説明

窒化珪素焼結体、放熱絶縁用セラミックス基板、放熱絶縁用回路基板、及び放熱絶縁用モジュール

【課題】焼成雰囲気調整なく高い焼結性、高い緻密性及び大きな熱伝導性を有する窒化珪素焼結体、並びにそれを用いた放熱性の大きな放熱絶縁用セラミックス基板、放熱絶縁用セラミックス回路基板及び放熱絶縁用モジュールの提供。
【解決手段】Siと、軽希土類元素と、重希土類元素及び/又はYと、Srとを含有する窒化珪素焼結体であり、Siの含有割合が85〜90モル%、前記軽希土類元素の含有割合が酸化物換算で1〜5モル%、前記重希土類元素及び/又はYの含有割合が酸化物換算で1〜5モル%、Srの含有割合が酸化物換算で3〜13モル%であり、ラマン分光分析における波数521±2cm−1の珪素ピーク強度(S1)と206±2cm−1付近の窒化珪素のピーク強度(S2)との比S1/S2が0.1未満であることを特徴とする窒化珪素焼結体、放熱絶縁用セラミックス基板、放熱絶縁用セラミックス回路基板、放熱絶縁用モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、窒化珪素焼結体、放熱絶縁用セラミックス基板、放熱絶縁用回路基板、及び放熱絶縁用モジュールに関し、更に詳しくは、焼成雰囲気調整を行う必要もなく高い焼結性を有して製造されることのできる、高い緻密性及び大きな熱伝導性を有する窒化珪素焼結体、並びにそのような窒化珪素焼結体を用いることにより放熱性の大きな放熱絶縁用セラミックス基板、放熱絶縁用回路基板及び放熱絶縁用モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、窒化珪素材料は難焼結性であるが、IUPAC1990年勧告による周期律表における第3族元素酸化物を焼結助剤として添加することにより低温焼成が可能になった。また、窒化珪素材料に、さらにアルカリ土類元素、SiO、Al、及びその他の金属酸化物を焼結助剤として配合することにより良好な焼結性が得られる。したがって、従来の多くの窒化珪素焼結体はこれらの助剤を含有することを基本としている。
【0003】
一方、窒化珪素の緻密化には、焼結助剤の他に様々な焼成条件が影響を及ぼすことはよく知られている。焼成体の揮発量に影響を与える焼成雰囲気は、窒化珪素の緻密化に影響を与える条件の1つである。
【0004】
窒化珪素材料は焼成の過程で、焼成雰囲気の影響により、窒化珪素又は焼結助剤等の揮発を伴うことがある。前記揮発が生じると、その揮発量によっては焼結初期の段階でポーラスな揮発層が形成され、収縮が阻害されて緻密な窒化珪素焼結体が形成されないことがある。特に10気圧以下といった低圧の窒素雰囲気下における焼成では、ホットプレス及びHIP等に比較して、揮発による緻密化阻害はより顕著になる。
【0005】
一方、高熱伝導性を有する窒化珪素焼結体を得るには、熱伝導率を向上させる為にフォノン伝達を阻害する粒界層の生成量をできる限り低減させる必要がある。ところが粒界相の生成量を低減させても、僅かの揮発が焼結性を著しく低下させている。
【0006】
この揮発による焼結性低下を防ぐ為に、揮発量を制御する方法として、被焼成材料と同様の組成よりなる窒化珪素製焼成容器内にて被焼成材料を焼成する方法、及びBN等と被焼成材料と同様のSi又は助剤とを加えて成る焼成雰囲気用の詰粉に被焼成材料を埋没させて焼成を行う方法等が一般的に採用されている。これらの他にも、詰粉と同様の効果を持つ雰囲気調整方法として、被焼成体表面に詰粉と同様な成分を含むコーティング材を塗布する方法もある。
【0007】
しかしながら、前記窒化珪素製焼成容器は、焼成を繰り返すことにより前記窒化珪素製焼成容器からそれを形成する成分が揮発するなどによる劣化で、焼成雰囲気制御機能が低下する。したがって、前記窒化珪素製焼成容器の使用では焼成雰囲気を常に一定にすることが困難な上に、前記窒化珪素製焼成容器自体が高価であり、しかも耐久性が低いので、高熱伝導性を有する窒化珪素焼結体の製造コストが著しく増大していた。
【0008】
焼成雰囲気用の詰粉を使用することによる焼成雰囲気制御においても、焼成毎に詰粉の詰め替えが必要であり、製造コストもかかる上に、被焼成物の形状の自由度が制限されてしまう。コーティング材を塗布することによる雰囲気調整にしても、同様に製造コストが増加する。
【0009】
