説明

穿刺器、バイオセンサ付穿刺器およびバイオセンサ測定装置

【課題】簡単な構造で、簡便に測定が行える穿刺器、バイオセンサ付穿刺器およびバイオセンサ測定装置を提供する。
【解決手段】穿刺器1は、バイオセンサチップ11が装着される装着室37を有したホルダ部3と、ホルダ部3の一方の面に設けられ、被検体に密着する吸盤部5と、ホルダ部3の他方の面に設けられ、装着室37に連通する容積可変キャビティ41内の穿刺用器具Nをバイオセンサチップ11の表面に垂直な方向で移動し、装着室37を貫通させて吸盤部5から突出させる穿刺部7と、ホルダ部3に設けられ、装着室37の負圧による外気流入を阻止する一方、装着室37の正圧による内部空気流出を可能とする逆流防止弁9と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺器、バイオセンサ付穿刺器およびバイオセンサ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、バイオセンサチップとランセットを一体化したバイオセンサが開示されている(例えば特許文献1参照)。
図7(A)は特許文献1に記載されているバイオセンサの斜視図、図7(B)はバイオセンサの分解斜視図である。
【0003】
図7に示すように、ランセット一体型のセンサ100は、チップ本体101、ランセット103、保護カバー105を有してなる。チップ本体101は、カバー101aと基板101bとを開閉可能に有しており、カバー101aの内面には内部空間102が形成されている。内部空間102は、ランセット103を移動可能に収納できる形状をしている。
【0004】
ランセット103の先端に設けられている針104は、ランセット103の移動に伴ってチップ本体101の内部空間102の前端部に形成されている開口部102aから出没可能となっている。
【0005】
内部空間101aの形状は、突起103aが位置する端部において、その幅がランセット103より若干狭くなるよう湾曲しており、互いの押圧力や摩擦力によってランセット103がチップ本体101に係止されるようになっている。
【0006】
保護カバー105は針104を挿嵌する管部105aを有しており、針104の移動に伴って管部105aもチップ本体101の内部に収納可能となっている。
従って、使用前の状態では、保護カバー105を針104に被せて、針104を保護するとともに誤って使用者を傷付けないようにしている。なお、基板101bには、一対の電極端子106が設けられており、測定装置(図示省略)に電気的に接続できるようになっている。
【0007】
使用時には、保護カバー105を外して、ランセット103を押して針104をチップ本体101から突出させる。この状態で被検体を穿刺した後、針104をチップ本体101内部に収納し、チップ本体101の前端に設けられている開口部102aを穿刺口に近づけて、流出した血液を採取する。
【0008】
【特許文献1】WO02−056769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されたランセット一体型のセンサ100は、チップ本体101の内方にランセット103が組み入れられて一体となるが、厳密にはチップ本体101とランセット103が別体構造であり、チップ本体101に対してランセット103が移動できる。このため、構造が複雑となり、製造が面倒であるとともに、センサ100の大型化を招いて製造コストが高くなるという不都合があった。
【0010】
また、従来のランセット一体型のセンサ100では、ランセット103を押し、突出させた針104によって被検体を穿刺した後、針104をチップ本体101内部に収納し、チップ前端の開口部102aを穿刺口に近づけて、流出した血液を採取する必要があり、穿刺、針収納、採取の操作を別々に行わなければならない。このため、1日数回の測定を行う場合には作業が煩雑となって利便性に欠ける問題があった。
さらに、従来のランセット一体型のセンサを用いた採血の測定では、測定成功確率を向上させるため、減圧式採血補助機構を備えることが望ましいが、気密室や減圧ポンプを設ければ構造が複雑となり、製造が面倒であるとともに、大型化を招いて製造コストが高くなる。そこで、簡単な構造で、しかも、簡便な動作で試料採取が行えるバイオセンサ付穿刺器が求められていた。
