説明

窒化アルミニウム含有複合体の製造方法、および傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法

【課題】低コストの窒化アルミニウム含有複合体の製造方法および傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム含有複合体の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の金属塊とアルミニウムの粉末とを、窒素雰囲気下でアルミニウムの融点を越える温度まで加熱して保持し、燃焼合成によるその場反応により窒化アルミニウムを生成する熱処理工程を設ける。傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法は、燃焼合成によるその場反応により窒化アルミニウムを生成する熱処理工程を設けた窒化アルミニウム含有複合体の製造方法により形成された窒化アルミニウム含有複合体を材料とし、この材料を金属塊の融点以上に加熱保持し、この加熱保持した材料を金型にセットして加圧圧縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金と窒化アルミニウムとの複合体である窒化アルミニウム含有複合体の製造方法、および該製造方法により得られた窒化アルミニウム含有複合体を用いた傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、熱伝導率が高く、熱膨張係数が低く、化学的にも安定であるなどの優れた性質を有する材料である。このため、近年、電子部品の放熱基板、エンジン部材などへの応用が期待されている。
【0003】
従来、塊状をなす窒化アルミニウム含有複合体の製造方法として特許文献1のものが提案されている。この特許文献1の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法は、窒化物の生成自由エネルギーがアルミニウムより小さい元素である触媒元素を、窒素雰囲気下で加熱された溶融アルミニウム中に位置させることにより、触媒元素を触媒としたアルミニウムの窒化反応を生じさせるものである(請求項1)。
【0004】
なお、粉体をなす窒化アルミニウムを得る製造方法として、高い気圧、例えば100気圧の窒素雰囲気下で、アルミニウムを高温、例えば摂氏1600度に加熱するものがある(段落0003)。この製造方法により得られる窒化アルミニウムの粉体を所望の形状にするには、窒化アルミニウムの粉体にバインダーを添加して所望の形状に形成し、その後焼成するというコストの高い製造方法が用いられている(段落0005)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−115068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年においては、低コスト化が求められており、塊状をなす窒化アルミニウム含有複合体の製造方法においても低コスト化、すなわち、より簡便な製造方法が求められている。
【0007】
そこで、従来の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法より低コストの窒化アルミニウム含有複合体の製造方法が求められている。また、この製造方法により得られた窒化アルミニウム含有複合体を用いた機能性材料の1つとして、低コストの傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法が求められている。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、低コストの窒化アルミニウム含有複合体の製造方法および傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、触媒元素および反応助長剤材を用いずに窒化アルミニウム含有複合体を得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、特許請求の範囲の請求項1に記載の本発明の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の特徴は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の金属塊とアルミニウムの粉末とを、窒素雰囲気下で前記アルミニウムの融点を越える温度まで加熱して保持し、燃焼合成によるその場反応により窒化アルミニウムを生成する熱処理工程を有している点にある。そして、このような構成を採用したことにより、触媒元素および反応助長剤材を用いずに窒化アルミニウム含有複合体を得ることができるので、製造コストを低減できる。また、窒化アルミニウムは、溶融したアルミニウム粉末の粒界に生成されるので、アルミニウムに対して濡れ性が良好な窒化アルミニウムの網目構造が形成される。その結果、窒化アルミニウムの網目構造を持つ塊状の窒化アルミニウム含有複合体を容易かつ確実に得ることができる。
【0011】
請求項2に記載の本発明の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の特徴は、請求項1において、前記熱処理工程は、前記金属塊の融点まで加熱して保持する第1熱処理工程と、この第1熱処理工程の後に続けてアルミニウムの融点を越える温度まで加熱して保持する第2熱処理工程とを有している点にある。そして、このような構成を採用したことにより、第1熱処理工程で金属塊の融点を保持することにより、金属塊を確実に溶融することができるので、燃焼合成反応による窒化アルミニウムの生成を効率よく安定して行うことができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の特徴は、請求項1または請求項2において、前記アルミニウムの融点を越える温度が1000℃以下の範囲である点にある。そして、このような構成を採用したことにより、窒化アルミニウムの生成を従来より確実に低温で行うことができる。