一方、本願発明者らは、特許文献1により「熱伝導性及び機械的強度に優れ、且つ低コストの窒化珪素焼結体及びそれを用いてなる回路基板」を提案している。特許文献1に記載の窒化ケイ素焼結体は、「Mg及びSrの少なくとも一方を酸化物換算で合計0.1〜10質量%、Al、Ca及びFeのうちの少なくとも1種を酸化物換算で合計0.05〜1質量%、並びに希土類元素のうちの少なくとも1種を酸化物換算で合計3〜10質量%含有し、且つラマン分光分析における波数521cm−1付近の珪素のピーク強度をS1、206cm−1付近の窒化珪素のピーク強度をS2とした場合に、S1/S2で表されるピーク強度比が0.1以上であることを特徴とする窒化珪素焼結体」(特許文献1の請求項1参照)であり、この窒化珪素焼結体は「上記希土類元素として、軽希土類元素のうちの少なくとも1種を酸化物換算で合計1質量%以上、並びに重希土類元素及びYから選ばれる少なくとも1種を酸化物換算で合計1質量%以上含有する」(特許文献1の請求項2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2003−95747号公報
【0011】
特許文献1に記載された窒化珪素焼結体は、「特定の成分を特定量含有させることにより、低コストで、且つ熱伝導性及び機械的強度に優れた性質を有する焼結体とすることができる」との優れた技術的効果を奏するのであるが、本願発明者らは、同様に優れた技術的効果を奏するさらなる窒化珪素焼結体の開発に努力を重ねた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明はこの問題を解決するためになされた。この発明は、窒化珪素製焼成容器の使用、又は焼成雰囲気用の詰粉の使用等の、特別な焼成雰囲気調整を行うことなく高い焼結性を維持し、内部から焼き肌面まで緻密に形成された窒化珪素焼結体を提供することを課題とする。また、この発明は、放熱性に優れた放熱絶縁用セラミックス基板、放熱絶縁用回路基板及び放熱絶縁用モジュールを提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決する手段として、
請求項1は、
Siと、IUPAC1990年勧告による周期律表におけるランタノイドのうちLa、Ce、Pr、Nd、Pm、及びSmより成る群から選択される少なくとも1種の軽希土類元素と、IUPAC1990年勧告による周期律表におけるランタノイドのうちEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuより成る群から選択される少なくとも1種の重希土類元素及び/又はYと、Srとを含有する窒化珪素焼結体であって、
Siと、前記軽希土類元素の酸化物と、前記重希土類元素及び/又はYの酸化物と、Srの酸化物との合計が100モル%となるように、Siの含有割合が85〜90モル%の範囲内にあり、前記軽希土類元素の含有割合が酸化物換算で1〜5モル%の範囲内にあり、前記重希土類元素及び/又はYの含有割合が酸化物換算で1〜5モル%の範囲内にあり、Srの含有割合が酸化物換算で3〜13モル%の範囲内にあり、
ラマン分光分析における波数521±2cm−1の珪素ピーク強度をS1、206±2cm−1の窒化珪素のピーク強度をS2とした場合に、S1/S2で表されるピーク強度比が0.1未満であることを特徴とする窒化珪素焼結体であり、
請求項2は、
Alを酸化物換算で、Siと、前記軽希土類元素の酸化物と、前記重希土類元素及び/又はYの酸化物と、Srの酸化物との合計を100モル%とするときに、0.4モル%以下の含有割合で含有して成る前記請求項1に記載の窒化珪素焼結体であり、
請求項3は、
前記軽希土類が、La、Ce、Pr及びNdから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の窒化珪素焼結体であり、
請求項4は、
前記重希土類元素が、Ho、Er、Yb及びDyから選ばれる1種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化珪素であり、
請求項5は、
前記請求項1〜4のいずれかに記載の窒化珪素焼結体を用いた放熱絶縁用セラミックス基板であり、
請求項6は、
前記請求項1〜4のいずれかに記載の窒化珪素焼結体を用いた放熱絶縁用セラミックス回路基板であり、
