説明

窒化鉄系磁性粉末、及びそれを用いた磁気記録媒体

【課題】微粒子化を進めていった場合でも、耐食性及び磁気特性に優れた窒化鉄系磁性粉末を提供する。また、その窒化鉄系磁性粉末を用いることにより磁気特性の劣化の少ない保存安定性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】窒化鉄相の主相としてFe16相を含有し、5〜30nmの平均粒子径を有する窒化鉄系磁性粉末であって、バリウム、及びストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む六方晶フェライトを含有する窒化鉄系磁性粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布型の磁気記録媒体に用いられる窒化鉄系磁性粉末に関し、さらに詳しくは、窒化鉄系磁性粉末の耐食性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
非磁性支持体上に磁性粉末と結合剤とを含有する磁性層が形成された塗布型の磁気記録媒体は、アナログ方式からデジタル方式への記録再生方式の移行に伴い、一層の記録密度の向上が要求されている。特に、高密度デジタルビデオテープやコンピュータバックアップテープなどにおいては、この要求が年々高まってきている。
【0003】
記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するためには、短波長領域における出力を向上し、ノイズを低減する必要がある。ノイズは磁性粉末の充填量で比較すると、記録ビット内に存在する粒子の個数が多くなるほど低くなるため、磁性粉末は年々微粒子化が図られており、現在では45nm程度の長軸長を有する針状の金属鉄系磁性粉末が実用化されている。さらに、短波長記録時の減磁による出力の低下を防止するために、年々磁性粉末の高保磁力化が図られており、鉄−コバルト合金化により238.9kA/m程度の高保磁力を有する金属鉄系磁性粉末が実現されている(特許文献1〜3)。しかしながら、上記のような針状の磁性粉末を用いる磁気記録媒体においては、上記長軸長からのさらに大幅な微粒子化は困難になってきている。すなわち、針状の金属鉄系磁性粉末は、その形状を針状とすることによる形状磁気異方性に基づき高保磁力を発現している。従って、微粒子化に伴い必然的に針状比(長軸長/短軸長)が小さくなり、保磁力が低下する。この保磁力の低下は、高密度記録において致命的な問題となる。
【0004】
そこで、上記針状の磁性粉末とは全く異なる磁性粉末として、Fe16相を主相として含む窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体が提案されている(特許文献4)。しかしながら、この窒化鉄系磁性粉末は高い保磁力を有するものの、10m/g程度のBET比表面積を有しており、粒径が大きいため、粒子性ノイズが大きくなるという問題や、190〜200Am/kg程度の高飽和磁化を有するため、媒体の磁束密度が大きくなり過ぎ、記録減磁が大きくなるという問題がある。このため、このような窒化鉄系磁性粉末を高密度記録媒体に使用するには粒径及び磁気特性を最適化する必要がある。
【0005】
上記観点から、本出願人は、希土類元素、アルミニウム、及びシリコンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を有し、Fe16相を含み、5〜50nmの平均粒子径を有する窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体を先に提案した(特許文献5)。この窒化鉄系磁性粉末は結晶磁気異方性を有するため、微粒子の窒化鉄系磁性粉末であっても、高保磁力と適度な飽和磁化とを有し、短波長領域においても高い出力を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【特許文献1】特開平3−49026号公報
【特許文献2】特開平10−83906号公報
【特許文献3】特開平10−340805号公報
【特許文献4】特開2000−277311号公報
【特許文献5】特開2004−273094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Fe16相を主相として含有する窒化鉄系磁性粉末は、高密度記録を目的として微粒子化を進めていくと、一定期間保存した場合、磁気特性、特に保磁力及び飽和磁化が低下するという問題がある。特許文献5では、希土類元素、アルミニウム、シリコンなどの元素を添加し、これらの酸化物などの化合物を磁性粉末内に含有させているが、高温多湿環境下での耐食性は未だ十分でない。また、耐食性を向上するために、添加元素の含有量を増加させた場合、窒化処理時に窒化が十分に進まなくなり、保磁力が低下するなどの磁気特性の劣化を招くこととなる。このため、微粒子の窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体を高温多湿環境下で保存した場合、保磁力及び飽和磁束密度などの磁気特性が劣化しやすく、微粒子で、高保磁力を有する窒化鉄系磁性粉末の特性が十分に発揮できないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、微粒子化を進めていった場合でも、耐食性及び磁気特性に優れた窒化鉄系磁性粉末を提供すること、並びにその窒化鉄系磁性粉末を用いることにより高温多湿環境下で保存されても磁気特性の劣化の少ない保存安定性に優れた磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、窒化鉄相の主相としてFe16相を含有し、5〜30nmの平均粒子径を有する窒化鉄系磁性粉末であって、バリウム、及びストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む六方晶フェライトを含有する窒化鉄系磁性粉末である。バリウム、及びストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む六方晶フェライトは化学的に安定な酸化物であり、また磁性を有するため、耐食性及び磁気特性に優れた窒化鉄系磁性粉末を得ることができる。
