説明

突起付き鋼管の製造方法

【課題】幅に対して高さが高い突起を鋼管に対して容易に且つ経済的に形成することができる突起付き鋼管の製造方法および当該製造に用いる当て板を提供する。
【解決手段】本発明においては、その長手方向に沿って高さが変化する当て板2,2を用いているため、多層盛溶接での溶接回数に伴って溶接位置および溶接高さを変えることができる。そのため、高さが高い突起を形成する場合でも、溶接トーチ5が当て板2,2と干渉してしまったり、長い溶接ワイヤ6によって溶接位置が不安定になったりするといった事態を回避することができ、幅に対して高さが高い突起を最良の形態で容易に且つ経済的に製造することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉盛溶接を用いる突起付き鋼管の製造方法および当該製造に用いる当て板に関する。
【背景技術】
【0002】
土木あるいは建築分野において、鋼管にコンクリートを充填したり、鋼管をコンクリートの内部に埋め込む合成構造が建築用柱や基礎杭などに用いられている。これらの鋼管とコンクリートとの合成構造においては、鋼管とコンクリートとの付着力を高めるために、鋼管の表面に突起を設けることが行われている。
【0003】
鋼管の表面に突起を形成する方法の一つとして、肉盛溶接が従来から用いられている。例えば、特許文献1には、鋼管の内面または外面に一対の当て板を間隔をおいて配置し、これらの当て板を鋼管の内面または外面に対して相対移動させつつこれらの当て板間に肉盛溶接することにより突起を形成する技術が開示されている。
【0004】
具体的には、図8に示すように、鋼管1の内面に突起Pを周方向に形成する場合、まず、鋼管1を横向きに置き、この鋼管1の内面上に一対の当て板20,20を配置する。そして、溶接トーチ5の溶接ワイヤ6を一対の当て板20,20の間に挿入し、鋼管1を周方向(図面の描かれている面に対して垂直な方向)に回転させながら、鋼管1の内面と当て板20,20とにより形成された空間内でアークを発生させ、下向きの肉盛溶接を行なう。なお、溶接には、炭酸ガスアーク溶接、MAG溶接あるいはMIG溶接等のガスメタルアーク溶接などを適宜用いることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−193245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示されるような溶接技術を用いて高さが高い突起(例えば突起幅は一定)を製造する場合には、例えば複数の段階に分けて溶接を積み重ねる多層盛溶接法が使用されるが、その際に、幅に対して高さが高い当て板20,20を使用すると、図9に示すように、溶接トーチ5が当て板20,20と干渉してしまい、突起Pの製造が不可能になるといった問題が生じてしまう。無論、この場合には、図10に示すように、溶接ワイヤ6を長くすることにより1層目の溶接を鋼管1の内面上に施すことが可能になるが、溶接ワイヤ6を長くしてしまうと、鋼管1に対する溶接ワイヤ6の位置が不安定となり、溶接位置が安定せず、当て板20が鋼管1に対して溶着されてしまうような事態が発生する虞もある。また、溶接時に、長い溶接ワイヤ6が当て板20,20間の空間内で振れてしまい、その結果、溶接電圧が不安定になるといった事態も生じ得る。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、幅に対して高さが高い突起を鋼管に対して容易に且つ経済的に形成することができる突起付き鋼管の製造方法および当該製造に用いる当て板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の突起付き鋼管の製造方法は、鋼管の内面または外面に肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造する方法であって、その長手方向に沿って高さが変化する一対の当て板を鋼管の内面または外面に間隔をおいて配置し、前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記当て板間の空間内の第1の位置で溶接により第1の突起を形成し、前記第1の位置よりも当て板の高さが高い第2の位置で、前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記第1の突起の上に溶接により第2の突起を形成することを含むことを特徴とする。
【0009】
この請求項1に記載された突起付き鋼管の製造方法においては、その長手方向に沿って高さが変化する当て板を用いているため、多層盛溶接での溶接回数に伴って溶接位置および溶接高さを変えることにより、幅に対して高さが高い(例えば一定幅の)突起を最良の形態で容易に且つ経済的に製造することが可能になる。
【0010】
また、請求項2に記載の当て板は、鋼管の内面または外面上に所定の溶接空間を隔てて対を成して配置され、前記溶接空間内で肉盛溶接により突起を形成するために使用される当て板であって、その長手方向に沿って高さが変化していることを特徴とする。
【0011】