【0013】
請求項4に記載の本発明の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の特徴は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記金属塊および前記アルミニウムの粉末をチャンバ内に配置した耐熱容器内で加熱するととともに、チャンバ内に窒素を供給しつつ供給した窒素をチャンバからオーバーフローさせる点にある。そして、このような構成を採用したことにより、チャンバの内部を窒素で満たすことできるとともに、窒化アルミニウムの形成により消費される窒素を確実に確保することができる。
【0014】
請求項5に記載の本発明の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の特徴は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記熱処理工程を終了した後に続けてアルミニウムの融点を越える温度をさらに保持するとともに、この温度を保持している間に得られた生成体をスクレーパで掻き取りつつ攪拌する加工処理工程を有している点にある。そして、このような構成を採用したことにより、窒化アルミニウムの粒子により形成された網目構造を破壊してばらばらにすることができるので、窒化アルミニウムの網目構造を持たない窒化アルミニウム含有複合体を低コストで得ることができる。また、窒化アルミニウムの網目構造を持たない窒化アルミニウム含有複合体はアルミニウムのデンドライトの周囲に窒化アルミニウムが凝集した構造となるので、再加熱により溶融可能なものとなるので、鋳造加工を容易に行うことができる。
【0015】
請求項6に記載の本発明の傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の特徴は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法により形成された窒化アルミニウム含有複合体を材料とし、この材料を前記金属塊の融点以上に加熱保持し、この加熱保持した材料を金型にセットして加圧圧縮する点にある。そして、このような構成を採用したことにより、加圧圧縮により窒化アルミニウムの網目構造が潰れるとともに、網目構造の内部に存在する溶融したアルミニウムが外部に押し出されるので、加圧方向の中央部位は窒化アルミニウムの濃度が濃く、加圧方向の両側部位は窒化アルミニウムの濃度が薄くなる。よって、窒化アルミニウム含有複合体を金属塊の融点以上に加熱保持して加圧圧縮するという簡便な方法で傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体を得ることができるので、製造コストを低減できる。
【0016】
請求項7に記載の本発明の傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の特徴は、請求項5に記載の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法により形成された窒化アルミニウム含有複合体を材料とし、この材料を前記金属塊の融点以上に再加熱することで溶湯を得、得られた溶湯を温度勾配を設けて冷却する点にある。そして、このような構成を採用したことにより、溶湯は、アルミニウムまたはアルミニウム合金が溶融した液中に窒化アルミニウムの粒子が分散した状態となり、溶湯を温度勾配を設けて冷却することにより、先に冷却された部位は窒化アルミニウムの濃度が薄く、後から冷却された部位は窒化アルミニウムの濃度が濃くなる。よって、窒化アルミニウム含有複合体を溶融した溶湯を温度勾配を設けて冷却するという簡便な方法で傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体を得ることができるので、製造コストを低減できる。
【0017】
請求項8に記載の本発明の傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の特徴は、請求項7において、前記温度勾配は、溶湯の表面に冷却部材を接触することにより得る点にある。そして、このような構成を採用したことにより、溶湯の冷却時に、温度勾配を容易に付与することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法および傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法によれば、製造コストの低コスト化を容易に図ることができるなどの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法に用いられる製造装置の実施形態の要部を示す概略構成図
【図2】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態における制御用熱電対、容器下熱電対、放射温度計によるそれぞれの温度と、チャンバの内部の圧力と、経過時間との関係を示す図
【図3】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態の第2熱処理工程における昇温速度と体積率との関係を示す図