請求項7は、
前記請求項1〜4のいずれかに記載の窒化珪素焼結体を用いた放熱絶縁用モジュールである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、焼成雰囲気を調整することなく、換言すると、焼成雰囲気の変化に拘わらずに内部から焼き肌表面まで緻密に焼成されて成り、しかも機械的強度が大きくて熱伝導率の大きな窒化珪素焼結体が提供される。この発明によるとこのように優れた特性を有する窒化珪素焼結体を用いることにより放熱性及び絶縁性の良好な放熱絶縁用セラミックス基板、放熱絶縁用回路基板、及び放熱絶縁用モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明に係る窒化珪素焼結体は、Siと、IUPAC1990年勧告による周期律表におけるランタノイドのうちLa、Ce、Pr、Nd、Pm、及びSmより成る群から選択される少なくとも1種の軽希土類元素と、IUPAC1990年勧告による周期律表におけるランタノイドのうちEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuより成る群から選択される少なくとも1種の重希土類元素及び/又はYと、Srとを含有する。この窒化珪素焼結体は、Si(以下において、「窒化珪素」と称することがある。)を、前記窒化珪素、前記軽希土類元素の酸化物、前記重希土類元素及び/又はYの酸化物及びSrの酸化物の合計が100モル%となるように85〜90モル%の範囲内で、好ましくは86〜89モル%の範囲内で含有する。この窒化珪素の含有割合が90モル%を超えると、焼結性が低下し、また85モル%未満であると窒化珪素自体が有する優れた機械的性質及び耐熱性等が十分ではなくなり、熱伝導性の低下した窒化珪素焼結体が得られてしまう。窒化珪素自体については特に制限がなく、α型窒化珪素及びβ型窒化珪素のいずれも使用することができる。この窒化珪素の好適な平均粒径は0.5〜1.6μmである。平均粒径が前記0.5μmよりも小さいと成形性を損なうと言った問題点を生じることがある。また、この窒化珪素がα型窒化珪素及びβ型窒化珪素の混合物であるときはそのα型窒化珪素の割合すなわちα率は70〜100%であるのが好ましい。α率が70%未満であると焼結体の粗大粒子減少による靭性低下などの機械的特性低下と言った不都合を生じることがある。また窒化珪素に含まれる不純物としての酸素含有量は、通常、0.8〜2質量%である。前記酸素含有量が少ないと焼結性低下、多いと耐熱性低下や熱伝導率低下といった不都合を生じることがある。
【0016】
この発明に係る窒化珪素焼結体は、前記窒化珪素と前記軽希土類元素の酸化物と前記重希土類元素及び/又はYの酸化物及びSrの酸化物との合計が100モル%になるように軽希土類元素を酸化物換算で1〜5モル%、好ましくは1〜4モル%の範囲内で含有する。前記軽希土類元素としては、IUPAC1990年勧告による周期律表におけるランタノイドのうちLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、及びEuを挙げることができる。これらの中でもLa、Ce、Pr、及びNdが好ましい。これらの軽希土類に属する少なくとも一種の元素が窒化珪素焼結体中に酸化物換算の前記割合で配合されていると、焼成雰囲気の調整をすることなく緻密な焼結体に形成することができるとともに熱伝導率の大きな窒化珪素焼結体が実現される。軽希土類元素として特にLa、Ce、Pr、及びNdが含まれているとこれらはイオン半径が大きいので、焼結後の窒化珪素の粒子がこれら軽希土類元素のイオン半径に影響を受けて、焼成雰囲気の調整をすることなく緻密な窒化珪素焼結体が形成される。ともあれ、軽希土類元素が1モル%未満の割合で窒化珪素焼結体中に含まれていると、焼結性の低下した窒化珪素焼結体となり、また5モル%を越える割合で窒化珪素焼結体中に含まれていると、熱伝導性の低下した窒化珪素焼結体が得られてしまい、この発明の目的が達成されない。
【0017】
