる。すなわち、基準波長をλstandard、表示階調値tvのときの位相変調量をφstandard(tv)としたとき、或る波長λのときの位相変調量φ(tv)は、次の数式(2)より求められる。
【数6】
なお、上式(2)においては、液晶層12の波長分散特性を更に考慮してもよい。
【0045】
そして、上記方法により求められた温度毎の位相変調量φに関するテーブルを、位相変調量の変化量γに関するテーブルに変換する。すなわち、位相変調部10が温度Tであるときに得られた位相変調量をφTとし、位相変調部10が基準温度T0であるときに得られた位相変調量をφ0とすると、次の数式(3)により、位相変調量の変動量γを算出することができる。
【数7】
【0046】
図4に示されるように、液晶層12の温度変化に伴う位相変調量の変動量γを上記ステップS12において算出したのち、この算出された変動量γを用いて、温度変化係数データ23bに含まれる温度変化係数αを算出する(ステップS13)。ここで、図9は、ステップS12によって得られたデータに基づく、液晶層12の温度変化量δ(℃)と、位相変調量の変動量γとの関係の一例を示すグラフである。なお、温度変化量δは、基準温度T0と温度Tとの差(T−T0)である。
【0047】
図9を参照すると、液晶層12の温度変化量δと位相変調量の変動量γとは、ほぼ比例関係であり、一次関数G24で近似できることがわかる。このような近似は、図8に示された印加電圧範囲A、すなわち一次関数として近似し得る所定範囲に印加電圧範囲を限定した場合に可能となる。本ステップS13では、この比例関係における以下の近似式(4)の定数αを求める。
【数8】
この定数αが、温度変化係数データ23bとしての温度変化係数αである。換言すれば、温度変化係数αとは、液晶層12の温度変化に伴う位相変調特性の変化を、或る一つの係数によって表したものである。
【0048】
温度補正部26は、例えば次のような演算によって、液晶層12の温度が基準温度T0である場合に換算した位相変調量指示値である制御位相値φ0を生成する。いま、位相変調部10の温度が或る温度Tである場合に、画素電極13aに電圧Vを印加することによって或る位相変調量φTが得られるとする。位相変調部10の温度が基準温度T0である場合、同じレベルの電圧Vを画素電極13aに印加した際に得られる位相変調量(制御位相値)φ0は、前述した温度変化係数αを含む以下の数式(5)によって求められる。
【数9】
【0049】
続いて、多項近似式データ23c及びその係数データ23dの導出方法を説明する。なお、多項近似式データ23c及びその係数データ23dの導出は、例えば空間光変調装置1Aの検査時などに行われるとよい。
【0050】
図10は、例えば図8に示された印加電圧Vと位相変調量φ0との関係から、DA入力値y0と制御位相値φ0との関係を導出したグラフである。このグラフは、以下に示される数式(6)によって印加電圧VをDA入力値y0へ変換することにより好適に導出できる。但し、数式(6)において、Mは全階調値であり、iは0からM−1までの整数である。
【数10】
なお、こうして算出されるDA入力値y0は、全階調値M(すなわち階調値0〜M−1)のデジタル信号である。一例では、M=4096である。
【0051】
次に、図10に示される位相変調量φ0とDA入力値y0との関係を、図11に示されるように、横軸に位相変調量φ0をとり、縦軸にDA入力値y0をとって表す。このグラフにおける位相変調量φ0とDA入力値y0との関係は、次の多項近似式(7)を用いて表現することができる。なお、数式(7)において、x0〜xmは多項近似式の係数であり、mは多項式の次数である。
【数11】
この数式(7)は多項近似式データ23cとして、また係数x0〜xmは多項近似式データの係数データ23dとして、それぞれ不揮発性記憶素子23に記憶される。
【0052】
DA入力値生成部27は、こうして得られた多項近似式(7)及びその係数x0〜xmに基づいて、温度補正部26より出力された制御位相値φ0からDA入力値y0を算出する。すなわち、このDA入力値y0は、液晶層12の現在温度Tにおいて目標とする位相変調量φTを得るために好適な値であって、且つディジタル/アナログ変換部28への入力に好適な値である。
【0053】
続いて、温度変化係数α、多項近似式(7)及びその係数x0〜xmを用いる本実施形態の空間光変調方法を、図12を参照しながら説明する。図12は、本実施形態の空間光変調方法を示すフローチャートである。
【0054】
まず、ハードディスク33に記憶されている位相パターン33aが制御装置30Aにおいて制御入力値S1に変換され、この制御入力値S1が制御装置30Aから駆動装置20Aへ転送される(ステップS21)。次に、この制御入力値S1と、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23に記憶されている面歪み補正パターンデータ23aとが加算部24において加算され、制御入力値S2が生成される(ステップS22)。そして、制御入力値S2に基づいて、位相変調部10における位相変調量の目標値である制御位相値φTが、位相換算部25において生成される(ステップS23)。また、温度センサ17によって検出された位相変調部10の現在の温度が、温度センサ処理部29によって読み出される(ステップS24、温度取得ステップ)。なお、このステップS24は、上記ステップS21〜S23と並行して行われても良い。
【0055】
続いて、不揮発性記憶素子23に記憶されている温度変化係数データ23bと、温度センサ処理部29によって読み出された現在の温度値Tsと、制御位相値φTとが温度補正部26に提供される。温度補正部26では、前述した数式(5)を用いて、液晶層12の温度変化による影響が補正された(基準温度T0のときの)制御位相値φ0を演算する(ステップS25、補正演算ステップ)。
【0056】
続いて、不揮発性記憶素子23に記憶されている多項近似式データ23c及びその係数データ23dが、DA入力値生成部27に提供される。DA入力値生成部27では、多項近似式データ23cに示される数式(前述した数式(7))を用いて、制御位相値φTを得るために好適なDA入力値y0を演算する(ステップS26、DA入力演算ステップ)。そして、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vが、ディジタル/アナログ変換部28においてDA入力値y0に基づき生成される(ステップS27)。これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aへ送られる。そして、これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aから位相変調部10へ出力され、各画素電極13aに印加される(ステップS28、電圧印加ステップ)。位相変調部10では、印加電圧Vの大きさに応じて液晶分子12aの傾きが変化し、屈折率の変化が生じる。その結果、所望の位相パターン33aに対応する位相分布が空間的に表現され、入射光の位相が変調される(ステップS29)。
【0057】
以上に説明した本実施形態の空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法によって得られる効果について説明する。この空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法では、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23が、液晶層12の温度変化量と、液晶層12における位相変調量の変動量との相関を表す関数(第1の関数)に含まれる一の係数αを記憶している。発明者は、液晶層12の温度変化量と、位相変調量の変動量との関係を表す関数を予め求め(上記数式(4)を参照)、その係数αを記憶させておくことにより、大量のLUTを用いることなく、温度変化による位相変調量の変動を好適に補正できることを見出した。すなわち、この空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法においては、駆動装置20Aが、温度センサ17から提供された温度信号Stempに示された温度と、上記一の係数αとを使用して、印加電圧Vの大きさを補正するための演算を行う。これにより、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易な空間光変調装置および空間光変調方法を提供できる。更に、離散的なデータの集合であるLUTを使用する場合と異なり、所望の位相変調量に応じた印加電圧値を、液晶層12の温度変化に対応して連続的に得ることができる。したがって、例えば1℃や0.1℃といった小さな温度間隔で位相変調特性の補正が可能となり、所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。
【0058】
また、この空間光変調装置において、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23は、印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数(上記数式(6)を参照)に含まれる複数の係数x0〜xmを記憶している。印加電圧と位相変調量との関係は非線形であるため、従来より、位相変調量指示値を印加電圧に換算する為にLUTが多く使用されている。しかしながら、LUTにおいて、例えば液晶層12が高温であるときの位相変調量0〜2π(rad)に対して入力値0,1,・・・,255といった整数値を対応させた場合、液晶層12が低温であるときには位相変調量0〜2π(rad)に対して対応する入力値が少なくなってしまう(例えば0,1,・・・,200)。このように、LUTを用いた場合、入力値の最小単位に割り当てられる位相変調量が温度によって異なるという問題が生じる。これに対し、本実施形態の空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法によれば、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との関数を予め求め、その係数x0〜xmを上述した係数αと共に使用することによって、制御入力値と位相変調量との関係を液晶層12の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0059】
また、本実施形態の空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法においては、液晶層12の温度変化量δと、位相変調量の変動量γとの比例係数である温度変化係数αを用いて、温度補正部26が制御位相値を補正している。発明者らは、図9に示したように、温度変化量δと位相変調量の変動量γとが、或る印加電圧範囲Aにおいて顕著な比例関係を有する(一次関数を成す)ことを見出した。その傾き(温度変化係数)αを用いることにより、多量のデータを記憶しておくことなく極めて容易に制御位相値を補正することができる。すなわち、この空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法によれば、液晶層12の温度変化による位相変調量の変動を、容易に補正することができる。
【0060】
本実施形態においては、面歪み補正パターンデータ23aは駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23に記憶されている。しかしながら、面歪み補正パターンデータは、制御装置30Aのハードディスク33に記憶されていてもよい。その場合、加算部24の機能は、制御装置30Bの中央演算処理部31及びメモリ32によって実現されるとよい。
【0061】
また、本実施形態においては、所望の位相パターン33aが制御装置30Aのハードディスク33に記憶されている。しかしながら、所望の位相パターンは、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23に記憶されていてもよい。その場合であっても、制御装置30Aは、位相変調部10を駆動させるために必要な垂直同期信号及び水平同期信号を生成するために用いられるトリガ信号Strを、駆動装置20Aに提供する役割を有する。
【0062】
また、本実施形態においては、位相変調部10、駆動装置20A、及び制御装置30Aが互いに独立した筐体をそれぞれ有する。しかしながら、位相変調部10及び駆動装置20Aは、共通の筐体内に収容されていてもよい。或いは、位相変調部10、駆動装置20A、及び制御装置30A全てが、共通の筐体内に収容されていてもよい。
【0063】
また、本実施形態において、液晶層12の温度を制御可能とする手段(例えばファンやペルチェ素子など)を、位相変調部10が更に有してもよい。これにより、液晶層12の温度変化の範囲を小さくすることができるので、例えば基準温度T0に対して数℃の変動を温度補正部26によって補正すればよく、液晶層12の温度変化による位相変調量の変動を更に精度良く補正することができる。
【0064】
