説明

窒素含有多孔質炭素材料とその製造方法、及び該窒素含有多孔質炭素材料を用いた電気二重層キャパシタ

【課題】メラミンを直接の原料として製造することができ、電気二重層キャパシタ用電極材料として優れた特性を示す窒素含有多孔質炭素材料の提供。
【解決手段】メラミンとクエン酸マグネシウムを混合し、不活性雰囲気下で700℃以上に加熱したのち、冷却し酸洗浄して得られる窒素含有炭素多孔質材料であり、窒素含有量が0.5〜30質量%、比表面積が200〜3000m/gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有多孔質炭素材料とその製造方法、及び該窒素含有多孔質炭素材料を電極に用いた電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(ELDC)は、静電容量が大きく、充放電サイクル特性にも優れることから、自動車をはじめとする種々の機器にバックアップ電源として用いられている。このELDCには活性炭をポリテトラフルオロエチレンなどのバインダ樹脂でシート状にした分極性電極が用いられる。
分極性電極に用いる活性炭の製造方法としては、有機酸マグネシウム等を鋳型(テンプレート)として、炭素前駆体となる有機物と混合、焼成することにより炭素と酸化マグネシウム(MgO)の複合体を合成し、その酸処理によってMgO鋳型を溶出除去して多孔質炭素を合成する手法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、合成される炭素骨格中に窒素を固溶した窒素含有多孔質炭素材料を製造することはできなかった。
窒素含有炭素材料はEDLC用電極材料としてより適しており、メラミン樹脂等の窒素含有量の高い高分子を原料として合成した窒素含有炭素材料が知られている。特許文献2には、膨潤性フッ素マイカをテンプレートとし、メラミン樹脂、アクリロニトリル樹脂を用いた窒素含有炭素製造法が記載されている。また、特許文献3では、メラミン樹脂フォームの炭素化による含窒素炭素の製造方法が提案されている。
EDLCの高容量化の要求に伴い、この窒素含有多孔質炭素材料の高表面積化が望まれているが、上記の方法では十分なものは得られていない。また、メラミン樹脂の原料であるメラミンモノマーは、熱処理によって昇華するため、直接、窒素含有多孔質炭素材料の原料とすることができず、容易に窒素含有多孔質炭素材料を製造することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−13394号公報
【特許文献2】特開2005−239456号公報
【特許文献3】特開2007−269505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、メラミンを直接の原料として製造することができ、電気二重層キャパシタ用電極材料として優れた特性を示す窒素含有多孔質炭素材料と、これを用いた高容量電気二重層キャパシタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は以下の発明により達成された。
(1)窒素含有量が0.5〜30質量%であり、比表面積が200〜3000m/gである窒素含有炭素多孔質材料。
(2)メラミンとクエン酸マグネシウムを混合し、不活性雰囲気下で700℃以上に加熱したのち冷却し酸洗浄して得られる(1)に記載の窒素含有炭素多孔質材料。
(3)(1)または(2)に記載の窒素含有炭素多孔質材料をバインダ樹脂により結合してなることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。
(4)(3)に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料を電極に用いてなる電気二重層キャパシタ。
(5)メラミンとクエン酸マグネシウムを混合し、不活性雰囲気下で700℃以上に加熱したのち冷却して酸洗浄することを特徴とする窒素含有炭素多孔質材料の製造方法。
(6)700℃以上の保持温度までの昇温速度を1〜100℃/分とする(5)に記載の窒素含有炭素多孔質材料の製造方法。
(7)700℃以上での保持時間を1〜5000分とすることを特徴とする(5)または(6)に記載の窒素含有炭素多孔質材料の製造方法。
なお、本発明における「比表面積」はBET法により測定したものをいい、窒素含有率は燃焼分析によって求めた質量%(無水無灰基準)の値をいう。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、クエン酸マグネシウムを鋳型に用いることで、従来炭素化が困難であったメラミンを電極用炭素材料原料として窒素含有多孔質炭素材料を製造することが可能となった。この窒素含有多孔質炭素材料は、材料中の窒素の機能と高い表面積により、水溶液電解質を用いた電気二重層キャパシタ用電極として優れた特性を示す。本発明の窒素含有多孔質炭素材料を用いた電気二重層キャパシタは、高い容量を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の窒素含有多孔質炭素材料は、クエン酸マグネシウムとメラミンを、不活性雰囲気下で加熱し、その後、冷却して酸洗浄して製造できる。この加熱時にクエン酸マグネシウムのMgが酸化して微細な酸化マグネシウム(MgO)が形成され、このMgO粒子のまわりにメラミンに由来する窒素を含有する炭素膜が形成される。このような生成物を、MgOを溶解可能な酸、例えば硫酸、塩酸などの溶液で洗浄してMgOを除去すると、内部に細孔を有する窒素含有炭素膜が残るので、これが窒素含有多孔質炭素材料となる。
