説明

窒素がドープされたメソポーラス二酸化チタン

【課題】本発明は、高い含有率で窒素がドープされ、紫外光領域から可視光領域に亘る広汎な波長領域で高い光吸収特性を発揮するメソポーラス二酸化チタンを提供することを目的とする。
【解決手段】シリカを含有するテンプレートとチタンアルコキシドのアルコール溶液を混合し、80℃〜100℃の温度に保持した状態で充分に撹拌することによって上記テンプレートのシリカを二酸化チタンと置換する。その後、上記混合液をろ過し、得られた濾物を高温で乾燥させたのち、これを窒素と酸素の雰囲気下で焼成する。その際の焼成温度を400℃〜500℃とすることによって、従来例に比較して一桁大きな量の窒素がドープされたメソポーラス二酸化チタンが得られる。その結果、本発明の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンは、紫外光領域から可視光領域に亘る広汎な波長領域で高い光吸収特性を発揮することができ、その光触媒活性は格段に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラス二酸化チタンに関し、より詳細には、高い含有率で窒素がドープされ、紫外光領域から可視光領域に亘る広汎な波長領域で高い光吸収特性を発揮するメソポーラス二酸化チタンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化チタンの持つ光触媒活性に着目した応用展開が種々検討されている。その代表的な例として、本多−藤嶋効果を利用した水の分解による水素の製造技術や揮発性有機化合物に汚染された水源を浄化する水浄化処理技術への応用が挙げられる。
【0003】
しかしながら、二酸化チタン光触媒は、そのバンドギャップに起因して380nm以下の波長の紫外光エネルギーしか利用できないものであるところ、太陽光の中の紫外光の割合は数%程度にすぎず、従来の二酸化チタン光触媒材料は、太陽光エネルギーを充分に利用しうるものではなかった。
【0004】
そこで、二酸化チタンについて、紫外光のみならず、380nmを超える波長の可視光に対する応答性を付与することが種々検討されている。これまでの研究において、二酸化チタンに対し窒素などのアニオンをドープすることによって可視光応答性を付与する試みがなされている。さらに、二酸化チタンの光触媒活性の増大を企図して、触媒の比表面積を増大させるべく、二酸化チタンをメソポーラス化することも行われている。
【0005】
この点につき、0ne-Step Template-Free Route for Synthesis of Mesoporous N-Doped
Titania Spheres , Bo Chi, Li Zhao, Tetsuro Jin , Phys. Chem.C2007, 111 , 6189-6193(非特許文献1)は、窒素がドープされたメソポーラス二酸化チタンについて開示する。非特許文献1の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンは、光の吸収帯を600nm付近まで拡張することに成功している。しかしながら、依然として可視光領域における光吸収は量的に非常に低いものであり、実質的な光エネルギーの吸収量の増大には至っていない。
【非特許文献1】0ne-Step Template-Free Route for Synthesis of Mesoporous N-DopedTitania Spheres , Bo Chi, Li Zhao, Tetsuro Jin , Phys. Chem.C2007, 111 ,6189-6193
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、紫外光領域から可視光領域に亘る広汎な波長領域で高い光吸収特性を発揮することによって触媒活性が改善された新規なメソポーラス二酸化チタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、紫外光領域から可視光領域に亘る広汎な波長領域で高い光吸収特性を発揮することのできる新規なメソポーラス二酸化チタンの製造方法につき鋭意検討した結果、これを実現するための製造上の新規な条件を見出し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、窒素がドープされたメソポーラス二酸化チタンの製造方法であって、シリカを含有するテンプレートとチタンアルコキシドのアルコール溶液とを混合し温めながら撹拌する工程と、前記混合により得られた沈殿物を乾燥させ、該沈殿物を窒素と酸素の雰囲気中で焼成する工程とを含む製造方法が提供される。本発明においては、前記チタンアルコキシドのアルコール溶液は、チタンテトライソプロポキシドを1−プロパノールに溶解させた溶液とすることができ、前記テンプレートは、界面活性剤ミセルまたはブロックコポリマーとシリコンアルコキシドとの混合体にn−ブタノールを混合して得られるものを用いることができる。