また、本実施形態においては、温度補正部26が数式(5)に基づいて制御入力値を補正している。しかしながら、画素電極13aに印加される電圧の範囲の広さによっては、温度変化量δと位相変調量の変動量γとの関係が非線形となる場合がある。その場合、上述したステップS13の数式(4)の係数αに代えて、この非線形の関係における以下の近似式(8)の係数β1〜βnを求めるとよい。
【数12】
そして、これらの複数の係数β1〜βnを、温度変化係数データ23bの温度変化係数とするとよい。また、温度補正部26は、上述した温度補正式(5)に代えて、以下の温度補正式(9)を用いて、液晶層12の温度変化による影響が補正された制御位相値φ0を演算するとよい。なお、数式(9)において、Tは位相変調部10の現在温度であり、T0は位相変調部10の基準温度(一例では、検査時の温度)であり、φTは、現在温度Tにおいて所望の位相変調量を得るための制御位相値である。
【数13】
このような非線形係数を用いて温度補正を行うことによって、液晶層12の温度変化に拘わらず、更に高い精度で(例えば位相1°単位、0.1°単位、若しくは0.01°単位で)位相変調を行うことが可能となる。
【0065】
(第1変形例)
図13は、上記実施形態の第1変形例である空間光変調装置1Bの構成を示すブロック図である。図13に示されるように、本変形例に係る空間光変調装置1Bは、位相変調部10に加えて、電圧生成部としての駆動装置20B及び制御装置30Bを備えている。なお、位相変調部10の構成については、上記実施形態の位相変調部10の構成と同じなので詳細な説明を省略する。
【0066】
制御装置30Bは、上記実施形態の制御装置30Aと同様に、例えば中央演算処理部31、メモリ32およびハードディスク33を有する電子計算機等によって好適に実現される。但し、本変形例においては、ハードディスク33は、所望の位相パターン33aのほか、面歪み補正パターンデータ33b、温度変化係数データ33c、多項近似式データ33d及びその係数データ33eを記憶している。面歪み補正パターンデータ33bは、上記実施形態の面歪み補正パターンデータ23aに相当するデータであって、シリコン基板11に画素電極13a周辺の回路素子を作り込む際に第1の電極13の表面に生じる面歪みを、液晶層12により与える位相差によって補正するためのデータである。また、温度変化係数データ33cは、上記実施形態の温度変化係数データ23bに相当するデータであって、液晶層12の温度変化による、画素電極13aへの印加電圧と位相変調量との関係の変動を補正するための係数に関するデータである。多項近似式データ33d及びその係数データ33eは、上記実施形態の多項近似式データ23c及びその係数データ23dに相当するデータであって、液晶層12の非線形性、すなわち各画素電極13aに与えられる電圧の大きさと位相変調量との間の非線形性を補正するためのデータである。
【0067】
中央演算処理部31は、図13に示されるように、加算部32aと、位相換算部32bと、温度補正部32cと、DA入力値生成部32dと、温度読み出し司令部32eとを、メモリ32に記憶された所定のプログラムを読み込むことによって実現する。加算部32aは、ハードディスク33から位相パターン33a及び面歪み補正パターンデータ33bを読み出して、これらを相互に加算することにより、制御入力値S3を生成する。位相換算部32bは、前述した数式(1)を用いて、制御入力値S3を、位相変調部10における位相変調量の目標値である制御位相値φTに変換する。温度読み出し司令部32eは、液晶層12の温度に関するデータを駆動装置20Bに要求するための信号Srを生成する。この信号Srは、通信部34を介して駆動装置20Bの温度センサ処理部29に送られる。温度補正部32cは、ハードディスク33から温度変化係数データ33cを読み出すとともに、位相変調部10の現在の温度値Tsを駆動装置20Bから受けて、これらのデータを基に制御位相値φTを補正して、制御位相値φ0を算出する。なお、この補正演算は、上記実施形態において温度補正部26が行う演算と同様である。DA入力値生成部32dは、ハードディスク33から多項近似式データ33d及びその係数データ33eを読み出して、制御位相値φ0からDA入力値y0を算出する。DA入力値生成部32dは、DA入力値y0を、通信部34を介して駆動装置20Bに提供する。
【0068】
駆動装置20Bは、通信部21、入力処理部22、ディジタル/アナログ変換部28、および温度センサ処理部29を有している。これらの構成および動作は、上記実施形態と同様である。なお、本変形例の駆動装置20Bは、上記実施形態の不揮発性記憶素子23、加算部24、温度補正部26、およびDA入力値生成部27を有していない。これらの要素は、既述した制御装置30Bに含まれている。
【0069】
図14は、本変形例に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。以下、図14を参照しつつ、本変形例に係る空間光変調方法および空間光変調装置1Bの動作について説明する。
【0070】
まず、ハードディスク33に記憶されている位相パターン33aおよび面歪み補正パターンデータ33bが中央演算処理部31に読み出され、これらが相互に加算されて、制御入力値S3が生成される(ステップS31)。そして、制御入力値S3に基づいて、位相変調部10における位相変調量の目標値である制御位相値φTが、位相換算部32bにおいて生成される(ステップS32)。また、温度センサ17によって検出された液晶層12の現在の温度に関する温度信号Stempが温度センサ処理部29に送られ、温度信号Stempに示される温度値Tsが通信部34を介して中央演算処理部31に送られる(ステップS33、温度取得ステップ)。なお、このステップS33は、上記ステップS31及びS32と並行して行われても良い。
【0071】
次に、ハードディスク33に記憶されている温度変化係数データ33cと、現在の温度値Tsとが中央演算処理部31に読み出され、制御入力値S3に対して上述した数式(5)に示された演算を行うことにより、液晶層12の温度変化による影響が補正された(基準温度T0のときの)制御位相値φ0が算出される(ステップS34、補正演算ステップ)。
【0072】
続いて、ハードディスク33に記憶されている多項近似式データ33d及びその係数データ33eが、DA入力値生成部32dに提供される。DA入力値生成部32dでは、多項近似式データ33dに示される数式(前述した数式(7))を用いて、制御位相値φTを得るために好適なDA入力値y0が算出される(ステップS35、DA入力演算ステップ)。このDA入力値y0は、制御装置30Bから駆動装置20Bへ転送される(ステップS36)。そして、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vが、ディジタル/アナログ変換部28においてDA入力値y0に基づき生成される(ステップS37)。これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aへ送られる。そして、これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aから位相変調部10へ出力され、各画素電極13aに印加される(ステップS38、電圧印加ステップ)。位相変調部10では、印加電圧Vの大きさに応じて液晶分子12aの傾きが変化し、屈折率の変化が生じる。その結果、所望の位相パターン33aに対応する位相分布が空間的に表現され、入射光の位相が変調される(ステップS39)。
【0073】
以上に説明した本変形例に係る空間光変調装置1Bおよび空間光変調方法によれば、上記実施形態と同様に、温度変化係数を用いて温度補正部32cが制御位相値を補正しているので、液晶層12の温度変化による位相変調量の変動を容易に補正することができる。更に、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易となり、且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。また、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との関数を予め記憶しておき、その係数を上述した温度変化係数と共に使用しているので、制御入力値と位相変調量との関係を液晶層12の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0074】
(第2変形例)
図15は、上記実施形態の第2変形例である空間光変調装置1Cの構成を示すブロック図である。図15に示されるように、本変形例に係る空間光変調装置1Cは、位相変調部10と、電圧生成部としての駆動装置20Cとを備えている。これらのうち、位相変調部10の構成については、上記実施形態の位相変調部10の構成と同じである。
【0075】
駆動装置20Cは、制御部42を有している。制御部42は、例えば中央演算処理部(CPU)、メモリおよびハードディスクを有する電子計算機等によって好適に実現される。また、駆動装置20Cは、入力処理部22、不揮発性記憶素子23、加算部24、位相換算部25、温度補正部26、DA入力値生成部27、ディジタル/アナログ変換部28、および温度センサ処理部29を有している。
【0076】
入力処理部22は、制御部42から受けた信号に基づいて、垂直同期信号及び水平同期信号を生成する為のトリガ信号Strを発生させる。不揮発性記憶素子23は、面歪み補正パターンデータ23a、温度変化係数データ23b、多項近似式データ23c及びその係数データ23dに加えて、所望の位相パターン23eを記憶している。位相パターン23eは、上記実施形態における位相パターン33aに相当するものである。
【0077】
加算部24は、不揮発性記憶素子23から面歪み補正パターンデータ23a及び位相パターン23eを読み出し、これらを相互に加算することにより、面歪み補正後の制御入力値S4を生成する。位相換算部25は、前述した数式(1)を用いて、制御入力値S4を、位相変調部10における位相変調量の目標値である制御位相値φTに変換する。温度補正部26は、温度変化係数データ23bと、温度センサ処理部29から得られる温度値Tsとに基づいて、制御位相値φTに所定の演算処理を施すことにより、温度補正後の制御位相値φ0を生成する。DA入力値生成部27は、多項近似式データ23c及びその係数データ23dを使用して、制御位相値φ0からDA入力値y0を算出する。ディジタル/アナログ変換部28は、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vを、DA入力値y0に基づいて発生させる。これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aを通じて位相変調部10へ出力され、各画素電極13a(図2参照)に印加される。
【0078】
以上に説明した本変形例に係る空間光変調装置1Cによれば、上記実施形態と同様に、温度変化係数を用いて温度補正部26が制御位相値を補正するので、液晶層12の温度変化による位相変調量の変動を容易に補正することができる。更に、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易となり、且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。また、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との関数を予め記憶しておき、その係数を上述した温度変化係数と共に使用するので、制御入力値と位相変調量との関係を液晶層12の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0079】
(第3変形例)
図16は、上記実施形態の第3変形例である空間光変調装置1Dの構成を示すブロック図である。図16に示されるように、本変形例に係る空間光変調装置1Dは、位相変調部10と、電圧生成部としての駆動装置20D及び制御装置30Aとを備えている。これらのうち、位相変調部10及び制御装置30Aの構成については、上記実施形態の位相変調部10の構成と同じである。
【0080】
また、本変形例の駆動装置20Dは、上記実施形態の駆動装置20Aの構成に加えて、更に不揮発性記憶素子43を有している。不揮発性記憶素子43は、温度補正部26によって算出された制御位相値φ0と、その制御位相値φ0に基づいてDA入力値生成部27によって算出されたDA入力値y0とを記憶する。本変形例の温度補正部26は、制御位相値φ0を算出したのち、この制御位相値φ0をDA入力値生成部27へ出力するとともに、制御位相値φ0を不揮発性記憶素子43に記憶させる。DA入力値生成部27は、DA入力値y0のための演算を行う前に不揮発性記憶素子43を参照し、該当するDA入力値y0が存在する場合には、演算を行うことなくこのDA入力値y0を読み出し、ディジタル/アナログ変換部28へ出力する。また、該当するDA入力値y0が不揮発性記憶素子43に存在しない場合、DA入力値生成部27は、算出したDA入力値y0を不揮発性記憶素子43に記憶させる。
【0081】