この発明に係る窒化珪素焼結体は、前記窒化珪素と前記軽希土類元素の酸化物と前記重希土類元素及び/又はYの酸化物とSrの酸化物との合計が100モル%になるように、前記重希土類元素及びYから選ばれる少なくとも1種の元素を酸化物換算で1〜5モル%、好ましくは1〜4モル%含有する。前記重希土類元素及び/又はYの窒化珪素焼結体中の含有量が前記範囲の下限値未満であると、焼結性の低下した窒化珪素焼結体となり、前記重希土類元素及び/又はYの窒化珪素焼結体中の含有量が前記上限値を超えると、焼結中に揮発成分の揮発量が増加して焼結性が低下した窒化珪素焼結体となる。ここで、前記重希土類元素としては、IUPAC1990年勧告による周期律表におけるランタノイドのうちEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuを挙げることができ、これらのうち特にHo、Er、Yb及びDyよりなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0018】
この発明に係る窒化珪素焼結体は、前記窒化珪素と前記軽希土類元素の酸化物と前記重希土類元素及び/又はYの酸化物とSrの酸化物との合計が100モル%になるように、Srを酸化物換算で3〜13モル%、好ましくは3〜8モル%の割合で含有する。Srの含有量が前記範囲の下限値を下回ると焼結性の低下した窒化珪素焼結体となり、また、Srの含有量が前記範囲の上限値を上回ると熱伝導性の低下した窒化珪素焼結体となってしまう、いずれもこの発明の目的を達成することができない。
【0019】
この発明に係る更に好適な窒化珪素焼結体は、前記窒化珪素と前記軽希土類元素の酸化物と前記重希土類元素及び/又はYの酸化物とSrの酸化物との合計が100モル%になるように、窒化珪素を86〜89モル%の範囲内で、前記軽希土類の元素を酸化物換算で1〜4モル%の範囲内で、前記重希土類元素及び/又はYを酸化物換算で1〜4モル%の範囲内で、Srを酸化物換算で3〜8モル%の範囲内で、含有する。このような含有割合で前記特定の成分を含有する窒化珪素焼結体は、焼結性及び熱伝導率のバランスがより優れている。
【0020】
また、この窒化珪素焼結体はAlを含有するのが好ましい。窒化珪素焼結体に含まれるAlの含有割合は、前記窒化珪素、前記軽希土類元素の酸化物、前記重希土類元素及び/又はYの酸化物及びSrの酸化物の合計100モル%に対して、0.4モル%以下である。窒化珪素焼結体中に含まれるAlの含有量が0.4モル%を超えると、窒化珪素粒子へのAl固溶により、焼結体の熱伝導率が低下することがある。
【0021】
この発明に係る窒化珪素焼結体は、ラマン分光分析における波数521±2cm−1の珪素ピーク強度をS1、206±2cm−1の窒化珪素のピーク強度をS2とした場合に、S1/S2で表されるピーク強度比が0.1未満であることが一つの特徴である。前記ピーク強度比が0.1以上であると、窒化珪素焼結体の耐電圧が低下することがある。珪素は比較的ラマン活性が強いので、ラマン分光分析では、例えばX線回折法では検出できない微量な珪素を検出することが可能である。なお、珪素のピークの波数を521±2cm−1、及び窒化珪素のピークの波数を206±2cm−1としたのは、各々の波数において、通常、±2cm−1以内のピークのズレがあるからである。
【0022】
この発明に係る窒化珪素焼結体は、粒界がガラス相であることが好ましい。粒界が結晶化すると粒界と窒化珪素粒子との結合力が大きくなったり、粒界ガラス量が減少したりして、クラックが粒界を通り難くなってクラックディフラクション効果が低下して、靭性が低下することがある。粒界がガラス相であれば、このような原因で靭性が低下することはない。X線回折により粒界結晶相が検出されなければ、粒界はガラス相であると判断できる。
【0023】
この発明に係る窒化珪素焼結体は、その室温での強度が少なくとも500MPaであり、好ましくは600〜1500MPaであり、特に好ましくは700〜1500MPaであり、その靭性が5〜8MPam0.5であり、好ましくは5.5〜8.0MPam0.5であり、その熱伝導率が50〜150W/mKであり、好ましくは60〜150W/mKであり、特に好ましくは70〜150W/mKであるのが望ましい。なお、これらの上限値を越えるとこの発明の目的を達成することができないというわけではないが、一般的な上限値としての目安を示すに過ぎない。
【0024】
この室温での強度は、三点曲げ強度測定法(JIS R1601)により測定される。靭性は破壊靭性とも称され、IF法(JIS R1607)により測定される。また、熱伝導率はJIS R1611 に規定される測定法により測定される。
