説明

窒素含有率が極めて低い石油類の製造方法

優れた回収率で窒素化合物、特には塩基性窒素化合物を芳香族軽質石油から除去するための非常に効率的な液−液抽出プロセスは、抽出溶剤として脱イオン水を使用し、該脱イオン水は、酸性化されていてもよい。生成物は、酸性触媒を不活性化し得る窒素毒の量が極めて少ない芳香族炭化水素である。抽出した油は、窒素毒に過度に敏感な高性能固体触媒で促進される後続の触媒プロセス用の供給原料として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質石油から実質全ての窒素化合物を除去して、さもなければ酸性触媒を不活性化してしまう窒素毒の量が極めて少ない、芳香族炭化水素等の炭化水素を生産する方法に関するものである。従って、該芳香族炭化水素は、かかる酸性触媒が触媒作用を及ぼして、種々の石油化学製品を生成するプロセスにおける供給原料として使用できるものである。
【背景技術】
【0002】
石油中に塩基性窒素化合物が存在することが、後続の触媒プロセス、特には酸性触媒が使用される触媒プロセスのパフォーマンスに悪影響を及ぼし得ることがよく知られている。例えば、減圧軽油又は残油中に存在する窒素化合物は、水素化脱硫で用いられる触媒を不活性化してしまう。油類中の窒素化合物のレベルを低下させるための様々な化学的及び物理的処理が開発されてきた。化学的な方法としては、例えば、(i)水素化脱硫/水素化脱窒素(HDS)/(HDN)プロセス、及び(ii)酸化プロセスが挙げられる。高沸点石油類から窒素化合物を除去するためのHDS/HDN技術は、十分確立されている。酸化技術は、より最近に開発されたものであり、通常、硫黄の除去と組み合わせて使用されている。典型的には、酸化プロセスは、酸化に続いて、抽出及び吸着工程を含む。酸化方法は、例えば、ゴアに対する米国特許第6,160,193号、ゴアに対する米国特許第6,274,785号、ラパスに対する米国特許第6,402,940号、ラパスに対する米国特許第6,406,616号、ゴアに対する米国特許第6,596,914号、及びカラスらに対する米国特許出願公開第2004/0178,122号に記載されている。
【0003】
窒素化合物を除去するための最も一般的な物理的技術は、高沸点石油類を処理するのに特に適切な液抽出及び固体吸着である。例えば、ヤオに対する米国特許第4,846,962号には、固体酸性極性吸着剤への塩基性窒素化合物(BNC類)の吸着によって、溶剤抽出油からBNC類を除去するための方法が記載されている。油類は、一般的な抽出溶剤、特にはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)で抽出される。抽出された油を含む生成ラフィネートは、シリカ−アルミナ、高アルミナ系アモルファスクラッキング触媒又は結晶性ゼオライト等の酸性吸着剤を含む固体吸着ユニットを通過させられる。使用する吸着剤のタイプ及び吸着プロセスの条件に依存して、高温及び高圧での水素によるパージ又は抽出溶剤、例えば、NMPによるBNCで飽和した吸着剤の洗浄のいずれかによって、吸着剤を再生させることができる。いずれの場合も、吸着剤の再生は、高価となり得る。
【0004】
ミンらに対する米国特許第6,248,230号には、接触水素化処理の前に、好ましくは200から400℃の範囲の沸点を有する炭化水素留分から、主として塩基性窒素化合物である天然極性化合物を除去するための固体吸着方法が記載されている。該プロセスは、水素化処理装置の性能を顕著に向上させて、硫黄含有率の低いクリーンなディーゼル燃料を生成させると言われている。好適な吸着剤は、メタノール等の極性溶剤で再生されるシリカゲルである。同様に、イルビンに対する米国特許第5,730,860号には、逆相流動化吸着プロセスにおいて、極性化合物(窒素化合物等の)を高濃度で含むナフサを処理するための方法が記載されている。吸着剤は、高温で水素ガス等の再活性化媒体と接触させて再生させる。
【0005】
炭化水素類からの窒素化合物の除去において吸着剤は非常に選択的である一方、この方法は、多くの理由により、商業的には実施可能ではない。先ず初めに、該技術を実行するには、多額の初期投資、続いて相当な操業コストが必要である。高いコストは、吸着剤に関して、通常、吸着が操作と再生の交互シーケンスに分割されるバッチ操作であるという事実に一部起因する。再生手法の実務業務自体は、非常に複雑で、また、吸着カラム中への及び吸着カラムからの異なる流体パターンを実行し、並びに再生サイクルの間様々な段階で流れの方向を反対にするために複雑なプラント設計を必要とする。吸着を使用する障害となる他の理由は、吸収剤が限定された且つ不整合な容量及び寿命を有することにある。予測可能な吸着寿命を有する吸収剤を使用することが、どの吸着プロセスの商業的成功にも重要である。大抵の吸着寿命は、特定の用途に対して経験的に求めなければならず、必然的に伴う実験が高価となり得る。
【0006】
炭化水素の供給原料の流れ中の窒素含有率が非常に低い場合、即ち、低パートパーミリオン(ppm)、又はパートパービリオン(ppb)である場合、吸着プロセスは、窒素化合物の除去に適切であるかもしれない。これらの微少濃度では、窒素除去プロセスは、吸着剤の取替えが必要となることがまれで、吸着剤の再生が必要ない。吸着剤の再生が必要でないため、有益なことに、吸着は、酸と塩基との間の中和反応に基づく。窒素吸着が、酸点を有する吸着剤上への塩基性窒素化合物の不可逆的な強い吸着の形態であることが明らかである。
【0007】
従来技術の抽出技術に関して、ミラーに対する米国特許第4,113,607号には、塩化第二鉄のフルフラール溶液を用いた液−液抽出によって油から窒素化合物を抽出することにより、水素化留分の品質を高めるプロセスが記載されている。ラフィネート(油)相は、酸性触媒を用いる接触分解又は水素化処理用の供給原料として使用するのに特に適しているといわれている。エバンスらに対する米国特許第4,960,507号には、石油から塩基性複素環の窒素を除去するための二工程抽出プロセスが記載されており、該プロセスによれば、第一抽出工程で水性の酸性溶剤を用いて、油から窒素化合物の大部分を除去し、第二抽出工程で混和しない炭化水素溶剤を用いて、油中の窒素含有率を更に低下させる。水性の酸性溶剤としては、カルボン酸及びハロゲン置換カルボン酸が挙げられ、一方、混和しない炭化水素溶剤としては、C3からC12のパラフィン類、C3からC12のオレフィン類及びC3からC12のエーテル類が挙げられる。エバンスらに対する米国特許第4,960,508号には、石油から塩基性複素環の窒素を除去するための類似の二工程抽出プロセスが記載されており、該プロセスによれば、第一抽出工程で水性の濃縮酸性溶剤を用いて、油から窒素化合物の大部分を除去し、第二抽出工程で希釈した水性の酸性溶剤を用いて、油中の窒素含有率を更に低下させる。濃縮酸性溶剤は、カルボン酸、ハロゲン置換カルボン酸及びそれらの混合物を85から95重量%含有する水溶液を含み、一方、希釈した酸性溶剤は、濃縮形態と同じ酸の混合物を含むものの、その濃度は約25から75重量%のより低い濃度である。