【0009】
上記窒化鉄系磁性粉末は、コア部と外層部とを有し、前記コア部に、前記Fe16相を含有し、前記外層部に、前記六方晶フェライトを含有することが好ましい。Fe16相を含む窒化鉄の周囲に、酸化に対して安定な六方晶フェライトを含む外層部を形成すれば、コア部の窒化鉄が外層部の六方晶フェライトにより酸素や水分から保護されるため、さらに耐食性を向上することができる。
【0010】
上記窒化鉄系磁性粉末において、前記六方晶フェライトは、マグネトプラムバイト型六方晶フェライトを含有することが好ましい。マグネトプラムバイト型六方晶フェライトは、大きな磁気異方性を有するため、さらに磁気特性に優れた窒化鉄系磁性粉末を得ることができる。
【0011】
上記窒化鉄系磁性粉末は、希土類元素、シリコン、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有することが好ましい。これらの元素は酸化物などの化合物として窒化鉄系磁性粉末中に含まれるため、さらに耐食性を改善することができる。特に、外層部にこれらの元素を含有することにより、さらに耐食性を向上することができる。
【0012】
そして、本発明は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に上記の窒化鉄系磁性粉末及び結合剤を含有する磁性層とを有する磁気記録媒体である。上記窒化鉄系磁性粉末は耐食性に優れるため、この窒化鉄系磁性粉末を用いることにより磁気特性の劣化が少ない、保存安定性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、微粒子でありながら、優れた耐食性及び磁気特性を有する窒化鉄系磁性粉末を提供することができる。また、該窒化鉄系磁性粉末は耐食性が改善されているため、この窒化鉄系磁性粉末を用いた磁気記録媒体は高温多湿環境下で保存されても磁気特性の劣化が少なく、保存安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本実施の形態の窒化鉄系磁性粉末は、窒化鉄相の主相としてFe16相を含有し、5〜30nmの平均粒子径を有するとともに、バリウム、及びストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む六方晶フェライトを含有する。
【0015】
上記のアルカリ土類金属元素を構成元素として含む六方晶フェライトを窒化鉄系磁性粉末内に形成することにより耐食性及び磁気特性が向上する理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。一般に、0価の鉄は酸化されると、まず2価の酸化鉄となり、さらに酸化が進行すると3価の酸化鉄となる。すなわち、鉄イオンは3価が最も安定であり、2価の鉄イオンが3価の鉄イオンに酸化されることにより酸化が進行する。例えば、Fe構造を有するマグネタイトは、2価の鉄イオンと3価の鉄イオンとを同時に含有するため、酸化に対しては不安定となる。従って、酸化に対して敏感な2価の鉄イオンを、酸化に対して安定な他の元素で置き換えれば、上記のような酸化の進行のメカニズムを防止できると考えられる。
【0016】
2価のイオンが安定な他の元素としては、例えばコバルトやニッケルなどの遷移金属元素が挙げられ、金属鉄系磁性粉末では、これらの遷移金属元素を含有させることにより耐食性が向上することが知られている。しかしながら、コバルトやニッケルは還元工程で鉄と合金を作りやすく、そのためこれらの遷移金属元素を多量に使用した場合、窒化処理工程における窒化が阻害される。
【0017】
そこで、本発明者等は、酸化に対して安定な2価のイオンを形成可能で、且つ鉄と合金を形成し難い元素としてアルカリ土類金属元素に着目し、この金属元素を用いて耐食性を向上する方法を検討した。この結果、アルカリ土類金属元素の中でも、特に、バリウム、及びストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を六方晶フェライトの形態で窒化鉄系磁性粉末中に含有させれば、耐食性を格段に向上でき、さらに磁気特性も改善されることが見出された。すなわち、2価のバリウムイオンやストロンチウムイオンは安定なイオンであり、またこれらを構成元素として含む六方晶フェライトは酸化物であることから、合金よりも酸化に対して安定性を有している。また、バリウムイオンやストロンチウムイオンのイオン半径は鉄イオンのそれより大きいため、これらのアルカリ土類金属元素は鉄と合金を形成し難く、還元工程において窒化鉄の内部に取れ込まれ難い。そのため、これらの酸化物は窒化鉄系磁性粉末の表面近傍に形成され易い。従って、窒化鉄を主として含有するコア部と、このコア部の周囲に上記アルカリ土類金属元素を含む六方晶フェライトを主として含有する外層部とを有する複層構造の窒化鉄系磁性粉末が形成され易い。このため、コア部の窒化鉄が外層部の六方晶フェライトにより酸素や水分から保護され、耐食性が向上するものと考えられる。また、上記六方晶フェライトは、飽和磁化は低いが、磁気異方性を有する磁性酸化物であるから、該酸化物を含有させることにより保磁力を向上することもできる。
【0018】
