説明

穿刺器具

【課題】穿刺針を確実に皮膚の所定の部位に穿刺することができる穿刺器具を提供すること。
【解決手段】穿刺器具1は、穿刺針411により皮膚(真皮D)を穿刺するものである。この穿刺器具1は、移動可能に保持された穿刺針411と、体表面に固定される平面2aを有する固定部2と、底面部5aと穿刺針を挿入するための挿入部5cを備えた周壁部5bとで構成された、内部に空間51を有する本体部5と、前記空間の空気を吸引する吸引手段6と、を備え、前記吸引手段6により前記空間51の空気を吸引して前記空間51を減圧することにより、前記皮膚を前記空間51内に隆起させ、前記穿刺針411を、前記固定部2に沿って移動させて前記挿入部5cに挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺するように構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺器具に関し、皮膚の表面より穿刺して所定部位(例えば真皮)に対して用いられる穿刺器具に関する。
【背景技術】
【0002】
真皮は、表皮や皮下組織と比較すると毛細血管の密度が高く、またリンパ末端が存在するため、特に直接注入された薬剤は血管あるいはリンパ管に移行し、体液中に吸収される吸収速度が速いことが知られている。特に、真皮では、ホルモン、抗体医薬品、サイトカインなどの高分子物質を用いた薬剤を効率よく血液に吸収させることができる。また、真皮は効率の良い免疫の場であることが知られており、ワクチンの投与量を節約したり、弱いワクチンの感作を増強したりすることができる。
【0003】
また、真皮は、成人の人間では体表面(角質層の表面)から略一定の深さに存在することが知られている。このことは、言い換えれば、真皮に薬剤を注入する場合には、これらの人間に対しては、同じ長さ(深さ)の穿刺針を用いることができることを意味している。
【0004】
一般に、真皮の幅は、体表面に対して垂直方向を基準とすると、1mm〜4mm(平均値は1mm〜2mm)程度であり、また、図8に示すように、真皮は、角質層を含んだ幅0.06mm〜0.1mm程度の表皮Eと、皮下組織Sとの間に挟まれるようにして皮膚内に存在する。
【0005】
従って、表皮と皮下組織の間にする存在する真皮に、穿刺器具の先端部、例えば穿刺針の針先を正確に挿入することは難しく、誤って針先が皮下組織等に挿入されてしまうと、薬剤を効率よく吸収させることができないという問題が生じる。
【0006】
近年、例えば、前述した高分子医薬品を持続的に若しくはワンショットで真皮をターゲットとして投与することが試みられているが、このような場合、特に上述した問題が顕著になる。
【0007】
ここで、体内の真皮に薬剤を注入するために、体内に挿入される穿刺針の長さを規定した皮下注射装置が知られている(特許文献1)。また、皮膚内に存在する特定の層に薬剤を注入するために、皮膚内に挿入される穿刺針の深さ(挿入深さ)を所定の長さに規定し、体表面に対して垂直方向から穿刺針を皮膚内に挿入する薬液注入装置も知られている(特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】特開2001−137343号公報
【特許文献2】特開2005−87519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの装置では、体表面に対して垂直方向から穿刺針が皮膚内に挿入される構成が採用されている。この場合、表皮の最外層である角質層は他の組織と比べて弾力に富むので、穿刺針を穿刺しようとすると、皮膚全体が弾性的に窪んで穿刺されず、また穿刺されても針先が真皮まで達しないことがある。
【0010】
また、真皮に対して垂直に穿刺針が挿入されると、真皮内における穿刺針の深さ(挿入深さ)が短くなり、例えば外部から何らかの衝撃等が加えられたような場合には、薬剤注入中の穿刺針が真皮から抜けてしまうという問題が生じてしまう。
【0011】
さらに、これらの装置を用いた場合には、真皮において、真皮の表面(表皮と真皮の境目)に形成された穿刺針の挿入口から、穿刺針の先端にある薬剤放出口までの距離が短くなり、薬剤放出口から真皮に注入された薬剤が、挿入口から真皮の外(表皮)へ漏れてしまうという問題も生じてしまう。
【0012】
本発明の目的は、上述の問題点を考慮し、穿刺針を確実に皮膚の所定の部位に穿刺することができる穿刺器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的は、下記(1)〜(7)の本発明により達成される。
(1)皮膚を穿刺針により穿刺する穿刺器具であって、