【0008】
チェンらに対する米国特許第4,426,280号には、抽出溶剤として、ギ酸、酢酸及びそれらの混合物を用い、けつ岩油から窒素化合物を除去する二工程抽出プロセスが記載されている。最初の抽出では、油を第1抽出ゾーンで酸を30から50重量%含有する低酸強度の溶剤と接触させて、続いて該油を第2抽出ゾーンで酸を70から90重量%含有する高酸強度の溶剤と接触させる。クックらに対する米国特許第4,483,763号には、有機極性溶剤、酸及び水を含む三成分抽出溶剤、例えば、フルフラールアルコール、塩酸及び水の混合物を用いて、けつ岩油から窒素化合物を除去する抽出方法が記載されている。ミラーに対する米国特許第4,169,781号には、石炭由来のコーカー油から窒素を除去するための抽出方法が記載されており、該方法において、抽出溶剤は、塩化第二鉄のフルフラール溶液からなる。
【0009】
多くの触媒プロセスにおける石油化学の供給原料として用いられる軽質石油は、硫黄及び窒素を非常に低いレベルでのみ含むことができる。触媒技術における最近の進歩によって、これらのプロセスの多くの生産性及び経済性を実質的に向上させる高活性触媒が開発された。不幸なことに、これらの高活性触媒は、塩基性窒素化合物に特に敏感である。例えば、フッ化水素酸、硫酸及び塩化アルミニウムのスラリー等の無機強酸が触媒作用を及ぼすアルキル化及び異性化反応は、現在、供給原料中の塩基性窒素化合物の毒に弱く、非常に活性な酸触媒サイトを有する固体ゼオライト触媒によって触媒されている。商業的に重要なアルキル化反応の例としては、ベンゼンとエチレン又はプロピレンとのアルキル化でそれぞれエチルベンゼン又はクメンが生産されている。重要な異性化反応としては、例えば、オルトキシレン又はメタキシレンからのパラキシレンの生産、及びメチルシクロペンタンからのシクロヘキサンの生産が挙げられる。この後者の合成では、例えば、ベンゼンの供給原料は、窒素化合物を実質含まない必要があり、好ましくは30−100 ppbよりも少ない。
【0010】
炭化水素から窒素化合物を除去して、窒素含有率が極めて低い軽質石油等の製品を製造するためのコスト効率が高く、効果的なプロセスに対する差し迫った要請がある。該製品は、さもなければ窒素化合物によって、特には塩基性の窒素化合物によって不活性化される触媒が触媒作用を及ぼす後続のプロセス用の供給原料である。該プロセスは、連続式で温和な条件で操業できることが望ましい。
【特許文献1】米国特許第6,160,193号
【特許文献2】米国特許第6,274,785号
【特許文献3】米国特許第6,402,940号
【特許文献4】米国特許第6,406,616号
【特許文献5】米国特許第6,596,914号
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0178,122号
【特許文献7】米国特許第4,846,962号
【特許文献8】米国特許第6,248,230号
【特許文献9】米国特許第5,730,860号
【特許文献10】米国特許第4,113,607号
【特許文献11】米国特許第4,960,507号
【特許文献12】米国特許第4,960,508号
【特許文献13】米国特許第4,426,280号
【特許文献14】米国特許第4,483,763号
【特許文献15】米国特許第4,169,781号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、軽質石油から実質全ての窒素化合物を除去する方法を対象とし、該軽質石油は、典型的には、抽出されたC6−C8芳香族を含む。生成物は、酸性触媒を不活性化し得る窒素毒の量が非常に低い芳香族炭化水素である。従って、該芳香族炭化水素は、かかる酸性触媒が触媒作用を及ぼして様々な石油化学製品を生成するプロセスの供給原料として使用できる。
【0012】
特には、本発明は、軽質石油から窒素化合物、特に塩基性窒素化合物を、高い石油回収率で除去するための高効率な液−液抽出プロセスを提供するものである。続いて、共沸蒸留又は吸着蒸留により、水及び残留窒素(存在する場合は)を取り除く。抽出された油類は、窒素毒に対し過剰に敏感な高性能固体触媒によって促進される後続の触媒プロセス用の供給原料として適している。本発明の抽出プロセスは、比較的簡単で且つ高価でなく、温和な条件下、又は常温及び常圧で操業でき、また、抽出を促進するためにpHを調整して又は調整することなく、抽出溶剤として水を使用する。
【0013】
特定の一例において、本発明は、芳香族軽質石油から窒素を除去して、高性能ゼオライト触媒を使用する下流の触媒プロセス用の含有窒素が非常に少ない供給原料を生産する。望ましい反応は、供給原料中の塩基性窒素化合物の毒に非常に弱い、これら触媒上の強酸点が触媒作用を及ぼすものである。この新規プロセスは、例えば、窒素含有溶剤を芳香族の抽出に用いる液−液抽出プロセス又は抽出蒸留プロセスで製造されるC6からC8芳香族から実質全ての窒素化合物を除去することにおいて非常に効率的である。
【0014】
一実施態様において、本発明は、含有する窒素含有化合物のレベルが極めて低い軽質石油の製造方法を対象とし、該プロセスは、
(a)窒素含有化合物を含む軽質石油の供給原料を準備する工程と、
(b)抽出ゾーン中の抽出条件で、前記軽質石油の供給原料を水性抽出溶剤と接触させる工程と、
(c)工程(b)の生成物を(i)分離された軽質石油を含むラフィネート製品の流れと(ii)水性抽出相とに分離する工程と、
(d)前記ラフィネート製品の流れから水を除去する工程と
を含む。
【0015】
他の実施態様において、本発明は、酸性触媒が触媒作用を及ぼす反応において炭化水素類を転換する方法を対象とし、該プロセスは、
(a)窒素含有化合物を含む軽質石油の供給原料を準備する工程と、
(b)窒素含有化合物を含む軽質石油の供給原料を極性抽出溶剤と接触させる工程と、
(c)前記極性抽出溶剤から前記軽質石油を分離し、含有する窒素含有化合物のレベルが極めて低い軽質石油を生産する工程と、
(d)分離された軽質石油から水を除去して、脱水された軽質石油を生産する工程と、