【0025】
この窒化珪素焼結体の前記強度が前記500MPa以上であるとともに靭性が5MPa0.5以上であると、回路基板の耐熱サイクル性が良好であり、この窒化珪素焼結体を利用して放熱絶縁用セラミックス基板を好適に製造することができる。この窒化珪素焼結体の熱伝導率が50W/mK未満であると、このような熱伝導率を有する窒化珪素焼結体はアルミナ(一般的に40W/mK以下)よりも優れた放熱性を実現することができないことがある。
【0026】
この発明に係る窒化珪素焼結体は次のようにして製造することができる。
【0027】
この発明に係る窒化珪素焼結体の原料として、Siと、軽希土類元素の化合物と、重希土類元素及びYよりなる群から選択される少なくとも一種の元素の化合物と、更にストロンチウム化合物とを、前記した含有量範囲から選択された割合で含有する粉末混合物を、先ず調製する。粉末混合物の調製にあたり、提供される原料の形態に応じて粉砕混合処理をする。この粉砕混合処理に使用される粉砕混合処理装置として、振動ミル、回転ミル、又はアトライターミル等が挙げられる。この粉砕混合処理は、水、又は有機溶媒例えばアルコール等を使用する湿式法、又は乾燥法で行われることができる。粉砕時間は、粉砕方式及び処理量等により異なり、粉砕後に得られる粉末の平均粒径が好ましくは0.5〜1μmになるように、適宜に調整するのがよい。湿式粉砕法により粉砕する時には、粉砕混合して得られた粉末を乾燥し、造粒する。得られた粒子を、通常の乾式プレス成形法、押出し成形法、スリップキャスト成形法、ドクターブレード成形法及び静水圧プレス法のいずれか又はこれらの組み合わせにより、所定の形状の成形体に成形する。この成形体が焼成される。焼成は、成形体を、通常、0.1〜1MPaのN圧力のもとで1850〜2000℃に3〜12時間加熱することにより、行われる。また、この発明においては、焼成に際して、成形体の焼成雰囲気を調整する必要がない。従来におけるように窒化珪素を主成分とする被焼成物を詰粉内に埋めて焼成するといった焼成操作をすることなく、この発明に係る窒化珪素焼結体を得ることができることは、この発明の特筆するべき有利な効果である。
【0028】
この発明に係る窒化珪素焼結体は、それ自体が優れた緻密性、大きな強度及び大きな熱伝導性を有するので、例えば半導体用絶縁基板等の半導体装置用及びOA機器等の各種部品に好適に採用されることができる。特に、この発明に係る窒化珪素焼結体のうち、室温強度が500MPa以上である共に靭性が5MPam0.5以上であり、熱伝導率が50W/mK以上である窒化珪素焼結体は、その優れた熱伝導率の故に、例えば放熱絶縁用セラミック基板、放熱絶縁用セラミックス回路基板及び放熱絶縁用モジュールに好適に採用されることができる。
【0029】
この発明に係る放熱絶縁用セラミック基板はさらに放熱絶縁用セラミックス回路基板に利用可能である。この発明に係る放熱絶縁用セラミックス回路基板として、前記窒化珪素焼結体で形成された基板(以下において窒化珪素焼結体基板と称することがある。)と電気的回路(以下において単に回路と称することがある。)とを有する限り様々の放熱絶縁用セラミックス回路基板を挙げることができる。放熱絶縁用セラミックス回路基板として、例えば、図1に示されるように、この発明に係る窒化珪素焼結体からなる放熱絶縁用セラミック基板1の一方の面に回路金属2を、また他方の面に導電性物質たとえば金属、導電性ペースト等で形成された回路3を形成してなる放熱絶縁用セラミックス回路基板4を挙げることができる。
【0030】
また、図示はしないが、放熱絶縁用セラミックス回路基板として、窒化珪素焼結体からなる2枚の基板で銅放熱板を挟持し、更に一方の窒化珪素焼結体からなる基板の銅放熱板とは反対側の表面に導電層からなる回路を形成してなる放熱絶縁用セラミックス回路基板、及び
窒化珪素焼結体基板の表面に、銅箔及びアルミ箔等の金属箔又は金属の微粉末を使った導電ペースト材で電気回路を形成してなる放熱絶縁用セラミックス回路基板等を挙げることができる。
【0031】
さらにまた、放熱回路用基板として、例えば、窒化珪素焼結体基板の一方の表面に、発熱性部品を搭載可能に形成された回路の配線パターンを有する樹脂系耐熱配線板を貼着して成る放熱絶縁用セラミックス回路基板、及び窒化珪素焼結体基板の一方の表面に絶縁層を形成し、その絶縁層の前記窒化珪素焼結体基板に向う表面とは反対側の表面に、導電物質例えば銀ペースト又は金属箔等で回路を形成してなる放熱絶縁用セラミックス回路基板等を挙げることができる。