図17は、本変形例に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。以下、図17を参照しつつ、本変形例に係る空間光変調方法および空間光変調装置1Dの動作について説明する。なお、上記実施形態における補正演算ステップS25(図12参照)までの各ステップ、及びディジタル/アナログ変換部28においてアナログ電圧が生成されるステップS27以降の各ステップは上記実施形態と同様なので、図17では図示を省略している。
【0082】
まず、温度補正部26において、前述した数式(5)を用いて、液晶層12の温度変化による影響が補正された制御位相値φ0が算出される(ステップS25、補正演算ステップ)。次に、DA入力値生成部27は、不揮発性記憶素子43を参照して制御位相値φ0が記録されているか否かを確認する(ステップS41)。制御位相値φ0が記録されていない場合(ステップS41においてNo)、DA入力値生成部27では、多項近似式データ23cに示される数式(前述した数式(7))を用いて、制御位相値φ0に基づいてDA入力値y0が算出される(ステップS42)。そして、算出されたDA入力値y0は、対応する制御位相値φ0と共に不揮発性記憶素子43に記録される(ステップS43)。また、制御位相値φ0が記録されている場合(ステップS41においてYes)、DA入力値生成部27では、DA入力値y0は算出されない。その後、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vが、ディジタル/アナログ変換部28においてDA入力値y0に基づき生成される(ステップS27)。
【0083】
本変形例に係る空間光変調装置1D及び空間光変調方法によれば、上記実施形態と同様の効果を奏することができるほか、次の効果を奏することができる。すなわち、本変形例では、DA入力値生成部27において一度算出されたDA入力値y0が、対応する制御位相値φ0と共に不揮発性記憶素子43に記録されている。したがって、同じ制御位相値φ0が再び発生した際に、DA入力値生成部27における再度の演算を省くことができ、処理時間を短縮することができる。
【0084】
本発明による空間光変調装置および空間光変調方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、位相変調部の画素電極が複数行および複数列にわたって二次元状に配置されている場合を例示したが、本発明における空間光変調装置はこれに限られず、例えば複数の画素電極が一次元状に配置された構成を有していてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1A〜1D…空間光変調装置、10…位相変調部、11…シリコン基板、12…液晶層、12a…液晶分子、13,14…電極、13a…画素電極、15…ガラス基板、16…スペーサ、17…温度センサ、20A〜20D…駆動装置、21…通信部、22…入力処理部、23…不揮発性記憶素子、23a,33b…面歪み補正パターンデータ、23b,33c…温度変化係数データ、23c,33d…多項近似式データ、23d,33e…多項近似式の係数データ、23e,33a…位相パターン、24…加算部、25…位相換算部、26…温度補正部、27…DA入力値生成部、28…ディジタル/アナログ変換部、28a…駆動手段、29…温度センサ処理部、30A,30B…制御装置、31…中央演算処理部、32…メモリ、32a…加算部、32b…位相換算部、32c…温度補正部、32d…DA入力値生成部、32e…温度読み出し司令部、33…ハードディスク、34…通信部、41…基礎データベース、50A…電圧生成部、100…偏光干渉計、101…温度制御装置、102…ハーフミラー、103…レンズ、104…検光子、105…偏光子、106…光源、107…受光素子、A…印加電圧範囲、S1〜S4…制御入力値、Stemp…温度信号、φT,φ0…制御位相値(位相変調量指示値)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相変調型の空間光変調装置および空間光変調方法において、液晶層の温度変化に伴う位相変調量の変動分を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カラー液晶表示素子の温度補償装置に関する技術が記載されている。この技術は、温度対最適出力電圧データを、複数のカラー液晶表示素子ごとに、そのばらつきや経時変化に応じて適宜修正できるようにすることを目的としている。図18は、この装置の構成を示すブロック図である。図18に示されるように、この装置は、温度検知回路211と、デジタルの温度対最適出力電圧データが記憶され、温度検知回路211からの温度データに対応する最適出力電圧データが読み出されるデータテーブル212と、データテーブル212から読み出された最適出力電圧データを補正する電圧補正手段217と、その最適出力電圧データをD/A変換して、液晶表示素子の駆動回路に送出するD/A変換回路213と、電圧補正手段217に補正データを与える操作部216と、操作部216からの補正データおよび温度検知回路211からの温度データに基づいてデータテーブル212内の温度対最適出力電圧データを修正する制御手段214とを備えている。
【0003】
また、特許文献2には、液晶パネルをオーバードライブにより高速駆動する液晶パネルの駆動装置に関する技術が記載されている。図19は、この液晶パネル駆動装置の構成を示すブロック図である。この液晶パネル駆動装置は、フレームメモリ231とルックアップテーブル232とを用いてオーバードライブを行う装置であって、異なる温度範囲に対応する複数種類のルックアップテーブル232を備えている。この装置は、温度センサ235から得られるLCDモジュール234の温度情報に基づいて、選択回路233を作動させてルックアップテーブル232を切り替えて用いる。
【0004】
また、特許文献3には、半透過型の液晶表示装置に関する技術が記載されている。図20は、この液晶表示装置の構成を示すブロック図である。この液晶表示装置は、補正回路241を備える。補正回路241は、ルックアップテーブル選択部242、複数の透過モード用ルックアップテーブル243、複数の反射モード用ルックアップテーブル253、フレームメモリ244、モード判定部245、スイッチ246、及びスイッチ制御部256を有している。透過モード用ルックアップテーブル243及び反射モード用ルックアップテーブル253は、現階調と目標階調との組合せに対応づけて信号の時間的変化を強調した補正値(補正階調)を記憶している。なお、図21は、この反射モード用ルックアップテーブル253の構成の一例を示す図表である。
【0005】
スイッチ制御部256は、周囲温度に関する閾値Yを記憶し、モード判定部245から出力されたモード選択信号MDがローレベルであるか、温度センサ248からA/D変換器247を介して出力された周囲温度T0が閾値Y以下であるときには、ローレベルのスイッチ制御信号SCを出力し、それ以外のときには、ハイレベルのスイッチ制御信号SCを出力する。スイッチ246には、ルックアップテーブル選択部242によって選択された透過モード用ルックアップテーブル243または反射モード用ルックアップテーブル253から出力された補正階調と、入力映像信号V1と、スイッチ制御信号SCとが入力される。スイッチ246は、スイッチ制御信号SCがローレベルのときには補正階調を、スイッチ制御信号SCがハイレベルのときには入力映像信号V1を、補正映像信号V2として出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3859317号公報
【特許文献2】特開2004−133159号公報
【特許文献3】特開2007−233061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来より、空間光変調素子(Spatial light modulator;SLM)によって光の位相を変調する技術が知られている。一般に、空間光変調素子は、液晶層と、液晶層に沿って複数の画素毎に設けられた電極とを備えている。電極に電圧が印加されると、その電圧の大きさに応じて液晶分子が回転し、液晶の複屈折率が変化する。この液晶層に光が入射すると、液晶層の内部において光の位相が変化し、該入射光に対して位相差を有する光が外部へ出射される。ここで、印加電圧の大きさと、電圧印加の前後における出射光の位相差(すなわち位相変調量)との関係を表したものが、空間光変調素子の位相変調特性である。この位相変調特性において、位相変調量と印加電圧との関係は非線形である。なお、このような非線形の関係を容易に変換する為、一般的に、位相変調量と印加電圧との対応する数値を複数示したルックアップテーブル(Look Up Table;LUT)が使用される。
【0008】
しかしながら、液晶層の温度が変化すると、位相変調量と印加電圧との関係が変動するという問題がある。すなわち、或る一定の電圧を印加した場合であっても、その時の液晶層の温度によって、位相変調量が異なるのである。このような現象は、空間光変調素子が使用される用途によっては深刻な問題を生じる。例えば、レーザ加工において、レーザ光源から出力されるレーザ光を空間光変調素子を介して被加工物に照射する場合、位相変調量の誤差は加工精度に大きな影響を及ぼす。また、顕微鏡や検眼鏡等に空間光変調素子を使用する場合、その使用温度によっては有用な観察像が得られないおそれがある。
【0009】
なお、上述した特許文献1に記載された温度補償装置は、液晶表示素子の温度変化に伴う色変化を補正することを目的としている。この温度補償装置は、液晶表示素子の温度と印加電圧値との関係を表すLUTを予め保持しており、検出された温度に対応する印加電圧値をLUTから選択する。また、特許文献2,3に記載された装置は、温度と印加電圧値との関係を表すLUTを複数備えており、温度変化の大きさに応じて最適なLUTを選択する。このように、特許文献1〜3に記載された装置はいずれも温度と印加電圧値との関係を表すLUTを備えている。しかしながら、前述したように位相変調量と印加電圧との関係は非線形であり、これらの関係もLUTで表すと、特許文献2,3のように複数の温度に対応する複数のLUTを保持しなければならず、大きな記憶容量が必要となる。また、そのようなLUTの作成には多くの手間を要し、所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度も抑えられてしまう。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易であり且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる空間光変調装置および空間光変調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明による空間光変調装置は、一次元もしくは二次元に配列された複数の画素毎に入射光の位相を変調する空間光変調装置であって、(1)印加電界の大きさに応じて入射光の位相を変調する液晶層と、(2)液晶層の温度に応じた信号である温度信号を生成する温度センサと、(3)複数の画素毎に設けられ、印加電界を発生させる電圧を液晶層に印加する複数の画素電極と、(4)複数の画素電極に電圧を提供する電圧生成部とを備える。電圧生成部は、記憶手段を有している。この記憶手段には、液晶層の基準温度に対する温度変化量と液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数、並びに印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数が予め記憶されている。電圧生成部は、温度センサから提供された温度信号に示された温度と、一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量の目標値である位相変調量指示値を補正するための演算を行ったのち、複数の第2の係数を使用して位相変調量指示値を印加電圧相当値に換算し、該印加電圧相当値に応じた電圧を複数の画素電極に提供する。
【0012】
この空間光変調装置において、電圧生成部の記憶手段は、液晶層の温度変化量と、液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数を記憶している。後述する実施の形態に示されるように、発明者は、このような第1の関数を予め求め、その係数(第1の係数)を記憶させておくことにより、大量のLUTを用いることなく、温度変化による位相変調量の変動を好適に補正できることを見出した。すなわち、この空間光変調装置においては、電圧生成部が、温度センサから提供された温度信号に示された温度と、上記一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量指示値を補正するための演算を行う。これにより、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易な空間光変調装置を提供できる。更に、離散的なデータの集合であるLUTを使用する場合と異なり、所望の位相変調量に応じた印加電圧値を、液晶層の温度変化に対応して連続的に得ることができるので、所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。
