説明

窒化アルミニウム焼結体及びそれを用いた窒化アルミニウム回路基板

【課題】色むらのない窒化アルミニウム焼結体、並びに、それを用いた窒化アルミニウム回路基板及びモジュールを提供する。
【解決手段】空気中にて、温度500〜700℃、処理時間6時間以内の条件で酸化処理が施された窒化アルミニウム粉末を原料とする窒化アルミニウム焼結体であり、窒化アルミニウムが直接窒化法により合成された前記窒化アルミニウム焼結体である。さらに、前記窒化アルミニウム焼結体を用いてなる窒化アルミニウム回路基板であり、前記窒化アルミニウム回路基板を用いてなるモジュールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム焼結体、それを用いた窒化アルミニウム回路基板及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス基板は高電気絶縁性、高熱伝導性という特長を有するため、回路基板として広く使用されている。さらに、これらの回路基板はパワーモジュール等に搭載されている。その中でも、窒化アルミニウム焼結体を用いる窒化アルミニウム基板は熱伝導性に優れており、注目されている。
【0003】
セラミックス基板となるセラミックス焼結体は、一般に以下の方法で製造される。即ち、セラミックス粉末に焼結助剤、バインダー、可塑剤、分散剤、離型剤等の添加剤を混合し、それを押出成形やテープ成形によってシート状の成形体へ加工する。次いで、成形体を空気中又は窒素などの不活性ガス雰囲気中で、350〜700℃に加熱してバインダーを除去した後(脱脂工程)、窒素等の非酸化性雰囲気中で、1450〜1900℃で0.5〜10時間保持すること(焼成工程)によって製造される。
【0004】
脱脂工程、焼成工程では、炉への成形体投入量を増やし生産性を向上させるため、成形体を積層することがある。しかし積層することにより、脱脂後の成形体の状態がばらつき、焼成後のセラミックス基板に色むらが発生するという課題がある。
そこでセラミックス焼結体の色むらを解消するために、しき粉を介して積層する方法(特許文献1)、生基板と焼成板を交互積層する方法(特許文献2)、焼成温度を2段階に分ける方法(特許文献3)などの試みがなされている。しかしながら、特許文献1〜3に示す方法では、色むらの程度は軽減されるものの、熱伝導率が下がったり、生産性に劣るという課題がある。
【特許文献1】特開平5−229872号公報
【特許文献2】特開平10−59772号公報
【特許文献3】特開平16−83367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、色むらのない窒化アルミニウム焼結体及びそれを用いた窒化アルミニウム回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気中にて、温度500〜700℃、処理時間6時間以内の条件で酸化処理が施された窒化アルミニウム粉末を原料とする、色むらのない窒化アルミニウム焼結体であり、窒化アルミニウムが直接窒化法により合成された前記窒化アルミニウム焼結体である。さらに、前記窒化アルミニウム焼結体を用いてなる窒化アルミニウム回路基板であり、前記窒化アルミニウム回路基板を用いてなるモジュールである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、色むらのない窒化アルミニウム焼結体が提供され、さらにセラミックス回路基板への適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る窒化アルミニウム粉末には、直接窒化法、アルミナ還元法などの公知の方法で製造された窒化アルミニウム粉末が使用できる。中でも、生産性に優れた直接窒化法により製造された窒化アルミニウム粉末が好ましい。
【0009】
窒化アルミニウム粉末を酸化する方法は特に限定されないが、例えば、空気中にて、500〜700℃の温度で加熱処理をすることが好ましい方法として挙げられる。500℃未満で加熱処理すると酸化の効果が薄く、焼結体の色むらが発生する場合がある。一方、700℃を越えて加熱処理すると窒化アルミニウム粉の酸素量が急激に増加し、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率が低下する場合がある。加熱処理時間は6時間以内が好ましい。6時間を超えて処理すると酸素量が増加し過ぎるため、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率が低下する場合がある。