(e)脱水軽質石油を、炭化水素の転化条件で酸性触媒と接触させる工程と
を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、軽質石油から窒素化合物を除去して、窒素レベルが非常に低い軽質石油芳香族製品を生産するためのプロセスを対象とする。該プロセスは、窒素含有率(「窒素化合物含有率」とも呼ばれる)が1 ppm以下、好ましくは100 ppb以下、より好ましくは30 ppb以下の軽質石油を生産する。窒素除去プロセス用の窒素含有軽質石油供給原料は、例えば、連続分解装置からの分解ガソリンから抽出した芳香族製品、接触改質装置からの改質ガソリンから抽出した芳香族製品、或いは、石油コーカー油又は石炭由来のコーカー油からのナフサ留分から抽出した芳香族製品を含むことができる。
【0017】
図1は、液体の炭化水素から窒素化合物を除去して、実質窒素化合物を含まない芳香族含有製品を生産する方法を説明している。図示するように、軽質石油供給物10を中和窒素含有添加剤12と任意に接触させ、組み合わさった流れ14を、該供給流れ14から主として硫黄を除去する従前の水素化脱硫(HDS)ユニット16中に供給する。添加剤12は、軽質石油供給物10中に存在する可能性がある酸性イオンを中和するのに適切な窒素化合物を含む。好ましくは、添加剤12は、ここで更に説明するように、約135℃未満の比較的低い沸点を有する水溶性窒素化合物を含む。次に、HDSユニット16からの廃液18を蒸留カラム20中に投入し、該蒸留カラム20において、C8+留分を含む重質炭化水素類の流れ22をカラム20の底部から除去し、C6−C8留分を含む軽質炭化水素類の流れ24を塔頂で生産する。塔頂留分の流れ24を芳香族抽出システム26に供給し、該システム26において、典型的には、N-ホルミル-モルホリン(NFM)やN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の窒素含有抽出溶剤を含む溶剤又は溶剤混合物で所望の芳香族を抽出する。芳香族抽出システム26は、好ましくは、従前の液−液抽出カラム又は抽出蒸留カラムである。非芳香族を、流れ28を介して抽出システム26から排出する。窒素化合物除去システム32を用いて、精製した芳香族製品の流れ30から窒素化合物を除去して、実質的に窒素を含まない芳香族の流れ34を生産する。本発明は、一部、抽出溶剤として水を用い、pHを調整して或いは調整することなく抽出を促進する新規の窒素化合物除去システムの開発を基盤とし、ここで、該システムを更に説明する。
【0018】
軽質石油供給原料中の窒素汚染には、主に3つの源があり、それらは、(1)元々石油中で自然に発生する窒素化合物、(2)HDSユニット16中に導入される前に、供給原料に添加される腐食防止剤、例えば、塩基性窒素化合物、及び(3)芳香族の除去において用いられる(抽出システム26中の)窒素含有抽出溶剤である。自然に発生する窒素化合物は、HDSにより容易に除去できるので、精製した芳香族製品の流れ30中に存在する可能性は低い。
【0019】
腐食防止剤は、通常、上流のプロセス中で発生するSO3=、SO4=、CN-等の酸性イオンを中和するのに添加される。腐食防止剤を使用した場合、過剰量の添加剤は、HDSユニット16中でほぼ熱分解又は反応して、135〜140℃の範囲であるキシレン類の沸点よりも低い沸点を有するより軽質の窒素化合物が生成する。それにも関わらず、HDSの廃液18は、使用する添加剤の量及びタイプに依存して、ほぼ確実に、窒素を約0.3 ppmのレベルまで含む。典型的には、分解ガソリン及びコーカーナフサをHDSユニット16中で処理して、HDSユニットからの廃液を蒸留カラムに供給して、キシレン類よりも沸点が高い重質分を分離除去する。ベンゼン、トルエン、キシレン類、C8−非芳香族、及び痕跡量の腐食防止剤由来の窒素化合物を含む留分を、次に、芳香族抽出システム26に送り、精製芳香族製品の流れ30を生産し、該精製芳香族製品は、触媒的に処理されて他の石油化学製品となり得る。
【0020】
芳香族抽出システム26に関して、液−液抽出を用いる場合、好適な溶剤は、スルホラン/水、テトラエチレングリコール(TEG)/水、N-ホルミル-モルホリン(NFM)/水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)/水、及びそれらの混合物である。抽出蒸留を用いる場合、好適な溶剤は、NFM/水及びNMP/水である。理想的なLLE又はEDプロセスにおいて、抽出溶剤の沸点は、炭化水素の供給物の沸点よりも本質的に高いため、溶剤は、ラフィネート及び抽出産物を汚染しない。NFMの沸点(243℃)及びNMPの沸点(208℃)は、十分高くないので、抽出プロセスからの芳香族製品は、かなりの量の窒素化合物を含む。比較として、抽出溶剤としてNFMを用いたクルップ−ウーデ抽出蒸留プロセスから生産したベンゼンは、通常、2〜3 ppm(2,000〜3,000 ppb)の窒素を含み、本発明の窒素除去プロセスに望まれる30〜100 ppbのレベルよりも実質的に高い。
【0021】
明らかなように、窒素含有抽出溶剤、及び、より低い度合いで、腐食防止剤は、精製芳香族製品の流れ30中の窒素化合物の主たる源である。精製芳香族製品の流れ30中の窒素化合物の典型的なレベルは、約2から3 ppmであることが見込まれる。本発明の一視点は、精製芳香族製品の流れ30から窒素化合物を実質的に取り除き、窒素汚染のレベルが極めて低い芳香族炭化水素を生産することにある。
【0022】
本発明は、一部、C6からC8炭化水素の沸点範囲内の沸点を有する全ての窒素化合物が水溶性であるとの観察に基づいている。確かに、メルクインデックス(11版(1989)に掲載されているC6からC8芳香族の沸点範囲内のほぼ全ての窒素化合物は、水溶性である。これら11種の窒素含有化合物の沸点及び(室温で測定した)水への溶解能を以下の表に記載する。
【0023】

【0024】
約135℃以下の沸点を有する添加剤を使用することによって、本発明の窒素除去プロセスを改善できることが期待される。例えば、HDSユニットに添加される腐食防止剤等の従来技術で使用されている高沸点の中和窒素添加剤を、適切な低沸点の水溶性窒素添加剤と置き換えることができる。僅かだけ水溶性のトリエチルアミンを例外として、上記に掲載された他の添加剤の如何なるものも、或いはそれらの組み合わせも使用することができる。
【0025】