【図4】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態により得られた窒化アルミニウム含有複合体の組織の模式図
【図5】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態により得られた窒化アルミニウム含有複合体の窒化アルミニウムの体積率と圧縮強度との関係を示す図
【図6】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態の第2熱処理工程を終了した状態の製造装置を示す概略構成図
【図7】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態の生成物をスクレーパで削りながら攪拌している状態の製造装置を示す概略構成図
【図8】図7の窒化アルミニウム網目構造を破壊している状態を示す模式図
【図9】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態における加工処理工程が終了しスクレーパを上昇させて回転を停止させた状態の製造装置を示す概略構成図
【図10】本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態により得られた窒化アルミニウム含有複合体の組織の模式図
【図11】本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態に用いられる製造装置の要部を示す概略構成図
【図12】本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態における材料を加圧圧縮させた状態を示す模式図
【図13】本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態により得られた傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の線膨張係数と窒化アルミニウムの体積率との関係を示す図
【図14】本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態に用いられる製造装置の要部を示す概略構成図
【図15】本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態により得られた傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の組織の模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図面に示す実施形態により説明する。
【0021】
(窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態)
まず、説明の便宜上、本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法に用いられる製造装置の実施形態について図1により説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の窒化アルミニウム含有複合体の製造装置1(以下、単に製造装置と記す。)は、加熱反応炉2が用いられている。この加熱反応炉2は、有効内容積が100l(リットル)のチャンバ3を有している。このチャンバ3には、ガス供給口4、ガス排気口5、および吸引口6が設けられている。そして、ガス供給口4は、チャンバ3の内部に窒素(窒素ガス:N)を供給するためのものであり、ガス供給口4には、図示しない一方向性バルブなどのバルブを介してガス供給機構の一端が接続されている。なお、ガス供給機構の他端は、窒素ガスの供給源に接続されている。また、ガス排気口5は、チャンバ3の内部に供給された窒素ガスを外部に排出するためのものであり、このガス排気口5には、図示しない一方向性バルブなどのバルブを介してガス排気機構が接続されている。さらに、吸引口6は、チャンバ3の内部の圧力を減圧するためのものであり、この吸引口6には、図示しないバルブを介して真空ポンプ7が接続されている。
【0023】
前記チャンバ3の内部には、チャンバ3の内部を加熱するための加熱手段としてのヒータ8が配設されている。また、チャンバ3の内部には、上部が開口する有底筒状の耐熱容器9が所定の位置に位置決めされるとともに回転止めされた状態で配置されており、耐熱容器9の内部にセットされた加熱対象物をヒータ8で発生させた熱で加熱できるようになっている。なお、耐熱容器9としては、黒鉛るつぼやアルミナるつぼなどを用いることができる。また、チャンバ3の内部における耐熱容器9の上方には、スクレーパ10が配設されている。このスクレーパ10は、アルミナなどにより形成されたブレード11と、カーボンなどにより形成されたホルダ12と、ステンレスなどにより形成された回転軸13とを有しており、チャンバ3の上部を上下方向に貫通するように配置された回転可能な回転軸13に取り付けられている。そして、回転軸13は、モータ14の駆動力によって回転駆動可能にされているとともに、図示しない昇降機構により上下動可能に形成されている。なお、昇降機構は図示しない個別のモータの駆動力によって駆動されるようになっている。
【0024】
すなわち、スクレーパ10は、常時は耐熱容器9の上方に離間した退避位置に配置されており、必要に応じてモータ14の駆動力によって回転駆動されるとともに、図示しないモータの駆動力によって駆動される昇降機構によって耐熱容器9の内部に出入りするように上下動可能に形成されている。そして、スクレーパ10は、耐熱容器9の内部に生成された生成物を削りながら攪拌することができるようになっている。