従って、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、簡単な構造で、簡便に測定が行える穿刺器、バイオセンサ付穿刺器およびバイオセンサ測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る上記目的は、バイオセンサチップが装着される装着室を有したホルダ部と、
前記ホルダ部の一方の面に設けられ、被検体に密着する吸盤部と、
前記ホルダ部の他方の面に設けられ、前記装着室に連通する容積可変キャビティ内の穿刺用器具を前記バイオセンサチップの表面に垂直な方向で移動し、前記装着室を貫通させて前記吸盤部から突出させる穿刺部と、
前記ホルダ部に設けられ、前記装着室の負圧による外気流入を阻止する一方、前記装着室の正圧による内部空気流出を可能とする逆流防止弁と、
を備えたことを特徴とする穿刺器により達成される。
【0012】
上記構成の穿刺器によれば、吸盤部を被検体に押し当てた状態で、容積可変キャビティ内の穿刺用器具が穿刺部による移動方向とは逆方向に移動され、穿刺準備位置に配置されると、この移動によって増大した容積可変キャビティ内の容積により負圧が生じ、負圧が装着室を介して吸盤部に作用し、吸盤部が被検体に密着する。
【0013】
穿刺準備位置に移動された穿刺用器具は、穿刺部によりバイオセンサチップの表面に垂直な方向で移動され、装着室を貫通して吸盤部から突出され、穿刺が行われる。
この際、正圧となった容積可変キャビティ内及び装着室内の空気は、逆流防止弁から外部へ流出する。内部空気を流出させ収縮した容積可変キャビティが復元力によって元の容積に戻ろうとすると、逆流防止弁が閉止され、容積可変キャビティ内が負圧となる。この負圧が装着室及び吸盤部を介して被検体の穿刺口に作用し、流出した試料が装着室へと吸引される。したがって、穿刺器の穿刺用器具を穿刺準備位置に移動させて、穿刺部を動作させるだけで、穿刺、試料吸引までが可能となる。
【0014】
尚、上記構成の穿刺器において、前記穿刺部が、前記容積可変キャビティを形成する弾性壁によって構成されることが望ましい。
【0015】
このような構成の穿刺器によれば、穿刺用器具を備える容積可変キャビティが気密性を確保して形成できるとともに、容積可変キャビティを伸縮自在にし、伸長時の穿刺駆動力の発生、並びに収縮から復元時の試料吸引負圧の発生を、他部材を使用せずに、弾性壁の弾性力のみにより、簡単な構造で実現することができる。また、弾性壁の伸縮性を変えることで、採血の吸引力も変えることができる。
【0016】
また、上記構成の穿刺器において、前記ホルダ部と、前記吸盤部と、前記穿刺部とが、軟質材料にて一体成形されることが望ましい。
【0017】
このような構成の穿刺器によれば、ホルダ部と吸盤部と穿刺部とが、単一材料によって一体成形されるので、製造を容易にして、製造コストを安価にできるとともに、穿刺部、ホルダ部、及び吸盤部の内部が、連続した一つの気密構造で形成できる。また、吸盤部の被検体に対する密着性を高めることができ、負圧を確実に穿刺口に作用させることが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る上記目的は、上記のいずれか1つの穿刺器と、前記ホルダ部に装着されたバイオセンサチップと、を有するバイオセンサ付穿刺器であって、
前記バイオセンサチップが、
スペーサ層を挟装して対向する2枚の電気絶縁性の基板と、
少なくとも一方の前記基板におけるスペーサ層側の表面に設けられた2つの検知用電極と、
2枚の前記基板間における2つの前記検知用電極の対向部分に形成された中空反応部と、
前記中空反応部に連通して前記穿刺用器具が貫通する試料採取口と、
前記中空反応部における前記検知用電極の近傍に設けられた試薬と、
を備えたことを特徴とするバイオセンサ付穿刺器により達成される。
【0019】
