説明

窒素酸化物の分解方法

【課題】本発明は、実際的な状況下、特に工業的な強塩基性化合物あるいは強酸性化合物を使用する反応系で発生する窒素酸化物を、触媒を使用して効率よく分解、除害する方法を供するものである。
【解決手段】窒素酸化物分解触媒の存在下、強塩基性化合物の濃度と強酸性化合物の濃度が共に被分解処理ガス全体の200volppm以下で窒素酸化物を分解させることを特徴とする、窒素酸化物の分解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を使用した窒素酸化物の分解方法に関し、さらに詳しくは窒素酸化物の分解触媒の劣化を抑制する方法に関する。特に、亜酸化窒素の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素酸化物による空気汚染は古くからの社会的問題であった。近年、地球温暖化の抑制は喫緊の課題とされ、窒素酸化物の中でも特に亜酸化窒素は炭酸ガスの約300倍の温暖化効果を有し、その排出を食い止めることが強く求められている。窒素酸化物や亜酸化窒素の除害に関しては、かなりの報告がなされている。しかしながら、それらの報告における分解技術は、亜酸化窒素の純粋な分解反応の評価に基づいて開発がなされており、実際に実用プロセスに供した場合には、充分な性能を発揮しないことが多い。特に、亜酸化窒素の発生原因が、医療用の麻酔ガスとして使用される際の排出による場合と工業的に窒素化合物を強酸処理する反応系から発生する場合とでは、分解効率が著しく異なり、工業用においても効率良く分解できる方法の考究が必要であることが分かってきた。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、余剰麻酔ガスの処理方法及び処理装置について記載があるが、上記の工業的な強酸を使用する反応系への考慮は全くされていない。更に、下記の特許文献2には、亜酸化窒素分解触媒、その製造方法及び亜酸化窒素の分解方法の記載があるが、上述の現実的な場合には言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−263475号公報
【特許文献2】特開2002−153734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、実際的な状況下、特に含窒素有機化合物を工業的に製造する方法において、強塩基性化合物あるいは強酸性化合物を使用する反応系で発生する窒素酸化物を、触媒を使用して効率よく分解、除害する方法を供するものである。反応系を具体的に例示すれば、アンモニアの酸化反応、アジポニトリルの酸化反応、ケトンのオキシムからのベックマン転移反応などが挙げられる。その反応過程では、強塩基性化合物または強酸性化合物が発生し、もしくはその反応で使用する強塩基性化合物または強酸性化合物が窒素酸化物に同伴される。上記の反応系で発生する窒素酸化物を、触媒を使って継続的に除去することが困難である。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、工業的な強塩基性化合物あるいは強酸性化合物を使用する反応系で発生する窒素酸化物を、触媒を使用して効率よく継続的に分解、除害する方法を供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来技術の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、窒素酸化物分解触媒の存在下で、強塩基性化合物と強酸性化合物の濃度を共に200volppm以下に制御することによって窒素酸化物を効率的に分解できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
[1] 窒素酸化物分解触媒の存在下、強塩基性化合物の濃度と強酸性化合物の濃度が共に被分解処理ガス全体の200volppm以下で窒素酸化物を分解させることを特徴とする、窒素酸化物の分解方法。
[2]前記強酸性化合物が、硝酸、硫酸、塩酸またはリン酸由来である、[1]に記載の窒素酸化物の分解方法。
[3]前記強塩基性化合物が、アンモニア由来である、[1]に記載の窒素酸化物の分解方法。
[4]前記窒素酸化物が亜酸化窒素である、[1]〜[3]のいずれかに記載の窒素酸化物の分解方法。
[5]前記窒素酸化物分解触媒が担体に貴金属を担持した触媒である、[1]〜[4]のいずれかに記載の窒素酸化物の分解方法。
[6]前記被分解処理ガスを吸着剤に接触させた後に窒素酸化物を分解させることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載の窒素酸化物の分解方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工業的な強塩基性化合物または強酸性化合物を使用する反応系で発生する窒素酸化物を、窒素酸化物分解触媒を使用して効率よく分解し、除害することができる。
また、本発明によれば、上述の強塩基性化合物あるいは強酸性化合物により触媒が被毒されがたく、触媒寿命が長くなるために工業的に供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明が好ましく使用される炭化水素化合物への窒素原子の導入工程を含む含窒素有機化合物の製造工程では、窒素原子の導入のため、窒素化合物が使用され、その使用の過程で亜酸化窒素などの窒素酸化物が生じる。従って、製造工程からの排出されるガス中の亜酸化窒素の分解や除害は地球の温暖化防止および環境保護の観点からも僅々の課題である。