また、本発明においては、前記テンプレートと前記チタンアルコキシドのアルコール溶液の混合時にエチレンジアミンと四塩化炭素をさらに加えることが好ましい。さらに、本発明においては、前記撹拌する工程における温度を80℃〜100℃とすることが好ましく、前記焼成する工程における焼成温度を250℃〜550℃とすることが好ましい。さらに、本発明によれば、窒素ドープメソポーラス二酸化チタンからなる光触媒材料であって、窒素(N1s)の含有率が0.2〜1.6質量%であることを特徴とする光触媒材料が提供される。また、窒素ドープメソポーラス二酸化チタンからなる光触媒材料であって、窒素(N1s)の含有率が0.52〜1.56質量%であることを特徴とする光触媒材料が提供される。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によれば、紫外光領域から可視光領域に亘る広汎な波長領域で高い光吸収特性を発揮することによって触媒活性が改善された新規なメソポーラス二酸化チタンが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施の形態をもって説明するが、本発明は、以下に述べる実施の形態に限定されるものではない。以下、本発明の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンの製造方法について説明する。
【0011】
本発明においては、まず、シリカを含有するテンプレートを作製する。具体的には、分子テンプレート法においてテンプレートとして機能するブロックコポリマーまたは界面活性剤ミセルと、シリカ原料としてのシリコンアルコキシドとを混合して湿潤ゲルを得、これを乾燥させることによってマクロ多孔構造を有するシリカを作製し、メソポーラス二酸化チタンの作製のためのテンプレートとする。
【0012】
本発明においては、ブロックコポリマーまたは界面活性剤ミセルとテトラエトキシシラン(TEOS)との混合体にn−ブタノールを混合させて得られる「KIT−6」をテンプレートとして用いることができる。「KIT−6」については、Cubic Ia3d large mesoporous silica: synthesis and replication to
platinum Nanowires, carbon nanorods and carbon nanotubes. Freddy Kleitz, Shin
Hei Choi and Ryong Ryoo, CFEM COMMUN, 2003, 2136-2137, Journal of the Royal
Society of Chemistry 2003.にその詳細が開示される。
【0013】
一方で、本発明においては、チタンアルコキシドのアルコール溶液を調製する。本発明においては、チタンアルコキシドとして、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシドを用いることができ、チタンテトライソプロポキシドを用いることが好ましい。また、本発明においては、チタンアルコキシドを希釈するアルコールとして、1−プロパノールを用いることが好ましい。
【0014】
次に、上述した手順によって調製したシリカを含有するテンプレートとチタンアルコキシドのアルコール溶液とを混合し、温めて所定温度に保持した状態で充分に撹拌する。この混合・撹拌工程において、チタンアルコキシドは加水分解されて二酸化チタンゾルとなり、これがテンプレートを構成していたシリカと置き換わることによって、マクロ多孔構造を有する二酸化チタンゲルが形成される。
【0015】
本発明においては、上記混合の際に、窒素源を加えて混合し二酸化チタンに窒素を導入する。本発明においては、上記混合の際に、エチレンジアミンおよび四塩化炭素(CCl)を加えて混合することが好ましい。さらに、本発明においては、上記撹拌工程における所定温度を80℃〜100℃の範囲とすることが最終生成物であるメソポーラス二酸化チタンの結晶性の向上のために好ましく、上記所定温度を90℃前後に設定することがより好ましい。
【0016】
本発明においては、上記所定温度にて充分に撹拌した後、上記混合液をろ過し、得られた濾物を高温で乾燥させたのち、最後に、これを窒素または酸素の雰囲気下で焼成する。本発明においては、上記焼成時の温度を250℃〜600℃とすることができ、250℃〜550℃とすることが好ましく、400℃〜500℃にすることが最も好ましい。
【0017】
以上、説明した本発明の製造方法によれば、従来例に比較して一桁大きな量の窒素がドープされたメソポーラス二酸化チタンが得られる。したがって、本発明の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンは、紫外光領域から可視光領域に亘る広汎な波長領域において高い光吸収特性を発揮することができ、その光触媒活性は格段に向上する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンについて、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0019】