上記六方晶フェライトは、マグネトプラムバイト型六方晶フェライトを含有することが好ましい。バリウムやストロンチウムは、3価の鉄イオンと結合して一般式AO・6Fe(Aは、Ba,Srからなる群から選ばれる少なくとも1種)で表されるマグネトプラムバイト型構造を取り易く、この六方晶フェライトは大きな磁気異方性を有している。従って、該結晶構造を有する六方晶フェライトを形成することにより、さらに保磁力を向上することができると考えられる。
【0019】
上記六方晶フェライトは、バリウム、ストロンチウムをそれぞれ単独で含有していてもよいし、これらの混晶を含有していてもよい。バリウム及びストロンチウムの含有量は、鉄に対して、バリウム及びストロンチウムの総含有量で0.1〜15原子%が好ましく、0.5〜10原子%がより好ましい。上記範囲であれば、耐食性と磁気特性とをさらに向上することができる。
【0020】
窒化鉄系磁性粉末は、さらに希土類元素、アルミニウム、及びシリコンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有してもよい。このような元素は窒化鉄系磁性粉末内で酸化物などの化合物を形成するため、さらに耐食性向上できるとともに、形状維持性及び分散性を向上することができる。また、これらの元素は外層部に主として存在させることが好ましい。外層部にこれらの元素を含有させることにより、上記効果がさらに発揮される。窒化鉄系磁性粉末が六方晶フェライトとこれらの元素とを含有する場合、これらの元素は窒化鉄を主として含有するコア部を囲む外層部に主として含まれていればよく、単層の外層部にこれらの元素と六方晶フェライトとが混在していてもよいし、これらの元素を主として含有する外層部と六方晶フェライトを主として含有する外層部とが積層されていてもよい。希土類元素としては、具体的には、例えば、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジウムなどが挙げられる。これらは単独または複数含有していてもよい。これらの中でも、イットリウム、サマリウム、及びネオジウムは還元時の粒子形状の維持効果が大きいため、好ましい。希土類元素の含有量は、鉄に対し、0.05〜20原子%が好ましく、0.1〜15原子%がより好ましく、0.5〜10原子%が最も好ましい。希土類元素が少なすぎると、分散性の向上効果が少なくなり、また還元時の粒子形状維持効果が小さくなる。希土類元素が多すぎると、未反応の希土類元素が多くなり、分散、塗布工程での障害となったり、保磁力や飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。アルミニウム及びシリコンの含有量は、鉄に対して、アルミニウム及びシリコンの総含有量で0.1〜20原子%が好ましい。これらの元素が少なすぎると、形状維持効果が少ない。またこれらの元素が多すぎると、飽和磁化が低下しやすい。
【0021】
本実施の形態の窒化鉄系磁性粉末は、窒化鉄相の主相としてFe16相を含有する。結晶性の高いFe16相を主相として含有することにより、保磁力及び飽和磁化を向上することができる。また、窒化鉄系磁性粉末はFe16相を主相として有していれば、Fe相、FeN相、α−Fe相などの他の結晶相を含んでいてもよい。窒化鉄系磁性粉末は鉄に対して1〜20原子%の窒素を含有することが好ましい。窒素の含有量が1原子%以上であれば、高保磁力及び高飽和磁化を示すFe16相を多く含む窒化鉄系磁性粉末が得られる。窒素の含有量が20原子%以下であれば、非磁性窒化物の生成が抑えられ、飽和磁化の過度の低下を防止することができる。窒化鉄系磁性粉末がコア部と外層部とからなる複層構造を有する場合、上記Fe16相はコア部に主として含有することが好ましい。該窒化相をコア部に有していれば、六方晶フェライトを含有する外層部で酸素や水分の侵入が抑制されるため、耐食性をさらに向上することができる。窒化鉄は、鉄の一部が他の遷移金属元素で置換されていてもよい。このような他の遷移金属元素としては、具体的には、例えば、マンガン、亜鉛、ニッケル、銅、コバルトなどが挙げられる。これらは単独または複数含有していてもよい。これらの中でも、コバルト、ニッケルが好ましく、特にコバルトは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。ただし、上述したように、遷移金属元素の含有量が多くなりすぎると、窒化を阻害するため、その含有量は鉄に対して10原子%以下が好ましい。
【0022】
本実施の形態の窒化鉄系磁性粉末は、粒状乃至楕円体状の形状を有しており、その平均粒子径は、5〜30nmが好ましく、5〜20nmがより好ましい。このような微粒子の窒化鉄系磁性粉末は磁性層の充填性を向上することができ、粒子性ノイズが低減できるために好ましく用いることができるが、粒子サイズに起因して耐食性が劣化しやすいため、上記六方晶フェライトを含有させることが特に有効である。上記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率20万倍で撮影した窒化鉄系磁性粉末300個の粒径の平均値である。なお、粒状乃至楕円体状とは、軸比[長軸径/短軸径]の平均値が1〜2の略球状乃至略楕円体状の形状を意味し、粒子径とは、球状の粉末の場合には直径を、楕円体状などの異方性を有する粉末の場合には長軸径を意味する。また、窒化鉄系磁性粉末は形状が粒状乃至楕円体状であれば、粉末の表面に凹凸があってもよく、若干の変形を有していてもよい。
【0023】
また、窒化鉄系磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。飽和磁化は、40〜100Am/kgが好ましく、50〜90Am/kgがより好ましい。
【0024】
次に、本実施の形態の窒化鉄系磁性粉末の製造方法について説明する。