しかし、従来、亜酸化窒素ガスを効果的に分解して除害する触媒として知られている貴金属担持触媒系による亜酸化窒素分解、除害方法では、十分な効果が得られなかった。
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、上記排ガス中の硫酸に由来する化合物を一定濃度以下に低減する工程、その後に貴金属担持触媒系による亜酸化窒素分解、除害工程を行うことによって、効果的に亜酸化窒素を含む窒素酸化物の分解、除害に成功した。
例えば、ナイロンの原料である各種ラクタム類の製造において、1例を挙げれば、ナイロン−6の原料であるε−カプロラクタムやラウリルラクタムは、シクロヘキサノンのオキシムをベックマン(Beckmann)転位させることによって製造される。オキシムは、例えば、シクロヘキサノンをヒドロキシルアミンで直接オキシム化する方法や、シクロヘキサンを光ニトロソ化で得る方法などが知られている。これらのオキシム化の工程や、ヒドロキシルアミンを製造する工程や、塩化ニトロシルを製造する工程で亜酸化窒素などの窒素酸化物が生じる。例えば、塩化ニトロシルは塩化水素を硫酸ニトロシルに作用させて得られる。また、オキシムを製造するためにシクロヘキサンに硝酸を用いて、液相で、または二酸化窒素を用いて気相でニトロ化を行い、次いで接触水素化してオキシムを得る。これらの場合に、亜酸化窒素などの窒素酸化物の副生、随伴は避けられない。このようなBeckmann転位は、硫酸または発煙硫酸を使用するため、排出されるガス中に硫酸に由来する化合物の随伴は避けられず、前記のように亜酸化窒素の十分な分解反応が進まないという問題が生じる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、『実施形態』ともいう)を説明する。
【0011】
本実施形態にかかる亜酸化窒素などの窒素酸化物を処理するプロセスで使用する窒素酸化物分解触媒は、貴金属を必須成分とし、中でも白金族の元素が好ましく用いられる。具体的には、白金、パラジウム、ロジウム、レニウムおよびルテニウムからなる群から選ばれる少なくとも一つの貴金属を有する触媒であり、特にロジウムが好ましく用いられる。
【0012】
該触媒は担体に担持されていることが好ましい。担体の使用によって貴金属の触媒活性の向上と分解の効率化が可能となる。担体としては、中性の担体、塩基性の担体、または酸性の担体のいずれを使用することもでき、具体的には、周期律表の2A族、2Bないし5B族の元素の酸化物を用いることができる。特に、シリカ、ジルコニア、アルミナ、マグネシアおよびゼオライトから選ぶことが好ましい。またアルミナに、マグネシウム、亜鉛、鉄などの異種金属を導入した担体も、好ましく使用することができる。また、上記の担体を複数種使用することも可能である。
【0013】
貴金属の担持量は、通常触媒質量全体に対して、0.01ないし10質量%が好ましい。担持の方法としては、該貴金属を硝酸塩などとして然るべき担体に担持することができ、例えば該貴金属の硝酸塩溶液を担体に含浸して担持させることができる。
【0014】
亜酸化窒素ガスを麻酔薬として使用した場合の排出ガスの分解においては、上記の触媒を使用して、概ね高効率で分解できる。しかしながら、先に記載したような工業的に使用される環境下で、強塩基性化合物または強酸性化合物の存在する処理条件化では触媒劣化が生じ、使用上大きな課題であった。特に強酸性化合物は触媒を著しく劣化させる。
【0015】
このような触媒劣化を抑制するプロセスを検討した結果、該窒素酸化物分解触媒で処理するにあたり、強塩基性化合物と強酸性化合物の濃度を共に200volppm以下とする事により触媒劣化が著しく抑制されることを見出した。
【0016】
一般的に触媒は、強塩基性化合物または強酸性化合物で被毒され、処理量に応じて触媒劣化していくものと思われていたが、該化合物の濃度をある一定以下に抑制することで反応速度を実質的に問題が無い所に抑えることができる事を見出した。
【0017】
特に、周期律表の2A族、2Bないし5B族の元素の酸化物を担体に使用する場合には上記化合物で劣化しやすく、強塩基性化合物と強酸性化合物の濃度が共に高くとも200volppmとすることで触媒の劣化が抑えられ、実用に供することができる。更に、好ましくは、該濃度が高くとも50volppmである。
【0018】
工業的に、上述の200volppm以下もしくは50volppm以下にする方法は、所定の酸またはアルカリのスクラバーを活用することができるが、窒素酸化物分解触媒の直前には酸またはアルカリの吸着剤を使用することによって達成できる。窒素酸化物分解触媒に使用する担体に使用する材料を吸着剤として使用することも良い方法である。
【0019】
一方、該強塩基性化合物と該強酸性化合物の徹底的な低減は窒素酸化物分解触媒の劣化に対して最も好ましいものであるが、実用上は、該化合物除去に多大な費用が掛かり、実用に供することはできない。そのため、上述した高くとも200volppmすれば、低くとも1volppmであれば良い。更に、コスト的には低くとも10volppmであることが望ましい。
該強塩基性化合物と該強酸性化合物の濃度の測定方法としては、公知の方法を使用できるが、例えば硫酸ミストの測定方法としては、JISK0103を使用する。なお、強酸性化合物が硫酸の場合はSOに換算して上述の数値を適用する。
【0020】
このようにして得られた亜酸化窒素などの窒素酸化物の処理プロセスは200℃ないし600℃で運転され、好ましくは350℃ないし500℃で運転され、亜酸化窒素などの窒素酸化物の発生量を許容濃度以下に抑制することができ、本プロセスを採用しない場合に比較して触媒劣化が抑制でき、本発明の目的である工業的な強塩基性化合物あるいは強酸性化合物を使用する反応系で発生する亜酸化窒素などの窒素酸化物を、触媒を使用して効率よく分解、除害するプロセスを供するものである。
