説明

空間光学系分光器

【課題】 分光器光学系設計の自由度を確保しつつ、スペースをとらない空間光学系分光器を提供する。
【解決手段】入力ポート1から放出された光は、リトローレンズ2により、反射式平面グレーティング3の1点に集光されて分光反射される。分光反射された光は、再びリトローレンズ3を通って平行光束とされ、リレー光学系アレイ4の入側端面に、入力ポート1の出力端面のスペクトラム像Oを形成する。リレー光学系アレイ4に入射する際、リレー光学系アレイ4の各アレイ要素に入射する光は、一定波長間隔毎に分割されて、各分割区分に対応するアレイエレメントに入射する。各アレイエレメントに入射した光は、分割された複数波長帯の中心波長に対応する、リレー光学系アレイ4の入側端面に形成された前記スペクトラム像の共約像Iを出力ポートアレイ5の入側端面に形成するが、その際、この共約像Iの像点間距離がほぼ等間隔となるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光学系分光器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
WDM光通信は、信号伝送容量増大のため、所定の周波数(波長)間隔だけ離れた複数の異なる周波数(波長)の光それぞれに異なる信号を乗せた上で合波し、信号伝送する技術である。複数波長光の合波・分波手段はいろいろあるが、そのひとつとしてグレーティングなどの波長分散素子を用いた古典的な空間光学系による分光器もよく使われる。
【0003】
しかしながら、このような空間光学系分光器の波長分散特性は非線形であり、等間隔波周波数光(近似的には等間隔波長光)の入力ポートスペクトラム像結像間隔は等間隔にはならない。例えば分波・合波器として空間光学系分光器を使う場合、入出力ポートとして等間隔で配列された光ファイバアレイを用いることが多いが、このような分散非線形を持ったままでは、所定周波数光像列と光ファイバ中心がずれてしまうのではなはだ不都合である。
【0004】
そこで従来は、グレーティングを用いた空間光学系分光器において、グレーティングにプリズムを組み合わせて両者の波長分散特性における非線形性を相殺させることで線形な分散特性を得るものが広く使われている。(特開2000−304613号公報、特開2000−304614号公報、特開2000−321135号公報、特開2001−188023号公報)
【特許文献1】特開2000−304613号公報
【特許文献2】特開2000−304614号公報
【特許文献3】特開2000−321135号公報
【特許文献4】特開2001−188023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、分散線形化プリズムを組み入れることは分光器光学設計上の自由度を減殺させ、また光学系の大型化、高コスト化も招きやすいという欠点があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、分光器光学系設計の自由度を確保しつつ、スペースをとらない空間光学系分光器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための第1の手段は、単数または複数の入力ポートと、分光手段とを有し、かつ、所定の周波数間隔または波長間隔で前記入力ポートのスペクトラム像を区切って複数波長帯を設定したとき、前記スペクトラム像を区切った複数波長帯のひとつひとつに一対一で対応して存在し、前記複数波長帯の共役像を個々の前記波長帯ごとに形成する作用を受け持つリレー光学系がアレイ状に配列され、かつ前記複数波長帯の中心波長共役像点間距離が概ね等間隔となるよう、個々の前記リレー光学系の光軸間隔が不等間隔にされていることを特徴とする空間光学系分光器である。
【0008】
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段であって、スペクトラム分散方向についての、スペクトラム像複数波長帯各中心点に対する、前記各リレー光学系光軸設置位置の変位量が下式によって定められていることを特徴とするものである。
OK=Δx/(1+M)
ただし、
【0009】
【数1】