移動可能に保持された穿刺針と、
体表面に固定される平面を有する固定部と、
底面部と前記穿刺針を挿入するための挿入部を備えた平面状の周壁部とで構成された、内部に空間を有する本体部と、
前記空間の空気を吸引する吸引手段と、を備え、
前記吸引手段により前記空間の空気を吸引して前記空間を減圧することにより、前記皮膚を前記空間内に隆起させ、
前記穿刺針を、前記固定部に沿って移動させて前記挿入部に挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺する構成としたこと
を特徴とする穿刺器具。
【0014】
(2)前記本体部は箱型形状であることを特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0015】
(3)前記挿入部は複数の挿入孔で構成され、
複数の穿刺針を、前記固定部に沿って移動させて前記複数の挿入孔に挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺する構成としたこと
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0016】
(4)前記底面部の体表面側には、皮膚粘着手段が設けられていること
を特徴とする上記(1)に記載の穿刺器具。
【0017】
(5)皮膚を穿刺針により穿刺する穿刺器具であって、
移動可能に保持された穿刺針と、
体表面に固定される平面を有する固定部と、
側面部と上方に向って湾曲する曲面を有する曲面部とで構成された、内部に空間を有する本体部と、
前記側面に形成された前記穿刺針を挿入するための挿入部と、
前記空間の空気を吸引する吸引手段と、を備え、
前記吸引手段により前記空間の空気を吸引して前記空間を減圧することにより、前記皮膚を前記空間内に隆起させ、
前記穿刺針を、前記固定部に沿って移動させて前記挿入部に挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺する構成としたこと
を特徴とする穿刺器具。
【0018】
(6)前記挿入部は複数の挿入孔で構成され、
複数の穿刺針を、前記固定部に沿って移動させて前記複数の挿入孔に挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺する構成としたこと
を特徴とする上記(5)に記載の穿刺器具。
【0019】
(7)前記曲面部の体表面側には、皮膚粘着手段が設けられていること
を特徴とする上記(5)に記載の穿刺器具。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、穿刺針を、皮膚より穿刺して、所定の部位に確実に到達させることができる。また、薬剤を確実に所定の部位に注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の穿刺器具を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0022】
<第1実施形態>
まず、本発明の穿刺器具1の第1実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の穿刺器具の第1実施形態を示す斜視図である。図2は、図1中のA−A線の断面図を示したものである。また、図3及び図4は、図1に示す穿刺器具の使用方法を説明するための図(断面図)である。なお、以下では、図2乃至図4の右側を「基端」、左側を「先端」として説明する。
【0024】
図1に示す穿刺器具1は、固定部である粘着パッド2と、皮膚を変形して隆起させる皮膚変形手段3と、穿刺針411を移動可能に保持する穿刺針移動手段4とを備えている。
【0025】
粘着パッド2は、全体に丸みがあり、その外周の一部に対向する凹部が形成されている形状、いわゆる翼状形状を有するように形成されている。
【0026】
なお、粘着パッド2の翼状形状は、穿刺針移動手段4が載置される側の面積が、皮膚変形手段3が設けられる側の面積よりも大きくなるように形成されている。このように、穿刺針移動手段4が載置される側の粘着パッド2の面積を大きくすることで、体表面Fに対する安定性を増して、穿刺針移動手段4による穿刺針411の移動を安定した状態で行うことができる。
【0027】
粘着パッド2には、皮膚変形手段3である箱型形状の本体部5を体表面Fに載置させるための貫通孔21が形成されている。
【0028】
図2に示すように、粘着パッド2の体表面F側には、体表面Fに密着して粘着パッド2を固定するための平面2aが形成されている。この平面2aには、粘着手段が設けられており、粘着手段としては、平面2aに接着剤を層状に塗布してもよいし、両面テープで構成された粘着フィルムを貼付するようにしてもよい。