この請求項2に記載された当て板においては、その長手方向に沿って高さが変化しているため、多層盛溶接での溶接回数に伴って溶接位置および溶接高さを変えることができ、幅に対して高さが高い(例えば一定幅の)突起を最良の形態で容易に且つ経済的に製造することが可能になる。なお、上記構成において、当て板は、その長手方向に沿って高さが連続的に変化していても良く或いは段階的に変化していても構わない。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、その長手方向に沿って高さが変化する当て板を用いているため、多層盛溶接での溶接回数に伴って溶接位置および溶接高さを変えることができる。そのため、高さが高い突起を形成する場合でも、溶接トーチが当て板と干渉してしまったり、長い溶接ワイヤによって溶接位置が不安定になったりするといった事態を回避することができ、幅に対して高さが高い突起を最良の形態で容易に且つ経済的に製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1および図2は、本発明の実施形態に係る突起付き鋼管の製造方法を示す図であって、図1は側断面図、図2は要部の拡大斜視図である。これらの図に示すように、鋼管1の内面に突起Pを周方向に形成するには、まず、鋼管1を横向きに置き、この鋼管1の内面のうちの下側の位置に、一対の当て板2,2を配置する。この場合、一対の当て板2,2は、鋼管1の内面に間隔をおいて(溶接空間を隔てて)平行に配置される。
【0014】
図3に示すように、当て板2は、その長手方向の両端に先端面2aと基端面2bとを有しており、長手方向に沿って高さが変化するように上面2cが傾斜して形成されている。当て板2の溶接トーチ側の角部には、面取りが施されている。本実施形態の当て板2は、先端面2aから基端面2bに向かって連続的に高さが高くなっているが、段階的に高さが変化していても構わない。また、同図では、上面2cが直線的に延びているが、上面2cが曲線を成していても構わない。また、当て板2の底面2dは鋼管1の内面に沿った円弧状に形成されていることが好ましい。なお、当て板2としては、通常、水冷銅板(水冷式銅板)が用いられるが、セラミック製のものなども用いることができる。また、上面2cが水平面に対して成す角度(勾配)θは、鋼管1の径および必要な突起Pの高さによって決まるが、後述する溶接トーチの移動を考慮すると、10°〜20°程度の範囲に設定されることが好ましい。
【0015】
前述したように、一対の当て板2,2を鋼管1の内面に間隔をおいて平行に配置したら、続いて、図1に示すように、鋼管1の外側に位置する溶接装置3のブーム4を鋼管1内に挿入し、ブーム4の先端部に設けられた溶接トーチ5の溶接ワイヤ6を、一対の当て板2,2の間に挿入する。そして、鋼管1を周方向に回転させながら、鋼管1の内面と当て板2,2とにより形成された空間(溶接空間)内でアークを発生させ下向きの肉盛溶接を行なう。なお、当て板2,2はブーム4等に支持される。また、溶接には、炭酸ガスアーク溶接、MAG溶接あるいはMIG溶接等のガスメタルアーク溶接などを適宜用いることができる。
【0016】
肉盛溶接する空間を形成する当て板2の側面は、断面形状の側部に直線部を有する突起Pを形成するために、平面に仕上げることが必要である。鋼管1の内面に形成する突起Pの側面と鋼管1の内面との成す角度(立ち上がり角度)が所定の鋭角を形成するようにするために、当て板2の側面に所定の角度をつけることもできる。この当て板2の側面の角度が90°を超えると、溶接終了後に当て板2を取り外すことが困難となるので、例えば、60〜90°程度に設定される。
【0017】
当て板2の高さは、形成する突起Pの高さ以上の高さが必要であるが、あまり高いと当て板2の費用が余分に掛かり、また溶接アークが見えにくくなり、作業性が悪くなるので、適当な高さにするのが好ましい。また、当て板2,2の間隔は、狭すぎると溶接アークによる損傷を生じるので、5mm程度以上とする必要があるが、広すぎると余分な溶接材料が必要となり、経済性が低くなるので、あまり広すぎることは好ましくない。鋼管1の内面に形成される突起Pの幅は、これらの当て板2,2の間隔とほぼ等しいものとなる。
【0018】
鋼管1の内面に連続した突起を得るために、鋼管1を回転させるなどして、鋼管1の内面と溶接トーチ5および一対の当て板2,2とを相対的に移動させる必要があるが、このとき、当て板2,2の長さが短いと、溶融金属が横(当て板2の長手方向)の開口部から流出する。一方、当て板2,2が長すぎると、溶融金属が凝固して形成された突起Pの側面と当て板2との摩擦力が大きくなり、安定した移動が困難になるとともに、鋼管1内面と当て板2との密着性を保つことが困難になるので、適当な長さにする必要がある。当て板2の長さ(長手方向寸法)は、通常25mm程度以上、120mm程度以下が必要であり、作業性を考慮すると100mm程度以下が好ましく、80mm程度以下がさらに好ましい。
【0019】
次に、上記構成の当て板2,2を用いて鋼管1の内面に肉盛溶接(多層盛溶接)により突起Pを形成する方法について具体的に説明する。
【0020】
まず、図3および図4に示すように、先端面2aに近い当て板2,2間の空間内の第1の位置、すなわち、当て板2の高さが相対的に低い位置(高さH1の位置)に溶接トーチ5を配置し、その状態で、当て板2,2と鋼管1の内面とを相対的に移動させながら(本実施形態では鋼管1を回転させる)、当て板2,2間の空間内で溶接を行なう。これにより、図7に示すように、第1層目の突起(第1の突起)P1が鋼管1の内周にわたって形成される。
【0021】