【0008】
本発明で原料として用いるメラミンは、メラミンモノマーのほか、オリゴマー(例えば2〜10量体)も用いることができる(本発明においては、これらを合わせてメラミンという)。メラミンは通常は加熱により昇華してしまい、炭素残渣を残さないが、本発明においてはクエン酸マグネシウムと混合、加熱することで炭素骨格に窒素を含有する炭素多孔質材料を形成する。これは、鋳型(テンプレート)として機能するクエン酸マグネシウムにより、生成する微細なMgO粒子がメラミンの重合を促進する効果を持つことと、クエン酸マグネシウムの分解によって発生するガス成分がメラミンと反応することによって重合物を形成することによると考えられる。
【0009】
メラミンとクエン酸マグネシウムの混合比は、クエン酸マグネシウム(Mg(C・9HO)が19.7質量%のMgOを生成することから、クエン酸マグネシウムの秤量値(g)の19.7%をMgO質量と換算し、MgO質量とメラミン秤量値(g)の和を10(質量部)とした場合に、メラミンが0(質量部)を超え10(質量部)未満であればよいが、好ましくはメラミン:クエン酸マグネシウムが1:9〜9:1(質量部)である。
【0010】
加熱温度は好ましくは700℃以上、より好ましくは800〜1000℃とする。このような温度に加熱することにより、原料の熱分解が進行し、窒素含有炭素の結晶化が進む。また、電気二重層キャパシタ用電極として好適な電気抵抗が得られ、炭素骨格中の細孔の均一化にも有利である。
上記温度への昇温速度は好ましくは1〜100℃/分、より好ましくは5〜20℃/分である。このような昇温速度においては、熱分解が安定に進行し、結晶化がより良好に進行する。
また、上記温度で好ましくは1〜5000分、より好ましくは30〜300分保持する。この保持時間により、窒素含有炭素中の軽元素の脱離が進行するので、結果的に得られる窒素含有多孔質炭素材料の組成と比表面積をコントロールすることができる。
この間の反応雰囲気は、不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気下で行う。
【0011】
本発明の窒素含有多孔質炭素材料の比表面積は200〜3000m/g、好ましくは600〜2200m/gである。また、窒素の含有量が0.5〜30質量%であり、0.5〜20質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の窒素含有炭素多孔質材料の細孔は2〜50nmのメソ孔の率が高く、このような細孔を多く持つことで、電気二重層キャパシタ用電極としたときの電解液の浸透やイオンの移動に有利であり、レート特性が良好である。また、比容量の高いキャパシタ用電極とすることができる。
本発明の電気二重層キャパシタ用電極は、上記窒素含有炭素多孔質材料をバインダ樹脂で結合してシート等の形状に成形したものである。バインダ樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など通常使用されるものを用いることができる。このとき適量のカーボンブラック等を添加することができる。電極の形状は特に制限はない。
【0013】
本発明の電気二重層キャパシタは上記電気二重層キャパシタ用電極を用いた以外は、従来の電気二重層キャパシタと同様のものである。具体的には、上記電気二重層キャパシタ用電極を、セパレータを介して対向して設け、これらの電極に電解液を含浸させて、それぞれが陽極と陰極として作用するものであればよい。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0015】
(実施例1、2、比較例1、2)
[炭素多孔質材料の作製]
(1)クエン酸マグネシウム(二くえん酸三マグネシウム九水和物 Mg(C・9HO)とメラミン(C)を所定量秤量し、メノウ乳鉢中で充分均一になるよう混合した。混合比は表1に示すとおりとした。
(2)混合した原料粉末を石英製ボートに充填し、石英製反応管を備えた横型管状電気炉中にセットし、プログラム温度調節計によって、毎分10℃の昇温速度で800℃まで加熱した。800℃で1時間保持した後、自然冷却して焼成試料を得た。この間、反応雰囲気は高純度窒素(99.9999%以上)を流通させた。
(3)上記手順により得られた焼成試料は、過剰量の6M塩酸中で15時間以上処理し、純水によって洗浄濾過、乾燥を行うことによって焼成試料中のMgO粒子を除去した。
(4)試料の比表面積は自動窒素吸着測定装置によって測定した77Kでの窒素吸着等温線よりBET法によって求めた。結果を表1に示す。
(5)元素組成は燃焼法によるCHN元素分析装置により定量した。結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1中の混合比(質量部)は、クエン酸マグネシウム(Mg(C・9HO)が19.7質量%のMgOを生成することから、クエン酸マグネシウムの秤量値(g)の19.7%をMgO質量と換算し、MgO質量とメラミン秤量値(g)の和を10(質量部)とした場合のそれぞれの値で示した。炭素収率は得られた炭素試料質量の原料(メラミン+クエン酸Mg)中の炭素質量の比である。