上記構成のバイオセンサ付穿刺器によれば、穿刺用器具により穿刺がなされ、容積可変キャビティ内の負圧が穿刺口に作用し、流出した試料が装着室へと吸引されると、装着室に装着されたバイオセンサチップの試料採取口に、試料が毛管現象によって進入する。
試料採取口に進入した試料が試薬に接触すると、試薬が試料によって溶解され、酵素反応が開始される。酵素反応が開始された結果、電子伝達体が蓄積され、一定時間蓄積された電子伝達体は、電気化学反応により酸化される。したがって、穿刺器の穿刺用器具を穿刺準備位置に移動させて、穿刺部を動作させるだけで、穿刺、試料吸引、吸引試料の電気化学反応までが可能となる。
【0020】
また、本発明に係る上記目的は、上記のバイオセンサ付穿刺器と、前記バイオセンサチップに接続された測定器と、を有するバイオセンサ測定装置であって、
前記測定器が、
前記ホルダ部に装着された前記バイオセンサチップの電気的な値を計測する制御部と、
前記制御部に接続された計測のためのスイッチと、
前記制御部に接続されて計測値を表示する表示部と、
前記制御部に接続されて計測値を保存するメモリ部と、
を備えたことを特徴とするバイオセンサ測定装置により達成される。
【0021】
上記構成のバイオセンサ測定装置によれば、穿刺用器具により穿刺がなされ、容積可変キャビティ内の負圧の作用によって、流出した試料が装着室へと吸引されると、装着室に装着したバイオセンサチップの試薬が試料によって溶解される。この溶解によって酵素反応が開始され、一定時間蓄積された電子伝達体が、電気化学反応により酸化される。制御部は、このとき計測される検知用電極からの電流値に基づき、基質濃度を演算・決定し、表示部に表示する。したがって、穿刺器の穿刺用器具を穿刺準備位置に移動させて、穿刺部を動作させるだけで、穿刺、試料吸引、吸引試料の電気化学反応、反応に基づく検出値の演算・決定、表示までが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る穿刺器、バイオセンサ付穿刺器およびバイオセンサ測定装置によれば、穿刺器の穿刺用器具を穿刺準備位置に移動させて、穿刺部を動作させるだけで、穿刺、試料吸引等が可能となり、簡単な構造で、簡便に穿刺や測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて本発明の一実施形態に係る穿刺器、バイオセンサ付穿刺器およびバイオセンサ測定装置を詳細に説明する。
なお、今回開示される実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、下記する意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0024】
図1は本発明の一実施形態に係る穿刺器及びバイオセンサチップを示す外観図である。
本実施形態に係る穿刺器1は、図1に示すように、ホルダ部3と、吸盤部5と、穿刺部7と、逆流防止弁9とに大別される主要構成部を備えている。
穿刺器1は、板状に形成されたバイオセンサチップ11をホルダ部3に装着可能としている。そして、穿刺器1は、この装着したバイオセンサチップ11の面に垂直な方向で、後述の穿刺用器具N(図4参照)が移動されて穿刺が行われる。
【0025】
この穿刺器1は、後述するようにバイオセンサチップ11を装着して、バイオセンサ付穿刺器13(図4参照)を構成する。さらに、このバイオセンサ付穿刺器13は、測定器15(図5参照)をバイオセンサチップ11に接続することで、バイオセンサ測定装置17を構成することができる。
【0026】
先ず、バイオセンサチップ11について説明する。
図2は図1に示した穿刺器に装着されるバイオセンサチップの平面視を(A),A−A断面を(B),B−B断面を(C)に表した構成図であり、図3は図2に示したバイオセンサチップの分解平面図である。
【0027】
バイオセンサチップ11は、図2及び図3に示すように、互いに対向する2枚の基板19a,19bと、この2枚の基板19a,19b間に挟装されるスペーサ層21とを有している。
2枚の基板19a,19bの少なくとも一方の基板19aにおけるスペーサ層21側の表面には、2つの検知用電極23a,23bが設けられており、先端部(図2において上端部)は互いに対向する方向へL字状に曲げられて、所定間隔を保持している。