【0010】
本発明の窒化アルミニウム焼結体及び窒化アルミニウム回路基板の製造方法について説明する。
【0011】
本発明に係る焼結助剤には、希土類金属の化合物、アルカリ土類金属の化合物、遷移金属の化合物などが使用できる。中でも、イットリウム酸化物、アルミニウム酸化物が好ましい。これらの焼結助剤は、窒化アルミニウム粉末の酸素すなわちアルミニウム酸化物と反応し複合酸化物の液相(例えば2Y・Al、Y・Al、Y・2Al等)を形成し、この液相が焼結体の高密度化をもたらし、同時に窒化アルミニウム粒子中の不純物である酸素等を抽出し、結晶粒界の酸化物相として偏析させることによって高熱伝導化をもたらす。
【0012】
窒化アルミニウム粉末と焼結助剤の混合は、特に限定されるものではなく、例えばボールミル、ロッドミルなどの公知の混合装置が使用される。混合粉末はそのまま成形してもよく、また例えばスプレードライヤー法、転動造粒法などによって造粒してから成形してもよい。成形は、特に限定されるものではなく、例えば押出成形法、ドクターブレード成形法、乾式プレス成形法、冷間等方圧プレス成形法(CIP法)などによって行うことができる。いずれの場合においても、必要に応じてバインダー、可塑剤、分散媒、分散剤などを用いることができる。
【0013】
次いで成形体を空気中又は窒素などのガス雰囲気中で350〜700℃に加熱し、バインダーを除去する。その後、窒素などの非酸化性雰囲気中にて、1450〜1900℃で0.5〜10時間保持することによって窒化アルミニウム焼結体を作製する。
【0014】
本発明により製造された窒化アルミニウム焼結体は、機械的特性に優れ、且つ、高い熱伝導率を有するので、厳しい使用条件下で用いられる回路基板、例えばパワーモジュール用回路基板に好適な材料である。
【0015】
本発明の窒化アルミニウム回路基板は、窒化アルミニウム焼結体を用いた基板面に金属回路、放熱板などを接合してなるものである。接合方法は特に限定されないが、窒化アルミニウム基板と金属板との間にろう材を介在させ、真空中、加熱・冷却するろう材接合法が好ましいものとして挙げられる。金属回路又は金属放熱板の材質としては、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデンやそれらの合金が一般的である。ろう材には箔、粉末を用いてよいが、ペーストで用いることが好ましい。ペーストは、ろう材の金属成分に有機溶剤及び必要に応じて有機結合剤を加え、ロール、ニーダー、万能混合機、らいかい機等の公知の混合機で混合することによって調製することができる。ペースト塗布方法は特に限定されず、スクリーン印刷法、ロールコーター法等の公知の方法を採用できる。
【0016】
接合した金属板にエッチングレジストにより回路パターンを描いた後、エッチング行う。エッチングレジストを除去する工程については、公知の方法を用いることができる。エッチングレジストとしては、公知の紫外線硬化型や熱硬化型のものを用いることができる。また、エッチング液は、用いる金属板の種類に応じて好適なエッチング液を選択して用いる。例えば金属が銅であるときには、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅溶液、硫酸、過酸化水素水等が使用され、好ましいものとして、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅溶液が挙げられる。
【実施例1】
【0017】
[実施例1]
直接窒化によって製造した窒化アルミニウム粉末(平均粒径5μm、酸素量0.78%)を、空気中で650℃で3時間加熱し、酸化処理を施した。酸化処理した窒化アルミニウム100質量部に酸化イットリウム粉末(信越化学工業社製「Yttrium Oxide」)5質量部を添加し、ボールミルにて1時間混合して原料粉末を得た。原料粉末100重量部にカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業社製「CMCダイセル」)8質量部、グリセリン(花王社製「エキセパール」)5質量部、ステアリン酸(サンノプコ社製「ノプコセラLU−6418」)1質量部、オレイン酸(和光純薬工業社製「オレイン酸」)2質量部、イオン交換水7質量部を添加し、ヘンシェルミキサーにて1分間混合し混合物を得た。混合物を混練機で混練した後、単軸押出機にてシート状に成形した。成形体を金型付きプレス機により60mm×50mm×1mmtの寸法に調整した。20枚積層した成形体を空気雰囲気中570℃で5時間加熱し脱脂した。脱脂後に、窒素雰囲気中1780℃で2時間加熱することで窒化アルミニウム焼結体を得た。得られた焼結体の外観および熱伝導率を評価した。結果を表1に示す。