【0010】
であって、各変数の意味は以下の通りである。
Ok:k番目のスペクトラム像波長帯中心点に対するk番目のリレー光学系光軸設置位置の変位量
Δx:k番目のスペクトラム像波長帯中心点から、その波長帯中心点共役像への、リレー光学系光軸偏芯方向(スペクトラム波長分散方向に同じ)に沿った変位量
M:リレー光学系投影倍率(一定)
: k番目の波長帯中心点の座標
:k番目の波長帯中心点共役像の座標
P: 波長帯中心点共役像間隔(一定)
N: 波長帯総数
前記課題を解決するための第3の手段は、前記第1の手段又は第2の手段であって、前記リレー光学系が、平行光を入力した場合に概ね平行光を出力することを特徴とするものである。
【0011】
前記課題を解決するための第4の手段は、前記第3の手段であって、前記リレー光学系が、2群レンズから構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分光器光学系設計の自由度を確保しつつ、スペースをとらない空間光学系分光器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例である空間光学系分光器の構成を示す概要図である。オプティカルファイバからなる入力ポート1から放出された光は、リトローレンズ2によりコリメートされ、反射式平面グレーティング3(分光手段)によって分光反射される。分光反射された光は、再びリトローレンズ3を通って、リレー光学系アレイ4の入側端面に、入力ポート1の出力端面のスペクトラム像Oを形成する。
【0014】
なお、入力ポート1からの放射光束の主光線、及び反射式平面グレーティング3による分光反射後リトローレンズ2に戻り、これを通過した後の各波長光束の主光線が、互いに平行となるように、反射式平面グレーティング3とリトローレンズ2の間隔を定めてある。すなわち、リトローレンズ2の収差(主光線群についての球面収差)の影響が最小となり、上記平行条件をなるべく完全に満たすことができる点(それは、リトローレンズ2の焦点近傍に存在するが)に、図1に示すように反射式平面グレーティング3の反射点を置くようにしている。
【0015】
リレー光学系アレイ4に入射する際、リレー光学系アレイ4の各アレイ要素に入射する光は、一定波長間隔毎に分割されて、各分割区分に対応するアレイエレメントに入射する。各アレイエレメントに入射した光は、後に述べるようなリレー光学系アレイ4の作用により、分割された複数波長帯の中心波長に対応する、リレー光学系アレイ4の入側端面に形成された前記スペクトラム像Oの共約像Iを出力ポートアレイ5の入側端面に形成するが、その際、この共約像Iの像点間距離がほぼ等間隔となるようになる。よって、出力ポートアレイ5として、通常使用されている光ファイバアレイを使用した場合でも、分光された一定波長間隔毎の光を、その中心波長の光が、各光ファイバの中心点に入射するようにすることができる。なお、「ほぼ」とは、製造誤差、設計上の誤差により、完全な等間隔はならない場合でも、本発明の範囲に含まれることを意味する。
【0016】
以下、リレー光学系アレイ4の詳細を説明する。リレー光学系アレイ4は、図2、図3に示すように、その個々の光軸を、対応するスペクトラム像O中の波長帯中心点Oから波長分散方向に個々に異なる量偏芯させて設置されている。その結果、個々のリレー光学系エレメント(正パワー)41によって形成される個々のスペクトラム像波長帯中心点共役像Iは、波長分散方向についてスペクトラム像波長帯中心点からずれた位置に結像する。その偏芯量を適切な値に設定すれば、波長帯中心点共役像間隔を等間隔に補正することが可能となる。
【0017】
図2に、リレー光学系エレメントによる共役像のずれ方を図示する。リレー光学系アレイ4中の個々のリレー光学系による結像倍率をすべてのリレー光学系で一定とし、これをMとすると、アレイ中k番目のリレー光学系について、
【0018】
【数2】

【0019】
が成立する。
ただし、
Ok:k番目のスペクトラム像波長帯中心点Oに対するリレー光学系光軸のx軸方向偏芯量
Ik:k番目のスペクトラム像波長帯中心点Oのリレー光学系による共役像中心点Iの像高
Δx:スペクトラム像波長帯中心点Oから共役像中心点Iへのx軸に沿った変位量
:k番目のスペクトラム像波長帯中心点Oのx座標
k番目の共役像中心点Iのx座標
である。
逆に、変位量Δxを与えるリレー光学系光軸のx軸方向偏芯量LOkは、
【0020】
【数3】