【0028】
バイオセンサチップ11の後端部11aにおいては、基板19aが基板19bおよびスペーサ層21よりも延出しており、検知用電極23a,23bが基板19a上に露出している。
検知用電極23a,23bは、作用極と対極で形成される2極法または作用極と対極、参照極で形成される3極法、あるいはそれ以上の極数の電極法であってもよい。ここで、3極法を採用すると、測定対象物質の電気化学測定の他に、血液を試料として測定する際には、導入される採血の移動速度の計測ができ、これによりヘマトクリット値が測定できる。また、2組以上の電極系で構成されていても良い。
【0029】
更に、バイオセンサチップ11の先端から、2つの検知用電極23a,23bが対向している部分にかけて、2枚の基板19a,19b及びスペーサ層21により中空反応部25が形成されている。
スペーサ層21は、接着剤層27と、レジスト層29とを積層してなる。スペーサ層21及び接着剤層27は、スクリーン印刷法により形成することができる。接着剤層27としては、例えばアクリル樹脂系接着剤などが用いられ、約5〜500μmm、好ましくは約10〜100μmの厚さで形成される。接着剤層27はスペーサとしても作用する。また、接着剤層27中に試薬を含有させてもよい。
【0030】
基板19aの先端側には、中空反応部25に連通し、後述の穿刺用器具N(図4参照)を貫通させる試料採取口31が穿設される。基板19bには、中空反応部25に連通し、試料採取口31と同軸となって穿刺用器具Nを貫通させる貫通孔33が穿設される。
接着剤層27及びレジスト層29には、中空反応部25を形成する長穴部27a,29aが形成される。基板19bの開口穴35は、中空反応部25に通じている。
【0031】
中空反応部25においては、検知用電極23a,23bは露出しており、中空反応部25における検知用電極23a,23bの直上或いは近傍に、例えば酵素とメディエータを固定化し試料中の成分(例えば、血液中のグルコース)と反応して電流を発生する不図示の試薬が設けられている。従って、中空反応部25は、試料採取口29から採取された例えば血液等の試料が、試薬と生化学反応する部分となる。
試料採取口31の周辺及び中空反応部25に、界面活性剤や脂質を塗布することもできる。界面活性剤や脂質を塗布することにより、試料の移動を円滑にさせることが可能となる。
【0032】
試薬としては、例えばグルコースオキシダーゼ(GOD)やグリコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、コレステロールオキシダーゼ、ウリガーゼ等の酵素と、フェリシアン化カリウム、フェロセン、ベンゾキノン等の電子受容体が挙げられる。また、血液を試料とする場合には、被検体の採血負担を考慮すると、中空反応部25の容積は1μL(マイクロリットル)以下が好ましく、特に300nL(ナノリットル)以下であることが好ましい。このような微小な中空反応部25とすることで、穿刺用器具Nの直径は小さくても検体の充分な血液量が採取可能となる。また、穿刺用器具Nは、直径が1000μm以下であることが好ましい。
【0033】
基板19a,19bおよびスペーサ層21の材質としては、絶縁性材料のフィルムが選ばれ、絶縁性材料としては、セラミックス、ガラス、紙、生分解性材料(例えば、ポリ乳酸微生物生産ポリエステル等)、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂、UV硬化樹脂等のプラスチック材料を例示することができる。機械的強度、柔軟性、及びチップの作製や加工の容易さ等から、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック材料が好ましい。代表的なPET樹脂としては、メリネックスやテトロン(以上、商品名、帝人デュポンフィルム株式会社製)、ルミラー(商品名、東レ株式会社製)等が挙げられる。
【0034】
図4は穿刺器にバイオセンサチップを装着したバイオセンサ付穿刺器の縦断面図である。