【0018】
得られた窒化アルミニウム焼結体に、金属回路及び金属放熱板としてアルミニウム板を以下の方法にて接合し、窒化アルミニウム回路基板を作製した。
【0019】
窒化アルミニウム焼結体の両面に60mm×50mm×0.2mmtのろう合金箔(東洋製箔社製「A2017R−H合金箔」)を貼付け、さらにその両面から60mm×50mm×0.2mmtのアルミニウム板(三菱アルミニウム社製「1085材」)を挟み、それを10枚積層したものをカーボン治具に設置した後、620℃で2時間保持して窒化アルミニウム焼結体とアルミニウム板を接合した。接合体の一主面には所定の形状の回路パターンを、もう一方の主面には放熱板パターンを形成させるべく、UV硬化型レジストインク(互応化学社製「PER−27B−6」)をスクリーン印刷した後、UVランプを照射させてレジスト膜を硬化させた。次いで、レジスト塗布した部分以外を水酸化ナトリウム水溶液でエッチングした後、フッ化アンモニウム水溶液にてレジスト剥離し、アルミニウム回路/窒化アルミニウム基板を作製した。
【0020】
得られた回路基板の信頼性を評価するため熱履歴衝撃試験を実施し、1)パターン印刷ズレの有無、2)断面観察による回路面及び放熱板面と窒化アルミニウム基板間の接合クラック発生の有無、3)回路および放熱板部分を溶解後、インクテストによる窒化アルミニウム基板のクラック発生の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0021】
〈測定方法〉
熱伝導率:10mm×10mmに加工した窒化アルミニウム焼結体を、レーザーフラッシュ法により測定した。
熱履歴衝撃試験:−25℃に10分、25℃に10分、125℃に10分、25℃に10分さらす工程を1サイクルとした熱履歴を、サンプルの回路基板に対して3000サイクル与える試験。接合クラック発生の有無は、熱履歴衝撃試験を実施し、2000サイクル未満にて接合クラックが発生した場合を記号C、2000〜3000サイクルにて接合クラックが発生した場合を記号B、3000サイクルでも接合クラックが発生しない場合を記号Aとした。回路基板としての信頼性保証基準は記号A、Bである。
【0022】
[実施例2〜3]
窒化アルミニウム粉末の酸化処理条件を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体及び窒化アルミニウム回路基板を得た。評価結果を表1に示す。
【0023】
[比較例1]
窒化アルミニウム粉末を酸化処理しないこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体及び窒化アルミニウム回路基板を得た。評価結果を表1に示す。
【0024】
[比較例2〜5]
窒化アルミニウム粉末の酸化処理条件を表1に示すように種々変えたこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体及び窒化アルミニウム回路基板を得た。評価結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により製造された窒化アルミニウム焼結体は、色むらがなく且つ高い熱伝導率を有するので、通常の回路基板はもとより、厳しい使用条件下で用いられる回路基板、例えばパワーモジュール用回路基板に好適な材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中にて、温度500〜700℃、処理時間6時間以内の条件で酸化処理が施された窒化アルミニウム粉末を原料とする、色むらのない窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
窒化アルミニウムが直接窒化法により合成されたことを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の窒化アルミニウム焼結体を用いてなる窒化アルミニウム回路基板。
【請求項4】
請求項3記載の窒化アルミニウム回路基板を用いてなるモジュール。

【公開番号】特開2007−186385(P2007−186385A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6893(P2006−6893)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】