【0029】
接着剤によって、粘着パッド2の平面2aは、体表面Fに密着して固定されている。なお、体表面Fの下方には、角質層SC、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、層状に配列されている。
【0030】
そして、後述するように、穿刺針移動手段4によって、穿刺針411が、粘着パッド2の平面2aに沿って先端方向へ移動し、皮膚変形手段3によって隆起された皮膚に穿刺する。
【0031】
粘着パッド2は、例えば軟質ポリウレタン等の軟質ポリマーによって構成される。
【0032】
皮膚変形手段3は、本体部5と吸引手段6とから構成される。
【0033】
本体部5は、有底筒状の部材で構成され、基端に略正方形状の板を有する底面部5aと、この底面部5aに連接された複数の平面を有する周壁部5bとからなり、箱型の形状(ボックス形状)を有している。
【0034】
また、図2に示すように、本体部5の体表面F側には、開口部52が形成されて、体表面Fにむけて開放するように構成されている。この本体部5は、開口部52を皮膚(体表面F)に押し当てることにより、その内部に形成された空間51が密閉(気密的に封止)される。
【0035】
また、本体部5の先端外周面には、フランジ部5dが形成されている。フランジ部5dを設けることにより、開口部52を体表面Fに押し当てた際の空間51の気密性をより向上させることができる。
【0036】
底面部5aの外面(上面)には、中空部61を有する吸引手段としての弾性体6が固着(固定)されている。
【0037】
弾性体6は、立方体形状を有しており、弾性変形可能な部材で構成されている。また、弾性体6の内部には、中空部61が形成されている。なお、弾性体6の形状は、本実施形態のように立方体形状に限られるものではない。
【0038】
また、本体部5の底面部5aの中央部には、貫通孔7が形成されている。これにより、貫通孔7を介して、弾性体6の中空部61と本体部5の空間51とが連通している。
【0039】
また、底面部5aの内面(下面)には、皮膚粘着手段としての粘着フィルム8が設けられている。
【0040】
粘着フィルム8は、周壁部5bの内面にも設けられている。この粘着フィルム8は、周壁部5bに形成された挿入孔5cを覆うように設けられているので、空間51の気密性を向上させることができる。
【0041】
弾性体6を収縮させた状態で、本体部5の開口部52を体表面Fに押し当て、弾性体6の収縮状態を解除することにより、空間51内の空気を弾性体6の中空部61内に吸引し、空間51を減圧することができる。
【0042】
弾性体6の構成材料としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムのような各種ゴム材料や、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、フッ素ゴム系等の各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0043】
なお、吸引手段としては、例えば空間51と連通させたチューブの端部にシリンジを固定し、シリンジの操作によって、空間51内の空気を吸引するような構成としてもよい。
【0044】
周壁部5bの平面のうち、穿刺針移動手段4と対向する平面50には、貫通孔としての挿入孔5cが形成されている。これにより、挿入孔5cを介して、穿刺針移動手段4により移動される穿刺針411が、本体部5の内部に挿入される。
【0045】
穿刺針移動手段4は、穿刺針411を有する注射具41と、注射具41を載置固定する載置部材42と、載置部材42を移動可能に支持する支持部材43とから構成される。
【0046】
注射具41は、穿刺針411と、固定外筒412と、固定外筒412内で摺動し得る内部外筒413と、内部外筒413内で摺動し得るガスケット414と、ガスケット414を移動操作するプランジャ415とを備えている。
【0047】
固定外筒412は、有底筒状の形状を有しており、接着剤等により、載置部材42上に載置固定されている。また、固定外筒412の底部の中央部付近には、穿刺針411の挿通を行うための穿刺針孔412aが形成されている。
【0048】
内部外筒413は、有底筒状の形状を有している。また、底部の中央部付近には、穿刺針411が接着固着されている。
【0049】
穿刺針411の針先411aは、固体外筒412に設けられた穿刺針孔412aから突出しないように設けられている。すなわち、穿刺針411は、その針先411aが、穿刺針孔412aが設けられている固定外筒412の底面よりも内側かつ穿刺針孔412aの近傍に位置するように、固定外筒412に対して設置されている。