【0032】
この発明に係る放熱絶縁用セラミック基板は、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等に搭載されるインバータユニット用パワーモジュールに使用される回路基板に好適に使用されることができる。
【0033】
この発明に係る窒化珪素焼結体を利用してこの発明に係る放熱絶縁用モジュールが形成される。
【0034】
図2に示されるように、この発明に係る放熱絶縁用モジュールの一例としての放熱絶縁用モジュール5は、モジュールケース6と、そのモジュールケース6の底面に嵌着された、この発明の一例である放熱用セラミック基板である窒化珪素焼結体基板1を搭載した放熱板7と、その放熱板7の上面に搭載された放熱用セラミック基板1と、その基板1の上面に形成された半導体チップ9及び回路10と、モジュールケースの回路設置部8の上面に形成された回路11と、前記半導体チップ9と回路10とを電気的に結合するワイヤボンディング12及び前記回路10と回路11とを電気的に結合するワイヤボンディング12と、これらをモールドする樹脂封止部材13とを有して形成される。
【0035】
また、図示はしないが、この発明に係る放熱絶縁用モジュールとして、例えば、銅板又は銅合金板の表面に、アルミニウム板、窒化珪素基板及びパワーデバイスをこの順に積層してなるパワーモジュール、2枚の窒化珪素基板で銅放熱板を挟持し、更に一方の窒化珪素基板の銅放熱板とは反対側の表面に導電層からなる回路を形成し、更に前記回路にパワーデバイスを搭載してなるパワーモジュール、及び、P型半導体とN型半導体とを交互に配列すると共にこれらP型半導体とN型半導体とを電気的に直列に接続することにより直列接続体を形成し、この直列接続体を2枚の窒化珪素基板で挟んでなる、ペルチエ素子でもあるサーモモジュール等を挙げることができる。
【実施例】
【0036】
(実施例1〜6及び比較例1〜12)
表1に示される配合割合の、平均粒径が0.5μmである窒化珪素原料粉末と、表1及び表2に示される配合割合の、表1及び表2に示される元素の酸化物とを配合し、得られる配合物をエタノール中にて粉砕混合した。次いで、エタノールを除去して乾燥することにより調合粉末を得、この調合粉末をプレス成形して直径20mm及び厚さ10mmの成形体に成形した。この成形体をさらに2トンの圧力でCIP処理をして加圧成形体を得た。この加圧成形体を炭化珪素で形成された焼成容器に収容し、1900℃で4時間焼成を行った。この焼成処理に際し、炭化珪素製焼成容器自体に焼成雰囲気処理をせず、また、焼成雰囲気として詰粉を使用せず、要するに焼成雰囲気調整を全く行わなかった。
【0037】
焼成後に得られた窒化珪素焼結体は、アルキメデス法によりその密度が測定された。理論密度との相関からこれらの窒化珪素焼結体の緻密度が評価された。
【0038】
また、これらの窒化珪素焼結体の熱伝導率は、これらの窒化珪素焼結体を直径10mm及び厚さ2mmのテストピースに加工し、このテストピースにつきレーザーフラッシュ法により、測定された。
【0039】
これらの窒化珪素焼結体の強度及び靭性が強度はJIS R1601、靭性はJIS R1607に準拠して測定された。
【0040】
これらの窒化珪素焼結体の耐電圧は以下のようにして測定された。
【0041】
前記窒化珪素焼結体を0.3mmに研磨加工した後、JIS C2110「固体電気絶縁材料の絶縁耐力の試験方法」に基づく常態油中耐電圧測定を行うことにより求めた。ここで、絶縁破壊電圧測定の際に使用した電極形状を図3に示す。図3において、21で示すのは上部電極であり、22で示すのは試料である窒化珪素焼結体であり、23で示すのは下部電極である。尚、JIS規格での試料厚さは2mmあるいは3mmであるが、半導体用絶縁基板への適用においては、実際の基板厚さが約0.3mmで使用されることが多いために、本試験での試料厚さは0.3mmとした。
【0042】
前記窒化珪素焼結体のラマンピーク強度比(S1/S2)は以下のようにして測定された。
【0043】