出発原料としては、鉄系酸化物または鉄系水酸化物が用いられる。鉄系酸化物、鉄系水酸化物としては、具体的には、例えば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲーサイトなどが挙げられる。出発原料の平均粒子径は、特に限定されないが、5〜30nm程度が好ましい。平均粒子径が小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすい。平均粒子径が大きすぎると、還元処理が不均質となりやすく、得られる窒化鉄系磁性粉末の平均粒子径や磁気特性の制御が困難となる。
【0025】
バリウム、及びストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む六方晶フェライトを形成させるためには、これらのアルカリ土類金属元素を含有する塩化物などの化合物を出発原料に被着させてもよいし、予めこれらの元素を出発原料に添加しておいてもよい。被着処理による場合、例えば、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これにアルカリ土類金属元素を含有する化合物を添加して、中和反応などにより出発原料にこれらのアルカリ土類金属元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させればよい。このような被着処理によれば、還元処理などにおける熱処理によりアルカリ土類金属元素と鉄とを含有するマグネトプラムバイト型構造を有する六方晶フェライトが形成されやすいため好ましい。
【0026】
また、希土類元素、アルミニウム、及びシリコンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有させるためには、これらの元素を含有する化合物を出発原料に被着させてもよいし、予めこれらの元素を出発原料に添加しておいてもよい。被着処理による場合、例えば、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに上記の元素を含有する塩を溶解させ、中和反応などにより出発原料である粉末にこれらの元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させればよい。上記被着処理は、アルカリ土類金属元素の被着処理の前後いずれであってもよい。
【0027】
次に、上記のような出発原料を水素気流中で還元処理するが、還元処理に先立って、空気中で加熱処理を行うことが好ましい。このような加熱処理により、バリウムなどのアルカリ土類金属元素が鉄と酸化物を形成しやすくなる。加熱処理温度は400〜800℃が好ましい。上記温度範囲であれば、高い磁気異方性を有するマグネトプラムバイト型構造を有する六方晶フェライトが形成されやすい。
【0028】
還元処理における還元ガスは特に限定されず、水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。還元処理温度は300〜600℃が好ましい。還元処理温度が300℃より低いと、還元反応が十分進まなくなる。還元処理温度が600℃より高いと、焼結が起こりやすくなる。
【0029】
上記のような還元処理後、得られる鉄系磁性粉末に窒化処理を施すことにより、Fe16相を有する窒化鉄系磁性粉末が得られる。窒化処理はアンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。また、アンモニアガス単体のほかに、これに水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、特に好ましい。
【0030】
窒化処理温度は100〜300℃が好ましい。窒化処理温度が低すぎると窒化が十分進まず、保磁力向上の効果が少ない。窒化処理温度が高すぎると、窒化が過度に促進され、FeN相やFeN相などの割合が増加し、保磁力が寧ろ低下し、また飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。窒化処理に際しては、鉄に対する窒素の含有量が1〜20原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。窒素の量が少なすぎると、Fe16相の生成量が少なくなり、保磁力向上の効果が少なくなる。また窒素の量が多すぎると、FeN相やFeN相などが形成されやすくなり、保磁力が寧ろ低下し、また飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0031】
本実施の形態の磁気記録媒体は、上記した窒化鉄系磁性粉末と結合剤とを溶剤中に分散混合した磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布し、乾燥して、磁性層を形成することにより作製できる。
【0032】
非磁性支持体としては、従来から使用されている磁気記録媒体用の非磁性支持体を使用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド、芳香族ポリアミドなどからなる厚さが通常2〜15μm、特に2〜7μmのプラスチックフィルムが用いられる。
【0033】