【0050】
このように構成することにより、穿刺針411の針先411aを保護することができる。また、針先411aが見えにくくなるので、使用者の恐怖感を少なくすることができる。
【0051】
穿刺針411の外径は、穿刺器具1の用途等によっても若干異なるが、0.05mm〜2.5mm程度であるのが好ましく、特に0.1mm〜1.5mm程度であるのが好ましい。
【0052】
穿刺針411の構成材料としては、例えば、ステレンス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金等の金属材料が挙げられる。また、穿刺部材411は、例えば、塑性加工によって製造される。
【0053】
内部外筒413は、プランジャ415の操作により、固定外筒412内を、内部外筒413の長手方向に摺動することができ、内部外筒413が摺動する際には、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aを通じて、固定外筒412から出し入れされる。
【0054】
固定外筒412及び内部外筒413の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンのような各種樹脂が挙げられる。なお、固定外筒412及び内部外筒413の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが望ましい。
【0055】
内部外筒413内には、弾性材料で構成されたガスケット414が収納されている。
【0056】
ガスケット414の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エストラマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
【0057】
ガスケット414と内部外筒413とで囲まれる空間内には、液室417が形成されており、この液室417には、予め液体が液密に収納されている。
【0058】
液体としては、例えば、注射用治療薬、あるいはホルモン、抗体医薬品、サイトカイン、ワクチンなどの高分子物質を用いた薬液が挙げられる。
【0059】
ガスケット414には、ガスケット414を内部外筒413内で長手方向に移動操作するプランジャ415が連結されている。
【0060】
プランジャ415の基端には、板状のフランジ416が一体的に形成されている。このフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作する。
【0061】
載置部材42は、注射具41を載置するための平面部421を有するように構成されている。平面部421の長手方向端部には、移動可能に支持部材43と係合するためのコの字状の係合部422が、粘着パッド2に向けて突出形成されている。
【0062】
支持部材43は、載置部材42と摺動可能に接触する平面部431を有する矩形の板状体で構成されている。支持部材43の長手方向の端部には、載置部材42に形成されたコの字状の係合部422と合致するような係合凸部432が、粘着パッド2と水平の方向に突出形成されている。
【0063】
支持部材43の平面部431と反対側の平面には、粘着パッド2と接着固定するための平面部433が形成されている。図2に示すように、支持部材43の平面部433は、接着剤等により、粘着パッド2上に固定されている。
【0064】
載置部材42及び支持部材43の構成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のような各種樹脂が挙げられ、これらの樹脂を所定の形状を有する金型に流し込む成形加工等により、載置部材42及び支持部材43が製造される。
【0065】
なお、穿刺針移動手段4としては、載置部材42上に、穿刺針とシリンジとを一体にした構成の注射具を固定保持するような構成としてもよい。この場合には、載置部材42が皮膚変形手段3に最も近づくように移動したときに、穿刺針411の針先411aが、皮膚変形手段3により隆起された皮膚に穿刺できるように、穿刺針411の長さを調整する。
【0066】
次に、図3及び図4を用いて、本実施形態の穿刺器具1の使用方法(作用)について説明する。
【0067】
まず、粘着パッド2を体表面Fの所定の位置に載置する。このとき、粘着パッド2の平面2aが、粘着パッド2の体表面F側に設けられた粘着フィルムにより、体表面Fに接着固定される。この状態で、本体部5は、粘着パッド2に形成された貫通孔21に挿入されており、フランジ5dを体表面Fに接触固定することで、本体部5が体表面Fに載置されている。