【0025】
なお、チャンバ3には、チャンバ3の内部の温度を制御するための温度センサ(例えば、制御用熱電対)が配設されている。また、耐熱容器9の底部下面にも、耐熱容器9の底部外側の温度を計測するための温度センサ(容器下熱電対)が配設されている。さらに、チャンバ3には、耐熱容器9の内部で生じる窒化アルミニウムを生成するための燃焼合成反応による熱放射温度を測定するための放射温度計(例えば、パイロメーター)も備えられている。この放射温度計は、例えば600℃以上の温度を測定できるものである。
【0026】
なお、製造装置1としては、耐熱容器9にセットした材料を窒素雰囲気下で加熱できるものであればよい。例えば、マッフル炉を用いてもよい。このマッフル炉を用いることにより、常圧の窒素雰囲気下で耐熱容器9にセットした原料を加熱することができる。
【0027】
つぎに、本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0028】
本実施形態の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法(以下、単に製造方法と記す。)は、図1に示す製造装置1を用いて行う。但し、スクレーパ10はなくてもよい。また、本実施形態の製造方法は、アルミニウムの金属塊(以下、「Al塊」と記す。)と、アルミニウムの粉末(以下、「Al粉末」と記す。)とを材料(原料)として用いる。
【0029】
本実施形態のAl粉末およびAl塊としては、アルミニウムの成分が99.7%の純アルミを用いた。また、Al粉末としては、平均粒径が75μmのものを用いた。なお、Al粉末は、その表面が酸化アルミニウム(Al:以下「アルミナ」と記す。)層で覆われたものである。すなわち、Al粉末は、アルミニウムがアルミナの殻で覆われた構成となっている。なお、Al塊としては、成分の99%がアルミニウムで構成された工業用の純アルミニウム(日本工業規格の1000系)を用いてもよい。
【0030】
そして、本実施形態の製造方法は、まず、耐熱容器9の内部にAl粉末をセットし、このAl粉末の上にAl塊をセットすることにより、耐熱容器9に材料をセットする(材料セット工程)。このとき、Al粉末は、嵩密度が低くなるように、ふわふわした状態にセットすることが窒素ガスとの接触面積を多くすることができ、窒化アルミニウム(以下、「AlN」と記す。)の生成量を多くできるという意味で好ましい。なお、耐熱容器9の底にAl塊をセットし、その上にAl粉末をセットしてもよい。
【0031】
本実施形態においては、容量1000ml(ミリリットル)の耐熱容器9の内部に、1000gのAl粉末と400gのAl塊をセットした。ここで、Al塊とAl粉末とは、重量比で1:1.5−1:6.0の範囲であればよいが、Al粉末がこの範囲を超えると後述する燃焼反応が激しくなり、ボイドが多くなる。なお、図1には、耐熱容器9に材料をセットした状態を併せて示してある。また、耐熱容器9は、その容量が大きいほど燃焼合成反応が促進される。
【0032】
ついで、チャンバ3の内部の気体(空気)をガス排気口5から排気し、その後、真空ポンプ7を駆動してチャンバ3の内部を6.7×10−3kPa以下とする。そして、チャンバ3の内部の圧力が6.7×10−3kPa以下となったら、吸引口6に接続するバルブを閉じ、ガス供給口4に接続するバルブを開いてガス供給口4から窒素ガスをチャンバ3の内部に供給して、チャンバ3の内部を窒素雰囲気にする。このとき、窒素ガスの流量を500ml/min以上とし、ガス排気口5からオーバーフローさせる。これにより、チャンバ3の内圧は、常圧であるが10kPa程度になる。なお、製造装置1としてマッフル炉を用いて窒素ガスをオーバーフローさせることにより、チャンバ3内を常圧にした状態で窒素雰囲気とすることができる。
【0033】
また、窒素ガスの供給の開始とともに、ヒータ8を駆動してチャンバ3の内部、ひいては耐熱容器9にセットしたAl塊およびAl粉末をアルミニウムの融点を越える温度まで加熱して保持し、燃焼合成によるその場反応によりAlNを生成する熱処理工程を開始する。なお、窒素ガスをチャンバ3の内部に供給する前にヒータ8を駆動して、チャンバ3の内部を150℃程度に予熱してもよい。
【0034】
この熱処理工程は、アルミニウムの融点まで加熱して保持する第1熱処理工程と、この第1熱処理工程の後に続けてアルミニウムの融点を越える温度まで加熱して保持する第2熱処理工程とをこの順に続けて行う。
【0035】
具体的には、第1熱処理工程において、チャンバ3の内部をアルミニウムの融点、例えば660℃度まで5−10℃/minの速度で昇温し、15分保持する。これにより、Al粉末が窒素雰囲気下で昇温される途中(600℃近傍)で、Al粉末の表面のアルミナの還元(窒化)が始まると考えられる。
【0036】
ここで、第1熱処理工程でAl塊の融点まで加熱して保持するのは、Al塊を確実に溶融するためである。また、第1熱処理工程における昇温速度は、アルミニウムの融点以下、例えば500℃までの昇温速度をより速くすることにより、AINの生成に必要な時間を短縮することができる。
【0037】
なお、Al塊の代わりにアルミニウム合金の金属塊を用いた場合には、アルミニウム合金の融点まで加熱して保持することになる。なお、一般的には、アルミニウム合金の融点は、アルミニウムの融点より低い。
【0038】
また、第2熱処理工程において、チャンバ3の内部をアルミニウムの融点を越える温度としては1000℃以下とすることが好ましい。本実施形態においては850℃まで、1−10℃/minの速度で昇温し、15分保持する。これにより、アルミニウムの融点以上の温度で、Al粉末の表面のアルミナにAl塊の表面から溶融した液状のアルミニウム(以下、溶融Alと記す。)が接触することでアルミナが還元され燃焼する。