磁性層に用いられる結合剤としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、エポキシ系樹脂、及びポリウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂などが挙げられる。これらの中でも、塩化ビニル系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましく、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂とポリウレタン系樹脂との併用がより好ましい。また、これらの結合剤は、窒化鉄系磁性粉末の分散性を向上し、充填性を上げるために、官能基を有するものが好ましい。このような官能基としては、具体的には、例えば、COOM、SOM、OSOM、P=O(OM)、O−P=O(OM)(Mは水素原子、アルカリ金属塩またはアミン塩)、OH、NR、NR(R,R,R,R,及びRは、水素または炭化水素基であり、通常その炭素数が1〜10である)、エポキシ基などを挙げることができる。2種以上の樹脂を併用する場合、官能基の極性が一致した樹脂を用いるのが好ましく、中でも、−SOM基を有する樹脂の組み合わせが好ましい。これらの結合剤は、窒化鉄系磁性粉末100質量部に対して、7〜50質量部、好ましくは10〜35質量部の範囲で用いられる。特に、塩化ビニル系樹脂5〜30質量部と、ポリウレタン系樹脂2〜20質量部との併用が好ましい。
【0034】
また、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基などと結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。このような架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートを挙げることができる。架橋剤は、結合剤100質量部に対して、通常10〜50質量部の範囲で用いられる。
【0035】
磁性層は、導電性、表面潤滑性、耐久性などの特性の向上を目的に、カーボンブラック、潤滑剤、非磁性粉末などの添加剤を含有してもよい。カーボンブラックとしては、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどを使用することができる。カーボンブラックの含有量は、窒化鉄系磁性粉末100質量部に対して、0.2〜5質量部が好ましい。潤滑剤としては、具体的には、例えば、10〜30の炭素数を有する脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどを使用することができる。潤滑剤の含有量は、窒化鉄系磁性粉末100質量部に対して、0.2〜3質量部が好ましい。非磁性粉末としては、具体的には、例えば、アルミナ、シリカなどを使用することができる。非磁性粉末の含有量は、窒化鉄系磁性粉末100質量部に対して、1〜20質量部が好ましい。
【0036】
磁性塗料は、窒化鉄系磁性粉末及び結合剤と、必要により他の添加剤とを溶剤と混合することにより調製される。溶剤としては、従来から磁性塗料の調製に使用されている有機溶剤を使用することができる。具体的には、例えば、シクロヘキサノン、トルエン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。磁性塗料の調製にあたっては、従来から公知の塗料製造工程を使用することができる。特に、ニーダなどによる混練工程と一次分散工程の併用が好ましい。一次分散工程では、サンドミルを使用すると、分散性が改善されるとともに、表面性状を制御できるので、望ましい。
【0037】
磁性層の厚さは、長手記録の本質的な課題である減磁による出力低下を避けるために300nm以下の薄層が好ましく、10〜300nmがより好ましく、10〜250nmがさらに好ましく、10〜200nmが最も好ましい。磁性層の厚さが300nmを超えると、厚さ損失により再生出力が小さくなったり、残留磁束密度と厚さとの積が大きくなりすぎて、GMRヘッドなどの高感度な再生ヘッドを使用した場合に磁束の飽和による再生出力の歪が起こり易い。磁性層の厚さが10nm未満では、均一な磁性層が得られ難い。本実施の形態の磁性粉末は、平均粒子径が5〜30nmと極めて微粒子であり、粒状乃至楕円体状の形状を有するため、従来の針状磁性粉末ではほとんど不可能な極めて薄い磁性層も形成できる。
【0038】
磁気テープの場合、磁性層の長手方向の保磁力は、159.2〜398.0kA/mが好ましく、159.2〜318.4kA/mがより好ましい。長手方向の保磁力が159.2kA/m未満では、短波長記録において反磁界減磁により出力が低下する傾向がある。一方、長手方向の保磁力が398.0kA/mを超えると、磁気ヘッドによる記録が困難になる傾向がある。また、長手方向の角形(Br面内長手/Bm面内長手)は、0.6〜0.9が好ましく、0.8〜0.9がより好ましい。ただし、短波長出力を優先させる場合には、角形が0.5程度の無配向テープを作製してもよい。また、短波長出力を特に必要とする用途では、窒化鉄系磁性粉末を垂直配向することもできる。この場合、垂直方向の保磁力は、159.2〜398.0kA/mが好ましく、159.2〜318.4kA/mがより好ましい。長手配向と同様に、垂直方向の保磁力が159.2kA/m未満では、短波長記録において反磁界減磁により出力が低下する傾向がある。また、垂直方向の保磁力が398.0kA/mを超えると、磁気ヘッドによる記録が困難になる傾向がある。また、垂直方向の角形(Br垂直/Bm垂直)は、0.5〜0.8が好ましく、0.55〜0.75がより好ましい。
【0039】
さらに、飽和磁束密度と厚さとの積は、配向方向に関わりなく0.001〜0.1μTmが好ましく、0.0015〜0.05μTmがより好ましい。前記積が0.001μTm未満では、MRヘッドを使用した場合に再生出力が小さくなる傾向がある。一方、前記積が0.1μTmを超えると、短波長領域で出力が低下する傾向がある。また、磁性層の平均表面粗さ(Ra)は1.0〜3.2nmが好ましい。上記範囲であれば、再生用ヘッドにMRヘッドやGMRヘッドなどの高感度ヘッドを使用した場合に、磁性層と再生用ヘッドとの良好なコンタクトを確保することができ、再生出力を向上することができる。