【0068】
この際、図3(a)に示すように、指等で把持して弾性体6を変形させて、弾性体6の中空部61内の空気を排出する。
【0069】
次に、図3(b)に示すように、弾性体6から指を離して、弾性体6の収縮状態を解除して、空間51内の空気を、矢印に示すように貫通孔7を介して中空部61内に吸引する。
【0070】
これにより、空間51が減圧されて、開口部52の内側の皮膚が空間51内に隆起する。すなわち、角質層SCを含む表皮E、真皮D、皮下組織Sが、それぞれ上方へ引き上げられて、皮膚が体表面Fと垂直方向に隆起される。
【0071】
そして、空間51内に隆起した皮膚は、底面部5a及び周壁部5bに設けられた粘着フィルム8に接触して、接着固定される。このとき、体表面Fの一部が底面部5aと平行になるように固定されるので、真皮Dの一部も底面部5aと平行になるように、本体部5内に固定される。
【0072】
次に、注射具41が固定保持されている載置部材42を、先端方向にスライドさせる。
【0073】
次に、フランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413を、固定外筒412と摺動させながら、先端方向へ移動させる。これにより、内部外筒413に固着された穿刺針411が、穿刺針孔412aから周壁部5bに設けられた挿入孔5cに挿入される。
【0074】
このとき、穿刺針411は、底面部5aと平行な状態で穿刺されるので、図3(c)に示すように、皮膚内において、穿刺針411は、真皮Dと平行な状態で穿刺される。
【0075】
この状態から、さらにフランジ416を指等で押圧することにより、プランジャ415を操作して、内部外筒413と摺動させながら、ガスケット414を先端方向へ移動させる。これにより、図4(d)に示すように、液室417に収納されている薬剤50が、穿刺針411の針先411aから、真皮Dへ注入される。
【0076】
薬剤を真皮Dに注入した後、フランジ416を指等で引くことにより、プランジャ415を操作し、ガスケット414を基端方向へ移動させて、穿刺針411を、真皮Dから引き抜く。
【0077】
さらに、プランジャ415を基端方向へ移動させて、図4(e)に示すように、穿刺針411を挿通孔421aから固定外筒412内に収納する。
【0078】
次に、穿刺針411を固定外筒412に収納した状態で、載置部材42を、基端方向にスライドさせて、図4(f)の状態とする。
【0079】
同時に、弾性体6を指等で押圧変形させて、中空部61内の空気を本体部5の空間51に送る。これにより、空間51が加圧されて、空間51内に隆起されていた皮膚が元の状態へ戻る。
【0080】
このように、本実施形態の穿刺器具1によれば、本体部5の開口部52を体表面Fに押し当てた状態で、弾性体6により空間51内の空気を吸引して空間51を減圧する。これにより、真皮Dを含む皮膚を空間51内に隆起させて、皮膚を底面2aに設けられた粘着フィルム8で固定した後、穿刺針411により真皮Dを穿刺することができる。すなわち、皮膚を隆起させた状態で穿刺作業を行うので、穿刺針411を確実に皮膚(真皮D)に穿刺することができ、また、皮膚内の真皮Dに確実に薬剤を注入することができる。
【0081】
また、穿刺針411を皮膚内の真皮Dと略平行な状態で穿刺するので、真皮D内における穿刺針411の挿入深さが長くなり、外部から衝撃等が加えられた場合であっても、薬剤注入中の穿刺針411が真皮Dから抜けてしまうことを防止できる。
【0082】
また、表皮Eと真皮Dとの境目に形成された穿刺針411の挿入口から、針先411aにある薬剤放出口までの距離が長くなるので、一旦薬剤放出口から真皮Dに注入された薬剤が、逆流して挿入口から表皮Eへ漏れてしまうことを防止できる。
【0083】
<第2実施形態>
次に、本発明の穿刺器具1の第2実施形態について説明する。
【0084】
図5は、本発明の穿刺器具1の第2実施形態を示す斜視図である。
【0085】
以下、第2実施形態の穿刺器具1について、前記第1実施形態の穿刺器具との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0086】
すなわち、本体部5の周壁部5bの平面のうち、穿刺針移動手段4と対向する平面50には、3箇所の挿入孔5cが形成されている。
【0087】
また、穿刺針移動手段4に設けられた注射具41’は、3本の穿刺針411を有するように構成されている。すなわち、本実施形態で使用する注射具41’は、第1実施形態で使用した注射具41を、載置部材42の平面部421に、3本並べて配置した構成である。また、注射具41’のフランジ416’は、各プランジャ415を連接するように構成されている。