(テンプレートの調製)
ブロックコポリマーとしてPluronic
P123 ((EO)20(PO)70(EO)20/BASF社製)(4.0g)、蒸留水(144g)、35質量%HCl溶液(144g)をポリプロピレン容器に入れて混合し、35℃で充分に撹拌したのち、当該混合液にn−ブタノールを加え、35℃でさらに約1時間撹拌し、均質で透明な液体を得た。
【0020】
次に、上記透明な液体にTEOS(8.6g)を加え、35℃で24時間撹拌した後、オイルバスで温度を100℃に保持した状態でさらに24時間撹拌した。その後、上記溶液をろ過して得られた白い沈殿物を100℃で24時間乾燥させてテンプレートとしてのKIT−6を得た。
【0021】
(窒素ドープメソポーラス二酸化チタンの作製)
上記手順で調製したKIT−6にエチレンジアミンおよび四塩化炭素(CCl)を加えて混合し、テンプレート溶液を調製した。一方、チタンイソプロポキシドを1−プロパノールを混合して調製しておいた溶液と先に調製したテンプレート溶液とを混合し、TiO−テンプレート混合溶液を調製した。
【0022】
上記手順で調製したTiO−テンプレート混合溶液をオイルバスにて温めながら24時間撹拌した。この際、同様のTiO−テンプレート混合溶液について、異なる温度条件下(70℃、80℃、90℃、100℃)で撹拌した4つの試料を作製した。
【0023】
撹拌後、上記試料をろ過し、濾物を150℃で乾燥させたのち、窒素と酸素の雰囲気下で焼成して窒素ドープメソポーラス二酸化チタンを得た。この際、同様の濾物について、異なる温度条件下(400℃、500℃、550℃、600℃)で焼成した4つの試料を作製した。
【0024】
(結晶性の検証)
上述した手順で作製した窒素ドープメソポーラス二酸化チタンについて、X線回析装置(XRD)による測定を行なった。図1は、上述した手順で得られた試料のうち、500℃で焼成して得られた試料についての結果を示す。
【0025】
図1に示されるように、XRDの測定結果は、TiO−テンプレート混合溶液の撹拌温度条件が80℃〜100℃の試料について鋭いピークが観察され、90℃の試料が最も高いピークを示した。以上の結果から、本実施例の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンが高い結晶性を示すことわかった。一方、70℃ではX線のピークは観察されず、アモルファスであることがわかった。なお、他の焼成温度条件の試料についてもX線回析装置による測定を行なったところ、上述したのとほぼ同様の結果を得た。
【0026】
(メソポーラス化の検証)
図2は、上述したXRDの測定の低角側の測定結果を示す。図2に示されるように、TiO−テンプレート混合溶液の撹拌温度条件が80℃〜100℃の試料について、いずれも、低角側にピークが観察された。この結果から、本実施例の二酸化チタンがメソポーラス化していることが示された。なお、他の焼成温度条件の試料についてもX線回析装置による測定を行なったところ、上述したのとほぼ同様の結果を得た。
【0027】
(窒素ドープ量の測定)
上述した手順で作製した窒素ドープメソポーラス二酸化チタンについて、窒素ドープ量を測定した。下記表は、上述した手順で得られた試料のうち、TiO−テンプレート混合溶液の撹拌温度条件が90℃の試料についての結果を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
上記表に示されるように、焼成温度条件が400℃の試料については、N1sの量が1.23質量%であり、焼成温度条件が500℃の試料については、N1sの量が0.52質量%であった。一般に報告されている窒素ドープメソポーラス二酸化チタンの窒素ドープ量が0.06〜0.2質量%であることに鑑みれば、本実施例の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンは、従来の材料よりも約一桁大きな量の窒素を含有していることが示された。なお、他の撹拌温度条件の試料についても窒素ドープ量の測定を行なったところ、70℃の場合を除き上述したのとほぼ同様の結果を得た。
【0030】
(光吸収特性の検証)
上述した手順で作製した窒素ドープメソポーラス二酸化チタンについて、拡散反射スペクトルの測定を行なった。図3は、上述した手順で得られた試料のうち、TiO−テンプレート混合溶液の撹拌温度条件が90℃の試料についての結果を示す。なお、図3には、参考例として、メソポーラス二酸化チタンとして市販されているDegussa社のP25の測定値、ならびに、先に紹介した非特許文献1の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンの測定値(破線)を併せて示した。