【0040】
また、本実施の形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に下塗り層を有してもよい。下塗り層の厚さは、0.1〜3.0μmが好ましく、0.15〜2.5μmがより好ましい。下塗り層の厚さが0.1μm未満では、耐久性が劣化する傾向がある。下塗り層の厚さが3.0μmを超えると、磁気記録媒体の全厚が厚くなるため、1巻当りのテープ長さが短くなり、記憶容量が小さくなる傾向がある。下塗り層は、塗料粘度や剛性の制御を目的に、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウムなどの非磁性粉末;γ−酸化鉄、Co−γ−酸化鉄、マグネタイト、酸化クロム、Fe−Ni合金、Fe−Co合金、Fe−Ni−Co合金、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Ni−Cu系フェライト、Cu−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライトなどの磁性粉末を含んでもよい。これらは単独または複数混合して用いてもよい。また、下塗り層は、磁性層に導電性及び表面潤滑性を付与するために、カーボンブラック及び潤滑剤を含有することが好ましい。このようなカーボンブラック及び潤滑剤としては、磁性層と同様のものを使用することができる。下塗り層に使用される結合剤としては、上記の磁性層で使用される結合剤と同様の樹脂を使用することができる。
【0041】
本実施の形態の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が設けられている面と反対面にバックコート層を有してもよい。バックコート層の厚さは、0.2〜0.8μmが好ましく、0.3〜0.8μmがより好ましい。バックコート層は、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックを含有することが好ましい。バックコート層の結合剤としては、磁性層に用いられる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。これら中でも、摩擦係数を低減し走行性を向上するため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂との併用が好ましい。
【0042】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。なお、以下において、「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【実施例】
【0043】
<実施例1>
(A)窒化鉄系磁性粉末の製造
2モル/L(Lはリットルを表す)のFeSO水溶液4Lに、12モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.5Lと、Al/Feが10原子%となる量のアルミン酸ナトリウムとを添加した。この溶液の温度を20℃に維持しながら、空気を500mL/minの流量で2.5時間吹き込むことにより、アルミニウムを固溶させたゲーサイトを析出させた。この酸化処理の後、析出した沈殿物をろ過し、水洗し、再度水中に分散させた。
温度を30℃に維持しながら、分散液に、Y/Feが2.0原子%となる量の硝酸イットリウムと、Al/Feが1.6原子%となる量のアルミン酸ナトリウムを添加し、さらにpH7〜8になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加して、粒子表面にイットリウムの水酸化物とアルミニウムの水酸化物とを被着させた。
【0044】
次に、この分散液に、Ba/Feが4.0原子%となる量の塩化バリウムを添加し、さらにpHが10〜11となるように水酸化ナトリウム水溶液を添加して、粒子表面にバリウムの水酸化物を被着させた。その後、分散液を水洗、ろ過し、ろ過物を空気中110℃で乾燥して、平均粒子径が約18nmのゲーサイト粉末を得た。
【0045】
このゲーサイト粉末を出発原料とし、粒子表面に被着させたバリウムを鉄と反応させて六方晶フェライトを形成するために、まず空気中、600℃で2時間加熱焼成処理を行った。加熱焼成処理後、490℃で3時間水素ガスによる還元処理を行った。還元処理後、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて、135℃まで降温した。135℃に到達した時点で、水素ガスからアンモニアガスに切り替え、温度を135℃に保った状態で、24時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、135℃から70℃まで降温し、70℃に到達した時点で、アンモニアガスから窒素ガスに切り替えた。次に、窒素ガスに、O濃度が0.01〜2%となるように空気を添加して、粒子表面の徐酸化処理を行った後、窒化鉄系磁性粉末を空気中に取り出した。
【0046】
このようにして得られた粉末は、X線回折測定よりFe16で表される窒化鉄相を主相として含有することが確認された。また、このX線回折測定により、ブロードであるが、BaO・6Feで表されるマグネトプラムバイト型構造の六方晶フェライトを含有することを示すピークが確認された。さらに、組成分析の結果、この粉末のアルミニウム、バリウム、イットリウム、及び窒素の含有量は、鉄に対してそれぞれ、10.8原子%、3.9原子%、1.9原子%、及び11.5原子%であることが確認された。
【0047】