【0088】
本実施形態では、注射具41’が固定保持されている載置部材42を先端方向にスライドさせ、指で共通のフランジ416’を押圧してプランジャ415を操作し、3本の穿刺針411を、平面50に形成された3箇所の挿入孔5cへ挿入する。
【0089】
さらに、指でフランジ416’を押圧し、3本の穿刺針411の針先411aから、薬剤を、本体部5内に隆起されている皮膚(真皮D)内へ、同時に注入する。
【0090】
このように本実施形態の穿刺器具1によれば、皮膚内の真皮Dに対して、1回の穿刺作業で多量の薬剤を注入することができる。また、真皮Dに対して、分散させながら薬剤を注入することができる。
【0091】
また、第2実施形態の穿刺器具1によっても、前記第1実施形態の穿刺器具1と同様の作用・効果が得られる。
【0092】
<第3実施形態>
次に、本発明の穿刺器具1の第3実施形態について説明する。
【0093】
以下、第3実施形態の穿刺器具1について、前記第1実施形態の穿刺器具との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0094】
図6は、本発明の穿刺器具1の第3実施形態を示す斜視図である。図7は、図6に示す穿刺器具1のA−A線断面図であって、穿刺器具1の使用方法を説明するための図である。
【0095】
以下、第3実施形態の穿刺器具1について、前記第1実施形態の穿刺器具との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0096】
すなわち、本体部5は、半円筒形状の部材で構成され、上方へ向って湾曲する曲面を有する曲面部5a’と、半円形状かつ平面状の側面部5b’とからなる。
【0097】
側面部5b’、5b’は、体表面F側に向って拡がるように傾斜していることが好ましい。このとき、挿入孔5cを有する側面部5b’は、穿刺針411の移動方向に対して30度〜80度、より好ましくは45度〜60度の角度で傾くように構成されることが望ましい。
【0098】
曲面部5a’の外面(上面)には、吸引手段としての弾性体6’が固着(固定)されている。
【0099】
弾性体6’は、半円筒形状を有しており、弾性変形可能な部材で構成されている。また、弾性体6’の内部には、中空部61が形成されている。
【0100】
曲面部5a’の中央部には、貫通孔7が形成されている。これにより、貫通孔7を介して、弾性体6’の中空部61と本体部5の空間51とが連通している。
【0101】
また、曲面部5a’の内面(下面)には、皮膚粘着手段としての粘着フィルム8が設けられている。
【0102】
粘着フィルム8は、周壁部5b’の内面にも設けられている。この粘着フィルム8は、周壁部5b’に形成された挿入孔5cを覆うように設けられているので、空間51の気密性を向上させることができる。
【0103】
穿刺針移動手段4と対向する側の側面部5b’には、挿入孔5cが形成されている。これにより、挿入孔5cを介して、穿刺針移動手段4により移動される穿刺針411が、本体部5の内部に挿入される。
【0104】
次に、図7を用いて、第3実施形態の穿刺器具1の使用方法について、説明する。但し、前記第1実施形態の穿刺器具と同様の事項については、その説明を省略する。
【0105】
本実施形態においては、弾性体6’の収縮状態を解除することにより、本体部5内の空間51が減圧されて、皮膚が隆起する。このとき、本実施形態の本体部5は、半円筒形状を有しているので、本体部5内に隆起する皮膚の上面は、曲面部5a’の曲面に沿うように隆起する。これにより、皮膚は、本体部5内で滑らかに隆起することができる。
【0106】
そして、空間51内に隆起した皮膚は、曲面部5a’及び側面部5b’に設けられた粘着フィルム8に接触して、本体部5内で接着固定される。
【0107】
本実施形態の穿刺器具1によれば、本体部5に皮膚を隆起させて、皮膚を接着固定させる作業を円滑に行うことができ、穿刺針411を皮膚(真皮D)に穿刺する作業を確実に行うことができる。
【0108】
このような第3実施形態の穿刺器具1によっても、前記第1実施形態の穿刺器具1と同様の作用・効果が得られる。
【0109】
なお、挿入孔5cは、側面部5b’に複数設けてもよい。この場合、挿入孔5cは、曲面部5a’の内面と平行となるように設けることが好ましい。このように構成することにより、皮膚内における穿刺針の進入位置が、皮膚の深さ方向に対して一定とすることができる。
【0110】