【0031】
図3に示されるように、P25においては、波長が320nmを超えたあたりから光の吸収が急激に減少し、可視光領域では、光の吸収が見られない。この点、非特許文献1の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンは、光の吸収帯が600nm付近まで拡張してはいるものの、可視光領域に入ると光の吸収量が大きく減少し、600nm以上の中長波長領域では、光の吸収がほとんど見られない。
【0032】
一方、本実施例の焼成温度条件400℃の試料は、図3に示されるように、紫外線領域から可視光領域全域(〜830nm)に亘ってブロードな吸収帯が観測された。さらに、本実施例の焼成温度条件500℃の試料に至っては、同じくブロードな吸収帯であって、紫外線領域から赤外線領域に亘り非常に高い値が維持された吸収帯が観測された。以上の結果から、本発明の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンが、従来の二酸化チタン光触媒材料に比較して、格段に広い波長領域に亘って高い光吸収特性を発揮することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上、説明したように、本発明によれば、高い含有率で窒素がドープされ、紫外光領域から可視光領域に亘る広汎な波長領域で高い光吸収特性を発揮するメソポーラス二酸化チタンが提供される。本発明の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンによれば、水素燃料の供給あるいは環境浄化の技術分野において、太陽光エネルギーを高効率に利用する高パフォーマンスなシステムの構築が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施例の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンのXRD測定結果を示す図。
【図2】本実施例の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンのXRDの低角側の測定結果を示す図。
【図3】本実施例の窒素ドープメソポーラス二酸化チタンの拡散反射スペクトルの測定結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素がドープされたメソポーラス二酸化チタンの製造方法であって、
シリカを含有するテンプレートとチタンアルコキシドのアルコール溶液とを混合し温めながら撹拌する工程と、
前記混合により得られた沈殿物を乾燥させ、該沈殿物を窒素と酸素の雰囲気中で焼成する工程と
を含む製造方法。
【請求項2】
前記チタンアルコキシドのアルコール溶液は、チタンテトライソプロポキシドを1−プロパノールに溶解させた溶液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記テンプレートは、界面活性剤ミセルまたはブロックコポリマーとシリコンアルコキシドとの混合体にn−ブタノールを混合して得られる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記テンプレートと前記チタンアルコキシドのアルコール溶液の混合時にエチレンジアミンと四塩化炭素をさらに加える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記撹拌する工程における温度が80℃〜100℃である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記焼成する工程における焼成温度が、250℃〜550℃である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
窒素ドープメソポーラス二酸化チタンからなる光触媒材料であって、窒素(N1s)の含有率が0.2〜1.6質量%であることを特徴とする光触媒材料。
【請求項8】
窒素ドープメソポーラス二酸化チタンからなる光触媒材料であって、窒素(N1s)の含有率が0.52〜1.56質量%であることを特徴とする光触媒材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−269766(P2009−269766A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118840(P2008−118840)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(505165251)学校法人幾徳学園神奈川工科大学 (14)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】