また、この粉末をX線光電子分光法により分析したところ、2層構造を有しており、コア部に窒化鉄を、外層部にイットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、及びバリウム酸化物を含有することが確認された。
【0048】
さらに、この粉末を高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、略球状で、平均粒子径が約16nmであることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、88.1m/gであった。
【0049】
次に、上記で製造した窒化鉄系磁性粉末を用いて、以下の磁気テープを作製した。
(B)磁気テープの作製
[磁性塗料の調製]
上記で製造した窒化鉄系磁性粉末を用い、下記の表1に示す組成を有する磁性塗料成分(1)をニーダで混練した後、混練物をサンドミルを用いて分散処理を行い(滞留時間:60分)、得られた分散液に下記表2に示す組成を有する磁性塗料成分(2)を加え、撹拌し、ろ過して磁性塗料を調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
[下塗り層塗料の調製]
下記表3の下塗り層塗料成分をニーダで混練した後、混練物をサンドミル(滞留時間:60分)で分散し、得られた分散液にポリイソシアネート6部を加え、撹拌し、ろ過して、下塗り層塗料を調製した。
【0053】
【表3】

【0054】
[バックコート層塗料の調製]
下記表4のバックコート層塗料成分を、サンドミルで分散処理(滞留時間:45分)を行い、得られた分散液にポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌し、ろ過して、バックコート層塗料を調製した。
【0055】
【表4】

【0056】
[磁気テープの作製]
まず、上記の下塗り層塗料を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの非磁性支持体上に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが1μmとなるように塗布して下塗り塗料膜を形成し、この下塗り塗料膜上に、さらに、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが80nmとなるように上記の磁性塗料を塗布し、長手方向に配向処理を行いながら、乾燥した。
次に、上記のバックコート層塗料を、非磁性支持体の磁性層が形成された面の反対面に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。
上記のように非磁性支持体の片面に非磁性層、及び磁性層を、他面にバックコート層を形成した磁気シートを、5段カレンダ(温度:70℃、線圧:150Kg/cm)で鏡面化処理し、これをシートコアに巻いた状態で、60℃,40%RH下、48時間エージングした。その後、磁気シートを1/2インチ幅に裁断し、磁気テープを作製した。
【0057】
(実施例2)
実施例1の(A)窒化鉄系磁性粉末の製造において、Ba/Feが2.0原子%となる量の塩化バリウムを用いた以外は、実施例1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を製造した。この窒化鉄系磁性粉末について実施例1と同様に、X線回折測定を行ったところ、窒化鉄相の主相としてFe16相と、BaO・6Feで表されるマグネトプラムバイト型構造の六方晶フェライトとを含有することが確認された。また、組成分析の結果、この粉末のアルミニウム、バリウム、イットリウム、及び窒素の含有量は、鉄に対してそれぞれ、11.1原子%、2.5原子%、1.9原子%.、及び11.4原子%であった。
【0058】
また、この粉末をX線光電子分光法により分析したところ、2層構造を有しており、コア部に窒化鉄を、外層部にイットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、及びバリウム酸化物を含有することが確認された。
【0059】
さらに、この粉末を高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、略球状で、平均粒子径が約15nmであることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、93.8m/gであった。
【0060】
上記の窒化鉄系磁性粉末を用い、実施例1の(B)磁気テープの作製と同様にして、磁気テープを作製した。
【0061】
(実施例3)
実施例1の(A)窒化鉄系磁性粉末の製造において、加熱焼成条件を、600℃、2時間から、700℃、2時間に変更した以外は、実施例1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を製造した。この窒化鉄系磁性粉末について実施例1と同様に、X線回折測定を行ったところ、窒化鉄相の主相としてFe16相と、BaO・6Feで表されるマグネトプラムバイト型構造の六方晶フェライトとを含有することが確認された。また、組成分析の結果、この粉末のアルミニウム、バリウム、イットリウム、及び窒素の含有量は、鉄に対してそれぞれ、10.8原子%、3.9原子%、1.9原子%、及び11.5原子%であった。
【0062】
また、この粉末をX線光電子分光法により分析したところ、2層構造を有しており、コア部に窒化鉄を、外層部にイットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、及びバリウム酸化物を含有することが確認された。
【0063】
さらに、この粉末を高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、略球状で、平均粒子径が約17nmであることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、74.0m/gであった。