上記実施形態は、いずれも真皮に穿刺針を穿刺する例で説明したが、本発明の穿刺器具は、真皮の他に皮内や皮下組織、更には筋肉に穿刺する場合にも用いることができるものである。
【0111】
なお、本発明の穿刺器具は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、その他材料、構成等において本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態の穿刺器具の斜視図である。
【図2】図2は、図1中のA−A線断面図である。
【図3】図3は、図1に示す穿刺器具の使用方法を説明するための図(断面図)である。
【図4】図4は、図1に示す穿刺器具の使用方法を説明するための図(断面図)である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態の穿刺器具の斜視図である。
【図6】図6は、本発明の第3実施形態の穿刺器具の斜視図である。
【図7】図7は、図6中のA−A線断面図である。
【図8】図8は、一般的な皮膚構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0113】
1・・穿刺器具
2・・粘着パッド
2a・・平面
21・・貫通孔
3・・皮膚変形手段
4・・穿刺針移動手段
41、41’・・注射具
411・・穿刺針
411a・・針先
412・・固定外筒
412a・・穿刺針孔
413・・内部外筒
414・・ガスケット
415・・プランジャ
416、416’・・フランジ
417・・液室
42・・載置部材
421・・平面部
422・・係合部
43・・支持部材
431・・平面部
432・・凸部
5・・本体部
5a・・底面部
5a’・・曲面部
5b・・周壁部
5b’・・側面部
5c・・挿入孔
5d・・フランジ
50・・平面
51・・空間
52・・開口部
6、6’・・弾性体(吸引手段)
61・・中空部
7・・貫通孔
8・・粘着フィルム
F・・体表面
SC・・角質層
E・・表皮
D・・真皮
S・・皮下組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を穿刺針により穿刺する穿刺器具であって、
移動可能に保持された穿刺針と、
体表面に固定される平面を有する固定部と、
底面部と前記穿刺針を挿入するための挿入部を備えた平面状の周壁部とで構成された、内部に空間を有する本体部と、
前記空間の空気を吸引する吸引手段と、を備え、
前記吸引手段により前記空間の空気を吸引して前記空間を減圧することにより、前記皮膚を前記空間内に隆起させ、
前記穿刺針を、前記固定部に沿って移動させて前記挿入部に挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺する構成としたこと
を特徴とする穿刺器具。
【請求項2】
前記本体部は、箱型形状であること
を特徴とする請求項1に記載の穿刺器具。
【請求項3】
前記挿入部は複数の挿入孔で構成され、
複数の穿刺針を、前記固定部に沿って移動させて前記複数の挿入孔に挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺する構成としたこと
を特徴とする請求項1に記載の穿刺器具。
【請求項4】
前記底面部の体表面側には、皮膚粘着手段が設けられていること
を特徴とする請求項1に記載の穿刺器具。
【請求項5】
皮膚を穿刺針により穿刺する穿刺器具であって、
移動可能に保持された穿刺針と、
体表面に固定される平面を有する固定部と、
側面部と上方に向って湾曲する曲面を有する曲面部とで構成された、内部に空間を有する本体部と、
前記側面に形成された前記穿刺針を挿入するための挿入部と、
前記空間の空気を吸引する吸引手段と、を備え、
前記吸引手段により前記空間の空気を吸引して前記空間を減圧することにより、前記皮膚を前記空間内に隆起させ、
前記穿刺針を、前記固定部に沿って移動させて前記挿入部に挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺する構成としたこと
を特徴とする穿刺器具。
【請求項6】
前記挿入部は複数の挿入孔で構成され、
複数の穿刺針を、前記固定部に沿って移動させて前記複数の挿入孔に挿入し、前記隆起させた皮膚に穿刺する構成としたこと
を特徴とする請求項5に記載の穿刺器具。
【請求項7】
前記曲面部の体表面側には、皮膚粘着手段が設けられていること
を特徴とする請求項5に記載の穿刺器具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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