【0013】
また、この空間光変調装置において、電圧生成部の記憶手段は、印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数を記憶している。印加電圧と位相変調量との関係は非線形であるため、従来より、位相変調量指示値を印加電圧に換算する為にLUTが多く使用されている。しかしながら、LUTにおいて、例えば液晶層が高温であるときの位相変調量0〜2π(rad)に対して入力値0,1,・・・,255といった整数値を対応させた場合、液晶層が低温であるときには位相変調量0〜2π(rad)に対して対応する入力値が少なくなってしまう(例えば0,1,・・・,200)。このように、LUTを用いた場合、入力値の最小単位に割り当てられる位相変調量が温度によって異なるという問題が生じる。これに対し、後述する実施の形態に示されるように、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との第2の関数を予め求め、その係数(第2の係数)を上述した第1の係数と共に使用することによって、入力値と位相変調量との関係を液晶層の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0014】
また、空間光変調装置は、第1の関数が一次関数であり、第1の係数の個数が一つであることを特徴としてもよい。この場合、電圧の範囲は、第1の関数を一次関数として近似し得る所定範囲に限定されていることが好ましい。また、この場合、電圧生成部が、次の数式
【数1】
(但し、Tは温度センサから提供された温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の位相変調量指示値、φ0は補正後の位相変調量指示値、αは第1の係数)に基づいて、位相変調量指示値を補正するとよい。
【0015】
また、空間光変調装置は、第1の関数がn次関数(nは2以上の整数)であり、第1の係数の個数がn個であることを特徴としてもよい。この場合、電圧生成部が、次の数式
【数2】
(但し、Tは温度センサから提供された温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の位相変調量指示値、φ0は補正後の位相変調量指示値、β1…βnはn個の第1の係数)に基づいて、位相変調量指示値を補正するとよい。
【0016】
また、本発明による空間光変調方法は、印加電界の大きさに応じて入射光の位相を変調する液晶層と、一次元もしくは二次元に配列された複数の画素毎に設けられ、印加電界を発生させる電圧を液晶層に印加する複数の画素電極とを用いる空間光変調方法であって、(1)液晶層の温度に応じた信号である温度信号を温度センサから取得する温度取得ステップと、(2)液晶層の基準温度に対する温度変化量と液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数、並びに印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数を予め記憶している記憶手段から該一又は複数の第1の係数を読み出し、温度信号に示された温度と、一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量の目標値である位相変調量指示値を補正するための演算を行う補正演算ステップと、(3)記憶手段から複数の第2の係数を読み出し、複数の第2の係数を使用して位相変調量指示値を印加電圧相当値に換算する電圧換算ステップと、(4)印加電圧相当値に応じた電圧を複数の画素電極に提供する電圧印加ステップとを含む。
【0017】
この空間光変調方法において、記憶手段は、液晶層の温度変化量と、液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数を記憶している。後述する実施の形態に示されるように、発明者は、このような第1の関数を予め求め、その係数(第1の係数)を記憶させておくことにより、大量のLUTを用いることなく、温度変化による位相変調量の変動を好適に補正できることを見出した。すなわち、この空間光変調方法では、補正演算ステップにおいて、温度センサから提供された温度信号に示された温度と、上記一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量指示値を補正するための演算を行う。これにより、必要な記憶容量を小さくでき、当該方法に使用される装置の作製が容易な空間光変調方法を提供できる。更に、離散的なデータの集合であるLUTを使用する場合と異なり、所望の位相変調量に応じた印加電圧値を、液晶層の温度変化に対応して連続的に得ることができるので、所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。
【0018】
また、この空間光変調方法において、記憶手段は、印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数を記憶している。印加電圧と位相変調量との関係は非線形であるため、従来より、位相変調量指示値を印加電圧に換算する為にLUTが多く使用されている。しかしながら、LUTにおいて、例えば液晶層が高温であるときの位相変調量0〜2π(rad)に対して入力値0,1,・・・,255といった整数値を対応させた場合、液晶層が低温であるときには位相変調量0〜2π(rad)に対して対応する入力値が少なくなってしまう(例えば0,1,・・・,200)。このように、LUTを用いた場合、入力値の最小単位に割り当てられる位相変調量が温度によって異なるという問題が生じる。これに対し、後述する実施の形態に示されるように、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との第2の関数を予め求め、その係数(第2の係数)を上述した第1の係数と共に使用することによって、入力値と位相変調量との関係を液晶層の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0019】
また、空間光変調方法は、第1の関数が一次関数であり、第1の係数の個数が一つであることを特徴としてもよい。この場合、電圧の範囲が、第1の関数を一次関数として近似し得る所定範囲に限定されていることが好ましい。また、この場合、補正演算ステップにおいて、次の数式
【数3】
(但し、Tは温度センサから提供された温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の位相変調量指示値、φ0は補正後の位相変調量指示値、αは係数)に基づいて、位相変調量指示値を補正するとよい。
【0020】
また、空間光変調方法は、関数がn次関数(nは2以上の整数)であり、第1の係数の個数がn個であることを特徴としてもよい。この場合、補正演算ステップにおいて、次の数式
【数4】
(但し、Tは温度センサから提供された温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の位相変調量指示値、φ0は補正後の位相変調量指示値、β1…βnはn個の第1の係数)に基づいて、位相変調量指示値を補正するとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易であり且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる空間光変調装置および空間光変調方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る空間光変調装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】(a)位相変調部の構成の一部を示す図である。(b)各画素電極上の液晶分子が回転する様子を示す図である。
【図3】電圧生成部の駆動装置及び制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】温度変化係数データの算出方法を示すフローチャートである。
【図5】画素電極への印加電圧と位相変調量との関係の一例を示すグラフである。
【図6】基礎データベースの構成を概念的に示す図である。
【図7】基礎データベースを作成する際に使用される光学系の一例として、偏光干渉計を示す図である。
【図8】印加電圧と位相変調量との関係の具体例を示すグラフである。
【図9】液晶層の温度変化量δ(℃)と、位相変調量の変動量γ(%)との関係の一例を示すグラフである。
【図10】印加電圧と位相変調量との関係から、DA入力値と制御位相値との関係を導出したグラフである。
【図11】図10に示される位相変調量とDA入力値との関係を、横軸に位相変調量をとり、縦軸にDA入力値をとって表したグラフである。
【図12】一実施形態に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。
【図13】第1変形例である空間光変調装置の構成を示すブロック図である。
【図14】第1変形例に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。
【図15】第2変形例である空間光変調装置の構成を示すブロック図である。
【図16】第3変形例である空間光変調装置の構成を示すブロック図である。
【図17】第3変形例に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。
【図18】特許文献1に記載された装置の構成を示すブロック図である。
【図19】特許文献2に記載された液晶パネル駆動装置の構成を示すブロック図である。
【図20】特許文献3に記載された液晶表示装置の構成を示すブロック図である。
【図21】特許文献3に記載された液晶表示装置の反射モード用ルックアップテーブルの構成の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明による空間光変調装置および空間光変調方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る空間光変調装置1Aの構成を概略的に示すブロック図である。図1に示されるように、本実施形態の空間光変調装置1Aは、位相変調部10を備える。位相変調部10は、シリコン基板の上に液晶が形成された構成を有する、反射型の液晶表示パネル(いわゆるLCOS−SLM)である。この位相変調部10は、入射光の位相を変調する。また、空間光変調装置1Aは、電圧生成部50Aを備える。電圧生成部50Aは、駆動装置20A及び制御装置30Aによって構成されている。位相変調部10、駆動装置20A、及び制御装置30Aは、互いに独立した筐体にそれぞれ収容されている。
【0025】
図2(a)は、位相変調部10の構成の一部を示す側断面図である。位相変調部10は、シリコン基板11と、シリコン基板11上に設けられた液晶層12とを有する。また、位相変調部10は、シリコン基板11と液晶層12との間に配置された第1の電極13、及び該第1の電極13との間に液晶層12を挟む位置に設けられた第2の電極14を更に有する。第1の電極13は、液晶層12に電圧を印加するための複数の画素電極13aを有している。複数の画素電極13aは、複数行および複数列にわたって二次元状に配置されており、これらの画素電極13aによって位相変調部10の複数の画素が規定される。第2の電極14は、ガラス基板15の一方の面上に蒸着された金属膜からなる。ガラス基板15は、上記一方の面とシリコン基板11とが対向するように、スペーサ16を介してシリコン基板11上に支持されている。液晶層12は、シリコン基板11とガラス基板15との間に液晶が充填されて成る。
【0026】
このような構成を備える位相変調部10においては、駆動装置20Aから出力されたアナログ信号電圧が、各画素電極13aと第2の電極14との間に印加される。これにより、液晶層12に電界が生じる。そして、図2(b)に示されるように、各画素電極13a上の液晶分子12aが、その印加電界の大きさに応じて回転する。液晶分子12aは複屈折性を有するので、ガラス基板15を透過して光が入射すると、この光のうち液晶分子12aの配向方向と平行な光成分に限って、液晶分子12aの回転に応じた位相差が与えられる。このようにして、画素電極13a毎に光の位相が変調される。
【0027】
また、後述するように、液晶分子12aの有する複屈折率と画素電極13aへの印加電圧との関係は、液晶層12の温度変化によって変動する。本実施形態の位相変調部10は、このような温度変化による変動分を補正する為に、温度センサ17を更に有する。温度センサ17は、位相変調部10の温度、特に液晶層12の温度を検出するために設けられ、液晶層12の温度に応じた信号である温度信号Stempを生成する。温度センサ17は、例えばシリコン基板11上やガラス基板15上に配置される。
【0028】