【0021】
と表せる。
【0022】
上記のうち、xは、反射式平面グレーティング3の波長分散特性と、反射式平面グレーティング3とリトローレンズ2の位置関係により定まった値となる。よって、x’を等間隔となるように設定し、Δxを求め、(3)式によりx軸方向偏芯量LOkを求めてスペクトラム像波長帯中心点Oの位置よりLOkだけ変位した位置に、各リレー光学系エレメントの光軸を設定すれば、共役像中心点Iが等間隔となるようにすることができる。
【0023】
次に、このリレー光学系アレイ4における個々の偏芯量を総合的に最小化する条件について述べる。
【0024】
まず分波器によって形成されたスペクトラム像Oにおいて、所定の波長帯域区切りによって決められた複数波長帯の中心点1次元座標値が端から、
,x,x,・・・,x
であるとする。リレー光学系アレイによって形成されるこれらのスペクトラム像波長帯共役像中心点を、以下の座標位置に形成するとする。なお、座標原点は複数波長帯の中心点1次元座標と共通である。
x’,x’,x’,・・・,x’
両者の差、すなわち像のx軸に沿ったずれ量は、
Δx=x’−x (k=1〜N) … (4)
である。
【0025】
各共役像中心点間隔が一定値Pを取るとき、下式が成立する。
【0026】
【数4】