上述のように、穿刺器1はバイオセンサチップ11を装着することでバイオセンサ付穿刺器13を構成する。以下、バイオセンサ付穿刺器13の一構成部として、穿刺器1を説明する。
【0035】
図4に示すように、穿刺器1にはホルダ部3が設けられ、ホルダ部3はバイオセンサチップ11を装着する装着室37を有する。
ホルダ部3の一方の面(図4の下面)には、円形状の吸盤部5が設けられ、吸盤部5は凹曲面5aが被検体Mに密着する。吸盤部5の中心部には穿刺穴39が開口し、穿刺穴39は装着室37に連通し、装着室37に装着されたバイオセンサチップ11の試料採取口31と一致する。
【0036】
ホルダ部3の他方の面(図4の上面)には、逆円錐体の穿刺部7が設けられ、穿刺部7は内部に容積可変キャビティ41を有する。容積可変キャビティ41は、連通口41aを介して装着室37に連通する。容積可変キャビティ41の内部には、連通口41aに向けて穿刺用器具Nが軸線方向に垂設されている。
穿刺用器具Nとしては、例えば中空の注射針や、ランセット(lancet;槍状刀)針や、カニューレ(cannula;套管)等が挙げられる。本実施の形態では、穿刺用器具Nの一例としてランセット針が例示されている。また、穿刺用器具Nは、使用されるまで容積可変キャビティ41内に衛生的に収納されている必要があることから、抗菌・抗ウィルスに効果がある光触媒機能を針の表面に付与させても良い。その場合、酸化チタンまたは二酸化チタンの膜が望ましい。
【0037】
穿刺用器具Nは、容積可変キャビティ41が下方向へ変形することで、バイオセンサチップ11に対して垂直方向に移動され、装着室37のバイオセンサチップ11を貫通して吸盤部5の穿刺穴39から突出する。すなわち、穿刺用器具Nは、貫通孔33、中空反応部25、試料採取口31、穿刺穴39を通り突出する。容積可変キャビティ41の上面には、手指或いは不図示の駆動手段によって引き上げられる把持部43が突設されている。
【0038】
本実施形態の穿刺部7は、容積可変キャビティ41を形成する弾性壁45によって構成されている。穿刺部7が弾性壁45によって構成されることで、穿刺用器具Nを備える容積可変キャビティ41が気密性を確保して形成できるとともに、容積可変キャビティ41を伸縮自在にし、伸長時の穿刺駆動力の発生、並びに収縮から復元時の試料吸引負圧の発生を、他部材を使用せずに、弾性壁45の弾性力のみにより、簡単な構造で実現することができる。また、弾性壁45の伸縮性を変えることで、採血の吸引力も変えることができる。
【0039】
また、本実施形態の穿刺器1において、ホルダ部3と吸盤部5と穿刺部7とは、軟質材料にて一体成形されている。そこで、製造を容易にして、製造コストを安価にできるとともに、容積可変キャビティ41を構成している穿刺部7、装着室37及び吸盤部5の内部が、連続した一つの気密構造で形成できる。
また、吸盤部5の被検体Mに対する密着性を高めることができ、負圧を確実に穿刺口に作用させることが可能となる。軟質材料とは、ゲル状の弾性材料、発泡性材料などが好ましく、例えば、シリコーン、ウレタン、アクリル、エチレン、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、プロピレン、クロロプレン等のポリマー単体若しくは共重合したポリマーからなるゴム若しくはスポンジ、ポリエチレン、及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン及びパーフルオロアルコキシエチレンとポリフルオロエチレンの共重合体であるPFA等のフッ素樹脂が例示される。
【0040】
ホルダ部3には、逆流防止弁9が設けられている。逆流防止弁9は、装着室37の負圧による外気流入を阻止する一方、装着室37の正圧による内部空気流出を可能としている。すなわち、容積可変キャビティ41の容積が増大すると閉じ、容積可変キャビティ41の容積が減少すると開く。
【0041】
これにより、吸盤部5を被検体Mに押し当てた状態で、穿刺部7の把持部43を引き上げて、容積可変キャビティ41容積を増大させれば、逆流防止弁9が閉じて負圧が発生する。なお、装着室37のバイオセンサチップ11の挿入開口は、バイオセンサチップ11が装着された際に、不図示のガスケットによって挿入開口とバイオセンサチップ11との間隙が気密シールされる。これにより、容積可変キャビティ41の気密性が確保されるようになっている。