電圧生成部50Aは、複数の画素電極13aにアナログ電圧を提供する。図3は、電圧生成部50Aの駆動装置20A及び制御装置30Aの構成を示すブロック図である。図3に示されるように、制御装置30Aは、例えば中央演算処理部(CPU)31、メモリ32およびハードディスク33を有する電子計算機等によって好適に実現される。ハードディスク33は、所望の位相パターン33aを記憶している。位相パターン33aは、位相変調部10の各画素毎に、所望の位相変調量にて位相変調を行うためのデータである。中央演算処理部31およびメモリ32は、位相パターン33aを、位相変調部10の液晶層12に印加する電圧値を制御するための制御入力値(階調値)S1に変換する。なお、位相変調部10では、印加電圧値Vに対して位相変調量φが非線形性を有する。そこで、本実施形態では、位相変調量φとの関係を線形として扱える制御入力値S1を便宜的に定義する。例えば、制御入力値S1を0から255までの整数とし、これらの整数を、位相変調量φ(例えば0〜2π(rad))に対応させるとよい。
【0029】
制御装置30Aは、駆動装置20Aとの間で信号の授受を行う通信部34を更に有しており、制御入力値S1は、通信部34を介して駆動装置20Aの通信部21に送られる。なお、通信部34と通信部21との通信手段は、シリアル通信やパラレル通信等、様々な手段を用いることができる。また、この通信手段は、有線及び無線の何れであってもよい。
【0030】
図3に示されるように、駆動装置20Aは、通信部21、入力処理部22、不揮発性記憶素子(Read Only Memory:ROM)23、加算部24、位相換算部25、温度補正部26、DA入力値生成部27、ディジタル/アナログ変換部28、および温度センサ処理部29を有している。
【0031】
通信部21は、制御装置30Aの通信部34との間で、制御入力値S1等の信号の授受を行う。入力処理部22は、通信部21から受けた信号に基づいて、垂直同期信号及び水平同期信号を生成する為のトリガ信号Strを発生させる。不揮発性記憶素子23は、面歪み補正パターンデータ23a、温度変化係数データ23b、多項近似式データ23c及びその係数データ23dを記憶する記憶手段である。面歪み補正パターンデータ23aは、シリコン基板11に画素電極13a周辺の回路素子を作り込む際に第1の電極13の表面に生じる面歪みを、液晶層12により与える位相差によって補正するためのデータである。温度変化係数データ23bは、液晶層12の温度変化による、画素電極13aへの印加電圧と位相変調量との関係の変動を補正するための係数に関するデータである。多項近似式データ23c及びその係数データ23dは、液晶層12の非線形性、すなわち各画素電極13aに与えられる電圧の大きさと位相変調量との間の非線形性を補正するためのデータである。なお、多項近似式データ23c及びその係数データ23dは、液晶層12の温度が基準温度であるときのデータである。
【0032】
加算部24は、不揮発性記憶素子23から面歪み補正パターンデータ23aを読み出し、制御装置30Aから提供された制御入力値S1に面歪み補正パターンデータ23aを加算することにより、面歪み補正後の制御入力値S2を生成する。加算部24は、生成した制御入力値S2を、位相換算部25へ出力する。位相換算部25は、制御入力値S2を、位相変調量の目標値(位相変調量指示値)である制御位相値φTに変換する。具体的には、次の数式(1)を用いて制御位相値φTを算出する。なお、この制御位相値φTは、現在の液晶層12の温度Tに対応する値である。
【数5】
位相換算部25は、このようにして生成した制御位相値φTを、温度補正部26へ出力する。
【0033】
温度補正部26は、制御位相値φTに対し、液晶層12の温度変化による変調特性の変動分を補正する。温度補正部26は、不揮発性記憶素子23から温度変化係数データ23bを読み出す。そして、温度補正部26は、この温度変化係数データ23bと、温度センサ処理部29から得られる温度値Tsとに基づいて、制御位相値φTに所定の演算処理を施すことにより、液晶層12の温度が基準温度T0である場合に換算した位相変調量指示値である制御位相値φ0を生成する。温度補正部26は、生成した制御位相値φ0を、DA入力値生成部27へ出力する。
【0034】
DA入力値生成部27は、不揮発性記憶素子23から多項近似式データ23c及びその係数データ23dを読み出す。そして、DA入力値生成部27は、多項近似式データ23c及びその係数データ23dを使用して、温度補正部26から出力された制御位相値φ0に所定の演算処理を施すことにより、DA入力値y0(印加電圧相当値)を生成する。このDA入力値y0は、制御位相値φ0を、液晶層12の現在温度Tにおいて目標とする位相値を得るために好適な値であって、且つディジタル/アナログ変換部28への入力に好適な値に変換したものである。DA入力値生成部27は、生成したDA入力値y0を、ディジタル/アナログ変換部28へ出力する。ディジタル/アナログ変換部28は、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vを、DA入力値y0に基づいて発生させる。これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aを通じて位相変調部10へ出力され、各画素電極13a(図2参照)に印加される。位相変調部10では、印加電圧Vの大きさに応じて液晶分子12a(図2参照)の傾きが変化し、屈折率の変化が生じる。その結果、所望の位相パターン33aに対応する位相分布が空間的に表現され、入射光の位相が変調される。
【0035】
温度センサ処理部29は、位相変調部10の温度センサ17から、液晶層12の現在の温度に関する温度信号Stempを受ける。温度センサ処理部29は、この温度信号Stempから読み取られる液晶層12の温度値Tsを、温度補正部26に提供する。
【0036】
なお、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23に記憶されている面歪み補正パターンデータ23a、温度変化係数データ23b、多項近似式データ23c及びその係数データ23dの全部又は一部は、制御装置30Aのハードディスク33に記憶されてもよい。その場合、加算部24、位相換算部25、温度補正部26及びDA入力値生成部27の全部又は一部の機能は、中央演算処理部31およびメモリ32によって実現されるとよい。
【0037】
ここで、温度変化係数データ23bの算出方法を説明する。図4は、その算出方法を示すフローチャートである。また、図5は、画素電極13aへの印加電圧Vと位相変調量φとの関係の一例を示すグラフである。図5には、液晶層12の温度が基準温度T0であるときのグラフG11、空間光変調装置1Aの使用環境において想定される最高温度TmaxであるときのグラフG12、及び空間光変調装置1Aの使用環境において想定される最低温度TminであるときのグラフG13が示されている。なお、温度変化係数データ23bの算出は、例えば空間光変調装置1Aの検査時などに行われるとよい。
【0038】
まず、液晶層12において想定される最高温度Tmaxと、最高温度Tmaxのときに位相変調部10に要求される最大位相変調量φmaxとに基づいて、画素電極13aへの印加電圧の範囲を設定する(ステップS11)。なお、以下の説明においては、理解の容易のため、最大位相変調量φmaxを2π(rad)に設定する。また、本ステップS11において設定された印加電圧範囲Aの最大値をVbとし、最小値(すなわち最大位相変調量φmaxに対応する電圧値)をVaとする(図5を参照)。
【0039】
次に、予め用意しておいたデータベース(以下、基礎データベースという)に基づいて、上記ステップS11において設定された印加電圧範囲A(Va〜Vb)における、液晶層12の温度変化に伴う位相変調特性の変動量を算出する(ステップS12)。ここで、図6は、基礎データベースの構成を概念的に示す図である。基礎データベース41は、液晶層12の温度範囲Tmin〜Tmaxにおいて、この温度範囲に含まれる離散的な温度値群の各温度毎に用意された複数のデータ(印加電圧Vと位相変調量φとの関係を示すデータ)を含む。なお、これら複数のデータの中には、図6に示されるように、基準温度T0のときの印加電圧Vと位相変調量φとの関係を示す基準時データ41aと、液晶層12の温度が最大温度Tmaxのときの印加電圧Vと位相変調量φとの関係を示す高温時データ41bと、液晶層12の温度が最低温度Tminのときの印加電圧Vと位相変調量φとの関係を示す低温時データ41cとが含まれる。これらのデータ41a〜41cを含め、基礎データベース41に含まれる複数のデータにおいては、印加電圧Vと位相変調量φとの関係は全て非線形である。本ステップS12では、このような基礎データベース41を使用して、液晶層12の温度変化に伴う位相変調特性の変動量を、印加電圧範囲A(Va〜Vb)の全範囲にわたって算出する。
【0040】
ここで、図7は、基礎データベースを作成する際に使用される光学系の一例として、偏光干渉計100を示す図である。この偏光干渉計100は、温度制御装置101、ハーフミラー102、レンズ103、検光子104、偏光子105、光源106、及び受光素子107を備えている。温度制御装置101は、位相変調部10の液晶層12の温度を任意の温度に制御するための装置である。光源106は所定波長の光を発生する。この所定波長の光は、偏光子105及びハーフミラー102を介して、位相変調部10へ入射する。受光素子107は、位相変調部10からの出射光の光強度を検出する。位相変調部10からの出射光は、ハーフミラー102において反射したのちレンズ103及び検光子104を介して受光素子107に達する。検光子104は、偏光子105に対してクロスニコルまたはオープンニコルの関係にある。
【0041】
基礎データベースを作成する際には、まず、位相変調部10を温度制御装置101に収容し、位相変調部10の液晶層12を任意の温度に制御する。そして、液晶層12の温度が所定の温度で安定したのち、液晶層12に印加可能な全電圧範囲で印加電圧を変化させながら該電圧を画素電極13aに印加し、その電界によって生じる入射光と出射光との位相差を計測する。具体的には、液晶層12の配向方向に対して平行な直線偏光の光を偏光子105により生成し、この光を位相変調部10に入射させる。このとき、画素電極13aへの印加電圧の大きさに応じて、位相変調部10からの出射光には位相変調(位相遅延)が生じる。そして、この出射光が検光子104を通過する際、この検光子104は偏光子105に対してクロスニコル(またはオープンニコル)の関係にあるので、出射光の位相変調量に応じてその光強度が変化する。したがって、受光素子107において検出される光強度と、そのときの印加電圧値とに基づいて、印加電圧と位相変調量との関係、すなわち液晶層12の温度が所定温度であるときの基礎データベースが好適に得られる。
【0042】
なお、図8は、このようにして得られる印加電圧と位相変調量との関係の具体例を示すグラフであり、グラフG21は液晶層12の温度が20度(最低温度Tmin)である場合、グラフG22は液晶層12の温度が27度(基準温度T0)である場合、グラフG23は液晶層12の温度が42度(最高温度Tmax)である場合をそれぞれ示している。また、このグラフにおいて、印加電圧範囲Aにおける最小電圧Va(すなわち位相変調量が2π(rad)となる印加電圧)は1.56(V)である。図8を参照すると、液晶層12の温度が基準温度T0である場合には、最大電圧Vbに対する位相変調量φとして2.56π(rad)が得られ、最低温度Tminである場合には、最大電圧Vbに対する位相変調量φとして2.79π(rad)が得られることがわかる。
【0043】
以上のようにして、本ステップS12では、液晶層12の温度毎に、液晶層12に印加可能な全電圧範囲にわたって位相変調量φを計測し、その結果を温度毎のテーブルにまとめる。
【0044】
なお、位相変調部10においては、入射光の波長によって設定電圧範囲A(Va〜Vb)が異なるので、位相変調量φも入射光の波長によって異なる。しかしながら、本実施形態においては、基準波長の入射光を用いて上述したステップS12を一度のみ行い、その結果得られた基礎データベースに対して以下の変換式を適用することにより、別の波長における基礎データベースを得ることができる。すなわち、基準波長をλstandard、表示階調値tvのときの位相変調量をφstandard(tv)としたとき、或る波長λのときの位相変調量φ(tv)は、次の数式(2)より求められる。
【数6】
なお、上式(2)においては、液晶層12の波長分散特性を更に考慮してもよい。
【0045】
そして、上記方法により求められた温度毎の位相変調量φに関するテーブルを、位相変調量の変化量γに関するテーブルに変換する。すなわち、位相変調部10が温度Tであるときに得られた位相変調量をφTとし、位相変調部10が基準温度T0であるときに得られた位相変調量をφ0とすると、次の数式(3)により、位相変調量の変動量γを算出することができる。
【数7】
【0046】
図4に示されるように、液晶層12の温度変化に伴う位相変調量の変動量γを上記ステップS12において算出したのち、この算出された変動量γを用いて、温度変化係数データ23bに含まれる温度変化係数αを算出する(ステップS13)。ここで、図9は、ステップS12によって得られたデータに基づく、液晶層12の温度変化量δ(℃)と、位相変調量の変動量γとの関係の一例を示すグラフである。なお、温度変化量δは、基準温度T0と温度Tとの差(T−T0)である。