図3〜5に更に説明するように、好適な窒素除去システム32(図1の)は、(i)液−液抽出(LLE)ユニットと(ii)共沸蒸留カラム又は吸着蒸留カラムを有する。該LLEは、窒素化合物の大部分を除去して芳香族製品を生産し、一方、共沸蒸留カラム又は吸着蒸留カラムは、芳香族製品から水を除去し、また、存在する場合は少量の残留窒素の痕跡も除去する。該LLEユニットは、毒性が無く、腐食性が無く、低コストの極性抽出溶剤を使用する。特に好ましい溶剤は水であり、pHを調整して或いは調整することなく、抽出を向上させる。該LLEユニットは、好ましくは向流抽出用に設計された連続多段接触装置を具える。窒素除去用の適切な設計としては、例えば、(i)トレー、充填物、又は回転ディスクを具えるカラム、(ii)パルスカラム、(iii)多段ミキサー/沈降槽、及び(iv)回転方式の接触器が挙げられる。
【0026】
更に、軽質石油中の低沸点(<135℃)窒素化合物が一般に総て水溶性であることを見出した。図1に説明するプロセスの芳香族抽出ユニット26への供給原料中のどの窒素化合物も、該供給原料は沸点が140℃未満のC6からC8炭化水素のみを含むので、水溶性である。芳香族抽出ユニット26で使用する窒素含有溶剤は、炭化水素の供給原料よりもかなり高い沸点を有するものの、容易に水に溶解する。
【0027】
図2は、液体の炭化水素から窒素化合物を除去して実質窒素化合物を含まない芳香族含有製品を生産する他のプロセスを説明している。図示のように、接触改質装置で製造される改質ガソリン40を蒸留カラム42に供給し、該蒸留カラム42においてC8+留分を含む重質炭化水素類の流れ46をカラム42の底部から除去し、C6−C8留分を含む軽質炭化水素類の流れ44を塔頂から取り除く。次に、塔頂の流れ44をLLEやEDシステム等の芳香族抽出システム48中に導入し、該芳香族抽出システム48中で所望の芳香族を典型的には窒素化合物を含む溶剤又は溶剤混合物で抽出する。非芳香族は、流れ50を介して抽出システム48から排出する。窒素除去システム54を用いて、精製した芳香族製品の流れ52から窒素化合物を除去し、実質的に窒素を含まない芳香族の流れ56を生産する。好適な窒素除去システムとしては、図3〜5に描写するLLE及び共沸蒸留カラム又は吸着蒸留カラムが挙げられる。
【0028】
図3は、液−液抽出及び共沸蒸留を含む窒素除去プロセスを示している。この連続プロセスの場合、典型的にはppmレベルの窒素化合物を含む精製した芳香族60は、好ましくはここに更に詳しく説明する塔頂濃縮物62と混合され、ライン64を経て液体抽出カラム(LEC)66の下部中に供給され、該LEC66は好ましくは連続向流接触カラムである。抽出用の脱イオン水は、ライン76を通じてLEC66の頂部中に導入される。コントロールバルブを通してカラム66中に導入される水の流量を監視し、水対芳香族の供給(W/F)重量比をコントロールするために流量制御器(FRC)で調整する。W/F重量比は、通常は0.01から100、好ましくは約0.05から50、より好ましくは約0.1から10の範囲である。使用するW/F重量比が高くなる程、除去される窒素化合物の量が多くなる。この実施態様では、LEC66用の溶剤は、本質的に水かなることができる。
【0029】
上記抽出プロセスは、0から100℃、好ましくは40から60℃、並びに0から100 psig、好ましくは0から20 psigの温和な条件下で操作することができる。芳香族の水への溶解性が無意味でなく、該溶解性は温度と共に上昇するので、窒素抽出は60℃以下の温度で実行すべきである。例えば、ベンゼンの水への溶解度は、大気温度(23℃)及び45℃で、それぞれ0.188及び0.235重量%である。抽出カラム66に沿う如何なる鉛直位置にも芳香族相と水相との界面を配置する設計とすることができるが、好適な操作モードは、カラム66の底部に向かって界面を固定する。カラム66内の芳香族相と水相との好適な接触方法は、連続相として水を運び、小さな液滴等の非連続又は離散相として芳香族を運ぶものであり、或いはその反対であり、この場合、芳香族が連続相を形成し、水が非連続相を形成する。
【0030】
カラム66からの水エキストラクト70は、芳香族及び抽出窒素化合物を含み、通常それらは低ppmの濃度レベルで存在する。水エキストラクト70を抽出カラム66の底部から回収し、該抽出カラム66においてはレベル制御器(LC)によってカラム66内の水のレベルを維持する。水エキストラクト70の一部は、任意にライン72を通してカラム66の下部にリサイクルしてもよく、水エキストラクトの残部74は汚水として処理する。ラフィネートの流れ68は、圧力開放制御器(PRC)及びカラム66を液体で満たし続ける流量(FR)モニターを備えるカラム66の頂部から出る。ラフィネートの流れ68は、実質窒素化合物を含まず、即ち、存在する窒素化合物の量はppbレベル以下である。次に、ラフィネートの流れ68は、共沸蒸留カラム(AZC)78の中央部に供給され、該AZC78において芳香族から水が分離される。該水は、大部分、溶存水及び捕捉された自由水の形態にある。
【0031】
窒素除去に関してカラム66の性能を有意に向上させるために、痕跡量の酸を、任意にライン61を介して流れ60に添加して、供給原料がカラム66中の水抽出に入る前の芳香族の供給原料中の塩基性窒素化合物を少なくとも部分的に中和して、弱塩を生成させてもよい。インラインスタティックミキサーを用いて、酸と芳香族の供給原料とを混合することができる。好適な酸としては、特に限定されるものではないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、及びそれらの混合物等の水溶性有機酸、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、ホウ酸、硝酸、リン酸、及びそれらの混合物等の水溶性無機酸等が挙げられる。酸の添加量は、供給原料60中の窒素含有量の1から100倍、好ましくは1から5倍である。
【0032】
AZC78において、水及びベンゼンは沸点範囲が69〜70℃の最低沸点共沸混合物を形成し、該最低沸点共沸混合物は蒸気としてカラム78の頂部に上がる。カラム78内においてベンゼン中に存在する少量の水は、600 ppm未満である。塔頂の蒸気を冷却器86で凝縮し、凝縮物62をリサイクルして精製芳香族60と混合する。C7+芳香族がベンゼンよりも窒素化合物の許容値が高いことを考えて、乾燥したC7+芳香族製品をライン80を介してAZC78の底部から回収する。乾燥したC7+芳香族製品の一部をリボイラー84で加熱し、ライン82を通してAZC78の底部にリサイクルし、蒸留に必要な熱を提供する。乾燥したベンゼンは、窒素含有率が非常に低く、ライン90を介してAZC78の頂部近傍のサイドカットから回収する。ベンゼンが芳香族の供給原料60中の唯一の化合物の場合は、乾燥され窒素を含まないベンゼン製品を、ライン88を通じてAZC78の底部から回収する。