【0039】
そして、燃焼による反応熱で表層が壊れたAl粉末の内部の溶融したアルミニウム(粉末内部の溶融Al)と窒素ガスが反応し、燃焼合成によるその場反応により、AlNの粒子が生成される。同じくして、Al塊の表面から溶融した液状のアルミニウム(溶融Al)が溶融していないAl粉末層に浸透するので、この溶融Alについても連鎖的に燃焼合成反応が生じ、AlNが生成されることになる。
【0040】
そして、溶融したAl粉末(Alの初晶α)の粒界(周り)にAlNの粒子が生成するとともに、これらのAlNの粒子が繋がって網目構造が形成される。なお、Al塊の代わりにアルミニウム合金の金属塊を用いた場合には、AlNの網目構造には、合金を構成するSiなどのアルミニウム以外の成分の粒子が混合する(共晶および/または初晶)組織となる。
【0041】
本実施形態の製造方法におけるAlN生成状態(制御用熱電対、容器下熱電対、放射温度計によるそれぞれの温度と、チャンバ3の内部の圧力と、経過時間との関係)を図2に示す。
【0042】
また、図2からも明らかなように、燃焼合成反応が始まる前に、チャンバ3内の圧力は15kPa程度になる。また、アルミニウムと窒素が反応すると、その反応熱により急激に温度(放射温度)が上昇する(図2に破線で囲った部分)。さらに、燃焼合成反応により窒素ガスを消費するので、チャンバ3の内圧(窒素ガスの圧力)は下がる。また、アルミニウムと窒素の燃焼合成反応は、耐熱容器9の底部外側の温度が800−850℃となるとほぼ終了する。
【0043】
なお、第2熱処理工程における昇温速度を速くすると、AlN含有複合体に含まれるAlNの体積率(%)が高くなる。この昇温速度とAlNの体積率との関係を図3に示す。
【0044】
そして、熱処理工程が終了したら、例えば5℃/minの速度で冷却する(冷却工程)。これにより、溶融状態のアルミニウムが凝固し、塊状をなすAINの網目構造を持つAlN含有複合体(Al−AlN)が形成される。このAlN含有複合体の組織の模式図を図4に示す。このAlN含有複合体は、その体積率が高いほど線膨張係数が低くなる。
【0045】
なお、冷却工程を開始する前に窒素ガスの供給を停止し、冷却工程の終了後、窒素ガスをチャンバ3から排気する。
【0046】
つぎに、前述した構成からなる本実施形態の作用について説明する。
【0047】
本実施形態の製造方法によれば、Al塊とAl粉末とを、窒素雰囲気下でアルミニウムの融点を越える温度まで加熱して保持し、燃焼合成によるその場反応により窒化アルミニウムを生成する熱処理工程を有しているから、従来と異なり、触媒元素および反応助長剤材を用いずにAlN含有複合体を得ることができるので、製造コストを低減できる。
【0048】
また、本実施形態の製造方法によれば、AlNは、溶融したAl粉末の粒界に生成されるので、AlNの網目構造が形成される。その結果、AlNの網目構造を持つ塊状のAlN含有複合体を容易かつ確実に得ることができる。
【0049】
さらに、本実施形態の製造方法によれば、熱処理工程が第1熱処理工程と、この第1熱処理工程の後に続く第2熱処理工程とを有しているから、第1熱処理工程でAl塊の融点を保持することにより、Al塊を確実に溶融することができるので、燃焼合成反応による窒化AlNの生成を効率よく行うことができる。すなわち、Al塊は融解熱を吸収して溶融するので、Al塊の融点を保持することにより、Al塊の表面だけでなく大部分を溶融させることができる。
【0050】
さらにまた、本実施形態の製造方法によれば、第2熱処理工程におけるアルミニウムの融点を越える温度が1000℃以下、本実施形態においては850℃とされているから、AlNの生成を従来より確実に低温で行うことができる。
【0051】
またさらに、本実施形態の製造方法によれば、Al塊およびAl粉末をチャンバ3内に配置した耐熱容器9内で加熱するととともに、チャンバ3内に窒素を供給しつつ供給した窒素をチャンバ3からオーバーフローさせるから、チャンバ3の内部を窒素で満たすことできるとともに、窒化アルミニウムの形成により消費される窒素を確実に確保(常に供給)することができる。
【0052】
なお、本実施形態の製造方法により得られるAlN含有複合体におけるAlNの体積率は、Al粉末の嵩密度の大小、第2熱処理工程における昇温速度の大小、耐熱容器9の容量の大小により増減(制御)することができる。また、AlN含有複合体は、AlNの体積率が増加すると強度(圧縮強度)が強くなる。このAlNの体積率と圧縮強度との関係を図5に示す。
【0053】
(窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態)
つぎに、本発明に係る窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態について説明する。
【0054】
本実施形態の製造方法は、図1に示す製造装置1を用いて実施する。そして、本実施形態の製造方法は、前述した第1実施形態の製造方法における熱処理工程を終了した後に続けて、アルミニウムの融点を越える温度をさらに保持するとともに、この温度を保持している間に得られた生成体をスクレーパ10で掻き取りつつ攪拌する加工処理工程を有している。すなわち、加工処理工程は、前述した第1実施形態の製造方法における冷却工程に先立って実施される。
【0055】