【0047】
図9を参照すると、液晶層12の温度変化量δと位相変調量の変動量γとは、ほぼ比例関係であり、一次関数G24で近似できることがわかる。このような近似は、図8に示された印加電圧範囲A、すなわち一次関数として近似し得る所定範囲に印加電圧範囲を限定した場合に可能となる。本ステップS13では、この比例関係における以下の近似式(4)の定数αを求める。
【数8】
この定数αが、温度変化係数データ23bとしての温度変化係数αである。換言すれば、温度変化係数αとは、液晶層12の温度変化に伴う位相変調特性の変化を、或る一つの係数によって表したものである。
【0048】
温度補正部26は、例えば次のような演算によって、液晶層12の温度が基準温度T0である場合に換算した位相変調量指示値である制御位相値φ0を生成する。いま、位相変調部10の温度が或る温度Tである場合に、画素電極13aに電圧Vを印加することによって或る位相変調量φTが得られるとする。位相変調部10の温度が基準温度T0である場合、同じレベルの電圧Vを画素電極13aに印加した際に得られる位相変調量(制御位相値)φ0は、前述した温度変化係数αを含む以下の数式(5)によって求められる。
【数9】
【0049】
続いて、多項近似式データ23c及びその係数データ23dの導出方法を説明する。なお、多項近似式データ23c及びその係数データ23dの導出は、例えば空間光変調装置1Aの検査時などに行われるとよい。
【0050】
図10は、例えば図8に示された印加電圧Vと位相変調量φ0との関係から、DA入力値y0と制御位相値φ0との関係を導出したグラフである。このグラフは、以下に示される数式(6)によって印加電圧VをDA入力値y0へ変換することにより好適に導出できる。但し、数式(6)において、Mは全階調値であり、iは0からM−1までの整数である。
【数10】
なお、こうして算出されるDA入力値y0は、全階調値M(すなわち階調値0〜M−1)のデジタル信号である。一例では、M=4096である。
【0051】
次に、図10に示される位相変調量φ0とDA入力値y0との関係を、図11に示されるように、横軸に位相変調量φ0をとり、縦軸にDA入力値y0をとって表す。このグラフにおける位相変調量φ0とDA入力値y0との関係は、次の多項近似式(7)を用いて表現することができる。なお、数式(7)において、x0〜xmは多項近似式の係数であり、mは多項式の次数である。
【数11】
この数式(7)は多項近似式データ23cとして、また係数x0〜xmは多項近似式データの係数データ23dとして、それぞれ不揮発性記憶素子23に記憶される。
【0052】
DA入力値生成部27は、こうして得られた多項近似式(7)及びその係数x0〜xmに基づいて、温度補正部26より出力された制御位相値φ0からDA入力値y0を算出する。すなわち、このDA入力値y0は、液晶層12の現在温度Tにおいて目標とする位相変調量φTを得るために好適な値であって、且つディジタル/アナログ変換部28への入力に好適な値である。
【0053】
続いて、温度変化係数α、多項近似式(7)及びその係数x0〜xmを用いる本実施形態の空間光変調方法を、図12を参照しながら説明する。図12は、本実施形態の空間光変調方法を示すフローチャートである。
【0054】
まず、ハードディスク33に記憶されている位相パターン33aが制御装置30Aにおいて制御入力値S1に変換され、この制御入力値S1が制御装置30Aから駆動装置20Aへ転送される(ステップS21)。次に、この制御入力値S1と、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23に記憶されている面歪み補正パターンデータ23aとが加算部24において加算され、制御入力値S2が生成される(ステップS22)。そして、制御入力値S2に基づいて、位相変調部10における位相変調量の目標値である制御位相値φTが、位相換算部25において生成される(ステップS23)。また、温度センサ17によって検出された位相変調部10の現在の温度が、温度センサ処理部29によって読み出される(ステップS24、温度取得ステップ)。なお、このステップS24は、上記ステップS21〜S23と並行して行われても良い。
【0055】
続いて、不揮発性記憶素子23に記憶されている温度変化係数データ23bと、温度センサ処理部29によって読み出された現在の温度値Tsと、制御位相値φTとが温度補正部26に提供される。温度補正部26では、前述した数式(5)を用いて、液晶層12の温度変化による影響が補正された(基準温度T0のときの)制御位相値φ0を演算する(ステップS25、補正演算ステップ)。
【0056】
続いて、不揮発性記憶素子23に記憶されている多項近似式データ23c及びその係数データ23dが、DA入力値生成部27に提供される。DA入力値生成部27では、多項近似式データ23cに示される数式(前述した数式(7))を用いて、制御位相値φTを得るために好適なDA入力値y0を演算する(ステップS26、DA入力演算ステップ)。そして、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vが、ディジタル/アナログ変換部28においてDA入力値y0に基づき生成される(ステップS27)。これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aへ送られる。そして、これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aから位相変調部10へ出力され、各画素電極13aに印加される(ステップS28、電圧印加ステップ)。位相変調部10では、印加電圧Vの大きさに応じて液晶分子12aの傾きが変化し、屈折率の変化が生じる。その結果、所望の位相パターン33aに対応する位相分布が空間的に表現され、入射光の位相が変調される(ステップS29)。
【0057】
以上に説明した本実施形態の空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法によって得られる効果について説明する。この空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法では、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23が、液晶層12の温度変化量と、液晶層12における位相変調量の変動量との相関を表す関数(第1の関数)に含まれる一の係数αを記憶している。発明者は、液晶層12の温度変化量と、位相変調量の変動量との関係を表す関数を予め求め(上記数式(4)を参照)、その係数αを記憶させておくことにより、大量のLUTを用いることなく、温度変化による位相変調量の変動を好適に補正できることを見出した。すなわち、この空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法においては、駆動装置20Aが、温度センサ17から提供された温度信号Stempに示された温度と、上記一の係数αとを使用して、印加電圧Vの大きさを補正するための演算を行う。これにより、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易な空間光変調装置および空間光変調方法を提供できる。更に、離散的なデータの集合であるLUTを使用する場合と異なり、所望の位相変調量に応じた印加電圧値を、液晶層12の温度変化に対応して連続的に得ることができる。したがって、例えば1℃や0.1℃といった小さな温度間隔で位相変調特性の補正が可能となり、所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。
【0058】
また、この空間光変調装置において、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23は、印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数(上記数式(6)を参照)に含まれる複数の係数x0〜xmを記憶している。印加電圧と位相変調量との関係は非線形であるため、従来より、位相変調量指示値を印加電圧に換算する為にLUTが多く使用されている。しかしながら、LUTにおいて、例えば液晶層12が高温であるときの位相変調量0〜2π(rad)に対して入力値0,1,・・・,255といった整数値を対応させた場合、液晶層12が低温であるときには位相変調量0〜2π(rad)に対して対応する入力値が少なくなってしまう(例えば0,1,・・・,200)。このように、LUTを用いた場合、入力値の最小単位に割り当てられる位相変調量が温度によって異なるという問題が生じる。これに対し、本実施形態の空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法によれば、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との関数を予め求め、その係数x0〜xmを上述した係数αと共に使用することによって、制御入力値と位相変調量との関係を液晶層12の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0059】
また、本実施形態の空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法においては、液晶層12の温度変化量δと、位相変調量の変動量γとの比例係数である温度変化係数αを用いて、温度補正部26が制御位相値を補正している。発明者らは、図9に示したように、温度変化量δと位相変調量の変動量γとが、或る印加電圧範囲Aにおいて顕著な比例関係を有する(一次関数を成す)ことを見出した。その傾き(温度変化係数)αを用いることにより、多量のデータを記憶しておくことなく極めて容易に制御位相値を補正することができる。すなわち、この空間光変調装置1Aおよび空間光変調方法によれば、液晶層12の温度変化による位相変調量の変動を、容易に補正することができる。
【0060】
本実施形態においては、面歪み補正パターンデータ23aは駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23に記憶されている。しかしながら、面歪み補正パターンデータは、制御装置30Aのハードディスク33に記憶されていてもよい。その場合、加算部24の機能は、制御装置30Bの中央演算処理部31及びメモリ32によって実現されるとよい。
【0061】
また、本実施形態においては、所望の位相パターン33aが制御装置30Aのハードディスク33に記憶されている。しかしながら、所望の位相パターンは、駆動装置20Aの不揮発性記憶素子23に記憶されていてもよい。その場合であっても、制御装置30Aは、位相変調部10を駆動させるために必要な垂直同期信号及び水平同期信号を生成するために用いられるトリガ信号Strを、駆動装置20Aに提供する役割を有する。
【0062】
また、本実施形態においては、位相変調部10、駆動装置20A、及び制御装置30Aが互いに独立した筐体をそれぞれ有する。しかしながら、位相変調部10及び駆動装置20Aは、共通の筐体内に収容されていてもよい。或いは、位相変調部10、駆動装置20A、及び制御装置30A全てが、共通の筐体内に収容されていてもよい。
【0063】
また、本実施形態において、液晶層12の温度を制御可能とする手段(例えばファンやペルチェ素子など)を、位相変調部10が更に有してもよい。これにより、液晶層12の温度変化の範囲を小さくすることができるので、例えば基準温度T0に対して数℃の変動を温度補正部26によって補正すればよく、液晶層12の温度変化による位相変調量の変動を更に精度良く補正することができる。
【0064】
また、本実施形態においては、温度補正部26が数式(5)に基づいて制御入力値を補正している。しかしながら、画素電極13aに印加される電圧の範囲の広さによっては、温度変化量δと位相変調量の変動量γとの関係が非線形となる場合がある。その場合、上述したステップS13の数式(4)の係数αに代えて、この非線形の関係における以下の近似式(8)の係数β1〜βnを求めるとよい。
【数12】
そして、これらの複数の係数β1〜βnを、温度変化係数データ23bの温度変化係数とするとよい。また、温度補正部26は、上述した温度補正式(5)に代えて、以下の温度補正式(9)を用いて、液晶層12の温度変化による影響が補正された制御位相値φ0を演算するとよい。なお、数式(9)において、Tは位相変調部10の現在温度であり、T0は位相変調部10の基準温度(一例では、検査時の温度)であり、φTは、現在温度Tにおいて所望の位相変調量を得るための制御位相値である。
【数13】
このような非線形係数を用いて温度補正を行うことによって、液晶層12の温度変化に拘わらず、更に高い精度で(例えば位相1°単位、0.1°単位、若しくは0.01°単位で)位相変調を行うことが可能となる。
【0065】
(第1変形例)
図13は、上記実施形態の第1変形例である空間光変調装置1Bの構成を示すブロック図である。図13に示されるように、本変形例に係る空間光変調装置1Bは、位相変調部10に加えて、電圧生成部としての駆動装置20B及び制御装置30Bを備えている。なお、位相変調部10の構成については、上記実施形態の位相変調部10の構成と同じなので詳細な説明を省略する。