【0033】
図4は、液−液抽出(LLE)及び吸着蒸留を含む窒素除去プロセスを図解している。プロセスの配置及び操作条件は、図3に示すものと実質同一であり、共沸蒸留を用いて乾燥し、存在する場合、残留窒素化合物を除去する代わりに、吸着蒸留カラム(ADC)92を用いることを除いて、精製した芳香族から窒素化合物を抽出する同一のLLE操作を有する。図4に具体的に示すように、精製した芳香族60を好ましくはここに更に説明する塔頂の凝縮物62と混合し、ライン64を介して液体抽出カラム(LEC)66の下部中に供給する。未使用の抽出水を、ライン76を通じてLEC66の頂部中に導入する。
【0034】
カラム66からの水エキストラクト70を、抽出カラム66の底部から回収する。水エキストラクト70の一部をライン72を通じてカラム66の下部にリサイクルし、水エキストラクトの残部74を汚水として処理する。カラム66の頂部から出たラフィネートの流れ68は、窒素が痕跡に過ぎず、ADC92の中央部に供給され、該ADC92において芳香族から水が分離され、また、存在する場合は窒素も分離される。吸着剤床102を、トレー又は充填物を具えるADC92の中央部内に詰め込む。この場合、装備されるカラムはトレーを有し、吸着剤は液相が流通するトレーの下降管中に充填される。好ましい吸着剤は、塩基性窒素化合物を引き付け、吸着し、中和する強酸点を有する固体である。適切な固体吸着剤としては、例えば、AMBERLYST 15等のイオン交換樹脂、ゼオライト、及びそれらの混合物等が挙げられる。蒸留の間、カラム温度は、水及びベンゼンを吸着するには高過ぎ、むしろ、共沸混合物が形成され、蒸気としてカラム92を出て、続いて冷却器86で凝縮される。窒素含有率が非常に低い乾燥したC7+芳香族を、ライン98を介してADC92の底部から回収する。乾燥した芳香族製品の一部をリボイラー104で加熱し、ライン96を通じてADC92の底部にリサイクルし、蒸留に必要な熱を提供する。乾燥したベンゼンは、窒素含有量が非常に低く、ライン94を通じてカラム92からサイドカットから回収する。ベンゼンが芳香族の供給原料60中の唯一の化合物の場合は、乾燥され窒素を含まないベンゼン製品を、ライン100を通じてADC92の底部から回収する。水抽出の後、芳香族中の窒素化合物濃度は非常に低いので、カラム92中の吸着剤は、置換又は再生される前に長持ちする。
【0035】
共沸又は吸着蒸留を使用する代わりに、芳香族をクレー又は他の吸着剤による吸着で乾燥したり、芳香族を塩で乾燥することができる。芳香族から水並びにオレフィン類及びジエン類等の不飽和炭化水素を除去するために、石油及び石油化学産業では、クレーによる吸着が採用されてきた。しかしながら、かかる吸着プロセスは、通常、吸着剤に関しては回分操作であり、操業と再生とのサイクルを交互に行うシーケンスに分断されるため、より好ましくないものである。加えて、吸着剤を補充するための再生手順の実務業務は実に複雑である。
【0036】
図5は、同じく液−液抽出と共沸蒸留を含む窒素除去プロセスを図解している。加えて、該プロセスは、本発明の他の重要な視点を説明しており、該視点は、痕跡量の酸の添加によって水溶剤のpHを7未満に低下させることによって、LLE工程の能力を著しく向上させられることである。pHを、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下に低下させるが、酸性度は、LLEプロセスに入る塩基性窒素化合物のレベルに依存する。通常、使用する水のpHが低くなる程、除去される窒素化合物の量が多くなる。pHを調整するのに適切な酸としては、特に限定されるものではないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、及びそれらの混合物等の水溶性有機酸、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、ホウ酸、硝酸、リン酸、及びそれらの混合物等の水溶性無機酸等が挙げられる。好ましい酸は、酢酸及びギ酸であり、酢酸が特に好ましい。該酸は、塩基性窒素化合物を中和してプロセス中に水に容易に溶解する弱塩を生成させるので、塩基性窒素化合物を水と一緒により容易に除去することができる。その上、酸性化した水を用いて、LLE抽出プロセスに必要な水の量が著しく減る。次に、後続の共沸蒸留カラムは、主として芳香族製品を脱水し、水除去自体が必要とする分離段階は、より少ない。
【0037】
図5を参照すると、精製した芳香族110は、ppmレベルの窒素化合物を含み、好ましくはここに更に説明する塔頂の凝縮物112と混合され、ライン114を介して液体抽出カラム(LEC)116の下部中に供給され、該LEC116は好ましくは連続向流方式で作動する。この実施態様において、抽出溶剤は、好ましくは本質的に水からなり、2つの部分、即ち、(i)LEC116の頂部近傍のライン120を通じて導入される抽出用脱イオン水の第1部分と(ii)ライン118を通じて供給される酸性化した脱イオン水の第2部分に分けられる。未使用の脱イオン水をライン120を通じてカラムLEC116中に導入しつつ、酸性化した脱イオン水をライン118を通じて別個にカラムLEC116に導入する。カラムの頂部からの脱イオン水は、酸汚染を防止するのを助ける。W/F重量比は、ライン118及び120を通じて導入される水の総量を基準として、通常0.01から100、好ましくは約0.05から50、より好ましくは約0.1から10の範囲である。好ましくは、抽出プロセスは、0から100℃、好ましくは40から60℃、及び0から100 psig、好ましくは0から20 psigの温和な条件下で操作される。
【0038】
カラム116からの水エキストラクト130は、少量の芳香族と、通常低ppmの濃度レベルで存在する抽出された窒素化合物とを含む。水エキストラクト130を抽出カラム116の底部から回収し、該抽出カラム116においてはレベル制御器(LC)によってカラム116中の水のレベルを維持する。該水は、カラム116中にリサイクルしない。ラフィネートの流れ122は、芳香族と痕跡量に過ぎない窒素化合物とを含み、圧力開放制御器(PRC)及びカラム116を液体で満たし続ける流量(FR)モニターを備えるカラム116の頂部から出る。次に、ラフィネートの流れ122は、共沸蒸留カラム(AZC)124の中央部に供給され、該AZC124において、水が、存在する場合は窒素化合物と共に、芳香族から分離される。該水は、大部分、溶存水及び捕捉された自由水の形態にある。AZC124において、水及びベンゼンは、最低共沸混合物を形成し、該最低共沸混合物は、蒸気としてカラム124の頂部に上がる。塔頂の蒸気を冷却器126で凝縮し、液体112をリサイクルして精製芳香族110と混合する。脱水(乾燥)された芳香族製品は、窒素のレベルが非常に低く、ライン128を介してAZC124の底部から回収される。乾燥した芳香族製品の一部をリボイラー132で加熱し、ライン134を通じてAZC124の底部にリサイクルする。AZC124の主たる機能は、芳香族を乾燥することであり、この手順は、必要とする分離段階が図3に示したプロセスで採用されるAZC78に対して相対的に少ない。