続いて、図5に示すように、前記第1の位置よりも当て板2,2の高さが高い第2の位置、すなわち、第1の位置よりも基端面2b側に移動した高さがH2の位置に溶接トーチ5を再配置し、その状態で、当て板2,2と鋼管1の内面とを相対的に移動させながら、当て板2,2間の空間内で第1層目の突起P1の上に溶接を行なう。これにより、図7に示すように、第1層目の突起P1よりも高い第2層目の突起(第2の突起)P2が鋼管1の内周にわたって形成される。
【0022】
その後、図6に示すように、前記第2の位置よりも当て板2,2の高さが高い第3の位置、すなわち、基端面2bに近い高さがH3の位置に溶接トーチ5を再配置し、その状態で、当て板2,2と鋼管1の内面とを相対的に移動させながら、当て板2,2間の空間内で第2層目の突起P2の上に溶接を行なう。これにより、図7に示すように、第2層目の突起P2よりも高い第3層目の突起(第3の突起)P3が鋼管1の内周にわたって形成される。
【0023】
なお、上記製造方法において、溶接ワイヤ6の長さhは15〜25mmが適正範囲である。また、溶接時においては、当て板2,2と溶接トーチ5とが相対的に移動すれば良く、鋼管1を回転させずに、溶接トーチ5および当て板2,2を鋼管1に対して移動させても良い。
【0024】
以上説明したように、本実施形態においては、その長手方向に沿って高さが変化する当て板2,2を用いているため、図7に示すように、多層盛溶接での溶接回数に伴って溶接位置および溶接高さを変えることができる(突起Pを最も良い形状に成型するための溶接トーチ5および溶接ワイヤ6の位置を確保できる)。そのため、高さが高い突起Pを形成する場合でも、溶接トーチ5が当て板2,2と干渉してしまったり、長い溶接ワイヤ6によって溶接位置が不安定になったりするといった事態を回避することができ、幅に対して高さが高い突起Pを最良の形態で容易に且つ経済的に製造することが可能になる。
【0025】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できることは言うまでもない。例えば、前述した実施形態では、当て板2,2および溶接トーチ5を鋼管1の内面に対して相対移動させるために、鋼管1を回転させたが、これに代えて、鋼管1を回転させないで、当て板2,2および溶接トーチ5を移動させるようにしてもよい。また、鋼管1の内面に螺旋条の突起を形成したい場合には、鋼管1を回転させながら、鋼管1を鋼管1の軸線方向に移動させても良いし、あるいは鋼管1を回転させながら、当て板2,2および溶接トーチ5を鋼管1の軸線方向に移動させても良い。また、一度に複数の突起を形成したい場合は、複数の溶接トーチ5および各溶接トーチ5の両側に配置された当て板2,2を用いれば良い。また、突起Pは連続的にも断続的にも形成することができる。また、本発明は、鋼管の外側に突起を形成する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る突起付き鋼管の製造方法を示す側断面図である。
【図2】図1の要部の拡大斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る当て板の側面図である。
【図4】当て板の高さが低い第1の位置で溶接を行なっている状態を示す図である。
【図5】当て板の高さが第1の位置よりも高い第2の位置で溶接を行なっている状態を示す図である。
【図6】当て板の高さが第2の位置よりも高い第3の位置で溶接を行なっている状態を示す図である。
【図7】鋼管を回転させて第1ないし第3の各位置で溶接を行なう多層盛溶接を説明するための図である。
【図8】従来の当て板を用いて高さが低い突起を鋼管に形成する方法を示す図である。
【図9】従来の当て板を用いて高さが高い突起を鋼管に形成する場合において、溶接トーチと当て板とが干渉する様子を示す図である。
【図10】従来の当て板を用いて高さが高い突起を鋼管に形成する場合において、長い溶接ワイヤが当て板間で振れている様子を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 鋼管
2 当て板
P 突起
P1 第1の突起
P2 第2の突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の内面または外面に肉盛溶接により突起を形成して突起付き鋼管を製造する方法であって、
その長手方向に沿って高さが変化する一対の当て板を鋼管の内面または外面に間隔をおいて配置し、
前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記当て板間の空間内の第1の位置で溶接により第1の突起を形成し、
前記第1の位置よりも当て板の高さが高い第2の位置で、前記当て板と鋼管の内面または外面とを相対的に移動させながら、前記第1の突起の上に溶接により第2の突起を形成する、
ことを含むことを特徴とする突起付き鋼管の製造方法。
【請求項2】
鋼管の内面または外面上に所定の溶接空間を隔てて対を成して配置され、前記溶接空間内で肉盛溶接により突起を形成するために使用される当て板において、
その長手方向に沿って高さが変化していることを特徴とする当て板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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