【0066】
制御装置30Bは、上記実施形態の制御装置30Aと同様に、例えば中央演算処理部31、メモリ32およびハードディスク33を有する電子計算機等によって好適に実現される。但し、本変形例においては、ハードディスク33は、所望の位相パターン33aのほか、面歪み補正パターンデータ33b、温度変化係数データ33c、多項近似式データ33d及びその係数データ33eを記憶している。面歪み補正パターンデータ33bは、上記実施形態の面歪み補正パターンデータ23aに相当するデータであって、シリコン基板11に画素電極13a周辺の回路素子を作り込む際に第1の電極13の表面に生じる面歪みを、液晶層12により与える位相差によって補正するためのデータである。また、温度変化係数データ33cは、上記実施形態の温度変化係数データ23bに相当するデータであって、液晶層12の温度変化による、画素電極13aへの印加電圧と位相変調量との関係の変動を補正するための係数に関するデータである。多項近似式データ33d及びその係数データ33eは、上記実施形態の多項近似式データ23c及びその係数データ23dに相当するデータであって、液晶層12の非線形性、すなわち各画素電極13aに与えられる電圧の大きさと位相変調量との間の非線形性を補正するためのデータである。
【0067】
中央演算処理部31は、図13に示されるように、加算部32aと、位相換算部32bと、温度補正部32cと、DA入力値生成部32dと、温度読み出し司令部32eとを、メモリ32に記憶された所定のプログラムを読み込むことによって実現する。加算部32aは、ハードディスク33から位相パターン33a及び面歪み補正パターンデータ33bを読み出して、これらを相互に加算することにより、制御入力値S3を生成する。位相換算部32bは、前述した数式(1)を用いて、制御入力値S3を、位相変調部10における位相変調量の目標値である制御位相値φTに変換する。温度読み出し司令部32eは、液晶層12の温度に関するデータを駆動装置20Bに要求するための信号Srを生成する。この信号Srは、通信部34を介して駆動装置20Bの温度センサ処理部29に送られる。温度補正部32cは、ハードディスク33から温度変化係数データ33cを読み出すとともに、位相変調部10の現在の温度値Tsを駆動装置20Bから受けて、これらのデータを基に制御位相値φTを補正して、制御位相値φ0を算出する。なお、この補正演算は、上記実施形態において温度補正部26が行う演算と同様である。DA入力値生成部32dは、ハードディスク33から多項近似式データ33d及びその係数データ33eを読み出して、制御位相値φ0からDA入力値y0を算出する。DA入力値生成部32dは、DA入力値y0を、通信部34を介して駆動装置20Bに提供する。
【0068】
駆動装置20Bは、通信部21、入力処理部22、ディジタル/アナログ変換部28、および温度センサ処理部29を有している。これらの構成および動作は、上記実施形態と同様である。なお、本変形例の駆動装置20Bは、上記実施形態の不揮発性記憶素子23、加算部24、温度補正部26、およびDA入力値生成部27を有していない。これらの要素は、既述した制御装置30Bに含まれている。
【0069】
図14は、本変形例に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。以下、図14を参照しつつ、本変形例に係る空間光変調方法および空間光変調装置1Bの動作について説明する。
【0070】
まず、ハードディスク33に記憶されている位相パターン33aおよび面歪み補正パターンデータ33bが中央演算処理部31に読み出され、これらが相互に加算されて、制御入力値S3が生成される(ステップS31)。そして、制御入力値S3に基づいて、位相変調部10における位相変調量の目標値である制御位相値φTが、位相換算部32bにおいて生成される(ステップS32)。また、温度センサ17によって検出された液晶層12の現在の温度に関する温度信号Stempが温度センサ処理部29に送られ、温度信号Stempに示される温度値Tsが通信部34を介して中央演算処理部31に送られる(ステップS33、温度取得ステップ)。なお、このステップS33は、上記ステップS31及びS32と並行して行われても良い。
【0071】
次に、ハードディスク33に記憶されている温度変化係数データ33cと、現在の温度値Tsとが中央演算処理部31に読み出され、制御入力値S3に対して上述した数式(5)に示された演算を行うことにより、液晶層12の温度変化による影響が補正された(基準温度T0のときの)制御位相値φ0が算出される(ステップS34、補正演算ステップ)。
【0072】
続いて、ハードディスク33に記憶されている多項近似式データ33d及びその係数データ33eが、DA入力値生成部32dに提供される。DA入力値生成部32dでは、多項近似式データ33dに示される数式(前述した数式(7))を用いて、制御位相値φTを得るために好適なDA入力値y0が算出される(ステップS35、DA入力演算ステップ)。このDA入力値y0は、制御装置30Bから駆動装置20Bへ転送される(ステップS36)。そして、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vが、ディジタル/アナログ変換部28においてDA入力値y0に基づき生成される(ステップS37)。これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aへ送られる。そして、これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aから位相変調部10へ出力され、各画素電極13aに印加される(ステップS38、電圧印加ステップ)。位相変調部10では、印加電圧Vの大きさに応じて液晶分子12aの傾きが変化し、屈折率の変化が生じる。その結果、所望の位相パターン33aに対応する位相分布が空間的に表現され、入射光の位相が変調される(ステップS39)。
【0073】
以上に説明した本変形例に係る空間光変調装置1Bおよび空間光変調方法によれば、上記実施形態と同様に、温度変化係数を用いて温度補正部32cが制御位相値を補正しているので、液晶層12の温度変化による位相変調量の変動を容易に補正することができる。更に、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易となり、且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。また、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との関数を予め記憶しておき、その係数を上述した温度変化係数と共に使用しているので、制御入力値と位相変調量との関係を液晶層12の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0074】
(第2変形例)
図15は、上記実施形態の第2変形例である空間光変調装置1Cの構成を示すブロック図である。図15に示されるように、本変形例に係る空間光変調装置1Cは、位相変調部10と、電圧生成部としての駆動装置20Cとを備えている。これらのうち、位相変調部10の構成については、上記実施形態の位相変調部10の構成と同じである。
【0075】
駆動装置20Cは、制御部42を有している。制御部42は、例えば中央演算処理部(CPU)、メモリおよびハードディスクを有する電子計算機等によって好適に実現される。また、駆動装置20Cは、入力処理部22、不揮発性記憶素子23、加算部24、位相換算部25、温度補正部26、DA入力値生成部27、ディジタル/アナログ変換部28、および温度センサ処理部29を有している。
【0076】
入力処理部22は、制御部42から受けた信号に基づいて、垂直同期信号及び水平同期信号を生成する為のトリガ信号Strを発生させる。不揮発性記憶素子23は、面歪み補正パターンデータ23a、温度変化係数データ23b、多項近似式データ23c及びその係数データ23dに加えて、所望の位相パターン23eを記憶している。位相パターン23eは、上記実施形態における位相パターン33aに相当するものである。
【0077】
加算部24は、不揮発性記憶素子23から面歪み補正パターンデータ23a及び位相パターン23eを読み出し、これらを相互に加算することにより、面歪み補正後の制御入力値S4を生成する。位相換算部25は、前述した数式(1)を用いて、制御入力値S4を、位相変調部10における位相変調量の目標値である制御位相値φTに変換する。温度補正部26は、温度変化係数データ23bと、温度センサ処理部29から得られる温度値Tsとに基づいて、制御位相値φTに所定の演算処理を施すことにより、温度補正後の制御位相値φ0を生成する。DA入力値生成部27は、多項近似式データ23c及びその係数データ23dを使用して、制御位相値φ0からDA入力値y0を算出する。ディジタル/アナログ変換部28は、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vを、DA入力値y0に基づいて発生させる。これらのアナログ電圧Vは、駆動手段28aを通じて位相変調部10へ出力され、各画素電極13a(図2参照)に印加される。
【0078】
以上に説明した本変形例に係る空間光変調装置1Cによれば、上記実施形態と同様に、温度変化係数を用いて温度補正部26が制御位相値を補正するので、液晶層12の温度変化による位相変調量の変動を容易に補正することができる。更に、必要な記憶容量を小さくでき、作製が容易となり、且つ所望の位相変調量に対する印加電圧値の精度を高めることができる。また、非線形の関係にある印加電圧と位相変調量との関数を予め記憶しておき、その係数を上述した温度変化係数と共に使用するので、制御入力値と位相変調量との関係を液晶層12の温度に拘わらず常に一定に保つことが可能となる。
【0079】
(第3変形例)
図16は、上記実施形態の第3変形例である空間光変調装置1Dの構成を示すブロック図である。図16に示されるように、本変形例に係る空間光変調装置1Dは、位相変調部10と、電圧生成部としての駆動装置20D及び制御装置30Aとを備えている。これらのうち、位相変調部10及び制御装置30Aの構成については、上記実施形態の位相変調部10の構成と同じである。
【0080】
また、本変形例の駆動装置20Dは、上記実施形態の駆動装置20Aの構成に加えて、更に不揮発性記憶素子43を有している。不揮発性記憶素子43は、温度補正部26によって算出された制御位相値φ0と、その制御位相値φ0に基づいてDA入力値生成部27によって算出されたDA入力値y0とを記憶する。本変形例の温度補正部26は、制御位相値φ0を算出したのち、この制御位相値φ0をDA入力値生成部27へ出力するとともに、制御位相値φ0を不揮発性記憶素子43に記憶させる。DA入力値生成部27は、DA入力値y0のための演算を行う前に不揮発性記憶素子43を参照し、該当するDA入力値y0が存在する場合には、演算を行うことなくこのDA入力値y0を読み出し、ディジタル/アナログ変換部28へ出力する。また、該当するDA入力値y0が不揮発性記憶素子43に存在しない場合、DA入力値生成部27は、算出したDA入力値y0を不揮発性記憶素子43に記憶させる。
【0081】
図17は、本変形例に係る空間光変調方法を示すフローチャートである。以下、図17を参照しつつ、本変形例に係る空間光変調方法および空間光変調装置1Dの動作について説明する。なお、上記実施形態における補正演算ステップS25(図12参照)までの各ステップ、及びディジタル/アナログ変換部28においてアナログ電圧が生成されるステップS27以降の各ステップは上記実施形態と同様なので、図17では図示を省略している。
【0082】
まず、温度補正部26において、前述した数式(5)を用いて、液晶層12の温度変化による影響が補正された制御位相値φ0が算出される(ステップS25、補正演算ステップ)。次に、DA入力値生成部27は、不揮発性記憶素子43を参照して制御位相値φ0が記録されているか否かを確認する(ステップS41)。制御位相値φ0が記録されていない場合(ステップS41においてNo)、DA入力値生成部27では、多項近似式データ23cに示される数式(前述した数式(7))を用いて、制御位相値φ0に基づいてDA入力値y0が算出される(ステップS42)。そして、算出されたDA入力値y0は、対応する制御位相値φ0と共に不揮発性記憶素子43に記録される(ステップS43)。また、制御位相値φ0が記録されている場合(ステップS41においてYes)、DA入力値生成部27では、DA入力値y0は算出されない。その後、位相変調部10の各画素に印加される画素毎のアナログ電圧Vが、ディジタル/アナログ変換部28においてDA入力値y0に基づき生成される(ステップS27)。
【0083】
本変形例に係る空間光変調装置1D及び空間光変調方法によれば、上記実施形態と同様の効果を奏することができるほか、次の効果を奏することができる。すなわち、本変形例では、DA入力値生成部27において一度算出されたDA入力値y0が、対応する制御位相値φ0と共に不揮発性記憶素子43に記録されている。したがって、同じ制御位相値φ0が再び発生した際に、DA入力値生成部27における再度の演算を省くことができ、処理時間を短縮することができる。