【0064】
上記の窒化鉄系磁性粉末を用い、実施例1の(B)磁気テープの作製と同様にして、磁気テープを作製した。
【0065】
(実施例4)
実施例1の(A)窒化鉄系磁性粉末の製造において、Ba/Feが4.0原子%となる量の塩化バリウムに代えて、Sr/Feが4.0原子%となる量の塩化ストロンチウムを用いた以外は、実施例1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を製造した。この窒化鉄系磁性粉末について実施例1と同様に、X線回折測定を行ったところ、窒化鉄相の主相としてFe16相と、SrO・6Feで表されるマグネトプラムバイト型構造の六方晶フェライトを含有することが確認された。また、組成分析の結果、この粉末のアルミニウム、ストロンチウム、イットリウム、及び窒素の含有量は、鉄に対してそれぞれ、10.9原子%、3.8原子%、1.9原子%、及び11.3原子%であった。
また、この粉末をX線光電子分光法により分析したところ、2層構造を有しており、コア部に窒化鉄を、外層部にイットリウム酸化物、アルミニウム酸化物、及びストロンチウム酸化物を含有することが確認された。
【0066】
さらに、この粉末を高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、略球状で、平均粒子径が約16nmであることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、89.5m/gであった。
【0067】
上記の窒化鉄系磁性粉末を用い、実施例1の(B)磁気テープの作製と同様にして、磁気テープを作製した。
【0068】
(比較例1)
実施例1の(A)窒化鉄系磁性粉末の製造において、塩化バリウムを添加せず、加熱焼成処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして窒化鉄系磁性粉末を製造した。すなわち、六方晶フェライトを含有しない窒化鉄系磁性粉末を製造した。この窒化鉄系磁性粉末について実施例1と同様に、X線回折測定を行ったところ、窒化鉄相の主相としてFe16相を含有することが確認された。また、組成分析の結果、この粉末のアルミニウム、イットリウム、及び窒素の含有量は、鉄に対してそれぞれ、11.0原子%、1.9原子%、及び12.2原子%であった。
【0069】
また、この粉末をX線光電子分光法により分析したところ、2層構造を有しており、コア部に窒化鉄を、外層部にイットリウム酸化物、及びアルミニウム酸化物を含有することが確認された。
【0070】
さらに、この粉末を高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、略球状で、平均粒子径が約15nmであることが確認された。また、BET法により求めた比表面積は、98.1m/gであった。
【0071】
上記の窒化鉄系磁性粉末を用い、実施例1の(B)磁気テープの作製と同様にして、磁気テープを作製した。
【0072】
上記のようにして製造した各窒化鉄系磁性粉末の初期磁気特性と、各窒化鉄系磁性粉末を温度60℃、湿度90%の雰囲気下に1週間保存した後の保存後の磁気特性を測定し、保存前からの各減少率(%)を耐食性として評価した。測定には、試料振動型磁力計(VSM)を用いた(最大印加磁場:1,270kA/m,磁場掃引速度:80kA/m/分)。また、製造した各磁気テープを上記と同条件で保存し、保存前からの保磁力及び飽和磁束密度の各減少率(%)を耐食性として評価した。
表5はこの結果を示す。
【0073】
【表5】

【0074】
上記表に示すように、バリウムまたはストロンチウムを含むマグネトプラムバイト型六方晶フェライトを含有する実施例の窒化鉄系磁性粉末は、耐食性が改善されていることが分かる。また、これらの窒化鉄系磁性粉末は、磁気特性も優れていることが分かる。
また、実施例の窒化鉄系磁性粉末を使用して作製した磁気テープは、保磁力、飽和磁束密度いずれも減少率が少ないことが分かる。従って、本実施例の窒化鉄系磁性粉末を使用することにより、微粒子であっても保存安定性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化鉄相の主相としてFe16相を含有し、5〜30nmの平均粒子径を有する窒化鉄系磁性粉末であって、
バリウム、及びストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む六方晶フェライトを含有する窒化鉄系磁性粉末。
【請求項2】
前記窒化鉄系磁性粉末は、コア部と外層部とを有し、
前記コア部に、前記Fe16相を含有し、
前記外層部に、前記六方晶フェライトを含有する請求項1に記載の窒化鉄系磁性粉末。
【請求項3】
前記六方晶フェライトは、マグネトプラムバイト型六方晶フェライトを含む請求項1または2に記載の窒化鉄系磁性粉末。
【請求項4】
希土類元素、シリコン、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化鉄系磁性粉末。
【請求項5】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化鉄系磁性粉末及び結合剤を含有する磁性層とを有する磁気記録媒体。

【公開番号】特開2009−224611(P2009−224611A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68424(P2008−68424)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】