具体的には、本実施形態の製造装置1により、図6に示すように、前述した第1実施形態における製造方法の第2熱処理工程を終了した後に、さらに850℃で60分保持する。そして、この状態850℃を保持している間に、スクレーパ10を、例えば回転速度が100rpmで下降速度が1mm/minの速度で回転しつつ下降させることにより、耐熱容器9の内部に存在する生成物、すなわち、アルミニウムが溶融状態とされたAlN含有複合体の表面をスクレーパ10で少しずつ削り取り攪拌する加工を行う。このとき、スクレーパ10による削り代(スクレーパ10の下降速度)は少ないほどよい。この生成物をスクレーパ10で削りながら攪拌している状態の製造装置1を図7に示す。
【0056】
そして、生成物をスクレーパ10で少しずつ削りながら攪拌することにより、図8に示すように、AlNの網目構造を破壊し、攪拌することにより均質な組織を得ることができる。
【0057】
ついで、加工処理工程が終了したら、図9に示すように、スクレーパ10を上昇させて回転を停止させた後、前述した第1実施形態の製造方法と同様に、例えば5℃/minの速度で冷却する(冷却工程)。これにより、溶融状態のアルミニウムが凝固し、図10に示すように、塊状をなすAINの網目構造を持たないAlN含有複合体が形成される。なお、AlN含有複合体は、アルミニウムが凝固して、アルミニウムのデンドライト(結晶粒)の周囲にAlNが凝集する構造となる。なお、冷却工程を開始する前(加工したスクレーパ10を退避位置まで上昇させた後)に窒素ガスの供給を停止し、冷却工程の終了後、窒素ガスをチャンバ3から排気する。
【0058】
なお、AlNの網目構造の破壊は、AlN生成途中、例えば750℃からスクレーパ10を回転しつつ加工させることにより網目を持たないAlNを形成することができるが、破壊したAlNの網目構造の小片が混ざり、あるいはAl粉末の表層を形成するアルミナの殻が破れて内部の溶融Alがアルミナの殻の外に出て、純アルミニウムの層と、AlN含有複合体の層とができてしまい、均一な組織を得ることができない。したがって、燃焼合成反応が終了した後の状態、すなわち、第2熱処理工程におけるアルミニウムの融点を越える温度をさらに保持した状態(AlNの粒子が溶融したアルミニウムに濡れたソフトクリームのようなアルミニウムが凝固する前の状態)でAlNの網目構造の破壊を行うことが均一な組織を得るうえで肝要である。
【0059】
このような構成からなる本実施形態の製造方法によれば、前述した第1実施形態の製造方法と同様の効果を奏するするとともに、加工処理工程を有しているから、熱処理工程により得られたAlNの粒子により形成された網目構造を破壊してばらばらにすることができる。その結果、塊状をなすAlNの網目構造を持たないAlN含有複合体を低コストで得ることができる。
【0060】
また、本実施形態の製造方法により得られるAlNの網目構造を持たないAlN含有複合体は、図10に示すように、アルミニウムのデンドライトの周囲に窒化アルミニウムが凝集した構造、すなわち、アルミニウム中にAlNが分散した構造となるので、再加熱により溶融可能なものとなるので、鋳造加工を容易に行うことができる。その結果、AlNの網目構造を持たないAlN含有複合体を鋳造加工することで、所望の形状の鋳造品を容易に得ることができる。
【0061】
(傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態)
つぎに、本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0062】
まず、説明の便宜上、本実施形態の傾斜組織AlN含有複合体の製造方法に用いられる製造装置の実施形態について図11により説明する。
【0063】
図11に示すように、本実施形態の傾斜組織AlN含有複合体の製造装置(以下、傾斜組織製造装置と記す。)21は、図示しないプレスの固定板22上に配置された割り中型23を有している。この割り中型23の中央部の下部には、上下動可能とされたノックアウト棒24により割り中型23から取り出し可能とされた下型25がその下面を固定板の上面に当接するように配置されている。そして、下型25の上方には上下動可能とされたパンチ26が配置されている。このパンチ26は、図示しないプレスの可動板に取り付けられている。また、割り中型23の周囲には、加熱手段としてのヒータ27が配設されており、割り中型23、ひいては下型25および下型25の上面にセットされた加工対象物WA(材料)を加熱することができるようになっている。また、下型25とパンチ26との対向面のそれぞれには、予め設定された深さの凹部25a、26aが設けられている(図12)。
【0064】
つぎに、本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0065】
本実施形態の傾斜組織AlN含有複合体の製造方法(以下、傾斜組織製造方法と記す。)は、図11に示す傾斜組織製造装置21を用いて行う。また、材料である加工対象物Wとして、前述した第1実施形態の製造方法により得られたAINの網目構造を持つAlN含有複合体のインゴットWAを用いる。このインゴットWAは、下型25の上面にセットしたときに、インゴットWAの外周と割り中型23の内周との間に隙間ができる大きさとされている。
【0066】
そして、本実施形態の傾斜組織製造方法は、インゴットWAをAl塊の融点以上の温度に加熱保持し、この加熱保持したインゴットWAを金型にセットして加圧圧縮する。なお、インゴットWAがアルミニウム合金の金属塊とAl粉末とを材料として製造されたものである場合には、インゴットWAをアルミニウム合金の融点以上の温度に加熱保持すればよい。
【0067】
具体的には、図示しない加熱炉でインゴットWAをAl塊の融点以上、例えば750℃に加熱し保持する。そして、加熱によりアルミニウムが溶融した状態のインゴットWA(AlNの網目の中に溶融したアルミニウムが保持されている状態)を、下型25の上面にセットする。このとき、インゴットWAの温度が下型25との接触により急激に低下しないように、ヒータ27を駆動して割り中型23、ひいては下型25を200℃以上に予め保持しておくことが好ましい。