【0039】
本発明のプロセスで製造した窒素含有率が非常に低い芳香族軽質石油製品は、特に後続の窒素による被毒に敏感な高性能固体触媒で促進される触媒プロセス用の供給原料として特に好適である。これらの従前の触媒プロセスとしては、例えば、エチレン又はプロピレンによりそれぞれエチルベンゼン又はクメンを生産するためのベンゼンのアルキル化、パラキシレンを生産するための混合キシレンの異性化、シクロヘキサンを生産するためのメチルシクロペンタンの異性化が挙げられる。
【実施例】
【0040】
本発明の異なる視点及び実施態様を更に説明するために以下の例を提供するが、該例は本発明の範囲を限定するものと見なされるべきものではない。
【0041】
(例1)
この例では、図1の蒸留カラム20中に供給するHDS廃液18の代表例である芳香族炭化水素組成物を準備した。該組成物は、供給原料10がHDSユニット16中に投入される前に供給原料10に添加される中和添加剤として用いられる類の高分子量窒素化合物を少量含んでいる。ほぼ98重量%が芳香族からなる組成物は、表1に示す以下の成分を含んでいた。
【0042】
【表1】

【0043】
この組成物約100グラムを、常温において分液ロート中で脱イオン水100グラムと接触させた。該ロートを激しく振って混和しない成分を良く混合させ、一旦振盪をやめ、すぐさま芳香族と水を互いに分離させ、芳香族相と水相とを確立した。痕跡窒素分析は、芳香族相中の窒素含有率が0.3 ppmで変化しないままであることを示しており、このことは、少なくとも約200から300℃の非常に高い沸点を有する窒素化合物が本質的に水に不溶であることを示している。
【0044】
(例2)
例1に記載したのと同じ抽出手順を用いて、ベンゼン約97.5重量%、C6からC7の非芳香族2.5重量%及び痕跡量(2.9 ppm)の窒素化合物を含むベンゼン組成物を、新品の脱イオン水で3回抽出した。各抽出における水対ベンゼンの組成重量比は、1:1とした。各抽出段階後の炭化水素(ベンゼン)相の痕跡窒素を分析し、その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
明らかなように、ベンゼン相中の窒素含有率は、2.9 ppmから0.078 ppm(又は78 ppb)に減少しており、減少率は97.3%であった。このことは、水がベンゼンから窒素化合物を除去するための優れた抽出溶媒であることを示している。
【0047】
(例3)
水の量を少なく、即ち、水対ベンゼンの組成比を0.5及び0.1にする以外は、例2の窒素抽出手順を繰り返した。各抽出段階後の炭化水素(ベンゼン)相の窒素を分析し、その結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
この実験は、どの特定の段階でより多くの抽出溶媒、即ち、水を使用した場合でも、ベンゼン相からより多くの窒素化合物が抽出されることを示している。更に、各水対ベンゼン重量比に対して、連続抽出で、ベンゼン相中の窒素の量が更に減少する。
【0050】
(例4)
例2及び3で用いたベンゼン組成物をガスクロマトグラフィー−質量分析計で分析し、存在する窒素化合物の分子構造を同定した。ベンゼン組成物中の窒素含有化合物が本質的にモルホリンであることが分かり、該モルホリンは、芳香族抽出システム、例えば、図1のシステム26で用いたNFM溶媒からの分解フラグメントである。モルホリンは水溶性であるので、この実験で、図3に示した液体抽出カラムLEC66を用いて、精製した芳香族の供給流れ60からモルホリンを抽出できることが確かめられた。モルホリンの沸点(128.3℃)は、ベンゼンの沸点よりも非常に高く、モルホリンは、水又はベンゼンと共沸混合物を形成しないので、水性ラフィネートの流れ68中にモルホリンが存在する場合、該残留モルホリンは、共沸蒸留カラム78の底部から除去できる。
【0051】
(例5)
この例で、酸性化した水が芳香族から窒素を抽出することにおいて水よりも効果的であることを示す。例1で記載したのと同じ抽出手順を用いて、窒素を2.9 ppm含むベンゼン組成物を、室温において多段抽出によって、脱イオン水及び酸性化した脱イオン水で抽出した。各例において、水対ベンゼンの重量比は、0.2とした。脱イオン水に酢酸を加えて、pHを7.0から5.11に低下させて、酸性化水を調製した。各抽出後のベンゼン組成物相の痕跡窒素を分析し、表4に比較抽出の結果を示す。
【0052】
【表4】

【0053】
明らかなように、ベンゼンから窒素化合物を抽出することにおいて、酸性化した水は、酸性化していない水よりも効果的である。酸性化水で、ベンゼン中の窒素含有率は、水対ベンゼンの重量比がたった0.2である5段階の抽出プロセスで95 ppbに低下した。同じ条件下で、非酸性化水は、窒素含有率を170 ppbに低下させられるだけであった。
【0054】
上記は、本発明の原理、好適実施態様及び操作モードを説明している。しかしながら、本発明は、議論した特定の実施態様に限定されるものと解釈されるべきものではない。従って、上記の実施態様は、限定的ではなく、説明用と見なされるべきものであり、当業者によれば、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲から逸脱することなく、該実施態様において変形が可能であることが分かるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】炭化水素類から窒素化合物を除去するための抽出プロセスを説明するフローダイアグラムである。
【図2】炭化水素類から窒素化合物を除去するための抽出プロセスを説明するフローダイアグラムである。
【図3】窒素化合物除去システムの異なる実施態様を示す。
【図4】窒素化合物除去システムの異なる実施態様を示す。