下記の測定条件によるラマン分光分析における波数521±2cm−1の珪素のピーク強度(S1)及び206±2cm−1の窒化珪素のピーク強度(S2)によりピーク強度比(S1/S2)を求めた。
【0044】
測定条件:ラマン分光分析装置は、フランスISA社製「Labram Arレーザー(波長514.5mm)」を用いた。レーザー出力は20mW、レーザービームのスポット径は約10μm、レーザービームの試料に対する積算照射時間は約10秒、及び散乱光はCCDセンサーにより検出した。
【0045】
これらの測定結果を表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
結晶相は希土類のシリコンオキシナイトライド(RESiO2N)が主であった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1はこの発明の放熱絶縁用回路基板の一例を示す断面説明図である。
【図2】図2はこの発明の放熱絶縁用モジュールの一例を示す断面説明図である。
【図3】図3は絶縁破壊電圧測定の際に使用した電極形状を示す模式図である。
【符号の説明】
【0050】
1 放熱用セラミック基板
2 回路金属
3 回路金属
4 放熱絶縁用回路基板
5 放熱絶縁用モジュール
6 モジュールケース
7 放熱板
8 モジュールケースの回路設置部
9 半導体チップ
10 回路
11 回路
12 ワイヤボンディング
13 樹脂封止部材
21 上部電極
22 試料
23 下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siと、IUPAC1990年勧告による周期律表におけるランタノイドのうちLa、Ce、Pr、Nd、Pm、及びSmより成る群から選択される少なくとも1種の軽希土類元素と、IUPAC1990年勧告による周期律表におけるランタノイドのうちEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuより成る群から選択される少なくとも1種の重希土類元素及び/又はYと、Srとを含有する窒化珪素焼結体であって、
Siと、前記軽希土類元素の酸化物と、前記重希土類元素及び/又はYの酸化物と、Srの酸化物との合計が100モル%となるように、Siの含有割合が85〜90モル%の範囲内にあり、前記軽希土類元素の含有割合が酸化物換算で1〜5モル%の範囲内にあり、前記重希土類元素及び/又はYの含有割合が酸化物換算で1〜5モル%の範囲内にあり、Srの含有割合が酸化物換算で3〜13モル%の範囲内にあり、
ラマン分光分析における波数521±2cm−1の珪素ピーク強度をS1、206±2cm−1の窒化珪素のピーク強度をS2とした場合に、S1/S2で表されるピーク強度比が0.1未満であることを特徴とする窒化珪素焼結体。
【請求項2】
Alを酸化物換算で、Siと、前記軽希土類元素の酸化物と、前記重希土類元素及び/又はYの酸化物と、Srの酸化物との合計を100モル%とするときに、0.4モル%以下の含有割合で含有して成る前記請求項1に記載の窒化珪素焼結体。
【請求項3】
前記軽希土類が、La、Ce、Pr及びNdから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の窒化珪素焼結体。
【請求項4】
前記重希土類元素が、Ho、Er、Yb及びDyから選ばれる1種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化珪素焼結体。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれかに記載の窒化珪素焼結体を用いた放熱絶縁用セラミックス基板。
【請求項6】
前記請求項1〜4のいずれかに記載の窒化珪素焼結体を用いた放熱絶縁用セラミックス回路基板。
【請求項7】
前記請求項1〜4のいずれかに記載の窒化珪素焼結体を用いた放熱絶縁用モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63187(P2008−63187A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242809(P2006−242809)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】