【0068】
ついで、パンチ26を下降させ、図12に示すように、下型25とパンチ26との間でインゴットWAを200MPaで加圧圧縮する。これにより、図12の模式図に示すように、AlNの網目が押し潰されるとともに、溶融したアルミニウムがインゴットWAから押し出され、加圧方向の中央部位はAlNの濃度が濃く、加圧方向の両側部位(上下方向両端部)はAlNの濃度が薄くなる。そして、加圧圧縮したインゴットWAを冷却し、パンチ26を上昇させてから、ノックアウト棒24を上昇させて、下型から加圧圧縮したインゴットWAを取り外すことにより、傾斜組織AlN含有複合体を得ることができる。なお、加圧圧縮したインゴットWAを取り出してから冷却してもよい。
【0069】
そして、加圧圧縮したインゴットWAを加圧方向に沿ってスライス加工することにより、傾斜組織AlN含有複合体の板状製品を得ることができる。
【0070】
このように、本実施形態の傾斜組織製造方法によれば、網目構造を持つAlN含有複合体をAl塊の融点以上に加熱保持して加圧圧縮するという簡便な方法で傾斜組織AlN含有複合体を得ることができるので、製造コストを低減することができる。
【0071】
なお、従来のAlN粉末を材料とする傾斜組織材料の製造方法は、CVD法(化学蒸着法)、PVD法(物理蒸着法)、粒子配列法、粒子噴射法、薄膜積層法、遠心力法、プラズマツイントーチ溶射法、遷移整列法、SHS法(自己発熱反応法、燃焼合成法)、共晶接合法などがあるが、いずれも高価な設備と複雑な工程が必要で、高コストであるのに対し、本実施形態の傾斜組織製造方法は、簡単な設備(加熱炉、プレスおよび金型)により傾斜組織を得ることができるので、低コスト化を容易に図ることができる。
【0072】
また、本実施形態の傾斜組織製造方法によれば、インゴットWAに含まれるAlNの体積率、加圧速度、加圧力によって傾斜濃度を制御することができる。 さらに、本実施形態の傾斜組織製造方法によれば、加圧圧縮によりアルミニウムとAlNとの密着性がよくなる。
【0073】
そして、本実施形態の傾斜組織製造方法により得られた傾斜組織AlN含有複合体は界面がなく、また、傾斜組織は連続して変化する組織となるため、熱履歴などの影響を受けないから、剥離することがない。
【0074】
さらにまた、本実施形態の傾斜組織製造方法により得られた傾斜組織AlN含有複合体は、インゴットWAを溶融しないので、内部が酸化されないし、介在物が混入することもないので、品質が劣化することがない。
【0075】
またさらに、本実施形態の傾斜組織製造方法により得られた傾斜組織AlN含有複合体は、加圧圧縮によりAlNの密度(AlNの体積率)を上げることができるので、同じAlNの体積率のインゴットWA(AINの網目構造を持つAlN含有複合体)に比べて、100−300℃の範囲における線膨張係数を低くすることができる。
【0076】
ここで、本実施形態の傾斜組織製造方法により得られた傾斜組織AlN含有複合体の100−200℃の範囲における線膨張係数とAlNの体積率との関係を図13に示す。図13中の白丸は、前述した第1実施形態の製造方法により得られたAINの網目構造を持つAlN含有複合体(加圧前)の測定値であり、図13中の黒丸は、本実施形態の傾斜組織製造方法により得られた傾斜組織AlN含有複合体(加圧後)の測定値である。
【0077】
(傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態)
つぎに、本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態について説明する。
【0078】
まず、説明の便宜上、本実施形態の傾斜組織AlN含有複合体の製造方法に用いられる製造装置の実施形態について図14により説明する。
【0079】
図14に示すように、本実施形態の傾斜組織AlN含有複合体の製造装置(以下、傾斜組織製造装置と記す。)31は、電気炉32と、この電気炉32の炉体33の内部に向かって上下動可能な冷却部材34とを有している。冷却部材34は、炉体33内の溶湯に接離する接触体35と、この接触体35の内部に熱交換用の冷却水などの冷却液を供給する供給ポート36と、接触体35の内部に供給した冷却液を排出する排出ポート37を備えている。
【0080】
つぎに、本発明に係る傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法の第2実施形態について説明する。
【0081】
本実施形態の傾斜組織AlN含有複合体の製造方法(以下、傾斜組織製造方法と記す。)は、図14に示す傾斜組織製造装置31を用いて行う。また、材料である加工対象物として、前述した第2実施形態の製造方法により得られたAINの網目構造を持たないAlN含有複合体のインゴットを用いる。
【0082】
そして、本実施形態の傾斜組織製造方法は、インゴットをAl塊の融点以上の温度に再加熱することで溶湯を得、得られた溶湯を温度勾配を設けて冷却する。なお、インゴットがアルミニウム合金の金属塊とAl粉末とを材料として製造されたものである場合には、インゴットをアルミニウム合金の融点以上の温度に加熱すればよい。
【0083】
具体的には、傾斜組織製造装置31の冷却部材34を炉体33の上方に退避させた状態とし、この状態で電気炉32の炉体33にインゴットを入れて、インゴットをAl塊の融点以上、例えば800℃に加熱し保持する。そして、加熱によりインゴットを溶融させて溶湯とする(溶融したアルミニウムにAlNの粒子が分散している状態)。