【図5】窒素化合物除去システムの異なる実施態様を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有する窒素含有化合物のレベルが極めて低い軽質石油の製造方法であって、
(a)窒素含有化合物を含む軽質石油の供給原料を準備する工程と、
(b)連続的に前記軽質石油の供給原料を水性抽出溶剤と接触させる多段容器である液−液抽出器中の抽出条件で、前記軽質石油の供給原料を水性抽出溶剤と接触させる工程と、
(c)工程(b)の生成物を(i)分離された軽質石油を含むラフィネート製品の流れと(ii)水性抽出相とに分離する工程と、
(d)前記ラフィネート製品の流れから水を除去する工程と
を含む、含有する窒素含有化合物のレベルが極めて低い軽質石油の製造方法。
【請求項2】
工程(d)が、分離された軽質石油から共沸蒸留によって水を除去することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記共沸蒸留が共沸蒸留カラム中で起こり、該共沸蒸留カラムにおいてベンゼン及び水が該カラムの頂部から除去される最低沸点共沸混合物を形成し、窒素が除去され脱水された芳香族が前記蒸留カラムの底部から回収されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記窒素が除去された芳香族は、窒素を約1 ppm未満含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記窒素が除去された芳香族は、窒素を約30 ppb未満含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記窒素が除去され脱水された芳香族を、前記蒸留カラムの頂部近傍の蒸留カラムの側流からも回収することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
工程(d)が、分離された軽質石油からクレー又は無機塩での吸着によって水を除去することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記水性抽出溶剤は、pHが7未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記多段容器が、(i)トレーが複数設置されたカラム、(ii)充填物が設置されたカラム、(iii)回転ディスクが複数設置されたカラム、(iv)パルスカラム、(v)多段混合機及び沈降槽、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される装置であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記多段容器が、複数のトレー又は充填物が設置された向流多段抽出カラムを具えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記多段容器が、軽質石油の供給原料が入る第1下方端部と、水性抽出溶剤が入る第2上方端部とを有することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
更に、第1下方端部と第2上方端部との間の位置において、前記多段容器中にpHが7未満の酸性化水を加える工程を含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記抽出条件は、水対芳香族の供給重量比(W/F)の範囲が0.01から100であることを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記抽出条件は、水対芳香族の供給重量比(W/F)の範囲が0.05から50であることを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記抽出条件は、水対芳香族の供給重量比(W/F)の範囲が0.1から10であることを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記抽出条件は、温度が0から100℃の範囲であること及び圧力が0から100 psigの範囲であることを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記抽出条件は、温度が25から50℃の範囲であること及び圧力が0から20 psigの範囲であることを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
水性抽出相の第1部分を前記液−液抽出カラムの下方区域にリサイクルし、水性抽出相の第2部分を排出することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項19】
前記水性抽出相の第1部分 対 前記水性抽出相の第2部分の重量比が、0超から約500対1の範囲であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記水性抽出相の第1部分 対 前記水性抽出相の第2部分の重量比が、約1対1から約50対1の範囲であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記水性抽出溶剤が本質的に水からなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記水性抽出溶剤は、pHが7未満であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
工程(b)の前、間、又は前と間の両方において前記軽質石油の供給原料に酸を添加して、軽質石油の供給原料中の窒素含有化合物のいくつかを少なくとも部分的に中和することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記酸が、酢酸、ギ酸、又はその両方を含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記酸が、酢酸を含むことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項26】
工程(d)が、窒素含有化合物を約1 ppm未満含有する軽質石油を生成させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記軽質石油の供給原料がC6からC8の芳香族を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項28】