【0084】
本発明による空間光変調装置および空間光変調方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、位相変調部の画素電極が複数行および複数列にわたって二次元状に配置されている場合を例示したが、本発明における空間光変調装置はこれに限られず、例えば複数の画素電極が一次元状に配置された構成を有していてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1A〜1D…空間光変調装置、10…位相変調部、11…シリコン基板、12…液晶層、12a…液晶分子、13,14…電極、13a…画素電極、15…ガラス基板、16…スペーサ、17…温度センサ、20A〜20D…駆動装置、21…通信部、22…入力処理部、23…不揮発性記憶素子、23a,33b…面歪み補正パターンデータ、23b,33c…温度変化係数データ、23c,33d…多項近似式データ、23d,33e…多項近似式の係数データ、23e,33a…位相パターン、24…加算部、25…位相換算部、26…温度補正部、27…DA入力値生成部、28…ディジタル/アナログ変換部、28a…駆動手段、29…温度センサ処理部、30A,30B…制御装置、31…中央演算処理部、32…メモリ、32a…加算部、32b…位相換算部、32c…温度補正部、32d…DA入力値生成部、32e…温度読み出し司令部、33…ハードディスク、34…通信部、41…基礎データベース、50A…電圧生成部、100…偏光干渉計、101…温度制御装置、102…ハーフミラー、103…レンズ、104…検光子、105…偏光子、106…光源、107…受光素子、A…印加電圧範囲、S1〜S4…制御入力値、Stemp…温度信号、φT,φ0…制御位相値(位相変調量指示値)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次元もしくは二次元に配列された複数の画素毎に入射光の位相を変調する空間光変調装置であって、
印加電界の大きさに応じて前記入射光の位相を変調する液晶層と、
前記液晶層の温度に応じた信号である温度信号を生成する温度センサと、
前記複数の画素毎に設けられ、前記印加電界を発生させる電圧を前記液晶層に印加する複数の画素電極と、
前記複数の画素電極に前記電圧を提供する電圧生成部と
を備え、
前記電圧生成部が記憶手段を有しており、該記憶手段には、前記液晶層の基準温度に対する温度変化量と前記液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数、並びに印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数が予め記憶されており、
前記電圧生成部は、前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度と、前記一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量の目標値である位相変調量指示値を補正するための演算を行ったのち、前記複数の第2の係数を使用して前記位相変調量指示値を印加電圧相当値に換算し、該印加電圧相当値に応じた前記電圧を前記複数の画素電極に提供する
ことを特徴とする、空間光変調装置。
【請求項2】
前記第1の関数が一次関数であり、前記第1の係数の個数が一つであることを特徴とする、請求項1に記載の空間光変調装置。
【請求項3】
前記電圧の範囲が、前記第1の関数を一次関数として近似し得る所定範囲に限定されていることを特徴とする、請求項2に記載の空間光変調装置。
【請求項4】
前記電圧生成部が、次の数式
【数1】
(但し、Tは前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の前記位相変調量指示値、φ0は補正後の前記位相変調量指示値、αは前記第1の係数)に基づいて、前記位相変調量指示値を補正することを特徴とする、請求項2または3に記載の空間光変調装置。
【請求項5】
前記第1の関数がn次関数(nは2以上の整数)であり、前記第1の係数の個数がn個であることを特徴とする、請求項1に記載の空間光変調装置。
【請求項6】
前記電圧生成部が、次の数式
【数2】
(但し、Tは前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の前記位相変調量指示値、φ0は補正後の前記位相変調量指示値、β1…βnは前記n個の第1の係数)に基づいて、前記位相変調量指示値を補正することを特徴とする、請求項5に記載の空間光変調装置。
【請求項7】
印加電界の大きさに応じて入射光の位相を変調する液晶層と、一次元もしくは二次元に配列された複数の画素毎に設けられ、前記印加電界を発生させる電圧を前記液晶層に印加する複数の画素電極とを用いる空間光変調方法であって、
前記液晶層の温度に応じた信号である温度信号を温度センサから取得する温度取得ステップと、
前記液晶層の基準温度に対する温度変化量と前記液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数、並びに印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数を予め記憶している記憶手段から該一又は複数の第1の係数を読み出し、前記温度信号に示された温度と、前記一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量の目標値である位相変調量指示値を補正するための演算を行う補正演算ステップと、
前記記憶手段から前記複数の第2の係数を読み出し、前記複数の第2の係数を使用して前記位相変調量指示値を印加電圧相当値に換算する電圧換算ステップと、
前記印加電圧相当値に応じた前記電圧を前記複数の画素電極に提供する電圧印加ステップと
を含むことを特徴とする、空間光変調方法。
【請求項8】
前記第1の関数が一次関数であり、前記第1の係数の個数が一つであることを特徴とする、請求項7に記載の空間光変調方法。
【請求項9】
前記電圧の範囲が、前記第1の関数を一次関数として近似し得る所定範囲に限定されていることを特徴とする、請求項8に記載の空間光変調方法。
【請求項10】
前記補正演算ステップにおいて、次の数式
【数3】
(但し、Tは前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の前記位相変調量指示値、φ0は補正後の前記位相変調量指示値、αは前記係数)に基づいて、前記位相変調量指示値を補正することを特徴とする、請求項8または9に記載の空間光変調方法。
【請求項11】
前記関数がn次関数(nは2以上の整数)であり、前記第1の係数の個数がn個であることを特徴とする、請求項7に記載の空間光変調方法。
【請求項12】
前記補正演算ステップにおいて、次の数式
【数4】
(但し、Tは前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の前記位相変調量指示値、φ0は補正後の前記位相変調量指示値、β1…βnは前記n個の第1の係数)に基づいて、前記位相変調量指示値を補正することを特徴とする、請求項11に記載の空間光変調方法。
【請求項1】
一次元もしくは二次元に配列された複数の画素毎に入射光の位相を変調する空間光変調装置であって、
印加電界の大きさに応じて前記入射光の位相を変調する液晶層と、
前記液晶層の温度に応じた信号である温度信号を生成する温度センサと、
前記複数の画素毎に設けられ、前記印加電界を発生させる電圧を前記液晶層に印加する複数の画素電極と、
前記複数の画素電極に前記電圧を提供する電圧生成部と
を備え、
前記電圧生成部が記憶手段を有しており、該記憶手段には、前記液晶層の基準温度に対する温度変化量と前記液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数、並びに印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数が予め記憶されており、
前記電圧生成部は、前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度と、前記一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量の目標値である位相変調量指示値を補正するための演算を行ったのち、前記複数の第2の係数を使用して前記位相変調量指示値を印加電圧相当値に換算し、該印加電圧相当値に応じた前記電圧を前記複数の画素電極に提供する
ことを特徴とする、空間光変調装置。
【請求項2】
前記第1の関数が一次関数であり、前記第1の係数の個数が一つであることを特徴とする、請求項1に記載の空間光変調装置。
【請求項3】
前記電圧の範囲が、前記第1の関数を一次関数として近似し得る所定範囲に限定されていることを特徴とする、請求項2に記載の空間光変調装置。
【請求項4】
前記電圧生成部が、次の数式
【数1】
(但し、Tは前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の前記位相変調量指示値、φ0は補正後の前記位相変調量指示値、αは前記第1の係数)に基づいて、前記位相変調量指示値を補正することを特徴とする、請求項2または3に記載の空間光変調装置。
【請求項5】
前記第1の関数がn次関数(nは2以上の整数)であり、前記第1の係数の個数がn個であることを特徴とする、請求項1に記載の空間光変調装置。
【請求項6】
前記電圧生成部が、次の数式
【数2】
(但し、Tは前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の前記位相変調量指示値、φ0は補正後の前記位相変調量指示値、β1…βnは前記n個の第1の係数)に基づいて、前記位相変調量指示値を補正することを特徴とする、請求項5に記載の空間光変調装置。
【請求項7】
印加電界の大きさに応じて入射光の位相を変調する液晶層と、一次元もしくは二次元に配列された複数の画素毎に設けられ、前記印加電界を発生させる電圧を前記液晶層に印加する複数の画素電極とを用いる空間光変調方法であって、
前記液晶層の温度に応じた信号である温度信号を温度センサから取得する温度取得ステップと、
前記液晶層の基準温度に対する温度変化量と前記液晶層における位相変調量の変動量との相関を表す第1の関数に含まれる一又は複数の第1の係数、並びに印加電圧と位相変調量との相関を表す非線形関数である第2の関数に含まれる複数の第2の係数を予め記憶している記憶手段から該一又は複数の第1の係数を読み出し、前記温度信号に示された温度と、前記一又は複数の第1の係数とを使用して、位相変調量の目標値である位相変調量指示値を補正するための演算を行う補正演算ステップと、
前記記憶手段から前記複数の第2の係数を読み出し、前記複数の第2の係数を使用して前記位相変調量指示値を印加電圧相当値に換算する電圧換算ステップと、
前記印加電圧相当値に応じた前記電圧を前記複数の画素電極に提供する電圧印加ステップと
を含むことを特徴とする、空間光変調方法。
【請求項8】
前記第1の関数が一次関数であり、前記第1の係数の個数が一つであることを特徴とする、請求項7に記載の空間光変調方法。
【請求項9】
前記電圧の範囲が、前記第1の関数を一次関数として近似し得る所定範囲に限定されていることを特徴とする、請求項8に記載の空間光変調方法。
【請求項10】
前記補正演算ステップにおいて、次の数式
【数3】
(但し、Tは前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の前記位相変調量指示値、φ0は補正後の前記位相変調量指示値、αは前記係数)に基づいて、前記位相変調量指示値を補正することを特徴とする、請求項8または9に記載の空間光変調方法。
【請求項11】
前記関数がn次関数(nは2以上の整数)であり、前記第1の係数の個数がn個であることを特徴とする、請求項7に記載の空間光変調方法。
【請求項12】
前記補正演算ステップにおいて、次の数式
【数4】
(但し、Tは前記温度センサから提供された前記温度信号に示された温度、T0は基準温度、φTは補正前の前記位相変調量指示値、φ0は補正後の前記位相変調量指示値、β1…βnは前記n個の第1の係数)に基づいて、前記位相変調量指示値を補正することを特徴とする、請求項11に記載の空間光変調方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図12】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−168393(P2012−168393A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29915(P2011−29915)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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