【0027】
Pとx’を変数として、Δxのkについての総和Sが最小になる条件を求める。
【0028】
【数5】

【0029】
であるから、SをPとx’で偏微分して極値を求めると以下の通りとなる。
【0030】
【数6】

【0031】
上記Pおよびx’を採用すれば、像横ずらし量Δx(k=1〜N)は総合的に最小値ですむ。
【0032】
次に、装置にとってより好都合となるリレー光学系の条件について述べる。WDM光通信で使われる空間光学系分光器のスペクトラム像においては、各波長の主光線が平行となるよう光学設計がなされることが多い。例えば出力ポートとして光ファイバアレイが用いられている場合、いずれの光ファイバでも等しく最高のカップリング効率を実現するため、いずれの波長光束の主光線も互いに平行である必要がある。
【0033】
そのためには、リレー光学系に入射した主光線と射出して来た主光線とが平行関係を保つようにすればよく、例えば図3に示すような近軸パワー構造とすればよい。
【0034】
図3に示した近軸光学系は、リレー光学系入射端と射出端にいわゆるフィールドレンズとしての作用を有する正パワー42、43を配置し、光学系中央部にリレー機能を有する正パワー41を配置している。正パワー42の後方焦点は正パワー43の前方焦点に一致しており、これらの焦点位置に正パワー41を配置する。また、正パワー42は入射点Oを含む平面上にあり、正パワー43は像点Iを含む平面上にある。
【0035】
これを具現化した例を図4に示す。リレー光学系1エレメントは、2枚の両凸レンズ401、402から構成される。両凸レンズ401の第1面42は図3における正パワー42に相当する。両凸レンズ第2面43は図3における正パワー43に相当する。両凸レンズ第2面411と両凸レンズ第1面412の2面で図2、3の正パワー41を構成する。両凸レンズ401と402は光軸を共軸状態として、ほぼ接して配置される。図4において、2点差線(想像線)は、完全なレンズを示すが、この部分は、両凸レンズ401、402の干渉を避けるため、実際には存在しない部分である。
【0036】
上記構成からなるリレー光学系エレメントが各光軸を平行にして配列され、リレー光学系アレイとなる。各光軸間隔は、先に述べた通りの個々の間隔固有の値を有する。このように、リレー光学系を2群のエレメント(レンズ)から構成するようにすれば、2組のレンズアレイを組み合わせて使用すればよく、製作が容易となる。また、以上の説明は分波器を例として行ったが、光を逆向きに進行させればもちろん同じものが合波器として機能することはいうまでもない。
【0037】
本発明によれば、空間光学系による分光器波長分散線形化を分光器本体とは独立的に、かつ小スペースで実現できる。波長分散線形化に用いるリレー光学系アレイは、マイクロレンズアレイ製造技術の応用で製作でき、大量生産すればごく安価に調達できる。また、リレー光学系アレイのベースを石英ガラスなど低線膨張係数材料で作れば、温度特性も安定したものにできる。本発明は本実施の形態で示した分波・合波器以外にも応用範囲は広い。例えば出力ポートアレイの代わりにMEMSミラーアレイを設置すれば、WSS(Wavelength Selective Switch;波長選択スイッチ)にも適用できる。
【実施例】
【0038】
図1に示すような光学系により、光ファイバからなる入力ポート1から放出された光を分光し、光ファイバアレイからなる出力ポート5に出力する光学系を構成した。
【0039】
表1に、この光学系の数値例を示す。なお、光学系は無収差として計算した。波長495nmから605nmまでの波長域を10nm間隔で区切った11波長帯を設定し、各波長帯中心波長についてのペクトラム像座標値を算出した。座標原点はリトローレンズ光軸上にとり、波長分散方向に沿ってx軸を設定した。図1における紙面に平行な方向であり、図上向方向に符号正をとった。
【0040】
(9)、(10)式から共役像点間隔Pと1番目の共役像点座標x’を算出し、次いですべてのあるべき共役像点座標を算出し、それらを実現するリレー光学系エレメント個々の偏芯量LOkを(3)式から算出した。なお、リレー倍率は0.8倍とした。表1を参照すると、Xの間隔が変化しているのにもかかわらず、X’の間隔はほぼ一定となっており、複数波長帯の中心波長共役像点間距離を概ね等間隔にするという、本空間光学系分光器の機能が発揮されていることが分かる。
【0041】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態の1例である空間光学系分光器の構成を示す概要図である。
【図2】リレー光学系エレメントによる共役像のずれ方を示す図である。
【図3】リレー光学系エレメントの近軸構造説明図である。
【図4】図3に示すリレー光学系エレメントを具現化した例を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1…入力ポート、2…リトローレンズ、3…反射式平面グレーティング、4…リレー光学系アレイ、5…出力ポートアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単数または複数の入力ポートと、分光手段とを有し、かつ、所定の周波数間隔または波長間隔で前記入力ポートのスペクトラム像を区切って複数波長帯を設定したとき、前記スペクトラム像を区切った複数波長帯のひとつひとつに一対一で対応して存在し、前記複数波長帯の共役像を個々の前記波長帯ごとに形成する作用を受け持つリレー光学系がアレイ状に配列され、かつ前記複数波長帯の中心波長共役像点間距離が概ね等間隔となるよう、個々の前記リレー光学系の光軸間隔が不等間隔にされていることを特徴とする空間光学系分光器。
【請求項2】
スペクトラム分散方向についての、スペクトラム像複数波長帯各中心点に対する、前記各リレー光学系光軸設置位置の変位量が下式によって定められていることを特徴とする請求項1に記載の空間光学系分光器。
OK=Δx/(1+M)
ただし、
【数1】

であって、各変数の意味は以下の通りである。
Ok:k番目のスペクトラム像波長帯中心点に対するk番目のリレー光学系光軸設置位置の変位量
Δx:k番目のスペクトラム像波長帯中心点から、その波長帯中心点共役像への、リレー光学系光軸偏芯方向(スペクトラム波長分散方向に同じ)に沿った変位量
M:リレー光学系投影倍率(一定)
: k番目の波長帯中心点の座標
:k番目の波長帯中心点共役像の座標
P: 波長帯中心点共役像間隔(一定)
N: 波長帯総数
【請求項3】
前記リレー光学系は、平行光を入力した場合に概ね平行光を出力することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空間光学系分光器。
【請求項4】
前記リレー光学系は、2群レンズから構成されていることを特徴とする請求項3に記載の空間光学系分光器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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