【0042】
次に、バイオセンサ付穿刺器13の動作を説明する。
図5はバイオセンサ付穿刺器の穿刺準備から試料採取までを(A)〜(C)に表した動作説明図である。
小型のバイオセンサ付穿刺器13は、例えば、使用者が片手で持つことが可能なハンディタイプとなり、使用者が自分で使用できるようになっている。バイオセンサ付穿刺器13を使用するには、先ず、バイオセンサチップ11を一つ用意し、このバイオセンサチップ11をホルダ部3の装着室37に挿入する。
【0043】
次いで、図5(A)に示すように、被検体Mに吸盤部5を押し当てて、穿刺部7を移動、すなわち把持部43を引き上げる。
穿刺部7が移動されると、容積可変キャビティ41内の穿刺用器具Nが穿刺部7による移動方向とは逆方向(図中上方)に移動され、図5(A)に示す穿刺準備位置に配置されると、この移動によって増大した容積可変キャビティ41内の容積により負圧が生じ、負圧が装着室37を介して吸盤部5に作用し、吸盤部5が被検体Mに密着する。
そこで、吸盤部5が被検体Mに密着することにより、位置ズレが防止され、穿刺予定位置が正確に穿刺される。また、吸盤部5の吸着により、穿刺予定部分の皮膚が盛り上がって痛みの少ない良好な穿刺が可能となる。
【0044】
把持部43の保持が解除されると、図5(B)に示すように、容積可変キャビティ41が収縮し、穿刺用器具Nが装着室37を貫通して吸盤部5から突出され、穿刺が行われる。この際、正圧となった容積可変キャビティ41内及び装着室37内の空気は、逆流防止弁9から外部へ流出する。
【0045】
内部空気を流出させ収縮した容積可変キャビティ41が弾性壁の復元力によって元の容積に戻ろうとすると、図5(C)に示すように、逆流防止弁9が閉止され、容積可変キャビティ41内が負圧となる。この負圧が装着室37及び吸盤部5を介して穿刺口に作用し、流出した試料Bが装着室37に装着されたバイオセンサチップ11の試料採取口31へと吸引される。
【0046】
更に、バイオセンサチップ11を装着したバイオセンサ付穿刺器13では、穿刺部7により穿刺がなされ、容積可変キャビティ41内の負圧が穿刺口に作用し、流出した試料Bが装着室37へと吸引されると、装着室37に装着されたバイオセンサチップ11の試料採取口31に、試料Bが毛管現象によって進入する。
【0047】
試料採取口31に進入した試料Bが試薬に接触すると、試薬が試料Bによって溶解され、酵素反応が開始される。酵素反応が開始される結果、反応層に共存させているフェリシアン化カリウムが還元され、還元型の電子伝達体であるフェロシアン化カリウムが蓄積される。その量は、基質濃度、例えば血液中のグルコース濃度に比例する。一定時間蓄積された還元型の電子伝達体は、電気化学反応により、酸化される。
したがって、バイオセンサ付穿刺器13では、穿刺器1の穿刺用器具Nを穿刺準備位置に移動させて、穿刺部7を動作させるだけで、穿刺、試料吸引、吸引試料の電気化学反応までが可能となる。
【0048】
上述した本実施形態の穿刺器1によれば、バイオセンサチップ11の表面に垂直な方向で穿刺用器具Nが移動され、バイオセンサチップ11が装着される装着室37を有したホルダ部3と、ホルダ部3の一方の面に設けられた吸盤部5と、ホルダ部3の他方の面に設けられ、装着室37に連通する容積可変キャビティ41内の穿刺用器具Nを吸盤部5から突出させる穿刺部7と、ホルダ部3に設けられ、装着室37の負圧による外気流入を阻止する一方、正圧による内部空気流出を可能とする逆流防止弁9とを備えたので、簡単な構造で簡便に穿刺を行うことができる。
【0049】
また、穿刺器1とバイオセンサチップ11とにより構成したバイオセンサ付穿刺器13によれば、バイオセンサチップ11が、スペーサ層21を挟装して対向する2枚の電気絶縁性基板19a,19bと、一方の基板19aにおけるスペーサ層側の表面に設けられた2つの検知用電極23a,23bと、2枚の電気絶縁性基板19a,19b間における2つの検知用電極23a,23bの対向部分に形成された中空反応部25と、中空反応部25に連通して穿刺用器具Nが貫通する試料採取口31と、中空反応部25の検知用電極近傍に設けられた試薬とを備えたので、簡単な構造で、穿刺に加え、流出試料と試薬との反応も簡便に行うことができる。