【0084】
ついで、溶湯を冷却して凝固させる際に、図14に示すように、冷却部材34を下降させて接触体35の下面を溶湯の表面(液面)に当接させるとともに、冷却部材34の内部に冷却液を流動させる。
【0085】
これにより、溶湯は、その液面(図14の上面)から冷却されるので、上部と下部とで温度勾配を付けて冷却される。すなわち、溶湯を冷却する際の温度勾配は、溶湯に冷却部材34を接触することにより得られている。これにより、図14の模式図に示すように、溶湯は、接触体35が当接されて冷却速度の速い液面側(図14の上方)はAlNの濃度が薄くなり、接触体35から離間した炉体33の底側(図14の下方)はAlNの濃度が濃くなる。そして、冷却したインゴットを炉体33から取り外すことにより、図15に示すように、傾斜組織AlN含有複合体を得ることができる。
【0086】
なお、溶湯を冷却する際の温度勾配は、例えば炉体33の下部のみを低温で加熱するなどして炉体33の下部の冷却速度を遅くすることによっても得ることができる。また、冷却したインゴットは、圧延、鋳造、鍛造により成形することができる。
【0087】
このように、本実施形態の傾斜組織製造方法によれば、網目構造を持たないAlN含有複合体をAl塊の融点以上に再加熱することで溶湯を得、得られた溶湯を温度勾配を設けて冷却するという簡便な方法で傾斜組織AlN含有複合体を得ることができるので、製造コストを低減することができる。
【0088】
また、本実施形態の傾斜組織製造方法によれば、簡単な設備(加熱炉、冷却部材)により傾斜組織を得ることができるので、低コスト化を容易に図ることができる。
【0089】
さらに、本実施形態の傾斜組織製造方法によれば、温度勾配の大きさ、冷却速度により傾斜濃度を制御することができる。
【0090】
なお、本発明の傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法により得られる傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体は、航空・宇宙分野、原子力分野、機械分野、エレクトロニクス分野、生体・医療分野などに用いることができる。
【0091】
また、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 製造装置
2 加熱反応炉
3 チャンバ
4 ガス供給口
6 吸引口
7 真空ポンプ
8 ヒータ
9 耐熱容器
10 スクレーパ
21、31 傾斜組織製造装置
22 固定板
23 割り中型
25 下型
26 パンチ
27 ヒータ
32 電気炉
33 炉体
34 冷却部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金の金属塊とアルミニウムの粉末とを、窒素雰囲気下で前記アルミニウムの融点を越える温度まで加熱して保持し、燃焼合成によるその場反応により窒化アルミニウムを生成する熱処理工程を有していることを特徴とする窒化アルミニウム含有複合体の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程は、前記金属塊の融点まで加熱して保持する第1熱処理工程と、この第1熱処理工程の後に続けてアルミニウムの融点を越える温度まで加熱して保持する第2熱処理工程とを有している請求項1に記載の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウムの融点を越える温度が1000℃以下の範囲である請求項1または請求項2に記載の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属塊および前記アルミニウムの粉末をチャンバ内に配置した耐熱容器内で加熱するととともに、チャンバ内に窒素を供給しつつ供給した窒素をチャンバからオーバーフローさせる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程を終了した後に続けてアルミニウムの融点を越える温度をさらに保持するとともに、この温度を保持している間に得られた生成体をスクレーパで掻き取りつつ攪拌する加工処理工程を有している請求項1ないし4のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法により形成された窒化アルミニウム含有複合体を材料とし、この材料を前記金属塊の融点以上に加熱保持し、この加熱保持した材料を金型にセットして加圧圧縮することを特徴とする傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の窒化アルミニウム含有複合体の製造方法により形成された窒化アルミニウム含有複合体を材料とし、この材料を前記金属塊の融点以上に再加熱することで溶湯を得、得られた溶湯を温度勾配を設けて冷却することを特徴とする傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法。
【請求項8】
前記温度勾配は、溶湯に冷却部材を接触することにより得る請求項7に記載の傾斜組織窒化アルミニウム含有複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−49897(P2013−49897A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188610(P2011−188610)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(594122302)柳河精機株式会社 (8)
【Fターム(参考)】