【0018】
メラミンのみ(比較例1)の場合、昇華するため(融点354℃)、熱処理によって炭素を生成しない。
実施例1および2で、炭素収率は比較例2のクエン酸マグネシウムのみの場合の値を超えており、共炭化によって両前駆体(メラミンとクエン酸マグネシウム)由来の炭素が生成したことを示している。
上記の手順の通り前駆体の焼成と酸処理のみで、実施例1、2では、汎用活性炭の比表面積(通常800〜1000m/g程度)以上の大きな比表面積を有する多孔質炭素材料が得られた。
元素分析により、メラミンとクエン酸マグネシウムを混合した前駆体から得られた実施例1、2の多孔質炭素材料には窒素が含有されていることが示された。
【0019】
[電気化学評価]
表1に示した炭素多孔質材料の試料(実施例1、2、比較例2)を10mg秤量し、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)10質量%、カーボンブラック10質量%とともにアセトンを滴下して混練し、錠剤成型器で直径1cm、厚さ約0.4mmの円盤状ペレットを作製した。成型したペレットを100℃で1時間真空乾燥し、冷却後直ちに秤量して電極質量とした。ペレットを白金メッシュ(集電材)およびガラス繊維ろ紙(孔径1μm)と共にテフロン(登録商標)ジグに挟みこむことによって作用極を構成した。対極には白金板、参照極は銀/塩化銀を使用した。1mol/L硫酸電解液を容器中で真空とした測定セルに充填した。電気化学測定中は、窒素ガスをバブリングして溶存酸素を除去した。単電極あたりの質量比容量はサイクリックボルタンメトリー(CV)および定電流充放電測定(GC)によって求めた。
【0020】
定電流充放電は日本電子機械工業会規格(EIAJ RC−2377)に準拠し、第5回充放電サイクルの放電曲線より比容量を算出した。
サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定はVMP-01(商品名、Biologic社製)を用いて行った。定電流充放電測定(GC)の測定はVMP-01(商品名、Biologic社製)を用いて行った。
比較としてサイクリックボルタモメトリー(0〜1V vs Ag/AgCl,1mV/s)より、第5回サイクル目のボルタモグラム面積の1/2と電極質量から比容量を算出した。
結果を表2に示す。
実施例1及び2の電極はいずれも高い比容量を示しており、電気二重層キャパシタに用いたときに優れた特性を有するものである。
例えば、文献(Electrochimica Acta 50 (2005) 1197-1206)には、12種類の活性炭について22〜164F/gの比容量が示されているが、これらと比較して本実施例の結果が優れていることが分かる。
実施例2(メラミン:クエン酸マグネシウム=3:7)では、クエン酸マグネシウムのみの場合(比較例2)より大きな比容量(F/g)が得られた。
また、実施例1および実施例2の比容量(F/m)は、比較例2の値を超えており、当該窒素含有多孔質炭素材料における窒素の優れた特性を示している。
【0021】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素含有量が0.5〜30質量%であり、比表面積が200〜3000m/gである窒素含有炭素多孔質材料。
【請求項2】
メラミンとクエン酸マグネシウムを混合し、不活性雰囲気下で700℃以上に加熱したのち冷却し酸洗浄して得られる請求項1に記載の窒素含有炭素多孔質材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の窒素含有炭素多孔質材料をバインダ樹脂により結合してなることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極材料。
【請求項4】
請求項3に記載の電気二重層キャパシタ用電極材料を電極に用いてなる電気二重層キャパシタ。
【請求項5】
メラミンとクエン酸マグネシウムを混合し、不活性雰囲気下で700℃以上に加熱したのち冷却して酸洗浄することを特徴とする窒素含有炭素多孔質材料の製造方法。
【請求項6】
700℃までの昇温速度を1〜100℃/分とする請求項5に記載の窒素含有炭素多孔質材料の製造方法。
【請求項7】
700℃以上での保持時間を 1〜5000分とすることを特徴とする請求項5または6に記載の窒素含有炭素多孔質材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−111384(P2011−111384A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272409(P2009−272409)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発/ハイブリッドナノカーボン電極による水系電気化学スーパーキャパシタの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】