【実施例】
【0021】
以下、上記実施形態の具体例を実施例として説明する。
<触媒調製例1>
21.4%硝酸ロジウム水溶液1.32gに1.84gの蒸留水を混合し、シリカ担体22.04gを加え全量含浸させた後、90℃のオイルバスで蒸発乾固させた。得られた担体を、空気中110℃で12時間乾燥させた後空気中、650℃で2時間焼成処理した。結果としてロジウム5質量%担持した触媒を得た。
【0022】
<触媒調製例2>
硝酸亜鉛0.208gおよび硝酸アルミニウム0.54gを蒸留水4.94gに溶解し、シリカ担体4.0gを加え全量含浸させた後、90℃のオイルバスで蒸発乾固させた。得られた担体を、空気中110℃で12時間乾燥させた後、空気中、650℃で3時間焼成処理した。結果としてスピネル型結晶性複合酸化物シリカ触媒前駆体を得た。21.4%硝酸ロジウム水溶液2.59gに2.35gの蒸留水を混合し、前記前駆体を加え全量含浸させた後、90℃のオイルバスで蒸発乾固させた。得られた担体を、空気中120℃で12時間乾燥させた後空気中、400℃で3時間水素還元を行い、ロジウム5重量%担持した触媒を得た。
【0023】
<触媒調製例3>
シリカ担体の代わりにシリカアルミナ担体4.0gを用いた以外は実施例2と同様にして5重量%のロジウム担持触媒を得た。
【0024】
〔実施例1〕
触媒調製例1で得られた触媒を42〜80メッシュに整粒した後、石英反応管に充填し、反応器とした。この反応器を電気炉に入れて400℃に反応温度をセットして、空間速度を毎時1万リットルとして、ガス組成が体積比でNO/O/He=5/5/90の混合ガスに硫酸ミストを30volppmになるように混合した反応ガスを供給した。反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の0.2%であった。
【0025】
〔実施例2〕
触媒調製例2で得られた触媒を実施例1と同様にして以下のように実施した。即ち、42〜80メッシュに整粒した後、石英反応管に充填し、反応器とした。この反応器を電気炉に入れて400℃に反応温度をセットして、空間速度を毎時1万リットルとして、ガス組成が体積比でNO/O/He=5/5/90の混合ガスに硫酸ミストを50volppmになるように混合した反応ガスを供給した。反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の0.5%であった。
【0026】
〔実施例3〕
触媒調製例3で得られた触媒を実施例1と同様にして以下のように実施した。即ち、42〜80メッシュに整粒した後、石英反応管に充填し、反応器とした。この反応器を電気炉に入れて400℃に反応温度をセットして、空間速度毎時1万リットルとして、ガス組成が体積比でNO/O/He=5/5/90の混合ガスに硫酸ミストを45volppmになるように混合した反応ガスを供給した。反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の0.2%であった。
【0027】
〔比較例1〕
実施例1において、硫酸ミストを10倍の300volppmに変更した以外は同じように、反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の33%であった。
【0028】
〔比較例2〕
実施例2において、硫酸ミストを10倍の500volppmに変更した以外は同じように反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の41%であった。
【0029】
〔比較例3〕
実施例3において、硫酸ミストを10倍の450volppmに変更した以外は同じように反応器の入口と出口の亜酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、出口濃度は入口濃度の23%であった。
【0030】
以上の結果より、本発明の実施例1、2、3は比較例1、2、3に対して、効果的に窒素酸化物を除去している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物分解触媒の存在下、強塩基性化合物の濃度と強酸性化合物の濃度が共に被分解処理ガス全体の200volppm以下で窒素酸化物を分解させることを特徴とする、窒素酸化物の分解方法。
【請求項2】
前記強酸性化合物が、硝酸、硫酸、塩酸またはリン酸由来である、請求項1に記載の窒素酸化物の分解方法。
【請求項3】
前記強塩基性化合物が、アンモニア由来である、請求項2に記載の窒素酸化物の分解方法。
【請求項4】
前記窒素酸化物が亜酸化窒素である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒素酸化物の分解方法。
【請求項5】
前記窒素酸化物分解触媒が担体に貴金属を担持した触媒である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒素酸化物の分解方法。
【請求項6】
前記被分解処理ガスを吸着剤に接触させた後に窒素酸化物を分解させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒素酸化物の分解方法。

【公開番号】特開2010−240537(P2010−240537A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90186(P2009−90186)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】