【0050】
次に、バイオセンサ付穿刺器13と測定器15とからなるバイオセンサ測定装置17について説明する。
図6は、バイオセンサ付穿刺器に測定器を設けたバイオセンサ測定装置の概略構成図である。
バイオセンサ付穿刺器13は、例えばホルダ部3に装着されたバイオセンサチップ11に測定器15を接続して、バイオセンサ測定装置17として構成できる。測定器15には、ホルダ部3に装着されたバイオセンサチップ11の電気的な値を計測する制御部47と、制御部47に接続された計測のためのスイッチ49と、制御部47に接続されて計測値を表示する表示部51と、制御部47に接続されて計測値を保存するメモリ部53と、電源55とが設けられており、これらが互いに電気的に接続されている。
【0051】
測定器15には、バイオセンサチップ11の後端部11aを挿入して固定するとともに、検知用電極23a,23bと導通して制御部47へ導通させる不図示の端子挿入部が設けられている。この端子挿入部を介して、バイオセンサチップ11の検知用電極23a,23bによって検知した試料Bと試薬との反応情報が、制御部47に伝達される。
測定器15では、スイッチ49の操作により、制御部47がメモリ部53に対して読み込みを行い、累積記憶された測定結果の履歴が順次過去のもの、或いは順次現在に近いものから表示部51に表示されるようになっている。
【0052】
測定器15の制御部47における計測方法としては、特に限定はしないがポテンシャルステップクロノアンペロメトリー法、クーロメトリー法またはサイクリックボルタンメトリー法などを用いることができる。
【0053】
次に、血糖値測定を例に挙げ説明する。
バイオセンサチップ11は、GOD又はGDHの酵素とフェリシアン化カリウムを試薬として、中空反応部25に設けている。測定器15は、種々の補正機構についても備えることができる。血糖測定における重要な補正として、温度補正およびヘマトクリット値がある。温度補正は、血糖測定に使用される酵素の活性が温度の影響を受け易いので、特に測定時間を短縮する場合には重要である場合が多い。また、ヘマトクリット値も血糖値測定に影響を与える要因である。ヘマトクリット値の測定は、例えばバイオセンサチップ(血糖値センサチップ)11内の採血の移動速度から推測することも可能である。その手段としては、例えば3本の電極を使用して、採血がはじめの2本を通過した時刻と、3本目を通過した時刻を求め、その時間差と電極間距離から採血の移動速度を算出することもできる。
その他、バイオセンサチップ11のロットなどの違いによる測定値の変動を抑える必要がある。その場合、ロット毎に自動で校正が行える機能を備えてもよい。
【0054】
本実施形態のバイオセンサ測定装置(血糖値センサ測定装置)17では、穿刺部7により穿刺がなされ、負圧の作用によって、流出した試料Bが装着室37へと吸引されると、装着室37に装着したバイオセンサチップ11の試薬が試料Bによって溶解される。この溶解によって酵素反応が開始され、一定時間蓄積された還元型の電子伝達体が、電気化学反応により酸化される。
【0055】
制御部47は、このとき計測される検知用電極23a,23bからの電流値に基づき、血糖値を演算・決定し、表示部51に表示する。
したがって、穿刺器1の穿刺用器具Nを穿刺準備位置に移動させて、穿刺部7を動作させるだけで、穿刺、試料吸引、吸引試料の電気化学反応、グルコース濃度(血糖値)の演算・決定、表示までが可能となる。
【0056】
このように、本実施形態のバイオセンサ測定装置17によれば、バイオセンサ付穿刺器13と測定器15を有し、測定器15が、バイオセンサチップ11の電気的な値を計測する制御部47と、計測のためのスイッチ49と、計測値を表示する表示部51と、計測値を保存するメモリ部53とを備えたので、簡単な構造で、穿刺、試料Bと試薬との反応に基づく検出値の演算・決定、表示までを簡便に行うことができる。特に、糖尿病の患者では、一日に数回血糖値を測定する必要があるので、その効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係る穿刺器及びバイオセンサチップを示す外観図である。