工程(d)が、前記分離された軽質石油から吸収蒸留によって水を除去することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項29】
吸収剤を含む吸収蒸留カラム中で、吸収蒸留が起こることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記吸収剤が、イオン交換樹脂、ゼオライト、及び酸点を含む固体吸着剤からなる群から選択されることを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
酸性触媒が触媒作用を及ぼす反応において炭化水素類を転換する方法であって、
(a)窒素含有化合物を含む軽質石油の供給原料を準備する工程と、
(b)窒素含有化合物を含む軽質石油の供給原料を極性抽出溶剤と接触させる工程と、
(c)前記極性抽出溶剤から前記軽質石油を分離して、含有する窒素含有化合物のレベルが極めて低い軽質石油を生産する工程と、
(d)分離された軽質石油から水を除去して、脱水された軽質石油を生産する工程と、
(e)脱水軽質石油を、炭化水素の転化条件で酸性触媒と接触させる工程と
を含む、炭化水素類の転換方法。
【請求項32】
前記極性抽出溶剤が水を含むことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記水は、pHが7未満であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
工程(b)の前、間、又は前と間の両方において前記軽質石油の供給原料に酸を添加して、軽質石油の供給原料中の窒素含有化合物のいくつかを少なくとも部分的に中和することを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記酸が、酢酸、ギ酸、又はその両方を含むことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記酸が、酢酸を含むことを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記分離された軽質石油は、窒素含有化合物を1 ppm未満含むことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記酸性触媒が、ゼオライト、及び塩基性窒素毒に敏感な他の固体触媒を含む群から選択されることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記軽質石油の供給原料が、分解ガソリン、改質ガソリン、ナフサ、又は石炭由来のコーカー油から抽出された芳香族製品であることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記軽質石油の供給原料を、窒素含有抽出溶剤を用いた液−液抽出又は抽出蒸留によって製造することを特徴とする請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記抽出溶剤が、N-ホルミル-モルホリン(NFM)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及びそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記軽質石油の供給原料が、前記軽質石油の供給原料を製造する流れ中に存在する酸性イオンを中和する腐食防止剤である中和窒素含有添加剤から発生した軽質窒素含有化合物を含むことを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記軽質石油の供給原料が、NFM、NMP、又はそれらの混合物から発生した軽質窒素含有化合物を含むことを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記軽質窒素含有化合物は、水に不溶でもよい中和窒素含有添加剤の比較的重質な部分を除去するための蒸留後の沸点が約135℃以下であることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項45】
前記中和窒素含有添加剤は、水溶性で且つ沸点が約135℃以下であることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項46】
前記添加剤が、ジエチルアミン、n-ブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピロリジン、3-ピロリン、n-アミルアミン、n-ジプロピルアミン、スペルミジン、メチルヘキサンアミン、シクロヘキシルアミン、及びそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記軽質石油の供給原料は、沸点が約140℃未満の抽出芳香族を含み、この沸点範囲内の沸点を有する前記石油の供給原料中の窒素含有化合物の実質的に全てが水溶性であることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項48】
工程(d)が、分離された軽質石油から共沸蒸留によって水を除去することを含むことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項49】
工程(d)が、分離された軽質石油からクレー又は無機塩での吸着によって水を除去することを含むことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項50】
工程(d)が、分離された軽質石油から吸着蒸留によって水を除去することを含むことを特徴とする請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−500472(P2009−500472A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519402(P2008−519402)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/024192
【国際公開番号】WO2007/005298
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(508002715)シーピーシー コーポレイション タイワン (2)
【出願人】(508002726)エイエムティー インターナショナル インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】