【図2】図1に示した穿刺器に装着されるバイオセンサチップの平面視を(A),A−A断面を(B),B−B断面を(C)に表した構成図である。
【図3】図2に示したバイオセンサチップの分解平面図である。
【図4】穿刺器にバイオセンサチップを装着したバイオセンサ付穿刺器の縦断面図である。
【図5】バイオセンサ付穿刺器の穿刺準備から試料採取までを(A)〜(C)に表した動作説明図である。
【図6】バイオセンサ付穿刺器に測定器を設けたバイオセンサ測定装置の概略構成図である。
【図7】(A)は従来のバイオセンサチップを示す斜視図である。(B)は従来のバイオセンサチップを示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
1…穿刺器
3…ホルダ部
5…吸盤部
7…穿刺部
9…逆流防止弁
11…バイオセンサチップ
13…バイオセンサ付穿刺器
15…測定器
17…バイオセンサ測定装置
19a,19b…電気絶縁性の基板
21…スペーサ層
23a,23b…検知用電極
25…中空反応部
31…試料採取口
37…装着室
41…容積可変キャビティ
45…弾性壁
47…制御部
49…スイッチ
51…表示部
53…メモリ部
M…被検体
N…穿刺用器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオセンサチップが装着される装着室を有したホルダ部と、
前記ホルダ部の一方の面に設けられ、被検体に密着する吸盤部と、
前記ホルダ部の他方の面に設けられ、前記装着室に連通する容積可変キャビティ内の穿刺用器具を前記バイオセンサチップの表面に垂直な方向で移動し、前記装着室を貫通させて前記吸盤部から突出させる穿刺部と、
前記ホルダ部に設けられ、前記装着室の負圧による外気流入を阻止する一方、前記装着室の正圧による内部空気流出を可能とする逆流防止弁と、
を備えたことを特徴とする穿刺器。
【請求項2】
前記穿刺部が、前記容積可変キャビティを形成する弾性壁によって構成されることを特徴とする請求項1に記載の穿刺器。
【請求項3】
前記ホルダ部と、前記吸盤部と、前記穿刺部とが、軟質材料にて一体成形されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の穿刺器。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の穿刺器と、前記ホルダ部に装着されたバイオセンサチップと、を有するバイオセンサ付穿刺器であって、
前記バイオセンサチップが、
スペーサ層を挟装して対向する2枚の電気絶縁性の基板と、
少なくとも一方の前記基板におけるスペーサ層側の表面に設けられた2つの検知用電極と、
2枚の前記基板間における2つの前記検知用電極の対向部分に形成された中空反応部と、
前記中空反応部に連通して前記穿刺用器具が貫通する試料採取口と、
前記中空反応部における前記検知用電極の近傍に設けられた試薬と、
を備えたことを特徴とするバイオセンサ付穿刺器。
【請求項5】
請求項4記載のバイオセンサ付穿刺器と、前記バイオセンサチップに接続された測定器と、を有するバイオセンサ測定装置であって、
前記測定器が、
前記ホルダ部に装着された前記バイオセンサチップの電気的な値を計測する制御部と、
前記制御部に接続された計測のためのスイッチと、
前記制御部に接続されて計測値を表示する表示部と、
前記制御部に接続されて計測値を保存するメモリ部と、
を備えたことを特徴とするバイオセンサ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−112416(P2009−112416A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286632(P2007−286632)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】